TS転生者はヒキゲーマー   作:猫の軍

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遅くなり、すいませんでした。
言い訳をさせてください。
 
前回の話を投稿後、瞬く間に評価が7つも付き、赤バーにまでなりました。

評価をくださった方、本当にありがとうございます。
ええと、それでですね。
評価に見合うものを書こうと、書いては消し、書いては消しを繰り返したところ、投稿が出来なくなっていました。

前回、評価、お気に入りをして下っさった皆様、ありがとうございます。
感想を送ってくださった皆様、励みになりました。

長くなりましたが、三話目
では、

※四月十五日、加筆修正。


ep,2 うどんの為

 □天地上空3000メテル 龍洞寺芳乃

 

 やぁ皆さん、私です。

 現在高速落下中の龍洞寺芳乃です。

 

「さて、どうしたものでしょう」

 

 凄まじい速度で流れていく景色を目で追いながら、思考の海に潜行する。

 このまま落ちて行くとするなら、まず地面に叩き付けられて大地の染みになることは確実。開始して一時間も経たないうちからデスペナルティとは、何と無様で滑稽なことか。

 そうならない為に、必死に足掻いて速度を緩ませようとしても、無駄。体勢が維持出来なくて今よりも、数倍恐ろしいスカイダイビングが体験出来る。それは避けたい。

 開始したてのアイテムボックスに有益な物など何も有りはしない。

 エンブリオは第0形態、助けを求められる状態じゃない。

 

 結論。

 

「死にましたね。コレ」

 

 ……ウボァ

 死にたくない、死にたくない、死にたくない!

 どうにかしなきゃ、こんな所で死ぬわけにはいかない。まだ『天地』に降り立ってさえいないのに、くたばってたまるか!!

 受け身を思い出せ。あれで衝撃はある程度は殺せるハズ。

 幸い落下予測地点は森林だ。木の上に落ちれれば葉がクッションの代わりになる。

 初期装備で受け取った刀を抜いて下に向ける。直に地面にぶつからなければ、あるいは助かるかもしれない。

 

「あと、少し……!」

 

 受け身の体勢をとって、木の上に落ちるよう移動して、刀を下に向ける。

 この準備で十数秒。

 刀を抜くのに五秒もかかった。地面に激突するのにもう十秒は要らない。目と鼻の先だ。

 

 死ぬか生きるか、この身をかけて、

 

「いざ尋常に、勝負!!」

 

 

 

 

 

 ぽすん

 

 

 

 

 

 ……え?

 

「と、止まった……?」

 

 落下地点となった木にぶつかった瞬間、グニャリと歪んで落下の衝撃を全て殺してしまう木。

 そのまま木はどんどん曲がっていくと、とうとう私を地面にペタンと下ろす。

 瞬間達磨のように元の形に曲がり直す木。

 その様子を呆然と眺めて、私はようやく大地に降り立ったのだと理解した。

 

 プレイヤーの斜め上を行く方法で着地を成す。

 このゲームの開発者は絶対、性格が悪いと思う。

 それこそ、私を転生させたあの神と同じくらいには。

 

(閑話休題)

 

 あの驚きから立ち上がり、目的地である『天地』の首都『森羅』へ辿り着くのに、約三十分も掛けてしまった。

 落ちた場所は『森羅』の北門近くの森林道。

 普通だったら二、三分でつく距離なのだが、色々あったのだ。

 もっとも、落下の驚きからもっと早く立ち直っていたなら、もっというとその後辺りを散策していなければ、あるいはもっと早く着いていたかも知れないが。

 流石にモンスターに強襲されたときは死ぬかと思ったが、まぁこの世界でちゃんと()が作用する事が確認できたから、良しとしよう。

 それよりも今、私にはしなければいけない事がある。

 

 目の前にある一軒の店。しっかりとした造りの木造建築で、平屋。

 引き戸の入り口は開け放たれていて、そこからなんとも言えない良い香りが、大通りを歩む人々の意識をグイッと惹きつける。

 暖簾には行書で「饂飩処(うどんどころ) 伊右衛門」と書かれている。

 ゴクリとつばを飲み込み、一歩踏み出す。

 

「うどんを、食べなければ……」

 

 義務にも近い強制力が、暖簾を押しのけ店内へ足を踏み出そうとした、その時。

 

「こんの馬鹿野郎!!」

 

 と落雷のような大声が響いたと思うと、視界がグリンと回転し後頭部を強い衝撃が襲う。

 何が起こった!?

 か、体が潰れるっ。重い!一体何が起こってるんだ!?

 今の声は店主か!?一体何故だ、なぜ私がこんな目に合わないといけない!私のどこが馬鹿なんだ、あれか?こんな堂々と店を開いているのに、一見さんお断りとかいうあのガンジーが飛び蹴りをする程にくそったれな制度でも設けているのか!?

 くそう、許さない!

 そこまでして私にうどんを食わせたくないか!

 よろしい、ならば戦争だ!うどんをかけた合戦だー!

 

「かくg……「うるせぇ!そんな古いしきたりなんかに従ってっから客が来ねぇんだ!」……ええ……」

 

 一体何の話だ?

 

「なっ……!」

「いいぜ、言ってやる。アンタがそんな時代遅れな考えだから客が来ねぇんだ!もう直ぐここは潰れるぜ!アンタの代でこの店は終わんだよ!」

 

 潰れる……?この店が?

 こんなに美味しそうな匂いを漂わせる、この店が潰れるだって……?

 

「言わせておけばツケ上がりやがって!テメェはもう息子でも何でもねぇ!何処にでも行きやがれ!」

「ああそうさせて貰うぜ!」

 

 その言葉を最後に、私の上から重みが消える。

 同時に店の扉がピシャリと締まり、暖簾が下ろされる。

 

「うどん……私の、うどん……」

 

 ……許さない。

 私からうどんを奪ったなぁ!!

 

 今すぐさっきの小僧を見つけて、洗いざらい吐かせないと。

 このまま此処のうどんが食べれなくなってたまるか!

 

 

 

▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 □天地国首都森羅 展望台 【厨師】千次

 

「さぁ何があったのか、しっかりと話してもらいます」

 

 どうしてこうなってしまったんだ。

 夕焼けに紅く染まる空を後ろに、俺が逃げないようしっかりと手を握った少女は、真剣な表情で尋ねた。

 両手で握った片方の手――左手の甲に嵌った卵型の宝石が、少女がエンブリオに選ばれたマスターであると示している。

 夕暮れの展望台で、告白みたいな雰囲気で少女は俺の言葉を待っている。

 

 もう一度言う、どうしてこうなった。

 

 事の発端は一時間前。親父の店から飛び出して、行く宛もなくトボトボと歩いていたら、俺の腕を掴んで話しかけてきた奴がいた。

 さっきの事があり、気が立っていた俺は乱暴に手を振り払って振り返った。

 そして次の瞬間に息をするのも忘れてしまった。

 

 初雪の様な、絹の様な真っ白の髪を風に靡かせ

 赤く上気した頬は、シミ一つないきめ細やかな白い肌に良く映える

 紅く輝く瞳はまるで濡れた宝石(ルビー)の様

 

 まるでお伽噺から抜け出したかの様な美しい少女に、魅入ってしまった。

 

「貴方は『饂飩処 伊右衛門』の、千次さんですか?」

「あ、ああ……」

 

 鈴を転がすような、涼しげで柔らかな声。

 

「お話があります……場所を、変えませんか?」

 

 その言葉に、まさかと胸が高鳴ったのは仕方ないと思う。

 俺の手を引いて、山の麓にある展望台へ来た少女は、俺に向き直った。

 

「私は龍洞寺芳乃といいます。貴方には、答えてほしい事があります」

「え?」

 

 有無を言わせないような気迫。

 その真剣な眼差しに、思わずゴクリとツバを飲む。

 一体この少女――芳乃は何をそこまでするんだ。

 彼女をここまで突き動かすモノは何だ。

 その答えを、知りたい。

 

「分かった、俺に何が答えられるのか分からねぇが……いいぜ、俺が知る事なら何でも答えよう」

「……ありがとうございます」

 

 ペコリと頭を下げた芳乃は深呼吸をすると、相も変わらず真剣な表情のまま、言った。

 

「貴方の実家『饂飩処 伊右衛門』がなぜ潰れるのか、教えてください……もし仮に貴方が潰れるキッカケとなっていたなら、家の前まで引きずって改心させます」

「……は?」

「さぁ、教えてください。一体何故、あんなに美味しそうな匂いが漂うあのうどん屋が潰れなければいけないのか、教えなさい」

 

 ナニヲイッテイルンダ、コノムスメサンハ。

 

 店が潰れる?

 確かに最近客の入りが薄いが、まだ潰れる程じゃない。むしろ全然余裕があるぐらいだ。

 それが何故店が潰れるって話に繋がるんだ?

 

「ま、待て。一体何の話だ?店が潰れるだって?……冗談は程々にしろよ、おい」

「いーえ冗談じゃありません!私は実際この耳で聞きました。もう直ぐここは潰れるぜ!って貴方が言っていたじゃありませんか!」

「はぁ?…………あ、アレのことか」

「アレのこと!?一体あなたはうどんを何だと思っているんですか!うどん屋の倅がうどんをアレで済まして良いはずが無いでしょう!」

「ちょっ、待て!落ち着け!」

「むいー!むいー!」

 

 鼻先が触れるほど近寄って、俺を怒鳴る芳乃の肩を押さえて引き離す。

 くそっ……一体何だってんだよこの娘は。

 やたらうどんに熱いし、ウチの店が潰れるって言うし、全くもって訳がわからん。

 あれだ、この子にはもう関わらないほうが良いかもしれない。こんなよくわからん事を喚く人に関わった日にはロクな事が無い。今すぐ逃げ出してしまったほうがいいな。

 よし。

 

「君の言う事はよーく分かった」

「む、ようやく分かりましたか」

 

 一旦落ち着かせるようなことを言って宥める。

 それから距離をとって……

 

「一度君は医者のお世話になった方がいいぜ、じゃあな!」

「あっ、コラ逃げるなー!」

 

 三十六計逃げるが勝ち。

 昔の偉い人は良い事を言ったもんだな。

 

 芳乃を引き離す為にひたすら走る。

 展望台を降りて、階段を駆け下り、町に戻って細道裏道を総動員して滅茶苦茶に走る。決して追ってこれないよう、念を入れて隠し通路までも使う。

 振り返ったらいけない。

 逃げる時は後ろを気にせずにひたすら足を動かすのがコツだ。十年間義賊をやってるオッサンに教わった事を思い出しながらひた走る。

 

 思いもよらない所で役に立ったぜ、オッサン。

 

 暫く走り回った後、俺は元の展望台に戻ってきていた。

 隠れるときは最初に見つかった場所に隠れると良い。灯台下暗し。誰も見つかった場所に隠れてるっいうのは、あんまり思い付かないからな。

  

「はぁ……はぁ……」

 

 木陰に座って体を休める。

 こんなに走ったのはいつ振りだろう。最近はずっとうどん修行に明け暮れてたからな、よくここまで走れたと自分を褒めてやりたい。

 

「流石に、ここまでやれば、追ってこねぇだろ……」

「…………」

「はぁ……ったく。帰ったら親父に謝らねぇとな……」

「そうですね、それが良いでしょう。しっかりと謝りましょうね」

「言われなくても分かってるよ……は?」

 

 待て、俺は今一体誰と話していた?

 おいおい嘘だろう?

 そう思いながら、油の切れたブリキの様に首を回すと、そこにそいつはいた。

 

「こんにちは、さっきぶりですね」

「りゅ、龍洞寺……芳乃……」

「はい、今度こそしっかりと答えてもらいますからね?」

 

 ニッコリと笑うソイツの笑顔に、俺は人間を前に舌なめずりをする、悪鬼羅刹を幻視した。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 □天地国首都森羅 展望台 龍洞寺芳乃

 

「さぁ、何があったのか、話してもらいます」

 

 先程、質問の途中で逃げ出した千次を追って、『足軽』で足音を消しながら真後ろを追走して、最初の展望台に戻ってきた彼に声を掛けた私は、随分と恐れを含んだ目で見られていた。

 

「何度も言ったけど、店は潰れねぇ。そもそも潰れるはずがねぇんだよ、ウチの店は」

「では一体なぜ、店が潰れる何て言ったんですか?」

「……言わなきゃ、駄目か?」

 

 怯えの目から一転、バツの悪そうな顔になった彼はそんなことを言ってきた。

 勿論、知っている事はすべて話せと言ったので、話して下さいと伝える。

 苦虫を噛み潰したかのような顔をした彼は、嫌そうに話し出した。

 

「……当てつけだよ」

「当てつけ、ですか?」

「ああ」

 

 そういった彼は、ポツポツと昼の騒ぎの理由を話し始めた。

 

「俺らの店『伊右衛門』にはあるしきたりがあるんだ」

「ソレは昼にも言っていましたね。しきたりとは何です?」

「隣の山の奥に、小さな村があるんだ。そこで栽培している麦を使った麺しか出しちゃいけねぇんだ」

「隣の山、ですか?」

 

 ――ああ。

 そう答えた彼は指で一つの小さな山を指した。

 そこは私がこの世界に降り立った地点のすぐ真後ろに位置した山で、聞いた話によると、この森羅で何十年もの修練を積んだ達人が、それでも年に何人も帰ってこないと言われる恐ろしい山で、名前はそのまま「恐山」と言うらしい。

 

 確かに、少し探索に行ったとき、山全体が変な雰囲気に包まれていたし、出てくるモンスターはどれも強そうな装備を付けた骸骨やら鬼だったし、襲い掛かってきた野盗も、とても人間とは思えない形相だったな……なるほど、彼らはあの山で死んだ者達らしい。

 南無阿弥陀仏。

 

 だが、そんな達人たちが死にに行く山の、しかも奥地に村がある?

 にわかには信じられないが、確かに流通はあるらしい。千次の話を聞く限り、だが。

 

「本当にあるんですか?」

「あるんだと。親父が言うには『山姥』の一族らしいが、そんな昔話に出てくるようなモンがいる訳ねぇんだがなぁ」

「そうなんですか……それで?どうしてその村からの麦が、店が潰れることに繋がるんですか?」

 

 そう尋ねると、困った顔をした彼はポツリと言った。

 

 

 

「もう、何ヶ月もその村からの麦が届いてねぇんだ」

 

 

 

 顔を伏せた彼は淡々と話す。

 何ヶ月も前から麦が届いていない事。

 今まで多過ぎるぐらいの量の麦を貰っていたおかげで、今は持ち堪えられているが、その麦もいつまで持つか分からないこと。

 父親に他の麦を仕入れようと言っても、聞いてもらえず、喧嘩になったこと。

 その事を話し終わった彼は顔を伏せたまま、言う。

 

「俺は店が潰れて欲しくねぇんだ。代々、大昔からずっと続いてるあの店を、親父の代で潰して欲しくねぇんだよ」

「……では、何故あんな事を?」

「ついカッとなっちまって……親父の方がそんな事俺より分かってんのに、それなのに店のしきたりだとかそんなのに従ってる親父に……俺は……」

「先程はすいませんでした。何も知らずに、軽率な言葉を掛けてしまい……」

 

 黙って首を振る千次を見ながら、考える。

 

 ――私は一体何が出来る。

 

 何か、できる事を……

 

「なぁアンタ」

 

 顔を上げた彼は決意を固めたような、真っ直ぐな目で私を見ていた。

 そして立ち上がる。

 

「頼む、〈エンブリオ〉の〈マスター〉であるアンタに頼みがある」

「私に……はい、何でしょう」

 

 彼は地面に膝を付き、頭を付け私の前で土下座をした。

 それが彼が何処まで本気か、私に伝えた。

 どこまでも熱く、決意の声音で、彼は私に頼んだ。

 

「頼む……ウチの店を、助けてくれ」

 

 その瞬間、視界の端にウィンドウが浮かんだ。

 ソレは私がこの世界で、いや……転生をしてから初めての、頼まれごとだった。

 

 

 【クエスト【恐山の山姥 難易度:九】発生しました】

 【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】

 

 

「引き受けました。必ず、救ってみせます。だから……」

 

 精一杯の笑顔で

 

 

 

「美味しいうどんを作って、待っておいてください」

 

 

 

 クエスト、スタート

 

 




どうだったでしょうか。

今現在、活動報告の方でエンブリオのアイデア募集を行っております。
そちらもどうぞ。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=179736&uid=205408

感想があると励みになります。
ではまた次回。
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