XY発売も楽しみです。
豪華客船サント・アンヌ号。
『あなたのポケモンもクルーズへ!!世界一周ツアー』というもの真っ最中らしく、カントー一の港町であるクチバシティもその寄港地であるらしい。
世界中のポケモンやトレーナーという。
『ワイはパーティとか堅苦しいの嫌いやしな。リーフにコレやるわ。図鑑のデータも集まるんとちゃうん?行ってきたらどうや』
そんな言葉と共にマサキから送られてきたサント・アンヌ号への乗船チケット。
引きこもりを極めるらしいサカキに運動不足と肥満に気を付けるように言伝をし、私はありがたくチケットを貰う事にした。
断って返却したとしてもチケットが無駄になるだけだろうし、何より船に乗ったことの無い私にとっては中々興味深いものだからだ。
しかし、豪華客船への招待チケットを貰うとはマサキはやはり大物なのだなと改めて実感する。
流石はポケモン預かりシステムの生みの親。
それをあっさりと人にあげてしまう点も大物度アップである。
* * * *
クチバ港へと到着し、私はマサキの招待チケットを見せ受付を済ませた。
どうやら、事前にマサキが代理人を寄越すと連絡をしていてくれたようですんなりと船の中に入る事ができた。
「お時間になりましたらパーティ会場までお越しください」
丁寧な言葉と共に受付の人にパーティの注意事項と規則を説明され、更衣室へと通される。
パーティに参加するといったらお母さんが嬉々として送ってきたワンピースは黒を基調とした上品ながらも可愛らしいデザインで、後ろで結ぶタイプのリボンはどうやらバタフリーをモチーフとしているらしい。
一緒に送られてきたストッキングや靴も履き、髪形も悩んでいたら、ボールから勝手に出てきたワンリキーがセットしてくれた。
器用な手先と見事な女子力に完敗だ。ちなみに、彼はオスである。
こうして、あっさりと準備を終えた私は更衣室を出ることにした。
時計を見るとまだ2時間ほど余裕がある。
……ふむ、どうしたものか。
船の中を探索しようにも時間が余りそうだ。
ゲームコーナーで時間を潰すしかないか。
「ちょっと、そこのお嬢さん」
手持ち部沙汰で突っ立っていると、質のいいスーツに身を包んだ老紳士に声をかけられた。
小太りの身体に白いちょび髭が印象的である。
ニコニコと人当たりのよさそうな笑顔は私に警戒心を抱かせなかった。
「もしかしてトレーナーさんかな?」
その問いに肯定を返すと彼は何処からともなくボールを取り出してくる。
中からはポニータが背中の炎を燃え上がらせながら飛び出す。
「この老体の趣味に付き合ってくれないかね?若いトレーナーを見るとわくわくするのでね」
「バトルでございますね。僭越ながら私めが審判を務めさせて頂きます」
廊下を歩いていたボーイがキッチンワゴンから手を離し、ホイッスルを取り出す。
『サント・アンヌ号では船内でのポケモン勝負が許可されております。近くにおります添乗員に声をかけて頂きましたら審判を務めさせて頂きますのでどうかお気軽にお申し付けください』
サント・アンヌ号に乗船する際に言われた注意事項を思い出した。
成る程、こういう事か。流石はポケモン同伴OKの豪華客船である。
長い船旅で退屈しているらしく、老紳士の他にもバトルをしている乗客たちは多い。
しかも、今日はパーティがあり、数多くのトレーナーや有名人が乗船してくる。
彼らにとっては見知らぬ土地のトレーナーとバトルをする絶好のチャンスなのだろう。
ボールからサンダースを出すのと、ホイッスルが鳴るのは同時だった。
船内で電撃と炎がぶつかり合う。
「おや、いいポケモンだね」
老紳士が朗らかに笑い、ポニータとサンダースの身体がぶつかり合う。
……これは退屈する暇など無さそうだ。
そして、私はサンダースへの指示に集中することにした。
* * * *
「おや、あのオーキド博士から図鑑を?それは強い訳だな」
結局、あの老紳士だけでなく他の乗客や挙句の果てには船員とまでバトルをした。
私がオーキド博士から図鑑を渡されたと聞くや否や、みんなこぞって勝負を仕掛けてきたのだ。
流石はポケモン研究の権威である。
忘れかけていたが、ただのポケモン好きの変なじーさんではないのだ。
トレーナーとしてバトルを断るわけにもいかず、気がつくとパーティー開始の5分前。
急いでパーティー会場に入ると、既に多くの人がそこにいた。
ポケモン業界の著名人がどうやら正体を受けているようだ。
ポケモン大好きクラブの会長や、各ジムのジムリーダーなどといった雑誌やテレビで見覚えのある人物がわんさかといる。カスミやタケシと目が合って互いに手を振ったら、会場中から注目されたような気がしたのは気のせいだと思っておこう。
彼らの放つよく分からないオーラに圧倒され、壁際で大人しくして振る舞われた料理を食べる。
流石は豪華客船。頬が落ちてしまいそうな程に美味である。
したびらめのムニエル。
またこれか……とぼやいている人もいたがこんな料理を毎日食べられるというのは正直羨ましい。
そして、私は気付いた。
ニヤニヤと性格の悪そうな笑みを浮かべながら、こっちを見ている奴がいる事に。
「ボンジュール、リーフ!!」
……いや、いくらあいつでもこんなアホな挨拶をする訳が無い。
人違いだ、私の名前呼んでいるけど。
「おやおや、こんな所で会うとは……リーフ、招待されてたっけ?」
人違いであれと願うものの、その願いは虚しくも叶わない。
その声の主は私の知り合いだった。
というか、私の幼馴染、グリーンだった。
久しぶりというかハナダで別れて以来、お前に何があったんだ。
あの時はまだ普通だっただろうに。
というか、何でここにいる?
「俺はじーさんの代理で来たんだって。お前は……マサキの代理?どうやって、あの引きこもりと知り合ったんだよ?」
『マサキ代理』と書かれた名札を見てグリーンはそれがソネザキ・マサキだと気付いたようだ。
色々とあってそのお礼に招待券を貰ったんだとオブラートに包んで説明したが、グリーンは微妙に面白くなさそうな表情をしている。
「説明になってねーし……まあ、俺様にはどうでもいいけど」
……しかし、スーツ似合わないな。
思わず出かかった言葉を肉と一緒に呑み込んだ。
ツンツン頭に何かこだわりでもあるのだろうか、いくら幼馴染だとしても親しき仲にも礼儀有りである。
「ていうか、その服……あれだな、馬子にも衣装じゃん!!」
どうやらグリーンの辞書にはそういう言葉は全く載っていないようである。
よし、お前ちょっと歯を食いしばれ。
2、3発だけで勘弁してやる。
「いやいや、落ち着けよリーフ。照れ隠しは別にいらねえよ……いや、殴るのはちょっとマジで勘弁しろ。それよりも、今はパーティ中だぜ。」
確かに、ここは人の密集するパーティ会場。
こんな所でひのこやら電気ショックやら繰り出したら迷惑でしかない。
……パーティ料理に被害が出るかもしれないし。
では、どうしたものか。
目の前のグリーンをどうやってぎゃふんと言わせてやろうかと考えていると、会場内でアナウンスが鳴った。
『ただ今から、ポケモン協会主催のサント・アンヌ号ポケモントーナメントを開始致します。参加される方及びに見学される方は甲板へお越しください』
「聞いたか?リーフ」
グリーンは緑色のネクタイを締め直し、甲板へと足を向ける。
「ハナダでも勝負はお預けだったしな。今回のトーナメントとやらで決着をつける事にしようぜ」
……勿論だ。
私が負ける理由など無い。
グリーンの喧嘩を買う事に決めた私も甲板へと足を進める事にしたのだった。