女主人公のカントー制覇旅   作:ムイコ

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BGM:タケシのパラダイス


第3話  ニビシティ

 

「しまった!10000光年は……時間じゃない!……距離だ!」

 

 

がくりと膝をつき、少年が負けを認める。

うむ、此処までは好調。

あとはタケシを倒すだけである。

 

少年に教えられた通りに私はタケシが控えるジムリーダーの間の扉を開けた。

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

錆びた鉄の扉が重い音を立ててゆっくりと開く。

恐らく、自分への挑戦者なのだろう。

タケシは閉じていた瞳を開き、敵の姿を確認する。

 

一人の少女がそこにいた。

年は13から15か。

白い帽子から背中まである長い茶髪と意志の強そうな瞳が印象的だ。

 

 

 

経験の浅い初心者トレーナなのだろうとタケシは判断したのだが、トレーナーとしての勘が油断するなと忠告する。

少女は一言も声を出さずにこちらの出方を伺うかのようにじっと目線を逸らさない。

 

 

――今日はめでたいな。

 

 

タケシは人知れず笑った。

先程挑戦しに来たグリーンという少年といい、目の前の少女といい骨のありそうなトレーナーに出会えたのだ。

思いっきり楽しもう。

タケシは腕を組み、少女の高らかに宣言した。

 

 

「オレはニビシティポケモンジムリーダーのタケシ!」

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

タケシの力強く大きな声がビリビリと部屋を揺らす。

……これがジムリーダーなのか。

そこら辺のトレーナーとはやはり何かが違う。

気迫だけで怯んでしまいそうになる。

 

 

「俺の硬い意志は俺のポケモンにも現れる!硬くて我慢強い!」

 

 

手が勝手に震えてしまう。

心臓が私の中でバクバクと煩く鳴り響く。

緊張しているのか。

落ち着かなければと深呼吸をするも、一度場に飲み込まれてしまっては中々元に戻らない。

 

――カゲ

 

腰のボールがカタカタと揺れ、ヒトカゲの鳴き声が聞こえた気がした。

ストンと気持ちが不思議なほど落ち着き、周囲がくっきりと見える。

 

そうだ、戦うのは私だけじゃない。

この子達も一緒なのだ。

 

ボールを軽く撫でて、私はバトルフィールドに立つ。

タケシが手にボールを取り、私もそれに倣う。

私のすることは決まっている。

この子たちが戦いやすいように場を作り、サポートするのだ。

 

 

 

「かかってこい!」

 

 

タケシのその声で戦いの火蓋は切られた。

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

「ジムリーダータケシと挑戦者、マサラタウンのリーフ!!両者尋常に勝負!!」

 

タケシはイシツブテを繰り出した。

今回のバトルでは使用ポケモンは二体。

タケシの切り札はイワークだと町での情報収集で聞いた。

恐らく、もう一体の使用ポケモンはイワーク。

イシツブテをストレートで倒し、イワーク相手にどう動くかが重要である。

 

いわタイプと相性の悪いヒトカゲはできる限り今回は使わないようにする。

今回の勝利のカギを握るポケモンは彼女だ。

 

 

「フリィィィィィィ!!!!」

 

 

白と黒の大きな羽。

感情の読めない赤い大きな瞳が獲物のイシツブテを認める。

 

 

「……バタフリーか。これは強いな」

 

やはり、タケシには分かるようだ

確かに、このバタフリーはただのバタフリーではない。

昨夜襲われたキャタピーの母親であり、トキワの森の実質的な支配者でもある。

生まれてからこの方森を荒らすものを容赦なく倒してきた猛者中の猛者。

身体は通常のバタフリーよりも一回り程大きく、その殺気も半端なものではない。

レベルも野生のものとしては段違いである。

 

……一応、おやは私であるのでちゃんと言う事は聞く。

バトル中に寝られることも無い筈だ、多分。

 

 

――『ねんりき』

 

 

先手を取るべく、早速指示を出す。

バタフリーの大きな赤い目が妖しく光り、イシツブテが不思議な光に包まれる。

イシツブテはその光から逃れようと暴れるがバタフリー本人(ポケモンだが)はビクともしない。

 

効いている。

エスパータイプの技はいわタイプにはふつうの効果だ。

しかし、イシツブテは防御が高いが特防は低い。

直接殴っても効かないなら、遠くから攻撃すればいい。

 

そして、バタフリーのねんりきは思っていたより強力らしく、イシツブテは目を回して倒れた。

 

「イッシ……」

 

「イシツブテ、戦闘不能!!」

 

レフェリーが笛を鳴らし、イシツブテがボールに吸い込まれる。

ボールとポンポンと撫で、タケシはバタフリーをじっくりと見る。

 

「ゆっくり休めイシツブテ……まさか一撃でやられるとは思っていなかった」

 

 

驚いたな。と言いながらもタケシには未だ余裕がある。

やはり切り札のイワークが手持ちにいるのだろう。

 

 

「フリー……」

 

 

バタフリーが今まで以上に殺気を出してカチカチと歯を鳴らし、威嚇する。

イシツブテはウォーミングアップだったようだ。

……バタフリーってもっと優雅なものだと思っていた。

 

少し夢が壊れたが、まあいいだろう。タケシとの戦いに意識を戻す。

何、大丈夫だ。的が大きければこちらの攻撃も当たりやすい。

イワークも特防は高くないのだ。

 

「これが俺の切り札だ……いけ、イワーク!!」

 

地響きのような声を響かせ、岩石の大蛇が現れた。

バタフリーが威嚇を止め、身体を震わせる。

……武者震いなのだろう。

トキワの森では出会う事のない二匹。

間違いなく、このイワークは彼女の生涯の最大の敵だ。

 

――もう一度、『ねんりき』だ。

 

「フリィィィィィィ!!!!!!」

 

先程のイシツブテ以上の光がイワークを襲う。

 

「グルゥゥゥゥゥ……」

 

避ける間もなく、イワークは苦しげな表情と声を漏らす。

だが、一撃では倒しきれないようだ。

 

「そのバタフリー……やはりデカいな。いいぞ」

 

 

窮地に立っているのにもかかわらずタケシは不敵な笑みを浮かべる。

こちらが優勢だというのに何なのだその余裕は――ぞくりと危機感が背筋を震わせる。

 

「的が大きいほど技も当てやすいからな。イワーク!!『がんせきふうじ』だ!!!」

 

「ウオォォォォォォォ!!!!!」

 

イワークが巨大な尾を揺らし、地面に叩きつける。

バトルフィールドに設置されていた岩が地を離れて宙を飛ぶ。

地震のようなその衝撃は立つことすら儘ならず、しりもちを付いてしまう。

一瞬の隙がバタフリーへの指示を遅らせ、命取りになる。

様々な方向から打ち出された岩石はバタフリーを襲い、地面に叩きつける。

急所に当たってしまったようで、バタフリーはすぐには体制を直せない。

 

「よし、たいあたりでダメ押しだ!!」

 

その巨体に似合わないスピードでイワークは身体をくねらせて、バタフリーに渾身の一撃を食らわせる。

 

 

「フリィ……」

 

「バタフリー戦闘不能!!」

 

レフェリーの宣言に目の前が真っ白になりかける。

何て強さと速さだ。

勝てるプランが全く思いつかない。

やはり、ジムリーダーと自分ではこんなにも差があるのだろうか。

どうして、勝てるのだと思ったのだろう。

 

こちらを睨み付けるのは本当にただのイワークなのか?

震えて立ち上がることすらできない。

 

どうしたらいいんだろう。いっそ、このまま降参でも――

 

 

「カゲー!!」

 

 

ボールからヒトカゲが飛び出し、私の頭をぽこんと叩く。

しりもちをついた状態であるため、ヒトカゲのつぶらな瞳と目線が合う。

 

 

「カゲ、カゲー!!」

 

 

勝負はまだ付いていない。

そう言いたげに鳴くヒトカゲは怒っているようだ。

 

 

……情けない。

戦うのは私だけじゃないって思ったばかりじゃないか。

さっさと折れてどうするんだ。

そうだ、私にはまだヒトカゲがいる。

出会って日も浅い相棒だけれどこの子となら何でもできる気がする。

 

うん、まだ試合は中盤だ。

タケシも私も残り一体ずつ。

しかも、イワークはダメージを受けている。

タイプの相性だけでひっくり返される試合ではない。

上手く立ち回ればあのイワークを倒すことだって不可能じゃない。

 

ヒトカゲの頭をポンと撫でると可愛らしくも勇ましい鳴き声を上げ、フィールドにヒトカゲは立つ。

バタフリーをボールに戻し、その背中に頼もしさを感じる。

 

「ふむ、ここでヒトカゲか……イワーク。油断するなよ」

 

タケシの声が静かにジムに反響する。

深呼吸をし、ヒトカゲでイワークに対抗する方法を考える。

 

――ヒトカゲ、『メタルクロー』だ。

 

「カゲェ!!」

 

メタルクロー。???タイプの技。

最初は図鑑のバグかと思った。

しかし、ただのひっかくとは違い、これは少なくともノーマルタイプの技ではないようだ。

ポケモンは人と密接した存在であるはずなのに未だに謎が多い。

 

博打に近いが、これがヒトカゲがイワークに対抗できる技かもしれない。

ほのおタイプのひのこでは効果は半減されてしまうが、メタルクローはどうなのだろうか。

 

くるりと空中を一回転し、ヒトカゲの硬質化された爪がイワークを切り裂く。

 

「グオォォォォ」

 

「何だと!?……ヒトカゲが岩タイプに効果抜群の技を、出したというのか……」

 

イワークの身体が大きく削れ、苦しげに叫ぶ。

タケシはかなり驚き、まじまじとヒトカゲを見つめる。

 

「クソッ……これだからポケモンは面白い!!イワーク!!『がんせきふうじ』だ!!!」

 

「グウゥ!!」

 

再び、イワークがフィールド中の岩石を打ち上げる。

 

二度目は流石にしりもちなどつかない。

私はヒトカゲに叫ぶ。

 

――もう一回『メタルクロー』だ。

 

ヒトカゲが襲いかかる岩石を避け、メタルクローで砕く。

一撃でも食らったら終わりだ。

このがんせきふうじを避けきって、もう一度メタルクローでとどめを刺す。

 

「やはり、ここはシンプルに行くべきだな」

 

砂煙が起こる中、タケシの表情は見えない。

だが、私には分かった――彼も私と同じだ。

 

「押し潰せ、『たいあたり』だ」

 

――勝つことを諦めず、とことん悪あがきをする人間だ。

 

ヒトカゲの死角となっている岩陰からイワークはその巨体をぶつけるために突進する。

私が叫ぶよりも早く、その小さな身体は一撃を食らう。

 

「……カゲ」

 

「まだ立つか……『しめつける』降参するなら早めにするがいい」

 

岩の巨体がヒトカゲをギリギリと締め付ける。

ヒトカゲは苦しげに鳴き、締め付けから逃れようともがく。

両手を封じられているからメタルクローは使えない。

 

……どうすれば。

イワークに対抗するだけの手段は、どこに。

ヒトカゲはまだ諦めていない。

しかし、図鑑に表示された体力ゲージはじわじわと減っていき、緑からオレンジになり、赤へと変化しようとしている。

 

――!!

 

……もしかしたら、行けるかもしれない。

この状況だからこそ、イワークを倒すことができる!!

 

――全力で『ひのこ』だ!!

 

「……カ、カゲエエエエエエエ」

 

ヒトカゲの尻尾が大きく青白く燃え上がり、高温の炎がヒトカゲの小さな口から噴射される。

イワークの巨体を炎が包み込み、イワークは苦しげに声をあげる。

 

「グガアァァァァ」

 

「炎タイプの技がイワークに効いているだと!?くそっ、イワーク!!早くとどめを刺すんだ!!」

 

タケシの声も届かないのかイワークは身をくねらせ炎から逃れようとする。

拘束から逃れたヒトカゲは爪に力を込める。

今度こそ、とどめのメタルクローだ。

イワークはそれを避けることもできず、一撃をまともに食らう。

 

「……グゥ」

 

ドスンと一際大きな音を立てて巨体がフィールドに沈む。

 

「イワーク、戦闘不能!!よって、挑戦者マサラタウンのリーフの勝利!!」

 

レフェリーの声が響き、試合終了を告げるホイッスルが鳴り響く。

――勝った。ジムリーダーに私は勝ったんだ。

全身から力が抜けて、座り込んでしまう。

やはり少しは緊張してたんだと場違いなことをぼんやりと実感している私にタケシがゆっくりと近寄る。

 

 

「ヒトカゲの特性は『もうか』だったな……ふぅ、油断せずにとどめを刺せば良かったな」

 

『もうか』

HPが三分の一になると、ほのお技の威力が上がる。

いわタイプにほのお技が効きにくくても、威力を上げればダメージは通る。

そして、イワークは特防が低い。だから、ひのこが効き勝負をひっくり返したのだろう。

 

「しばらくは修行のやり直さなければな」

 

差し出された手を取ると、彼は私を立たせてくれた。

私よりもずっと大きくてゴツゴツとした男の人の手だ。

……凄く笑っている。

悔しいな、と言いながらも最高の勝負だったと肩を叩いてくる。

 

 

「……本当に今日はめでたい。君を見くびっていたようだ。僕に勝った証にポケモンリーグ公認グレーバッジを授けよう!」

 

……一人称変わってないですか?

そんなささやかな疑問は手渡された光り輝くバッジの前に消え去った。

 

「グレーバッジを持っていれば戦闘でなくてもフラッシュが使えるようになり、ポケモンの攻撃があがる。そして、人のポケモンでもある程度のレベルまでなら言う事を聞く……いくつまでだったか?」

 

泥だらけの顔でタケシは自信なさげにバッジの効果を解説してくる。

うん、色々と不安だが今は勝利を喜ぼう。

ヒトカゲを褒めてあげようとフィールドを見ると。

 

……何か光ってる。

 

「カゲー!!」

 

ヒトカゲは嬉しそうに鳴きながらこっちに走ってくる。

いや、それはいいんだけれど。

相変わらず、私の相棒可愛いんだけれど!!

何か光りながら大きくなってる!!トコトコいってた足音がどすどすいってる!!

 

「リザアアアアア!!!!!」

 

体長60cmだったヒトカゲが体長110cmの巨体へと変化し、私に全身を使ってのタックルを食らわせる。

避けることもできず、受けきれるはずもなく、私は本日何度目になるか分からないが地面にまた倒れた。

 

 

「ハハハハ!!進化おめでとうだな、リザードか。いい目をしている!!!!」

 

 

タケシの笑い声とヒトカゲ……ではなくリザードがぐるぐると甘える鳴き声が頭の中にがんがん響く。

 

 

うん、今日はもう寝よう。

そうと決まればあっさりと私は意識を手放すことができた。

 

 

今日の事は一生忘れない。

ポケモントレーナーとして一歩踏み出せた記念すべき日だもの。




やっとバッジを一つ手に入れましたね。
私は初代ではゼニガメを選んだのですがFRでヒトカゲを選んでタケシ・カスミ戦のデスロードを突破するのにかなり苦労しました。
あと、ヒトカゲは攻撃より特攻の方が高かった気がする+イワークの防御クソ高いので正直、メタルクローよりもひのこ連発の方がよかったりするんですよね。
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