女主人公のカントー制覇旅   作:ムイコ

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長くなったので今回も分けます。


第5話-① ハナダシティ①

 

――ハナダシティ、ポケモンセンター

 

 

ああ詰んだ 完全詰んだ ああ詰んだ

 

 

思わず五七五を心の中で読み上げてしまう程、私は詰んでいた。

 

ほのおタイプはみずタイプに弱い。

リザード単体でカスミに挑むのは詰んでいるのである。

ちなみに、私の現在の手持ちはリザード一匹。

……トキワの森でピカチュウでも捕まえておけばよかった!!

 

隣ではリザードが申し訳なさそうにうなだれている。

 

いや、君が責任を感じる必要はないリザード。

へっぽこなのは私の方さ。

カスミ対策を完全に忘れていた私が悪いんだ……!!

ああ、くそ。

何故忘れていた。私の頭はコイキング以下か。

 

しかし、カスミのスターミーは強敵だと聞く。

即戦力になるようなポケモンなんてそう簡単に手に入れられるのか……?

 

「……あの、大丈夫ですか?」

 

心配そうな顔でジョーイさんが私に声をかけてくれた。

サービスです、とお茶まで出してくれて……ああ、白衣の天使っていいよね。

何処いっても同じ顔がいるような気がするけど。

 

「ああ、それは気にしなくていいですよ」

 

にっこりとジョーイさんが笑う。

うん、その笑顔が無性に恐ろしい。

これはあまり深く気にしない方がいいな。

 

熱い湯気の立ったお茶を飲むとささくれていた心が幾らか落ち着く。

ふうと息をつくとジョーイさんは落ち着きましたか?と優しい微笑みを浮かべた。

 

自然と私は、現在抱えている問題をぽつりぽつりと語り始めた。

 

「なるほど……カスミさん戦にむけて新戦力が欲しい、ですか」

 

ふむふむとジョーイさんは頷きながらお茶請けまで出してくれた。

 

「それなら、24番道路でナゾノクサやマダツボミを捕まえればいいと思いますよ」

 

なるほど、ナゾノクサとマダツボミはくさタイプ。

みずタイプには効果抜群だ。

 

うん、早速捕まえに行くとしようか。

善は急げだ、熱々のお茶を一気に飲み干し、私は早速24番道路へと――

 

「あ、待ってください。一つ頼んでいいですか?」

 

お届け物?

 

「はい、24番道路を奥に進むといりえのみさきという所に着くんです。そこの民家に住むマサキさんにこれを渡してくれませんか?」

 

ジョーイさんは手に持っていた封筒を私に半ば押し付けるように渡してきた。

……もしや、最初から私にマサキへのお届け物を頼む予定だったのだろうか?

 

「マサキさんは有名なポケモンマニアなのです。もしかしたら、珍しいポケモンが見れるかもしれませんよ」

 

有無を言わせないジョーイさんの笑みに私はただ頷く事しかできなかった。

 

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

ゴールデンボールブリッジなる巨大な橋を渡り、私は24番道路の草むらに居た。

ジョーイさんのお使いは別に後でいいだろう。

ポッポばかりが出てきて、お目当てのナゾノクサやマダツボミには出会えていない。

 

ポッポの大量発生なんて聞いていないぞ……!!

他のポケモン何処いったんだ。

まさか食べられたりとかしていないよね?

 

 

「……リザ」

 

リザードも連続で襲沿いかかってくるポッポの大群に少し疲れたようだ。

休憩がてらに昼食でも取ることにしようか。

 

草むらから少し離れた木陰にブルーシートを敷き、お弁当を取り出す。

カリカリのベーコンとみずみずしいトマトが挟まれたBLTサンドとふわふわ感が堪らない卵サンドだ。

リザードがもの欲しそうにじっと見ているけど、人間の食べ物をポケモンにあげ過ぎると身体によろしくない。

いつものポケモンフーズで我慢してもらおう。

 

 

 

「いやぁ、偶になら別にあげてもいいんやけどな」

 

そうなのか?でも、人間の食べ物はポケモンには味が濃すぎると聞いたのだが。

 

「それはそうやな。塩分も多いし。しょっちゅうあげ過ぎたらそらあかん。でも、人間かてジャンクフードとか食っとるやん。それと同じ感覚や」

 

うむ、ジャンクフードとは言い得て妙だ。

あれは身体にいいとは言えないが好んで食べる人もいる。

私も時々はあの身体に悪い感じが欲しくなる。

 

「せやろ?それに考えてみ、三食白米が365日!!飽きるやろ?」

 

うわぁ……想像しただけで嫌になった。

そうか。今まで気づかなかった。

ポケモンにだって味覚や味の好みがある。

それを無視して同じポケモンフーズばかりあげ続けていたら飽きる。

 

「三大欲求の一つやからな。それに気を付けてやるだけでポケモンのやる気はえらい違ってくるしな」

 

「……」

 

ちらりとリザードがこちらを見る。

尻尾をゆらゆらと振って上目使いである。

 

――ううむ、あざとい。

 

お前はいつの間にあまえるを覚えたんだ。

 

卵サンドを半分に分けると、リザードはブンブンと尻尾を千切れんばかりに振り、口を開ける。

その大きな口に卵サンドを放り込んでやるとリザードはキュンキュンと甘えた声を出し、すり寄ってくる。

 

ああ、これが噂に聞く『はい、あーん』という奴なのか。

リザードの頭を撫でながら、残ったサンドイッチを全て食べてしまう。

しかし、これだけ喜ばれるとはかなりポケモンフーズに飽きていたという事か。

これからはちゃんとそういうのにも気を使ってやろう。

 

旅に出る時にお母さんから選別でもらった冒険ノートにメモをする。

表紙のカイリキーが渋い味を出していて流石はお母さん、私の趣味を分かっているじゃないか。

 

「……凄い柄やな」

 

半ば呆れたような声がに『価値観の相違ですね』と適当に返事をした。

 

「む、今適当にあしらったな?ワイには分かるで……」

 

いや、この声の主には感謝をしている。

ただ、その、アレだ。

姿を見せてくれ。

ここは草むらからも道路からも離れて身を隠すような茂みも無い。

 

……声だけしかない存在に別に怯えているわけではないが警戒は少なくともしてしまう。

別に怯えている訳じゃないから。

 

「二回言ったな……うん、まあ……あんまし深く追及するのは止めてやるわ。ワイもお前さんに頼みたいことあるしな」

 

恐がりなんやなーとぼそりと言ったことは聞き逃してやろう。

これは警戒であって怖がってるわけじゃ――

 

ガサリ

 

気の上から小さくてモフモフしたものが落ちてくる。

茶色い身体にピンと尖った大きな耳。

首回りを柔らかそうな白い毛が覆っている。

 

そして、その顔は――

 

「ワイの名はマサキ!!人呼んでポケモンマニアや!!」

 

 

自分のものとは思えない絶叫がビリビリと空気を震わす。

私の真横に居たリザードは耳があると思われる位置を抑え、目を回した。

ああ、相棒よ。こういう時に限って私の後ろに隠れようとするのか。

というか、逃げ出したいのに抱き着かないでくれ!!

腰の辺りをガッチリとホールドして私を盾にするのは止めなさい!!

 

 

そのポケモンの顔は人だった。

二十代だと思われる人間の男の顔がアンバランスに小さなポケモンの身体にくっ付いている。

怪談話によく出てくる『人面ポケモン』という単語が頭の中をぐるぐるとまわる。

 

『リーフなんか人面ポケモンに食われちまえ!!』

 

子憎たらしい幼き日のグリーンが私にべーっと舌を向ける。

小さい時から、アイツは喧嘩するたびにその捨て台詞を吐いていた。

怪談が苦手な私は毎回それを言われると号泣していた。

……グリーンめ。今度会ったらぼこぼこにしてやる。

 

 

「あーもう!!落ち着けや!!」

 

 

ペシリと。

途中から何を言っているのか混乱してきた私の頭を物理的に沈めた自称マサキ。

全長30cm程の小動物が脅威のジャンプ力を魅せつける。

小さな手で叩かれた頭は全然痛くないが、正体不明の人面ポケモンからツッコミを受けるとは予想外である。

 

「よし、マシになったな。驚かして悪かったがワイの話をちょっと聞いてくれへんか?」

 

思わず黙り込んでしまった私の頭をぽんぽんとマサキは撫でる。

よくもまあ、バランスよく肩の上に乗っているものである。

彼の目の下には大きな隈と疲れと焦りが見えていた。

 

「……まあ、ここで話するのもアレやさかい。ワイの家行くか、茶くらいは出すで」

 

もふりと尻尾を揺らし、マサキは地面に降りてちょこちょこと歩き出した。

 

――後ろ姿、かわいいな。

 

私はまだ混乱しているようである。

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

24番道路の奥に位置する静かな岬。

そこにこじんまりとしながらも一軒家が立っている。

ここがマサキの家だそうだ。

 

「まあ、散らかってるけどテキトーに寛いでくれや」

 

中には何やら仰々しい機械が壁を埋め尽くすように配線を張り巡らせており、機械音と共に緑色のランプを点滅させている。

そして、書類やら生活用品やらが床を埋め尽くすようにして散乱している。

……ここの家の主の性格が大体分かったような気がする。

 

そこら辺に転がっていた椅子に座り、出されたお茶を一口飲む。

あんな小さな身体で器用だなと半ば感心していると、マサキはそれまでの人懐っこそうな笑みを潜め私をじっと見る。

 

「ワイはな、ポケモン預かりシステムの管理人しているんや」

 

ポケモンリーグは、一人のトレーナーが連れ歩けるポケモンは6匹までと規定している。

では、7匹目を捕まえた場合はどうするのか?

そんなときに使うのがポケモン預かりシステムである。

ポケモンは不思議な生き物で、どんなに巨大な種類のものでも小さな直径5cmにも満たないモンスターボールに入ってしまう。

何でも自分の身体の量子を変換し、小さくできるかららしい。

その特性を利用して、ポケモンを一時的にデータ化してパソコンに保存できるようにしたのがポケモン預かりシステムだ。

データ通信が出来る所であればどこでもトレーナーたちは自由にポケモンを預け、旅をすることができるのだ。

 

ポケモントレーナーにとって、切っても切れない存在であるポケモン預かりシステム。

それはこの社会を支えるシステムの一つである。

私だって今まで捕まえたポケモンを何匹か預けている。

 

――しかし、それを作った天才が人面ポケモンだとは思いもしなかった!!

 

「いや、ワイはれっきとした人間やって!!……まあ、今はそうでもないんやろけど」

 

流石はコガネ弁。華麗にツッコミを返し、マサキはお茶をすすりながらポケモンもどきになってしまった経緯を話す。

どうやら、転移装置の修理をしている時に間違って装置を起動させてしまい、たまたまその転移先にポケモンがいて合体してしまったらしい。

 

……それだったら、その転移装置を逆に起動したら元に戻れるのではないか?

素人考えながらにふと思ったことを尋ねるとマサキは頷いた。

 

「せやな。大体その通りや。原因ははっきりしているし、分離プログラムも徹夜で完成させた。後はワイがあの装置に入って起動させれば元に戻れる筈なんやけどな」

 

思ったより簡単に解決しそうな問題ではないか。

しかし、マサキは大きく溜息を吐く。

 

「ワイが装置に入ってしもたら、プログラムを起動させる奴がおらんかったんや……おかげで1週間ポケモン生活やで」

 

単純ながら重大な問題だった。

大がかりな機械であるが故に事故を防ぐためにも最終的な操作は手動にする必要があったらしい。

 

「ポケモンフーズはしばらくええわ……ハンバーグ食べたいんやワイは」

 

まあ、キャタピー食べるよりはいいじゃないか。

マサキの揺れる尻尾を見ながら慰めた。

うん、人間に戻ったら一緒にハンバーグ食べに行こう……観光地ハナダには美味しい店がたくさんあると聞く。

 

「リーフ……やってくれるんか?」

 

マサキが顔を輝かせて私を見る。可愛くない。

だがしかし、こんなに困っているんだ。ここで放置して帰るのは流石に酷いと思う。

プログラムを起動させるだけなら私にもできるだろうし。

 

「そうか!!じゃあ、早速やるで!!この青いボタンを押せばいいからな、よろしく頼んだで!!」

 

マサキは飛び跳ねて、転送装置の中に入る。

私は青いボタンを見付け、昔見たホラー映画を思い出した。

 

ある物理学者が物体を一瞬で別の場所に送ってしまう物質電送機を開発していた。

その学者はある時、自分を実験台にして生き物の転送に挑戦する。

結果は成功。しかし、その装置の中に一匹の虫ポケモンが入り込んでいて両者は混ざり合ってしまう。

ポケモン人間となってしまった学者は必死に元に戻ろうとするのだが、どんどんと人間の意識がポケモンの意識に引っ張られていく。

そして、身体もどんどんとポケモンになってしまい、最終的には他のポケモンに食べられてしまう。

 

まさか、そんな事にはならないだろうな……うん。

 

「止めろ!!変なフラグ建てんなや!!」

 

転送装置の中からマサキの声が聞こえた。

うん、流石に悪かったな。

さっさと終わらせよう。

……そういえば、カスミ戦に向けての対策忘れていた。

まあ、明日イワヤマトンネルに行くついでに捕まえようと気を取り直し、青いボタンを押した。

 

 

 

ポチッとな。

 

 

 

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