チート転生者 in キャンプ物   作:加賀美ポチ

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十三話

 紆余曲折ありながら野クル三人娘は『ほっとけや温泉』までやって来た。

 山梨市駅から笛吹公園を経由してからの到着である。

 此処に至るまでの道程は野クルメンバーらしい実にゆったりとしたものだった。

 

 一番の大荷物持ちであるなでしこは持ち前の体力を活かし、悠々と駅から笛吹公園までの4キロを踏破。

 遅れて続くのは日頃の運動不足が祟った千明とあおい。

 公園までの坂道を登る頃にはすっかりと息も絶え絶え、着いた途端、その場で崩れ落ちる始末。

 絶景スポットで知られる笛吹公園から望む風景を楽しんでいたのは、体力が有り余っているなでしこのみであった。

 しかし。

 なでしこが笛吹公園内にある『Ochard Kitchen(オチャードキッチン)』にてスイーツが販売されていることを聞くや否や即座に復活。

 息を吹き返した千明とあおいはダッシュでカフェへと向かうという実に食欲に忠実な一面を見せた。

 三人娘は仲良く暖房の効いたカフェのレストランでアイスを食べ、そして次なる癒しを求めて『ほっとけや温泉』へと来たのである。

 

「ほっとけや温泉だってー、おもしろい名前ー」

 

 なでしこが敷地内に設置された木の看板に書かれた『ほっとけや温泉』という珍妙なネーミングセンスを面白がる。

 だが、その親しみやすい愉快な名前と立地、そして温泉の効能もあってか温泉目当ての客はそれなりに見て取れた。

 

「タオルとか持ってきた?」

「ちゃんと持ってきたよっ」

「そこの休憩所に荷物置いて入りに行くかー」

「せやなー」

「おんせーん」

 

 千明の提案に迷う事無く賛成の意を示す二人。

 寒空の下、昼間から温泉に浸かってゆったりとした時間を過ごす。

 これほどの贅沢が他にあろうか。

 既に二人の頭の中は温泉に入って癒されることが大半を占めていた。

 

「おお……このくつろぎスペース……」

 

 千明の口から感嘆の溜息が零れる。

 足を踏み入れた休憩所はまさに癒しの空間であった。

 木の温かさが感じられる木造建築。

 部屋の中央には石油ストーブが焚かれており、暖められた室内は外からの来客をじんわりと包み込んでくれる。

 更に内装に合致したテーブルと座布団完備。

 筋骨隆々な肉体を薄着で覆う小太郎。

 温泉で心も身体もリフレッシュした客を堕落させる癒し空間が其処に形成されていた。

 

「温泉に浸かった客をオトしにかかる悪魔の刺客たち……ここで一度寛いだら二度と『起きて』は帰れまい……」

「せやな、尻に根が張るなんてレベルやないわ」

 

 眼前に広がる人を駄目にする空間を前に慄きを隠せない千明とあおい。

 ごくり、と知らず唾を飲み込む。

 二人は今一度その魔の空間をぐるり、と見渡す。

 木造の室内。

 石油ストーブ。

 ふかふか座布団にテーブル。

 そして────筋肉もりもりマッチョマンな小太郎。

 

 違和感の正体に気がついた二人は、その場所をもう一度見やる。

 スラックスに薄桜色の半袖シャツというラフな格好。

 清潔感のある服装だが、その盛り上がった筋肉を覆うには些か頼りない印象を受ける。

 湯上りなのか、その髪の毛はしっとりと濡れ羽色となって室内の照明を反射していた。

 入り口から入ってきた野クルメンバーからは後ろ姿しか見えないが、その特徴的な肉体には見覚えが大いにあった。

 

「コタくんだー!」

「えっ?! こ、小太郎!?」

 

 真っ先に気が付いたのは長年を共にしてきたなでしこである。

 驚く千明を他所にぱたぱた、と笑顔で見知った背中へと駆け寄る。

 

「あれ、なでしこ? 奇遇だね、野クルのみんなで温泉に入りに来たの?」

「そだよー、コタくんは入った後なの?」

「うん、いいお湯だったよ」

「どんな温泉だったの? 景色は良かった?」

 

 寄って来たなでしこを朗らかに迎え入れる小太郎。

 ふんふん、と小太郎の回りを忙しなく動き回る様はまさしく犬の如し。

 大型犬に小型犬がじゃれついているようであった。

 

「小太郎くん、こんにちは。ほんま奇遇やね」

「よ、よお、小太郎」

「犬山さんと大垣さんもこんにちは。野クルへのお届けものついでに寄ったけど、世間は意外と狭いね」

「ほんまやね」

 

 自然体で挨拶を交わすあおいに、やや緊張気味のぎこちなさが目立つ千明。

 小太郎はお届けものと言って、傍に置いてあった持ち手の紐が付いている発砲スチロール箱にぽん、と手を置く。

 

「コタくんっ、それがひょっとして今晩の?」

「うん、ご所望の海の幸だよ」

「わあ、いつもありがとう、コタくん! うへへー、中身はなにかなー。海の幸だよね、魚かなー、蟹かなー?」

「中は現地で開けてからのお楽しみだよ」

 

 発泡スチロール箱の中に入っているであろう海の幸を想像し、なでしこの顔は緩む。

 彼女の目には何の変哲も無い箱が、漆塗りの重箱の如く上等なものに見えていた。

 そんな喜色を示す幼馴染みの様子に、小太郎の目元もだらしなく緩む。

 

「にしてもめっちゃ荷物が多いな。発泡スチロール箱は別として、小太郎もキャンプするつもりなのか?」

「ああ、それは違うよ。なでしこ持参のカセットコンロだけじゃ、少し心許なかったんで即席のバーベキューコンロが作れるように煉瓦と網を持ってきたんだ」

 

 そう言って、見るからに大きく頑丈そうなミリタリーリュックから取り出したのは煉瓦ブロックと網。

 蓋を開いたミリタリーリュックの中にはまだ十数個の煉瓦ブロックがごろごろと詰め込まれていた。

 これだけのブロックがあれば確かに簡易バーベキューコンロは設営可能。

 小太郎が持ち寄った海の幸を焼いて食べるのに十分な火力が確保できるだろう。

 

「はぁー、やっぱり発想が男の子やねぇ。ウチらやったら思いついてもよう実行できんわ」

「重量と嵩張ることに目を瞑れば1000円以内で材料が揃うから、自宅の庭でバーベキューするときなんかは便利だよ。

 終わった後は重ねて隅っこにでも置いておけば省スペースだし」

「そう考えると確かにオートキャンプなんかで車が確保出来るなら便利やね」

「安くて持ち運びやすさを求めるなら網4つとキーホルダーなんかで使われてる二重リングがあればもっと簡単なコンロが出来るよ。見た目はちょっとアレだけど」

「たしかにソレもありやなぁ」

 

 網3つをコの字状に二重リングで繋ぎ合わせ、そのコの字の中に残り一枚の網で焼くスペースを作れば完成である。

 持ち運びやすさ、価格の安さ。

 その二つをクリアした超簡易コンロ。

 金銭に大きな制限がある高校生キャンパーにとっては中々に有用なアイデアである。

 見た目の安っぽさに目を瞑れば。

 

「……んーと」

「……」

「……」

「僕に何かついてる?」

 

 先程から気になっていたことについて小太郎はとうとう千明とあおいの両人に尋ねた。

 それは先程から彼女達と会話していても視線が合わないことであった。

 小太郎は千明達の目を見て話そうとするが、合う筈の視線は常に下向き。

 小太郎は顔を見て話しているが、野クルメンバー二人は小太郎の腹部を見て会話していた。

 思わず着ている薄桜色のシャツを確認してみるが、特段変な部分は見受けられない。

 

「い、いやなんもあらへんよ、気にせんとってっ!」

「そ、そうだよ、ちょっと来る前に小太郎の話題になってたから、ばったり会って驚いていただけだって」

「そう?」

 

 疑念に二人は同じタイミングで首肯して強引にこの話題を流す。

 どこか納得いかない部分もあるが、焦る二人の様子に踏み入って聞くべきものでもないかと思い直し追及の手を引き戻した。

 

 すると。

 休憩所の床に置いていたなでしこのリュックのポーチから携帯の振動音が響いた。

 幼馴染みの横に腰を下ろしていたなでしこは携帯を取り出すと、早速画面を覗く。

 ラインの着信相手はリンからであった。

 

【リンちゃんは今日どこ行ってるの??】

【ここだよ。http://live.kiri/camphp?l】

 

 携帯の背景にはリンが送信してきたボルシチの画像が映し出されており、その詳細をなでしこが尋ねていたのだ。

 そうして返ってきた返信は、地名ではなくアドレスが添え付けられていた。

 思わず頭の上で疑問符を浮かべるなでしこ。

 

「アドレスだ」

 

 携帯の画面をタッチし、送られてきたアドレスを読み込んでみる。

 すると画面には霧ヶ峰カメラと表示されたライブ映像が流れ出す。

 流れる動画には、道路と駐車場とのどかな草原風景。

 

「ん? んんー??」

 

 一見何の変哲も無いライブカメラの映像であったが、注目すべきはその左下端。

 カメラに小さく映った人影がカメラ目線で手を振っていた。

 防寒着を着込んだ女の子、それは女子高生ソロキャンパー志摩リンに相違なかった。

 

「あーーーーっ!! リンちゃんだこれーーーっ!!」

 

 目を細めてライブカメラを覗いていたなでしこが、リンの姿を認識すると目を見開いて叫ぶ。

 なでしこの急激な反応に、その場に居た人間の注目が集まった。

 

「どうした、なでしこ?」

「リンちゃんがっ! リンちゃんがテレビに映ってるんだよーーっ!!」

 

 テレビではなくライブカメラである。

 これこれ、と差し出された携帯の画面を千明とあおい、そして小太郎が覗く。

 すると三人の目にも、ライブカメラの端で手を振る可愛らしいリンの姿が見て取れた。

 

「ホントや。志摩さん、今霧ヶ峰におるんねー」

「霧ヶ峰ってどこにあるの?」

「長野県の諏訪湖の近くにある高原だな」

「長野かぁ、そんな遠くまで」

 

 なでしこの疑問に対して、野クル部長である千明が素早く所在地を答える。

 伊達に野クルの部長をしている訳ではない。

 彼女の頭の中には、中部地方の主要なキャンプ地が確りとインプットされていた。

 

「今めちゃ寒いはずだけど大丈夫なのか」

「さすがソロキャン少女やねぇ」

 

 なでしことあおいは、場所は違えどキャンプへと向かうリンの粋な計らいにほっこり。

 ほのぼのとした様子で携帯の画面を見合っていた。

 

「ライブカメラで返事なんておもろい事すんねー」

「だねー。あんなに手をふってー元気だなーリンちゃんは」

「ホントやねーこんな寒い日なのに」

 

 其処で小太郎ははた、と気が付く。

 此方から返信をしないため、何時まで経っても映像の中のリンが手を振ることを止めない、と。

 そして、徐々に車道の方へと身体を乗り出していることにも気が付いた。

 車の通りがそこまで無いとはいえ、危険な行為である。

 

「ていうか返事したほうがええやない?」

「あ、そ、そうだね」

 

 あおいの提案になでしこも慌てて同意。

 すぐさま返信の為に文字を打ち込もうとした。

 しかし。

 映像の中に映るリンは、車道の半ばまで歩を進めており、その背後からは車が迫っていた。

 見晴らしが良い場所とはいえ、ドライバーがリンに気が付いて減速するとは限らない。

 

 小太郎の決断は迅速であった。

 

 ──リリルーラ!!

 

 瞬間。

 小太郎の体は、ほっとけや温泉の休憩所から掻き消える。

 なでしこの携帯を注視していた野クルの面々は幸いなことにその異常現象を視界に収めることは無かった。

 

「あっ!! 後ろから車来とる!!」

「うわっ!! リンちゃんよけてーっ!!」

 

 なでしこ達が無駄だと分かっていながらも画面に向かって叫び、リンに危険を伝えようとする。

 だが、叫びは虚しく休憩所に響くばかり。

 リンの耳に届くことは物理的に在り得ない。

 そう、彼我の距離を瞬間移動でもしない限りは。

 

「ってリンちゃんが何かにさらわれたーっ!!」

「なんやあれっ? ずさーって志摩さんがすごい勢いで横にスライドしていったでっ!!」

「おいおい、しまりん大丈夫なのか! なでしこ、ラインになんか送ってみたらどうだ!」

「そ、そうだね」

 

 突如。

 画面内のリンが、薄桜色をした人影のようなものに担がれ、猛烈な速度で画面外へと消えていってしまった。

 何の前触れも無い突発的な出来事に野クルメンバーは軽いパニック状態。

 慌ててなでしこが安否確認のため、ラインを送るが返事は来ない。

 

「て、天狗か!? 天狗の仕業かっ!?」

「志摩さん大丈夫なんやろか。よお見えんかったけど、親切な人が助けてくれたんかなぁ?」

 

 遂には千明が先程の怪現象を妖怪の仕業と疑い始めてしまう始末。

 相方のあおいの方は現実的な枠組みに当て嵌まる可能性を示唆し、リンの安否を気遣う。

 そして。

 ぺこぺこ、と携帯へ一生懸命に文字を打ち込んでいたなでしこは、千明の天狗発言にはた、と気が付く。

 きょろきょろ、と視線を巡らせれば頼りになる幼馴染みの姿が無い。

 その事を認めると、なでしこははふー、と肩の力を抜いた。

 確証は無い。

 しかし、長年の経験からなでしこは確信した。

 

 ──コタくんが助けに行ってくれたんだ。

 

 ならばリンは無事である。

 全幅の信頼がそこにあった。

 そして、なでしこの信頼に応えるように手に持った携帯からラインの着信音が聞こえてきた────

 

 

 

 

 ゆるキャン△

 Fan fiction

 チート転生者 in キャンプ物

 

 

 

 

 リリルーラで空間を跳躍し、画面越しであった霧ヶ峰の風景が眼前へと広がった。

 だが、その風景に現を抜かす暇は無い。

 目標は志摩さんただ一人。 

 すぐさま志摩さんの姿を確認すると、僕はゼロから瞬時に最高速へと身を躍らせた。

 勢いをそのままに志摩さんの小さな身体を横抱きにし、殆ど横一直線へ跳ねるようにして移動。

 人一人を抱えているとは思えない身軽さであるが、産まれて十数年来付き合って来た身体スペックからすれば造作も無いことであった。

 

 そして。

 勢いを殺すため素足を地面のアスファルトに擦り付ける。

 自身が出している速度を鑑みるにそんな事をすれば、足の裏がずたずたになりそうなものであるが、此処で心配しなければならないのはアスファルトの方である。

 力を入れすぎて砕かないように、尚且つ腕の中の志摩さんに過度の衝撃がいかないように細心の注意を払い、肉体を操作する。

 程なくして跳躍した勢いを完全に殺し切り、ほっと一息を吐く。

 志摩さんに迫っていた車は何事も無かったかのように通り過ぎ、辺りは霧ヶ峰の環境音だけが控えめに響いていた。

 

「志摩さん、無事?」

「…………田中? た、田中っ!? 何でこんなところにっ!? ていうかお、降ろしてっ!?」

 

 一瞬の呆け。

 横抱きに抱いた志摩さんからなんとも気の抜けた調子で名前を呼ばれる。

 しかし、現状が把握できたのか、腕の中の志摩さんはぱたぱた、と両手足を動かし、降ろすように催促してきた。

 無論、窮地を脱した故にこれ以上女の子の身体をむやみやたらに触っておく趣味は無い。

 

「うん。じゃあゆっくり降ろすね」

「お、おう……」

「志摩さん、ちゃんと周りを見てないと危ないよ。危うく車にぶつかる所だったんだから」

 

 壊れ物を扱うように小柄な志摩さんをアスファルトの地面へと降ろす。

 両足が地面に着いた事で人心地が付いた志摩さんへ嗜めるように言葉を紡ぐ。

 どうにも自分より年下の子を注意するようになってしまっているが、それは失礼ながら志摩さんの体格の所為である。

 

「ご、ごめん、気をつけるよ……ってそうじゃなくて何で田中が此処に居るんだ?」

「あぁ、説明したいのも山々なんだけど、あいにく時間が無いんだ。そうだ、なでしこからラインが来てないかな? ちゃんと返事返してあげてね」

「ラインって言ったって……あ、ほんとだ。なでしこからラインが来てる」

 

 ──リリルーラ。

 

 志摩さんの視線が携帯へと落ちた瞬間。

 心の中で呪文を唱える。

 すると、一瞬にして僕の姿は霧々峰から掻き消え、影も形も無くなった────

 

「田中……? あ、あれ、田中どこいった? …………また天狗の所業か……あとで問い詰めてやる……」

 

 故に。

 目が据わった志摩さんが其処に残されていたことを知ることとなるのは、ほんの少し後になってからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、眩暈のような立ち眩みの後。

 視界に映ったのは数十秒前まで居た『ほっとけや温泉』の休憩所である。

 リリルーラ(合流呪文)を唱える際に、なでしこ達の視界外に到着先を念じたため、丁度野クルメンバーの背後を陣取るように姿を現すことが出来た。

 

「あ、リンちゃんから連絡が来たよ。無事だって、通りがかった人が助けてくれたみたい」

「ほんまに、よかったわー、安心したわ」

「ったく、ちょっと心配しちまったぜ」

 

 どうやら丁度、志摩さんから無事を知らせるラインが到着したらしい。

 三者三様に安堵の表情を浮かべる野クルメンバー。

 

「良かったね、なでしこ」

「うんっ!」

「って、どわっ!? 小太郎、いつの間にあたし達の後ろに居たんだ!? 近い近い!」

「ついさっきから居たよ、なでしこの携帯に集中してたみたいだから気が付かなかったんじゃないかな」

 

 背後から声を掛けた事にオーバーなリアクションで驚く大垣さん。

 確かに、後ろから近づいたことは思慮が足らなかった気がするが、其処まで驚くようなことだろうか。

 此方には驚かせようという意志は全く無いのに。

 

「さて、志摩さんの無事も確認できたことやし、ウチらは温泉にでも行こかー」

「そうだな、そうしようか」

「おーーっ!」

 

 一悶着はあったが、無事解決したため三人は当初の目的を果たすための舵を取った。

 ならば僕も一足早くなでしこ達の目的地であるイーストウッドキャンプ場へ行って、簡易バーベキューコンロでも設営しておこうか。

 

「ほな、小太郎くんもまた後でなー」

「うん、景色が抜群に良いからゆっくり浸かってくるといいよ。僕は一足早く現地に行って準備してるね」

「おう、任せたぜ、小太郎」

「任されました」

 

 大きな荷物を休憩所へと置いていき、着替えを手に持った野クルの面々が休憩所から出て行く。

 三人寄れば姦しいとはよく言ったもので、女の子三人が居なくなった休憩所は急に静かになってしまった。

 さて、それではぼちぼち僕も行こうか。

 そう思い、よっこいしょ、と煉瓦ブロックが大量に詰まったミリタリーリュックを担ぐと後ろから声が掛けられる。

 

「コタくん」

 

 休憩所の入り口からひょっこり、と顔だけを出したなでしこ。

 少し斜めに首を傾げて扉から顔を出しているため、桜色のお下げが重力にしたがって柔らかく垂れ下がって揺れている。

 

「ん? どうしたの、なでしこ。忘れ物かな?」

「ううん、違うよ。あのね────『ありがとう、コタくん』」

 

 野花がいとけなく花びらを広げるように、笑顔が花開いた。

 その小さな唇から述べられる感謝の言葉。

 何に、と此処で問うのは無粋だろう。

 なでしこは僕が行ったことに対して、詳細は尋ねずに感謝だけを伝えてくれた。

 ならば此方から返す言葉は一つである。

 

「どういたしまして」

「うんっ」

 

 僕の返答に元気良く頷いて、今度こそなでしこは温泉へと行ってしまった。

 さて、では僕も今度こそキャンプ場へと行くとしよう。

 その前に。

 

 ──この鬼のように着信している携帯電話はどうしようかな…………

 

 表示された『志摩リン』の文字が閻魔大王の名前のように感じられる今日この頃である────




◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 あとがき

 すまない女性陣の入浴シーンはまだなんだ。
 でも、もう小太郎の入浴シーンは描写したんだしもういいかな、て気がしてきた。

 あと、ピンク色の半袖シャツ見るとべジータ王子を連想するのは筆者だけだろうか。

 前回の感想返しを全て返すのは明日以降になりそうで、ご容赦ください。

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