チート転生者 in キャンプ物   作:加賀美ポチ

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三話

「やだよー! コタ君と離ればなれなんてっ」

 

 懐かれたなぁ、と現実逃避。

 引越しの件を伝えた後、正しく言葉の意味を認識したなでしこに縋り付かれてしまっていた。

 相当に切羽詰っているのか、詰め寄られた僕はソファーへと押し倒されている真っ最中である。

 仰向けに倒れる僕の胸元に圧し掛かり、我が幼馴染み殿は涙目の癇癪を起こす。

 ああもう、春から高校生だというのにはしたない。

 女の子がみだりに男へ引っ付くものではありません。

 

 だがしかし。

 縋り付かれて悪い気はしない。

 我侭を言う姿も、贔屓目の色眼鏡で見れば幼げに思えて頬が緩みそうになってしまう。

 

「心配しなくてもそんなに遠くへは行ったりしないよ。お隣の県じゃないか。会おうと思えばすぐに会えるよ」

「でもでもっ」

「スカイプを使えば毎日でも顔を合わせてお喋りも出来るし、なでしこが携帯を買ってもらえればメールでのやり取りも簡単に出来るよ」

「うーうー」

 

 そのうーうー言うのやめなさい、可愛らしいだけだから。

 どうしたものか。

 すっかり幼馴染み殿に臍を曲げられてしまった。

 

「ほら、飴ちゃんあげるから機嫌直して」

「……いらない、コタ君の方がいい……」

 

 なにぃ!?

 なでしこが食べ物に釣られないだと。

 しかもこの飴ちゃんは大阪老舗の高級べっ甲飴だというのに。

 まあそれはさておき。

 どう宥めたらよいものか。

 そう思っていると綾乃がなでしこの首根っこを掴んで引っぺがしてくれた。

 ふらーん、と猫の如く吊られるなでしこ。

 

「はいはい、小太郎が困ってるでしょ。そんくらいにしときなよ、なでしこ」

「でも~、アヤちゃんはいいの? ずっと三人一緒だったのにコタ君が遠くに行っちゃうんだよぉ」

「そりゃ、私だって寂しいよ……そもそも何でまた山梨に?」

 

 そういえば引っ越すとは話したが、理由についてはまだ何も話していなかった。

 話す前になでしこが暴走したのは置いておこう。

 

「親の仕事の都合。父さんの勤務地が山梨の方になってね、通うのは距離があるから単身赴任も考えたらしいんだけど母さんが付いていくの一点張りで」

「仕事の都合かぁ……それは私たち未成年にはどうしようもないね」

「そそ」

 

 扶養されてる身としてこればかりは仕様が無い。

 そんな遣り取りをしていると、なでしこがすっかり落ち込んでしまった。

 

「小太郎君」

「あ、はい何ですか?」

「引越し先はもう分かってるの?」

「はい、山梨の○○市って所です」

「…………よし」

 

 あの……桜さん、その小さなガッツポーズはなんなのでしょうか。

 ひょっとしてホイミマッサージを受けるのに支障が無い距離だったことについてですか。

 SUVの車お持ちでしたよね。

 

「なでしこ、いい加減機嫌直しな。○○市くらいなら私が休みの日に車出してあげるからさ」

「ほんとっ」

「ほんとほんと。小太郎君も機会が合えば引越し先にお邪魔してもいいかしら?」

「はい、是非とも。僕のほうからもこっちには遊びに来ようと思ってますので」

 

 流石に桜さん一人へ負担が集中するのは忍びない。

 車の燃料代だって馬鹿にならないだろう。

 大学生の彼女には相当な負担な筈だ。

 僕の場合は、FF魔法『テレポ』で移動は事足りる。

 『ルーラ』では謎の人型未確認飛行物体としてお茶の間を騒がせてしまう可能性があるので却下である。

 

「だから、ね。ちょっと遠くへ行くだけだから、疎遠になるわけじゃないよ」

「……うん」

「飴ちゃん舐める?」

「うん」

 

 ころころ、となでしこのほっぺを膨らませるべっ甲飴。

 口の中の甘味にやっとなでしこは少し笑みを見せてくれた。

 眦に涙の跡は残るけど、やっぱり悲しげな顔よりも此方の方がずっと良い。

 

 

 

 

 その後。

 冬の訪れと共に、引越しのお別れ会が各務原家主導で盛大に行われた。

 なでしこが腕によりを掛けて作ってくれた料理はとても美味しく、幼馴染み殿の成長が感じられてほろり、としたことは内緒である。

 これを機に携帯を買って貰えたなでしこと綾乃の三人でアドレス交換を行い、一日一メールはするように約束させられた。

 そして。

 僕は山梨へと旅立つ────

 

 

 

 

 ゆるキャン△

 Fan fiction

 チート転生者 in キャンプ物

 

 

 

 

 ピンポーン。

 日曜日の午前中に各務原家のチャイムが木霊する。

 

「はーい。あら小太郎君じゃない、どうしたの?」

「こんにちわ、桜さん。静岡の近くを寄る機会がありましたので顔を見せに来ました。これ、つまらない物ですが」

「そんな気を使わなくてもいいのに」

「貰い物ですので、遠慮せずに受け取ってください」

 

 まごうことなき貰い物である。

 手渡した無地の発泡スチロール箱の中身は北海道産タラバガニ1匹丸ごとである。

 甲羅の大きさ、足の長さ、太さも良型のカニを厳選してきたと自負している。

 無論、買ってきたわけではない。

 ちょっと真冬のオホーツク海を潜水して獲ってきただけである。

 まごうことなき『海からの』貰い物である。

 

 焼きガニの足をちゅるん、と食べるなでしこは可愛いと思いました、まる。

 

 

 

 

 ピンポーン。

 また別の休日に各務原家のチャイムが軽快に響く。

 

「はーい。あら小太郎君、今日も?」

「こんにちわ、桜さん。はい、今日もたまたま近くに寄る機会がありましたので」

「顔を出してくれるのは嬉しいけど、無理してないかしら?」

「心配してくれてありがとうございます。でも大した負担でもありませんので大丈夫ですよ。ひょっとして頻繁すぎてご迷惑でしたか?」

「ああ、そういうのじゃないから。私も小太郎君のこと弟みたいに思っているから来てくれて嬉しいわ」

「ありがとうございます。あ、これ、つまらない物ですが」

 

 渡すのは今回も無地の発泡スチロール箱。

 前回が海だったので今回は『山からの』貰い物である。

 中身は今朝解体した山梨県産の鹿肉。

 高タンパクで低脂肪、なおかつ鉄分の含有量も非常に高いとされるあの鹿肉である。

 世間では肉質が硬く、臭いがきついとされているが、それは大きな間違い。

 適切な血抜きと処理を行えば、柔らかく匂いが穏やかという特徴を持ったお肉なのだ。

 処理を行ったのは僕自身なのでそこの所は抜かりない。

 生食では危険だが、そこはキアリー、キアリク、ポイゾナ、リブートといった状態異常回復魔法をふんだんに行使したので、刺身でも食べれると自負している。

 

 もみじ鍋をはふはふ、と食べるなでしこはめんこいなぁと思いました、まる。

 

 

 

 

 ピンポーン。

 そしてまたとある休日に各務原家のチャイムがポチられる。

 

「……」

「こんにちわ、桜さん」

「……ねぇ、小太郎君」

「はい、なんですか?」

「家までの移動手段はどうしているのかしら?」

「うーん…… えいやっ、という感じでしょうか」

「……」

「……」

「……はぁ……小太郎君の不思議は今に始まったことじゃないから詳しくは聞かないけどさ、本当に無理してない?」

「お箸を持つくらいの無理ならしています」

「ん、ならよし。家に上がりな」

 

 ぽんぽん、と頭を軽く撫でられる。

 桜さんはくるり、と踵を返して敷居を跨がせてくれた。

 摩訶不思議で一歩間違えれば不気味であろう己を、軽く受け入れてくれる桜さんは本当に素敵な女性だと思う。

 その日頃の感謝を込めて、今日もまた誠心誠意ホイミマッサージに取り組むことを決意した。

 

 追記。

 白トリュフのパスタをつんつん、つついて恐る恐る食べるなでしこはチャーミングだと思いました、まる。

 




◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 あとがき

 今回は少し短めのお話となっています。
 以下、小太郎のソロキャンプ適正
 ↓
 衣:防寒着など不要! 半袖短パンで真冬もOK! 極寒の地ならフバーハで快適!
 食:現地調達で事足りる!
 住:レビテト or トベルーラによるエアベッドでぐっすり安眠! テントなぞ不要! 身一つあれば事足りる!

 ……この主人公、キャンプ道具要らなくね?
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