チート転生者 in キャンプ物   作:加賀美ポチ

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五話

 女子高生、犬山あおいには気になる男子が居る。

 誤解の無きよう予め断っておくが、決して異性として意識している訳ではない。

 ただクラスメイトについつい目で追ってしまう変わった男子が居るのだ。

 

 その男子の名前は田中小太郎。

 中学三年の冬に静岡から引っ越してきて、僅かな期間の中学校生活を共にした同窓である。

 縁があったのか、高校も同じ本栖高校であり、クラスも一緒になった男子である。

 それだけであれば、特段気にするようなものではないのだが、無論あおいが気にする訳がこの男子にはあった。

 

 体格は中肉中背。

 容姿も芸能人のように際立って整っているとか、アイドルのように煌びやかというものでは無くて至って普通。

 ただ顔立ちは人に穏やかな印象を与え、笑うと愛嬌がある。

 

 そんな彼だが、他の男子に比べると明らかに抜きん出た要素があるのだ。

 それは──存在感。

 彼という人物が同じ空間に居るだけで、意識せざるを得ない存在感があるのだ。

 根拠はあおいが朝の教室に入った際。

 教室へと一歩踏み入れる前に『あ、この感じ田中君が居るんやなぁ』、と判断できるのだ。

 

 近い雰囲気を挙げるとしたら、動物園で見たことがあるアフリカゾウだ。

 3mを超える体長と、7トンを誇る巨体。

 その生物的な格の違い故に感じられる圧と、田中小太郎が発する存在感が非常に酷似していた。

 

 またその存在感は夏が近づくに連れて日増しに、徐々に強くなっていった。

 まるで成長していくように。

 小太郎の発する圧は教室だけに留まらず、学校の敷地内に入った範囲で感じられるようになっていき、

 それまで小太郎に話しかけていた男子も遠巻きに見るだけになってしまっていた。

 もはや珍獣扱いである。

 

「な、なぁ田中君?」

「うん? どうかした?」

「なんか不機嫌になるようなことでもあったん? 最近、そんな雰囲気みたいなの出とってみんな話しかけづらくなっとんよ」

「え…………あっ……」

 

 ある日、あおいは勇気を出して小太郎に指摘した。

 指摘した直後。

 小太郎は一瞬何を言われたのか理解できていない様子だったが、その後、ハッと何かに思い至ったような顔になる。

 瞬間。

 田中小太郎が発し続けていた圧力がぱったり、と止んだ。

 否。

 無くなったわけではない、変質したのだ。

 

 ──な、なんやのこれ。

 

 どっしりと大地に根を張る大樹のような安心感を齎すものに変わった存在感に、あおいはパチクリ、と目を瞬かせる。

 

「あー、なんというか……ごめんね。ちょっと気が付かない内に雰囲気を悪くしていて」

「う、ううん、別に気にせんでもええよ」

 

 バツが悪いように謝罪する小太郎に対して、慌ててフォローをする。

 一瞬にして親しみやすく、話しやすくなったクラスメイト。

 あおいはそんな摩訶不思議な男子を改めて観察してみる。

 

 ──はわぁ……あらためて見るとすっごい筋肉やわぁ、カチカチしとる。やっぱり田中君も男子なんやね、ウチら女子とは大違いやわぁ。

 

 半袖カッターシャツから覗かせる小太郎の腕は、他の男子のものより一回りも二回りも太い。

 腕だけでは無い。

 胸筋、腹筋、背筋、下半身。

 全身を覆う筋肉の厚み。

 田中小太郎という人型に内包された男としての力強さに、あおいは思わず圧倒される。

 

 ──それにしても、ほんまなんやったんやろうか? ウチが指摘した途端に雰囲気ががらり、と変わってしもうたで。

 

 思考を巡らせども答えは無い。

 

「本当にごめんね。飴ちゃん要る?」

「あ、うん。貰うわ」

 

 自然な動作で手渡された飴玉を思わず受け取る。

 掌に光るべっ甲飴は柔らかい黄色い光を反射していた。

 

 ──べっ甲飴って意外と渋い趣味しとるんやね。おじいちゃんみたいやわ。

 ──そういえば、田中君って他の男子と違ってガツガツしとらんのよね、ウチ見ても胸の方に視線が向かんし。

 

 あおいは自身の胸が同年代女子に比べて平均以上の大きさであると自覚している。

 その事実が男子にどう受け止められているかも重々承知している。

 故に。

 判を押したような反応以外の対応を見せる小太郎がことさら印象に残った。

 それ以前で色濃い印象が残り過ぎてはいるが。

 

 ──ま、そんな男の子もおるんやろ。あ、アキがテントをネット注文するって言うとったけどまだ届かんのやろか。

 

 そんな出来事があったが故に、犬山あおいは田中小太郎という男子を『気になる男子』のカテゴリーに入れている。

 他の男子よりも注視していると言い換えてもいい。

 これからも田中小太郎が巻き起こす特異な出来事を目撃していくことになるのだが、それはまた後の話である────

 

 

 

 

 ゆるキャン△

 Fan fiction

 チート転生者 in キャンプ物

 

 

 

 

 ──いかん……気にも成長期というものが在るのだとは思っていなかった。

 

 身体の成長期に伴い、気が倍増していたなど指摘されるまで気が付かなかった。

 無意識に余剰分の気が垂れ流されていた。

 高校入学後、ある時点から己に話しかけてくれる級友が皆無になったのはこれが原因であったか。

 クラスメイトには悪いことをした。

 恐らく猛獣と同じ檻に入れられるような毎日を送っていたのではないだろうか。

 

 指摘してくれた犬山さんには感謝である。

 すぐさま、気を最小限に抑えた時のクラスメイトのホッ、としたような表情が忘れられない。

 無駄に心労を掛けさせてしまっていたようで本当に申し訳ない。

 

 僕は自己嫌悪を抱えながら放課後の廊下をトボトボ、と歩く。

 何らかの形でクラスメイトにはお詫びが出来ればよいのだが。

 直接的な被害が無い分、面と向かっての謝罪が出来ないのが辛いところである。

 

 ──当面の方針としては、クラスのみんなが困ってることがあれば助力を惜しまないようにしよう、そうしよう。

 

 下に向かいがちの視線を前に向ける。

 すると。

 其処には教室棟の用具室前で何やら思案に耽るクラスメイトの姿が。

 一人は、亜麻色の髪をサイドポニーに結んだ八重歯が特徴的な少女。

 気の件を指摘してくれたクラスメイトの犬山あおい。

 もう一人は、黒縁眼鏡を掛け、前髪だけがベリーショートでツインテールに髪を結わえている少女。

 犬山さんとよく話している姿を見かける、名前は確か大垣千明。

 

「でもアキ、大町先生が持っていってええって言ってくれたんはええんやけど、どうやって運ぶん?」

「いやーアタシもこんな大きさと思ってなくて何も考えてなかったわ。よし、どっかから台車でも借りてくるか」

「せやけど持ってくまで階段とかあるよ? 結局そこは手作業やで」

「……結構厳しいか?」

「結構厳しいなぁ」

 

 漏れ聞いた会話から察するに、どうやら荷物の運搬について困っているらしい。

 これは僥倖である。

 今の僕は罪滅ぼしの絶賛奉仕活動の募集中である。

 早速、僕は用具室前の二人に声を掛ける。

 

「お二人さん、用具室前でどうしたの?」

「んあ、お前は確かイヌ子のクラスの──」

「田中小太郎くんやで、アキ」

「おおっ、なんかやたらめったらに存在感があるっていう有名人じゃないか。あれ? でも今見たらそんなでもないよな?」

 

 大垣さんのリアクションが非常に心へ刺さる。

 いや本当にこの度は申し訳ありませんでした。

 

「あはは、それで何か困りごと?」

「ん? ああ、使ってない収納棚をアタシらの部室で使っていいってことになったんだが……」

「想像以上に棚が大きくて運ぶのに難儀しとったんよ」

 

 大垣さんの言葉尻を補完するように、犬山さんがほんわか関西弁で補足する。

 用具室の扉から覗いてみると其処には腰くらい高さの収納棚が鎮座していた。

 横6×縦3に収納スペースが分かれた収納棚が合わせて二つ。

 なるほど、これは確かに男手でも運ぶのは難儀しそうである。

 しかし。

 ひょいっ、ひょいっ、と二つの収納棚を小脇へ持ち上げる。

 

「これ、部室棟の何処まで運べばいい?」

「うおっ、軽々と持ち上げたっ」

「はえ~、田中君って力持ちなんやね~」

 

 某野菜人の膂力をもってすればこのくらいの重量、百個二百個あったところで問題無い。

 持てるかどうかは脇において。

 驚く二人を他所にスタスタ、と足を部室棟へ向ける。

 

「あ、でも田中君、無理に手伝ってくれんでもええんで。私たちだけでもなんとか運べると思うし」

「気にしないで、今は丁度奉仕精神に溢れている所だから」

「いいじゃんかよ、イヌ子。本人もこう言ってるんだからよ。

 にしし、それにしても田中ってお爺ちゃんみたいな男子って聞いてたけど、女子に良い所見せようって気持ちはあるんだな」

「せやろうか?」

 

 確かに自身を良く見て欲しいという願望は無きにしもあらずだが、今現在は罪滅ぼしの気持ちが強い。

 そう言った意味では此度は丁度良かった。

 人様が困ってる場面に出くわす事を丁度良いと思うのは、些か不謹慎だとは自覚しているが。

 

 

 

 

 そして。

 滞りなく収納棚の搬入作業は終わった。

 その際、二人が所属している部活は『野外活動サークル』という同好会だということが判明した。

 なんとこのサークル、犬山さんと大垣さんが二人で創設したらしい。

 若い二人のバイタリティに感心しつつ、『野外活動サークル』、通称『野(の)クル』の部室を見渡す。

 狭い。

 第一にこの感想が真っ先に思いつくであろうほど、野クルの部室は狭かった。

 奥行きはあるのだが、幅が極端に狭い。

 収納棚を設置してしまえば、人一人分が通れるだけのスペースしか残っていない。

 与えられた部室が部室棟の用具入れだった故の狭さである。

 

「いやー、悪いねー田中。道具の整理まで手伝ってもらっちゃって」

「いいよいいよ、どうせ帰宅部だし。放課後は時間も余ってるから」

「なんや田中君、どこかの部活には入らへんの?」

 

 部室の片隅に置かれてあったアウトドアの本や、薪を棚に入れていると僕の部活の話になった。

 何かしらの部に入部することは考えたこともあった。

 しかし、これといってピンと来るものが無かったので保留のまま今に至っているのが現状である。

 

 運動部と文化部。

 この二つを選択した場合、まず運動部は論外である。

 身体能力が違いすぎて大人と子供というレベルではない。

 野球などで接触プレーなど起きようものなら相手側が比喩抜きで吹っ飛ぶ。

 死傷者を出さぬために僕は運動部へ入るつもりは毛頭無かった。

 だが、こんなことは馬鹿正直に話しても法螺話としか受け取ってもらえないだろう。

 

「うーん、今のところは帰宅部で満足かな。運動部に入って青春を謳歌するってほどの情熱は無いしね」

「ふーん、そっかぁ」

「二人は普段どんな活動をしてるの? やっぱり山梨はキャンプ地が豊富だから土日にキャンプかな?」

「いやーそれが……なぁ、アキ」

「だなぁ……今のところ部活動らしい部活はしていない!」

 

 大垣さんに断言されてしまった。

 そんな力強く言わなくても。

 

「普段はお喋りしたり、アウトドアの本なんかを見て時間を潰しとるんよ」

「ふふふ、だがそれもこれも今だけよ。ネットで注文したテントさえ届けば、アタシたちの活動は名に恥じぬキャンプへと移行するのだ!」

「お値段980円(税込み)の激安テントやけどなぁ~」

 

 胸の前で握り拳を作って熱弁する大垣さんに、犬山さんの補足が入る。

 しかし、980円のテントって大丈夫なのだろうか。

 安かろう悪かろうにも限度があるだろうに。

 

「なら、夏休みあたりにそれを使ってキャンプに?」

「そやで~」

「よーし! 道具の収納おわりっ! 中々良い感じに整理整頓出来たじゃん」

 

 大垣さんが元気の良い声を上げ、どかり、と棚の上に腰を下ろす。

 一仕事を終えた快活な笑みは、見るだけでこちらも元気を分けてもらえそうである。

 しかし。

 

「大垣さん、そんな所に座り込むとスカートの中が見えるよ、はしたない。でもお疲れ様、お菓子食べる?」

「あ、うん……食べる」

 

 指摘するとサッ、と広げた脚を閉じ、床へ女の子座りで座り込んでしまった。

 顔を若干朱に染め、しおらしくなった大垣さんに友人の犬山さんは珍しいものを見たと言いたげな顔をしている。

 

「なんやアキがこんな女の子女の子しとる反応初めてみるかもしれんね」

「う、うるせーし。ちょっとアタシも油断してただけだから」

「ごめんごめん、ちょっとデリカシーが足りてなかったよ。今は蕎麦ぼうろとべっ甲飴しかないけどいいかな?」

 

 学生鞄を床に置き、持っていたお菓子類を広げる。

 

「なんやチョイスが渋いなぁ。このお菓子は田中君が食べるん? 男の子が鞄にお菓子忍ばせとくんはなんか可愛らしいわぁ」

「普段は食べないよ。なんというか静岡に居た頃の習慣かな」

「そんな習慣あるん?」

「向こうの幼馴染に食べるのが大好きな子が居てね。

 その子があんまりに美味しそうにものを食べるもんだから、その子用にお菓子持ち歩くのが癖になってしまって」

 

 その幼馴染は勿論なでしこのことである。

 話していると脳裏になでしこの食べる姿が浮かんでしまい、ついつい頬が緩んでしまう。

 休日になると頻繁に顔を見に行っているが、今日も元気でやっているであろうか。

 大垣さんがさり気無く用意してくれたお菓子皿にざらざら、とべっ甲飴と蕎麦ぼうろを広げる。

 

「お、田中が思い出し笑いしてら。ひょっとしてその幼馴染って女の子なのか」

「そうだよ、これがまた可愛い子なんだ」

「おおっ! 恋バナ、ひょっとして恋バナなんか? 田中君、その子の写真とか持っとるん?」

 

 大垣さんの疑問に、身内の贔屓目込みで答えると犬山さんが勢い良く食いついてきた。

 なでしこの写真は確かに携帯に何枚か収めている。

 なでしこの魅力を伝えるためには中学三年の夏休み前の写真が良いだろうか。

 少しまるっこかったなでしこの食事姿はとても可愛らしい。

 携帯を操作し、件の写真を表示する。

 

「……丸いな」

「でも、ほんま幸せそうに食べとるね、なんかこっちまでお腹が空いてきてしまうわぁ」

「そうなんだよ、今のなでしこは痩せているけど、この頃のなでしこが一番美味しそうにものを食べてる姿だと思ってるんだ。

 なでしこのお姉さんにはいつも甘やかさないでくれって言われてたけれど、この姿を見てしまうとついつい甘くなってしまって。

 この年になると多少なりとも反抗期があるはずなんだけど、なでしこにはそれが無くてね、コタ君コタ君といっつも後をついて来ていたなぁ。

 あ、これが最近のなでしこの写真ね」

 

 思わず饒舌になってしまったが、それもしょうがないことだろう。

 幼児期から見守ってきた子供が成長した姿はとても誇らしいものだ。

 この感情を伝えきる語彙が不足している自分が情けない。

 

「なんちゅうか……」

「ああ、完全に保護者の顔だな……」

「って、この写真ほっそっ! わりと別人やんか!?」

「うわマジだ、本当に同一人物か?」

 

 二人の驚きも無理は無い。

 それだけなでしこは努力したのだ。

 僕はどれだけなでしこがダイエットを頑張ったかを二人に伝えるために口を開いた────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふう、満足である。

 久しぶりになでしこの魅力を人に話すことが出来て大変満足である。

 話していると本人の顔を見たくなる欲求が強くなってくる。

 よし、今週の休日に各務原家にお邪魔させてもらう。

 土産は何が良いだろうか。

 お土産のチョイスに思考の羽を広げ、意気揚々と帰る僕。

 

 そんな鼻歌でも歌いだしそうになってると、廊下で人にすれ違う。

 一見中学生に見間違えてしまいそうになる低身長。

 文庫本を片手に歩く姿は、芯が通っており姿勢の良さが目を引く。

 そして、頭頂部には可愛らしいお団子状に纏められた髪が歩くたびに揺れている。

 

 ──はて、どこかで見たことがあったかな?

 

 少なからず覚える既視感。

 しかし、なでしこに会う楽しみに大半の思考を裂いていた僕は、すぐにその既視感を塗りつぶす。

 

 ──お土産はクエにしようかな。『クエを食ったら、他の魚は食えん』って言われるけど、そんなこと言うなでしこは想像できないかな。

 ──さて、帰ったら太平洋にダイナミックエントリーしますか。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 あとがき

 ゆるキャン△特有のニアミス。
 次話からいよいよ原作時間軸です。
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