湖の魔術師 作:さら
「そろそろ決着をつけるかエレイン」
黄金系有数の
バードウェイは幼いながらも魔術集団を適当な魔術で殲滅したり、魔術結社を単独で壊滅に追い込んだりする『明け色の陽差し』のメンバーも認めるほどの実力者であり、一方、エレインも幼げながらも無駄遣いが多く、限りある人員・資源を勝手に消費して周りに迷惑をかけることから魔術業界から思考を放棄して力でねじ伏せる『インテリぶった野蛮人の集団』と酷評されていた『宵闇の出口』を一人で『明け色の陽差し』クラスまで繁栄させた組織内で誰も彼女に逆らえない湖の魔女と称されている化け物である。
バードウェイは威圧感を剥き出しにして、エレインは静かながらも覇気を持ち合わせて向き合う。
「じゃあ、行くぞ!覚悟しろエレイン!!」
「……負けない」
「「じゃんけんぽん!!」」
二人はそう言って勢いよく手を前に出したが、二人とも出したのがグーで一回目の勝負は引き分けに終わった。
「フッ、流石はエレイン。中々やるじゃないか?」
「……そちらこそ」
そんな風に二人が不敵な笑みを浮かべていると、二人の側にいた保護者役のバードウェイの部下である金髪の男性、マーク=スペースが呆れたように笑みを浮かべて突っ込みを入れる。
「ボス、エレインお嬢、何でそんな気迫たっぷりでじゃんけんしているんですか?雰囲気的に今から黄金系の魔術結社のボス同士ガチバトルが行われる流れだったじゃないですか?」
「馬鹿かお前は!!たかが敗者が勝者に紅茶代を奢る勝負で魔術なんか使ったらこの店が吹っ飛ぶわ!!」
「……私も同意。マークって頭よく見えて馬鹿なの?」
流れ的にマークの突っ込みはあっていたが、常識的にその突っ込みはあっていなかった。そもそも、この破天荒娘たちだからこそ非常識な突っ込みを入れたら、逆にこんな常識的な突っ込みが帰ってくると思っていなかったマークは失礼ながらお前たちが言うかと思う。
「さて、マークは放っておいてじゃんけん再開だ。これで決着をつけるぞエレイン」
「……絶対勝つ」
「「じゃんけんぽん!!」」
ざわざわと音がなってそうな空気の中でエレインが出したのはグーでバードウェイが出したのは…………チョキであり、この勝負に勝ったのはエレインである。
「……やった、私の勝ち」
そう言ってピースを浮かべるエレインに対してバードウェイは今回は私の負けかと悔しそうに髪の後ろをガシガシと掻いて落ち込んでいるマークに呼び掛ける。
「おい、マークちょっと金出せ」
「え?これボスが払うんじゃないですか?」
「これは『明け色の陽差し』と『宵闇の出口』との決闘だ。私が払おうがお前が払おうがどっちみち同じだろ」
「はぁ、分かりました」
マークは仕方なく席から立ち上がり、会計を済ませに行くと同時にエレインの携帯電話の着信音として設定している日本の学園都市でやっているアニメ『機動少女カナミン』のOpが鳴り響いた。
バードウェイがそれを聞いて何だそれと嘲笑っているなかエレインは表情に出さないが少しムッとしながらも電話に出た。
電話相手は部下であり、エレインたち『宵闇の出口』がマークしていた何かよからぬ企みをしていると噂されていた魔術結社が動き出したという報告である。
そろそろ動き始める頃だと思っていたエレインは特に驚きもせずに、冷静に部下に的確な指示を出していく。
会計を済まして戻ってきたマークはバードウェイからその事情を聞いて年端もいかないお嬢さんとはいえ流石はあの『宵闇の出口』を繁栄させて、纏めあげているリーダーだと改めてエレインの凄みを理解する。
「……じゃあ、私もすぐに向かうから……」
そう言ってエレインは電話を切り、バードウェイに向き直る申し訳なさそうに頭を下げる。
「……ごめん、用事ができた。……先に失礼する」
「ああ、分かった。仕事頑張れよ」
「……うん、バードウェイも成長期なんだから紅茶じゃなくてもっと牛乳を飲んだ方がいいかも」
去る際にエレインはさりげなく地雷を落とし、暴れるバードウェイをマークは取り押さえながらエレインお嬢の天才的な天然さにため息をつくのだった。
◇◇◇◇
『私は……誰?』それが私がこの世界に来て、初めて口にした言葉だった。勿論、その問いに返答してくれる者は誰もいない。
私の口にしたその言葉はそのままの意味で自分は世界の国々を知っているが、自分は何処の国の出身で何処に住んでいたか知らない。
その世界での日本とかアメリカの国の大統領の名前は知っているが、自分の名前を知らない。要するに自分は記憶喪失という状態であるらしかった。なのに私はその状況を自分も信じられないほど冷静に受け入れることができ、周りの探索を始めた。
私がいたのはうっすらと霧がかかっていてそれは何処か神秘的な雰囲気が感じられる湖で、まず喉の渇きを癒すために湖の水を両手で掬い上げ一気に口の中に流し入れた。
「……美味しい」
それは思わず言葉を発してしまうほど美味しくて、記憶喪失ながらも私はこれ以上美味しい水など飲んだことなんてないだろうと思えるほどだった。
この水で紅茶を入れたらどんなに美味しい水ができるであろうかと考えてしまうことから自分は記憶喪失以前からかは分からないが紅茶が大好きだと言うことを分かった。
「あら、久し振りにお客さんが来たらと思ったら中々可愛いお客さんね」
「……誰?」
私は声のした方に振り替えると、そこには白いドレスを身に纏った地面に届きそうなぐらい長い蒼髪を持った妖艶で何処か神秘的な雰囲気を感じさせる『美しい』という言葉が擬人化したような女性が立っていた。
「あら、そんなに褒められるなんて嬉しいわね」
この人はどうやら心を読むことができる人みたいだ。そう理解した私は心の中で即興で思いついたギャグを呟くと女性はクスッと手を口に添えて愉快そうに笑い声をあげていた。
「ウフフフフフフ、貴方面白いわね。普通だったら心を読まれることを嫌うのにそれを逆手に取ってギャグを言おうと思うなんてね。それに…そのギャグ結構面白いわよ」
気に入って貰えて良かったけど、それって私が普通じゃないって意味になるんじゃと少し落ち込んでいると女性は満面の笑みを浮かべて私の肩に手を置いた
「よし、素質もあるし貴方気に入ったわ。私はヴィヴィアンって言うんだけど貴方の名前は?」
「……名前はあるけど分からない。私は記憶喪失ということらしい」
「へぇ、成程ね。じゃあ、私が新しい名前を付けてあげようか。そうね~エレイン…エレイン=スタンガムなんてどうかしら?」
ヴィヴィアンと一緒にいたあの頃を思い出すと楽しかったような地獄だったような感じだがあの日々は私の大切な宝物だ。勿論、現在の日々も私は大好きだけどね。
「お嬢、聞いているんですか?」
「……ごめん……昔のことを思い出していた……どうかしたスミス?」
私はスミスと呼ばれたスキンヘッドに目に引っ掻かれ傷がある強面の大男に尋ねた。彼はこの組織のNo.2で怖そうに見えるが、実は優しくてこの引っ掻かれ傷も木に登った猫を助けたときに猫が彼の顔を見て驚いてしまい、引っ掻いてしまいついた傷だと聞いてその時は吹き出すのを我慢したものだ。
そんな優しい男のスミスはその強面の顔が示すイメージ通りのマフィアのボスみたいな低い声で言う。
「ボス、まもなく目的地に着きます。準備して下さい」
「……分かった。……じゃあ、作戦を開始しよう。……作戦はシンプル…敵は殲滅。……降伏した者は拘束…」
『宵闇の出口』のリーダーである私はそう言うと『宵闇の出口』の部下たちは声を揃えて『Yes、お嬢』という声をその場に響かせた。
今回の敵は魔術を研究するために拉致した人間を実験対象として来た外道集団である。まるで私がいなかった時の『宵闇の出口』のように……それに腹立って『宵闇の出口』のトップたちをフルボッコにしたのがここのリーダーになったきっかけだったような気がする。
スミスや私に従っているほとんどがトップたちに命令されて、無理矢理やらされていたらしく今回の件もそうである可能性はなきにしもあらずだ。
弱きは救うが外道たちは救う道理もない。殺しはしないがそれ相応の罰は受けさせるつもりだ。
「……こういうのを私の出身の国では自業自得って言う」
自分がいた前の世界の故郷の言葉を思い出しながらドアのミラーに写る私の表情は相変わらず無表情だった。
次の日、アルゼンチンのとある危険視されていた有名な魔術結社が一日で壊滅に追い込まれ、その魔術協会のトップたちはボロボロの姿でイギリス清教の第零聖堂区、対魔術師用組織の『