湖の魔術師 作:さら
「学園都市に行くですって!?」
紅茶を飲んでいたスミスはエレインの一言に驚きのあまりに腕に力が入ってしまい、そのままお気に入りの熊さんの可愛らしいイラストが描かれたコーヒーカップを握り潰してしまった。
コーヒーを全部飲みきっていたので手にしか紅茶が毀れなかったのは不幸中の幸いであろう。その原因を作ったエレインはこくんと頷いて事の経緯を話始める。
「……学園都市のとあるスイーツ店でスーパーウルトラビッグパフェDXとなる高さ一メートルのスイーツがある。それを食べに行ってこようと思う」
実はエレインは身長140㎝という小柄ながらも大食いでバードウェイからはお前のお腹に小型のブラックホールがあるんじゃないかと疑われる程である。
実際にエレインは常人では食すのが不可能だと思われるステーキ五キログラムを平気に十人前以上食べてしまって、それで腹八分目とお腹を手で撫でながら言ったこともある十字教で定められた七つの大罪の『暴食』を擬人化にしたような存在である。
「ですがあそこは魔術に敵対する技術を持った科学の総本山です!いくらお嬢とは言えその考えに賛成することができません。大体お嬢は自分が魔術結社『宵闇の出口』のリーダーとしての自覚が足りないんですよ」
「……なら『宵闇の出口』のリーダー辞める。じゃあ、後はスミス頑張って」
「な!?」
そもそもの話、エレインが『宵闇の出口』のトップになったのは本当に偶然、成り行きでなってしまった地位である。
特に地位にも執着心がないエレインは簡単にそんなものを放り投げることも可能だ。だが、誰がやっても『宵闇の出口』を繁栄させたエレイン以上に『宵闇の出口』を率いることなどできるはずもなく、実質エレインは『宵闇の出口』にとって必要不可欠な存在なのだ。
言葉を変えるとエレインはリーダーを辞めて欲しくなかったらもっと自由にさせろと要求しているのである。
「そ、そんなの駄目に決まっています!『宵闇の出口』のリーダーは私などは以ての外お嬢以外あり得ません!!」
「……ならパフェの件は?」
瞳を怪しく輝かせてそう尋ねるエレインにスミスは降参の旗を上げるしかない。
エレインは普段は天然ですっとぼけキャラなのだが、妙な所で頭が切れてあの『明け色の陽差し』のリーダーのバードウェイですら自分のペースに巻き込んでしまう。スミスは仕方なく観念したように深いため息を吐いて言う。
「はぁ、仕方ありませんね。でも、すぐに帰ってきて下さいよ」
「……分かっている。……念のために
「楽しんでいらっしゃいませお嬢」
「……うん」
エレインは無表情だが楽しそうにスミスにそう返して学園都市へと向かっていった。
◇◇◇◇
学園都市、第七学区に窓のないビルと呼ばれる建物が存在している。
そこはそう呼ばれている通り窓もドアも廊下も階段すらも存在しておらず、さらにはそこは入る入り口さえ存在していない。
そんな窓のないビルの中に入る為には空間移動系能力者の力が必要であり、その窓のないビルにVIPなどを窓のないビルの内部に運ぶ空間移動系能力者は案内人と呼ばれている。
その案内人の肩に手を置いて窓のないビルの内側に来たイギリス清教第零堂区『
「アレイスター『宵闇の出口』の魔女を簡単に学園都市に入れるなんてふざけているのか!!?アイツはあの魔術業界の中でふざけていることで有名なあの組織を繁栄させ、少しはまともな組織にしたリーダーだが、それだけで安全とは言えないだろう!!もしかしたら何かの目的の為に学園都市を攻めにきたかもしれないんだぞ!!」
「彼女が攻めてきたとしたら
その一言は土御門の怒りの炎に油を注いだ。
「お前は幻想殺しに過信しすぎている。幻想殺しは魔術師と相性が良いとはいえまだ『宵闇の出口』の魔女と戦うには力不足過ぎる。アイツは幻想殺しが勝てなかった『必要悪の教会』の聖人を軽くあしらえる程の実力を持っているんだぞ!兎に角、俺は行くぞ『宵闇の出口』の魔女の元に」
苛立ちを隠さない土御門はアレイスターに背を向けて案内人の肩を軽く掴んで窓のないビルの外から出ていった。
アレイスターは別に彼女が学園都市に攻めてきたとしたら幻想殺しをぶつけてプランの縮小を狙える。
「さて、『湖の乙女』はどう動く……?」
アレイスターは無機質な表情のまま自分以外誰もいない窓のないビルで一人そう呟いた。
◇◇◇◇
「くちゅん!」
エレインは学園都市の第七学区にあるスイーツ店でスーパーウルトラビッグパフェDXの到着をまだかまだかと待っていると突然くしゃみが出てしまった。
体の調子的に風をひいたわけでは無さそうだし、誰かが自分の噂をしているのと考えるのが妥当であろう。
『宵闇の出口』のリーダーとなってからはエレインはあるところでは『お嬢』と慕われて、あるところでは『英雄』と称えられ、あるところでは『魔女』と恐れられている。そのような噂の一つや二つされていてもおかしいことではないと思っていると女性店員が特大パフェを運んできた。
「お待たせしましたスーパーウルトラビッグパフェDXになります」
他の客が注目するエレイン特大のパフェにエレイン目を輝かせながら手始めにパフェの上のチョコソースがかかっているバニラアイスクリームを一口食べるとチョコの甘さと僅な苦さがバニラアイスクリームと絶妙にマッチして頬っぺたが落ちるほど美味しい。流石は学園都市と呼ぶべきか科学の技術だけではなく、ご飯の美味しさも十年以上進んでいる。
エレインは余りの美味しさに無言のまま食べ続けていると先程までアレイスターと話をしていた金髪の少年、土御門元春が座ってきた。
勿論、エレインは席が空いているのに相席をしてきた土御門に少し不信感を覚えたが、彼女は土御門なんかのことを二の次にしてパフェを優先した。
「おい、お前は『宵闇の出口』の魔女だな。学園都市に何しに来た?」
パフェの少し溶けたアイスクリームを再び凍らせるほど冷やかな声で土御門が問うてきたが、こういう状況に慣れているエレインはあまり動じもせずに特大のパフェを食べながら答える。
「……観光」
「……それを信用しろと言うのか?悪いがお前が学園都市にいる間監視させてもらうぞエレイン」
「……いいけど……その前に貴方のことを窓の外で此方を見ているメイドさんがいるんだけどあの子って貴方の知り合い?」
エレインの言葉を聞いて、土御門は窓の外を見るとそこには自分の義理の妹であるメイド育成学校のメイド見習いの少女、舞夏が引いている目でじっと見ていた。
「くっ、その席から動くなよ!」
土御門はエレインを諭して、席から離れて舞夏に事情を話にいくが、エレインはそのようなことを聞くはずもなく土御門が舞夏に事情を説明し終わって、席に帰ってくる頃には空になったパフェの器しか土御門を待っているものがなかった。