湖の魔術師   作:さら

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第3話

土御門を巻いた後に学園都市を探索していたら見知らぬ路地裏に迷ってしまったエレインはスマートフォンの地図アプリとにらめっこしていた。

 

「……とりあえず……歩けば何とかなるかな」

 

能天気な思考でスマートフォンを持っていた鞄にしまい、独特な匂いがする路地裏を歩いていると突如、男の叫ぶような悲鳴の声が聞こえる。

 

その瞬間、エレインは即刻その悲鳴が聞こえた場所に向かって走り出していた。

 

エレインは特別に正義の味方ヒーローという訳ではない。ただ、エレインは普通の一般人なんかとは比にならないくらいの絶大な力を持っていて『湖の魔女』という魔術業界では畏怖される存在であっても困っている人がいれば手助けしてしまうようなお人好しだ。

 

だが、エレイン自身お人好しでもいいんではないかとも思っている。

 

何故なら自分が本当に正しいと信じることのために自分の力を使うのは何一つ間違いなんかではないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

私がこの湖に暮らし始めてから一年が経とうとしていたが未だに記憶は戻っていない。

 

あれからヴィヴィアンが魔術とか色々な学問とか剣術とかについて教えてくれたのだがまるで私の頭の中に大きな図書館があってそこに知識を閉じ込めた本を入れているみたいに頭に入ってきて、ヴィヴィアンが教えてくれた魔術と剣術はすぐに使えるようになっていった。

 

でも、私はそんな全てが何でも上手く熟してしまう自分自身が恐かった。以前、力を持っている者は力に飲まれて鬼みたいになってしまうってことが書かれていた本を読んでからずっとその事について考えていた。

 

「あら、どうしたのエレイン?顔色が優れないみたいだけど」

 

「……うん……ちょっと前に読んだ本で気になることがあって」

 

私は事情を話すとヴィヴィアンは口を押さえてうふふと笑い声をあげて何処か上品に笑みを浮かべる。

 

結構、真剣に悩んでいるんだけどと思いながら私はむすっとして目に涙を浮かべて笑っているヴィヴィアンを見つめていた。

 

「うふふ、ごめんなさい。ちょっと可愛い質問過ぎて笑っちゃったわ。まぁ、大丈夫よエレイン。貴女は絶対に力に飲まれて鬼になることなんてないと思うわ」

 

「……何でそう言いきれるの?」

 

「力っていうものは使う持ち主次第で人を幸福にするのか…不幸にするのか…害を与えるのか…人を救うのかは全てその持ち主が決めるの。確かにエレインはこの人並み外れた私が驚くくらい魔術師としては破格の才能を持っているわよ。それに……貴女は魔術だけじゃなく努力しても絶対に手に入らないような少し不思議な力も持っているみたいだしね。でもね…それ以上にエレインはとっても優しい心の持ち主で力に飲まれてしまうことが何れだけ恐ろしいか理解しているときた。その心を持っているうちは力に飲まれることなんてないわ……えーっと多分、恐らく」

 

「……言い切ってないけど…とても心が楽になった。ありがとうヴィヴィアン」

 

「あ……うん、こちらこそね」

 

私が素直にお礼をするとヴィヴィアンは顔を赤くして此方から目を反らす。本人曰く久しぶりに悪意のない素直な感謝なんて随分と久しぶりらしく照れ臭いらしい。

 

一体、ヴィヴィアンは何者なんだろう?

 

見た目は成人したお姉さんというイメージだが凄い魔術師でかなりの人生経験を積んできたおばさんみたいな感じでもあるし、それに度々見せるあの寂しげな表情が印象的で頭から離れない。

 

私はそんな思考に耽っていると自分の肩がガシッと力強く捕まれた。

 

私は只ならない雰囲気を感じて震えながら頭を上げるとそこにはどす黒いオーラを出しながら満面の笑みを浮かべていた。

 

「誰がおばさんだってエレイン……。ちょっとお話ししようか?」

 

「…………」

 

そうだ、ヴィヴィアンは心を読めるんだった、と私は内心涙を流しながら彼女の説教を正座して聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

「あン?」

 

とある路地裏で学園都市のレベル5、序列第一位である白髪に血のように真っ赤な瞳を持つ少年、一方通行(アクセラレータ)はあり得ない方向に曲がった腕を押さえながら怯えてガタガタと体を小刻みに震えさせるスキンヘッズの男を見下ろした。

 

その男はこの状況を引き起こした帳本人である一方通行に軽く見つめられただけで極度の緊張のせいかそのまま気絶してしまう。

 

八月二十一日に学園都市最強と世間一帯自負されていた彼が一人の無能力者の少年(最弱)に敗北してから、『皮膚上に触れた運動量・熱量・電気料その他あらゆる力のベクトルを自在に変更できる』最強の能力が弱くなったわけでもないのにも関わらず、前にも頻繁にあったこのように最強の座を狙う馬鹿たちの襲撃が多くなり昼夜問わず行われるようになっていった。

 

この目の前で小刻みに震えている少年たちのグループもそんな噂を宛にして彼を襲撃したのだ。

 

だが、彼らの勝てるかもしれないと言う思考は少年の最初のナイフによる初撃を能力によって全ベクトルが反射された瞬間にナイフを握る右手と共に砕け散った。

 

「ぐわぁぁあ!!」

 

男の悲鳴とあり得ない方向に曲がった右手に彼等の仲間は怯えた声を出しながら来た方向に逃げ去ってしまった。

 

まだ彼らは賢い方だ。多くは反射されて骨が粉々になったのにも関わらず極度の緊張や不安、恐怖によって我を忘れて血走った目で反射されると知りながら一方通行に襲いかかってくる。

 

そんな者たちの攻撃は例外なくただその場に立っているだけで勝手に攻撃を反射されて自滅する。それが仮にかなりレベルが高い能力者であっても一方通行が相手が何の能力を使ったのか理解する間もなく自分が放った一撃によって倒れていくのだ。

 

だが、こんな襲撃を些細なこととしか認識していなく、トドメを刺すやる気もでない一方通行はこの日もそのまま帰途に入ろうとした。

 

その時、中学生に届かないくらいの白い無垢なワンピースを着た腰まであるくらい長さの金髪、碧眼の明らかに日本人ではない無表情の少女が路地の奥から走ってやって来た。

 

その少女の瞳の奥が何だか自分に似ていると一瞬思ってしまった一方通行は性懲りもなくファンタジーみたいな発想をしてんだと自分自身に呆れながらも少女に話しかける。

 

「おいおい、ここはガキの遊び場じゃねぇンだぞ」

 

「……知ってる」

 

この光景を見ても全く動じる様子もない少女は倒れている少年の前に座って傷付いた少年の右手の掌を右手で握って小声で呪文を唱えているように言葉を淡々に呟き始めた。

 

そんな光景に一方通行は何とも怪訝そうな表情をする。

 

少女がしようとしていることはRPGなどで味方が仲間を回復の呪文で回復させようとしているんではないかと思ってしまう。

 

馬鹿らしい…ゲームの世界でもないしMP使って傷付いた人を回復することなんてあり得るわけないと思いながらこの路地裏を立ち去ろうとした時にあり得ない事象が起きたことに一方通行は目を見開いた。

 

「なッ……!?」

 

少年の傷付いた手の周りが白く光輝き、光が消えたときには少年のあり得ない方向に曲がっていた右手が元通りになっていた。

 

そんなとき呆然としている一方通行に無表情な少女はゆっくりと近づいて目の前に立って尋ねた。

 

「……これは貴方がやったの?」

 

「あン?だとしたらどうすンだよ?」

 

「……別に何もしない…貴方と私は似ているから」

 

無表情ながら同情するかのように言う少女に一方通行は笑い声を上げた。

 

「あはぎゃはっ!俺がオマエと似ているだと…馬鹿も休み休み言え!!俺は学園都市のレベル5の頂点『一方通行』。オマエみてェな糞ファンタジーなガキに何が分かるッてンだよ!?」

 

「……目を見れば分かる。……貴方は昔の私と同じ……何も決まっていないままただのひとりぼっち……ただ一つ似ているだけで同じじゃないのはまだ貴方に心を許せる存在との出会いがないということだけ。……だけど…孤独を望んでなければきっと貴方にも来るはず…運命の『出会い』が……」

 

「チッ…馬鹿馬鹿しい」

 

一方通行はこんな馬鹿みたいなファンタジー少女と関わってられないと呆れてその場から立ち去った。

 

 

 

 

 

この時の彼は知らなかった。

 

彼が馬鹿馬鹿しいと思っていた心を許せる『存在』との運命の『出会い』を近い内に果たすことを……

 

彼が壊すことしかできない自分自身しか守れないと思っていた力でその架け替えのない存在を守ることを……

 

彼が初めて自分以外の『存在』を傷つけられて激怒することを……まだ彼は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エレインは学園都市の第一位『一方通行』と名乗る白い少年の後ろ姿をただ見つめていた。

 

一人…大事な架け替えのない『存在』を亡くしたあの頃のただ生きる目的が無いまま生きていた私に似た深い虚無をエレインは彼の目を見た瞬間に感じた。

 

似ていて非となるのは彼は私と違って亡くすところの話ではなく、まだ自分にとって架け替えのない『存在』にすら出会えていない孤独だからであろう。

 

哀れみからの同情と思われても構わない。ただ、諦めない限り運命の出会い……彼が知らず知らず求めている奇跡が起こることはあり得るのだと覚えておいて貰いたかった。

 

そんな気持ちのせいからか自分らしくないことを語りすぎてしまったかもしれない。でも、伝えたいことは全て伝えられたから良かった。

 

「……後は全て彼次第……」

 

これ以上の干渉は無用と判断したエレインはそう呟いて冷たい空気の路地裏から去っていった。

 

 

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