湖の魔術師 作:さら
学園都市の河原で世界でトップクラスとされる二人の名の知れた魔術師が激闘を繰り広げていた。
一人は元天草式十字凄教所属のイギリス清教の『必要悪の教会』所属の聖人であり、イギリスの中で十指に入るほどの実力を持つとされる魔術師の女性、神裂火織そしてもう一人は幼げながらもイギリスに存在する黄金系の魔術結社の一つ『宵闇の出口』のリーダーであり、その実力は多くの魔術結社を壊滅させたこともある湖の魔女ことエレイン=スタンガムである。
「七閃!!」
神裂が七天七刀をフェイクにしてワイヤーから放たれる常人の何十倍の力を持つ聖人の無数の斬撃がエレインを襲うが、エレインは軽く手を下から上に振ることで勢いよく河原の土を盛り上げさせて防壁を作り、その無数の斬撃を防いだ。
「……無駄……私にはそんな攻撃効かない」
特に神裂と交戦する理由など存在するわけでもないエレインは彼女の放ってくる斬撃を防ぐだけでまるで反撃しようとしない。
神裂は反撃しないそんな風にまるで自分をみくだすように涼しげな表情のエレインに対して苛つきがかなり溜まっていった。
「くっ、だったらこれならどうですか!?」
神裂は普通の人間なら消炭と化すような爆炎をエレインに向けて撃ち放った。
聖人はその身に宿す圧倒的な量のテレズマにより腕力や脚力、五感などの身体機能が大幅に強化されている他に元々の出力が高いために使用できる魔術の規模が並みの魔術師と比べて極めて大きく、並みの魔術師なら攻撃魔術の余波でもダウンする程だ。
だが、その聖人に勝るとも劣らない実力を持つエレインはそれを見てもその場から動こうとせず、涼しげな表情で手を前に突き出した。
神裂からはただ、手を前に突き出したようにしか見えない動作。それになのに……何気ないたった一つの普通の動作をしただけにも関わらず爆炎はエレインに当たる直前で勢いが急になくなって止まる。
「……お返し」
エレインがそう言い放った瞬間に直前で止まった爆炎は意志を持った炎の竜の形になって神裂に襲いかかった。
「くっ!?」
神裂は驚きを覚えながらも氷の攻撃魔術を放って炎の竜を相殺したがそれでも内心穏やかではなかった。
今のはインデックス10万3000冊の魔道書が使う相手の魔術を詠唱を用いて暴走や発動のキャンセルをさせる『
ということは単純にエレインは『強制詠唱』とは別の方法で自身の放った魔術を乗っとることができると考えられる。そうなると下手に自身の魔術を放つことはできない。つまり、剣術でしかエレインと戦う術はないということだ。
「ですが、私にも切り札はあります」
唯閃、基本は天草式十字凄教を土台にした術式のであり、十字凄教で足りないところは仏教、仏教で足りないところは神道、神道で足りないところは十字凄教で補ったことで互いの弱点を補い、それに加えて聖人の力を加えることによって必殺と言葉通り圧倒的な破壊力を持った抜刀術となっている。
弱点があるとしたらテレズマを多く使うことによる体の負担によって何回も連発もすることができないことだろう。
だが、この唯閃は必殺の一撃のため一回喰らわせることができればそれだけでいいと思いながら神裂は瞬の速度で間合いに入ってエレインに向けて抜刀する。
獲ったと思えた一撃だがそれは無数の剣の形をした水の壁によって完全に防がれてしまった。
「なっ!?」
「……貴女じゃ私に勝てない」
エレインがその場から去り行くが圧倒的な力…その前に神裂はなす術もなく地面に膝をついてしまっていた。圧倒的なほどの実力差、聖人の力を持ってしても届かない壁を神裂は感じて悔しそうに拳を握りしめた。
◇◇◇◇
「ほぉ、あれがエレイン様ですかぁ。聖人の神裂火織に勝ってしまうとはとっても強いんですねぇ。しかも、可愛らしいですしぃ」
「…ラストちゃんの言う通り…エレインちゃんは『暴食』として欲しい」
円卓テーブルで水晶玉で先ほどの戦闘を見ていた六人のうち露出度が高いシスターの服を着たラストと呼ばれた白い髪の少女と腰まである金髪に黒のリボンをしたゴスロリ服に左目に可愛らしい猫の足跡マークの眼帯をしたまだ幼く見える少女が話ながら笑みを浮かべる。
「あんなに強いなんて羨ましい」
「ああ、腹立たしくなるほど強いな」
パンク風の服に青色の髪をポニーテールにした少女にショーとの赤色の髪のTシャツにハーフパンツのラフな格好をした高校生くらいの少女は同意をすると円卓テーブルの奥に腰かけていた腰まで長さがある黒髪を持った中学生ぐらいの少女は笑みを不敵な浮かべていた。
「当たり前だろう。エレインは私が認めた相手だからな」
「…そう言ってるけどプライドちゃん…エレインちゃんと面識ない」
ゴスロリ少女のその言葉にプライド以外の皆の視線が呆れた表情を向けるとプライドは顔をリンゴのように真っ赤になる。
「な、な、ないけどいいだろ。そう言うこと言ってもぉ!!」
プライドの恥ずかしさからくるそんな悲痛の叫びがその部屋に響き渡った。
「……くしゅん」
神裂火織というイギリス清教最大の刺客から逃げ切れたエレインは大通りを歩いている中で本日二回目の可愛らしいくしゃみをする。
さっき神裂火織の炎の魔術が竜の形になって襲い掛かったのはエレインが四大精霊の内の火を象徴するサラマンダーを炎に宿らせて操った。
神裂の唯閃を防いだのは水にどんなものからも打ち砕かれない性質を持った『アロンダイト』というアーサー王伝説の湖の魔女に関する魔術を得意としている。
精霊が操れると言うのも湖の魔女には精霊の王とする逸話もあり、エレインはその精霊王としての性質を持っており、四大精霊以外の精霊を操ったり、無数の精霊の加護によって身体能力を聖人以上にあげることも可能であり、神裂の動きに普通に着いてこれたのはこの加護によるものである。
勿論、人間の許容量を越えた動きはできないがエレインはこの加護によって聖人以上の魔術を行使することが出来るのである。
「……とりあえず、あのおもちゃ屋に戻ろう」
エレインはおもちゃに戻ろうとしたときにふと誰かが路上ライブをしていることを見かける。まぁ、エレイン自身歌は好きだが大好きと言うことでもないので普通ならそのまま通り過ぎるところだが今回は特別聴く気になった。
歌のことは分からないが肩までかかるくらいの長さを持っている桃色の髪の彼女は兎に角、綺麗で魅力的な歌声だった。
「……」
「えっとぉ、私になにかようかな?」
路上ライブが終わった後もその場に残ってずっと無表情で此方を見続けているエレインに苦笑を浮かべながら高校生くらいの少女は尋ねる。
「……魔法みたいな歌で思わず聞き入ってしまっていた」
「そうなんだ、ありがとう。私は鳴護アリサって言うの。よろしくね」
照れ臭そうに笑いながらアリサは自己紹介をするとエレインも無表情ながら自己紹介をする。
「……エレイン・スタンガム……よろしく」
「エレインちゃんか。やっぱり見た目もそうだけど外国の方なの?」
「……うん」
「でも、日本語上手だね」
「……十か国語ぐらい話せるから」
「十か国も!!すごいんだねエレインちゃんは」
そんな談笑をしていると二人ともグーと同時にお腹の音が鳴り響いてアリサは恥ずかしそうに笑う。
「あはは、お腹空いたね」
「……ファミレスいく?」
「いいねーでも、今月は使いすぎちゃったからなぁ」
困った顔でアリサは言うとエレインは顎に手を添えて数秒考えた後に提案をする。
「……私が奢る」
「でも、そんな悪いよ。それに年下のエレインちゃんに奢ってもらうとなるとさらに申し訳ないし……」
「……なら、問題ない……これはあの歌を聞かせてもらったお礼……それに私の方が年上」
「え、エレインちゃんって何歳なの?」
「……23歳」
「えええええええええ!?」
パスポートを見せて答えるエレインに思わず叫び声をあげてしまったアリサは悪くないだろうとエレイン自身も思っていた。