Life is too short for bad coffee. 作:アマミー
桜井真樹は親が仕事柄家にほとんどおらず、どうせ1人暮らしの様なものだと1人暮らしを決意し、都内の高校に進んでから三年、順当に高校は卒業し、今年の春から大学生となった。高校に上がると同時に開始したバイトもいつの間にか三年ということになる。
商店街の中心部に位置するカフェ「羽沢珈琲店」、そこが彼のバイト先である。もう日も暮れ、閉店した珈琲店では真樹が1人の男性に珈琲を淹れていた。
「桜井君ももう大学生か、随分と時間が経ったものだねぇ……」
「マスターに拾って貰えたおかげで楽しい時間でした、コーヒーの入れ方もなかなか上達したんじゃないですか?」
そういって抽出していたコーヒーをマスター『羽沢英典』に差し出す。英典は湯気の上がるカップをつまみ、一度香りを確認した後、一口、口に含んだ。
「腕前に関してはだいぶ前から認めているさ。入学祝いという訳ではないのだがね、桜井君にバリスタをやって欲しいと思っているんだ。」
「本当ですか!? 是非お願いします!」
バリスタとは日本では店のコーヒーを淹れる者のことを指し、コーヒーをメインに出すカフェでは当然ながら一番重要な立ち位置だ。
今までの仕事は主にホールや調理が主で、コーヒーに関しては殆ど触らせてもらえず、空いた時間や閉店後に少しずつ教えてもらっていた。そんな努力が実った瞬間だった。
「バリスタとしてやっていく前にやってほしいことがあるんだ。店にある豆は自由に使ってくれていい、
自分のブレンドを見つけてみてくれ、もし必要な豆があれば用意しよう。」
そう告げると英典は上着を羽織り、仕入れに行くと伝え、店を出て行く。
「う~ん……」
英典が外へ出て数十分、真樹は一人静かな店内で瓶にストックされた豆を見つめていた。そんな静寂を破ったのはドアが開く音と、一人の少女の声だった。
「ただいま~、あれ? 真樹さんこんな時間まで珍しいですね?」
「ああ、おかえり、つぐちゃん。ちょっとマスターに宿題出されちゃってね……」
店内へ入ってきたのはマスターの一人娘の『羽沢つぐみ』、高校一年で現在は幼馴染と一緒にバンドをやっているそうで、今日もその練習があったようだ。
「お父さんにですか? どんな宿題なんですか?」
興味を持つつぐみに先ほどまでのやり取りを伝える。
「なるほど~、バリスタをするにはお父さんを納得させないとダメなんですね……。」
「豆の種類とか癖は分かるんだけど、如何せんどういう方向性でブレンドすればいいか悩んでるだ……」
二人でう~んと唸っていると、つぐみが何かを思い出したように告げた。
「そういえば、参考になるか分からないですけど、今出してるブレンドはお母さんの好みに合わせた物だってお父さんが言ってました。」
「真由美さんの好みに合わせてるのか……」
つぐみの母の真由美もこの店で働いており、料理やコーヒーを使わないドリンクなどを担当している。二人は新婚かと感じるほどに仲が良く、近くにいる真樹にもどれだけ互いを思いやっているのか分かった。
きっとマスターは正解を求めてこの課題を出したのではないのだろう、きっと自分だけで試行錯誤したものであっても受け入れてくれることだろう。しかしその話を聞いて、自分の中で一つの道を見つけることができたような気がする。自分が高校に入学してから今まで、この店で過ごした時間、何よりつぐみと過ごす時間は至福の時だった。だから自分のつぐみに対する感情も理解していた。
「つぐちゃん、よかったら手伝ってくれないかな?」
「もちろんですよ! 私でよければ幾らでもお手伝いします!」
----だから、僕のこれからを形作るであろうブレンドは彼女へのものにすると決めた。
彼女は果たしてこの感情に気づいているのだろうか、恐らくマスターがその様なブレンドを作ったのは、
----今はまだ気づいて貰えなくてもいい、でもいつかきっと……
ここまで読んでいただきありがとうございます。今回は始動の話でしたが、主人公の感情の展開に不自然さがあるようなないような……、自分の中では後の話で補完できると思って書いてましたが、できるかなぁ……。