ダリフラ17話……とうとうヤッちゃいましたね、はい。
ミツココの二人、頼むから幸せになって……そしてヒロゼロも!
つーか、物語的に色々盛り上がり過ぎてて、こっから突き落としかねない可能性が
あるのが本当怖い……。
そんなこんなで、どうぞ!
大抵の人間は、不意を突かれることに弱い。
予想すらできない突然過ぎる異常事態が発生した時、咄嗟に反応できる者は少ないだろう。
よく訓練された軍人でもそういうことは起こり得るものだ。
しかし大抵、と言ったように全ての人間がそうであるわけではない。難なく対応してしまう者はいる。
それが“人間でない存在”ならば、尚更だ。
「ほぉぉ。やるね」
アルファ。鷹山刃圭介は意外だとばかりに驚いたような声を上げた。表情はアマゾンの姿である為全く分からないが、それでも声だけで内心ほくそ笑んでいるのが見て取れた。
「いきなり……何するんですか!!」
イプシロンであるヒロは激昂の声を飛ばす。アルファの放たれた拳が自身の顔面へと到達する前に両腕をクロスし、なんとか防いだのだ。
「何って攻撃してんだよ。アマゾンの戦いってヤツは直接見てもらった方が早いし、丁度アマゾンが俺とお前で2人いる。見て知るには絶好の場だ。それに、俺はお前の実力を見てないし、お前も13部隊も俺の実力を知らないだろ?
ならこうした方がてっとり早いってもんだ。あと、これ殺し合いじゃなくてただの腕試しだからな? そこら辺は心配すんなよ」
「だ、だとしても! いきなりなんて酷いですよ!!」
アルファの拳を押し返し、一旦後ろへと飛び下がる形で間を作るイプシロンはそう言う。
しかし、それを聞いたアルファは心底面倒だとばかりに首をコキリと鳴らして答えた。
「自分らを殺し食らおうって腹積もりの連中がよ。ご丁寧に“これから襲いますよ”なんて、堂々と宣言するとでも本気で思ってんのか?」
「そ、それは……」
「いいか覚えとけ。命を懸けた戦いに綺麗や汚いなんてもんは捨てておけ。大事なのは、その命を懸けた戦いにどうやって勝ちを得て何を成すか。これが重要だ」
アルファにとって、生きるということは戦うのと同義であり、その手段方法を清濁で決めるなど論外。合理的か否か。
判断基準はこれにあり、それ以外などない。
「さて。続きと行こうか!!」
「くっ!」
説教話をやめて攻撃を再開するアルファ。彼の戦闘スタイルは様々な格闘技を基盤とし、そこから自分流にアレンジを加えたもの。
中でもボクシングと近接格闘術、この二つを源流とした戦闘スタイルをよく使っている。
「そらァァッッ!!」
「グゥゥッ!」
一方、イプシロンは原始的な殴る蹴ると言った一定した型がないもので、一つの格闘術として成ってなどいなかった。
しかも、殴る蹴るといった動作の一つ一つにおいて力が抑制されている節があり、本来の身体能力で可能な筈の威力を十分に引き出せられない状態に陥っていた。
そんなイプシロンにアルファは一つの答えを複雑に考えず、培って来た経験における勘から導き出した。
「お前……手ぇ抜いてるだろ」
「え?」
「んん? その反応からして無意識ってとこか? ウラァァッ!!」
「ヒロ!」
パンチのラッシュを何とか避け続けていたイプシロンだったが、このアルファからの予想外の一言が致命的な隙となってしまい、そこを腹に蹴りを叩きつけられる形で突かれてしまった。
その光景に堪らずイチゴが叫んだ。
「グッ、手加減なんて……してませんよ!!」
今度はこちらの番だとばかりに殴る、蹴るをひたすら必死に繰り返すイプシロン。攻撃一つ一つにある荒々しさ、という点ではイプシロンに分はあるが、それだけで勝敗を左右させるほどアルファは雑魚の類ではない。
「いいや、してるね」
アルファはイプシロンの言葉を否定しつつ、彼が繰り出した拳を腕で防ぐように流す。
そして、それだけでなくイプシロンの拳を己の手で掴んで見せた。
「なッ?!」
「いいことを教えてやる。お前は、自分の力を恐れてる。間違いなくな。そして、そのせいで自分の身近にいる大切な仲間や誰かが、傷付くことをもっと恐れてる!!」
ここで区切りを入れ、高く跳躍したアルファはイプシロンの首に蹴りを一発打ち込んだ。
「ガハッ!!」
一瞬ばかり意識が飛んだイプシロンは、そのまま地面へと倒れ込み、変身も強制解除された。それだけ相当のダメージを受けた証だ。
「恐れってのはよ、あっていいものだが……それだけじゃダメなんだよ」
アルファは倒れ込むイプシロンに気をかけることなく、話を続ける。
「しかも、お前の認識だと俺は人間とそう大差ないと思い込んじまってる。それがダメだ。そんなんじゃアマゾンを相手にした時……確実に負ける」
「ぐうぅ……負けるって……」
「正確には人間と同等の知性と人格、自分の能力の扱いが上手いAランク〜Sランクのアマゾンには勝てない。それ以下のランクだったら問題ないがな」
アルファは淡々と言ってのけてからアマゾンとしての姿から鷹山へと戻る。
「それって……俺が弱いってことですか?」
「俺が言ってるのは強い弱いの話じゃない。殺す覚悟だ」
鷹山は普段の飄々とした雰囲気を消して、何かを宿した瞳をヒロへと向ける。
「イチゴの嬢ちゃんが言った通り、アマゾンはアマゾン細胞の集合体。人間が細胞できてるのと同じだ。ただ、純粋なアマゾンばかりってわけじゃない。俺がそうであるように、人間ベースのアマゾンってのがいる」
「人間ベースの……アマゾン」
鷹山の言葉にオウム返しのように復唱する他ないヒロは、ゆっくりと立ち上がり、鷹山を見据える。
「まさか、俺たちが戦うことになるアマゾンは……」
「ほお、察しが良いな。ヒロ少年」
「それって、どういうことなんですか?」
ゴローが分からないと言いたげな困惑を隠し切れない表情で聞いてくる。それに鷹山は特に言い訳をするでもなく、ちゃんと答えた。
「“ヴィスト・ネクロ”」
まるで長年の怨敵、とでも言うべきか。そんな雰囲気で忌々しそうに鷹山は吐き捨てた。
「随分前から各プランテーション内で様々なテロ行為を実行してる謎の組織で、その目的は不明。規模も不明。だが、唯一分かっているのは構成員の大半がアマゾンってことだ。
更に調べた結果、AランクからSランク相当の強く知性の高い個体のアマゾンは皆…人間をベースにしたものだということが分かった」
鷹山の口から出る言葉が織り成す情報等は、そのどれもが13部隊のコドモたちにとって驚愕を禁じ得ないばかりのもので、あまり信じたくない内容でもあった。
しかし、この次に出た言葉はそれ以上に衝撃的なものだった。
「しかも、そのベースにされた人間ってのは……プランテーションのコドモたちやコロニーの人達だ」
明確な言葉として紡がれた新たな事実。
それを前に13部隊のコドモたちは戦慄し、鳥肌を立たせては血の気が失せていくような感覚に陥った。
“人をアマゾンにする”
しかも、それがかつてはガーデンで共に育ってきた仲間かもしれない
のだ。何も感じないほど13部隊のコドモたちは無感情ではない。
“葛藤” “不安” “恐怖”
そういった情念が既に彼等の顔から嫌と言うほど滲み出ていた。
「ま、マジなんですか……ソレ」
「コドモを……人を獣人になんて……」
ゾロメは再度確認を試すが鷹山の言葉に間違いなどなく、正しい現実でしかない。
一方でミクは、やはりそう簡単には受け入れられない様子なのだが、これに関しては13部隊の皆も同じだ。
全員、その心中に思い馳せるものは形や大きさ等はどうあれ、“未だ見ぬ敵への恐怖”そのものに他ならない。陰鬱とした空気が漂い始める中
、気を沈ませる彼等に遠慮などなく。刃は冷たく言い放った。
「酷なことを言うようで悪いが、そういった奴等と対峙しても絶対に情なんか向けるな。何がなんでも殺せ」
「そ、そんな! 助けることはできないんですか?!」
堪らず叫ぶヒロだが、鷹山は冷静に答えた。
「助ける? 無理だから言ってるんだよ。それができるならな、とっくにやってる」
「でも、だとしても、殺すなんて……」
顔を伏せて力なく呟くヒロに鷹山はゆっくりと近づき、ヘラヘラとしたニヤけ面を完膚なきまで消し去った顔で淡々と言った。
「誰も傷つけず、自分の手も汚さない。まさにそんな感じだなぁヒロ少年は。お優しくて結構。ただそういうの……なぁんの役にも立たないんだよ。何事においてもな」
向けられる瞳に冗談や戯れの嘘とは到底考えられない決意。激情。
そういったものが介在し、同時にそれが圧力と化していたせいか反論できず、ただ顔を地面へ向ける形で伏せるしかなかった。
そんなヒロの頭に何かが乗った。
気になって視線を上げて見れば、ついさっきまでの無感的な顔ではなく、まるで父性を感じさせるような、暖かい笑顔を浮かべる鷹山が自身の手を乗せてヒロの頭を撫でていた。
「じ、刃さん?」
「けどな。役に立たなかったとしても優しさってのは必要だ。時には重い枷になっちまうかもしれないが、それを持ち続けてこその強さってもんもある。非情に成り果てても……その優しさだけは絶対捨てるな。いいな?」
「は、はい……」
「よ〜し! それじゃ今回の講座はここまで! それじゃ、また次回
やるからな〜!!」
戸惑いながらも返事をするヒロ。
正直な所、ヒロは鷹山という男がよく分からなかった。
何も考えてなさそうな飄々とした雰囲気を持ちつつ、しかし法螺や戯言とは思えない真剣さを帯びた重い言葉で何かを語り、何事もなかったかのように普段通りに戻る。
一体何を考えているのか、それを察することが難しい人。それがヒロから見た鷹山の人物像だった。
※ ※ ※
「鷹山博士。あの子達にはまだ早いんじゃないんですか?」
「んー? 何のことかな?」
「“ヴィスト・ネクロ”のことです。より正確に言えば……人間ベースのアマゾンに関して」
オレンジ色の光がネオンの如く輝きを灯すプランテーションの最下部
……そこはコドモ1人いないオトナの住む世界。
すなわち第13都市の街並みだ。
それを背景にエレベーターに乗る2人の男女、鷹山とナナはいた。
「はぁぁ。早いってことは、いずれ教えるんだろ?
なら早い方がいいんだよ、こういうのは。後々知って面倒臭い方に転んじまうのはオトナにとっても……ナナさん個人にとっても嫌だろ?
」
「それは……」
鷹山の言葉にいつもの冷静な雰囲気は崩れてしまい、何処か戸惑いを隠せない様子のナナ。
そんな彼女にゆっくりと近づいた鷹山は……。
もにゅ。
コドモの中ではトップに入るココロよりも、更に大きい双方の果実。その右の方を自身の右手で躊躇なく掴み揉んだ。
もう一度言おう。
しっかりと掴んで、揉んだ。
「ナナさんは堅いんだよ。このたわわに実る素晴らしい果実くらいにもっと柔らかく…」
「フンッッ!!」
「くぼぉわぁぁッッ!!!!」
言葉を続けるなど許さず、ナナの憤怒の篭る怒りの鉄拳が鳩尾をしかと捉え、確実に命中させた。
メキメキとめり込む拳に為す術なく鷹山は腹を押さえて膝を折り、苦悶の声を漏らす他なかった。
「じ・ん? いくら2人っきりだからって、やって良い事と悪い事位の区別…分かるわよね?」
「す、すんません」
「よろしい」
ふんす、と鼻を鳴らして仏頂面を作るナナだがそんな彼女に鷹山は、やや嬉しげに彼女を見据える。
「やっと柔らかくなったな。うん。ナナさんはそっちの方がいいよ」
「はぁぁ。本当はダメなんだけど。おかえり、じん」
「ただいま、ナナさん」
他人行儀だった口調と雰囲気を捨て、ナナは鷹山を親しげに“じん”と呼び、彼との再会を個人的に喜ぶ。
そんな2人の姿は、まるで、この閉鎖され何からも隔離されたオトナの世界では、決して見ることのない“夫婦”と呼ぶべきに相応しいのかもしれない。