ダーリン・イン・ザ・アマゾン   作:イビルジョーカー

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ビルドが終わり、次はジオウ……最初、デザインいいなと気を緩めたらバイザーが……まぁ、それ以外は面白そうだなと思いますが。
でもなんかなぁ……って思っちゃう自分がいます、はい。


※一部、文章を編集しました。


Den of Beasts《獣の巣窟⦆中編

 

 

 

 

 

建物の正面入り口から歩を進め、中のフロントに入って行くとまず感じたのは異様な湿気だった。

じめじめとしたもので、何処か生臭さも感じるせいか少し気分が悪くなるのは否めない。

 

「くっさ、何これぇぇ……」

 

「それにこの湿気……おかしすぎるぞ」

 

ミクは鼻をつまんで嫌悪感と不快感を声に滲ませながらそう言い、ゴローは背筋に悪寒を奔らせながら異様な空気に対してそんな感想を零した。

 

「ねぇ、これってなんだと思う?」

 

「………多分、粘液だと思う」

 

ココロが何かを見つけた様子で隣にいたイクノに問うと彼女は、自分の予想として可能性に基づく答えを言う。

それは、まさしく粘液と呼ぶに相応しかった。

透明で粘りを有した液体……それが床に、よく見れば天井や壁、至る所に粘液らしき物がぶちまけられていた。

 

「おいおい何だよコレ……なんか、ヤバくねぇか?!」

 

異様な光景にゾロメはいよいよもって恐怖を感じた。

 

「これ、何か分かりますか?」

 

そんなゾロメとは対照的にヒロは冷静だった。

その粘液らしきものを手に絡ませて、鷹山に意見を求めるほどだ。

そんな彼が見せて来たものに鷹山は何処か不快な汚物を見る様な雰囲気を隠そうともせず、これでもかと露骨に曝け出して言う。

 

「臭いがプンプンしまくってるから余裕で分かる……アマゾン由来の分泌物だ。こういう気色悪いタイプと戦り合ったことがあるからな」

 

イクノの予想は正解だった。鷹山がこの粘液から感じ取った臭いは紛れもなく、アマゾン細胞によるもの。

過去に同じものを見たことがあるし、臭いも覚えていた為、簡単にその正体を看破する事ができたのだ。

 

「俺が戦ったのは粘液を分泌して相手の攻撃からダメージを軽減したり、その粘液の猛毒性を利用して攻撃するカタツムリのアマゾンだった。この粘液には、そいつみたいな毒は無いようだがな」

 

とりあえず、そう危険なものではないらしい。しかしアマゾン由来のものが人体にどの様な悪影響を及ぼすかは分からない為、とりあえず“無闇に触らないようにしろ”とコドモ達に伝え、鷹山自身が先頭に立って調査を続行。

一本道の通路を奥へと進んで行くと、大きな広場に出た。そこにも粘液が散乱としているが正面入り口のフロントよりは少ない。

 

「随分広いね……」

 

「憩いの場ってヤツさ。つっても利用してるオトナはそういないけどな」

 

フトシの呟きに鷹山はあまり面白くなさそうに答えては、周囲へと目を配る。

見た限りでは床に粘液があると言う点以外の異変はなく、空間を支える四角形を描く四方の柱と無機質な円卓状に並んだ丸椅子があるだけだった。

 

「この建物の中で広いとこはここだけだが……特に何もねぇな」

 

目当てのアマゾンがいなかった事に残念そうに溜息を零すが、イチゴが何かを見つけたように声をあげた。

 

「あ、あれ!」

 

四本ある柱の左側。その一つの裏側から何か白いものが顔を覗かせているかと思いきや、よく目を凝らして見れば……それは足首から下の人間の足そのものだった。靴を履いていた為、白かったようだ。

 

「大丈夫ですか!!」

 

イチゴが先頭に立って駆け寄り、皆もそれに続く。倒れていると思われるオトナの安否を確認しようとした。

駆け寄って見れば案の定オトナが1人倒れていた。その服装は実に妙なもので、目元まで被った長い帽子は身体全体を覆う白いスーツと繋がっており、靴も同じように繋がっている。

宇宙人。

そんな言葉が初めて見た者の脳裏に浮かぶかもしれない。あるいは、全く違う別の見方もあるだろう。

まるで人間に本来あるべき感情という『色』を取り払い、そうする事で個性や主張性。それら人があるべくして人と成り立つモノを無にしたような…そんな意匠を彷彿とさせる『無色無機質』の様なデザインの服を身に纏っている姿はコドモらにとってはオトナとして普通でも

、鷹山には異様過ぎる感慨があった。

 

「おい、大丈夫か?」

 

ともかく、個人の些事にもならない思考など早々に切り捨てて、鷹山は意識を失って倒れているオトナの安否を確認する為に抱き起こす。

どうやら、身体つきからして女性のようだ。

 

「う……あぁ……ぁ」

 

意味を持たない譫言としての声が女性の唇から漏れて来る。どうやら失った意識が呼びかけに応じ、浮上しようとしている様だった。

 

「自分が誰だか分かるか? 何があった。答えろ」

 

意識が覚醒したばかりとは言え、鷹山としては一刻も早く情報を得たかった。数多く経験したアマゾンとの戦いにおいて、今回の件と類似する要素はいくつか見られる。

とは言え、だからと言って今回の件に絡んでいるアマゾンがそれと同一という証拠はなく、安易な決め付けは並ならぬミスを引き起こしかねない。

少々強引かもしれないが何かしら情報が欲しい鷹山は、口調に強味を乗せて威圧的な声で語りかけるが返答はなかった。

 

「ゔぉぇぁッ!!」

 

言葉として、は。

その代わり上擦った様な声と共に青みがかった白く、粘液に塗れた触手のような何かが吐き出される。吐き出されたソレは瞬く間に鷹山の首、胴体や片腕を捕らえ拘束してしまった。

 

「刃さん!!」

 

「ア、アマゾンだったのか?!」

 

イチゴは悲鳴に近い声を上げ、ゾロメは混乱した様子だがそれでも手に持ったリザスターガンを構える。

しかし、それよりも早く反応し既に射撃態勢を整えていたゼロツーは誰よりも先に発砲。

一切外すことなく全弾をオトナだったモノの頭部へと命中させた。

 

「ギィ…ガッ……」

 

人間とは思えない不気味な声を上げ、オトナの女性は糸の切れた操り人形の様に倒れ臥し、二度と起き上がることなく、その身体から黙々と蒸気を放ち融解させていった。

 

「油断しすぎだよ。刃兄」

 

「……悪りぃ。しくじった」

 

身体中粘液まみれになるが特にこれと言う状態異常はなく、謝罪を述べてから鷹山は立ち上がる。

 

「お、オトナに化けてたのかな?」

 

「そ、そそうに決まってんだろ!! あんなのがオトナな訳ねーだろ!

!」

 

怯える様に言うフトシの疑問にゾロメは同様に怯え動揺しつつ、彼の意見に肯定するがそれに否定を入れたのは鷹山だった。

 

「違う。こいつは“元々オトナだったアマゾン”だ」

 

その口調は冷静としたもので、しかし言い知れぬ激情を秘めているかの様なだった。

それに気付く者はこの中にいたのだろうか?

少なくともヒロは本能的な勘で、ゼロツーは長年一緒にいた経験から薄っすらとだが察知していた。

 

「もっと正確に言えば……こいつは、死んだ人間を利用した即席の操り人形。操ってる奴がいる筈だ」

 

「し、死んだ人間…」

 

「だから、見つけた時点で生きてなかったんだよ。本当こういう手のヤツはムカつき過ぎて…」

 

鷹山はそっと静かにアマゾンズドライバーのグリップを握り、

 

「ヘドが出やがる」

 

力強く回した。

 

『アルファ……』

 

「アマゾン」

 

瞬間。13部隊が入って来たこの広間のもう一つの出入り口から、何かがのっそりと姿を現す。

それはオトナだった。普通のオトナと違う所を述べるなら、それは腕や背中。そして口等の身体中から触手を生やし、その顔は死人の如く生気を感じさせぬ程に青褪めていた。

しかも、1人ではなく2人、3、4人と続々と際限なく出て来る。

そんな光景を見ていた鷹山は赤い蒸気と共にアルファへと姿を変え、その緑色の複眼を殺意に光らせた。

 

「こ、この人たちも……」

 

「まさか、全員がアマゾンに?!」

 

「これ…マズいかも……」

 

オトナだった筈の人間達が自分たちへと襲い来る。しかも、吐き気を催す様な異形の姿でだ。その恐怖たるや13部隊全員に伝播していき

、心の芯を嫌というほど悪寒で冷やしてしまう。

だが、それでも恐怖に屈さぬ者がいた。

 

「みんな、落ち着いて! 足手纏いにならない様ヒロと刃さんを援護するよ!!」

 

「頼む! アマゾン!」

 

「行くぞ!!」

 

イチゴ。ゴロー。ヒロ。

この3人は声を張り上げ我先にと襲い掛かるオトナ達に発砲する。

ギガで構成された弾丸は容易くオトナの体内に寄生するアマゾン細胞を破壊し、無力化していく。

自動照準機能を有するオートマシンモードを使用している為か、外すことなく命中させていき、元の死体へと返還させていく。

ヒロはアマゾンズベルトのグリップを握り回し、緑の蒸気を発生させながらアマゾンの姿であるアマゾン・イプシロンへと変身を遂げ、羽根を模したアームカッターで次々と切り裂いていく。

 

「だぁぁッ、分かってるっつーの!!」

 

「こうなりゃヤケよ!」

 

「ココロちゃんは僕が守る!!」

 

「ふ、フトシ君気をつけてね」

 

「チッ、行きますよ!」

 

「うん……」

 

3人のおかげか、発破をかけられた様に残りのメンバーに士気が戻り、リザスターガンを構えて次々と射撃していく。

弾丸の雨がオトナたちの屍肉を貫き、同時に発生した僅かな熱が焦がしては小さな煙を登らせる。

その光景を前に何も感じないほど、13部隊のコドモたちは感情を氷のように凍結させてはいない。

気持ち悪い。恐い。怖い。罪悪感。

負の感情が巻き起こっては思考に乱れを生じさせていた。

 

「ミク!」

 

だからこそ、それが命を賭けた戦場では命取りになる。

死んだと思っていたオトナが倒れた身体を起こし、その触手でミクを捕らえようと背後から襲い掛かる。

だがザシュッという何かを裂く様な音と生々しい何かが地べたに落ちる音が同時にミクの鼓膜に届く。

咄嗟に閉じていた目を開けば、イプシロンが触手を肉片へと分断。そしてミクに襲い掛かったオトナの身体を斜め一線に真っ二つ。

上と下に泣き別れさせている光景がミクの視界を支配した。

 

「大丈夫かミク!!」

 

「え、あ、うん。ありがとう……」

 

呆気に取られながらもミクは礼を述べ、それを見て外見に深刻な傷などが見受けられない

事を確認したイプシロンは引き続きアマゾンの下僕と化した、屍肉人形のオトナの殲滅を続ける。

とは言え、オトナたちはこれまで現れたアマゾンに比べれば明確な差があり、人並み程度が少し上った位に過ぎない為、殲滅には時間を多く消費すると言うことなく、極めて迅速にカタはついた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ……終わった?」

 

息を乱し、肩を上下させながらイチゴはふと浮かんだ疑問を無意識に口にする。それに答えたのは、アルファとなった鷹山だ。

 

「今の所は、な。ここにいたらまた出て来るぞ」

 

あんなのがまた出てくると言われれば、ホッとした気持ちは瞬く間に消し飛び、また不安が強まる。

当然それはコドモたちも同じで、しかもアレが元々オトナだという事実はオトナという存在に憧れるゾロメにとって心に突き刺さる程に精神的苦痛を伴う筈。

が、それでも。

この人食いの獣が闇に潜む巣の中に足を踏み入れた以上、今更引き返すことは叶わない。

 

「いいか、絶対に離れるな。ここで俺たちが始末したのは35体。500人いた事を考えると半数か…最悪500人全員がこうなってる可能性は充分有り得る。常に周りを意識して警戒してろ」

 

普段の飄々とした雰囲気を取り払い、狩る者としての風格を纏うアルファは感覚を研ぎ澄まし、瞬時に対応できるよう意識を切り替えている。

 

「もういない筈だ。先を急ぐぞ」

 

「分かりました。皆、刃さんとヒロに続いて」

 

13部隊のリーダーであるイチゴの指示の下、コドモたちはリザスターガンを構えて体勢を整え先頭を行くアルファとイプシロンに続く。進路は決まっている。

オトナ達が大勢で押し寄せて来たもう一つの出入り口の通路だ。

そこは13部隊が入って来た出入り口と同じで、真っ直ぐ一本に続いている。その道にもあの粘液が巣食っていた。足を踏み付ける度に嫌な感触が背筋に奔ってしまう。

それに対し好感など良く思う筈もなく、あるのは早くこの建物から脱出したいと言う逃走欲求に"おぞましい"と心底思う不快感。

これを除いては他になかった。

しばし歩いて行くと通路はU字状に二つに分かれていて、中央部に次の階へ繋がっているエレベーターが設けられ、二つに分かれた通路の先は行き止まりだが上へ繋がる階段口があった。

 

「どっちに行きます?」

 

「二手に分かれた方が効率はいいが……この場合は危険だ。特に理由は無いが右から調べて

、その次に左を調べる。終わったらエレベーターで次の階に行くぞ」

 

とりあえず、合理的な理由は無いが右側の通路の階段口へと進み、そこからゆっくり登って行く。その先は、いくつものドアが設けられたオトナの居住区階だった。自動ドアを一つ一つ開けて中を確認していくが、肝心のオトナは誰1人も見つけられず、ただ時間だけが過ぎて行く。

 

「ここにもいない……はぁぁぁ。いったい何が起きてんのよ〜…」

 

最後の部屋を隈なく調べたが結局今回の件に関わるようなものはなに一つなく、そこに住んでいた筈のオトナもいない。

故にミクは重い溜息を零し、自身の疲労具合を示す。

部屋の数は全部で20あり、この階は特に特別な形状ではない一直線の長方形状の構造と

なっていて左右に余さず、オトナが暮らす為の部屋が設けられていた。

とは言え、オトナは影も形もなく、人の気配が全く感じられなかったが。

 

「二階の第1居住区階……誰もなし、か」

 

「戻って左側を調べますか?」

 

アルファは悪い予想が当たったとばかりに呟く。そんな彼にミツルは一階の別れ道に戻るか否か問いを投げかけた。

 

「…………そうだな。予定通り今度は左側の上階を調べてみるか」

 

なにか考え事に浸るように間を空けたものの、最終的に下の階へ戻る方針を固めた。そうしてこの階から移動しようとしたその直後、

 

「……」

 

何かをアルファが感じ取った。それは、心臓に響くような重低音で、もっと正確に言うのなら…“何処かへ向かって掘りまくり、突き進んでいかのような音”とも取れた。

 

「何かが来るぞッ! 走れ!!」

 

その正体を察知したアルファは、ここへ向かって来るであろう何かに対しての警戒を最大限に高め声を張り上げて全員に早急な脱出をを呼びかける。

が、早かったのは“ソレ”だった。

ピシッと。そんな小さく硬いものが砕けるような音と共に床に放射線状の亀裂が入り、通路を分断するような穴が床が崩れ落ちると共に口を開き、やがてそこから穴を生み出した

原因が姿を現した。

全体的にあの粘液に覆われていて、先端は青が濃く、その代わり全体の体色は薄い青が白に掛かった様な色彩。

長く蠢く様は女性から特に嫌われそうな印象を受ける“ソレ”は、あの触手だった。

それも、数倍はデカくした様なビッグサイズだ。

 

「え? キャッ?!」

 

「ッッ!!」

 

目がないにも関わらず触手は無駄のない俊敏な動きでココロとミツルを捕らえ、そのまま穴の中へと

 

「ココロちゃん?! 大変だよココロちゃんがぁぁッッッ!!!!」

 

ココロが攫われた。

常に大切にパートナーを大切に思っているフトシにとって、あってはならぬ最悪の事態。

それが冷静な思考を消失させてしまい、すぐさま自らも後を追おうとするが穴は先が見えない程に闇に支配されて底が見えない。

もし、普通の人間の身体という事を考慮せず、穴の中へとダイビングに近い真似をすれば着地と同時にその命を手放してしまうだろう。

深さを考えれば当然の理ではある。故にそんな無謀な行為を止める者がいた。

アルファだ。

 

「落ち着け。俺が行く」

 

大柄でそれに見合うだけの力もあるフトシの肩を片手ながらも掴む事で止めて、至極冷静な言葉で諭すと同時に自分が2人の救出に買って出る。

 

「でも、僕がいかないと……ココロちゃんは大切なパートナーなんです!!」

 

しかし。だからと言って“ハイ、そうですか”と納得できる彼ではない。

フトシは優しい。その優しさ故にパートナーであるココロの事を好感に思うし、彼女の為に何かしたいとも思っている。そんな彼の誠意に応えてくれるかの様にいつも笑顔を向けてくれる彼女は、フトシにとって太陽と言ってもいい。

だからこそ、自分の手で助けたい。

どうしようもない個人的なエゴであることは百も承知だが、フトシにとって大事な気持ちであることに変わりはない。

 

「お願いです! 行くなら僕も一緒にぃ!!」

 

そんな彼が涙を流し、必死に訴える姿を見てもアルファは己の出した指示を覆すことはしなかった。

 

「ダメだ。指示に従え」

 

やけに淡々とした物言いだが、その言葉に秘められた真意は今、この状況を理解しているからこそのもの。

つまり、アルファにとって今回の件は冗談を抜きにして、あまり余裕綽々とは言えない事態であることを示していた。

 

「いいかお前等。万が一の可能性として俺が1時間以内に戻らなかったら、急いでここを脱出しろ。まぁ、天文学的数字で有り得ないが念の為だ。それまでは一階ロビーで待機。以上だ」

 

言いたい事は言った、とばかりに指示を伝えると怖気づく様子など一切なく、僅かな躊躇も見せずにただ暗黒が延々と続くかのような穴の中へと飛び降り、瞬く間に闇に飲み込まれ消え失せてしまった。

 

「だ、大丈夫だってフトシ。刃さんがやってくれるんだし、なぁ?」

 

「ひぐっ……うぐっ……でも、もし戻らなかったら……」

 

確定はしていないが最悪な未来予想に一層涙を流し、鼻汁まで流す程にぐしゃぐしゃとなった顔は絶望という言葉が合うほど悲壮感のそれだった。

そんな彼を意外にもゾロメが優し気に慰めるが一旦考え出してしまったマイナス思考は、ちょっと慰める程度で収まりはしない。

それが状況も加われば尚更だ。

 

「今は刃さんを信じるしかない。言われた以上、ここで待機…」

 

ウィン……。

 

ふと自動ドアが開く音をイチゴの耳の鼓膜が捉え、しかもそれは彼女だけでなく全員聞こえていた。

聞いた途端、嫌な悪寒が背筋を舐めるように奔った。

 

「……な、なぁ。この階の部屋には誰もいなかったよな?」

 

自然と声を震わせてゾロメはそんな問いを投げかける。

 

「う、うん」

 

「みんなで確かめたんだから、当たり前でしょ!!」

 

それにナオミとミクが答える。他は何も言わずだが、それでも2人の意見に同意だ。

この階の部屋は確かに調べた。入念にだ。

なら、何故自動ドアが開く音など聞こえるのか?

誰かがこの階に来て、部屋に入ろうとした?

有り得ない。

この階の出入り口には一つだけ。

今自分達がいるのはその出入り口のすぐ近くで、自動ドアの音は、自分達のいる位置から

穴によって分断された先の向こう側……その1番目の部屋から数えて2番目になる。

当然、誰かが入る直前だと言うのなら目視は可能で、むしろそうならなければならいのは必定だ。飛び越えるのもギリギリという程にポッカリと口を開いた穴を何とかして、無事部屋の前に立てたとして。

それで彼等が何も一切気付かないなど、まず有り得ない。

だとすれば……答えは一つしかない。

何かが最初からあの部屋にいて、今、部屋を出る為に開けた。

これ以外に考えられるものなど無い。

そして、それは嫌というはがりに事実として認識さられてしまう。

突然開いた自動ドアから一歩、一歩と。人型の輪郭を形取った空間の歪み。比喩でも何でもなく、空間の歪みが人型を取って歩いているのだ。やがて、手と足らしき部位が明確な実体を成して行く。そして、歪みの全身がまるで何もない虚空にカラースプレーでも施しているのかと思うほど早い速度で、色を成し形を顕現していく。

やがて、完全な姿をその目で捉えた時。まず始めにイチゴがふとこんな言葉を漏らす。

 

「……小さい頃本で見たことあるんだけど……『蛸』ってヤツかな?」

 

「正確に言えばタコ型のアマゾンだよ」

 

蛸。かつて、自然界に多くの生物が繁栄していた時代。マグマ燃料が発見される前の頃。

人類にとってポピュラーな海水域の水棲生物の一種が蛸だった。

蛸の特徴は体色を変えることができ、模様も変えられるばかりか身体から突起を生やして岩らしさを強調することができる擬態のスペシャリスト。

その生物を模したアマゾンが今、自分達の眼前に姿を晒しているのだ。

 

「ハァァァッ!!」

 

アマゾン相手ではコドモたちにとっては分が悪い。それをよく理解しているイプシロンは自慢の脚力で容易く向こう側へと飛び越え、蛸似の姿を持つアマゾン。

言うなれば『タコアマゾン』へと跳躍からのパンチをその顔面へと叩き込んだ。

 

 

 

 

 







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