ここで“アレ”の単語が出てきます。
ヒント・“千翼” “水分”
「でさ、ザジス。君のもう一つのプランって結局何なんだい?」
白亜の空間。そこではローブで自らを覆い隠すシャドウと人間姿のザジスが互いに向かい合い、その間には白い円形の台のようなものがある。
よく見れば円形の台の上にはチェス盤があり、二人は人類がプランテーションやコロニーに移り住む前の時代において最もポピュラーなテーブルゲームの一つ、チェスに興じているのが分かる。
そんな代物をヴィスト・ネクロの幹部が行なっていると言うのは何とも言い難いものを感じるが、別段娯楽に関しては禁止されている訳ではない為問題はない。
「ああ、アレか。前にプロフェッサーの実験で人間のガキを何十人か使ったヤツあっただろ?」
「そう言えば、そんなことやってたね。確か人間に感染能力を持ったアマゾン細胞を移植して新しいタイプのアマゾンを造るとか……結局失敗したみたいだけど」
「その失敗作を使うのが保険にしてたプランなんだよ」
フードで見えないがその顔には怪訝なる情念が湧いており、何も言わないが視線で続きを催促するシャドウにニヤリと。ザジスはほくそ笑んで答えた。
「感染能力を持ったアマゾン細胞…プロフェッサーはそれを『溶原性アマゾン細胞』って呼んでたが、開発当初の試作品は空気感染や接触感染が不可能。水がなきゃすぐ死滅するもんだから媒介として水分が必要不可欠でよ、しかも発症してアマゾン化する確率が圧倒的に低い
。欠点だらけだったんだよコレが」
「……それ、もはや粗悪品だね……」
「まぁな。つってもコレは開発当初の話だ。勿論改善はしてる」
ザジスはボーンの駒を動かす。
「だがな、空気感染と接触感染。この二つがどーにもできなかった。その反面、死体への感染を可能にさせた」
「死体に?」
シャドウは疑問符を浮かべつつ、ナイトの駒を動かす。
「溶原性アマゾンが死体に溶原性細胞を注入することで溶原性アマゾンへと変異するんだが、これが面倒でな。死後2時間以内のヤツじゃないと無理とか、血液型や体質にも寄るから100%できるってわけじゃない」
「よくそんなまどろっこしいヤツ作るね」
「俺じゃなくてプロフェッサーに言えよ」
自身へ皮肉を言うのはお門違いだと文句を垂れるザジスにシャドウは軽く謝罪しつつ、駒を動かす。今度はビショップだ。
「で、だ。死体をアマゾンモドキの人形に変異させるタイプのアマゾンはそう珍しくないから、お前的にはピンと来ねぇかもしれねぇがよ
。ただのモドキの死体人形にするのと溶原性のアマゾンにするとじゃ訳が違う。感染の初期段階だと確かに性能的には死体人形と大差ないが、初期段階を過ぎて次に移れば…」
「話は別ってこと事かい? チェックメイト」
「なぁぁ?!……………あ、ンンッ! まぁ、概ねそんなとこだ」
王手を打たれ、トドメを刺されたことに驚きと悔しさを感じつつも咳払いを一つ。話を進めた。
「芋虫が蝶になるのと同じだな。ある程度の数の人間を食えば、死体人形に過ぎない段階の溶原性アマゾンは完全なアマゾンへと進化するって寸法だ」
「へぇ〜。中々興味深いけど、結局は失敗作なんでしょ?」
「そりゃそうだろ。生きた人間に感染できねーし、いちいち細胞注入しなきゃ増やせない。どう考えても失敗作だ」
「そんな失敗作を使って大丈夫かい?」
気遣いの中に皮肉を交えた言葉でシャドウは言うが、ザジスは得意気だった。
「アルファの野郎やイプシロンってガキを始末できなくても、あっちの痛手は大きい筈だ。その程度の保険だから問題ねぇよ……それに、このプランはプロフェッサーからの指示だ。なんでも今後の為にデータが欲しいって事らしい」
そう言ってザジスは席を立つ。もう一試合をやるつもりは無い為、他愛ない用が済んだ以上ここにいる道理はなかった。
「どの道アルファの野郎を俺の手でやれなかった時点で負け、俺の計画は失敗だ。だったら悪足掻き位はしとかねーと気が済まねぇんだよ
……まぁ、単純にプライドの問題だ」
「ふ〜ん。そっか」
「じゃあな。また暇があったらやろうぜ」
「うん。またねザジス」
簡単な別れの挨拶を互いに交わし、ザジスは白亜の空間に四角の線を描くように出現した出入り口から退室していった。
残されたシャドウはチェスの駒を一つ、盤上から持ち上げた。
「さてさて。どうなるかね……君に会える日が楽しみだよ。アマゾン・イプシロンの名を持つコドモ……コード016♪」
それは見間違いなのか。フードで隠れた闇の奥から淡い金色の光が漏れ出ていた……。
※ ※ ※
「クソッ! とにかく撃ちますよ!!」
「う、うん!」
攻撃。二人が選択したのはリザスターガンを構えギガで形成された弾丸を放つこと。ギガの弾は余さずイソギンチャク…“イソギンチャクアマゾン”の土台状の本体に命中していくが、弾力性に加えて分厚い筋肉では弾は皮膚の表層を傷付けることすら叶わない。
「なら!」
ミツルが左側の腰につけてあるナイフのカバーケースから取り出したのは、赤熱した刀身が特徴の接近戦武器『ヒートブッシュ』。
自分達を捕らえようとする触手が勢いをつけて伸びるがそれをミツルはヒートブッシュで何とか振り払う。
幸いなことに振り払った際、ヒートブッシュの刀身に触手が触れてしまい、神経が触手にもあるイソギンチャクアマゾンは高熱の苦痛を隠さず、動きを一時的に停滞させてしまった。
「はぁぁッ!!」
これをチャンスとばかりにミツルは一気に斬りかかり、灼熱と切れ味を誇る鋭利な赤熱の刀身が弾丸をものともしなかった表層皮膚は愚か
、筋肉繊維までも焼き切った。
「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎ーーーーーーッッッ!!!!」
甲高く不気味な金切り声のような断末魔の悲鳴が周囲に響き渡る。ミツルは再度斬りつけようとするが、それよりも早く触手の一本が鞭のようにしなり、ヒートブッシュを手に持っていたミツルの手首へと巻きつき、更にはもう二本の触手が胴体、両脚に絡み付く。
「ぐあぁッッ!! は、なせ…ぐぅぅッ!」
「ミツル君! キャッ!!」
助けようとするココロにも触手が容赦を与えず、その身を縛り上げて身動きを封じてしまう。
やがてイソギンチャクアマゾンの身体が伸縮を繰り返し、本体がうねる様な動きを見せ始める。その行動を数秒した後、ふと声が二人の耳に届く。
『ァァ……ギィィィ……マ、マ? パ、パ?』
幼い女の子とも男の子ともつかない声音だった。最初こそ疑問に思ったがすぐにこの声主が誰のものか、そして何処から聞こえて来るのか
。
二人は理解してしまった。
「う、そ」
「喋った…ッ?!」
アマゾンが言葉を介すことは知っていたが、まさかその人型からは程遠い姿と巨体、更には本能のみに沿った様な行動から言葉が出て来るとは思ってもみなかったのだ。
『ギ……ァァ……パ、パ。ママァ……』
また触手が伸びて来る。しかし不思議とそれは二人を傷付ける意思は無いようで、何処となく優しげに触れて来た。
“どうなってるの……ッ?!”
身動きが取れず、策もない。
ただ困惑しかできずにいたココロは心の中でそう呟くことしかできず
、ミツルも同じような状態だ。
「おい」
淡々とした男の声。
それがココロの耳に届いた瞬間、身体を拘束していた触手が鋭利に分断され二人は解放された。
「俺を無視してマニアックプレイのつもりか? ふざけてんなぁ……
おい」
肝が冷えかねない程のドスを利かせた低い声。
大抵の者ならば人間・アマゾンを問わず、恐怖に押されてしまうものだがイソギンチャクアマゾンは、“ただ邪魔をされた”という怒りの感情が滾っていた事と知性が退化している事が重なり、然程すら意味を成さなかった。
『◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎ーーーーーーーーーー!!!!』
怒り絶頂。と言わんばかりにイソギンチャクアマゾンは吠え、その敏腕性に優れた触手でアルファを捕らえようとするがアルファは両腕で上手く払い除け、更には無数に襲いかかる触手のラッシュを軽くいなしていた。
「どうした? そんなもんかよ」
繰り出される鞭のような触手のラッシュだがアルファに焦りはなく、アームカッターが備えられた肘から手首の前腕部位の黒い外骨格が籠手代わりとなっており、防具として充分機能していた。
それを用いて防ぎ、それだけでなくパンチで流してはそのすれ違い様にアームカッターで触手を切り裂く。
このままでは不利になることを本能的に悟ったのか。
イソギンチャクアマゾンは自らの体色を変えてまるで透明になったかのように姿を暗ませた。
「チッ、厄介だな」
思わず舌打ちが出た。
あの時、イソギンチャクアマゾンの不意打ちが成功した最大の要因は“気配が感じられなかった事”ともう一つ、“自慢の嗅覚が酷い悪臭で麻痺している”からだ。
アマゾンの気配を察知する感覚自体は正常に機能している。だが、何故だが気配を感じ取れなかった。
考えられる可能性としてはアマゾンの共鳴感知を掻い潜る隠匿能力を有している、と言う可能性だが、ここまで至近距離でありながら感じ取れない例は今までなかった。
“通常以上に優れた隠匿能力”。
もし、この仮説が真実であれば、言葉通り厄介なことこの上ない。
「でもな…動きが単調なんだよッ!!」
何をどうしようと見えない。
これに間違いはないが、だからと言って見えないからどうにも出来ない訳ではない。その証拠にアルファは自身に向けて迫っていた触手を鷲掴みに捕らえ、一気に引っ張ると釣られて巨体も倒れてしまいその衝撃が原因で、
体内の色素細胞が狂いが生じた。
こうなると一時的だが正しく色素細胞をコントロールできず、その姿を晒してしまった。
「見つけたぞ」
ギラリと。緑色の複眼が獰猛に光り、イソギンチャクアマゾンの身体の上へ立ち、アームカッターを振り上げたアルファは慈悲も容赦もなく、振り下ろした。
何度も。何度も。
イソギンチャクアマゾンの中枢臓器が見えるまで……何度も。
『ギィッ! ア゛ア゛ア゛ッッッ!!! イィ…ィ…痛イッ!!』
生々しく柔らかい物質を切り裂く音と共にアームカッターの刃が深く抉り込み、イソギンチャクアマゾンにとてつもない苦痛を味あわせる
。
だから、堪らず叫んだ。
れっきとした言語の声で。自分は苦痛を感じていると。
逃れたいとばかりに叫ぶ歪んだ命の声にアルファはただ無言だった。
「………」
『パ、パ……タスケテ……イタイ……マ、マ…クルシイィィ……』
声こそ人のそれとは思えない不気味な機械的な声質だが、それでも何かを求める様は幼子と変わらなかった。
そして、アルファはまるで何かを察しイソギンチャクアマゾンから降りると徐にベルトのグリップに手をかけた。
『バイオレント……スラッシュ』
アマゾンズベルトの信号が音声に伴い強まり、ギガが活性化すると同時にアームカッターへと集まっていく。その影響でアームカッターが肥大化。
「悪かったな。これで終わりにしてやる」
明確な謝罪の意を込めた言葉が自然とアルファの口から漏れる。
何故、アマゾンに対し、そんな言葉をかけるのか。
何故、どこか悲しそうなのか。ミツルとココロは何も言わず……と言うよりは何も言えず、ただ事の成り行きを見守る他なかった。
そして。肥大化させたアームカッターで切り裂く技『バイオレント・スラッシュ』が無慈悲に繰り出された。
※ ※ ※
「ガァァッ!!」
まるで獣のように叫ぶイプシロンは、自らが振るうアームカッターがオトナだった死肉人形の首筋に深くめり込み、そのまま刎頚してしまう。
今現在13部隊がいるのは建物の屋上。何故ここにいるのかと言うと時間は少しばかり遡る。アルファの指示に従い13部隊は一階ロビーへ向かおうとしたのだが、行く手を阻むものがあった。
アマゾンモドキの死肉人形の群れだ。可能性として他にも多くいる、もしくは500人と言うオトナの総数がそうなってしまった懸念は元よりあったものの、その数は一階の倍。
100近くはいたのだ。
しかも運が悪いことに群れが押し寄せて来た
場所が一階ロビーへ続く通路。出口を塞がれたも同然で仕方なくエレベーターでこの建物で一番広い場所……屋上へと逃げ込んだのだ
。広い場所なら、狭い通路で戦うよりは自由性が増し、戦法や戦略の幅も広がるから戦いを幾分か有利にできる。
そういった判断で来たはいいものの、道中にどう言う訳かいつの間にナオミが消えてしまった。
「ナオミがいない?! きっと逸れたんだ……戻ろう!!」
屋上へと繋がる最上階区画。その通路で隊のリーダーであるイチゴがエレベーターから降りてすぐナオミがいないことに気付き、戻る事を提案した。
が、それに待ったをかけたのはゴローだ。
「待つんだイチゴ。今戻るのは危険過ぎる。あの数を見ただろう」
「でも、それじゃあ!!」
“見捨てるのか”。そう言おうとしたイチゴの肩を後ろから掴んだのは
、イクノだった。
「気持ちは分かる。けど、もうここまで来た以上立ち止まったり、後戻りしちゃいけないって思う。下手に動けば……私達は間違いなく全滅するわ」
イチゴの肩を掴む右手とは裏腹に空いた左手の方は自然と力が込められ、それが握り拳の形を成した。それが何を意味するのかを理解できないほどイチゴは能天気のつもりはなかった。
イクノは、イチゴやこの13部隊のメンバーで誰よりも真っ先にナオミを助けに行きたい
のだ。ナオミとイクノの二人は姉妹と言えるほどに親友の間柄で、ガーデンにいた頃から勉強熱心且つ本の虫だったイクノがナオミに色々と勉強を教え、代わりにナオミはよく虐められていたイクノを励まし守って来た。
幼少の頃からそうやって互いに支え合った仲なのだ。
それ程に大切な彼女が行方知れず、しかも人食いの獣が跋扈するこの建物にいるとなれば気が気では入られない筈。
だが、それでも。
溢れる感情を押し殺してイクノは後戻りではなく、先へ進むという選択を取った。
「……ごめん」
「ううん。気にしないで」
不甲斐ないとばかりに沈痛な面持ちのイチゴにイクノは気にする必要はどこにもないと言う。
そんな事があって何とか目的地に到着するも、既に55体ほどが待ち伏せでもしていたかのように屋上を陣取っていた。
しかも、その内の何体かがタコアマゾンへと変貌。13部隊に驚愕が奔ると同時にこれでこの屋上を制圧する上での難易度がより上がってしまった事を痛感せざる得なかった。
「くっそ! オトナの形したヤツはともかく、獣人になってるヤツが
面倒臭せぇぞ!!」
ゾロメはこちらに牙を向けて襲い掛かるタコアマゾンの別個体に対し
、蹴りを一発。無論ただの蹴りでは然程…いやそれどころかダメージは皆無だろう。
しかし彼の両足には高電圧の電撃を発生させるレガースブーツ、名を
北欧神話の戦神に肖り『ミョルニル』と呼ぶそれの迸る紫電によって外ならず、体の内側にもダメージが侵攻する。
ゾロメの蹴りにより、さすがに死には至らないものの、プスプスと焼け弾けるような軽音を奏でながら煙を上げて気を失ってしまった。
やはり、まだコドモ達ではアマゾンを狩る事は至難の業だったかもしれない。最もだからどうなると言う訳でもない為、結局はやるしかないのだ。
「獣人になったヤツはイプシロンに任せて、私達はそれ以外をやるよ
!! いい?!」
ゾロメの言葉を受けてか、あるいは。元より言うつもりだったのかは分からないが指示を飛ばすイチゴ。
すかさず了解と応答があり、コドモたちは各々自分がやり易い戦い方で敵を相手取る。
ゾロメはミョルニルを用いた蹴りで攻めていき、トドメをリザスターガンで刺す戦法を。
ミクもミョルニルでの蹴りを使ってはいるがそれだけでなくメナゾスも使用し、猫を思わせる軽快なステップと素早さで攻撃を仕掛けていく。
「はぁ、はぁ、はぁ、たあぁぁッッッ!!」
が、それでも動作に無駄が多く、すぐに息切れを起こす程に体力の消耗が激しいのが否めない。そして、それは明確な隙になる。
「ギィッッッ!!」
「ギャッ!」
消耗による息切れで少しの間に動きを止めたミクに狙いを定め、襲い掛かろうとした死肉人形2体。しかし紫電色に迸るギガの弾丸が2発
、その頭部を撃ち抜き永遠の沈黙を与えた。
「私がいる以上、仲間に手出しはさせない」
屋上に設けられた一つの出入り口は8mほどの高さを持つ高台でもあり、その頂でリザスターガンをスナイパーモードにし構えているのはイクノだった。
彼女の射撃率はミツルと同じくこのチーム内で最も優れたもの。そして、遠距離の狙撃に関してはそれ以上を誇り、クロロフィッツに乗る際にも遊撃と援護を担当するように今回の対アマゾン戦でもその手腕が活かされた。
「いいよイクノ! その調子で援護よろしく!!」
「……うん!」
イチゴからの賞賛を受け、自然と胸の奥に熱が灯される。より気力が上がった彼女は的確に死肉人形を狙撃していく。
「こ、のおぉぉぉッッッ!!!」
そんな彼女を敵から守る為、下で防衛戦を展開しているのがフトシだ。彼は腕に装備された盾のガントレット、アームシールドで迫る敵を押し返し、ビビりつつも盾の裏側に仕込まれた剣を出して仕留める。
肉体的なダメージは今の所ないがフトシの性格が災いし、精神の方のダメージが大きいだろう。
それでも彼は狙撃による援護射撃を担うイクノを狙い襲おうと登って来る敵に対し、容赦なく倒す形で守る。それがフトシの役目なのだ。
「ゴロー! 援護しづらいし、危険だからあんまり接近し過ぎないで!!」
「そう、は、言っても! 難しいって?!」
ゴローとイチゴのデルフィニウム組はゴローが白兵戦で攻撃を仕掛け、リザスターガンでの援護をイチゴが行なう戦術をとっているのだが、ゴローが敵との距離を詰め過ぎて援護射撃ができず、と言うよりは敵の方から距離を詰めて行くせいと言った方が正しい。
その敵はまた新たに死肉人形がアマゾンへと変質した存在で、他のタコアマゾンがそうであるようにズタボロ状態だが衣服を纏っている。
ただこのアマゾン…タコではなく巻貝の様であり、名付けるなら“カイアマゾン”と呼ぶべきか。
このカイアマゾンは貝という、のっそりしたイメージのある生き物の意匠を有する姿をしているにも関わらず俊敏性に特化しているようで動きが素早く、更には貝本来の特性である防御力も発揮している為かメナゾスの刃を通さず、ヒートブッシュやヨルムンガンド、アマゾン
・トマホークさえ通用しなかった。
唯一ミョルニルは通じるようだが、それでも接触しなければ効果はない。その事を一度身に受けた事で学習したカイアマゾンはミョルニルによる蹴り技をその優れた俊敏性を生かし、回避するようになってしまった。
こうなるとゴローは不利に陥る。
さすがにイクノほどの射撃性能を持たないイチゴではゴローに当たってしまう危険性があり、イクノは増加していく死肉人形の殲滅に手こずっている状態。
当然、援護は望めない。
「拙い……このままじゃ……」
不安げな声を漏らすイチゴ。しかしこの状況では仕方がない。何体か倒しても増加していく死肉人形の群れ。そして、その中から変異を遂げたアマゾン。リザスターガンのギガ消費による弾切れは時間の問題であり、13部隊全員の体力もそう続かない。
ふと、最悪な結末がイチゴの頭を過る。
必死に振り払おうとするがこの置かれた状況が根を張り、中々消し去れない。
その瞬間。
『バイオレント…ブレイク・スピア』
無機質な電子音声と共に何かがカイアマゾンへ向けて飛来し、そのまま頭部を貫通さしめてしまう。
『ギィッッッ!! ギギギィィィ!!!!』
断末魔の悲痛な叫びを上げてカイアマゾンは自慢の防御力を容易く砕かれて死滅。黒い液体の中には棒のようなものがあり、先端に菱形状の刃の部位とその両サイドから翼に似た装飾が施された代物。
どうやらコレがカイアマゾンを死に追いやった物らしい。
「無事かゴロー?!」
イプシロンが駆けつけ、ゴローの安否を確認する。
対するゴローは困惑を隠せないものの特に怪我や異常はなく、何もなかった。
「あ、ああ。大丈夫だ。それよりこれ……」
「“ブレイク・スピア”…って言うらしい。頭にイメージが流れて……と、とにかく! 気をつけて戦うんだ」
悠長に説明している暇はないとばかりにそれだけを言い残し、イプシロンは再びブレイク・スピアを手に取り死肉人形やタコアマゾンの頭部や各箇所を抉るように切ったり、突き刺したりと。更にはアームカッターで何体かの死肉人形の首を飛ばし、または強靭な握力で腕や足などを容易く引き千切るなどの芸当もやって見せる。
そして、そんな彼を援護するように戦っているのはゼロツーだ。
彼女は人間離れと呼ぶに足る身体能力を発揮し、向かって来る死肉人形の首に回し蹴りを打ち込み怯んだ所をアマゾン・トマホークで切り裂いていくが、他にも投擲武器と言う特性を利用して投げつけ、数体同時に狩る腕前も見せつけた。
イプシロンもゼロツーも凄まじい血みどろの残虐戦を展開しながらも確実に殲滅させていく光景を見て、やはり味方である事が頼もしく、
逆に敵だったらと思うと笑えない心境になるゴローは何とも言えない
苦笑混じりな表情を顔に張り付かせた。
「ゴロー、大丈夫?」
「は、はは……なんかもう、すごいな」
手の平で制止させるような感じで“大丈夫”だと。ゴローはジェスチャーを送り謝罪の言葉を紡いだ。
「悪いイチゴ。しくじった」
「うんうん。私の方こそ助けられなくてゴメン。状況は最悪だけど、がんばろう」
「ああ」
※ ※ ※
13部隊とアマゾンの血みどろの激戦が繰り広げられている中、それを監視する者が一人いた。
「いや〜中々がんばるじゃないの。スタークさん的には嬉しいな〜うんうん!」
ブラッド・スターク。
近くの建物から見ていた彼女は愉快そうに、笑みを零していた。
「あ、でもやっぱアレ拙いな〜。戦いっぷりはいいんだけど、数的に不利だし………」
顎に手を当てて何かを思案するような仕草でしばしそうしていたが、すぐに答えを見出した。
「老人方のご依頼もあることだし、助太刀してあげますか!!」
軽快溌剌。そんな言葉がよく似合うほどブラッド・スタークは意気揚々と宣言する。
それはまるで、新しい波乱の幕開けを告げるかのようだった。
感想待ってます!!