最近、漫画版ダリフラが色々と面白い!って思い始めてます。
そりゃ『To LOVEる』の矢吹先生が描いてるんですし、面白くない筈はないんですけどね。結構アニメにはない描写があって、アニメよりキャラの掘り下げが多い感じがして、自分的にはめちゃくちゃ面白くてイイですね。
両都市間のセレモニーは入隊式のそれとは違い、華やかさがあった。
「すっげーなぁ!」
ゾロメは興奮を隠し切れず、この盛大なセレモニーに対し素直な感想を述べる。
他の皆も同じように辺りを見渡したりと興奮の程が伺えた。
逆に26部隊のコドモたちは13部隊とは逆に落ち着きを見せていて、年季に基づく冷静さと言うものを感じる。
「パラサイト諸君! この両都市のキッシングは素晴らしい交流を齎すと同時に多く叫竜を呼び寄せてしまうだろう。だが! 君たちは、フランクスに乗ることのできる戦士! 君達は強い! 必ずや勝利してくれると信じ、我々と両都市の運命を預けよう!!」
両都市を代表してオトナの一人が演説を行う。その言葉からは叫竜の脅威から自分達と街を守るパラサイト達への期待と信頼があり、それを実感しているパラサイト達は部隊を問わず心に大きな高揚を齎すには十分だった。それだけオトナからの期待されるというのは、やはりオトナの為に心血を注ぎ命懸けで叫竜と戦うコドモにしてみれば、気分が良いものなのだ。
コドモたちは歓喜なる喝采の中で長く赤い絨毯の道を往く。その両サイドでは13都市と26都市の紋章が刺繍された旗を掲げるオトナたちが厳粛に立っており、いろいろな色の紙吹雪が舞い降り楽器による行進曲が響き渡る。華やかで盛大な式典の中でヒロはふと天を仰ぎ見る。
“きっと、今まで経験したことのない大きな戦いが始まる”
ヒロはそんな予感めいたものを感じつつ、同時に自分の中に潜む、“本能”が疼くのを感じた。
「すごかったね〜セレモニー」
「本当! 26部隊の人たちカッコ良かったし! イクノはどう思う?」
「別に。興味ないわ」
「はぁ〜お堅いこと……」
ゼロツーを除く13部隊のコドモたちが全員揃う館内のラウンジでは、ココロとミクが今朝に開催されたセレモニーを話題に嬉々とした会話を弾ませていた。
それをミクはイクノへ振ったものの、本人的に興味は皆無らしく、そんな素っ気なくつまらない態度の答えに愚痴のような言葉を投げかけるミクの表情はジト目のそれだった。
「でもよ、オトナに期待されるのってすごくイイ気分だよな!!『君達は強い』って言われちまったしよ~!!」
「そうそう。俺たち、必要とされてるんだって感じがしてさ!!」
ゾロメとフトシも話題に乗っかり、揚々とした気分で語っている姿は彼等のパラサイトとしての在り方がよく分かる。ゾロメに至ってはセレモニーでのオトナの演説時のポーズを真似してお道化るほどだ。
彼等パラサイトはオトナの為にフランクスに乗り、叫竜と戦う。それが生まれて生きる理由なのだと教えられ、誰も、そこに疑問を抱いたりはしないのだ。
「でも大丈夫かな? 私達より経験を積んでる26部隊のパラサイトの人達がいてくれるのは、心強いと思うけど……」
「まぁ、推定でも百単位ぐらいの数で攻めて来るらしいからね……今まで経験したことない初めての戦いになるのは確実よ」
ココロとイクノの言葉は、この場にいる全員の不安を体現したものと言ってもいい。いつもは調子付くゾロメもこの場においてはそれを隠せず、口籠る様子で何とも言えない表情を形作っていた。
「大丈夫だよ」
沈黙していた重い空気をイチゴの一言が切り裂いた。
「私達はこれまで色んなピンチを切り開いて来た。まだ結成したてだから先輩になる26部隊の人達からしたら、まだまだかもしれない。でも叫竜だけでじゃなくて、アマゾンだって倒せた。
こんなこと他の部隊じゃ経験した事ない筈だよ。そんな私達が勝てないわけないじゃん。もっと自信を持とう! 絶対に勝つんだってさ!!」
不思議と不安を取り払ってくれる力強いイチゴの声。リーダーという立場が心理的な作用でそうさせるのか、あるいは生まれ持っての才能なのか。
いや、どれも違うだろう。
他ならぬ数々の戦いによって築いた“実績”。人は結果の数だけで自信を得ることができる。
それが自分の手で一つ一つを積み重ねたと実感すれば、尚の事それは強まる。イチゴの言葉がそれを気付かせる鍵となり、完全にとはいかないが、それでも不安の翳りを自信という光で少しばかり晴らす事はできたのは間違いなかった。
「…………はは。今の言葉、リーダーらしくて様になってるよイチゴ」
ゴローはそんなパートナーの姿を見て、自分の事のように嬉しそうに答える。
「ん、んなことたぁ分かってるっての!」
「まさか、イチゴにそんなこと言われるなんてね……」
ゾロメは誤魔化すようにそう言い、ミクは少しばかりライバル視しているイチゴに言われてかやや不満気なものの、満更でもなさそうだ。
「私はピスティルとしては役に立てないかもしれないけど、皆ならできるって思うよ。ね
っ、イクノ!」
「え、あ、うん……」
隣にいたナオミの手が自身の肩へ置いたことに驚きつつも、若干頬を赤らめて答える。
「そんなこと、イチゴに言われるまでもありませんがね」
ミツルは素っ気なく、相変わらずだったが。
各々が自信に目覚めたおかげで空気は軽く、明るいものになっていったのだがヒロだけは違った。
「……」
床に視線を落とし、何か思い詰めた様な表情からは心中に何を思い考えているのか。それを的確に推測することは困難だろう。
それに気付いたイチゴは、この時点で“ヒロの身に起きていた異変”を機敏に感じ取っていたのかもしれない。
※ ※ ※
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
洗面台。朝起きて必ず顔を洗い、歯を磨く場所であるここでヒロは一人、鏡越しに映る己の顔を睨む様に見つめては荒く息をしていた。また、あの胸の痛みが再発したのだ。
しかもそれだけでなく、あってはならぬ一つの欲求が強烈に身体を掻き毟るように沸いて来る。
“人の血肉を食べたい”
それが今、ヒロの身を蝕む病のような欲望であり、認め難い事実だった。蛇口のノズルを捻って水を勢いよく大量に出す。その水を手で掬い取り、顔に思いっきり浴びるヒロは息を深く吐き出してもう一度自分の顔を凝視する。
よく見た自分の顔。特に変化はない。
顔色と言う意味では最悪だが。
アマゾン・イプシロンとして覚醒してからと言うもの、ヒロは毎朝や時折垣間見る自らの顔に疑問を抱くようになっていき、前のアマゾンとの戦いではそれがより強くなった気がする。
「ひどい顔だな、ヒロ」
「!! 刃さん……」
聞き慣れた男の声が鼓膜に届いた瞬間、後ろを振り向けばニカッと笑みを浮かべ、パーにした手を上げながら壁に寄りかかる鷹山の姿があった。
「どうして、ここに?」
「あー、なんつーかねぇ〜。様子見たくて来たんだよ。ほら、キッシングってヤツで叫竜が大量に来るんだろ? それで……ちょっとな」
どうやら、大規模な作戦を前に13部隊の皆が不安や恐慌など精神的に異常はないのか。
それが心配で来たらしい。
「そうですか……フフッ」
素直にそう言えばいいにも関わらず、敢えて語ることをしない天邪鬼のような子供っぽい性分という
意外な一面と普段の雰囲気とのギャップにヒロは思わず、笑いを零した。
「ちょ、笑うなって」
「あっ、すみません! そんなつもりは……」
「はぁ〜。そー何でもかんでもヘコヘコ謝るなよ」
大して気にしてないらしく、その様子を見てホッとするヒロだがその後に続いて出た言葉に背筋に氷を擦り付けられた様な錯覚を感じた。
「で、いつからだ? “人を喰いたい”って思い始めたのは」
「?!!ッ」
驚愕の二文字しか感じ取れない程にそれらしい表情のヒロ。鷹山は笑顔を消し去り、至極真面目な顔になる。
「その顔を見るに図星だな」
「…………どうして、分かったんですか?」
「アマゾンは人食い細胞の集合体。これはな、絶対に覆しようのない事実なんだよ。勿論これは俺にも言えることだ。アマゾン細胞を移植するってことは、自分がアマゾンになるのと同じ事だからな」
壁に寄りかかったまま腕を組み、気怠そうに見えつつも無機質に淡々としているような印象を感じさせながら、鷹山は話を途切らせる事なく続ける。
「俺が人食欲求を覚えたのは、移植と同時に覚醒してから2カ月後だった。最初の頃はそりゃヤバくてな、常に頭ん中に声みたいな音が耳鳴りにみたいにガンガン響くような感じで食え食えって喚くんだよ」
「……それは、今もですか?」
「ああ。まぁ、ベルトのおかげで抑制はされてるがな」
アマゾンズベルトは“仮面ライダー”にカテゴライズされるタイプのアマゾンへと変身させるだけでなく、アマゾンの本能である人食欲求を抑える機能が備わっている。
が、これはあくまで鷹山の持つベルトの話。
ヒロの持つアマゾンズベルトがそうであるとは限らない。
「俺のにはその機能はないのかな?」
「さぁな。スタークのクソに聞いても素直に答えてくれるとは思えねぇけど」
思い返すのはスタークの今までの行動だ。謎が多く、決して本心では何も語っていない風に感じられる底知れない雰囲気。何を思い考えているのか不明瞭、行動原理も予測不能の存在とも言えるスタークが何故自分にアマゾンズベルトを与えたのか。
それが今となってもヒロには分からなかった。
「そう言えば、刃さんのベルトってどういう経緯で手に入れたものなんですか?」
「ん? 俺のは知り合いが設計したもんを自分で改良を加えて作ったもんだ」
「えっ、自分で作ったんですか?!」
思わず驚いたのは、彼がこういった機器の類を作れるような技士としての風格とかそういったものが微塵も感じられないのが理由なのだが、本人の前で言うのは地味に酷な話なので敢えて伏せておくが。
(………なんか、失礼なこと思ってね?)
中々鋭い勘らしい。
「旧知の知り合いがいてな。
俺の恩師でもあるその人の考案した“アマゾンライダーシステム”、その産物がアマゾンズベルトだった。アレのおかげで、俺は人を喰わずにいられる」
「その人は、今は……」
「ある日忽然と姿を消しちまった。10年前の話だ。消息不明で生きてるのか死んでるのか……なんでいなくなったのかも分からない」
「そんな……」
ヒロは何処か哀愁を漂わせる鷹山に対し何と言えばいいのか分からなかった。
少なくとも、その知り合いの人が大切な人だと言うことは分かる。わざわざ恩師と呼ぶ人が鷹山にとってどーでもいい、いなくて清々するような人格者ではないことは明らかだ。
「ところでよ、ヒロ。“仮面ライダー”って、言葉を聞いたことないか?」
ここで話を変え、空気の入れ替えを図る鷹山はヒロにそんな質問を振ってきた。
「ん〜……ない、ですね。そう言えばゼロツーも言ってたんですけど、一体何なんですか?」
「“仮面ライダー”……人類がプランテーションやコロニーに移住する前の時代にいた伝説の英雄の名だ。遠い昔から人類史の陰で暗躍を続けて来た凡ゆる組織を悉く壊滅させ、人類を救って来た」
そう語る鷹山は、何処となく懐かしそうに思えた。
「アマゾンライダーシステムは仮面ライダーのテクノロジーをアマゾン細胞で応用する事で再構築した代物なんだ」
「仮面ライダーのテクノロジーって……」
「“改造人間”なんだよライダーは。ある組織によって男は望んでいなかったにも関わらず、身体を緻密で驚異的な力を誇る鋼の肉体へと変えられた」
「……」
正直な所、あまり現実味は感じられなかった。人間としての身体を機械のそれへと変え、凄まじい力を得た存在などヒロは見たことがなかったし、APEの技術力でも現実に造れるかどうかは分からない
。あまりに現実味のない話だと断言できるだろう。博士は似たようなものだが、身体機能はあくまで人間のレベルでそれより外へ逸脱している訳じゃない。
「本当に、そんなヒーローみたいな人がいるんですか?」
「そいつは俺の口からベラベラ説明するより、自分の目で見た方が早いな。今は何とも言えないってことで頼むわ」
明らかに話すのをはぐらかした様子だが、追求した所でどうせ無駄だと言うことを鷹山の性格を知った上で、ヒロは敢えて追求するのを辞めた。
「で、話を戻すがこのままその状態が続けば………命を落とすか、その前に暴走して誰かに牙を剥いて喰うかのいずれかになるぞ」
それは事実であって、鷹山は虚言を吐いたつもりなど一切ない。アマゾン細胞が秘め持つ人食欲求は世界の理と言えるほどに覆し得ないもの。
だがそれが強まって引き起こされるアマゾン細胞の暴走で、本人が命を失うということはない。
むしろ、その逆だ。
暴走によって完全に人としての理性を消失させ、人間のタンパク質というアマゾン細胞の性質的に最適且つ効率の良い燃料でエネルギーを得られるのだ。命が脅かされる理由も原理もない。
鷹山が言った命を落とす、というのは全く別の要因に帰結している。
「アイツと乗った影響出てるんだろ?」
「……」
沈黙を肯定という答えとして受け取った鷹山は、視線に鋭さを増した。
「胸、見せてみろ」
「はい……」
突然の要求だがヒロは否定することなく制服のファスナーを開け、胸まで下ろす。服の裏側の先から顔を覗かせる青い物体……いや、より正確には肥大化し、激しい鼓動が脈打つ青色に変色したヒロの……“心臓”だった。
「………いつからだ?」
「2日前から……です。その時は大したことなかったんですけど、昨日みんなでキッシングを見に行った時を境に急に……」
「そうか」
「…………俺、時々自分が分からなくなる時があるんです」
ポツリと。ヒロは内心誰にも話したことのない独白を零す。
「小さい頃から、自分自身に対して違和感があったんです。それは……漠然としていて、なんて言えばいいのか分からなかった。けどアマゾン・イプシロンになって、前の戦いで自分の中にあった戦うことへの喜び、命をこの手で殺すことの快感。それを自覚してしまった時、気付いたんです。漠然としていたものの正体を……」
“人としての姿は、本当の自分なのか?”
己が存在が人か否か、そこから生じる疑問。
それが違和感の正体だった。
「俺は……人間なんですか? それとも……」
“アマゾンなのか”。
この言葉が喉から出かかっているにも関わらず、声にして出すことができない。哀愁と沈痛、怒り、などの感情が介在し形成しているようなヒロの顔を見かねたのか。鷹山は叱咤を投げかける。
「人間かアマゾンか。そんな考えを持ってる時点でくだらねぇよ」
「!ッ」
「んなこと一々考えるな。お前はお前で、俺は俺。ただそれだけでいいだろ」
あくまで、自分は自分に過ぎない。そう語る鷹山は酷く面倒臭そうな態度だが、わざわざ指摘するのは彼なりの誠意があってのこと。でなければそもそも関わりすら持とうとはしなかっただろう。
「お前はどっちがいいんだ? 大切な仲間を、人を襲って喰らうアマゾンか? それとも大切なもんを必死で守ろうとする人間か? どっちを選ぼうがお前の自由だがな…お前が人食いの本能を受け入れたのなら、俺はお前を狩るぞ」
そこに冗談という他愛ない感情は存在しない。あるのは今、ここでやろうと思えば即座に実行できる殺意だけだ。
「俺は人間を守る。つまり、人間を食う腹積もりのアマゾンは生かしてはおけねぇって話なんだよ」
「……」
「だから、お前が人間を喰うのなら……責任もって俺がこの手で殺す」
残酷だが鷹山の言葉が正しいのだと、ヒロは素直に思った。人を喰うなんて間違ってる。自身に人を喰いたいと思う意思があったとして、それを容易に認めるわけにはいかない。
認めてしまえばこれまでの自分は嘘になる。オトナや仲間たち、みんなの為に戦いたいと言うの気持ちを嘘にしたくはない。ヒロがフランクスに乗り戦ってきた理由がそれなのだ
。
だから、ヒロは言った。
「お願いします。もし俺が俺でなくなったのなら、貴方の手で俺を殺して下さい。みんなに俺を殺すなんてこと……させないで下さい……!!」
深く、頭を下げる。
他ならぬ自分を殺すと堂々と宣言した鷹山にだ。
「……ああ、そん時はな。今はこいつで何とかしろ」
そう言って鷹山はある物を差し出した。
透明なプラスチック製の幅の広い長方形状をしたケースで、大きさは手の平に丁度収まる程度で中に50錠のタブレット薬が内包されていた。
「人食欲求を軽減できる薬品だ。と言っても完全じゃない。数字で言えば89%の確率だが効果は抜群だ。使っとけ」
“ちなみに鎮痛作用もある。収まるかどうかは分からないけどな”と付け足した鷹山に苦笑を浮かべつつ、ヒロはそれを受け取った。
「ありがとうございます。刃さん」
「礼はいらねーよ。お前を殺すかもしれない男には、な」
いつものような飄々でお気楽と称されかねない程に緩い雰囲気はなく、淡々とした事実のみを語る姿は自身に課したストイックな使命感に基づく、己がルールを厳守する姿勢を感じさせた。
そしてこの時、鷹山は既に気づいていたのだがヒロは気付いていなかった。
自分達の会話を盗み聞きしているゴローに………。
ご感想、お待ちしてます!