ダーリン・イン・ザ・アマゾン   作:イビルジョーカー

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最近、仕事がキツくて鬱気味っぽい感じですけど、こうして小説を書ける
ことが救いの一つですね。今回は少しシナリオにオリジナル路線入れてます。


不穏な影 前編

 

 

 

 

 

 

 

温室の花に与える為の水をたっぷりと溜め込んだジョウロの取っ手を右手で持ち、左手で水が溢れないよう長い注ぎ口を支えるように持ったココロは一人、温室の方へと向かっているのだがその思考には前回のアマゾン戦でのある事が引っ掛かっていた。

 

並みのアマゾンではありえない巨体と人型を逸脱した姿を有したイソギンチャクアマゾン

の、“ママ”という言葉。

 

ママとは何なのか?

 

ニュアンス的にパパという言葉に似ている気もしなくはないが、やはり単に聞いただけでは理解することはできない。

 

だが、あのアマゾンがママと呼ばれる誰かに助けを求めていた事だけは分かる。おまけにパパにまで助けを求めたのだ。

ココロが知る限りパパとはプランテーションに住まう人類を統括する7人の偉い方々、という印象だ。

 

何故、アマゾンがパパに助けを求めるのか?

 

ママとは一体何なのか?

 

あれやこれやと悩んで考えては見たものの、明確な判断材料がない現状では、どうやっても真実には辿り着けない。鷹山に聞いてみるというのも一つの手かもしれないが、あの時の他者に対する何者も言わせまいとする恐ろしいまでの威圧感を思い出すと、やはりどうにも聞く気にはなれなかった。

そうしている内に温室に辿り着いたココロはドアの取っ手に注ぎ口に当てていた左手を置き、ガラス張りの扉を開いた。ジョウロ自体はそれなりに重いとは言え、ほんの数秒程度片手でジョウロを持てなくはない程に力のあるココロは中身の水を零さず、すんなりと入ることができた。

 

「え」

 

するとココロは意外な人物を見つけた。

 

イクノのパートナーであるミツルだ。

 

よく見れば綺麗な黄色の花弁を鮮やかに咲かしている花を見つめていた。奇しくもそれはココロが乗るジェニスタの名前の由来である『金雀枝』である。ココロの気配、あるいは声で気付いたのかハッとした様子を顔に出したものの、すぐにいつものポーカーフェイスへと変えて金雀枝から視線を外すとココロに背を向ける態勢をとった。

 

「……もしかして、花、気になる?」

 

重い空気に耐えかねたココロがそんな質問をしてみた。

 

「………別に。ただ何となくですよ」

 

綺麗だったから見惚れていたのではなく、何とかなくという曖昧な感覚で見ていたに過ぎないと語るミツルは足早やにもう一つの出入り口へと行こうとする。

 

「ま、待って!」

 

そんな彼にココロは声で静止を促した。

改めてココロの顔へと向き合うミツルは怪訝な表情を浮かべており、なんのつもりだと無言ながらでも察することができた。

 

「その……ミツル君はさ、“ママ”って、何か分かる……かな?」

 

拙いながらも絞り出した言葉に対し、ミツルの反応はさして変わることはなかった。

 

「分かりませんよ。そんなこと。あの時の事を気にしているのなら、忘れた方が賢明です

。あなたの為になりませんよ?」

 

「そ、そうかな……」

 

「……もう行きますよ」

 

「あ、最後に一つ聞かせて!」

 

最後に。と呼び止めたココロの視線はあの時の戦いで負傷したミツルの肘から上、二の腕へと落としていた。

 

「腕の傷は、もう平気?」

 

イソギンチャクアマゾンによって付けられたと思われる、二の腕にできた切傷だ。

制服で見えないがそこを手で押さえたミツルは、絞り出すように呟いた。

 

「平気ですよ……こんなの」

 

ただそれだけを言い残して、ミツルは温室を後に去って行く。その後ろ姿をココロは寂しいような、辛いような。少なくともプラスの感情とは呼べないものが胸中に騒めていた。

ココロは、どういう訳なのかミツルのことを気に掛けていた。

 

13部隊の一員としてここに来る前からだ。

 

最近になって……より正確にはあの戦いから彼を意識する気持ちが強くなっていく傾向をココロはきちんと自覚している。

 

ただ、その理由までは分からないのだ。

 

こうなったのには何か理由がある筈、と考えてはいるが記憶の中をどう探ってもキッカケとなるものが見つからなかった。

 

「なんなんだろ……この気持ち」

 

初めて感じる名前のつけられない未知の感情。

これに自分はどうすればいいのかと戸惑いを覚えるがとりあえず、花の世話という本来の目的を思い出し、さっそく水を与えていく。

特に意識はしていなかったが……最初に水を与えてたのは、金雀枝の花達だった。

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

13部隊のフランクス四機が格納されている格納庫施設。

 

ゴローは自身とイチゴの愛機であるデルフィニウムのドックに立っては神妙な面持ちで、無機質で顔のないデルフィニウムを眺めていた。脳裏に思い出すのはヒロと鷹山の会話だけでなく、ほんの数分前、ここに来る前に交わしたイチゴの会話だった。

 

『え? ヒロのこと?』

 

『ああ。何か変って感じないか?』

 

ナナから呼び出され、リーダーとして部隊に関わる近況報告の聴取目的でブリーフィング

ルームへとやって来たイチゴは、何も隠すことなく些細なものから大事に至るかもしれない情報をナナへ開示。

自分の思い過ごしかもしれないが念の為ヒロの様子がおかしかった事も報告した。

ナナはこれからもよろしくと礼を言い、自由奔放でルールを守らない勝手なゼロツーの事

も含めてリーダーとして今後を頼まれたイチゴは、廊下で待っていたゴローと共にミストルティンへ続くエレベーターへと乗り込んだ。

そこでゴローがヒロについてどうかと問われたのだが、それに対しどう答えればいいか分からないと少し怪訝な表情を浮かべた。

 

『顔色が優れなくて元気がなかった……ってことだけは感じてるんだけど………他は特に問題なさそうだったよ?』

 

『そっか……』

 

『もしかして、無理してたの?』

 

目つきが鋭くなり、頬が少し膨らむイチゴは威圧のつもりかもしれないが正直なところ怖いというより、むしろ可愛いだけだった。

とは言え、そんなこと本人に言えばどうなるか堪ったものではないゴローは敢えて言わず

、イチゴの問いに答えた。

 

『あ、ああ……めまいとか、ちょっと身体が怠いって言ってたな』

 

無論、嘘だったがこうでもしないとヒロの事ばかりに気が向いて、近い内に実行される防衛戦に集中できないかもしれないという可能性や彼女の自身の精神的負担を考慮してものだった。

 

『はぁぁ……。無理をするかもって思ってたけど、本当に……』

 

イチゴの表情が曇る。パラサイトとして責務を果てせず、絶望しかけた状況から一変して

ゼロツーのパートナーに……ストレリチアのステイメンになれたのだ。

陰鬱としていた空気から明るく変わるのに時間は要さなかった。それはいいのだが、その

せいで無理をするんじゃないかと思っていたイチゴにしてみれば、予想が現実となった事に何も思わない道理などなかった。

 

『俺からきちんと言ってやったから、あんま気にすんなよ』

 

『そ、そうかもしれないけど……』

 

ゴローの言葉を信じない訳ではないが、それでも心配が消え去ることはなかった。

 

どうしてかは分からない。

 

だが、同時に“あの噂”がふと浮かび上がる。

 

“ゼロツーと乗ったステイメンは、三回乗ると死に至る”

 

都市での居住施設におけるアマゾンとの戦い。

その前に叫竜を11体倒しているが回数としては2回。1回目で5体の小型個体に当たるコンラッド級が出現し、2回目でモホ級が1体とコンラッド級が5体。

苦戦を強いられたものの、半ばストレリチアのおかげで窮地を脱することができた。

 

これで、ゼロツーと乗った回数は4回。

 

とっくに3度目を通り越しているがヒロの身に異変はなかった。その事実があってか完全にゼロツーに関する噂は虚偽なのだと思っていたが、ヒロの体調に異変が起きたことで思い過ごしだと考えつつも、そうとは言い切れないと感じる自分がいた。

 

『………うん。あんましヒロのことばっかり心配し過ぎるのもよくないね。リーダーなんだし、ちゃんとしないと』

 

イチゴは自身がリーダーとしての責務を果たしているか。そこに不安を感じていた。

居住施設でのアマゾンとの戦いではナオミの身を案じるあまり、他の仲間への危険性を顧みず引き返すという選択肢を取りかけた。

あの場で、イクノの指摘が無ければどうなっていたのか。結局は結果論に過ぎないのだが

最悪の結末を迎えていとしても何らおかしくはない。

 

だからこそ、もう間違えない。

 

リーダーとして正しい選択を。

 

『張り切るのはいいけど、あまり根を詰め過ぎるなよ』

 

少々責務感に囚われていた思考がパートナーのその一言によって瓦解していく。我に返ってゴローの方を見れば、爽やかな笑みを浮かべていた。

 

『頼っていいんだ。仲間である以上、俺たちは互いに支え合うべきだ………なんて。ヒロの

受け売りだけどな』

 

“それに”、と一言間を置きゴローは言う。

 

『大体無理するってとこはイチゴもだぞ。リーダーだからって、あんまし偉そうに気負いしない方がいい』

 

少し悪戯心を乗せた言葉がイチゴの図星を突いてしまった。

 

『わ、分かってるって!!』

 

羞恥に堪らず頬を赤く染めてしまったイチゴは火照った顔を見られまい、とゴローの視線から逃げるように逸らした。

そんな姿に思わず笑いを吹き出してしまったのは他でもないゴローだ。

 

『ブフッ……なに照れてんだよ』

 

『笑うなよ……バカ』

 

エレベーターの中でそんな会話を交えた二人はその後別れ、ゴローはここに来ていた。

特別と言うほどの理由はない。ただ、自身とパートナーの愛機であるデルフィニウムが今回の両都市の防衛戦でどれ程うまく立ち回れるのか。

それを考えていたら、自然とここへ足が運んだのだ。

 

「お〜い! ゴロー!!」

 

物思いに耽っていたゴローの意識が下から響くゾロメの声に引っ張り出される。

下の方を見てみれば、26都市のパラサイト部隊と声の主であるゾロメ以外にパートナーのミクとフトシ、イクノの4人がいた。

ドックから降りて彼等の所に行ってみれば、どうやら共同戦線するに当たり交流を深めておけと26部隊に命令が下されたらしい。

26部隊のリーダーが13部隊のフランクス機体を見てみたいとのことで見学しに来たという訳だ。

 

「噂に聞いてはいたが、君達のフランクスはどれも武器や機体の形状がバラバラなんだね

 

「? どういう事でしょうか」

 

「基本的に機体も武器も一緒なんだ。これを見てほしい」

 

そう言って26部隊のリーダーは携帯端末を取り出し、ある画像を見せる。

それは一目見てフランクスと分かるのだが、13部隊のものと大きく異なっていた。

まず一つ目に挙げられるのが機体のカラーとデザイン。13部隊のフランクス4機は青、

ピンク、緑、赤、と様々だが26部隊のフランクスは基調とするカラーを黒一色に統一しており、デザインも明確な差がなく全く同じだ。

武装も形状は違えどもストレリチアと同じく『槍』に一貫しており、例えばデルフィニウムなら双剣、アルジェンティアならば鉤爪と武装に差がある13部隊とは真逆のスタンスと言っていいだろう。

 

「全部、同じですね」

 

「普通はそういうものだよ。武装もそうした方が連携が取れやすいしね」

 

ゴローの感想に対し、26部隊のリーダー……正式番号はCode090は先輩らしい解説を述べてみせた。

すると、このタイミングでゾロメがいきなりの挙手に出た。

 

「はい! 質問なんですけど、そっちの部隊でオトナになれたコドモっているんすか?!」

 

何の意図かと思いきやオトナに関してのもので、かなりボリューム高く聞いてくるゾロメに彼の隣と後ろにいたミク、イクノの二人は迷惑そうなジト目を送っていた。

 

「?? 君は何を……」

 

ダァァンッ!!

 

突然、何かを叩きつける音が格納庫内に響き渡る。一体なんだとばかりに26部隊とゾロメたちが音のした方向に視線を集中させて見れば、フランクスの修復や整備を行う整備士のオトナがどういったことか呻きながら二人ほど倒れていて、そこに小汚いボロの布切れで全身を覆い隠すように纏った謎の人物が立っていた。

頭部もフードを目元深くまで被っているせいで全貌が見えず、一目見た程度ではこの人物の性別。年齢。身体上に目立つ特徴など。

それらを把握するには至らない。

 

だが、一つだけ分かることがあった。

 

その人物の身体から発せられる、下手すれば火傷しかねない高温の蒸気。それをよく知るゾロメたちはこの人物がどういった存在なのかという情報だけは得ることができた。

やがて、発する蒸気に埋もれた人物はその手で蒸気を払い、纏っていた布切れを捨て去る

ことで“本当の姿”を晒け出した。

 

「こいつ、アマゾンかッ!!」

 

ゴローが怪人物の正体を叫ぶ。

 

一言で言い表すならば、“カマキリ”。そう断言できる逆三角形状の頭部と左右に備わった大き目の複眼。

緑の体色に背中から突き出した一対の節足は先端が鎌を彷彿とさせる形状をとっており、

鎌の部位には細かな針がびっしりと生えていた。

通常のカマキリがそうであるのと同じように単純な腕力で押さえるだけでなく、針を食い込ませる事で獲物を逃さないようにする為の役割を持っているのかもしれない。この個体を名称を“カマキリアマゾン”としよう。

 

「食ウゥ……ハァァァァァッッッ!!!!」

 

カマキリアマゾンは開口一番にそう吐き捨て、気を失っているだけの整備士たちを放置しコドモたちへと一直線に向かって来た。

 

“速い!”。

 

ついさっきまで10mは距離があったにも関わらず、カマキリアマゾンはその脚力をもって一気に詰め寄ったのだ。

背中の鎌がこちらに向かって引き伸ばされて来る光景を前にゴローはそんな感想を心の内側で叫ぶことしかできなかった。

アマゾン戦のおかげかゾロメたち13部隊は急なアマゾンの出現に驚きこそしたものの、パニックにはならず冷静に対処しようとするが、それを実行するよりも早かったカマキリアマゾンの足が圧倒的に速かった。

 

標的に定められたのはゴローだった。

 

ゴローに向かって引き伸ばされた鎌の節足は容易く彼を拘束し、獰猛で凶悪性秘めた口部でその血肉を貪ることだろう。

 

誰が見ても“間に合わない”と即決する状況の中で、“彼は間に合った”。

 

ガギィィンッッッ!!!!

 

金属がぶつかり合うような甲高い音が響き、予想していた苦痛が一向に訪れないゴローは

不思議に思い反射的に閉ざしてしまった両の目を開けた。

 

「やれやれ。叫竜との大きな戦いが迫ってるってのによぉ、節操もなしに出てくんなよ」

 

聞き慣れた気怠げな男の低い声。鷹山が変身するアマゾン・アルファが前腕に備わった鰭状の刃、アームカッターで二本の鎌を防いでいた。

 

「離れてろ。こいつは、俺が狩る」

 

そう指示を出すとカマキリアマゾンの鎌を力ずくで押し返し、その分厚い黄緑の外骨格に

覆われた腹部へと拳を食らわせた。

 

「ギィッガァァッッッ!!!!」

 

苦悶の声を漏らすカマキリアマゾン。

やられてばかりではないと言わんばかりに背の節足二本を引き伸ばし、両鎌を利用する事でアルファを捕らえようとする。

 

「ハッ!」

 

それをアルファは、鼻を鳴らして嘲笑う。

 

小賢しいとでも言いた気だ。

 

「甘いんだよ!」

 

アームカッターが横薙ぎに振るわれ、両鎌が節足と分離。勢いをつけて、黒の鮮血を踊らせながら噴射し吹っ飛んでいく様はまるで、その手の玩具のようだ。

 

「あ?」

 

これで終わらず、続いて繰り出さそうとした追撃をもってトドメにしようとしたアルファだが、それを実行に移す前にカマキリアマゾンはなんと体組織が崩れ、そのまま液状化して死んでしまったのだ。

 

「どーなってんだ?」

 

アマゾンは中枢臓器へ損傷、あるいは破壊することで初めて死が明確なものとなる。いかに首を切られようと、身体を半分に切り裂かれようとあくまで“仮死状態”になるだけ。

回復に要する時間さえあれば何度でも蘇るというわけだ。

しかしこのカマキリアマゾンは、アルファが中枢臓器に損傷を与える前に、両鎌を切断した程度でその命失ってしまった。

これは、極めて異常な事だと言える。

 

「……はぁぁ。また面倒な事が起こりそうだな、こいつは」

 

異常な事に未曾有の事態は付き物。

決して良くはない事が起こることを予感しつつ、元の姿に戻った鷹山はその手に付着した

黒い血を嫌々と払った。

 

『緊急警報!

アマゾンの出現を観測!数3体! 繰り返えします! 13部隊ミストルティンにアマゾンの出現を観測!』

 

「言ったそばからコレかよ!クソが!」

 

忌々しさを隠さず吐き出すアルファはこちらゾロメたちの元へと急ぎ足で歩み寄った。

 

「お前らはさっさと避難しろ。26部隊の先輩方連れてな」

 

「お、俺たちも戦うぜ!!」

 

「必要ない。3体だけなら俺だけで十分だ」

 

ゾロメの戦意奮起ばりな進言に対し、取り付く島もないとばかりの淡々とした口調で無用と答える。

 

「で、でもよ……」

 

それでもゾロメは渋るようだった。あの駆除作戦での戦いのせいかアマゾン相手でも負けない自信が付いたのだろう。

その為の武装もある事も助長させているのかもしれないが、それでも彼等の本当の役目は

叫竜を殲滅し都市を守る事。

今回のキッシングは13部隊が経験したことのない大規模な叫竜との戦闘になるのであれば、体力を温存するに越したことはない。

 

それを考えてアルファは一人でアマゾンを狩る腹積もりでいるのだ。

 

ゾロメの頭に異形と化したその手を乗せて、くしゃりと。軽く髪を掴むようにして優しく撫でるアルファは口調とは裏腹に、そこから穏やかな言葉を紡ぐ。

 

「心配すんな。別にお前らが力不足ってわけじゃない。叫竜を相手に大きな防衛戦っつー本番があるんだ。無駄な前哨戦はするな」

 

そう言い残し、手を離したアルファは人間では有り得ない速度でその場を走り去っていく

その姿を呆然と見るしかない26部隊の面々は、何とか気を取り戻し090がゴローに質問した。

 

「アレも、獣人、なのか?」

 

「………いいえ。俺たちにとって頼れるオトナです」

 

少し間を置き、出てきた解答は090にとって

疑問符しか浮かばないものだった。

 

“頼れるオトナ”。

 

オトナを守るのはコドモの使命。

ならば、自分達がオトナ達に頼られるというのは彼でも理解できる。

だが、ゴローの言葉からではあの獣人にしか見えない存在が頼れるオトナとしか聞き取れない。

 

「早く避難しましょう。俺たちがここの避難区画まで先導しますから、付いて来て下さい

 

「あ、ああ……了解、した」

 

あれだけの事があったせいで、不安や恐怖等マイナスな感情が26部隊の全員の心に鉛の如く重荷としてのしかかっており、顔を見れば、それが容易く伺い知れるほど彼等の精神状態は決して良好的なそれとは言い難い。

だが、それでも取り乱すようなパニックにはならず、素直にゴローからの指示に従う26部隊はゾロメたちと共に13都市に設けられた専用の避難区画へ駆け出す形で向かい始める。

 

(他のみんなは、大丈夫なのか?)

 

ここにいないイチゴ、ヒロ、ミツル、ココロ。そしてナオミとゼロツーの6人の安否が気になる所だが、ゴローが個人的な私情で最も気にしているのはヒロとイチゴだ。

2人はゴローにとって、小さい頃ならいつも一緒にいた幼馴染と呼ぶに相応しい間柄だ。

それにヒロは……ゼロツーの呪いとアマゾン化の影響にその身を蝕まれている。何かあってからでは既に手遅れだ。

 

(落ち着け! 焦ったって何も解決しない!)

 

おそらく、6人はミストルティンにある宿舎の館にいるだろう。

当然、そこにアマゾンが出現したとなれば命の危機以外の何物でもない。それが分かれば今すぐにでもそちらへ駆け付けたいというのが正直な感情だが、代わりに向かっているのはアマゾン・アルファとなった鷹山だ。

自分達より速く、そして対アマゾン用武装を一個も装備していない自分達とは違い、辿り着き次第アマゾンとの戦闘が可能だ。

対アマゾン武装は厳重に特定の場所に保管しているらしく、使用にはハチの許可が必要となる。仮に許可が下りたとしても、今更取りに行っては大幅に時間を食ってしまう。

ならば、アルファに任せた方が無難で最良と言える選択肢なのだ。

 

“今は自分達だ”。

 

“連絡は安全を確保してからだ”。

 

焦燥に囚われそうになる自らに心内で強く喝を入れて、ゴローはただ走ることに専念した

 

 

 

 

 

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