連続投稿です。
アマゾンズのシーズン3やらないかな~とか思ってる自分がいますが、一応は劇場版でもう
完結しちゃってますからね……。
そんなこんなで、どうぞ。
時間を遡り、アマゾンの出現を報せるアラートが発令される数分前。ミストルティンに設けられた宿舎の館のラウンジにはヒロが読書に時間を潰し、丁度そこにイチゴが訪れる。
「何読んでるの?」
「うわッ!……イチゴ」
ソファーに腰を下ろし、本を読んでいたヒロにイチゴは後ろから軽く声を掛けたものの、
当のヒロはビクリと身体を震わせて振り向いてしまった。冗談抜きでびっくりした様だ。
戦いとなれば鬼の如くと言ってもいい程に凶暴的な獰猛さを発揮するにも関わらず、少し声を掛けた程度で驚くというギャップがツボに嵌まったのか、思わず吹く様に笑いを零してしまうイチゴ。
そんな少女にヒロは不満げな視線をジト目で送る。
「な、なに?」
基本的に一つの事に集中し過ぎるきらいが昔からある為、つい今までイチゴの分かり易い足音と気配に気付かなかった要因はそこに帰結しているかもしれない。
「ごめん。ちょっと今の面白かった」
謝りつつも面白おかしく笑うイチゴに、やはりヒロは不機嫌そうなジト目のままだ。
「まぁ、いいや。イチゴは26部隊の人達に会いにいかないのか?」
溜息を吐いて、普通に目を戻したヒロは26部隊との交流に行かないのかと問いを投げる
が、それを聞くとイチゴはどうも歯切れ悪そうな感じに答える。
「う、うん。絶対しなきゃいけないって訳でもないし……気になることがあったから…」
ヒロはこのイチゴに対して怪訝な思考を浮かべる。
イチゴは昔から誰これ構わず、言い切って立ち向かう気丈な性格の少女であることを“キョウダイ”とも言える間柄のヒロはよく知っている。
それはゴローも同じだ。
3人は幼い頃よく一緒に行動していた程に仲が良く、今でもそれは変わってはいない。
性格に関してはゴローとヒロとで過程は違っても今と比べ大分変わった。
ゴローは今こそ理知的で穏やかなオトナびた背丈と性格だが、幼少の頃は自身の力が及ばずとも気に食わない相手には問答無用で突っかかるコドモだった。
ヒロは、かつては神童と称されるほどの成績だったがある時期を境に落伍を辿り、知識欲旺盛で行動派な一面もなくなり、かつてヒロが始めた“名前決め”というコドモたちの間で流行った遊びをしなくなった。
そんな2人とは対照的に彼女は、良い意味も悪い意味もなく幼少の頃の性格のままだ。
負けず嫌いで、真っ直ぐ自分の気持ちを貫き通し、間違った事や敵意を持つ相手を前にして尚、勇猛果敢に立ち向かう。
そんな彼女が言い澱むというのはヒロにとって意外な一面を垣間見た気がした。
「それよりゼロツーは? 一緒じゃなかったの?」
「ゼロツーなら大事な用があるってフランクス博士の所に行ったよ」
「フランクス博士って、あのロボットみたいなお爺さん?」
パラサイトたちが搭乗する女性的フォルムを意識した人型ロボットの兵器。それを開発した老君の男性科学者。半身を金属のそれへと改造しており、ゼロツーにとっては保護者的立場でもある人物だ。
フランクス博士の存在は一般のパラサイトやコドモたちには知られておらず、当然ながら13部隊も同様で入隊式の日に会った際も、最初は一体何者なのか全く分からなかった程だ。
コドモたちにフランクス博士の存在を教えなかったオトナ側の理屈は単純に叫竜と戦えればそれでいいだけのこと。
合理的に考えて、わざわざ教授する必要性はどこにもない。
そうオトナたちが判断したからだ。
「それで合ってる、と思う………」
率直なフランクス博士の外見的特徴から妙な呼称で表現するイチゴに対し、ヒロは苦笑を
浮かべつつ答えた。
「そっか……何読んでたの?」
ヒロが読んでいた本に興味を持ったようで、それについて聞くと彼は本の概要を説明し始めた。
「刃さんから前に借りたアマゾンに関する図鑑に近い本だよ」
それを聞いて、本の中を見てみるとそこにはイチゴが遠目ながら見たことのある蜘蛛の姿を有したクモアマゾンの写真や、おそらくコウモリアマゾンと思われる写真が掲載されている。
その下には長い文章で写真に収められたアマゾンに関する情報が綴られて記録されており
、身体的特徴や能力。有効的な戦術・戦法。基本的行動など様々に記されていた。
「もしかして、今後の為に?」
「……うん。刃さんだけに任せっぱなしも嫌だからさ。俺も……アマゾンなんだし」
そう答えるヒロはどこか気持ちを沈下させ、まるで自分は人間ではないとでも言っているかのように聞こえた。
その姿にイチゴは胸の奥に抑えのようのない気持ちが沸き起こるのを感じた。
「ヒロは人間だよ!」
気が付けば自然と声が出ていた。
「これまでだって何度も助けてくれた! 私やみんなを! だから…」
激情を乗せた勢いに任せて出た言葉は他でもないイチゴの気持ちであり、本心だ。しかし
すぐにハッとしてその勢いを縮小させてしまう。
「ご、ごめん。いきなり……」
「……ううん。ありがとうイチゴ」
ヒロの表情に怒りや苛立ちなどなく、あるのは感謝だった。彼自身、自分が人間だと信じられず、このままアマゾン化の影響が強まれば近いしい者達……13部隊のみんなに牙を剥くかもしれない恐怖が拭えず心底で根を張っていた。
簡単には消せない。
もしそうだったなら、ヒロはこんなに悩んでなどいないのだから。理性の崩壊は人を人で失くす。人を獣に変異させ、倫理さえも歯止めにはならぬ存在へと成り果ててしまう。
だからこそ、アマゾンの本能に負ける訳には行かない。理性という砦が崩れれば後に残るのは人食いの獣と化した己と……。
かつて仲間だったモノらが辺り一面に転がる地獄絵図のみ。
「……ねぇ、もしかしてさ。何か隠してる」
「えッ!?」
心臓の鼓動がより一層跳ね上がった気がした。
そんな錯覚を感じる程にイチゴの言葉は、ヒロに大きな動揺を齎した。
「最初は、ただ単に調子が悪いんだと思ってた。顔色悪いし……ちょっと元気ない感じが
してたし」
「俺は別に……」
「お願い。はぐらかさないで」
イチゴの両手がヒロの肩に乗ったかと思えば、押さえるように掴む。
ヒロの困惑と動揺が交差する顔が映る彼女の瞳には、溢れ出る強い情念を隠そうとはせず
、むしろそれを曝け出すことで一種の威圧感として言い訳も何も言わせないつもりでいた
。
どう答えればいいのか、とヒロは迷う。
普通に言えればそれに越したことはないのだが、言ったら言ったらで相応のリスクが降りかかる。
パラサイトとしての資格の剥奪。
隔離・処分。
考えられる結末はヒロの中ではこの二択で、どれもが最悪のシナリオと言っていい。
パラサイトとしての在り方は今のヒロにとって生き甲斐そのものであり、みんなを守れるという誇りは彼にとって大きなものだろう。
それを剥奪されるのは、容認できない。
隔離や処分に関しては仕方がないとして諦めている。何故なら自分はアマゾンで、人間ではないと認識し始めているヒロにとって自らは仲間をその牙にかけかねない危険な存在。
なら、殺されても何も言えない。
仲間が死ぬ位なら、自分は死んだ方がいい。
それが人間と言ってくれたイチゴの気持ちを無為に捨て去るも同然とヒロはきちんと理解していた。人間だと言ってくれた事が嬉しかったのは、間違いない。
だからこそ彼女を自らの手で殺すようなことはしたくないのだ。
ともかくイチゴに一旦落ち着くよう言おうと口を開きそうになる前にヒロは、ある感覚に襲われた。それを明確な言葉で表現するのは難しいが、強いて言うのなら……。
“ゾワりとする”だろうか。
ヒロにはこの感覚を知っている。アマゾンと相対する時、あるいは近くにいる時に感じたもの。
即ち“アマゾンの気配”だ。
「ッッ!! ごめん!!」
半ばイチゴの手を強引に払い除けて、すぐ側に置いていたアマゾンズベルトを手に、その
まま出入り口の玄関へと駆け出す。
「ヒロ!」
悲痛な叫びが後ろ髪を引かれるが、今はそれどころじゃない。アマゾンが出た以上、戦わなければならない。
『緊急警報! 第13部隊のミストルティンにアマゾンの出現を観測!数3体!
繰り返えします! 13部隊ミストルティンにアマゾンの出現を観測!』
警報を告げる声とアラート。
それによって、ヒロの中でアマゾンの出現が正しいものだと確証を帯び、駆ける足取りを早めた。
“方向は真っ直ぐ”。
“そこに奴等はいる!”
より感覚を研ぎ澄まし、ひたすら走る。
やがて雑木林の茂みに計三つの影を見た。
アマゾンの気配は、その影から発せられると言う事を瞬時に理解したヒロはベルトを腰に巻きつけ、グリップを握り吼える。
「アマゾン!」
緑色の蒸気が沸き起こり、ヒロの姿がアマゾン・イプシロンへと変異を遂げる。
そしてアームカッターを構え飛び上がった視線の先には案の定アマゾンはいた。その姿はアルファが対峙し始末したカマキリアマゾンの別個体だった。
その証拠に3体全てが『カマキリアマゾン』としてカテゴライズできる形態を持ち、緑色の体色だった個体とは違い、こちらは褐色、赤、黒と3体それぞれで体色が異なっている
。
また、カマキリのような前足は背中にはないが代わりに腰の左右側面にそれが付属されており、そうなっているのは褐色のカマキリアマゾンのみで他の赤、黒のカマキリアマゾンにはなかった。
『キシャアアッッッ!!!』
赤のカマキリアマゾンが右腕を大振りに繰り出し、その拳でイプシロンの顔面を狙う。
それを横へ仰け反ることで回避したイプシロンは、繰り出された拳の手首部位を左手で掴んだ。
そして、素早く首筋に右腕のアームカッターを切り付けるとそこから噴水の如く黒い鮮血を噴き流し、しばらくしてカマキリアマゾンは液状化することでその生命活動を停止させた。
「え?」
イプシロンは違和感を覚える。
首筋を切り付けた程度では、アマゾンにとって明確な致命傷にはならず、回復が早い個体なら容易く自己治癒してしまう。
中枢臓器へ損傷を与える事で始めてアマゾンに有効的な死を齎すことができる。
だが、そうはならず、カマキリアマゾンの赤色個体は中枢臓器には何もしていないにも関わらず、死んだ。
(考えるのは後だ!)
疑問は湧くが一々考えてる暇はない。
今度は黒色個体のカマキリアマゾンが両手首から緑色の液体を分泌し、それが瞬時に鋭いギザギザとした刃部を有した鎌の形状へ硬化。
それを武器に切り掛かるが、どうにも筋は雑のそれとしか言いようがなく、基礎からなっていない滅茶苦茶な動作である。
よって、避けるのは非常に簡単だ。
だが、敢えて防ぐと言う手段を取った。相手の力を測る為だがアームカッターと鎌が折り重なるようにして衝突した時、こちらへ押し掛かる圧力からこの個体のランクを推定ながらも割り出した。
(Eランク、位かな。なら大した敵じゃない!!)
力を押し出して鎌を払い除け、その隙に上半身の右肩から下半身の左側腰部まで袈裟斬りにアームカッターを振るい、カマキリアマゾンの血肉を引き裂く。
身体は分断されてはいないものの、中枢臓器は確実に真っ二つだろう。
だが……。
『◾︎◾︎◾︎ーーーーーーッッッ!!!!』
身体が液状化したものの、半端の状態で終わり、あろうことかイプシロンに組みかかって来たのだ!
「なっ?!」
驚きの声がイプシロンから漏れ出す。
確かに中枢臓器を機能停止に追いやるほど破壊した筈が、何故か生命活動を止めず、イプシロンの身体を覆うようにして纏わり付いて来る。
まるで……
“身動きを封じる事が目的であるかのように”
「クッ!」
気づいた時にはもう遅い。
褐色個体がイプシロンの後ろへと回り込み、腰部の両鎌をハサミのように交差させている
。鎌の凶刃にやられては軽いダメージで済む保証は何処にもない。やられるとイプシロンは思い、相応の覚悟をしたものの、それは杞憂に終わる。
「◾︎◾︎◾︎◾︎ッッッ!!!!」
苦痛を込めた人のそれとは思えない声がイプシロンの聴覚器官に届く。
振り返れば、今まさに自身を凶刃にかけようとしたカマキリアマゾンは、横からの力の介入に押されて吹っ飛び、のたうち回っていた。
「よぉ、ヒロ」
呑気に声をかけるのは、赤くピラニアを彷彿とさせるライダー、アマゾン・アルファ。
どうやら、力の介入の正体はアルファだったようだ。
「じ、刃さん……」
「まっ、言いたい事は多々あるが……こっちが優先だ」
鋭い野獣の如き視線で褐色個体のカマキリアマゾンを睨む。気付けば、黒色個体は糸の切れた人形のように崩れる様に倒れ込み、その身から動きの一切が途絶える。
即ち、ようやっと死したのだ。
「痛イナァ……邪魔スルナヨ」
男とも女ともつかない、濁った感じの機械的な声が褐色個体から発せられた。
イプシロンは驚くが、アルファは大して驚愕の様子は見えず、それどころか逆に軽い口調に挑発的な言葉を乗せ、カマキリアマゾンに向けて吐き出した。
「なんだ喋れるのか? てっきり頭が皆無だと思ってたが」
「死ネェェッッッ!!」
あっさり挑発に乗った褐色個体は、禍々しい牙が配列する口部を花弁のように開き、そこから赤色の液体を弾丸のように射出する。
アルファとイプシロンは咄嗟に左右別方向に横へと跳んで躱すが、赤色の液体は地面に着弾すると同時にかなりの高熱を放出し爆発。
それを見た2人は、液体が起爆性の高い物質だと判断し警戒を強める。
「ハァァァァァ………」
プシュゥゥ。
そんな排気音を奏でながらカマキリアマゾンは、2人の出方を伺う。どうやら、起爆性の
物質の射出による攻撃手段は連発は無理らしく、相応の時間が必要らしい。
その隙を見逃さず、鷹の目で捉え把握したアルファはグリップを握る。
『バイオレント……スラッシュ』
ギガを足首に集中させ、一気に解放することで爆発的な推進力を生み出す芸当がアルファには可能だ。
その速さは、まさに風そのもの。
跳躍すると同時にそれを利用することで瞬く間に相手へ急接近を成功させ、とは言えカマキリアマゾンはそれに対応できず、肥大化したアームカッターが問答無用でカマキリアマゾンの首を地へと落とした。
そして、中枢臓器は無事なものの赤色個体と同じ様に液状に融解。死に絶えた。
「……やっぱ妙だな」
前に倒した緑色の個体と同じく、中枢臓器をやられていないにも関わらず死んだ。
これが全く関係ないなどと断言できる筈はない。
何か…見えない存在が暗躍している気がしてアルファは不安を安易に拭えなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ、グゥゥッ!!」
元の姿へ戻ったヒロは胸を強く押さえ、そのまま倒れ込んでしまう。
それに気付いたアルファはすぐさま鷹山の姿へ戻り、急いで容態の確認を行う。
制服のファスナーを下ろし開いて青く肥大化した心臓を見てみる。数時間前に見た時と比べ特に変わってはいない。
だが彼の息は荒く、顔色も青白としていて、良好的な血色とは言い難い状態だ。
更には高熱を患っているらしく、推定ながら50℃はあろうという高まり過ぎた体温故に大量の汗を流し、素人目でも見ても危篤状態に近い域に達しているのは分かる。
“思ってたよりヤバいじゃねーかよ!”
内心そう吐き捨て、すぐさまヒロを両腕で抱えた鷹山は医療施設へと急いで向かった。