11月に入って寒くなりましたが……寒さに負けず、バリバリ頑張って執筆する所存です。
では、どうぞ。
『さて。報告を聞こうかの』
フランクス博士はそう言って、ハチとナナ。
そして鷹山の3人を画面の向こう側から一瞥し、定例の報告事項を聞こうとする。
ミーティング・ルーム。
鷹山、ハチ、ナナ、博士等のそれなりの地位を持つ者でなければ入る事は許されず、当然プランテーションの一般市民やコドモは許可なく入ることなどできない。
その一室にて恒例の報告会が設けられていた。
『まず聞きたいのは先のアマゾン駆除作戦において現れたアマゾンについて、鷹山よ』
「んじゃ、言わせてもらう。あの駆除作戦で現れたアマゾンはカテゴリーで考えると不明としか言えん」
『前例がないということか?』
怪訝な感情を乗せて問いを投げるフランクス博士に鷹山は頷き、話を続ける。
「まず、人型じゃないことだな。アマゾンは異形なんて言葉がピッタリの姿だが、共通としてどれも人型のそれだ。あのアマゾンはイソギンチャクをまんまデカくしたような感じだ。到底人型とは言えない」
アマゾンが動物の意匠を有するのは獣人体となる前……細胞レベルのサイズの段階に生物に寄生する形で遺伝子情報を手に入れる為だ。だが、そうであるならば可能性の一つとして別に人型でなくても、獣のそれに近しい形態のものがいても可笑しくないのだが、人型なのには理由がある。
アマゾン細胞の核にはアマゾンとしての遺伝情報物質が内包されており、これに関しては人間や他の生物も一緒だ。
しかしアマゾン細胞の核内部にはそれだけでなく、人型の設計図を司る『HA核酸』があり、共通してる人型を取っているのはこれに由来している。
「そんで、どういう理屈か身体が融解しなかったおかげで色々調べることができたよ」
「何か分かったのですか?」
ハチがそう聞くと鷹山は敢えて感情を押し殺すように淡々と答えた。
「アレは、元は人間の子供だった。それも間違いなくコロニー出身だろうな」
「「ッ!!」」
『……………ふむ』
それぞれが反応を示す中で鷹山は更に言葉を紡いだ。
「“ママ”って言ってたのが証拠だ。プランテーションの子供がこの言葉を知ってる訳ないし、アレは完全に助けを求めてた……それを俺は……」
鷹山の声が若干震える。それに自ら気付いたのか口を一旦噤み、すぐ元に戻した。
「それだけじゃねぇ。DNAもアマゾンのものと形態の元になったイソギンチャクだけじゃなく、人間の子供も混じってた」
『ふむ。人間をアマゾンに変え、その性能をテストする為にこのセラススを実験場にしたと見るのが妥当か?』
淡々と。あくまで合理的に述べるフランクス博士だが、ハチやナナ、鷹山はそれについて指摘するような真似はしない。
確かに人として感情的に憤怒しかねない事柄なのだが、ここでそれを発露した所で一切何も得ない。今、この場において必要なのは、感情に縛られ振り回されることのない合理的思考と冷静な判断力だ
。
しかし鷹山とて胸糞悪さを嫌と言うほど感じていない訳ではない。自分の故郷たるコロニーの子供が実験材料にされているのだ。
いや、今回に限った話ではない。
影に紛れ、コロニー内へいつの間にか潜伏し、秘密裏に暗躍するヴィスト・ネクロ。連中が今までにどの様な事をして来たのか、鷹山はよく知っている。
ある時は、特定の建物・施設を狙った破壊によるテロを。またある時は、孤児院を偽り、子供を実験材料として組織へ密送。
他数々の悪しき所業を連中は意に介さず行って来た。
巧妙に幾重にも隠蔽することでコロニー内の治安を維持する警備組織の目を欺き、彼等が勘付いた時には既に事を終えている。迅速な対応と優れた諜報活動は並ならぬものだと言う事実が悔しい所だが、そこは認めざる得ない。
警備がより一層厳重に強化され、セキュリティも強固なものになったおかげか一年前から工作・破壊活動は鳴りを潜め、今となってはその足音を消し去っている。
だが、居なくなった訳ではない。
水面下では少なからず暗躍している筈なのだ。
「かもな。多分だが……あのザジスって幹部が襲撃して来た時に仕込んだんだろ。混乱に乗じて何かをするには、あの時の状況が最適だしな」
『まぁ、この件に関しては後々調査すればいい。さて問題なのは……』
「ヒロのことだろ?」
次の課題へ移ろうとしたフランクス博士の言を遮る形で先手を打った。
『状態は……聞くまでもないか』
「血中の黄血球が異常な数値にまで上昇していました。あくまで可能性の話なのですが、おそらくあと一回で命を落とすでしょう」
ハチは、残酷な言葉ながら相変わらず顔色一つ変えず、ただ事実のみを報告した。それを
聞いたフランクス博士は、むぅぅと唸るように一息つく。
『code016ならばと思ったが……彼もダメだったか』
「パパからゼロツーの帰還命令が届いています。これを機にヒロとパートナーを解消すべきでは?」
ナナからそんな意見が上がる。
だが当然だ。あと一回で命を失う危険性があり、尚且つ、ゼロツーは七賢人から直々に帰還命令が下されてしまっている。
それも1人で、だ。
老人らはヒロにゼロツーのステイメンとして絶対性があるなどとは微塵も思ってはいない。
あくまで価値を見出しているのは彼の第二の姿であるアマゾンとしてに過ぎず、むしろ“穢れた獣の血”を持つヒロとゼロツーがパートナー同士として交わるのに関して嫌悪感を抱いており、今回の帰還命令にはそういった思惑もあるのだ。
「どういうことだよナナさん。あいつのパートナーは、ヒロで決まったんじゃないのか?」
「状況が変わったらしいの。今まで出現率が稀な大型叫竜が頻繁に見られるようになったの。それも小型や中型を引き連れた群集状態よ。通常のパラサイト部隊じゃ無理だわ」
「よって一般パラサイトを上回るナインズの力が必要になります。そこにゼロツーも加われば、優位性をより盤石なものにできます。恐らくそれがパパたちの考えでしょう」
怪訝な表情を浮かべた鷹山の疑問に答えたのは、ハチとナナだった。
叫竜の全長・体長は極端な大小やその中間に位置するものまで様々とあり、大きさで名称が付けられている。
例えば、ヒロとゼロツーが2人で初めて討伐した叫竜は中型のモホロビッチ級。通称モホ級とも呼ばれ、フランクスより数段小さければコンラッド級となる。そして、フランクスより遥かに大きく馬力や頑丈さでも上を行く個体はグーデンベルク級。
それよりも更に大きい個体はレーマン級になる。山そのものと錯覚してしまうほどの超が付く大型でで、このレベルになるともはやフランクスでも殲滅は不可能。
都市一個を犠牲にするか、フランクスを犠牲に最大速度で逃げ切るかの二つに一つしか選択肢がない。
ナナの言っていた最近になってよく見られる個体はグーデンベルク級のことを指していて、最悪だがその周りを手下のようにモホやコンラッドが取り巻きとして追従していた。このように群れを成して来るのはプランテーション同士のキッシング時のみだったが、どういう訳かキッシングではないにも関わらず、徒党を組み襲撃するようになった。
今までにない物量戦に対し、1部隊に男女で5組10人で計5機のフランクスで戦うパラサイトたちでは歯が立たない。
そこで切り札となるのが“ナインズ”だ。
仔細な経歴は隠蔽され、単純な身体能力の面でも通常のパラサイトたちとは比較にならない力を有した七賢人直轄の親衛部隊。
ゼロツーもかつてはこの部隊に所属していた身なのだが、本人はそれを忌々しく思っている為、その話題に触れると徹底して無視を決め込むと言う困った癖がある。
無論ながらメンバーに対しても、だ。
とにかくナインズは頻繁に出現するようになった大型叫竜やそれが率いる中型小型の群の討伐の為、世界各地を巡りその任を遂行している。
ただ現状ではいかに上手くこなしているとは言え、いくらナインズでも相応の負担があるのは間違いなく、それが原因で万が一という可能性も否定できない。
ならば、負担軽減と同時に戦力強化を図る目的でゼロツーを帰還させるのが妥当な手段だ。
「とは言っても、今回のキッシングでこっちに向かって来ている叫竜の中に大型個体の存在を確認されてるから、ゼロツーの帰還は作戦終了後になるそうよ」
叫竜の大型個体となるとグーデンベルク級だろう。未だ大型個体討伐の経験がない13部隊には荷が重過ぎるばかりか、最悪、全滅も考えられる。ベテランの先輩たる26部隊がいるとは言え、今回は大勢の叫竜が押し寄せているのだ。
圧倒的戦力と成り得るストレリチアの存在は、この作戦で優位に進める為には、捨てられない。
それ故に作戦にだけは参加させるようだ。
『…………ゼロツーは、まだここにいるべきだ。ワシの方からジジイ共へ説得してみよう。どうなるかは結果次第だがな』
「爺さんの意見に一票」
フランクス博士は、帰還などさせんと言っているに等しい言葉を述べて、鷹山はそれに同意する姿勢を見せた。
「………はぁぁ。貴方は相変わらずなのね」
ナナは、まるで鷹山がこういった態度に出る事を既に予測していたかのような諦観的とも取れるような口ぶりで溜息を吐く。そんな彼女の顔は、呆れた、と言うワードを表情として無意識の内に出していた。
補足すると、ここで敢えて非難めいた言葉を口にしなったのは、鷹山という男がどの様な性格の持ち主なのかを長年の付き合いと言う、培って来た経験則から知り得ていた。ナナ本人が聞けば、あーだこーだと誤魔化して否定してしまうのだろうが。
「でもヒロを見殺しにする気? このままじゃヒロの命はないのよ?」
切り替えるように視線を鋭くし、ナナは問い質す。彼女とて人としての倫理はある。
故にヒロとゼロツーがパートナーの関係にある現状を良しとはせず、両者の解消が望ましいと自己ながらに判断している。
命を優先する、という意味ではナナが正しい。
ゼロツーの性質は呪いと蔑称されるほどに本人にとっても忌々しく、消し去りたい業。
ステイメンの命を喰らい、相応の反映として戦闘能力が急激に向上するがその分、デメリットとして一回の戦闘につき1度限りという法則的制約がある。
よって、何度もステイメンと搭乗することは叶わず、それを強いると言うことは、ステイメンに私の為に死ね、と残酷な宣告を下しているも同じなのだ。
「アイツはきちんと自分が死ぬことを理解してる。それでも、あのじゃじゃ馬と乗ることを選んだ。ならそいつはアイツが選んだ道。俺やナナさん…爺さんやハチがウダウダ言うことじゃない」
ぬらりくらりとした、普段の雰囲気を微塵も残さず、消し去る。その上で鷹山は自らの視線をナナの視線へと衝突する形で講釈を垂らさず
、自身の思惑を言葉介さずに伝える。
より分かり易く言えば、アイコンタクト、と呼べばいいだろうか。
「………あ〜もう! 分かったわよ! 私の負けよ!!」
癇癪を起こしつつ、ナナは鷹山とフランクス博士らの意見に賛同する事となった。
「但し、あくまで帰還命令が却下された場合のみです。もし却下されないのなら……ゼロツーはヒロとのパートナーを解消し、本部へ帰還してもらいます」
『うぅむ……まぁ、説得が上手くいかなければ、最悪そうなるのは致し方あるまい』
渋々と言った風情にフランクス博士は言う。
「あと一つ、言っておきたい事がある。今日出てて来たアマゾンについてだ」
「カマキリに似た姿で、鷹山博士とcode016が倒したと報告は聞いていますが」
「あー、まぁ、その補足だ」
まるで、これから起こるかもしれない面倒事を想像するように鷹山は、気怠げにカマキリアマゾンに対しての違和感を報告した。
『なるほど。確かにそいつは妙な話だ。中枢臓器は叫竜でいう所のコアで、それが生命の維持において、どれほど重要な器官かは言うまでもない。通常ならば、そこを破壊されて死に至るが……』
「そのアマゾンはそうはならなかった」
フランクス博士の言葉を、ハチが引き継いで答える。両者共に表情は全く変わりないものの、疑惑を孕んだ声は2人の心境を露わにさせていた。
「確かアマゾンは中枢臓器を破壊しないと死なないんじゃなかったかしら?」
「ああ。アマゾンは普通の生き物と違って頭を落とされようが、ヤバい致命傷を負ったとしても完全には死なない。まぁ、その個体が極度の飢餓状態だったら話は変わるけどな」
ナナの疑問に答えた鷹山は、更に続けた。
「アマゾン細胞が一時的に活動を停止させて、エネルギーを逃さないよう貯めてカプセル状態になるわけだ。そのエネルギーを再生や治癒に当てて復活する。その時間は個体差で違うけどな」
アマゾンが中枢臓器の破壊以外、核兵器相当のものを使わないと殺せない程の不死の如き
性質の由縁は、エネルギー保存とその活用に
ある。
タンパク質を摂取することで得たエネルギーを逃さず、一定量を内部に貯蔵。仮死状態に陥った際などの緊急時にそれを解放し、自己再生機能をより向上させる。
人間に比べ回復が早いのは、このような理由があるが故だ。
逆に言えば、エネルギーが十分に蓄積されていない状態では、自己再生は人間のそれと同等に下がってしまう。
「話が逸れたな。まぁ、何が言いたのかってーと、殺すには中枢臓器を潰すのが一番だ。
で、そうしなかった、致命傷とは到底呼べない筈のダメージで死んだ。この意味が分かるか?」
「……可能性として上げるならば、アマゾンモドキに近い存在……劣化クローン?」
クローンは、同一の起源を持ち、尚かつ均一な遺伝情報を持つ核酸、細胞を有する個体。もとはギリシア語で植物の小枝の集まりを意味するκλών klōnらしい。
謂わば、もう1人の自分に近い他人だ。
「まぁ、有り得るな。無性生殖の応用で自分の複製個体を生み出せる能力を得たアマゾンがいてもおかしくない。それだけアマゾンの
能力は多岐に渡る」
「ともあれ、情報が不足しています。現状は警戒を上げセキリュティーを厳重にすると共にアマゾンに関する調査をお二人にお願いします」
『ふむ。承知した』
「ついでに、出た時は俺が狩る。ヒロの奴には“本番に集中しろ”って言っとけ」
鷹山はハチにそんな言伝を頼んだ。ぶっきらぼうながらも、ヒロを思ってのものだろう。
それを知っているからこそハチは特に何も言わず、了承した。
『む、時間か……失礼する』
フランクス博士を映していたモニターが消える。通信が終わった事を告げるそれは、同時にこの報告会の終了を意味し、3人はそれぞれの持ち場へと戻る事となった。
※ ※ ※
「では、これよりブリーディングを始める」
ハチの一言でブリーディング・ルームに粛然とした空気が張り詰める。数時間前にカマキリアマゾンの出現に伴い、ゴタつきはあったものの、事態は安寧に収拾。
パラサイトたちは13、26部隊と共に無事で全員欠ける事なく大きな怪我もせず、望ましい状態だったのだが、そこにヒロとゼロツーの姿はなかった。
ゼロツーは特別な検査があるとの事で、未だおらず、ヒロも危篤状態から意識を取り戻し回復を見せている。医療班からのOKが出ればブリーディングに参加できるらしいが、今の所はまだ分からない
それ以外の両部隊メンバーはきちんと集合し、全員が色々思う所は有れどハチの言葉に耳を傾けた。
作戦内容は以下の通りだ。
両都市に進路を変更することなく接近し続けている叫竜の群れを確認。その数やはり前例を考慮しての予想通り百単位に及び、正確に数えれば130体は観測できたらしい。
予想到達時刻は現時点での時刻から数えて、明日の午後7時頃と推定。
両部隊は午後6時30分に防衛ラインを展開し、前衛を26部隊。後衛を13部隊という配置に敷き襲い掛かる叫竜を撃破する。
そのような算段のものだ。
「えぇ?! 俺たち、バックアップって感じなんですか?!」
ゾロメから不満の声が上がる。
どうやら彼の中では先輩らと共に戦うつもりだったらしく、しかし実際にはあくまで後衛に回る役だった為、惜しいとばかりに残念な気分を露わにしたゾロメはバックアップという立場をよく理解していた。
そも後衛に回るという事は、万が一、討ち漏らした叫竜を処理するという実質的に尻拭いをやらされる羽目になるのだ。
そんな役回りを喜んで!と言って承諾できる程、ゾロメは下手に出るような質ではない。
「悪いね。君達は部隊発足からそれほど経っていないと聞く。経験では僕達の方が上だし
、安易に共闘するとこちらのペースが乱れてしまう。だから、きちんと分かれていた方が
効率がいいんだ」
それなりに言葉を選び、無論、嫌味のつもりは一切ないのだろう。だがそれでも、090の発した台詞はどうしても『足手まといは邪魔だ』と。暗に侮蔑しているかのように聞こえてしまうのは否めなかった。
少なくとも、ゾロメやミクはそう感じているらしく、その顔は虫でも噛み潰したように苦々しいものだった。
「また今回は戦況の悪化を想定。万が一防衛ラインを突破された場合を考慮し、この地点に単騎でも多数の叫竜を迎撃できるフランクスに待機してもらう」
ストレリチア。
言わずともそのフランクスの強さに関しては直に見ている13部隊にしてみれば、当然の判断だと言えるには十分。しかしどうやら26部隊はハチの言う一機が見当もつかないらしく、090が質問した。
「そんなフランクスがいるんですか?」
「ここには、ストレリチアを置く」
当然と発したハチのその言葉は13部隊にとって、大して何とも思わない程分かり切ったものだった。
だが、それを聞いた26部隊は違った。
見て分かる程に騒めき、リーダーである090を見れば、驚愕のあまり立ち上がってすらいた。
まるで悪夢だ、とでも言わんばかりに。
「そ、そんな……一体どういう……」
ことだ。そう最後まで言おうとした所で出入り口である自動ドアが音を立てて、開く。まず前に立っていたのはナナだった。
「遅れてごめんなさい。連れて来たわ」
その後ろに続くのはヒロとゼロツーの2人。
「大丈夫なのか?」
「ええ、問題ないわ。メディカルチェックはしたし、医療班からのOKも出てる」
「ま、待って下さい!!」
ハチとナナの会話に割って入って来たのは、困惑と激情を孕んだような切迫した顔の090だった。
「我々は、ストレリチアと一緒に戦うことは
できません! どうか、変更の検討を!!」
その狼狽した様子は先程までの彼と比べ、冷静さをかなぐり捨てて、感情をあるがままに吐き散らかしている。接した時間は少ないとは言え、それでも彼がこういった風に取り乱すような人物ではないと、そう印象付けていた13部隊に動揺を齎していた。
「作戦の変更はない」
「しかし! その女は!! 味方のことを顧みない無法者です! code002!!」
090は、視線をハチからゼロツーへ向ける。
その瞳は憎悪のそれで、ヒロがかつて見た前の彼女のパートナーと同じ負の感情が介在しているようで、少なくともヒロにはそう見えた。
「お前には身に覚えがある筈だ!!」
「……2年前の共同戦線でしょ?」
ゼロツーは、心中に何を思っているのか察することができない程のポーフェイスで、それは氷のような冷たさを孕んでいた。
「ああ、そうだ。お前が勝手に独断専行したせいで僕らは戦場で孤立した!
それだけじゃない……僕は」
“パートナーを失ったんだぞッッ!!”
精一杯に腹の底から絞り出した力を激情と共に解き放つ090の言葉は、あまりに衝撃的なもので、その悲痛な独白に堪らず、イチゴはスカートの裾を両手でぎゅっと掴んでいた。
ヒロもそうなるかもしれない。
そんな仄暗い気持ちも一緒のせいか、裾を握る手には普段のそれとは比較にならないほどの力が込められていた。
「………キミは、090だったよね? あの時は悪かったって思ってる」
ゼロツーから告げられた言葉は、淡々としたものではあるが、しかし声が微かに震えていた。
彼女なりに罪悪感はあり、それを表した彼女なりの謝辞なのだろう。
「でも、ボクには目的がある。あの時はそれを優先にしただけさ」
目的。ゼロツーにとってそれが何を意味するのか、またどういったものなのか。
それを今、この場で知る者は誰1人例外なくいない。彼女のパートナーであるヒロも、だ。ともかくゼロツーの言い分をある種の傲慢且つ不遜という印象に捉えてしまったらしく、不快に感じた090は怒りを収めず、ゼロツーに迫ろうとした。
「それで済むとでも…ッ!」
そんな彼の行動を間一髪で抑えたのは、ヒロだった。2人の間へ割り込んだ彼はゼロツーを庇う形ながらも真摯に視線を逸らさず、真っ直ぐ見据える。
「ゼロツーのことは俺に任せて下さい。彼女のパートナーは、俺ですから」
そう、ヒロは宣言した。
原作と違い、この小説のゼロツーは他者への配慮は一応あるものの、それでも目的の為ならば止むを得ず非情な決断を下す事だってある少女です。
原作と今作……前者を知っている方なら今作との違いを見て、どのような展開になっていくのか。それを楽しみつつ、読んで貰えれば幸いです。
ご感想待ってます!