ダーリン・イン・ザ・アマゾン   作:イビルジョーカー

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連続投稿です。どうぞ!


迫る嵐の前に… 後編

 

 

 

 

 

「落ち着いたか?」

 

「う、うん」

 

あれから数分程の時間が経ち、イチゴとゴローの二人は横に並んで玄関口の段へと腰を下ろし、座っていた。

さっきと比べ大分落ち着いた様子のイチゴにゴローはホッと胸を撫で下ろす。

対してイチゴは、申し訳なさと自身の醜態を信頼するパートナーに見せてしまった気恥ずかしさから、頬を赤く染めまた顔を下へ俯いてしまった。

 

「迷惑かけてごめん。大丈夫だから……」

 

「迷惑なんて思うかよ。それにお前がそんな状態だと、どうしても心配するだろ?」

 

ゴローの正論にイチゴは何も言えず、ただ己の浅慮に羞恥度が増すばかりだった。

 

「言ってみろ。パートナーに話したって問題ないだろう?」

 

「うん……」

 

本当ならパートナーの厚意に甘える自分に檄を飛ばしたくなるが、今の精神状態ではそうする事など到底できず。結局有りの侭に話すと言う結論に至ったイチゴはやや感情を吐き出しつつ、それでも正確に説明して見せた。

 

「……そっか」

 

淡白な回答と受け取られてもおかしくない素っ気ない態度のようだが、ゴローの心境は齎された情報による混乱に陥っており、それをイチゴ自身もよく理解していた。スタークのゼロツーに関する秘密は突拍子もなく非現実的な妄言、と言い渡されても文句のしようもない情報だった。

だがスタークが発していた、あの得体の知れない身を這い回されるような雰囲気が決して冗談の類等で言ってるのではないと。本能とでも言うべき感覚がそう告げていた。

 

「なんか……もう頭がぐちゃぐちゃ。私は、ただヒロに無理して欲しくないからゼロツーに頼んだだけなのに……」

 

訳が分からない。

 

イチゴの思いを言葉にするとすれば、これが最適で分かり易いだろう。

こう言っては難あるかもしれないがゼロツーの過去や今現在進行形で行われている自分達がまだ教えられていない大掛かりな何か。

 

そんなもの、イチゴにとってはどうでも良かったのだ。

 

ただ、ヒロが無事でいてほしい。

 

そんな思いを踏み躙る様にしてスタークは姿を現し、どういう意図なのか。

 受け入れ切れない情報をイチゴに与え彼女の心を翻弄した。

 

「もし……このまま、ヒロが……」

 

“死んじゃったら”。

 

言いたくない、認めたくなかった言葉を吐き出したイチゴを見て、ゴローはこれから先に待ち受ける決して望まない、嫌悪さえ抱きかねない未来を想像してしまった。

直後。背筋に気味の悪い悪寒が舐め這うかのような錯覚を死ぬことが理解できない訳ではない。それが永遠の離別であり、何をしようとも帰っては来ない現実であるという事は、イチゴもゴローも……13部隊全員が分かっている事だ。

 

 だが、それはあくまで“知識”として理解しているに過ぎない。

 

 情報のみで把握するのと実際に見て感じた上で把握するとでは明確な差があり、彼等はまだ“死”を間近かで見てはいない。その初めての死が“ヒロという少年の死”だとしたら、彼等にとってどれ程の絶望で、苦痛で、悲劇なのか。

 幼馴染と呼ぶに相応しい間柄のイチゴとゴローは、恐らく想像もできない地獄となるかもしれない。

 

「嫌! 嫌だよ……!! 私、ヒロに死んでほしくないッ!!」

 

 だからこそ。

 

 その結末を……イチゴは拒絶するのだ。

 

 とは言え、今の彼女にできることはこうして感情を発露し、ただ涙を流すのみ。それは悪く言ってしまうとほぼ無意味な事に等しいのだが、少なくとも精神的に抑えて溜めていたものを吐き出す、という意味では十分に必要な事だろう。

 そうしなければ、いずれ何処かで壊れてしまうかもしれないからだ。

 

(?!ッ……なんだ、この気持ち……)

 

 形容し難い感情が自身の心臓を掴むような、そんな錯覚を感じたゴローは堪らず胸を押さえた。

 本当にどう表現すれば分からない謎の感情。正直、戸惑いが大きいが自分はともかく、今はイチゴだ。

 

「アイツが言って止まってくれるかは分からないけど、とりあえず俺からヒロに言ってみる」

 

「……え?」

 

「アイツには、色々助けられた事があるんだ。俺だってヒロが死ぬなんてこと……あってほしくないんだ」

 

 ヒロに助けられた。

 そう語るゴローの横顔は、どこか遠くを見ているようだとイチゴはそう感じ、同時にその内なる心情に覚えがあった。昔ガーデンと呼ばれる施設にいた幼少の頃、ゴローは今と比べ周りに敵を作り喧嘩三昧という悪童を呈していた。

 パラサイトとしての成績が良かったおかげか、大目に見られてはいたものの、それでも手がつけられない程だった。

 そんな彼を変えたのはヒロであり、ある出来事を機に二人はイチゴを含めて親友になれた。イチゴにとってヒロはであり、憧れでもあったがそれはゴローも同じだ。だから助けたいと真摯に思えるし、その為の尽力に余念を抱くなどありえなかった。

 

「ゴロー……ありがとう」

 

 泣き腫らした目でゴローを見据えるイチゴは、感謝の言葉と共に嬉しさからまた涙が溢れ出てしまう。

 そんな彼女の頭をそっと。自分の手で優しくあやすように撫で始めた。

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 明朝。

 ミストルティンの湖畔は静寂に包まれており、鳥の囀りは勿論、虫の騒めきもない程だ

。そんな無音に近い湖畔にゼロツーは一糸纏わぬ姿でその半身を水へと浸からせていた。

 顔に張り付いている表情はその心意を図る事ができない程に無と化し、人のそれとは思えない妖艶な美しさがあった。そんな彼女から解き放たれる雰囲気は今の姿とは対照的過ぎるもので自分以外の存在に対する拒絶と敵意を表したソレだ。その攻撃的な気配に人間は愚か、むしろ人間より感覚に敏感な動物や魚などの生き物は自らの気配を殺し、悟られぬよう息を潜めている。

 

 だが、そんな彼女に近づく例外がいた。

 

「何やってんだよゼロツー」

 

 鷹山だ。

 彼は初々しい年でもそういった性癖もない為、別段ゼロツーのあられもない生まれたままの姿を見ても何ら思う事などなく、右腕の脇には彼女の特徴的とも言える赤制服の着替え用が挟まっていた。

 

「あーあ、着替え持って来ておいて正解だなこりゃ……」

 

 雨に濡れて泥濘んだ地面に無造作に置かれた下着や寝巻きは、当たり前ながら地表の水分を吸収し濡れており、更にオマケで泥が付着したせいで“汚れた着る物”という一品に仕上がっていた。

こうなる事を事前に予想していた鷹山の勘は、やはり長年の付き合いによる賜物なのかもしれない。

 

「とにかく上がれよ。風邪引くぞ?」

 

「嫌だ。もうちょっとこうしてたい……」

 

 鷹山の言葉を軽く一蹴するゼロツーに仕方がないとばかりに溜息を吐き、鷹山は近くの折れて転がっている大木へと腰掛ける。制服や下着類は挟んだままだ。

 

「で、何かあったよな?」

 

「別に」

 

「嘘つくなよ。お前がそうやって水や風呂に長く浸かる時ってのは、大概何か考え事してるってのが相場だからな」

 

 ゼロツーの否定を嘘だと逆に一蹴する鷹山は、既にゼロツーの行動に関して熟知してると言いたげな物言いだが、図星であるのは事実だった。

 

「……はいはい。言えばいいんでしょ」

 

 諦めたと言わんばかりの面倒臭さを滲ませた表情でゼロツーは、事のあらましを簡潔に説明した。それを聞いた途端、鷹山の顔に怪訝な心情が眉間の皺として現れる。

 

「アイツがか?」

 

「うん。ついでにナインズの方のアルファも付き添いで。まぁ、ヘドが出る位よく喋ってたよ」

 

 ゼロツーの声は平坦ながらも、言葉遣いから忌々しさが伝わって来る。確かにスタークという存在に良い印象など有り得ないし、そもそも得体の知れない何かがある。そんな相 手に好感や信頼を寄せるなど、以ての外だ。ゼロツーだけでなく大抵の者はそう感じるだろう。

 

「どうにもあのクソジジイ共は、ボクをここから連れ出したいみたいだね。絶対嫌だけど」

 

「同感だな」

 

 ゼロツーの気持ちに鷹山は同調を示した。

 

「俺はお前にここに残って貰った方がいいと思ってる。フランクスの爺さんも俺と同じだ

。その為にクソジジイ共の説得に行ってる」

 

 二人してプランテーションを統括する最高位権力者たる、七賢人をクソジジイ呼ばわりとは如何なものかと思うかもしれないが、誰かがどうと言った所でまともに聞かない性分を鑑みれば、諦めた方が無難というものだろう。

 

「……そうなんだ」

 

「………さっきからテンション低めだな」

 

 鷹山の指摘にゼロツーは煩いとでも言っている風に鬱陶しさを滲ませた目で睨みつける

 

「そう怒るなって」

 

「別に。刃兄って意外と無神経なんだなって思っただけだよ」

 

 怒ってんじゃーねか。

 

 喉までその言葉が出かかったが、話を拗らす訳にはいかず、そのまま飲み込んだ。

 

「……刃兄。ダーリンは、この戦いの後でも

一緒に飛んでくれるのかな」

 

 視線を水面へと落とし、突然そんな質問を投げかけて来るゼロツー。

 彼女の言う“この戦い”とは今日において実行される13・26の両部隊での防衛戦だ。正直な所、13部隊にとっては叫竜戦における未だ経験した事のない大規模な戦いである為、無事に生きて帰れる保証は何処にもない。

 彼女が選んだパートナーのヒロがその結末を辿る可能性は有り得るし、状態が状態だ。誰よりも真っ先に命を落とすかもしれない。その確率が非常に高い事実は受け入れる事ができなくとも、目を逸らし、決して彼方に忘れ去ってはいけない。

 

 それに対し、鷹山は……。

 

「知らん」

 

 なんと“知らん”の三文字だけで返答して見せた。

 

「……そこは、なんか気の利いた事言うもんじゃない?」

 

 非難するような物言いがゼロツーの水に濡れた艶かしい唇から紡がれるが、確かにあまりに適当な返答だろう。もっとまともな答え方があってもいいと思うが、それでも鷹山はそんな事など気にしない様子で話を続けた。

 

「それっぽく繕ったって意味ないだろ。肝心なのは努力と意志だ」

 

 腰を上げて立ち上がった彼はゆっくりとした歩みで水と陸地の境界線より少し先へと進む。靴先が水に濡れるがそれを気にする様子は一切なく、ただゼロツーを真っ直ぐ見据えるだけだ。

 

「説教臭え事をダラダラと垂れる気はないがよ、これだけは言うぜ」

 

 ゼロツーは息をゴクリと飲む。

 

「何かを望むなら、その過程で努力を尽くせ。努力つっても色々あるが例えば身体を使った行動的なもんだったり、頭ん中にある知識を使って考えたり……あるいは何かを捨てる覚悟だったり、な」

 

 最後の部分は、気のせいか何か思う所がある風に感じられたがそれも一瞬。

 変わらぬ真剣な口調で続ける。

 

「で、その努力がキツくても生半可で折れない意志を身に付けろ。そうすりゃあ、いつかは手に入るもんさ……大抵のもんはな」

 

 どこか含みのある言い方をする鷹山は、その両の瞳に鋭さを宿していた。彼の言うそれは世の理と言える法則のようなものだ。何事にも目的が生じたのなら、それを果たす為に必要な行動を起こし、過程の道筋が遠く困難だったとしても諦めない意志で臨まなければ成し得ない。

 実際、鷹山もそういった経験を過去何度もして来た身だ。時には諦めた事もある。目的の為に相応の代償を失うことで払って来た時だってあった。

 

 そういった人生の先達者だからこそ、彼は語るのだ。そして、先達の言葉を意味あるとして胸に留めておくのか。あるいは無意味だと嘲笑に附して吐き捨てるのか。勝手に思い決めつけるのが他者であり、この場合はまさしくゼロツーがそれに相応しい。

 

「……刃兄の言いた事はよく分からないけど、まぁ、覚えておくよ」

 

 どうやらゼロツーは前者だったようだ。

 

「そうかい。んじゃ、もういいか?」

 

「………うん」

 

 今度は拒否せず、縦に頷いたゼロツーは陸へ上がり、鷹山から衣服類を受け取り着替え始める。当然ながら一遍に上下や下着を一瞬の内に着てしまうと言う、魔法のような芸当はさすがに人間離れしたゼロツーでもできないので、面倒ながら一つ一つ着替える必要があった。

 そこで一旦、各衣服を鷹山が腰掛けていた大木へと置く。やや湿ってはいるものの、濡れる程ではない。特に問題はなかったのが幸いと言えるだろう。

 

「刃兄」

 

「ん?」

 

 着替えながら鷹山をいつも通りの親しい名で呼ぶゼロツーに対し、鷹山は疑問符を浮かべつつ答えた。

 

「ありがと」

 

「どう致しまして。じゃじゃ馬お姫様」

 

 ニカッとした明るい笑みと感謝の言葉に対し、冗談めいた返答と少し小馬鹿にしたようなニヤけ面。その光景は、二人が血で繋がっていなくとも兄と妹の間柄であるという事を物語っているのかもしれない……。

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 APE指揮下の第26都市であるプランテーション、クリサンセマム。多少建物の位置が異なるだけで、基本的には内部構造・都市の機能等は全く同一の為、変わり映えは皆無だ。

 そして、ここにもコドモたちの居住区であるミストルティンがあり、こちらもオトナ達が住む都市部と同じで相違点は特に無い。

 

「みんな。集まってくれて感謝する」

 

 コドモの生活拠点となる宿舎の洋館の居間には、今回の防衛作戦において13部隊と共に戦う26部隊の面々が全員余すことなく集い、真っ直ぐとした姿勢でソファーに座っていた。彼等の見据える先にはリーダーである090が立っており、司会となって賛辞の言葉を述べる。

 

「今回も予定通り、定例会を始めたいと思う」

 

 彼の言う定例会とは、簡単に言えば“コドモ達だけの作戦会議”という意味合いを含んでおり、主に叫竜戦における戦術の方針や策の立案。その他戦闘に関係する諸々を議題とし話し合うのが常で定期的に行われている他愛のない行事なのだが、合理的であるのは間違いないだろう。

 コドモたちが自主的に行なっているのが特徴で、ナナやハチといった作戦指揮を担うオトナは基本関与しない事になっている。

 

 何故なら、オトナはあくまで“戦略”を定める立場にあるからだ。

 

 戦術と戦略は似たようなニュアンスである為、あまり違いがよく分からないかもしれないがこの二つには明確な相違が存在している。

 戦略は、戦いに勝つ為に兵力を総合的・効果的に運用する方法で、大局的・長期的な視点で策定する計画手段である。一方で戦術は、戦いに勝つ為の戦地で兵士の動かし方など実行上の方策を意味する。

 戦略はあくまでオトナ……と言うより、正確に言えばAPEの最上層部である統制者たち七賢人と作戦司令官。あるいはその副官にしか権限はない。実際ハチも戦略としての指示は飛ばすものの、戦術に関しては13部隊に一任しているのが良い例だろう。

 

 基本、戦術方面はパラサイト部隊に任せると言うのが定番である。

 

 実際に戦場へと立ち、叫竜と命懸けの死闘を繰り広げるのはパラサイト部隊なのだから妥当の按配ではある。

 特にパラサイト部隊の中でも目を見張る戦績を築き上げた26部隊はその優秀な戦績が高く評価されており、本来なら立ち入れないオトナの都市部を一定区画限定だが見学でき

、自由行動や食事の時間の延長。娯楽品の支給・利用などある程度の自由が認められている。

 APEにとって有益な戦績という結果を残しているからこそ、こういった事が許可されており、逆に26部隊以外で同等の扱いを受けている部隊は他にもあるが極めて少ない。別格に位置する親衛部隊のナインズに至ってはゼロツーがそうであったようにS級クラスのIDを保有している位だ。

 

「今回の戦いは僕達がこれまで多く経験して来たのような大きな戦いと同等か、もしくはそれ以上になる可能性は十分考えられる」

 

 090の言葉に真剣な面持ちで無言を貫き、崩さない姿勢は13部隊にはない規律性を感じさせる。

 

「もし、倍の多さを考慮する場合、基本多用しているN戦術だと無理がある。共同戦線を張る13部隊もいるとは言え、正直彼等は未熟だ。過度な期待はしない方がいい」

 

 13部隊への辛辣な評価を述べるが、そこに感情は一切挟んではおらず、彼等の叫竜戦における戦績から合理的に下したものに過ぎない。

 そもそも叫竜との大規模な戦闘を5回も経験している26部隊にしてみれば、13部隊はヨチヨチ歩きの最中か、と表現できるレベルに過ぎないのだ。他の隊でも26部隊の様に大規模戦闘を5回も経験し、尚且つ、生還を果たした部隊は26部隊だけだ。

 その彼等が見たのだから否定はできない。

 

もっとも、生還に関しては“一人を除いて……”が付くのだが。

 

「だから、N戦術だけでなくJ戦術とB戦術の併用も考えてる。戦術一つだけではさすがにキツいと思うからね」

 

 090の言う三つの戦術。

 

 簡単に説明すると彼等が叫竜との戦いで使用し、そして他の部隊でも使われている一般的な“N戦術”。円陣に叫竜を囲い込み、武装であるポーンハスタは柄と刃がワイヤーで接続され射出できる薙刀型なので、それを用いて拘束。そこからマグマエネルギーを注入することで叫竜を倒すというもので、呼称にある『N』は“normal”から来ている。

 

 “J戦術”は、N戦術と同じように円陣を形成するがその際10〜30程の数の叫竜を囲う事を想定し、大きめに形作るように配置。そこから一気に跳び上がり、ポーンハスタのマグマエネルギーをチャージ。一気に弾丸ととして連続発射し、掃討する。

 跳び上がる事で急降下における加速を利用し、攻撃の威力を底上げするメリットがあると同時に連携が難しい為、失敗する場合もあるのがデメリットとなる。

『J』は“jump”に由来。

 

 “B戦術”は、マグマエネルギーを最大限に高めて機体を向上。その瞬発力を利用し迅速に叫竜を掃討する。『B』は“Burst”から取られている。

 

「これに関して質問はあるかな?」

 

 090の投げかけられた問い。26部隊各々の答えを述べる。

 

「特に何も」

 

「いいんじゃないか?」

 

「同意ですね」

 

「ああ、それで構わない」

 

「「大丈夫です」」

 

「問題はないわ」

 

「はい」

 

「……はい」

 

 全員の肯定。否定や異議はなく、この結果に満足した様に笑みを浮かべた090は、話を再開する。

 

「ありがとう。ただ注意事項としてB戦術は爆発的なパワーとスピードを発揮できるが、その分マグマ燃料の消費が著しい。使う時は戦局をよく見て問題なしと僕が判断した場合にのみとする」

 

 当然ながら否定はなかった。

 

 B戦術は、量産型フランクスの強化という目的でテストとして26部隊に実装された新機能“オーバー・システム”があって始めて発揮できる戦い方だ。一般部隊の量産型の強化は、今後APE側の人類史上において唯一と称されかねない大規模作戦『グランクレバス攻略』において必要な物だと言える。

 故に新たな力を齎し得るオーバー・システムのテストは非常に重要。

 緊張感や不安がないか、と問われれば嘘になるだろう。だがこの役目を与えられた26部隊は名誉な事だと誇りにさえ感じているのもまた事実である。

 

「よし、なら解散だ。各自予定時刻まで英気を養い、きちんと睡眠を取るんだ。いいな?

 

『了解!』

 

 覇気に満ちた声と共に頷く26部隊のメンバーたちは、ソファーから立ち上がり、各々がそれぞれ自由行動に入る。

 

 ただ、一人だけ残る者がいた。

 

 090の“現在のパートナー”である081だ。ソファーから立ち上がったものの、顔を下へと俯き、両手で拳を作り何処か震えている様子だ。

 当然その事に疑問を抱いた090は声をかける。

 

「どうしたんだい081。何処か悪いのか?」

 

 彼女に近づき、肩を置く090は心配した声音で081に問いを投げかける。しばし沈黙があったものの、唇を少し噛み締めるように噤んでいた口を彼女は開く。

 

「私……不安なんです」

 

「不安?」

 

「“ステイメン殺し”……」

 

 その言葉を聞いた瞬間、身を掻き毟りたくなるような嫌悪感とおぞましい悪寒に襲われる。だが、リーダーとして取り乱すような真似はせず、あくまで冷静さを保った。

 

「……やはり、君も容認できないんだね」

 

 奇しくも081は、090と似た境遇にあった。彼女も“パートナーを失った”という過去を持ち、それを機にこの26部隊へと配属された。

 だが本来パートナーを失ったからと言って、別の部隊へ転属など本来ならば有り得ない。代わりとなる新しいパートナーを彼女のいる部隊へ送ればいいのだから。

 

 では、何故そうしたのか?

 

 簡単だ。

 

 彼女の守るべき筈だった都市は……共に戦うべき仲間と共に無惨に叫竜に破壊され、塵と消えたのだ。

 

 自爆行為を平然とやってのけたレーマン級の叫竜によって……。

 

 本来ならばその運命は回避できた筈だった。都市の最終防衛ラインを守っていたストレリチアが、命令無視の独断専行をしなければ……。

 

「あの女は、化け物よ! 叫竜を殺すことしか頭にない……私達を平然と見捨てて、見殺しにする悪魔よアレは!!」

 

 慟哭は痛ましく、そしてゼロツーへの怨嗟が抑えようもなく溢れ出ていた。

090も似た境遇を経験したが故に彼女が胸中に抱く負の感情に誰よりも共感できてしまえる。

 

「081。聞いてくれないか?」

 

 だからこそ、彼は“ある提案”を彼女に指し示した。同時にそれは……“悪魔の誘惑”とも言える。

 

「僕に考えがある。ぜひ、協力してほしい」

 

 

 

 

 

 

 

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