寒い。ホント寒いデス……皆さん年末年始はどうお過ごしで?
自分はのんびりだらりと、家でゴロゴロ。たまにどこかに行こうかな~なんて、
そう思ってる次第です。それでは、どうぞ。
プランテーションの外側で行われている戦いは、未だ終息の兆しが見えずにいた。
というのもコンラッド級の叫竜は1匹たりとも残さず、殲滅できたのだが、コンラッド級を率いていた角の生えたボックス型の叫竜……仮称βと呼ばれる個体が残っているからだ。
ならば早く殲滅するに越した事はないのだが、どういう事かボックス型の叫竜は動かなかった。26部隊と13部隊、両部隊の総攻撃を受けて尚も擦り傷一つ付けることすら叶わず。しかし叫竜の方は沈黙を続けるのみで、何かするという訳でもなく、時間だけが過ぎていった。
「ハァァァァァッッッ!!!!」
26部隊のフランクス一機がポーンハスタを突き出すように構え、足裏に付属されているローラーで駆けては、鋭い突きを繰り出す。
ガギィィンッッッ!!
当たりはしたがそれでも及ぼず。渾身の一撃は無駄に終わる。
「だ、だめか……」
「どうするリーダー? このままじゃあ……」
どうにかして、この状況を打開しなくてはならない。
都市を滅ぼしかねない叫竜の存在を前に放置・無視しておくという選択肢は得策ではない。二つの都市はキッシングで前後左右動けず、一切の移動が封じられている状態なのだ。
そんな状態でいつ叫竜が動き出して、無防備な都市に襲い掛かって来るのか分かった物ではないし
、現実に起きたら……と想像するだけでゾッとするだろう。
「………」
「リーダー?」
何故か090は答えず、ただ叫竜を見上げる様に見据えるだけだった。
「リーダー。返事を……」
最初に声をかけたのとは別のフランクスが、リーダー機の肩に手を置こうとした瞬間。
ガァァンッッ!!
『え?』
硬いものが破損する様な音と共にそのフランクスに乗るピスティルは、腹部中心に違和感が生じ、なんだと思い見てみる。
そこには、フランクスの腹部装甲を貫く何かがあった。
『え、なに、あ……』
「な、なんだこれは?!」
困惑と混乱に陥るピスティルとステイメン。何とか抜こうとするが生半可ではない激痛のせいで、それは不可能だった。
「すまないね」
090が突然謝罪の言葉を述べる。
よく見ればフランクスを貫いている何かは緑色の長いフレームのようなもので、先端は鎌状。
その先端から反対へ辿っていくと、リーダー機の背中の左側に根元が付属されていた。
つまり、このフレームは、090が乗っているフランクスの機体の一部。認めたくなかろうとその事実が明確に示されていた。
「もっといい方法があったかもしれないけど、無理みたいだ。僕は僕の目的の為に君たちを……」
“ここで殺すよ”。
紡がれた言葉は殺意の情念を秘めていた。
「下がれ!」
別のフランクスに乗るステイメンが叫ぶが、そのフランクスはリーダー機の右側の背中から伸びて来た緑色のフレームに頭部を貫かれ、沈黙。
フランクスの頭部には、例外なくパラサイトの搭乗するコックピット空間があり、そこを攻撃するという事は、二重の意味で『頭』を潰すことになる。
「ああ、やってしまった。やってしまったよ……でも、なんだか……」
オープンチャンネルで26・13部隊の全機フランクスにリーダー機の映像が映し出されるのだが
、その光景は異様の一言に尽きる。
「とぉぉぉぉぉっても、いぃぃぃ気分だぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!!!」
緑色。その言葉の通りコックピット内部の空間はその色だけに染まっていた。より正確に言うと、緑の有機的な肉質の物体が長く何重にも張り巡らされており、パートナーの少女は、ピスティル用の操縦席でその肉質に取り囲まれていた。
「あ……あぁ……」
しかも、その肉質の一部が細長い管のように彼女の耳の中へと侵入しており、鼓膜を突き破ってその奥にまで入り込んでいるのか、耳の穴からは両方とも血を流していた。
表情もとても健常なそれとは言い難く、集点の合っていない目と緩み切った口からだらしなく流れる唾液が証拠だ。
「な、なんなの……コレは……」
イチゴは込み上げて来る吐き気を何とか自前の気の強さで抑えつつも、信じられないとばかりに呟く。
「お、おい! なんか形が変わってくぞ?!」
やがてゾロメがある事に気付く。段々と090の乗るフランクスが変形しつつあったのだ。
変化はフランクスの下半身からだ。
腰部後方が急激なスピードで楕円形状に膨張していき、左右に何かが生えて来る。
形がハッキリしていくとメカニックな昆虫の脚、計4本という事が分かるがその節目から覗く筋肉組織はとても生物的で、無機質機な人工さを感じさせなかった。
そして、これだけに留まらず。
今度は上半身。頭部左右に緑色の複眼レンズが現れ、ピスティルの口が映し出される部位が花弁状に開いたかと思えば、黒い液体が滴る牙をいくつも生やし、れっきとした口部へと変貌。
そして、最後に体格と色彩、両腕に変化があった。体格が通常のフランクスの二倍は大きくなり、色彩は黒と白という味気ないものから鮮やかなライトグリーンへ。
両腕は手首甲部から鎌のような形状のナイフが出現し、刃は鋸のようにギザギザとした形状となっている。
カマキリ。
間違いなく、それは肉食性昆虫の一種であるカマキリを模した様な造形を成していた。
『わ、訳わかんないよ……』
『スタンピート・モードなら分かるけど、これって……』
ミクは未知の事象に対する恐怖と驚愕が入り混じった思考に駆られ、対するイクノも同じ思考に駆られつつ、冷静に見極めようと分析していた。
イクノの言うスタンピード・モードとは、ストレリチアが変形する白い獅子型がそれだ
。人型であるフランクスを非人型形態へ移行させる機能。しかしこれを可能とできるのは
ゼロツーのみで、通常のパラサイトがやろうとすればたった数秒。あるいは1分程度しか
形態を保てず、そのまま命を落としてしまうだろう。
しかしこのリーダー機は、ピスティルの命を落とさず、人型を残しつつ異形の形態へと
変形を可能としたのだ。
この場にいる誰もが自分達の目の前で起きたその異常な光景に対し、平然を保ち続ける事などできなかった。
「おっと、刺しぱっなしは良くないねぇ」
『ギャアアアアァァッッッ!!』
フランクス一機の腹部を貫いていたフレームを戻すと同時に、丁寧さとは無縁に等しい乱雑とした抜かれ方をした為、激痛を覚え苦悶の声を漏らしたピスティルのパラサイト。仲間の苦痛の声を耳に入れても、その心に響くものは皆無だった。そして今度はもう一機の頭部を貫いていたフレームを抜き去る。
こちらは中にいたステイメンとピスティルが物言わぬ形へと変わらされたので、苦悶も何も言わず
、機体はそのまま地面へと糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
「さて。フランクスが変わったんだ。新しい僕の姿もお披露目するとしようかぁァァ」
ねっとりと陰湿な声。爽やかで真面目そうだった雰囲気のそれとは大きく変質したそれを聞いてしまうと、本当に同一人物なのか?と到底思い難い気持ちに囚われるが、しかし覆しようのない事実なのだ。
090は、その身体から大量の蒸気を噴出し、その姿を変えていく。
蒸気が晴れるとそこに090の姿は面影すらも消え去り、代わりに操縦席には格納庫で目撃したあのカマキリアマゾンの姿があった。
『あ、あれはッ!』
「どうなってんだよ?! アイツ、確か刃さんがぶっ倒した筈だろ!!」
イチゴが思わず声を出し、みんなの気持ちを代弁するかのようにゾロメが指摘した。
「090が……獣人? どういう事だ!」
「は、はは……なんだよソレ。何の冗談だよこいつは……」
そして、26部隊のステイメンが090の異形化した姿を見て、それがアマゾンである事実に驚愕を示すと同時に受け入れ難い感情を露わにしていた。
「クックッ……君達が見たのは僕が作り出した劣化クローンだよ」
恐怖と混乱が伝播する13・26部隊を見兼ねてか、090……いや、カマキリアマゾンは先導者の如く疑問に明確な答えを示した。
「僕のアマゾンとしての能力は“クローン体の生成”。オリジナルたる僕に比べれば劣るけど、面倒な自我意識もなく、僕の思考通り操作して動かす事が可能なんだ。とは言え、どうにも慣れなくてね」
彼の言葉自体は平常のソレで、声と口調だけを聞けばまともに見えるだろう。だが言葉の意味までとなると、その認識は大分違った物へと変わるだろう。
「だから、練習が必要だったんだ。物陰に隠れてコソコソやるよりは、実演に近い雰囲気でやった方がいいと思ってね」
『じゃあ……私達の都市のミストルティンに出てきたのも……』
「そう! 僕が作って操ってたクローン体さ。丁度イプシロンってアマゾンがいたからねェェ………クッハハハ、実戦練習という意味では好都合だったよ」
“まぁ、アルファには残念ながら瞬殺されたけど”。
残念そうに言いつつも、口数の減らない嘲笑混じりの語りは明らかに他者を下に見ては、自身の優位に浸っている者のソレだ。
そんな彼の姿勢が癪に触ったのか、イチゴは声を張り上げる。
『コード090! 貴方は……貴方は本当にアマゾンなの?!』
突然の予想外な事態による恐怖や不安。困惑により思考が鈍足と化していながらもイチゴは、湧き起こる怒りで自分を支え、問うべきことを問い質す。
「んん? 僕が人間かアマゾンか、だってぇぇ? “元”人間って言えば……納得かなぁ?」
カマキリアマゾンは、その粘着質溢れた傲慢な口調を変えようとはせず、話を続けた。
「一週間前、僕はある人にコレを貰ったんだ」
そう言って彼は、手の平を口元の下に持っていくと体をぶるりと震わせる。
直後。口が開き、生々しい吐瀉する様な排泄音と共にねっとりとした茶色の半透明な液体と共に
“ある物”を吐き出し、それを手の上へ落とし見せつけるように前へ掲げる仕草を取った。
「これはねぇぇ、“アマゾンズ・インジェクター”。人間をアマゾンへ変えてくれる、最っっ高のアイテムなんだ」
銀色のカラーリングが施され、金属製と思わしき材質だが形状は医療において、ポピュラーな道具の一つである『注射器』の形状をしていた。カマキリアマゾンの言葉が本当ならそれは、アマゾンズ・インジェクターと呼ぶ物らしい。
『Code090! お前の目的は何だ。アマゾンになり、味方に手をかける重罪を犯してまで、一体何をしようとしている!!』
何事においても冷静な思考を貫くハチにしては、焦燥を匂わせる激昂の声だった。そんな姿が面白いとでも言うのか。
カマキリアマゾンは嘲笑を零しながら答えた。
「クゥックックッ、ハッハハハ……僕の目的? あの女を……ゼロツーっていうクソアマを殺す事さ!」
『なんだと?!』
「Code002! 僕の大切なパートナーを殺しやがったクソッタレ!! 殺す殺す殺す殺す……殺シて
ヤルゥゥゥゥゥゥッッッ!!!!」
狂気。
この一言で表せる程、彼の精神が正気の沙汰にない事を実感させられる。彼は狂っている。
もはやどうしようもない程に、狂い切っている。
『13部隊と26部隊の各機に告げる! 早急に090…いやアマゾンを阻止しろ! 破壊も認める!』
下された命令は阻止、あるいは破壊。もはや事ここまで及んだ以上、それしか手はないと判断したハチは、両部隊にその意思を通達。
「おい、やめてくれリーダー!」
「正気に戻れ!!」
が、例え命令だったとしても、感情という面では割り切れないのが彼等コドモの性質だ。
いや、これに関しては“コロニー側人類”にも共通する特徴と言えるが。
ザシュッ!
「ん? 何か言ったかいィィ?」
何かが裂かれた音と共に26部隊フランクスの一機が頭部を横一線に二本、中央と首と胴の境目が眼では捉えられない速度で綺麗な線を描いて切断され、頭部は機体から離れた途端真っ二つと化し、重力に歯向かう事なく地面へと落ちる。
どうやら090の機体が手首甲に備えられた鎌を振るい切り裂いたらしく、証拠に下がっていた筈の両腕が水平に挙げられ、両鎌の刃の部位にはマグマ燃料である蛍光の伴う橙色の液体が付着し、ポタポタと雫を形成しながら落ちていた。
中にいたステイメン・ピスティルの両名は、事前に保護システムが作動。防護カプセルに包まれていた為、かろうじて死を免れていた。
「てめぇ! イケ好かねえ奴とは思ってたがよ、仲間に手をかけんのかよ!!」
ゾロメが非難の意味を込めて吼える。
相手に突っかかって喧嘩したり、自惚れが目立つ彼だが、それでも今まで戦って来た仲間を相手にこの行いは酷いと。彼の根にある正義感が働いた故の叫びだった。
「?? おかしな事言うね?」
そんなゾロメの言葉に対し、疑問符を貼り付けた声で彼は言う。
「僕は僕自身の目的を果たしたいだけだよ? その為に君達を再起不能・あるいは殺す必要がある。妨害するのだから当然だ」
「な、なに言って……」
「ああでも安心してくれ。13部隊は絶対に殺すなって、あの人に念押しに言われているから。まぁ、邪魔するなら、多少は手荒い事させて貰うけど」
何故そんな当たり前なことをわざわざ聞くのか?
まるでそう言いたい様な彼の言葉に、ゾロメは090の人間性という正気が完全に失われたのを直感で把握したのだ。
無理だ。何を言っても通じない!
そう判断したのはゾロメだけでなく、13部隊の全員がこの結論を一致させた。
『アルジェンティア! 一緒に接近戦で距離を保ちつつ、アイツのスピードに注意しながら攻撃して
!クロロフィッツとジェニスタは援護射撃をお願い!! 何があっても前に出ないで!!』
イチゴの指示は的確だった。
あのカマキリのような形状へと変化したフランクスは、攻撃の速さにおいてこの場にいるどのフランクスよりも、類を生み出さない程に優れている。不意打ちとは言え、側から見ていたイチゴはその動きを目で捉える事ができなかった事実を鑑みれば、当然の帰結として至る。
ならば接近戦・白兵戦に適しているデルフィニウムとアルジェンティアが前へ出て、残り2機であるクロロフィッツとジェニスタは、後方から攻撃・支援を担当した方が適している。
「おやぁぁ? ヒヨッコたちが相手かい?」
『なめんじゃ、ないわよ!!』
一番槍に090の乗る機体“マンティス・フランクス”に近付いたアルジェンティアは、ナイトクロウによる刺突のパンチを一直線に繰り出す。しかし、何でもないとばかりに軽く横へスライドするように躱され、そのまま右の側面へ回り込まれてしまった。
『ガァッ!』
間髪入れず、アルジェンティアの右側の横腹に拳が打ち込まれる。
「ハハッ、チャチ臭い。先輩たる僕が本当の攻撃というものを教えてあげるよ!」
堂々と余裕綽々に語るマンティスは、アルジェンティアの肩を掴んで自身と顔を見合わせる様に正面へと向かせると有無を言わせず、顔と胴体へ拳のラッシュを繰り出す。
「ぐ、あああッッッ!!」
『キャアアアアアアアアアッッッ!!!』
苦悶の悲鳴がアルジェンティアから漏れ出される。ゾロメとミクの二人の声だ。ラストに身体を横へと向け、昆虫の如き金属の脚で機体を軽々と浮かす程の蹴りを繰り出し、一気に吹き飛ばす。
「どうかな? んん?」
『食らいなさい!』
無数のオレンジ色の閃光。それが豪雨の如く容赦を介さずマンティスへ叩きつけられ、別方向からは砲撃が襲い来る。
クロロフィッツとジェニスタの援護射撃だ。
「グゥッ! うざったらシィィィッ!!」
一応ダメージを受けてはいるものの、大きいのかと問われればそうでもない。
『てりゃッッ!!』
『ハァァァァァッッッ!!』
射撃と砲撃の雨が止んだタイミングを見計らい、背後からアルジェンティアが。左の側面からはデルフィニウムの両機が襲い掛かり、まず始めにアルジェンティアがナイトクロウを用いて、下から上へと向かうアッパー形式の袈裟斬りを背中部位に喰らわせる。
「グゥッ!」
しかし、それほど大したダメージではなく、ナイトクロウの軌跡がうっすら刻み込まれる程度である為、装甲は変化した事で通常よりも硬質化しているらしい。
そうでなければ、ナイトクロウは本来量産型フランクスの装甲程度、容易く引き裂いてしまう威力を誇るからだ。切り落とすつもりだったフレームも依然健在とは言え、ダメージが少なくとも怯ませるには十分。
今度はデルフィニウムのエンビショップの刃が怯んだマンティスの首筋に一本突き刺され、押さえつけられる。そこから密着する形でマンティスを抱く様な体勢に移行したデルフィニウムは、空いたもう一本のエンビショップで背中のフレームを一本切り落す!
『よしッ!』
イチゴが、目当てのフレームの切断に成功した喜びを弾ませる様に声に出すが、とうの敵はその逆の激情に駆られ声を荒げる。
「一本落としたからってェェ、調子に乗るなァァァッッッ!!」
格下と見ていた相手に部位損失という、小さくない傷を与えられた事は、それだけ傲慢な思考に犯されてしまっているマンティスには、容認し得ないのだろう。すぐさま残ったフレームでデルフィニウムの背中の中心辺りを突き刺す。
『グゥゥ、アアアァァッッッ!!』
フランクスと同調しているが故に機体が刺されば、当然それはダメージとしてピスティルの肉体へとフィードバックされてしまう。システム的に回避することのできない作用によって生じた痛みに力が緩んだのを見逃さず、そこからフレームに力を込め、引き剥がすと同時に裏拳で顔を殴り飛ばす。
『『『デルフィニウム!!』』』
アルジェンティアだけでなく、ジェニスタとクロロフィッツの声が同時に重なる。しかしそれを意識することなくマンティスはスルーしつつ、フランクスの片足で倒れ込んだデルフィニウムの首を踏み付ける。
それも、これ見よがしに絶妙な力加減をした上で、だ。
『ウゥ……ァァァ……』
「イチゴ!」
衝撃によるダメージがあるゴローだが、それ以上にイチゴには機体が負ったダメージが加担されており、自分以上に苦痛を味わっている筈。そう思うと、ゴローは声を上げずにはいられなかった。
出来る事なら、自分が背負いたい。
願っても無意味だが、だとしてもパートナー以上の気持ちを抱いている彼にとって、それは当然の感情だった。
「やってくれたねェェ……015」
しかし、そんな心情を考慮しないマンティスは、もはや人の心など皆無に等しく、一粒の躊躇さえもない無かった。
「あァァ……君達は殺すなって言われてる……けどサァァ、ここまでやっておいて何も無しって言うのは、虫のいい話だよねェェ?」
“虫”だけに。
自身がカマキリという虫となっている事への皮肉か、少し冗談混じりにそんなことを述べるマンティス。だが状況が状況である事と、台詞自体のせいで一片たりとも笑えはしないのだが。
「イチゴとゴローを離せ!」
『フトシくん!』
「うん! 砲撃だぁぁッッ!!」
「行きますよ!!」
『そのつもりよ!!』
13部隊はリーダーを見捨てる様な真似など決してしない。それを行動で証明する彼等は敵へと標的を定め、向かって来ようとする。
「やかましい君等の相手は……コイツだ」
呆れたような物言いを吐きつつ、マンティスの視線が先程から沈黙を貫いている、1体の箱型に両角を左右に備えた叫竜。すると、まるで双眼らしきものに見える二つの長方形のようなラインとその上に位置する四つの模様が青く光りを灯し、地響きが大地を広範囲に揺れ出した。
それによって3機は強制的に行動を停止してしまい、地響きの元凶と思わしき箱型叫竜へ視線を移す。
まず見えたのは、段々箱のようなその巨躯に黒いラインを、まるで見えない筆記道具で書き付けたように刻み込み、それが一つ一つ。四角の形状を中心とした無数のパーツと化していく。
やがて……それらが何かを形作る。
それは、人間のものに近い人型の手だった。
それは、人間のような人型の足だった。
それは、首がなく、人間で言えば首元の鎖骨部位だろうか。その位置に幽鬼のような不気味な顔があると言う点を除けば、限りなく人型に近い形態だった。
『◾️◾️◾️◾️◾️ーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!』
巨大ロボットとして定義付けられるフランクスが、まるで玩具にしか見えない。それほどまでにその叫竜は、小山かと錯覚しかねない程の巨躯を、まるで誇示せんばかりの存在感で周囲にいる小さき者達を圧倒した。
そして発声器官から放たれる咆哮は、空気を。大地を。容易く振動させては揺るがす。
それは、まるで世界そのものが震えている様に錯覚できる程の、まるで“悲鳴”にも似た鳴き声だった……。
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