ダーリン・イン・ザ・アマゾン   作:イビルジョーカー

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このタイトルで分かる方は察しの通りです。










毒蛇の正体/新たなるアマゾンライダー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて。首尾は上々……かな?」

 

「ええ。目的のモノ確かに」

 

APEの上層部に位置する者しか入ることができない、ある研究区画の出入り口である扉の前に二つの人影が立っていた。

通路は照明が点いていない為、かろじて左右の床の端に沿う形で存在するマグマエネルギーが流れるラインが薄っすらと光を放つ程度なので、通路内は暗闇が多く、二つの人影の正確な姿を見極めることはできない。

1人は、何かが入っているであろう開かれた黒いケースを両手で見せる様に抱えており、もう1人は対面する位置で黒いケースの中身を見ては静かに満足気な様子であると言う事位しか分からない。

 

「それをどうする気だ?」

 

 万事うまくいった。そう思っていた矢先、後ろから聞こえる。

 その声に対し、背を向けたまま“少女”は動揺せず答える。

 

「どうしたんですか? 刃さん。ここは、貴方でも入ることができない筈ですけど?」

 

「ちっとばかし用があってな。特別に爺さんに許可貰ったんだよ。で、お前は? そう言うって事はきちんとアポとってんだよな?」

 

 バッ。

 

 通路の天上に配置されてある照明が全体的に輝きを放ち、研究区画の扉の前に立つ二つの人影の正体を有無を言わさず暴き出す。

 

「ナオミ」

 

 声の主、鷹山はあってほしくなかった三文字の名を呼ぶ。それに答えるようにして少女は

振り返る。

 そこには、言い訳しようもなく、いかなる弁も意味を成さない程に本物の鷹山がよく知るコドモの顔が嘲笑を浮かべつつ、確かにあった。

 そして、どういう訳か彼女の側に立ち、黒のケースを持っていたのはナインズのリーダー。

 ナイン・アルファだった。

 

「鷹山刃圭介……でしたよね? こんな形だけど初めまして。エリートな親衛部隊ナインズのリーダー、ナイン・アルファ。以後お見知り置きを」

 

「ほう。流石はエリート様だ。こんな状況でも悠長に自己紹介とは恐れ入るな」

 

 冗談混じりなナイン・アルファの自己紹介を、鷹山は皮肉を込めてそう返した。

 

「で、そいつは何だ? 今すぐそれを置け」

 

 いつもの飄々とした、能天お気楽な空気は初から纏わず。研ぎ澄まされた様な鋭利な殺気を滲み出しては、命令口調でそう指示する。

 

「悪いけど、これは今後の為に必要なものだからさ。無理なの♪」

 

 そう言って彼女はスカートのポケットから、何かを取り出す。それは小さな手の平サイズのボトルのような物で、ガラス製なのか。それを故意に床に落とした瞬間、容易く砕け散ってしまった。

すると、ボトルの中身と思われるガスの様な何かがナオミの体をまるで蛇の如く纏わりつくようにして包み込む。

 やがてそれが胡散するように消えて晴れると、1人の人物が立っていた。

 

「う〜〜ん!! この力溢れるような感覚! 最高だねホントッ!!」

 

 ブラッド・スターク。

 信用ならないと警戒していた怪人物たる少女が鷹山の目前に、その姿を現したのだ。

 

「……それが、お前の正体ってわけか」

 

「今更言うこと? とっくにボクの正体、感づいてたんでしょ?」

 

「まぁな。ブラッド・スタークが現れる度、お前はそれに合わせるようにいなくなる節があった」

 

 鷹山は淡々と語った。

 

「それに13部隊が初めて叫竜と戦ったあの時も、どういう訳か、お前がいた部屋の監視用カメラが1分程度ノイズが奔って映らなくなった……ただの機器の不調と言えば、それまでだが、そのタイミングでお前は出てきた……何故かナオミはそのまま部屋にいたがな」

 

「……」

 

「そんで、腕の傷。程度は違うが位置が全く同じだ。俺があの時お前に付けた傷は、焼き切れる位だが、ナオミの時は軽い火傷で目立った外傷はなかった。アマゾンなら別段傷が回復したって珍しくないが、過去いくつかの検査でお前がアマゾン細胞を一切持たない、ただのコドモって言う結果がある。

そうなると辻褄が合わない。疑いなんざすぐ晴れて、追求の必要性もゼロになる。まさに

“完璧なアリバイ成立”になる訳だ」

 

 淡々と彼は語る。

 それをスタークは聞くのみで何をどう言い訳するでもなく、ただ静聴しているのみで、何かを仕掛ける気配もない。

 表情もつい先程は相変わらず飄々とした薄ら笑いだったものの、今はそれさえも消している。返って不気味だ。

 

「クッ……クク……」

 

 しかし、その沈黙は容易く破かれた。

 

「アッハッハッハッハッ!!!!」

 

 何が彼女の琴線に触れたのかは分からないが、実に面白いと。声のボリュームなど関係なしに盛大な笑いを吐き散らかした。

 

「ハハハ……フフ……ふぅ〜。さすがだね」

 

スタークは未だ笑みを零しつつも、一先ずはとばかりに間を置く。

 

「監視カメラについては……そう。ボクが予め仕込んでおいたんだ」

 

なんて事のないように、彼女は普通に答えた

。下手に隠す様な言動、それらしき動作はなく、彼女は有りの侭に素直に答えたのだ。

 

「じゃあ、バレちゃった記念に色々と種明かしでも……しとこうかな♪」

 

 相手の精神をわざと逆撫でするかの様な彼女の態度に、内心苛立ちを感じつつも、とりあえずは彼女の語る事に耳を傾けることにした

 鷹山は何も言わず、ただ視線で早くしろと促す。

 

「実の所、ナオミってコドモは存在しない。全部ボクが作った偽物に過ぎないから」

 

「……なんだと?」

 

 言うほど驚愕に顔を崩してはいないが、それでも精神的な面での衝撃がない訳ではなかった。

 

「ありえねぇ。現にお前は……ナオミは、ガーデン時代からいた筈だ。当時の記録映像やデータだってある」

 

「“ナオミという実像としての存在”は、ね」

 

バイザー越しの、毒蛇のような目が鋭くなった気がした。

 

「けど、ナオミという少女の人物像は虚偽に過ぎない。そもそも、生まれてガーデンからパラサイトになるまでの数年間、一歩も外に出なかった普通の女の子が実は敵で、スパイしてたってのは無理あるじゃない?」

 

 確かに。その言葉は鷹山の中で納得を与えた。

 ナオミは、ただのコドモ。

 素性などの経歴の事ではなく、『人』と言う種の生物として、普通だという意味だ。

 特に回復が異常に早い訳でも、身体能力が他の誰よりも特出しているでもない。

 そんな女の子がスパイとして活動できるか?

 答えは、否。

 できる筈がない。しかし、そうなると疑問が残る。

 今、自分の前に立ち、スタークとしての姿になったナオミは、一体なんだ?

 ここで始めて、冷静沈着だった鷹山の中に動揺が水面の波紋のように広がる。

 

「“人でもアマゾンでもない存在”」

 

「………」

 

「って、言えばいいかな?」

 

 ブラッド・スタークの肉体が赤く、時に紫色に交互に変化する色彩を放ちながら、霧の様にブレ始めたかと思えば、その肉体からもう1人。

さながら幽体離脱で魂と肉体が分離したかの如く、一つだった筈の肉体が二つへと増えたのだ。

 彼女の肉体から出て来たもう1人の人物……見間違う筈もなく、どの角度から見てもつい先程目にしたナオミだった。

 

「「ざ〜っとこんな感じ。理解できたかな? やっぱ無理? ハッハッハッハッ」」

 

 阿吽の呼吸。

 そう断言してもいい位に二重に合わさる2人の声は、何一つの無駄がなく見事なシンクロを誇り、とても即興で出来るものではない。

 

 しかし注目すべきはそこじゃない。

 

 何故アマゾンでもないのにも関わらず、この異常な現象を可能とできるのか。それこそが注目すべき所であり、最大の疑問点だ。

 

「まっ、理解できなくて当然だよ。アマゾンでも人間でもない生物にこんな芸当ができるのか……って、言われたら“いない”って答えるわよね。貴方達の程度の低い常識じゃ」

 

 ナオミは、見下すような語り文句で口から言葉を紡ぎ出した。

 

「おまけに知り合いの女の子は実は存在しなかった……てなりゃあ、余計混乱する訳だ」

 

 今度はスタークがそう語る。最後の方はやや口調が変化したが。

 

「だがよ、オレがアマゾンの類じゃないって事は理に適ってるだろ? 事実、オレの中にはアマゾン細胞が一切ない。生まれついてのアマゾンじゃなければ、お前みたいにマッドに細胞を注入する形で移植した訳でもないんだからなぁ〜」

 

 口調が“オレ”へと完全に代わり、壮年の男性の風情になるが、それでも享楽的な飄々とした空気は変わらず。

 そして、それを隠れ蓑にして潜む残酷な性質も、また変わりなく存在している。

 

「と、なるとオレが一体何なのか。気になるよな~鷹山博士?」

 

「………」

 

「反応なし、とは。つまらないな〜オイ」

 

 スタークは心底つまらない、とばかり言うが、そんなのは鷹山にしてみれば知った事ではない。

 その心情を読んでか、スタークは怒るなよ。と宥めつつ、自らの“存在の性質”を語った。

 

「“ボク”に明確な物質的肉体は存在しない。それ自体が記憶・知能・意識を司る情報媒体に成り得るエネルギーで構築されてる」

 

 元の口調に戻りつつ、ナオミが赤と紫のガスのような光の粒子状のエネルギー体と化し、ブラッド・スタークの中へと入っていく。

 

「だから形を何にでも形成・分離できるし、擬似的に物質を作れたりもできるから、こうして物を持つ事もできる」

 

 ケースの蓋を閉じ、握り持つ為の取っ手部位を掴んで前へ突き出すようにして見せる。

 

「それで、部屋にナオミを置いてまんまと隠蔽に成功したって訳か」

 

「そっ。まさか2人になってるなんて、誰も予想できないし、仮にもし1人や2人いたとしても……ね〜」

 

 突拍子も無い話を人は信じない。

 これはプランテーションに移り住み、新たな人の種へと進化した人類であろうと。またはコロニーへと旧時代の在り方のまま移り住んだ人類であったとしても。

 決して変わらない事実であり、法則とも言っていい。

 この法則からは抗えない。

 それが非現実性を強調したものであるなら、尚更余計に人は……オトナ達は信じようとはしないだろう。鷹山が早期に確信を持って気付き、報告したとしても同じだろう。ただのコドモが敵であり、スタークへと分離できてしまう等、誰が容易に『はいそうですか』と首を縦に傾けられるだろうか。

 証拠も無ければ、それはもはや妄想話に過ぎない。

 

「さ、て。さすがの“オレ”もお喋りに随分と時間を割いちまったが、仕方ない。ここらでお暇させて頂くとするか」

 

「本気でソレ言ってんのか? 笑えねぇな」

 

 予め腰に巻き付かせていたベルトのグリップを握りつつ、鷹山は冗談抜きに剣呑な口調で指摘する。だが、あくまでスタークは余裕を崩さない。

 

「ハッ、さすがにそこまで間抜けじゃない。何の為のナインズだと思ってんだ?」

 

 鼻で嗤うスタークの言葉から続くように、隣いたナイン・アルファが鷹山へ急接近。

 そこから右ストレートを繰り出して来た。

 

「あぶッ……ねーな!」

 

 辛うじて紙一重。後ろへバックする事で回避した鷹山だが、いきなり攻撃を仕掛けた事に対し、苦言を呈する。

 

「はは、野生では不意打ちなんて日常の一環。喰らわれる方が悪いんですよ」

 

「気が合うな。俺も同意見だよ!!」

 

 鷹山は、そう言って掛けていた眼鏡を取り外すとそれをナイン・アルファめがけ、かなりの速球で投げ付ける。

 眼鏡が顔に当たる直前、ナイン・アルファはそれを容易く掴む事に成功するのだが、その際に生じてしまった隙を鷹山は見逃さず。

 渾身の右足により回し蹴りをナイン・アルファの頭部側面へと叩き込んだ。

 

 だが。

 

「ふ〜ん。こんなもんか」

 

 手応えは……それなりにはあった。しかし回し蹴りを喰らった当の本人は何処いく風とばかりに、

涼しげな微笑を浮かべ、平然とそう呟くだけ。

 衝撃を受けた事による脳震盪や目眩、そういった類の症状を一切感じさせない様子は、間を開かせる形で鷹山を後退させるだけの警戒心を抱かせるには、あまりに十分過ぎた。

 

「一応、ガチでやったつもりなんだが……」

 

「残念。今ので僕を仕留めたかったのなら、“変身”しないと話にならないよ」

 

 自信満々。そう言わんばかりの態度で上から目線な発言を述べ下るナイン・アルファは、ゆっくりとした速度で片手を動かし、その身に纏う純白の制服を脱ぎ捨てた。

 ナインズという親衛隊にのみ着る事を許された制服を簡単に脱ぎ捨てると言うのは、本来七賢人をパパと呼び、崇拝に等しい感情を持つコドモにしてみれば、それは異様な行為と言えた。

 そして、制服に隠されていたモノ…まるで古代インカの独特なデザイン性を鳥を彷彿とさせる意匠の中に組み込んだような、そんな形状の“腕輪”が露わとなった。

 腕輪は左腕に装着されており、部位的に詳しく言えば、肘から肩先の上腕に位置している。

 それを逆の右側の手で鳥の両翼に当たるパーツを、まるで閉じるように合わさったそれを親指と人差し指で分け、翼を広げた状態にする。

 すると、独特な起動音が響き渡る。

 

「アマゾン」

 

 ヒロと鷹山が変身する際に使用する鍵となる言葉。そして、それが何を意味するのか。

 鷹山がそれを分からない筈はなかった。

 

『ナイン……アルファ』

 

 腕輪から発せられる機械的な音声は、備えられた役割が作動した合図。

 両翼のパーツにある左右のラインがオレンジ色に光を放ち、同色のエネルギーがまるで稲妻の如く迸る。

 それがナイン・アルファの全身を包み込み、肉体が変異していく。

 より力を引き出す筋肉へと。

 より強固な皮膚・骨格へと。

 人間ならざる形へとナイン・アルファを造り変えていく。やがて、エネルギーが消え去るとそこに彼の姿はなく、いるのは……1体のアマゾン。

 

「おいおい、こいつは冗談キツイぜ」

 

 鷹山は、自然とそんな言葉を口から零す。

 

 対し、スタークは意気揚々と叫ぶようにそのアマゾンの名を謳う。

 

「見ろよ! このオレが……ボクが! 創造した新たなるアマゾン!」

 

“アマゾン・ナイン・アルファだァァッ!”

 

 ナイン・アルファの名をそのままに受け継ぐ、イプシロンやアルファとは全く異なるアマゾンライダー。まだ生物的な質感・外見だったアルファやイプシロンとは異なり、その姿は機械的な印象を見た者に植え付けるには十分と言えた。

 胸部や腹部、両腕両足は金属のように光沢を放つ籠手・具足部位が形成され、質感さえもそれに近いレベルに硬質化している。また頭部はアルファに似てはいるものの、左右後方へ突き出た突起部位はなく、シンプルに丸みを帯びた形状をしている。

 体色は白亜だが金属的部分はシルバーとなっており、頭部には赤いラインが計6本、左右の複眼から後頭部へ続く形で奔っていた。

 

「アマゾン……」

 

『アルファ……』

 

 あちらが変身するのならば、それに合わせない道理はない。鷹山は事前に腰に装着していたベルトのグリップを握り回し、同じく、アマゾンライダーへと変身を遂げる。

 それを見るな否やアルファへ急接近し、右腕に備えられたアームカッターで首を落とそうと左側から斜め一線にアルファの頸動脈付近めがけ振り落とす。

 その寸前、素早くアルファの左腕アームカッターが防具として機能され、見事防いで見せた。

 

「不意の一撃に対しての反応速度、中々だね」

 

「ハッ! お褒め頂き光栄ってか?」

 

 そう言い、ナイン・アルファのアームカッターを振り払ったアルファは、すかさず左右の拳を用いてのラッシュを繰り出す。

 それを軽くいなしていくナイン・アルファは、受け流すだけではなく自分からも拳を叩き込んでいく。

 

「グッ! ちと速いな!」

 

 ナイン・アルファの攻撃は思いのほか速く、

対応するには時間が遅れているアルファは隙を突かれてしまい、拳による直撃のダメージをもらってしまった。

 骨肉が損傷を受けたような生々しい音を奏でつつ、それでもダメージは然程悪いものではない為、痛みに怯まず、アルファはナイン・アルファが放った拳を自身の掌で押さえる。

 

「ハアァッ!!」

 

 そのままグイッと自分の方にまで引っ張るとクラッシャー部位を用いての噛み付きで、首元に喰らい付く!

 

「ッ!」

 

「ヴルァァァッ!!!」

 

 喰らい付くという手段が予想外だったのか、驚き引き剥がそうとするが、それを意に介さない喰い込みの力は、更に増しアルファは獣のような唸りを息と共に吐き出す。

 単純な力だけでは、引き剥がせないと判断したナイン・アルファは膝蹴りを鳩尾に打ち込もうとするが、そうなる前にアルファは人間形態時より断然丈夫な、強化生体皮膚を血肉ごと引き千切る!

 

「いっつつ……やってくれるね。まるで獣だ」

 

「そりゃどうも。こんな獣にクソ不味い肉をくれて」

 

 ペッと食い千切った血肉を吐き出す。

 この行動と言葉は、自身へ向けた挑発だ。

 悟る形でそう認識したナイン・アルファは、苛立ちをふんだんに込めたような荒立った声を滲み出す。

 

「……あまり、調子に乗らない方がいいよ。汚らわしいケダモノが」

 

「そのケダモノに傷をつけられる程度じゃ、底が知れるな」

 

 互いに交わされる挑発の応酬。心なしか、ナイン・アルファの放つ雰囲気に強い怒気が混じり込んだように見える。

 しかし、言葉は口にしなかった。

 言葉で何を並べようと無意味に等しく、意味を成すのは、闘争以外にないと熟知しているからだ。

 ナイン・アルファは、変身と同時に出現した腰に装着された“ベルト”に手を伸ばす……。

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 赤と青のフランクスが駆け抜ける。

 カマキリのような異形と化したマンティス・フランクスを打ち倒す為に。

 赤のフランクス、ストレリチアは右側からクイーンパイクを振るい刺突を繰り出す。逆に左側からは青のフランクス、デルフィニウムがエンビショップで斬りかかりに出た。

 

「猪口才な!」

 

 2人同時。ほぼ全く同じタイミングで刺突と斬撃が襲い来るものの、慌てる様子を見せずマンティス・フランクスは、そう吐き捨て、背中の残ったフレームサイスと右腕でストレリチアのクイーンパイクを押さえ、左側前腕でエンビショップの刃を容易く受け止める形で防いで見せた。

 

「甘いなァァッ!!」

 

 なんて低レベルな攻撃だ。

 内心そう吐き捨てたマンティス・フランクスは、二機を容易く押し返し、標的をゼロツーとヒロが乗るストレリチアへと定めた。

 

「死ネェェェェッッッ!!!!」

 

 フレームサイスの鎌でストレリチアの頭部を貫通しようとしたものの、クイーンパイクの刃の部位を盾にされた事で失敗。

 その隙を突こうと背後からデルフィニウムが迫る。距離とスピードは十分。

 一気に行けば倒せる。少なくともイチゴは、そう確信していた。

 

「分かってるンだヨオオオォォォォッッッ!! マヌケがァァッ!!」

 

 読まれた。

 踏み込み、一気に身を出した直後に指摘されると同時にカマキリの尻部に似た部位の先端から泡を放出するマンティス。強力な酸性の泡であることを直に見て知っているデルフィニウムは、右脚を前へ出し、もう一方を後ろへ退かせては屈ませるスライディングの体勢を取った。

 右脚の足裏に力を込めて、地面に穴を開ける程だ。そうやって急ブレーキをかけ、左方へと仰け反りつつ、身を投げるようにして直撃を回避する。

 

 しかし完全には避けられなかった。

 

 飛沫程度だが、それでもデルフィニウムのボディーの何ヶ所かに付着してしまったのだ。

 

『グッ、ウゥッッ!!』

 

 無機質で不快な匂いを放つ蒸気を発しながら、デルフィニウムを構成する表面金属装甲が溶けて蒸発する。

 その下にある内部金属装甲までには届かなかったものの、これが飛沫程度ではなく、放出された泡の全てだったとしたら……。

考えるだけで恐ろしい事この上ない。

 

『こん、なものぉぉ!』

 

 痛みは決して軽いものとは呼べないが、それでも耐えられない程ではない。力を込めて踏ん張りを利かせ、片膝をついた体勢から立ち上がろうとするが、そうスムーズには行かない。前のめりに倒れてしまった。

 

『あぐッ!』

 

「チョロチョロするな。鬱陶しい」

 

 そう吐き捨てたマンティスは、また泡を尻部先端から放出する。2度目のそれは強力な酸性ではなく、ただの泡だった。

 

『え、何ともない……?』

 

「!!ッ いや、違う! よく見てみろ!」

 

 ゴローは逸早く気付いた。確かにこの泡自体は特別有害な物質ではない。

人体にも機体にも何ら悪影響を及ぼさない為、その点で言えば安全なものと呼べる。

 が、だからと言って“何もない”という訳ではないのだ。パートナーからの言葉に疑問を抱きつつ

身に纏わり付いた泡沫をよく見てみる。無地のシャツのように真っ白だった筈の泡沫は黄ばみ始め

、やがて褐色の色彩へと変化したのだ。

 それだけでなく、柔くフンワリとしていた筈が真逆の質感……つまり硬くなり始めたのだ。

 

『な、何コレ!』

 

 僅か1分と経たず、変色し硬質化してしまった泡沫は岩のそれと同等になり、かなりの硬度を有していた。

 そのせいで力を込めて割ろうとしても、僅かな亀裂すら出来ない始末。エンビショップで叩き壊そうにも全身を覆うようにして被ったしまった為、手足の指先すらまともに動かせないのだ。

 

『と、取れないッ……!!』

 

 昆虫のカマキリと同じく、ほぼ全方位を見渡せる複眼のおかげでいちいち頭部を向けずとも、デルフィニウムが身動きの一切が封じられた事を視認できたマンティスは特別、気にする様子はなく自身の目的であるストレリチア……ゼロツーを注視する。

 

「結構頑張るじゃないか。でも、それだけで他に何かないのか? 構わないよ?

使ってもさァァァッッ!!!!」

 

 依然、クイーンパイクを刃を盾代わりにして防いでいるストレリチアだが、別にこうしたくてしている訳ではない。

 

 “こうする以外に術がない”のだ。

 

「ハァ゛ハァ゛ハァ゛………グ、アァァ!」

 

 ヒロの容態が更に悪化した。呼吸はより荒さを増し、苦悶の声は強まる。風前の灯火とでも言えばいいのか。

それだけ今のヒロは、いつ死んでもおかしくない瀕死の状態である為、普通ならまともに操縦すらできない筈だ。

 

「016……確か、ヒロと言うんだっけ? 君もつくづく災難で損な役割を担ったものだ」

 

マンティス……カマキリアマゾンは、自身の優位性を知ってか皮肉混じりの語りを零した。

 

「ステイメンの命を貪り、他を尊重しない。そのせいで犠牲が出ようとも御構い無しだよ。そうまでしたい目的が……確か」

 

 “人間になることだってぇぇ?”

 

『!!ッ』

 

 それを聞いた瞬間、ストレリチアの顔が驚愕の一色に塗り尽くされる。

 

「人間、人間ンンンンンンンンッッッ!!! アッハハハハハハハッッッッ!!!!

笑える……笑えるナァァ?!」

 

 狂った様なハイテンションという、彼独自の異常極まる雰囲気に拍車が掛かったのを感じつつ、ゼロツー並びヒロは彼の垂れ流す言葉を嫌でも耳に入れる他なかった。どうやら通信は一方的にジャックされているらしく、切りたくても切れない状態になってしまったからだ。

 

「そんな、そんなコトの為に!! 僕の大切だったパートナーは死んだって言うのか?!

アアアァァァァ………なんだよ、それ。バケモノはバケモノらしくしてりゃイイ話だろうが!

大体、人間になる必要が何処にある! 見ろよ、このアマゾンとしての力を! 人間には成し得ない上位の力! アマゾンになって……僕は理解したよ。いかに人間が脆弱なのかを。思い知って精々した気分さ」

 

 その言葉からは、自分が人間ならざるを存在になった事を惜しんだり、悲観に暮れる様子は一切見受けられない。

 あるのは、悦び。

 人間という弱く脆い存在から強く丈夫な存在になれたと言う、悦楽しかなかった。

 

「人間は、コドモもオトナもすぐ死ぬ。僕のパートナーは呆気なく死んだ。オトナも完全な不老不死の肉体を手に入れたにも関わらず、殺されれば簡単に死ぬ。あんな連中を守っていたと思うと笑えてくるよ……クックックックッ」

 

 本当に元はコドモだったのか。傍から見ればそう言いたい位に彼は、まるでオトナをゴミか取るに足らない無価値な物だと、冒涜するようにそう吐き捨てる。

 いや、この場合は実際にそのつもりで言っていると言った方が正しいか。

 

「そんな人間に君は何を期待しているんだ? んん?」

 

「……さい」

 

 か細い声。それを絞り出すようにして発したのは、ゼロツーだった。

 

「うるさいッ!! 僕は、人間になる! それだけだァァッッ!!!」

 

 ゼロツーに呼応するように凄まじい怒気を放ちながら、ストレリチアは鬼の如き形相で柄を握る手に今以上の力を込めて、フレームを押し返した。

 

「いいカオだ! 僕は、ウザったらしい余裕がなくなった……それが見たかった!!」

 

 だが、知った事か。

 そんな心情がダダ漏れとばかりにひしひしと伝わって来るような、そんな高揚とした口調で言葉を垂れ流す彼の姿は、もはや狂人。

 人で無くなったのも相俟って、余計にタチが悪いとも言えた。

 

『ほざくなァァァッッッ!!!!』

 

 激怒と憎悪。

 二つの情動が燃料と化し、心というエンジンが身体を……ストレリチアと言う機体を全体的に漲らせ滾らせる。

 

『ハァァァァァァァァッッッ!!!』

 

 叫びながらストレリチアは駆け、己が武装であるクイーンパイクを振るい、突いて。

 時にはフレームサイスや強酸性の泡沫を回避しつつ、的確にダメージを与えようとする。

 が、それで簡単に負かされる程、マンティスは甘くなかった。クイーンパイクの刃を背中から伸びた、先端に鎌のついたフレームサイスを器用に操り、赤子の手を捻るように容易いと宣言するかの如くいなして行く。

 

 相手に攻撃が届かない。

 

 今まで自身が狩って来た叫竜とは違い、明確な知性があり、更には大幅に上昇した機体のスペックを有するが故に自らが繰り出し続ける攻撃を確実に読み、対応するマンティス。

 

 何度やろうとも、攻撃が当たらず、舐められた様子で往なされる。

 

 その結果が如実にゼロツーのプライドを悪い方向へと刺激し、冷静さを徐々に喪失させていく。敵前で冷静という、心の機能を欠けば、それは心が大きく乱れている証だ。そして相手に付け入る隙を無意味に生産する、愚かしい行為に繋がる危険性が潜んでいる。

 故にストレリチアの動きは短絡化していき、暴走気味になってしまっていた。

 そこにコドモの中で一線を画すような特出するパラサイトとしての、技術的強さは一切感じられない。こうなると、もはやパートナーのヒロ……イプシロンの事など、お構いなしだ。

 

「ゼ、ゼロ……ツー! 待って……くれ……」

 

 激情という熱を帯びて、暴走に陥りかけているゼロツーへ向けて、イプシロンは胸を食い漁るように蝕む激痛に耐えながら、静止の言葉を投げる。

 ここに来て、イプシロンは限界点に達していた。

 より熱が高くなり、集中力が低下し始め、奈落のような暗闇へ意識が引き摺り込まれそうになっていた。

 むしろ、ここまで持った方が奇跡なのだが、奇跡は長続きしてくれるほど都合の良いものではない

 

「!!ッ……一気に決めるよダーリン」

 

 血が沸騰しそうな激情に思考の全てが支配されそうになった彼女の鼓膜に小さく細く……下手すれば蚊の羽音に等しいイプシロンの声を、ゼロツーは聞き届けていた。と言うより偶然耳に入った、と言う方が正しいかもしれない。それでも何とか自身の声を聞いて貰えた事実に安堵の溜息を吐きつつ

、相変わらずの正常とは言えない呼吸と体温。

 他諸々の状態ではあるものの、ゼロツーは、決め手に入るつもりでいた。

 

「ハァ゛ハァ゛ハァ゛……ああ!」

 

 尋常ではない息遣いながらもヒロは、己のパートナーの意志に応える。実際、このままでは自分の命は保たない。

 それについてはヒロ本人がよく理解しているが、別段その事に死の恐怖はない。

 オトナを守るコドモなのだから……。

 ただ、無意味に死にたくはない。

 眼前の脅威をこの手で倒し、都市を……仲間やオトナのみんなを守れたという実感を得てから、死にたい。それがコドモとして生まれた自らの存在意義なのだから。

 

『これなら、どうだァァ!!』

 

 基本的な攻撃では意味がない、と本能的に察したストレリチアは、内蔵されたマグマ燃料によって精製されたマグマエネルギーを槍の穂に部位に集中させ、一気に発散させる機能を有するトリガースイッチを二回押す。

 すると、刃の部位がクイーンパイク本体と切り離されてしまい、そのままマグマエネルギーによる推進力と高速でマンティスに向かって行く。

 速度はプランテーションが確立される前の旧時代に存在したジェット機とほぼ同格。そんな代物を不意打ちで、しかも近距離から喰らわすのだ。

 回避も防御も間に合わない。

 この技は威力もそれなりにある為、致命的にはならずとも、駆動が困難なレベルの多大な損傷を期待できると過言してもいい。

 

「在り来たりな曲芸だねェェッ!!」

 

 しかし、現実は違った。

 マンティスは容易く掴んで見せた。

 

『なッ?!』

 

 驚愕に顔が固まる。

 ほんの僅かな隙だったがマンティスはそれを利用し、空いた手でストレリチアの頭部顔面を鷲掴みにして捕らえ、クイーンパイクの穂先を腹部へと突き刺す!

 

『グッ、アアアアアァァァァッッッ!!!』

 

 苦痛に満ちた鋼鉄の乙女の声が、最悪の不協和音となり、波紋のように周囲に木霊した

……。

 

 

 

 

 

 

 








ブラッド・スタークの正体……ナオミでした。
最初の方から分かり易い伏線いくつか張ってたので、それほど驚かなかったと思います。
まだ謎は残っていますが、それはまだ先の話……。


そして、今回3人目のアマゾンライダー……『ナイン・アルファ』が登場しました!
イプシロンと同じくオリジナルライダーですが、ベースはネオアルファです。
変身者は名前の通り、ナインズのリーダー『ナイン・アルファ』。


その実力に関しては後々……次回は13部隊と26部隊にスポットを当てた話に
なります。



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