ダーリン・イン・ザ・アマゾン   作:イビルジョーカー

38 / 77




二話連続投稿です!


ダーリン・イン・ザ・フランクス 中編

 

 

 

 

 

 

 

 目。

 端的に言えば、そんな所か。

 それ以外にアマゾンと化したナイン・アルファの、その腰に巻き付けられたベルトの形状を表すのに必要な言葉はない。楕円形のようだが両端が鋭くなっており、青く淡い光を発していた。まるで血肉を求める獣の鋭利さを意図的にでも表現しているのか。

 そう思いたくなる奇抜なデザインは、対峙しているアルファの目からでも十分そう思える代物だった。

 ナイン・アルファはそのベルトの右端に取り付けられた銀色の物体……そのパーツと思しき、黒い所を押すと同時に彼の右腕手首から何かが、溢れ出て来た。それは溶岩やマグマのような赤くドロリとした粘り気を持つ液体。事細かい概要説明はできないが、それが重力に従い垂れ落ちることなく、形を成していく様を見れば、何の効果もない只の液体じゃないと言う事だけはよく分かるだろう。

 

『スイープ・ガン』

 

 やがて、液体は固体へと変わる。赤から黒へと変色した“ソレ”は、まさしく銃の類と見て間違いないだろう物と化した。そして、同時に機械的な男性の電子音声が無機質に木霊する。

 

「鉛玉ならぬ細胞の玉。存分に食らうといい」

 

 銃と言っても形状は様々とあるが、その中で一つを例として選んで答えるのであれば警備員のオトナが持つ銃のソレだ。オトナが持つものよりも小振りで、銃口と重なる様に縦のラインの穴がある以外に大した違いはない。

 そして、銃口から放たたれるのは、当然ながらも“弾丸”。但し、鉛玉ではない。

 

 “アマゾン細胞そのもの”と“ギガ”。そして、“マグマ燃料”が三つ巴に合わさった特殊弾なのだ。

 

「ガァッ、アアァァッッッ!!!!」

 

 通常の弾丸か、アマゾン細胞の弾丸。これらならば、皆無とは言えずとも大したダメージを受ける事がなかったアルファだが、ギガとマグマ燃料。

 この二つの組み合わせは、アマゾンにとって害悪でしかない。と言うのもマグマ燃料は、個体差の耐性有無によるがアマゾンを暴走させて能力を引き出してしまう効果があり、その為、燃料由来の武器はアマゾンに対し悪手でしかない。

 が、それは裏を返せば、肉体の許容外レベルの高密度のエネルギーを無理やり詰め込ませた状態であると言う事。

 マグマ燃料に対し、耐性の無いアマゾンならば僅か数量ほど体内に注入しただけで、死に至るのだ

そしてアルファは……耐性は無くないが、純粋のアマゾンと比べて低かった。人工的にアマゾンになったが故の弊害か、他に理由があるのか。それは定かではないが、いずれにしろ、マグマ燃料はアルファにとって劇毒以外の何物でもないのだ。

 加えて、そこにギガが加わると最悪の一言に尽きる。

 

「フフッ、手も足もでないかい?」

 

「こ、の……ッッッ!!」

 

 一旦銃撃を止め、ダメージから床に片膝を付けるアルファに対し、勝ち誇った様子で余裕綽々な語りを垂れるナイン・アルファ。胸や肩、腹部から大量の血が流れるアルファは荒い息遣いながらも、何とか立ち上がる。

 

「……結構なダメージの筈なのに。よくまぁ、立ち上がれるもんだよ」

 

「ハァ、ハァ、ハァ……当然だ。負けたく……ねぇからな……ハァ、ハァ」

 

 荒い息遣いが止まる気配はない。

 かなり入ってしまったダメージに加えて、大量出血。いくらアマゾンとは言え、このままでは死に繋がる。どう見ても、アルファが不利でしかなかった。

 

「そこまでだ、ナイン・アルファ」

 

 と、ここで静止の声が入る。発生源はスタークからだった。

 

「今ここでトドメさしとく方がいいと思うよ?」

 

「結果はもう見えてる。オレの目的はあくまで“こいつ”だ。これさえ果たせれば問題ない」

 

 スタークが言う“こいつ”とは、ケースの事だ。何が入っているのか。

 それはスターク本人と、品物を持って来たナイン・アルファ以外に知る者はいない。

 

「そう。ならいいけど」

 

「聞き分け良くて大変よろしい。さて……」

 

 まともに動けない状態のアルファに手を翳すスターク。眼前で掌を見せた状態でそこから紫の淡い光が収束、ゆっくり徐々に強まっていった。

 

「安心してよ。殺しはしない。ただ……ボクはもう少しだけ、あの子たちを“観察していたいんだ”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “だから、記憶をもらうよ?”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 小山のような巨体の叫竜が倒れる。それは周囲をほんの一瞬、地震と錯覚させる程の揺れを引き起こすには十分過ぎるもので、彼が……カマキリアマゾンが気付かない筈はなかった。

 

「ナニィィッッ?! ザコの集まり如きがぁぁ……」

 

 忌々しいとばかりに盛大に舌打ちを鳴らす様は、まだ彼が人間臭さを残している証拠なのか。

どっちにしろ、彼はもう元には戻れないが。

 

「まぁ、イイ。もうちょっと楽しみたかったけど、潮時だ。僕の復讐をここで完了させて貰う」

 

『◼︎◼︎◼︎◼︎ーーーーーーッッッ!!!!』

 

 白き獅子へと姿を変えたストレリチアに人型形態時の、不敵な笑みはない。人らしい顔さえなく、あるのは獰猛な獣の顔のみだ。その姿がカマキリアマゾンにとって悦を滾らせるのか。熱が篭った風に詰る。

 

「無様滑稽……そんな言葉がピッタリだよ。今の君はァァッッ!! ハハッ! 痛快愉快とも言えるネェェェッッッ!!! そんな狂った獣みたいに堕ちて、堕ちて、果てはドォォナルノカナァァ?」

 

 言葉が片言口調に変質しつつあるが、とうの本人はそんな些末な事など気にしている心情ではなかった。

 

「カカッ、ククククククククッッッ!! サテ、ソロソロ終ワリニスルカ」

 

 尾となったクイーンパイクを向けて単調な刺突を繰り返して来るストレリチアに、呆れたか飽きたのか。現状も加味してそう言い残し、カマキリアマゾンが操るマンティスは鎌とフレーム一本でストレリチアを抑え込んでしまった。そして、これ以上動けないようにデルフィニウムと同じように瞬間硬質性の泡でストレリチアを完全に拘束した。

 

「デモォォ……ヤッパリ、今簡単ニ終ラセルノハ、ツマラナイィィィネッ!!」

 

 明らかに通常思考の下、発している言葉とは到底思えない片言口調は、台詞自体から危険な物を匂わせるには十分と言える。それだけ、異常を通り越して狂気の沙汰なのだ。

 

「アッハッハッハッ!! 殺スゥ……バラバラニシテ、殺ス殺ス殺ス殺スゥゥゥッッッ!!!!」

 

 フレームの鎌と、両拳。

 二つの攻撃手段が熾烈に、残酷に、悍ましく。暴力となってストレリチアを容赦なく嬲っていく。

 

「アァッ! グアァァッッッ!!」

 

 フランクスのダメージは、ピスティルの物になる。その法則に例外なく当て嵌まっているゼロツーは、身体中を駆け巡るかのような激痛に苦悶の声を漏らす。身動きを封じられた状態では碌な反撃もできず、ただただマンティスの暴力を受けるに徹する他なかった。

 

「!!ッ みんな、ストレリチアを援護して!」

 

 その光景を見ているだけしかできなかったデルフィニウムは、悲痛な思いで両部隊へそう指示を出す。だがあくまで、助けるのはヒロの為だ。

 生命反応は停止したとあるが、それはあくまで情報の上でしかない。この目で、しかと見なければ納得しない、と言う気持ちがイチゴの中にはあった。

 

「まだ倒しただけだ! コアを潰さないとすぐ再生するかもしれないぞ!!」

 

 それに26部隊のステイメンが異を唱える。

 叫竜の厄介な点は再生能力にある。コアを潰さない限り、無限に傷を癒し、すぐさま元に戻ってしまう性質がある。コンラッド級、モホ級、グーデンベルク級のどのタイプの叫竜でも必ず持っているもので、通常兵器では歯が立たなかった理由の一つでもある。

 ともかく、グーデンベルク級『β』はまだ死んではおらず、コアを潰すことで初めて討ち 倒したと言えるのだ。

 

「ギヒッ、ヒヒッ、キャァハッハッハッハッ

フフフ……ハッハッハッハッ!!!!!」

 

 狂気の嘲笑。自らの手で憎き怨敵を、復讐を渇望する対象へ下せると言うのは、これ程、気持ち良い事なのか。マンティスは狂った様に笑い上げ、酔い痴れるように思う。

 

 そうだ。

 

 コレはとっても気持ち良い事なんだ。

 

 お前は、僕の大切な人を奪った。

 

 好きだった。大好きだったパートナー。

 

 最初、この感情の名前が分からなかった。

 

 でも、ある日、気付いた。

 

 君の事が好きだった。

 

 小さい頃からずっと一緒で、暖かく、素敵な笑顔をいつも僕に向けてくれた。

 

 そんな君を好きだと気付いて、僕は君を守りたいと願って、だから…どんな敵が相手てでも戦ってこれた。

 

 なのに……。

 

 どうして、イなくナッたの?

 

 あァァ……お前ノせいダ。

 

 オマエガ、アノ子ヲ。

 

 オマエガ。オマエガ。オマエガ。オマエガ。オマエガ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕ノ……パートナーヲ殺シタンダァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「シネェェェェェェッッッ!!!!!」

 

 理性を脱ぎ去り、狂気の淵へと浸かり切ったカマキリアマゾンの思考はもはや凶器も同然の悪性を発揮し、より暴力を苛烈させストレリチアにダメージを与えていく。このままでは機体とコネクトしているゼロツーの身も危ない。相手は彼女を殺す気なのだ。

 当然、命の無事が保証できる筈もない。

 

「見てられねぇよ!!」

 

 さすがにマズいと誰しもが判断するが、全員で行く訳にもいかない。ならば自分だけがと先んじて、ストレリチアを救おうと駆り出したのはゾロメだ。アルジェンティアを操り向かおうとするが、

それを妨害するように、このタイミングで何かが地面を割り、地中から勢い良く飛び出して来た。

 ソレは、アルジェンティアの自由を拘束するかのように組み付く“コンラッド級”だった。

 

「こ、こいつは!」

 

『うそ! 全部倒した筈でしょッ!?』

 

 ミクが驚くのも無理はない。『β』の取り巻きだったコンラッド級は、確かに全部が両部隊に殲滅された筈。

 だが、どうやら……そうではなかったらしい。密かに地面へと身を潜めていた個体がいたようだ。

 

『キャッ!』

 

『ぐッ!』

 

 しかも1匹だけではない。最初の1匹を境に他にも次々と湧いて現れ、それらはアルジェンティアにそうしたようにジェニスタやクロロフィッツ、26部隊の機体に組み付き、その身動きを封じてしまったのだ。

 

「アァ……ソウソウ。コウイウ時ノ為ニサ、隠シテオイテタンダ。自動的ニヤッテクレルナンテ、

優秀ダナァァ〜フフフフ、クヒヒヒッッ!!」

 

 不気味に笑いながら、そんな説明染みた言葉を吐き連ねるカマキリアマゾンはやはり不気味で、常人から見れば狂気が異形の型を取って現れたのかと思う程に悍ましく、恐ろしい化け物以外の何物でもなかった。そんな彼は密かに隠していたコンラッド級らが自動的に小煩い蠅の足止めをしてくれたと宣っているが、実際のところ、無意識に彼が操作していたに過ぎない。

 操る為に本来の思考能力を削除し、カマキリアマゾンの思念操作で動くだけの傀儡と化している

“彼等”は、もはや叫竜としての在り方はなく、ただ操り主の命令を粛々と実行する為だけの端末と化している。

 ともあれ、突然のコンラッド級の妨害に遭い両部隊は身動きが取れず、デルフィニウムもまた同様

。更には、切り札と成り得るストレリチアさえもが行動の全てを封じられ、マンティスから振り下ろされる暴力の嵐をその身に受けている。

 それは誰がどう見ても……絶望的、としか言えない光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 そこは、いつか見た場所。

 あの日……13部隊が正式に都市を守るフランクスの乗り手であるパラサイトになる為の、入隊式の日。ヒロはあの時の送迎船の停留所にいた。

 

「ここは……停留所? 俺は、ストレリチアに乗って……あぁ、そっか」

 

 死んだんだ、俺。

 

 その事実を淡白に、呆気なく、彼は認めた。

 

「まだ敵を倒してなかったのに……あぁ、高望み……だったのかな」

 

 死ぬことは怖くない。その気持ちは、決心は以前と変わる事はないが敵前で命を落とした事が心残りだった。

 

「悔しいけど……がんばれたんだよな、俺」

 

「“がんばれたんだよな”ぁ? 随分と自意識過剰なコメントだな〜オイ」

 

 聞き慣れた少女の声にヒロは思わず振り向く。後ろの真正面に彼女はいた。

 ブラッド・スターク。ニヤリと不敵な笑みを浮かべて腕を組み、堂々と立つその姿は記憶にある姿

と完全に一致しており、赤いスーツにバイザー。水道管を模した意匠の部位などその全てに一切違いはなかった。

 両眼は当然、そのバイザーに隠れて見えないものの、口と両頬は出ている為、嘲笑を浮かべていると言う事が容易に分かる。

 

「なんで、お前が……」

 

「ここは、お前の記憶が生み出した心象風景ってヤツだ。だが残念なことにオレはお前が記憶から生み出した幻ってわけじゃない」

 

 そう言って腕組みの状態を解いたスタークはゆっくりと近付き、ヒロの顔を覗き込むように見つめる。

 

「オレはブラッド・スターク。誰が何を喚こうが正真正銘……本物だ」

 

 軽く人差し指を突き付けてそう言って来るが、ヒロはそれを否定する。

 

「それはない。ここが記憶から作られた心象風景なら、これは夢みたいなものだろ? だとしたら、お前はあくまで俺が作った虚像であって、本物なんて有り得ない」

 

「有り得ない? ハッ、無知な小僧が知ったかぶりも大概にしろ。お前は何一つ知らない」

 

 そう言った瞬間。僅かだがバイザーの奥に鎮座する瞳が紅く、妖しく輝きを放つ。同時に彼女から殺気が威圧感として滲み出す。それはまるで決して相手を逃がそうとせず、締め付けるように身動きの一切を封じ喰らう。まるで蛇の様な陰湿で仄暗いものを本能的に感じたヒロは無意識に一歩下がる形で、弱腰にもなりつつ後退りしてしまった

 

「ッ!!」

 

「お前は無知だ。知っておくべき事を知らず、知ろうとする気もなく

、自らの運命に抗う事を忘れて……のうのうと生きてる」

 

 一体何の話だ!

 

 スタークの一方的な理解のできない話に対し、声に出して問い質したいヒロだが生憎の所、彼女の発する威圧が抑止となってしまいその自由を与えなかった。

 

「声に出さなくても知りたいって感じの顔だなぁ〜? ……だが! それはお前自身が見つけてこそ意味があり、何の努力も対価も払わず答えを求めるのはナンセンスだ」

 

 さっきまでの殺気を突然消し去り、そう宣ってカラカラと笑うスターク。その様は、何処までも予測不能な現象そのもの。そう言えるだけの掴み所のない自由気まま過ぎる性分は一種の異常さと捉えられてもおかしくなく、実際ヒロはそう思った。

 

「さて。少し脱線したがオレが、ここへ現れた目的は単純明白……お前を助ける為だ」

 

「……」

 

「信用なし、か。いや〜つらいねぇ……まぁ、それだけの事をしたって自覚はあるさ」

 

 無言で睨んで来る少年の疑念や憤怒、恐怖等。様々な負感情を織り交ぜた視線を向けられようと態度も何も変えず、スタークはあくまで掴ませる気など更々ない飄々とした雰囲気を纏い、なんとも腹が立つ台詞を垂れる。

 

「だ・け・ど、君に拒否権はないんだ。何故なら“ボク”に主導権があるからね」

 

 一体、何の意図があってコロコロと口調や雰囲気を変えながら話すのか。合理性と理由が皆目検討もつかないが、それは別段気にすることじゃない。

 

 問題とすべきは……この本物か幻か分からない少女の言葉の真意だ。

 

 本心を決して語らないであろうブラッド・スタークの放つ言葉を、まともに信用する訳にはいかない。自分を助けるというが、そこに何かない道理はない。オトナの都市でのアマゾン駆除作戦の一件が物語っている。

 助ける等と口で言いつつ、目的の為に最悪の事態へと自らを誘おうとしている気がしてならなかった。それにゼロツーや仲間が巻き込まれでもしたら……その可能性がある以上、

ヒロはあくまで拒否の意思を示す。

 

「助けなんかいらない。お前が何かを企んでる以上はそれに加担する気はない!」

 

「ハハッ、言うね~……でも本当にイイのかな?」

 

 まるで他者の心を覗き込むような、そんな不気味さを滲ませて的確な言葉をヒロに突き付けた。

 

「君さ、心残りあるでしょ? まだ敵を完全に倒してない。ただの叫竜ならいざ知らず、な~んと敵は同じコドモで、26部隊のリーダーだよ!! いや~驚き驚き、ビックリしたなぁ~」

 

「……」

 

「で? 普通じゃないって事は……いつも通りの簡単にって訳には行かないよね?」

 

 そうだ。26部隊が乗る量産型フランクスは、code090が変質したカマキリアマゾンによって形態変化を起こし、マンティスとして生まれ変わった。しかも姿が変わっただけでなく、ストレリチアをまともに相手取れる程に性能を向上させ、終いにはどういう仕組みか叫竜を操っている。

 そんな相手に勝てる勝てないで問われれば、勝てないという結果への確率が高いのは否めない。

 

「それにさ、いいの? パートナーを1人にして」

 

「…………ゼロツーは、俺なんかよりずっと強い。俺がいなくても新しいパートナーを見つけて、何処までも飛んで行けるさ」

 

 ヒロのゼロツーへの感謝は尽きない。

 一時は試験を落第し、フランクスに乗るパラサイトとしての使命を全うできない自分を恥じて、絶望した。

組む筈だったパートナーであるナオミを巻き込んでしまった事への負い目もあって、ここに自分の居場所はないと感じ13都市を去ろうとした所にゼロツーが価値をくれた。フランクスに乗り、都市を……オトナや仲間を守るパラサイトしての存在意義という価値を。

他ならぬ彼女が希望の光へと自身を導いてくれた。

 

 なら、後悔なんてない。

 

 このまま、俺は……。

 

「逃げる気か」

 

 死を受け入れようとする最中、飄々としたいつもの陽気軽薄な雰囲気を取り払い、厳格な口調のスタークの声がヒロを引き戻した。

 

「お前は今までアイツの何を見て来た? 自分より優れた存在? 希望をくれた救世主? もしくは他人を顧みず残酷に切り捨てる悪魔か

? いいや違う。ゼロツーは所詮、人間に成り得ないのバケモノの小娘に過ぎない」

 

 何らかの怒りを孕んでいるのか。それとも他に要因があるのか。

それを知る術は生憎ヒロにはなかった。

 

「そんなアイツをお前は受け入れた。こんな死に様晒して、他に選択肢があったにも関わらず、お前はパートナーとして共にストレリチアに乗って戦うことを選んだ」

 

 スタークの厳格を秘めた説教文句のような言葉には、まるでヒロに言い聞かせると共に有無を言わせない重みがあり、それが彼の心を抑えつけて離さなかった。

 

「それは嘘だったのか? お前の決意は! 嘘だったのか!」

 

「嘘じゃないッ!!」

 

 スタークの勝手な言動に言い知れぬ激情が湧き起こったヒロは冷静をかなぐり捨てて、威圧の抑止を無理やり取り払い、そのまま感情と共に必死に叫んで否定する。

 

「俺は、俺は! 確かにゼロツーと共に飛ぶことを選んで、そうあってほしいと望んだ。これは俺の本当の気持ちなんだ。でも……俺なんかいなくても彼女は飛べる。そう信じてる!」

 

 それは実際にゼロツーという少女を見て、ヒロが自身なりに出した答えだ。実際、これまで彼女は一人で戦って来たも同然だ。様々な葛藤があっただろう。他人からの憎しみや敵意と言った負の感情を向けられて来ただろう。だが、それらにゼロツーは負けなかった

その精神的強さがあるからこそ、ゼロツーは戦って来れた。それもまた一つの事実だ。

 

「だから、俺がいなくても大丈夫だ。きっと……」

 

「なら、きちんと見て確かめるがいいさ」

 

 そう言って彼女が手をヒロのいる前へと翳すと、赤や青。そして紫。3色から成るオーラのようなエネルギーが生じ、少年から意識を徐々に刈り取っていく。

 

「ぐぅッ! な、なにを……」

 

「じゃ、目が覚めたら頑張ってね。助けるって言っても君の精神力が必要不可欠だからさ♪」

 

 そんな説明が、完全に意識を失う前になってエコーのように鼓膜に響き渡っていった…

……。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。