ダーリン・イン・ザ・アマゾン   作:イビルジョーカー

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ダーリン・イン・ザ・フランクス 後編

 

 

 

 

 

 

 

 

 何かを忘れた…と思う。

 

 それが何なのか、曖昧な認識だから当然分かる筈もないけど。

 

 でも。

 

 それは……多分、女の子だったと思う。

 

 格好とか、特徴はさっぱりだけど、何故だが俺は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その子を、知っている。

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 微睡みから意識を覚醒させたヒロは、自身の目に映る光景に強い衝撃を感じていた。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ、コイツゥゥ……ガッハァッッ!!」

 

 犬歯を鋭く尖らせ、翡翠の瞳を紅く染まらせて荒い息を鮮血と共に強く吐き出して、苦悶の呻き声を上げている。

 

(なんで、なんでなんだ……ッ!)

 

 その姿を見るのは痛ましく、できるなら目を逸らしたい光景だったが、意識が戻ったとは言えまだ身体は鉛か岩でものしかかっているのか。そう思うほど重く、指さえも動けなかった。

 

(1人じゃ無理だ……どうして、身の安全を考えないんだ!!)

 

 ゼロツーは、ピスティルが座する操縦席から離れず、機体と接続したままだった。身動きが封じられて全く動けない以上、接続を断って様子を伺うのが合理的だ。フランクスのダメージは全てピスティルへと流れるのだから、余計な痛みを負うことなどない。

 だが、そうはしなかった。

 彼女は自らが負うダメージを鑑みず、機体との接続を辞めず、無理だと分かっている筈なのに彼女は尚も抗う。

 それは戦うこと……闘争心を燃焼させている証だ。

 戦意喪失し、消沈してしまった心では、このような芸当はまずできない。そして戦略の為であっても逃げず、尚も立ち向かって来るような輩は大抵が自制が効かない程に感情を昂らせているものだろう。今のゼロツーは、まさにそれなのだ。

 

(もしかして、ずっと……こんな風に1人で戦って来たのか?)

 

 “ボクはいつも1人だよ”

 

 彼女と初めてフランクスに…ストレリチアに乗った際に呟いた言葉が記憶という、情報の海から呼び起こされる。それを聞いてヒロが思ったのは“悲しそう”と言う曖昧なものだったが、それが今、一つの確信に変わった。

 

(独りなのは、君も同じだったんだ!)

 

 例え自分が死のうと、彼女は何処までも飛べる。そんな思いが愚直な考えだったとヒロは恥じた。彼女は、独りでは飛べない。側に誰かがいて、その誰かが翼の代わりを担わなければ彼女は飛べず、地に伏す以外に何もできない。ひとりぼっち。だからこそ、彼女は求めた。

 

 “一緒に飛ぶことのできるパートナー……ダーリン”を。

 

「アアァァッ、ガァァァァァッッ!!!」

 

 死を恐れず、ただ戦う為だけに足掻くゼロツーの姿は獣の如く獰猛で、しかし何かを必死に求める幼子のようにも感じられた。

 

 戦い、傷付き。また戦って、傷付き。

 

 その繰り返しの果てに何を求めると言うのか。求めるものは本当に存在するのか。それでも、遠すぎて見えなかろうとも少女は……ゼロツーは、戦う道をひたすらに突き進むだろう。少なくともヒロは彼女の今の姿を見てそう感じた。

 

(なら、こんな……こんな所で倒れてる場合じゃ……ない!!)

 

 それは覚悟の証。

 決心と共にヒロの瞳は一瞬ばかり真紅に染まり、青黒く変色し異常を来たしていた血管腫が薄くなっていき、最終的には初めからなかったかのように綺麗さっぱり消え失せてしまう。やがて、身体全体の筋肉組織が喝を入れられたかのように活性化していき、鉛以上に重かった身体が完全に軽減されたのだ。

 それを感覚で認識したヒロはゆっくりと立ち上がる。おぼつかない足取りで背後からゼロツーへと近付いていくが、それに気付く余裕は生憎のところ今の彼女になく、ただ目の前の敵を排除する殺意と憎悪しかない。

 

「もう、いい……」

 

「アァァッッ!! ガァッ…………」

 

 右手で彼女の両の眼を覆うようにして隠し、左手で彼女の身体を抑えたヒロは、ゼロツ

ーにそう呟く。つい先程まで瞳を真紅に染めて殺意を燃やして、獰猛な獣と化す程に荒々しかった彼女はどういう訳か、自然に鎮静化していく。

 

「……ダー、リン?」

 

「ああ。そうだよ。……ごめん」

 

 赤い角の少女からの疑問に少年は答えた。そして、謝罪の言葉を口にする。

 

「俺は、君がとても強いと思った。自信に満ちていて、俺なんか及ばなくて……きっと俺がいなくても君は何処までも飛んで行けるんだって……そう思ってた……」

 

 けど、そうじゃなかった。

 

 ヒロは間にそう挟んで続ける。

 

「君も俺と同じだったんだ」

 

 ゼロツーには、真に心を通わすことのできる“ダーリン”と呼べるが者がその隣にいなか

った。パートナーはいても所詮は消耗品でしかなく、3回が限界。彼女と組むステイメンは本当に共に乗りたいなどとは、思わないだろう。それでも乗るのはコドモとしての使命だから。上から与えられた任務に過ぎない。などとあくまで機械的で無機質な理由に過ぎず、彼女を理解しようとする者は一切いなかった。

 だから、いつも独り。

 ゼロツーは独りで戦って来たも同然なのだ。それをヒロは理解していたつもりで、本当は理解していなかった。悪く言えば、結局自分の事しか見えていなかった。自分がコドモとして、パラサイトとしての使命を果たせればそれでいい。そう思っていた彼はゼロツーという少女を改めて見て、自分の勘違いに気付けたのだ。

 

「君もパートナーが必要なんだ。だから、俺がなる。もう二度と君を独りにしない」

 

 約束だ。

 

「…………ありがとう、ダーリン」

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

「アァ? 光ィ?」

 

 マンティスは突如眩い白光を輝かせ始めたストレリチアに対し、怪訝そうに呟き首を傾げる。

 そして、それは起きた。

 

バギィッ!

 

「?! バ、バカナッ!! 泡ガ……」

 

 一つ、二つ、三つと。ストレリチアの機体を拘束し身動きを封じていた硬い泡沫が弾けるような音と共に亀裂がいくつも生じ、終いには完全に砕け散ってしまった。

 

「チィィッ!!」

 

 すぐさま後方へと軽く跳ぶ形で距離を作り、改めてストレリチアを見るが、その姿は大きく変わっていた。本来のフランクスとしての姿である乙女を模した人型の形態へと移行。

 色彩は深緑に、赤い斑模様が浮かぶ様はまるで血管のようだ。口部はピスティルの口を映すのではなく、砕けるような音を奏でて変形し、エッジの鋭利さが光る獰猛なクラッシャーと化した。更にはアルファやイプシロンのように両腕や両脚が黒く染まり、アーム・カッターに似た風な黒い刃の突起物が生えるように出現。

 その姿は、間違いなくヒロとゼロツーが2人初めてで乗った際、実現させたあの形態だった。

 

『行くよ! ダーリン!!』

 

「ああ! 俺たちの翼で、アイツを止める!!」

 

ストレリチアから出されるゼロツーの声に答えたヒロの姿は、アマゾン・イプシロンとなっていた。更に触手こそ出してはいないが、代わりに一切の穢れを感じさせない無垢その物を宿したかのような、実体を有さない透明な両翼がゼロツーを包み込むようにして展開。

 無論、ただあるのではなく、触手と同じような効果を発揮していた。

 

『グルルッッ!! ハァァァァッッッ!!』

 

 唸るような覇気の篭った声を吐き出し、ストレリチアは目標めがけ駆ける。

 目標とは、敵。すなわちマンティスだ。

 

「目障リダァァァァァッッッッ!!!!」

 

 つい、ほんのさっきまで無力だった筈の獲物がいきなり力を付けて、自分に刃向かう。それを寛容に流せるほどマンティスは出来てなどいない。すぐさま背中のアームの鎌で瞬く間に切り刻み、仕留めようと腹積もりを奸計するが無為に終わる。

 なんと、高速で振るわれたアームを難なく捉えて片手一つで掴んで捕まえてしまった。

 

「ナニィィッッ!!」

 

 背中のアームから繰り出す、高速の斬撃には自信があった。

 現に不意打ちとは言えども、仲間のフランクスを気付かれる事なく突き刺したのだ。仮に不意打ちでなかったとしても、マンティスのアームの速度を目で捉え対応する事は不可能。それを他ならぬ本人が知っているのだから、驚くのも無理はない。

 

『フンッ!』

 

 ブチィィッッ!!

 

「ギャアアアアアアアァァァァァーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!」

 

 まるで紙のように容易く、脆く。

アームを引き千切られたマンティスの本体であるカマキリアマゾンは、苦痛に満ちた絶叫を上げ、ストレリチアへ向けて怨嗟に満ちた視線を突き刺す。

 

「貴様ァァァッッ!! クソ、クソ、クソ、クソクソォォォォッッッ!!!!

許サナァァァァァァァァッッッ!!!!」

 

 汚い言の葉で喚き散らす様は滑稽で、つい先程まで己が優位性を誇っていた高慢な余裕は何処にもなく、その事実が滑稽さを助長させていた。背中のアームはもうない。

 その為マンティスは徒手や蹴り、そして手首に付属された鎌を利用して攻撃を仕掛けて行くしかない。だが、拳を出せば容易く同じ拳、あるいは刃の形状と色が変わったクイーンパイクで防がれて受け流されてしまい、蹴り技の類は軽快な動きで避けられる。

 終いにはギガを両手首の鎌に集中させ、緑色に淡く光る刀身を精製。それで切り裂こうと振るうがストレリチアに僅かな擦り傷さえ与えられず。それがマンティスの鬱憤を募らせ、苛立たせる。

 

「何故、何故、何故、何故ェェェェッッッ!!!」

 

「動き自体はいいけど、冷静さが無くて単調になってる。そんなに悔しかったのか?」

 

 疑問と混乱の叫びにイプシロンは答え返した。そして挑発的とも取れる発言は先程、力任せに捩じ切ったアームのことを言っている。

 それを理解した途端、さながら可燃性の高い油に火を入れるかの如く、鬱憤を薪にして負の感情がマンティスの中で燃え上がった。

 

「ギィィィィアァァァァァァァァッッッッ!!!!!」

 

 苦痛に悶える叫びにも聞こえるが実際は違う。これは怒りだ。燃え滾る憤怒と憎悪、殺意を音として叫び散らすマンティスはギガを高め、左右両鎌を交差させる。そして一気に引き離すと緑色のエネルギーがクロスを描いて飛来する刃になり、その行き着く先はストレリチアだ。このままいけば、確実にストレリチアの機体を斜め十字に切り裂くだろうがそれを良しとする道理などなく、特に何かをする訳でもなかった。

 

『ハァァァァッッッ!!!!』

 

 アマゾン・モード。そう命名された今のその姿は単に変わっただけではなく、その戦闘能力を大幅に向上させ機体の耐久性も格段に上がっているのだ。

 つまり……実質マンティスより上だ。

 ストレリチアは両手で握り締めたクイーンパイクを横一直線に薙ぐ。オレンジ色の蛍光的な色彩を放つエネルギーの刃が波のように揺らめき、マンティスのエネルギー刃と相殺

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュゥゥゥッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 することはなく、マンティスのエネルギー刃を一刀両断。二つに分かち、搔き消した後にマンティスの首を地へと叩き落した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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