ダーリン・イン・ザ・アマゾン   作:イビルジョーカー

41 / 77
屍獣に属する蟷螂/舞台の裏側で

 

 

 

 

 

「たっだいま〜!!」

 

 薄暗い有機的な肉壁が四方八方と空間を形成する異様な場所で、少女……ナオミは、軽快な挨拶をするが返って来たのは言葉でなく、鋭利さを秘めた刃のブレードだった。

 

「テメェ……誰だ? お家と間違えるにしちゃぁ、アホが過ぎるぜ」

 

 ザジス。ヴィスト・ネクロが幹部である彼のブレードはナオミの顎下へと差され、獰猛なネコ科特有の唸り声を轟かせる。その姿は人間でなく、アマゾンとしての姿だ。

 

「ニャンコ君は過激だね〜。私、協力者なのに」

 

「本当の事だよ、ザジス」

 

 ナオミの背後からナイン・アルファが姿を現わす。いつもの如く笑みを浮かべる姿は恒例と言っていい。

 

「“シャドウ”。テメェの知り合いか?」

 

 ザジスの口から紡がれた、幹部の名を示す言葉はこのナイン・アルファという少年が、フードで姿を隠していたあの“シャドウ”であると言う事実を指し示すもので、呼ばれたとうの本人は否定する様子は見受けられず。つまりはそういう事だ。

 

「正確に言えば僕等の姫様の知り合いさ」

 

『左様。刃を向けるでないザジス』

 

 厳粛且つ、壮大不遜と聞こえる女性の声と共に薄暗い闇から、巨大な何かが浮かび上がる。

 

「ボスッ……」

 

 十面姫。赤い肌と二本の角。額に見開かれた第三の目。芋虫のような肉塊の下半身に顔がいくつもあると言う、聞くだけで身の毛もよだつ姿は、恐怖しか有り得ないだろう。

 

『無闇矢鱈に刃を向けるのは感心できないな。さっさと下ろすがいい』

 

「……分かりました」

 

 そう言い、素直にブレードを下ろしたザジスに向けてナオミは満足そうに頷く。

 

「いい子いい子♪ 聞き分けの良い子猫は嫌いじゃないよ」

 

「フンッ! ……」

 

 彼女の皮肉のような言い回しが気に入らなかったザジスは、今にもズタズタに切り裂いて殺しそうな程の殺気と殺意と怒りを滲ませ、忌々しいとばかりに鼻鳴らした。自らのボスの言葉とは言えども

、ナオミを信用する気は毛の先程もない様子だ。

 

『我が子が失礼した。スタークよ』

 

「気にしなくていいよ。というか、今はこの姿だからナオミでお願い」

 

 自身の部下の不手際に素直な謝罪の意を述べるものの、特に気にする様子はなく、ナオミは自分の名の訂正を要求するだけに留めて、十面姫は承知とばかりに首を縦に軽く振った。

 

『アニレス、シャドウ。そなたらの責務を褒めて遣わす。よくこなしてくれた』

 

 ナオミ、シャドウと共に来たアニレスに十面姫は慈愛に満ちた声で賛辞を送る。

 

「「感謝と光栄の極み」」

 

 それに対し、2人はそう答えた。

 

「しかし、わざわざオトナを捕らえる事に何の意味が?」

 

 アニレスが両都市キッシング時、感付かれる事なく第26都市に潜入していたのには理由があった。

 26都市に住む指定された30名のオトナを確保する事。

 それがアニレスに与えられた、十面姫直々の命令だった。隠密・諜報を得意とする彼女の裁量を見込んでの判断である。

 

「それに関しては私が答えよう」

 

 プロフェッサーが十面姫へ臣下の礼を取り、そう言いながら会話に参入する。

 

「ブラッドスタークからの情報に基づき26都市のオトナは、現在私が実用化を目指している『アマゾネスト計画』において、貴重なサンプルと成り得る可能性があってな。そして厳密な検査の結果…可能性は確固たるものとなった」

 

「フフ、私のあげたデータ役に立ったでしょ? あと今はナオミって呼んでね」

 

「ああ、役に立った。礼を言おうナオミ」

 

 刃を向けたザジスと違い、何ら敵愾心や殺気も出さず、淡々とした口調でナオミにそう返すプロフェッサーは更に続けて言う。

 

「アマゾネスト計画が上手く行けば、我が君の望む“改造アマゾン兵士”を完成させ量産する事ができます。今しばらくの時間を……」

 

『よい。いくらでも待つ。妾に時間など果てぬ山ほどある故な』

 

 気を荒げることなく、我が子同然の幕下たる者に対し、上に立つ者としての度量と寛大さで答える。

 

「御心遣い感謝致します」

 

 再度頭を下げては礼を欠かさない姿勢に満足気に笑う十面姫は、ナオミとナイン・アルファが“連れて来た者”へと視線を向ける。

 

『お主が090の番号で呼ばれし子か。そなたの協力感謝するぞ』

 

 code090。26部隊のリーダーだったコドモの少年。しかし今となっては過去の幻影に過ぎず、彼は人ならざる存在としてこの場に立っている。

 

「も、勿体無い言葉。お初にお目にかかれて恐縮です」

 

 しばし動揺した雰囲気を漂わせつつ、礼を欠く事なく、090は頭を下げて会釈する。十面姫というその巨体が放つ強烈な存在感に加えて、その寛大さと発する雰囲気は女神のような神秘性と優雅さを兼ね備えている。

 そんな存在が目前にあっては090の精神は、動揺する以外の術を持たない。

 

「ヘッ、まさか新入り……なんてんじゃないだろうなぁ? 」

 

「そのまさかだよ。彼は僕たち、ヴィスト・ネクロの正式な幹部だよ」

 

「なにぃぃッ!!」

 

「!!ッ……この坊やが?」

 

 いけ好かないとばかりのザジスに対し、当然だと答えるナイン・アルファの言葉はザジスのみならず、アニレスをも驚愕させた。

 

「おいおい、そいつはねぇーだろうがァァッ! たかがクソAPEに痛手負わせたくらいで昇進たぁ待遇が良すぎやしねぇか!!」

 

 キレ気味に捲し立てるザジス。彼にしてみれば自分達組織と敵対していた者を同胞どころか、高位に当たる幹部に据えると言うのだ。確かに090はAPE側に損害を齎し、アニレスが26都市でのオトナの収集作業を行いやすいよう、都市内部やセキュリティー情報を渡したりもした。

 しかし、ザジスにとってこれらは所詮おつかい程度に過ぎない。そんなことで自分と同じ地位に立つなどプライドが高い彼にしてみれば以ての外だ。

 

「私は別にいいわよ。坊やの内に潜む激しいまでの憎悪の業火……ゾクゾクしちゃう」

 

 しかしアニレスは気に入った様子で、しかも彼の理性という、仮面の裏側にある本性を見抜いていた。それが気に入ったようで恍惚とした熱意ある視線を090に向ける。

 

「ハァァァァッッ?! 正気かよお前!!」

 

「どう思うのは貴方の勝手だけど、十面姫様がお決めになった事なのよ? それに異を投げる気かしら?」

 

 正論だった。何者かを幹部にするという決定権の正統保有者は十面姫のみ。つまり、自らのボスがそうするよう決めただけなのであって、他の誰かが勝手に決めた訳ではないのだ。

 

『アニレスの言う通りだ。次、異を唱える発言をすれば分かっておろうな?』

 

 僅かだが、殺気が滲み出る。

 それは量としては素人では気付くまいが敏感……それなりに経験を積んだ力量の者ならば確実に感付く“質”。いかに凶悪的で途方もなく恐ろしいものなのか……冷酷な視線が更に恐怖を助長させる。

 

「き、肝に命じます……」

 

 反論など到底言えない。そも気すら起きない。もしこの尋常ならざる殺気に当てられても何かを言える者がいるとすれば、その人物は愚鈍か狂人のいずれかだろう。

 

『ならば良い。シャドウよ』   “ ”。

 

「なんでしょうか」

 

 ザジスの返答に問題なしと結論付けた十面姫は、今度はシャドウことナイン・アルファへと向けられる。

 

『ナインズ・リーダーとしての活動に支障はないか?』

 

「はい。問題ありません」

 

 余計な間を作らず、しかし焦った様子も動揺した雰囲気もない。

 あるのは優雅な気品と余裕だけだ。

 

「老人方には“スタークに不意を突かれ意識を奪われた”と伝えておきました。多少ナインズ・リーダーとしての評価と信頼に響くかもしれませんが……裏工作も万全ですし、グランクレバス攻略という大規模作戦の事も考えると何かしらの探りを入れられる、と言った可能性は皆無かと」

 

『ふむ。そうか。しかし油断はしてはならんぞ? 万が一という事も有り得る』

 

「その点は抜かりなく。ご安心を」

 

 シャドウと言う名は、ナイン・アルファが持つ二つある名の一つに過ぎず、正確に言えばAPE直属の親衛隊リーダーとしてのナイン・アルファとは対極にあるヴィスト・ネクロとしての名前である

。が、特に何をどう思うと言う事はなく、名前など個を区別する為の記号としか認識していない彼にしてれば、どちらで呼ぼうがそれが明かしてはならない場所でなければ、別段咎めることも気にすることもない。

 

『では、各々尽力せよ。来るべき時に備えてな。そして新たなる幹部……これより忌まわしき記号の名を捨て、これからはこう名乗るがいい』

 

 “プレディカ”と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞いてもいいですか?」

 

「ん? どうぞ」

 

 ヴィスト・ネクロの拠点内部にあるナオミの為に充てがわれた部屋。コンクリートのようなセメントに近い物質で覆われ、あの有機的な肉塊が四方八方と埋め尽くしていた空間とは、えらい違いだと言える位に対照的だった。

 その部屋に設けられた黒く大きめのテーブルの上に13都市から持って来た『あるもの』が入ったケースを開き、中身に目を通していたナオミに声をかけた少年…元26部隊所属のパラサイトだった

code090ことプレディカは眼前の少女に声をかける。

 何故ここにいるのかと言うと彼は十面姫からナオミと共に行動するよう命じられ、ここに来たのは彼女から今後の予定・行動方針を聞く為であってそれはもう終わった。

 だが、プレディカには気になる事があった。

 

「何故、この“アマゾンインジェクター”を僕に?」

 

 アマゾンインジェクター。

ただのコドモに過ぎなかった彼をアマゾンへと変えた、禁断のアイテムとも言うべき悪魔のような力を秘めた代物。

初めてナオミ……いやブラッド・スタークと接触したのは、26都市が13都市とキッシングする1週間前だった。ミストルティンの林の中で1人黄昏ていた所に突然、黒い蒸気に包まれるようにして登場を果たしたのだ。最初は驚き、その得体の知れなさに警戒しつつ通信端末で知らせようとしたのだが後ろへ回り込まれ、両手首を抑えられる形で拘束されてしまった。

そんな彼にスタークは言った。

 

『ボクはキミたちのパパの協力者さ』

 

 当然だがそんな事を言った所で“はい、そうですか”と容認する筈がない。しかしスタークが正式なIDを証拠として見せた為一応は納得し、とりあえず落ち着いて済し崩しにだが彼女の話を聞く事になった。

 

 そして、スタークの話で090は知った。

 

 この26都市と13都市が1週間後にキッシングすることを。

 そして13都市『セラスス』にあの“パートナー殺し”のゼロツーがいることを。

 それを耳に入れた途端、ふつふつと沸き起こる、黒く滲むような感情を覚えるも必死に押し殺す。だが中々止まらない。それ程までに憎悪が心の奥底に巣食っていたらしく、心の葛藤に苦しむ090にスタークはアマゾンインジェクターを見せては耳元で囁く。

 

『何も隠す事ないし、何も間違ってないさ。曝け出しちゃいなよ。コレを使えばキミは人間じゃなくなる。けど人を超えた存在になれる……もうオトナに従う必要もないし、簡単にあのバケモノの血を引く娘を殺せる』

 

“悪魔の誘惑”だった。そしてスタークは自身が七賢人を、APEを裏切るつもりである事を明かし、インジェクターを渡す為の条件を二つ提示した。

 

一つ、スタークと同じく彼自身も組織を裏切る。

 

 もう一つは、己の復讐を果たす事への見返りとしてスタークの右腕となり、忠誠を誓う。どう考えてもコドモであれば匙を投げる内容だ。まともであればこれを容認するコドモはいない。

 

『どうする? 仲間や居場所を裏切って、人であることを捨ててまで、キミはボクに付いて来るかい?』

 

まとも、であれば。

 

『………僕は、運命なんだと諦めていた』

 

 ポツリと。090は独白を零す。

 

『コドモはパラサイトとして、オトナの為、人類の敵である叫竜の脅威から守る。それが当たり前の常識であって、使命だ』

 

『でもあの子を……パートナーを失って初めて思ったよ』

 

 “なんで、僕らなんだ?”

 

 それはたった一つの疑念だが、心の奥底に根付くには十分だった。

 

『人類の敵を前に何故オトナは何もしない? 不老不死を可能に、プランテーションを作り上げるだけの科学技術を持っているにも関わらず、なんでコドモにばかり戦わせるんだ?』

 

『それだけじゃない。パートナー殺しのアレを……僕のパートナーを殺したあの化け物を何故許容する?! ありえない!!』

 

 疑念は不安に。不安はやがて精神を侵し狂気へと変貌してしまう。加えてゼロツーという憎悪の

対象がおり、それが今ものうのうと生きているばかりか、オトナに過大評価される始末。

 まともで無くすには十分過ぎた。もはや既に彼に人としての理性はなく、あるのは憎悪と狂気によって作り出された復讐の執念。

 

『あんたが何を企んでいるのか分からない……だが、いいさ。僕は許されざる事をしたとしても

アイツを、code002を殺す!!』

 

 差し伸ばされたその手を取るか。あるいは、振り払うか。

 この究極の二択を前にして彼が選んだのは……“手を取る”という前者だった。しかもアマゾンインジェクターを奪うように取ると、なんと首に刺すという常軌を逸した行動に出た。

 

『わざわざ首に刺さなくてもいいんだけど……まぁ、覚悟の表れってヤツかな?』

 

『う、ぐゥゥゥッ!! アアアアアァァァァァァッッ!!!!』

 

 黒く膨張した血管が浮き上がり、その身を異形へと変えて090はアマゾンへと生まれ変わった。その代償として090は人間である事を辞めてAPEから離反。

 プレディカと名を与えられたばかりか正式なヴィスト・ネクロの幹部となったがその事に関して彼は後悔など微塵もない。ただ、スタークが何故自分を選び、アマゾンズインジェクターを与えて自らを右腕にしたのかが分からなかった。

 別段彼は何か特別に優れていると言う訳ではなく、ただリーダーとして部隊を指揮していた程度のコドモだ。そんな自分を何故彼女は選んだのか。それが妙に気になったのだ。

 

「ふふ、そんな大した理由じゃないよ」

 

ケースの蓋を閉じ、改めてプレディカに向き直るナオミの表情は愉快そうに目を細め微笑んでいた。

 

「君は“生きてた”から」

 

「“生きてた”?」

 

「コドモはみんな自分が戦う事に関して何も疑問を抱かない。ただ命じられて従う。それって……生きてる意味ある?」

 

 その問いにどう答えればいいのか。少なくともすぐには出せなかったが大して期待していなかったのか。ナオミは、表情を変えず両手をテーブルの縁に掴む形で置き、足首辺りをクロスさせた仕草で続ける。

 

「生きようとする意志の力は様々な可能性を産む。APE側の人類は永遠に失われない命を手に入れたけど、でも死がなくなれば生きようとする必要はなくなる。だから……自然とエゴとも呼ぶべき欲望は、感情は無くなる。本当つまらないもんだよ」

 

 不老不死は人類が望んでいた永遠のテーマであり、人類史の中では多くの権力者が地位を極めた末としてソレを求めた。が、誰もが成し遂げられなかった。挙句には眉唾物の手法や代物を愚かにも信じ破滅した者もいた。そんな不老不死をAPEは実現させた。

 更には大幅な感情の抑制や性の廃止。かつてあって当然だった物が前時代の遺物と言わんばかりに切り捨てられた。欲を忘れ悠久の時を生き続ける事だけに費やすだけの愚物。少なくともナオミはそう言いたいかのようだった。

 

「そんなオトナに従うだけで、どんな命令でも受け入れて何も言わない。ハッ!

お人形だよコドモってのは。そんなの生きてるとは言えない……けど、君は違った」

 

 テーブルから離れ、ぐいっとその顔を近付けて来たナオミは真っ直ぐ逸らさず、プレディカの瞳を覗き込むように見据える。その際自身の手を彼の左頬へと。撫でるように添えた。

 

「一つの疑問を抱いて、一つの目的を見つけて、こうして今に至る。自己の確立を成し遂げたんだ。だから“生きている”に当て嵌まるんだよ君は」

 

 命は誰に命令されずとも生きようとする。

 この地球に遍く種の全てが、獣も鳥も、小さな昆虫や極小の微生物までもがこの法則に当て嵌まるがコドモは違う。

 死ね、と言われれば躊躇を抱く事はあれどそれを実行してしまう。オトナの命令が生存の規範とな

ってしまっているのだ。ナオミはそれを“人形”、“生きていない”と称しているのだ。

 

「……貴方の目的は、一体何なんですか?」

 

 プレディカには、このナオミという少女の事がよく分からなかった。当然と言えば当然だろう。

 彼女の口から語られるご高説は彼にして見れば、意図の読めない理解不能そのもの。自らを選んだ理由を問うても、その答えは彼にとってあまり納得の行くものではなかった。

 

「おっと。余計な詮索はしないでよ。君は私の右腕で、その役通り補助してくれればいい。君のゼロツーへの復讐だって叶えさせてあげるんだから」

 

 そもそも安易に何もかも曝け出すような人物ではなく、必要と判断した時にしか明かさない合理性を持っている事だけはプレディカにも分かる。だから、ここで色々と問い詰めようが彼女は何も答えはしないし、適当にはぐらかす筈。

 場合によっては暴力と弱味を利用した脅迫や実力行使もして来るだろう。しかし、それは現状大した問題ではない。

 自分はあくまであの叫竜を血を引く少女を殺せれば、仔細な事など構わない。復讐を果たせさえすればいいのだ。そうでなければ全てを裏切って、ここに来た意味などないのだから。少なくともそう考えていたプレディカは頬に添えていたナオミの左手を、煩わしいとばかりに軽く振り払った。

 

(さて。欲しいものは手に入ったし、あとは13部隊の成長を見守るだけ…かな?)

 

 ナオミは特に不機嫌になると言うこともなく、プレディカに背を向けて両腕を組みながら熟考し

始める。敢えて言わなかったものの、ナオミはプレディカ以外にも“生きている”に当て嵌まると考えているコドモたちがいた。それはテストチームという立場にある13部隊だ。

 

 彼等は、今はまだオトナの隷属にあるが徐々にそこから“脱却しかけていた”。

 

(13部隊は“私の個人の目的”の為にも必要な人材。イプシロン…ヒロにもこれから段々と強くなってもらわないとね〜、フフフ)

 

 手を振り払われた事など、どうでもいいとばかりに自らの思考に浸る彼女は今後の事を想像し内心、ただ微笑みを増すだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

「刃……もしかして、フザけてるの?」

 

「いや、だから! マジで覚えてないんだって!」

 

 時を遡り、両都市防衛作戦の最中。

 アマゾンモードを果たしたストレリチアと、似たような形態へと変質したマンティス。両者の攻防が映し出された司令部のモニターの前でナナが大幅に遅れてここへ訪れた鷹山に理由を問い質し、その返答が“全く覚えていない”と言う冗談の類にしか聞こえない言葉に苛立ちを覚えていた。

 

「はぁぁ。まぁいいわ。それにしてもストレリチアのあの姿……」

 

「入隊式の時と同じだな」

 

 ナナの神妙な声に対し、ハチが彼女が思った事を言葉にする。

 

「アマゾンモード!」

 

「きゃっ!」

 

「うぉぉッ?!」

 

 気配を一切感じさせず、急に声を張り上げ、背後から現れたフランクス博士にナナと鷹山は驚くがハチはそうでもないらしく、驚いた様子はなかったものの鷹山は博士に抗議した。

 

「……んだよ爺さん。驚かすなっつーの」

 

「それよりも見ろ! アレを!」

 

 鷹山の抗議をスルーし、モニターに映る機体……ストレリチア・アマゾンモードの姿に首付けという有様だった。

 

「またしても、あの姿を成した。やはりあの少年こそがフランクスに新たなる進化を齎す一つの可能性!」

 

「ストレリチアもそうだがよ、どうやらあのカマキリモドキの機体も同じモンらしい」

 

 鷹山はストレリチアと激しい近接戦闘を繰り広げるマンティスを見据え、訝しむ。

 

「どっちもアマゾンの気配……あの時と同じって事は、やっぱアマゾン細胞が鍵ってことか」

 

「どうやら、戦いは終わったようですね」

 

 ストレリチアが放ったエネルギーの斬撃がマンティスの首を地へ落とす場面を見て、この何もかもがイレギュラー過ぎる戦いに終止符が打たれた事を悟ったハチは、そう言って溜息を零した。

 

「両部隊も叫竜の殲滅に成功……か。本当、今回の作戦は異常事態の連続ね」

 

「やっぱコレもヴィスト・ネクロ絡み……ん?」

 

 イプシロンに変身したヒロがストレリチアから降りるのを見た鷹山。

 落とされた頭からは先程の戦闘の場面でもそうだがアマゾン特有の気配が発せられている。本来、鷹山はアマゾンとしての気配察知能力は低い方で、イプシロンには遠く及ばない。だから今いる司令部から外部戦闘地点までの長距離では気配など察知する事は不可能なのだが、それを無視して来るほどの気配が発せられていると言う事は気配そのものが濃密で、巨大なものである事実を物語っていた

 しばらく映像を見ていると090……いや、カマキリの姿を彷彿とさせるカマキリアマゾンが何かを両手で持ち、ガツガツと口に付けて喰らっていた。アマゾンが食べるものは生き物のタンパク質。

 

 もっと正確に言えば……“人間の肉”だ。

 

「!!ッ……うぅ!」

 

「見るな、ナナさん」

 

 おぞましい。気持ち悪い。そんな感情が吐き気と共に込み上げて来たナナは両手で口を押さえて、必死に出るのを堪えつつ嗚咽を零す。

そんな彼女の前に立ち、モニターが見えないよう壁となってナナの背中を摩るように抱き締める。

 

「こ、これは……」

 

「……食っておるな。己のパートナーの頭を

 

 信じられない。一言で表すのであれば、これ程しっくり来る言葉はないだろう。アマゾンは大幅なギガや体力の消耗、もしくはダメージを受けた際タンパク質を摂取することで回復する事が可能で、治癒力も高まる。そういった理由から食しているのだろうが、よりによってパートナーを食料としたのだ。それがどれほど異常過ぎる事か………理解が及ばない人格破綻者でも無ければ、狂人の類でもない

 そして、カマキリアマゾンとイプシロンによる戦いを終始見逃さず刮目していた司令部の面々は、まるで…と言うより真意はどうあれ事実としてカマキリアマゾンの窮地を救うかのように登場を果たしたブラッド・スタークに、今まで内に秘めていた疑心が確信に変わるのを鷹山は即座に内心感じた。

 

「チッ、やっぱ裏有りだったかよ!!」

 

 ブラッド・スタークが七賢人の協力者である事は本人の口からは勿論、きちんとした事実確認をしている為、分かり切っていた事だが鷹山は毛の先程も信頼・信用を預ける気など無かった。というか

、何をどう言われようが起きないと言うべきか。

 13部隊初の実施戦闘時に乱入し助力したものの、その次のアマゾン掃討作戦での時はイプシロンの戦いぶりを見たいと言う名目で13部隊のコドモ全員に拘束を施し、イプシロンのみに生き残ったアマゾンの対処をさせたのだ。

 彼の消耗具合の状態を鑑みればあの時の行為は軽率なものとしか言えず、アマゾンの掃討以外の目的があった事を匂わせるには十分だ。

 スターク曰く『イプシロンの実力を見てみたくなって試した』と趣旨の言い草だったが、その前は『13部隊の戦闘がどのようなものなのか確かめる為、敢えてすぐには助けず、傍観に徹した』などの発言もある。七賢人によって13部隊の支援・護衛を依頼されたのであれば、それに従わない道理はなく速やかに実行すべきだろう。

 しかしそれをせず、最終的には遂行したものの今度はイプシロンを試すような事をする始末。

 そんな理由もあって、スタークには重々警戒していたがまさか、この局面で裏切りに出るとは思っていなかった。映像だけでなく、音声も拾うことができた。

 

“ヴィスト・ネクロ。そこがボクの属する新しい場所さ”

 

“そんでもっておめでとう。無事に生還してくれて。わざわざ君の頭の中の世界にまで入って説得したかいがあったよ”

 

“言ったでしょ〜? 正真正銘本物のブラッドスタークだって”

 

“じゃあ、また会う日まで。チャ〜オ!”

 

 一部、理解できない所もあるが、彼女が敵であるヴィスト・ネクロに属する者だった真実と何らかの目的でカマキリアマゾンの救出の為に現れ、それを遂行せしめた事。

 現状では、この二点しか把握できない。

 

「……コレは、非常に拙いですね」

 

 重く漂い始めた勝利の後とは到底思えない程に暗く、鈍重で燻んだような空気。

 これを破る形で第一声を発したのはハチだ。

 

「奴がスパイだった事を考えれば、やはり……様々な情報を外部へ流したと見るべきかと」

 

「ま、そうだろう。で、その流したブツの先にあるのは……」

 

「ヴィスト・ネクロ……」

 

 ナナが敵対組織の名を呟く。スターク本人の言葉が正しいのであれば、そこ以外に到底考えられない。

 

「……まずは、事後処理が先だ。有力な情報が一切ない中で議論に熱を入れても仕方あるまい」

 

 至極正論だ。フランクス博士の言葉を皮切りに各々が事後処理である後始末の為に向かおうとするが、博士が司令部を出る去り際にふと呟く。

 

「それと、ゼロツーの件だが暫定的に現状保持となった。忘れぬよう覚えとけ」

 

 ゼロツーには七賢人直々の帰還命令が出されていたのだが、暫定的とは言え、それが中止となったらしい。フランクス博士が以前説得してみると言っていたが、説得の成果か。はたまたは他に何らかの理由等が絡んでそうなったかは分からないが、少なくともヒロにとっては朗報だろう。

 

「code016にも伝えておけ。ワシからは以上だ。じゃあの」

 

「は、はい」

 

 それだけを言い残し、今度こそ博士は去った。

 鷹山、ハチ、ナナの3人はそれに関して何も言うことはなく、やるべき事へと意識を向けた。

 

 

 

 

 








090、ヴィスト・ネクロへ……となりました。実はそのまま倒されるか、その後も敵として出すか迷うに迷ったんですけど、090って本編だと出番ないし、正直なところ脇役だったので敵として、きちんと出番のある悪役として出すことに決めました。

ちなみに新しい名前の『プレディカ』はプレディカドールという、イタリア語でカマキリを意味しています。

今回でこの章を終わらせる予定でしたが、もう1話分あります。すみません(-_-;)

では。





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。