ダーリン・イン・ザ・アマゾン   作:イビルジョーカー

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 ふと見てみれば、なんと評価バーが色付きに((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル。

 お気に入り数も72となってもう色々嬉しいです! これからも頑張って書きますので、どうか応援の程をよろしくお願いします!!




もう一つの人類の砦

 

 

 

 人類の不老不死化計画。これを聞くと大抵の人間は有り得ない、馬鹿げてるなどの言葉で一笑に付すだろう。しかし科学の進歩とある物の発見により、不老不死は実現を果たした。

 それはマグマ燃料。

 “マグマ”と名が付いてはいるがマグマそのものではなく、ドロリとした不定形の液体で赤と橙に光り輝く様と地中深くにて発見された事からそう命名されたのだ。マグマ燃料は

たった数滴の量でも施設一個を運営できる程の高エネルギーを生み出す事が可能で、化石燃料に変わる新たなエネルギー源として確立されたのだ。

 更にこのマグマ燃料は人体に対し有益な効果があった。細胞に含まれる染色体の末端の部位に相当する“テロメア”。

 染色体を保護する役目を持ち、テロメアは細胞分裂を繰り返す度にその細胞ごとに短縮化していき、それに伴い引き起こされるのが“老化”である。

 老化現象はテロメアの短縮化と酸化ストレスが原因であり、テロメアの短縮化阻止は数万年掛かろうとも不可能とされて来たがそれを可能にしたのが『APE』だった。

 APEはマグマ燃料を人体でも運用できるよう化学物質へと加工した『ME生体因子』を開発。

 ME生体因子はテロメアの短縮化に対し、短縮した構造組織を再生・細胞分裂の度に強固させていく働きを行い、更には特殊なエネルギーを体内で生成することで生命活動に必要な酸化反応の代替となり、酸化ストレスの要因である活性酸素を失くすことに成功。

 それによって免疫力は大幅に低下したものの、クリーンライフシステムと呼ばれる無菌をあらゆる方法で徹底された生活システムが利用された住宅施設が普及。生活の基盤が大きく変わり始めた頃、突如として出現した叫竜への防衛策として移動要塞都市プランテーションを建造。APEに賛同し、傘下に属した人類はプランテーションによって齎された快適な凪のような生活を手に入れたが、全ての人間がそうなった訳ではなかった。

 この時期、総人口において貧困層と富裕層の二極化されAPEの唱える不老不死化に否定的な考えを持った人々と、貧困層だったが為に不老不死を得られずだった人々はAPEに匹敵し得る影響力と権力を持つ『RG財団』の保護下に入り、マグマ燃料の採掘と並行して起きていた環境破壊や地殻変動などの今後を想定しプランテーションと同等レベルの防衛機能を有する都市を築き上げた。

 名は“コロニー”。APEのプランテーションと双璧を成す、もう一つの人類の砦である

 

 

 

 

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

「報告はそれだけかい?」

 

「はい。以上となります」

 

 無機質な材質で構成された四角い空間には、まるで舞台のステージを彷彿とさせる段と台に当たるパーツが配置され、床や天井、左右四方八方とある壁には強度が高く耐震性においても優秀な材質を白い色彩に染めて用いている。

 かなり大きな四角い形状の窓ガラスもあり、外側に広がる高く聳え立つビル群。それを背景に丸みを帯びた楕円形状のデスクに肘までの両腕を置き、楽にした姿勢で腰を下ろす1人の男性はやや呆れた様子で相対する部下の男を見ていた。

 とは言え、デスクに座る男は部下に対してそういった感情を孕んだ視線を向けている訳ではない。 向けているのは、この場にはいないある男だ。

 

「鷹山君から来る情報はどれもこれも、今回のもそうだけど、微々で大した事のないものばかり……“グランクレバス攻略作戦”に関する情報は別だけど」

 

「まぁ、あの人はコソコソ嗅ぎ回るのは嫌いな人ですし……」

 

「知ってるよ」

 

 苦笑を浮かべる白衣に眼鏡をかけた短い黒髪の部下の男に対し、上司である男はその一言で一蹴してしまった。その上司の男は、肘の辺りまで伸ばした長い金髪。鮮やかな赤の生地に金の十字架が刺繍された眼帯を左目に添え、片方の目は赤の眼帯とは対極を示しているかの如く鮮明な空色の瞳がハイライトを宿していた。

 

「けど、もうちょっと情報の方をなんとかしてほしいかな……て、言っても部外者という立場を考えるとそう簡単にはいかないか」

 

 致し方なし。そんな思考が顔に出ては溜息を吐かずにはいられなかった。そもそも鷹山刃圭介というコロニー出身の男が協力者と言う建前でAPE側にいるのは、APEから来た協力要請がそもそもの発端だった。

 内容は『アマゾン対策の為にそちらの力を借りたい、ぜひ優秀な人材と知識・技術の提供を願う。その報酬として可能範囲内での物資を提供をする』、というもの。

 これに対しコロニーを統括する統制委員会は承諾し、戦闘方面・生物学方面に優秀な人材である鷹山刃圭介を派遣人材として抜擢。

 アマゾンに関する資料・及び対アマゾンに特化した技術を提供したのだが、ただ素直に差し出す程

、財団はお人好しではない。特に今この部屋においてデスクに腰を下ろしている金髪の男『ヴォルフ=ネロ』に限っては。

 特定有害生物対策センター、通称『4C』の局長を務めると共に統制委員会の1人である彼は、鷹山にある極秘の任務を下した。

 

 『APEの裏側を探れ』と。

 

 ヴォルフはAPEという科学機関に対し、疑念を抱いている。APEは謎が多く、その始まりは不明。表舞台に立ってから大きくなるまでに然程時間をかけてはおらず、徹底した合理主義に基づく人類の安寧と発展を行動理念として動き、これまでに多くの功績を人類に齎して来た。だが、それだけに黒い噂が絶えなかった。

 世界各国の政治・経済の奥深くまで根を張り、対立した団体や企業、国の重役に位置する人間が不幸の事故や自殺等様々な形で死を遂げ、更に違法な実験を繰り返している等の疑惑の声は当時世間にはあったものの、これと言った明確な証拠は一つも見つからず。

 権力による影響力も相成ってかAPEは意に返さず、結局は根も葉もない都市伝説として形骸していき、やがて消えていった。

 しかしコロニーには過去APEに勤めていた経験を持つ一部の人々が何十人かおり、それが噂ではなく真実である事を知っていた。人類がコロニーとプランテーションの二極に分かれてからもう数百年と経っているので殆どいないが、それでも存在を危険視する彼等の子孫は今もいる。

 その1人がヴォルフなのだ。

 

「局長は、APEが我々の脅威になるとお考えで?」

 

 ヴォルフ直属の部下である男性『ロシュウ』は、そんな問いを上司に投げかけるものの

、とうの本人は何処か釈然としない顔を浮かべた。

 

「まぁね。さすがに決定打に欠けるけど」

 

「……あくまで可能性だと?」

 

「APEは過去3度、コロニーに対して同盟勧告をして来てる。無論それを突っ撥ねてるのは君も知ってると思うけど、3回も同盟をしつこく勧めて来る連中が何もせず簡単に引き下がるのはおかしいと思わないかい?」

 

 確かに。言われてみれば妙な話だとロシュウは思った。APE側の同盟目的は『叫竜並びアマゾンといった人類を脅かす敵の殲滅掃討と、双方の増強・全人類の調和』などといったもので、理由としては落とし所はない。

 だが、APEという組織の暗黒面をコロニーは知っている。であれば同盟に関する要求を拒むのは当然で、それを3度もして見せた。APEも武力を用いての侵略行為に出てもおかしくはなかったが叫竜という、未知でありアマゾン以上に脅威となり得る存在を相手にしていればこそ、今ある現状の戦力をコロニーとの戦争に割く余裕はなかったらしい。

 結果“APEは何もせず、引き下がった”。

 

「あの叫竜を相手にしてますから、当然では? 我々がアマゾンを相手に戦うのとは規模が違います」

 

「……そうだね。けどもし、その戦いが終結したとしたら?」

 

 気のせいかヴォルフの瞳が剣呑な輝きを宿したように見えた。

 

「鷹山君の情報が正しければ、グランクレバス攻略はそう長くない内に始まる。大規模な戦いの末にAPEが勝利したら? どうやら連中、攻略する狙いは叫竜側の兵器らしい」

 

「叫竜の兵器? まさかそんな……」

 

 叫竜は様々な姿をしており、それと同様に個の能力も多岐に渡る。しかし知能に関して言えば個体間での大した差はなく、全体的に見て文明・文化を構築するだけの知能はないと言うのがロシュウの見解だ。

 そんな動物と大差ない存在が兵器を作る等ありえるのか? 疑問は尽きないが、もしそれが本当だとしてAPEがソレを手に入れるだけでなく、自在に操作できる術を見出したとしたら?

 兵器とは、ただあるだけで抑止力となるものだが使われてこそ真価が輝く。もし使うとして、その矛先は何処に向けられるのか? 最悪のシナリオを脳内思考の末に導き出してしまったロシュウことを察してか。

 ヴォルフが“しかし”と、間を置く形で釘を刺した。

 

「今のところ詳細は不明だ。現段階で何も分かっていない事に色々憶測やら仮説を立てるのは非合理的だから、やめた方がいい」

 

「す、すみません」  

 

「分かってくれればいいよ」

 

 そう言って立ち上がったヴォルフは後ろを振り返り、眼下に広がる景色へ視線を向ける。コロニー内部に存在する街はプランテーションの都市とは違い、無機質な白や灰色などの材質で出来た建物が立ち並び、その下には大勢の人々が右往左往と行き交っていた。コロニーの庇護によって生きる人々は、今も“人としての心”を旧時代の遺物と切って捨てず、大切にしている。

 かつての在りし時代と何も変わらず、だ。

 

「何があっても守らなきゃいけない。何者であろうと敵は排除する。それが僕達の仕事で、守るべき信条だ」

 

 それは一つの、苛烈的な思想なれど命を賭す程に大切な何かを守りたいと願う者として、持ち得るべき決意。それはヴォルフという男の根幹にある一面であり、ロシュウもそれに関しては重々承知している。

 だから独り言に近いヴォルフの言葉に反応する事なく、そのまま無言を貫く。

 彼等は4C。コロニーに住まう市民を守るのが使命であり、この程度の覚悟はこの職務に就く上で必要不可欠なもの。守る為、そして“最善なる安寧”を得る為に常に命懸けで尽力するのだ。

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 コロニーがAPEとの同盟を拒む理由は、相手側の裏にある“黒い部分”というだけではない。

 コロニーは、人間だけでなくアマゾンも一般市民や治安維持組織の一員として暮らしている。普通に考えてアマゾンの人食いの特性を鑑みれば共存は不可能と思われがちだが、そうとは限らない。

 アマゾンの人食欲求を抑える為の抑制剤が備わった腕輪があり、通称アマゾンレジスタ

ーと呼ばれている。それを腕に付けることで、人食欲求を条件付きだが抑える事ができ、人と変わりなく生活する事が可能となり、本来ならば食うか食われるかの間柄なれども上手く暮らしている。

 しかし、先程も言ったがアマゾンレジスターから供給される抑制剤の効果を正常に発揮させる為には、条件が必要となる。絶対にだ。

 まず、“人を一度も食べた事がない”。

 人の味を覚えるとそれだけを求める物質が体内で生成され、抑制剤の成分を分解してしまう。

 その為、アマゾンレジスターを付けているアマゾンは全く人肉や血液を一切口にしておらず、もし口にしてしまえば………その時は既に抑制剤は効果を為さなくなる。

 理性を消失させた人食いの獣と化してしまうのだ。

 もし、そんなアマゾンが出て来てしまった時は容赦なくそのアマゾンを狩らなくてはいけない。

 人を襲わないからこそ共に歩む事ができるが、襲ってしまえば……もはや食うか食われるかの殺し合いのみ。

 4Cは、まさにその暴走してしまったアマゾンを発見次第駆除する為にあると言ってもいい。

 無論、“元から人食いの屍獣”であるアマゾンらも駆除対象だ。

 

「撃て!」

 

 4Cの駆除部隊が隊長の指示の下、部隊員の両手にあるリザスターガンの銃口からアマゾンに対し有効なギガの弾丸が吐き出され、弾は余さず駆除対象となってしまったアマゾンへと向かい命中していく。

 コロニーの都市の西側に位置する廃工場で、暴走したアマゾンを駆除する部隊が1体のアマゾンを相手に戦闘を繰り広げていた。

 

 

「ハァァァ……」

 

 そのアマゾンは、さしずめ“ウニアマゾン”か。

 ウニのDNAを有している為身体のあらゆる部位、箇所にウニの外皮と棘を備え、頭には花弁のように別れた大きな口部が顔面を占めており、そこからウニの身を彷彿とさせる肉質が見える。

 当然食らったものを噛み千切り細かくする為の歯もあり、屹立し並んだソレではなく所々バラバラに生えている。

 

「食イタイ……食ワセロォォォォォ!!!」

 

 まだ微かに理性があるのか、人語を介してはいるものの言葉自体理性的なものとは言い難く、このまま放置すれば確実に人を襲い喰らうのは目に見えている。だからこそ速やかに駆除したいのだが、ウニアマゾンはギガの弾丸をものともしなかった。どうやら外皮は中々硬らしく、おまけに棘という凶器も付いて尚の事質が悪かった。

 

「クソッ! 外皮が硬くて通らないのか!!」

 

「は、離せ! ガァァァッッッ!!」

 

 ウニアマゾンは近くにいた隊員の肩に齧り付く。更に棘を伸ばして身体中を容赦なく貫き、なんと棘から血液を吸収して見せた。

 

「あ、ぁぁ……」

 

 血液のみならず水分や他体液を余さず吸い付くされた隊員は、当然その命を奪われ、ボロ雑巾のように放り捨てられた。

 

「肉、血……ウマイ……」

 

 噛み千切った肉をムシャムシャと生々しい音を奏でながら食べていく。その光景を見ればまともに相手などしたくない思いに駆られるだろうが、生憎と彼等は治安維持の為の駆除部隊。市民を守るのが彼等の使命である以上、引く訳にはいかない。

 

「距離を作れ! 離れるんだ!」

 

 駆除部隊『レッド・バロン』は薄赤の迷彩服に黒の防護ベスト、ガスマスクにヘルメットを装備しているのが特徴の駆除部隊の一つで、『赤松生二(ぎゅうじ)』という名の隊長が指揮している。

 そんな彼は部下に対象から離れるよう指示を出し、十分距離を保った上で攻撃する。

 が、やはり外皮が硬かった。

 有効なダメージは望めないのが現実。赤松はガスマスクの下で苦渋を味わうような表情を浮かべては、ただ思考する。

 

(このままでは……致し方なしか!!)

 

 意を決した赤松は、ここである指示を出す。

 

「こいつの相手は俺がする。下がれ!」

 

「みんな、下がれ!!」

 

 赤松の後退命令。その意図に逸早く気付いた隊長補佐の隊員『木村義景』が他の隊員に後退するよう促す。大半のメンバーは察して迅速に退いたが入ったばかりの新入りの面々は理解できず、困惑した様子で鈍い様子で後退した。

 

「木村補佐。赤松隊長だけであのアマゾンを相手取るのは……」

 

「そう言えば、まだ入って初日だったな。何も心配はいらない。何故ならあの人は……」

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 上半身に装備していた防護ベスト、ガスマスク、ヘルメット。果ては迷彩服さえも脱ぎ捨てて半裸という姿を晒し出して唸り叫ぶ様は狂人のソレかと疑いたくなる光景なのだが、赤松の顔は真剣そのもので、鬼迫さえ感じる。厳つい強面の人相。それに彫り込まれたかの様な皺の数から見て、30代後半辺りか。

 短い黒髪を逆立てたオールバック風に整えた容姿の赤松は身体中から白い蒸気のような、オーラを放出しその姿を変質させていく。

 やがて、姿を現したのは1匹のアマゾン。牛の仲間である偶蹄類の動物バッファローに似ていることから、バッファローの遺伝子を持つ“バッファローアマゾン”と呼ぶべきか。

 この姿こそが彼の正体……赤松生二は人間ではなく、アマゾンだったのだ。

 

「行くぞォォォ!!」

 

 まずバッファローアマゾンが仕掛けたのは、自身の重量を利用した突進による一撃。

 ランクBかそれ以下のアマゾンならば容易く吹っ飛ばされるそれを、ウニアマゾンは多少後方へ押し出されものの、踏み止まった。

 

「なに!」

 

 ウニアマゾンは、ランクB。重量級でもない事を鑑みれば吹っ飛ばされないと言うのは、おかしな事だった。その秘密は意外にも両足の裏側にあった。

 

「! ……“管足”か」

 

 管足とは、ウニやヒトデなどの棘皮動物が持つ無数の触手で、これを使う事で手足のない彼等は移動を可能にしている。

 このウニアマゾンもそれを持っていたのだ。最も移動としてではなく、吹っ飛ばされる事のないよう“支え”に使ったのだが。

 証拠に両足の裏からモゾモゾ蠢く黒い触手のような無数に顔を覗かせており見る者によってはかなり気持ち悪い絵面だ。

 

「チィッ!」

 

 出鼻を挫かれたと舌打ちを鳴らすが、すぐに切り替えて重い拳による打撃を連続して加えていく。

 

「グッ! ギィィッ!!」

 

 ここで初めてウニアマゾンが苦悶の声を漏らす。突進の一撃では飛ばされなかったものの、連続しての拳による衝撃には耐えられなかったらしく、その身を軽く宙に浮かせ落下。

 地面に倒れ伏した格好を晒す。

 

「長引かせる気はない。決めさせてもらう」

 

 鼻息を荒く、片足を地面を鳴らすように蹴る様はまさしく猛牛か。

 呻くウニアマゾンに容赦なく駆け寄るバッファローアマゾンは、胸の中心……中枢臓器へと拳を振り下ろした。

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎ーーーッッッ!!」

 

 断末魔の叫びは、言葉でも人らしいものでもなく獣の様だった。拳の重圧はそのまま中枢臓器を難なく潰し、ウニアマゾンの命を狩るには十分過ぎた。

 体組織がドロリとした黒い液体へと融解し、それがウニアマゾンの死を確実なものにさせるには十分だった。

 

「駆除、完了……すまない」

 

 呟くように出た言葉は、謝罪だった。

 いかに理性なき獣に成り果てたとは言え、こうなる前はコロニーに住む市民の1人だった筈。これは守るべきだった市民を守れず、あろうことか手にかけた自分への戒めでもあった。

 

「あれ、もう終わったんですかぁ?」

 

「……出る幕なかったな」

 

 二つの男性の声が人間の姿に戻った赤松の耳に届く。赤松にとっては聞き慣れた声だったので予想するまでもないと思いその方向へと顔を向け見てみれば、案の定“彼等”はいた。

 

「黒崎に礼森か」

 

 黒崎アキラ。

 日本人の父とアメリカ人の母との間に生まれた、俗に言うハーフの男性。父に寄る形で似たのか東洋らしい顔が目立ち、あまり西洋人っぽい感じはしないものの、よく見れば西洋人としての特徴が見受けられる顔つきをしており、髪は黒く癖毛に少し伸びている。

 やさぐれた雰囲気はあるものの、ただそこに立っているだけならば美形男子の部類に入るだろう。

 喋ると相手構わず毒舌を吐くが。

 一方で、その隣にいるのは冴えず目立たないと言った印象を受ける平凡を絵に描いた様な長髪を後ろに束ねた眼鏡の男性、礼森一郎。手に持ったタブレットで何らかの操作をしているが、赤松の視点からでは何をしているのかは分からなかった。

 

「1人、死んだのか」

 

「ああ。俺のミスだ」

 

 ウニアマゾンに殺された隊員の干からびた死体を見据えつつ、淡々とした黒崎からの質問の声に赤松は自分の非を認め、堂々と告げる。

 その様子に黒崎は頭が痛いとばかりに目と目の間の眉間を摘むような動作を見せる。

 

「あ〜、クソがッ……」

 

「俺の責任だ。容易く駆除できると油断した為に起きた失態なんだ。お前が気にすることじゃない」

 

「確かにな。しかしよぉ、赤松。鷹山の野郎が居なくなって気ぃ抜いてんじゃねぇのか?」

 

 図星、かどうかは分からないが少なくとも思い当たる節があったのかもしれない。

 いや、あったのだろう。

 黒崎の質問に何も言わないのであれば、それはもう確定に等しかった。そして黒崎の言う“鷹山の野郎”とは、鷹山刃圭介の事で間違いない。鷹山はコロニーにおいて、アマゾン専門の科学者の中では屈指の天才であるが、同時に自らをアマゾンライダーシステムの実験台にする狂人としても知られている。

 そんな彼はSランク級アマゾンとなった自らの肉体と能力を活かして、4Cの科学者兼駆除部隊のジョーカーとして活躍していた時期があり、アマゾンライダーになった15歳から30歳までの15年間に及ぶ。

 少年期という幼い時期からアマゾンライダーとなった経緯は省くが、彼の活躍は良く評価できるものだった。

 迅速に現場に赴き、できる限り仲間に被害が出ないよう注意を払い、いかなる状況下でも冷静さを保ち敵を分析、的確な指示を出す。熟練され経験を積んだベテランなら出来て当然の事だが、鷹山はそれを初陣で成し遂げる異例の実績を見せつけた。

 更に民間への被害も考えた上で安全に対象を駆逐する手腕は、もう見事としか言えないだろう。今でこそレッド・バロン部隊は赤松が指揮しているが、元々指揮していたのは鷹山だ。当時の赤松はあくまで隊長補佐の立場に過ぎなかったのだ。

 そんな彼がAPEへと正式に派遣される事となり、隊長は赤松へと代替された。時折APEからの要請を受けて派遣される事はあったのでそう珍しい事ではなかったのだが、あくまでその全てが日帰りに終わる程度。

 それが急に本格的な派遣となると一年か数年は戻らない事を意味していた為、赤松としては鷹山がいない間の部隊を指揮できるかどうか。

 まだ隊長となって日が浅過ぎる彼にとってそれが不安や悩みの種となってしまっていた。それが今回のように裏目に出てしまったようだ。

 

「でもまぁ隊員1人だけでしか死んでませんし、被害を最小限に抑えられたって考えればいいんじゃないですか?」

 

 礼森は特に感慨もなく合理的な意見を口にした。赤松はそれに対し目を鋭くさせ苦言を投げる。

 

「随分と命を軽視するじゃないか。なんなら、お前が一番前に立って盾代わりにでもなるか? そうすれば俺の部下を誰1人死なせずに済むかもな」

 

「え、嫌ですよ。死にたくないですし」

 

 普通に素で拒否する札森。そんな彼等の会話をうんざりだ、とばかりに気怠げに聞いていた黒崎は話の腰を折る為、無理矢理ながらも介入する。

 

「ところでよぉ。俺たちが殺したあのウニのアマゾンの詳細……何か分かったのか?」

 

「へ? ああ。それなんですけど本名は『田中宗一郎』って名前で、腕輪の抑制剤はまだ余裕だったみたいなんですよ」

 

「はぁ? 現に暴走してんだろ。なら腕輪の色は赤になってる筈だ」

 

「きちんと証拠あるから言ってんですよ」

 

 札森が面倒くさそうな表情である物を赤松と黒崎に見せる。それは、まぎれもなくアマゾンレジスターで目に見える部位が“青”だった。

 

「……本当にウニの奴のもんだったのか?」

 

「しつこいっすよ。本当ですってば」

 

アマゾンレジスターの形状は、鳥とも爬虫類とも付かない顔のようなもので、両目と思える部位もある。基本的にそこは青色に発光しているのだが抑制剤が切れそうになると、音を出して赤色に変わる

のでそれを目安として、新しい腕輪に取り替え付けてもらう規則になっているのだが、どういう訳かウニアマゾンこと田中宗一郎なる男性の腕輪はまだ機能していたのだ。

 

「まぁ、詳しい事は科学班に任せるしかないですね。ただの故障の不具合ってだけかもしれませんし」

 

「……単なる故障だといいけどな」

 

 まるで自然に起きてしまった事故ではなく、何らかの見えない意図が孕んでいるとでも言いたげな

、そんな可能性を示唆している台詞を口にする黒崎はもうここに用は無い、とばかりに後処理を赤松の部隊に任せて去っていく。札森もそれに続くが、一応の礼儀として軽く頭を下げる形で会釈してから行く。

 そんな2人の背中を見ながら赤松もこれには薄っすらとだが予感を覚えていた。

 

 得体の知れない何者かの悪意。

 

 過去“そういったもの”によるテロ行為を受けた経験があればこそ、それを可能性ゼロなどと断じる事はできなかった。もし赤松の予感通りだとしたら……。

 

「また……“ヴィスト・ネクロ”なのか?」

 

 そんな呟きが自然と出てきた。

 

 

 

 

 







 今回登場した『ヴォルフ=ネロ』と『ロシュウ』はオリキャラです。
 前者は4ℂ局長で名前の由来は有名な音楽家とローマ皇帝から。後者はその秘書で名前の由来は天元突破グレンラガンのロシウから取りました。

 今作の赤松隊長は、原作で人間だった設定と違い、最後の審判で登場したバッファロー
アマゾンという設定です。ちなみに原作だと同じ4?の隊長格である黒崎さんと比べて大して活躍する場面は一切なく、最後も部下のヘマで死亡退場という始末……。
 部下思いな人柄の面が個人的に結構好きで、尚且つアマゾンにしてみたいという感じでそういう風に仕上げした次第です。

 そして黒崎さん&札森さんのシーズン2コンビ。
 黒崎さんは原作の米国の特殊部隊にいたという設定を基に元米国の母親と元日本の父親とのハーフに。でも外見的には特に原作と変わりなし。但し性格の方は若干ながら柔らかくなってます。
 札森さんは原作と比べて特に変更点はありません。その方がキャラとしての味があって
いいかなと思い、変わらずのままです。

 今回の話はちょっとコロニーにスポットを当てた話です。今後13部隊と関わっていく
事になりますから、イメージを掴みやすいよう仕上げてみました。


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