ダーリン・イン・ザ・アマゾン   作:イビルジョーカー

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連続投稿します。


デルフィニウム救出作戦 part2

 

 

 

 

 

「で、これはどういう事だ?」

 

 いくつもの赤い光の点が一人の男の身体を強制的に彩っている。

 それだけで言えば、珍妙な笑い話になるかもしれないがその正体が銃のポインターであったのなら、話は別。失笑は間違いないだろう。

 男……門矢士は何故自分がこうなっているのかという事に疑問しかないようだが、突然訳の分からない銀色のオーロラのような何かから現れ、しかもヒロと鷹山のオマケ付きなのだ。

 得体の知れない最大警戒人物として扱うのは、自衛という面では至極理に適っている。

 まぁ、士にしてみればそんな事情なぞ知った事ではないのだが。

 

「余計な行為や質問はしないで。貴方は何者? あの銀色のオーロラみたいなものは何?」

 

 ブリーディングルームは一瞬触発と言わんばかりの緊迫した空気が張り詰め、士にポインターを当てると共に銃口を向けている警備員たちはいつでもその引き金を引ける態勢にある。

 そうなれば蜂の巣は確実だろう。

 ナナは眼前の男に睨みを利かせ、ハチも同じく険しい表情で士を見ている。

 警戒している事実が鈍い感性の人間でもよく分かる程だ。

 

「おいおい。随分おっかない事情聴取だな」

 

 そんな状況の中にありながら士は平然と軽口を叩いた。

 

「もう一度言うわ。余計な行為や質問はしないで。貴方は私達からの質問に答えてくれれば、それでいいの」

 

 有無を言わせない、とはこの事か。

 

 しかし士は数多の世界を旅をして来た経験から、こんな対応には飽きれるほど慣れてしまっている。

 しかも彼の経験上彼等の対応は今までのと比較すれば、良心的とさえ言えた。

 彼のもう一つの肩書き……世界の破壊者というレッテルを鵜呑みにしたその世界の住人に問答無用で命を取られそうになり、士としても面倒臭い事この上ない羽目になったのは数知れず。

 やや強引な部分はあれど、過去のソレよりも遥かにマシだと。少なくとも士はそう思っている。

 

「門矢士。一応ここの研究員として働いてるもんだ。まぁ、コロニーのアマゾン専門の医師でもあるが」

 

「デタラメ言わないで」

 

 間髪入れずにナナは言うが、ハチは手に持っていた電子端末からデータベースにアクセスし、検索。士の言葉が事実であると証明する情報を発見した。

 

「この男の言う通りだ。研究員のデータベースに載っている以上、間違いようもなく研究員と言うことになる」

 

「それが本当ならね。その個人情報の中にさっきみたいな現象に関する記述はあった?」

 

「……ないな」

 

 偽造。データベースにある士の個人情報の中に先程の能力についての詳細が全く存在しないと言うのであれば、正規のソレではなく、弁明なしに適用できるだろう。

 そうでなければ辻褄が合わない。

 

「なぁ。そろそろ銃をこっちに向けるの辞めてくれないか?」

 

 うんざりした様子で士は少し呆れたような視線を周囲に配る。

 

「俺はお前らと敵対する気はない」

 

「悪いけど言葉だけじゃ証明にならないわ」

 

 会話は何処までも平行線だ。士が意見を言えば、ナナも意見を言って切り捨てる。

 

 不毛もいい所だ。

 

 そんな事を分かっていない士とナナではないが、一方は事態の混乱化による面倒事を避ける為に強行できず。

 片やもう一方は相手が未知数である事と、抵抗した場合のリスクを考慮して迂闊に強行する訳にはいかず。

 両者の思惑は違えど、強引に手が出せないと言う一点においては奇妙に一致していた。

 

「……あ〜……まぁ、なんだ。とりあえず落ち着かね?」

 

 と、ここで今まで沈黙しつつ様子を見ていた鷹山が事態の収拾に乗り出す為、二人の間に割って入る。

 

「ちょ、ちょっと刃!」

 

「まぁまぁ。で、おたく何? 正直意味分からんのよ。俺は確かに病室にいた筈……なんだが?」

 

 ナナを宥めつつ声に若干の棘を張り付けて士に問いを投げる鷹山。

 雰囲気としてはいつもの飄々としたソレに変わりないのだが目に鋭さを宿し、相手の言葉から矛盾や違和感があれば即座に指摘する腹積もりのようだ。

 当然、下手に誤魔化す訳にもいかない。

 

「瞬間移動……の類か? 連中もしてたけどよ、どうにも毛色が違うっつーか……」

 

「安心しろ。全部話してやる。たがとりあえず、そこの物騒な連中を下がらせろ。話はそれからだ」

 

 士からの頼みは鷹山から見ても、かなり上から目線というニュアンスを感じさせるものの、せっかくこの状況の進展が出始めた中で私情で物言いし、結果振り出しに戻す訳にもいかない。

 思わず言葉にしかけた感情を溜飲。そして士の要求を承知した鷹山はナナとハチにコイツらを撤退させろ、とアイコンタクトで伝える。

 二人は渋々ながらも警備員を撤退させてくれた。

 鬱陶しく銃を持った警備部隊たちが去って行ったのを機にすぐさまがゼロツーがヒロに駆け寄る。

 

「大丈夫? ダーリン」

 

「あ、う、うん。大丈夫」

 

 ヒロは未だ尻餅をついて座り込んでいた。

 呑気という訳ではなく、まだ身体は治り切っておらず立ち上がろうとしても全身に激痛が走るのだ。

 だから手を差し伸べて来たゼロツーに対し、とりあえず肩を貸すよう頼み、なんとか立ち上がらせてもらった。

 

「痛ッ!! グゥ……」

 

 身体の隅々まで奔る激痛に苦悶の表情を浮かべる。それを見たゼロツーはヒロの身にかなりのダメージがあるのだと察する。

 

「コロニーでやられたの?」

 

「は、はは……ちょっとヘマしちゃったんだ」

 

 何でもないように言うが、鷹山に比べヒロの方がダメージは大きい。鷹山に至っては怠さを覚えているだけだ。

 

「? そう言えば、イチゴとゴローは?」

 

 よくよく周りを見ればブリーフィングの最中だったらしく、当然デルフィニウムに乗るイチゴとゴローもいる筈なのだが、その二人の姿は確認できない。

 何故か、言い知れぬ不安が胸から込み上げ、頭の中に最悪の予想が構築されてしまう。

 何気なく聞いた途端にブリーフィングルームにいる13部隊が揃いも揃って言いづらそうに、

 しかも悲観めいた表情まで浮かべたのだ。

 そう思ってしまうのも致し方ないだろう。

 

「今のところは大丈夫。まだ二人は死んでないよ」

 

 そんなヒロを察してか、ゼロツーは二人がまだ生きていると説明した。

 今のところは、と言う部分に引っかかりを覚えるものの、とりあえずきちんと生きている事実にホッとヒロは安堵する。

 

「ナナさん。イチゴとゴローが叫竜の中に入ってどの位になる?」

 

 事前にヴォルフからデルフィニウムがパイロットと共に飲み込まれた報せを聞いている鷹山は、事態発生からの経過時間をナナから問い掛けた。

 

「既に一時間以上は経ってるわ。でも、救出することは不可能よ」

 

 ナナはまだ事情を知らないだろう二人に説明した。聞き終わった鷹山とヒロの表情は驚くほど一致していた。

 悲観と苦々しく焦びり付く焦燥。助けたくても助けることができない絶望感がナイフのように心を抉り、自身がいかに無力であるかを嫌でも知らしめる。

 鷹山も過去何度も似たような経験をしてはいるが、それでも慣れはしない。

 どれほど害を成す悪しき獣を殺したとしても、それでも人はその牙にかかり死んでしまう。

 いつだって、後悔の連続だ。

 そして今、この瞬間も自身の後悔の一つとして

 背負わなければならない枷になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 士の言葉が無ければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「安心しろ。まだ助ける手立てはある。通信をデルフィニウムに繋げろ。デカブツの中にいる二人にも聞いてもらう必要があるからな」

 

 相変わらずの態度で、彼は悲嘆で沈黙した空気の中そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

「こ、こちらデルフィニウム!! 私もゴローも無事です! 特にこれと言って大きな怪我も異常もありません!」

 

 作戦本部からの通信。希望が見えたやも知れぬその一筋の蜘蛛の糸に縋り付くかのように声を張り上げ、イチゴはハッキリと応答した。

 

『二人のバイタルはこちらでも確認しているが

 念の為だ。とにかく無事で何よりだ』

 

『イチゴ! ゴロー!』

 

 ハチに続いて聞こえて来たのはヒロの声。

 

「ヒロ……すまない。ミスった」

 

「まだデルフィニウムが動くから何とか出ようとはしてみたんだけど……デルフィニウムの手と足が触手っぽいのに絡まれて動けない」

 

『そうか……けど安心してくれ。助ける手立てがあるんだ』

 

『そういうことだ。きちんと聞いておけ』

 

 ヒロに続くように聞こえて来た士の声に二人は疑問が浮かぶ。

 二人は士とはまだ初対面で、しかも顔も声も聞いたことがない為、そう思うのも当然だ。

 

『門矢士だ。まぁ協力者と思えばいい』

 

 自己紹介を軽く済ませた士は、本題に入る。

 

『これから俺達はお前ら二人を救出する。但し失敗すれば……全てが叫竜の自爆と共に消え去る』

 

 士は、イチゴとゴローに自分達を外界から隔離する形で捕らえている叫竜がどのような存在なのかを説明し、その上で救出作戦における概要とリスクを伝えた。

 

『まず、お前らがいる叫竜の内部……その外側で叫竜自体を守ってるアマゾンをどうにかする必要かある。その為に必要なのはあのアマゾンを相手に拮抗できる戦力だ』

 

 まず第一として挙げたのはマンモスアマゾン、ヴィスト・ネクロの幹部ファントの存在だった。

 彼は今も叫竜を守っており、しかも士によれば高性能な光学迷彩の能力を持った小型の叫竜を何体か配備しているらしい。

 あの時、ファントが景色から突如として浮かび上がるかのように出現する現象の正体は、その叫竜によるものだったのだ。

 幹部としてのファントの実力に自他共に姿を隠蔽することができる叫竜の組み合わせは、厄介という言葉を当て嵌める以外にないだろう

 

「お前達で相手をするのは無理だ。鷹山もヒロもこのザマだ。となると一番有効なのは……俺と言うことになる」

 

 士は、通信の向こう側で自信に満ちた言葉と不敵な微笑みでそんな事を宣うが、ディケイドとしての彼の実力を知らない者からすれば、疑念を孕んだ訝しい視線を送ることは間違いないだろう。

 実際に鷹山やコドモたち。ハチも、ナナも、それに近い感情で士を見ているのだから尚更である。

デルフィニウムの中にいるイチゴとゴローもだ。

 

「仮にお前が相手できるとして、叫竜が爆破したらどうするんだ?」

 

 一番厄介で危険極まりないのは、やはり叫竜の方だろう。一度の爆発でコロニー全体を覆い尽くすほどの威力を秘めているのであれば、このプランテーションもただでは済まなくなる。

 こちらから不用意に手を出し、敵に知れて起爆されたら元の木阿弥だ。

 しかし、これに関しても士は自信有り気に言う。

 

「心配するな。奴等の目的はあくまである男の発見、ひいてはアマゾネストの運用実験データの収集だからな」

 

「アマゾネスト?」

 

「コイツらが戦ったあの黒いアマゾンだ」

 

 親指で鷹山とヒロを指しながら士は言う。

 

「アマゾネスト計画。絶対的に従順であり、倒されたとしても際限なく増殖するアマゾンの兵士。それがアマゾネスト。アマゾネスト計画ってのはコレを造って運用させる企みって訳だ」

 

 凝ったような専門用語や知識を持ち要らず、簡潔にどのような存在であるのか。分かり易く教えた士だが、内容が内容だけに皆信じられないといった面持ちと懐疑的な目で士を見て来た。

 

「際限なく増殖する……具体的にはどんな風に?」

 

 鸚鵡返しにハチが質問する。

 アマゾンがどのように生物として増えるのか、と問えば二つ方法がある。

 

 一つは、雌雄間での有性生殖。

 

 人間や大抵の動物のように雌雄同士の交配によって子孫となる個体を産む。この場合、通常の生物は精子と卵子の結合によって子供が生まれるのだが、純粋なアマゾンには精子や卵子といった生殖細胞がない。

 その為、その代わりとなる増殖細胞という特殊な細胞を使って子を産む。

 

 もう一つは、無性生殖。

 

 アマゾンが微細な単細胞でしかない細胞状態で寄生した生物の中で分裂していき、一方は外へ。もう一方は宿主を殺す形で宿主の遺伝子を得て、その意匠を取り込んだ獣人形態へと変化する。

 

 士の言った増殖というのは、無性生殖のソレであるのだが過程は全く異なる。

 

「アマゾネストには普通のアマゾン細胞とは違う特殊なアマゾン細胞があってな。奴等は容原性アマゾン細胞と呼んでる」

 

「容原性アマゾン細胞?」

 

「本来なら持たない筈の感染能力を持ったウィルスに近いアマゾン細胞って奴だ」

 

 疑問符混じりに言葉を反芻するハチに士はそう答えるが、内容が内容だけに鷹山は懐疑的な声を挙げる。

 

「馬鹿言うな。アマゾン細胞に感染能力なんかねぇよ。仮に作ろうとしても色々弊害があるんだぞ」

 

「普通ならな。だが連中は完成させた」

 

 にべもなく、士は断言する。

 

「感染された人間はあの黒いアマゾンになる。しかも、アマゾン同士の共鳴能力を強化・応用した生体ネットワークで経験・情報を共有している。例え1匹殺しても、そいつの見た聞いた、もしくは感じた事全てが他のアマゾネストに行き渡るって寸法だ」

 

 群による特殊な生体ネットワークを構築。共有する事が可能な端末としての役割を有した兵器。

 しかも、感染することで無限且つ僅かな時間で増殖できるなどもはや地獄と称して憚らない程の悪夢でしかない。

 

「……もしかして、カエデさんも、……感染させられて、ああなったんですか?」

 

 ヒロの質問はふと頭に過った予想でしかなかった。できることなら間違って欲しいと言う思いもある。

 

「違う。カエデは感染させられてなんかない」

 

 出されたのは、否定の言葉だった。

 

 そして次に出た言葉はヒロにとって……士にしてみても最悪のものだった。

 

「だが、生きてないのは確かだ。アイツは喰い殺された筈だ」

 

「……え? ま、まさかそんな……」

 

「アイツらには厄介な能力がもう一つある。人への擬態だ。経口摂取した人間の血か体組織、身体なら何処でもいいが。そうやって取り込んだ相手の遺伝子を基に擬態の姿を作り上げる。顔は勿論体格や体臭

、記憶や仕草も完全にコピーできる……厄介だろ?」

 

 まるで同意を求めるような催促だったが、ヒロは愕然とした表情になり顔色が青褪めた。

 顔を見知った程度とは言え知り合いになった人が喰われ、その本人に成り変わっていた事実に困惑とショックを隠し切れなかった。

 あの時、初めてカエデを見た時は確かに人間だった。アマゾンの気配も匂いも、何もない只の人間だった筈なのだ。

 士の言う事が真実であるのなら、自身の感知能力というレーダーを難なく掻い潜り士に指摘されるまで、騙せていたと言う事に他ならない。

 

 災厄。

 

 そんな二つ文字がヒロの頭の中に浮かんだ。

 

 あまりに狡猾でタチが悪い。巧く利用すれば組織や施設の中に容易く入り込め、完璧な変装で他者を欺き、テロ行為や諜報工作を難なく実行されてしまえる。

 その結果として齎されるであろう惨劇を想像すれば……二文字の言葉は決して、安直な発想の産物ではないのだ。

 そこまで考えに至ったヒロは何か意見しようと声を上げようとする。が、それを士が手を翳す形で待ったと止める。

 

「まぁ、落ち着け。今のところ試作体が二体だけだ。他にはいないし、まだ量産もされてない」

 

 何故そんな事が言い切れるのか。納得できるだけの根拠を挙げていないのだから、単なる戯言と切って捨ててもいい。

 しかし。士の表情には確かな余裕というものがあり、それが何故かヒロにとってこの男の言葉が只の戯言ではないのだと。

 そう思わせてしまっていた。

 

「だからとりあえず、コイツらの件に関しては置いとけ。今は仲間の救出だろ。そこを間違えるなよ少年?」

 

 小馬鹿にした様子で士は腕を組み、不敵に笑う態度こそ悪いが、士の言い分も強ち間違いではない。

今、この場においての議題は叫竜の中にいる二人の救出だ。

 ヒロはアマゾネストの話を聞いて自分が遭遇した以外の別個体がいる可能性を危惧し、士の能力でもう一度コロニーに戻り、アマゾネストを索敵・殲滅しようと考えていたのだ。

 

 それ自体は間違いではない。

 

 だが、今から仲間を救出しようと言うこの場の流れ、ひいては13部隊の一員としては正しくないだろう。

 救出の対象を仲間の二人からコロニーの内部の住民へ摩り替えて取るのであれば、それは仲間を見捨てたのと同じことなのだ。

 それにAPEに属するパラサイトという点を踏まえればいかに協力関係にあるとは言え、最終的に守るべきはプランテーションの都市とそこで暮らしているオトナであって、優先順位としても間違っている

 ヒロの言おうとした、また実行に移そうとした事はある種の自身の立場を放棄したと見做されても決しておかしくない行為。

 悪意ある判断ではなかったのは違いないが、それでも。直情的な思考に従ってしまったのは事実だ。

 自分の失態に気付いたヒロは、羞恥と罪悪感のから視線を下へ向けて俯いてしまう。

 

「分かればいい。それじゃ話は少し逸れたが……説明してやる。デルフィニウム救出作戦ってヤツをな」

 

 やはりそこに翳りはなく。自信と余裕の2つを併せて、士はそう答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

「ん? なんだ、アレ……」

 

 自身が指揮を取る小型叫竜。その背中に当たる部位に立って乗り、更には叫竜のステルス能力を利用し姿を完全に消し去っているファントの視界にある物が入り込んだ。

 

 最初は13部隊のフランクスかと思ったが、すぐにその考えを破棄した。形も大きさも違う。

 フランクスと比べて大きさは小石と人の差があり、全く人型ではないのも挙げられる。

 

 なら、ソレはどういった形なのか。

 

 そう問われれば大抵の人間はこう答えるだろう。

 

 人1人が乗れる大きさの二輪車……バイク、と。

 

「まぁ、なんで、あれ、……壊す!」

 

 その宣言を合図として受け取った小型の叫竜一体が尖兵の役を担い、こちらへと近付いて来る目標めがけ、突撃を開始した。

 ファントは小型叫竜の視覚を共有することが可能だ。これは彼だけに限らず幹部のアマゾンに与えられた、叫竜を操作する上での特権のようなものだ。

 叫竜の視覚を借りることで改めてシルエットを把握する事ができた。やはりバイクだ。

 ただ問題はそのバイクに乗っている何者かだが、妙な姿としか言いようのない姿だった。

 クワガタを彷彿とさせる頭部に備わった角。

 身体の上半身は緑色で、硬く金属光沢を放つ外骨格のようなモノで覆っている。

 顔はまさしく昆虫のソレで上半身と同じく緑色の複眼が陽の光を反射して輝き、鋭いエッジを有する昆虫の口部を模したクラッシャー部位。

 

 まさしくそれは異形だった。

 

 しかしファントの感知能力がアレはアマゾンではないと。そう告げているのだ。

 

「同類、じゃない。何者……だ?」

 

 考えても答えは出ない。元より頭を使う方ではないファントは、すぐさま思考を切り替え、目標の殲滅のみに専念した。

 

「ふん。隠れたつもりか?」

 

 叫竜の聴覚がバイクに乗るその異形の吐き捨てた言葉を拾う。

 

 そして、次の瞬間。

 

 何かが高速で風を切る。それは高密度の特殊なエネルギーが凝縮された、一筋の矢だった。

 矢の向かう先は……ファントの意思に従い目標めがけ攻撃しようと接近して来た叫竜本体。

 そのコアを叫竜の硬い装甲の如き外骨格から肉を裂いて貫き、叫竜の生命活動を刹那の間に停止させてしまった。

 

「ッ!! なんだ、アレは!」

 

 何故目には見えない筈の叫竜の位置を正確に把握し、そのコアを破壊できたのか。

 注目すべき所ではあるが、それよりもファントの両の目は緑色の異形が右手に持つ“ソレ”へと向けられ注がれていた。

 

 同時に一種の警戒を脳内に無意識に響かせた。

 

 ソレは、俗にボウガンと呼ばれるもの。よく似た形状のものは東洋において弩があるが、手にしているボウガンは弩に比べると小型仕様で片手で持てる大きさとなっている。

 形こそ銃器に似ているが矢と同じで弦を引く為弾の代わりに矢を放つ武器だ。

 もっともこのボウガンはただのボウガンではない。

 

 ペガサスボウガン。

 

 ディケイド固有の能力である『カードを媒介にした他の仮面ライダーの姿と力を再現できる二次変身』により、ディケイドが変身した古代の仮面ライダー『クウガ』。

 その四つある形態の一つ『ペガサスフォーム』の姿になることで使用可能となる武器だ。

 白兵戦や接近戦主体の奇襲攻撃における使用には向かないものの、五感を鋭敏に研ぎ澄まし、極限にまで高まった感覚をレーダー化。

 そうすることで姿の見えない対象や遠く離れ過ぎた距離にいる対象

。いかなる敵であろうとも即座に索敵、発見することができ、その際に放たれるエネルギーの矢は決して対象を逃さず。

 

 その命を射止めてしまう。

 

 ペガサスボウガンによって撃たれた叫竜は生命活動が停止したことでそのステルス能力も解かれ、目では見えなかった真の姿が露となってしまった。

 全体的なフォルムは、六角形をしている。上は平らで人や物を持ち運べるようなスペースとなっており、下には昆虫を思わせる先の尖った計6本の脚部。

 顔と思わしきモノもあり、一対の楕円形型の複眼と歯車を二つ左右に組み合した独特な口部という具合で、顔から近い位置にある上下の間にある側面には下と同様に昆虫フォルムの脚部があった。

 右が鋏状で、左が丸い玉状といった風変わりなものではあるが。

 更によく見れば6本ある脚部の内2本以外は少しばかりハミ出してはいるものの、身体の中に収納されており、おそらく飛行する為に邪魔なのだろう。ディケイドはそう推測した。

 

「この姿の時は耳やら目が良くなり過ぎるんでな。足音みたいに地面と接触しながら移動する音が聞こえなかったから、宙に浮かんでるのはすぐ分かった。ついでに、こっちに近付いて来てたこともなぁ」

 

 声の雰囲気の中に挑発さを滲み出すディケイドの淡々とした説明口調。それは勿論、叫竜の感覚を借りて耳に入っているファントに向けてのものだ。

 

「一撃でデカい遠距離攻撃なら、仕留められないにしても瞬殺はなかったぞ? ご自慢の兵隊はその程度か。マヌケ象」

 

 おまけに遠回しではなく、真っ直ぐな挑発つきで。

 

「殺せ」

 

 辿々しい口調だったにも関わらず、紡がれた殺意の言葉は素早く、実に冷静で簡潔なものだった。

 舐められた事に対する怒りでそうなったのか。

 真実はどう仮説を立てても分からないが、少なくとも可能性的には真実に迫っているのかもしれない。

 ともあれ、そんな彼の指示で今度は三体一度にディケイド・クウガめがけ接近。

 それを知った彼は鼻で笑う。

 

「芸がない……何ッ?!」

 

 しかし、それは間違いだった。

 

 ただ接近して来たのではなく、一気に破裂したのだ。

 完全な不意打ちにディケイド・クウガは受け身が取れず、爆風の衝撃波によって身体が打ち付けられると共にバイクから身を宙へと放り投げてしまった。

 

「グゥッ! ハッ……やってくれる」

 

 衝撃波と地面への落下によるダメージが重なり、クウガから元の姿であるディケイドへと戻ったがそこに間髪入れず、仰向けに倒れたディケイドへファントの鉄拳が襲いかかる。

 

「外した、か」

 

 突然の打撃に対し、身を左横へと捻り転がす事で何とか回避できた。

 

「お前、アマゾン、じゃない。だが、人間なのに変な匂い、が、する」

 

「人を加齢臭漂わせてる中年おっさんみたいに言うな」

 

 そう苦言を漏らしつつ、素早く態勢を立て直したディケイドは自身の専用ツールにして武器であるライドブッカーをソードムードに変形させ、ファントへと斬りかかる。

 回避も防御も取らずに何故か直立不動という、自滅に等しい理解不能な行動に出るが、その意味はすぐに分かった。

 

「その、程度、か?」

 

 かなり硬かったのだ。

 ファントのアマゾン細胞によって形成された三層の皮膚組織。一番の上の層はあらゆる攻撃を通さないほど硬く、二番目の中間の層は内部に伝わる衝撃を分散させる柔軟性を秘める。

 最後の下の層は内部へ銃弾などの異物が侵入した場合、それ以上の侵入を防ぐ為、異物を溶かして排除する強力な酸性の分泌物を出すことができる。

 

 外と中。双方において優れた性能を誇る“厚皮の盾”と言えた。

 

「チッ!」

 

 思わず舌打ちが吐き捨てられた。

 

 ディケイドは後方へと間を作るように跳び、一定の距離を作ろうとしたが、それを後ろからの攻撃によって阻まれる。

 

「がぁァッ!!」

 

 まるで、何かが思い切り体当たりでも繰り出して来たかのような、とにかく重い何かが自身へと衝突する感触と共に衝撃によって前のめりに吹っ飛ばされてしまう。

 

「……」

 

 自身の足元にまで倒れ込んで来たディケイドの背を、ファントは無言で。淡々と足の裏で踏みつけ押さえる形でその身動きの全てを封じた。

 

「ぐあああッ!!」

 

「終わり、だ」

 

 ディケイドが何者なのか。気にならない、と言えばそれは嘘になるが今はクラゲ型叫竜の護衛が最優先事項。

 それに確実にこの男を捕らえておけるだけの設備もない。何かあってからでは遅いのだ。

 ならば……ここで、この瞬間によってその命を奪う方が合理的だ。

 死の宣告を口にすると共に、ファントは左腕に力を限界値まで収束させる。そして、それを一気に降下。狙いは人体における胸の部位の中心……すなわち、心臓だ。

 

 命中するのは確実。

 それが現実となれば、あまりの威力に即死か。そうでなくとも再起不能レベルのダメージを負うことは避けられないだろう。

 

 

 

『ATTACK RIDE:ILLUSION!!』

 

 

 そんな状況の中でディケイドライバーから男性を思わせる低い声ながらも、代わりにやたらとテンションの高い電子音声が奏でられる。

 

「!! ッ」

 

 そして次の瞬間に起きた光景を目にしてしまったファントは自身の視覚は正常なのか。

 思わずそんな疑問を抱かずにはいられなくなる現象が、たったこの瞬間において引き起こされた。

 なんと。地べたに倒れ伏しファントの巨足に押さえられ、踏み付けられていた筈のディケイドの姿がまるでモザイクのように無数の四角い升目状の赤い物体となっていき、最終的に影すら残さず、その姿を消失させたのだ。

 

『KAMEN RIDE:OOO SAGOOZO!!』

 

 また聞こえるディケイドライバーの電子音声。

 それに反応したファントはその方向へと振り返るが、既に遅かった

 ファントの周囲の空間ものものがまるで物理的に重くなったかのような変化を起こし、ファントの左右両方の手と膝を地面へと付かせ、その自由を奪う。

 

『グゥッ! なんだ、コレ、はァァァァァァァァァァッッッ!!!!!』

 

「重力系コンボの力だ。まぁ、言っても理解できんだろうがな」

 

 この現象の正体は、ディケイドだった。

言っても、ついさっきまでファントによって倒れ伏していた方ではなく、“本物のディケイド”だ。

 アレはディケイド固有の能力によって作られた質量を伴った分身体に過ぎない。

 そして、その姿は本来のディケイドとしての姿でなければ、ましてやクウガでもない。

 

 仮面ライダーオーズ。

 

 欲望の力を秘めたメダル3枚を用いてコンボの力を引き出し戦う、仮面ライダー。

 基本形態であるタカの赤いメダルとトラの黄のメダル、バッタの緑のメダルを使用することによって成る『タトバコンボ』ではなく、灰色や銀といった色合いで統合された重量系メダル。

 サイメダル。ゴリラメダル。ゾウメダル。

 この三つによって変身するパワー特化コンボ、『サゴーゾコンボ』だ。

 しかも、ただ筋力が上がる訳ではない。

 このサゴーゾコンボには、ある固有能力が備わっている。

 

 それは……。

 

「重力操作。これがお前の身に起きてる現象の正体だ」

 

 ディケイド・オーズは、二の腕まですっぽりと包まれたガントレット状の打撃系武器『ゴリバゴーン』の左右双方を突き出した格好でそう不敵に解答を曝け出した。

 サゴーゾコンボは重力を操り、相手を無重力状態にすることができれば、その逆、重力を加圧することで行動の全てを抑止。又はそのまま押し潰すことも可能だ。

 ゴリバゴーンを基点とし、そこから重力を放ち、ファントのいる位置周辺を力場にすることで今の状況を作り出しているのだ。

 

「さて。これでもうお前は動けない。残りは……なるほど。そこか」

 

 何もない所に向けて、左はそのままに右腕のゴリバゴーンから重力の奔流を放つ。

 

 その重さは350t。

 

 しかも速度による勢いを考えれば、ただでは済まない。無論、放った方向の先に何もない訳はなかった。

 

 ガァァアンッッ!! 

 

 金属が強い力で何かに激突したかのような音が響き渡り、先程仕留めた叫竜と同じ形態の個体が姿を現した。

 もっとも、元と比べて、かなり歪んで変形し命を消失させているが

 

「今だ。行けお前ら」

 

 ディケイド・オーズはそう言い、自分とファントがいる位置から反対方向の位置にオーロラカーテンを展開。すると、そこから現れたのは、デルフィニウムを除く計4体の13部隊のフランクス全機だった

 

「行くぞ、みんな!!」

 

 そしてストレリチアの中には……未だ回復していない筈の、ヒロの姿があった。

 

 

 

 

 






カメンライドにクウガとオーズ・サゴーゾを出した理由は、隠れたり遠く離れている敵を極限に高めた超感覚で見つけられるのと、オーズ
のサゴーゾは象がモチーフに入っている為です。
マンモスは象っぽいと言うか、先祖に当たる動物が象と同じなのですし、そしてパワータイプでもあるのでピッタリかなと。








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