遅くなってしまい、早一ヶ月。
難産でしたが、どうぞ!
ドボォン。
水面に何かが落ちた音。そして、無数の泡が発生し上へ昇っていく音。この二つがまるで二重奏の様に奏で、アマゾン・イプシロンとなったヒロの耳朶に浸透していく。
それが無事に叫竜の灼熱を有した気化熱層を突き抜け、液体の層へと到達できた事を意味する合図だった。
もし、気化熱層で死んでしまったら、聞こえる筈がないからだ。
だが、自分だけ無事では意味がない。
パラサイトスーツの防護機能に守れているゼロツーは、無事なのか。
防護機能が規定値を超えてしまっていたら、スーツを着ている意味などない。
咄嗟に勢いよく振り返るが、ゼロツーは特に問題ないようだ。
それどころか、ジト目でイプシロンを睨みを利かせている以上、健常この上ないのは言わずもがな。
……もっとも、イプシロンにとっては居心地が悪いだろうが。
『………いきなり、だなんて。随分大胆になったねダーリン』
『あ、いや、その……ご、ごめんなさい』
通信越しの、ゼロツーのややトゲ付いた言葉に堪らず。つい敬語になってしまったイプシロン。
確かに事前に何の説明もなく、あんな行動に出られてはさしものゼロツーもたまった物ではない。
ヒロの性格を考慮すれば、そんな事しないだろうとタカを括るものだ。
謂わば、不意を突かれたに等しいのである。
『でも、お互い様だから仕方ないね』
しかし彼女は、それを敢えて許した。
『まさか一緒に来てくれるなんてね……すっごく
嬉しいから許してあげる♪』
ヒロがこんな行動を起こした理由が分からない程、彼女は決して鈍感ではない。
自分の事が心配で、付いて来てくれた。
それが13都市に来るまで、ずっと独りで闘って来たゼロツーにとって堪らず、嬉しいことなのだ。死ぬことは怖くなくても、独りはどうしようもなく怖い。
故に彼女は誰もよりもパートナーを欲する。
いつの日か人間になる為にフランクスに乗って叫竜と戦う。
それが彼女の、自身の在り方である。
そんな危うい彼女を放っては置けないと思うのは、パートナーを大切に想うヒロだからこそだろう。
故にどんな場所であろうと、側にいると強く覚悟している。
それがヒロというコドモの今の在り方だ。
『ほら、行くよ!』
『あ、ああ!』
飄々としていて読めない彼女に相変わらず、振り回されつつ、先に行かんと泳いで前進していくゼロツーに答え、イプシロンも後を追う形で
泳いで行った。
『あ、そう言えば普通に変身したけど……大丈夫なの?』
『それが……どういう理屈かは分からないけど、回復したみたいなんだ』
そう言って、イプシロンは泳ぐスピードを少し上げてゼロツーの前へ行くと、全身を時計回りに捻らせ、回転する。
更には身体中のアマゾン細胞を活性化させ、緑色のオーラを放出して見せたりもした。
何らかの異常や深刻なダメージがあれば、このような芸当はまずできない。
それどころか、そもそも変身すら不可能だ。
『まぁ、液体も特に無害じゃないみたいだし、
今のところはOKかな』
何処も異常が発生していない自分とイプシロンの様子から、ゼロツーはそう判断した。
もし液体が有毒なものであれば、何かしらの異常が出る筈。
それが現時点で二人に全くない事を考慮すれば、完全に安心はできないが、それでも作戦の進行に支障はないと言えるだろう。
『見えた。デルフィニウムだ』
しばらく泳いで行き、目標地点であるデルフィニウムが捕われている場所へと到着。見た通りにデルフィニウムは両手と両足。
胴体の腰部に硬そうな漆黒の外骨格が巻き付き、その身動きを完全に封じていた。
それ以外には特に何もなく、見た目で危険だと判断できる物がなければ、その可能性を示唆するような物も見受けられない。
『油断は禁物だよゼロツー』
しかし、それでも。
警戒を無くそうとしないイプシロンは、ゼロツーにそう言って周囲への注意を呼びかける。
『分かってるよダーリン。それじゃあ、始めよう』
ゼロツーの腰部に装着されたブラックカラーの防護ポーチ。
六つの円形状のパックは、一つの帯で腰回りをグルリと半周する形で繋がっており、六つあるパックの中身は全て時限式の小型設置爆弾である
。
その威力は、分厚く核弾頭でようやく倒せる程の硬度を持つクーデンベルク級の生体装甲。
それに傷を入れられる位には、強力な代物であることは間違いない。
ゼロツーは6つある内の3つを、イプシロンへ渡す。
『ダーリンは右の手足をお願い。ボクは左のをやるよ』
『分かった。腰に絡みついてるのは?』
『手と足が動けるようになったら多分、デルフィニウムの力で簡単に取れると思うから、そこは無視していいよ』
デルフィニウムを拘束している触手は、腰と両手足に巻きついている物とで比較してみると、明らかな違いがある。
黒く硬質な外骨格で覆われているという共通点は同じだが、腰の触手は節目が太く柔らかい生体組織の薄い膜が外骨格同士の繋ぎとなっている
。
これなら、確かにデルフィニウムの力で引き千切れるかもしれない。
ヒロもゼロツーの言葉に同調しかけたものの、寸前の所でふと小さな違和感が生まれた。
何故、一箇所だけ脆い触手が存在するのか?
残り4本は至って頑丈だ。現にデルフィニウムがどれだけ足掻こうと脱出できないのだから、その役目を十分果たしているのは間違いない。
だからこそ何故、腰に巻き付く一本だけが脆い構造で形作られているのか。
それが単に意味のない偶発的な産物とは、ヒロ到底思えなかった。
とは言え、いつまでも考えてるわけにはいかない。
ゼロツーやデルフィニウムの生命維持機能の持続時間は、決して長くない。となれば、思考するだけで答えが出ず、無駄に進んでいく時間なぞ惜しい。
そう結論付けたイプシロンはすぐさま爆弾の設置に取り掛かった。
※ ※ ※
「え、ヒロがゼロツーと一緒に?!」
一方。デルフィニウムの内部ではイチゴとゴローに一つの通信が届いた
。
APE作戦本部からで、その内容はなんとヒロがイプシロンへと変身し
、ゼロツーと共に叫竜内部へと侵入に成功したと言うものだった。
『ああ。クロロフィッツが目撃し、こちらでもその映像を確認している』
「……あんの、バカはァァァァッッ!!」
堪らず叫んでしまうイチゴ。狭く反響しやすい円形の空間で叫べば、発している本人はともかく、すぐ側にいる者にしてみれば耳を塞いでしまう程に喧しいものだ。
それを物語るようにゴローは咄嗟に両手で左右二つの耳を塞いでいる。
できれば、こういうのは止めて欲しいと願うが、自分も自分でヒロと同じ『他人を顧みない無茶』を考え、必要なら実行してしまえる性根なのだ。
それを思えば、言い方はどうあれ良識から来る心配で言っているイチゴに偉そうに出れる筈もなく。
敢えて何も言わない選択肢を取って、静観に徹した。
『予定を大きく外れる事となってしまったが、それでも任務遂行に支障はない。よって、君達の救出作戦は続行される』
「……でも、本当に大丈夫なんですか? 叫竜が爆発しないなんて保障は……」
『確かにない。二人には申し訳ないが、本来であれば君達を見捨てるという選択肢を取るつもりだった』
別に何も思わないと言う訳ではないが、それでもハチに悪感情を抱き、責めるように罵倒やら文句や恨み言をぶつける事は、二人には出来なかった。
コドモとして、叫竜を相手に生きるか死ぬかの戦いに身を投じている故にこういった形で最期を迎える事は、それなりに覚悟していた。
しかしAPEの作戦本部司令官であるハチは、二人の救出を最優先にした。
『フランクス博士の指示故だ。他意はない。それより爆発と思わしき音や揺れを感じたら、すぐさまデルフィニウムを起動し、確認を取れ。そして二人を乗せて脱出するんだ』
「「了解」」
『では、一旦通信を切る。何かあれば報告を』
それだけ言い残し、ハチは通信を切る。
「……ねぇ」
通信が切れて間もなく、イチゴがそっと呟くように声をかける。何処か覇気のない様子を不思議に思いつつ、とりあえず答える事にした。
「どうしたイチゴ?」
「……ゴローはさ、なんであたしのこと助けようとするの?
「え?」
イチゴの質問の意味が分からないとばかりに魔の抜けた声を不意に零してしまうが、それでもこれはイチゴにとって重要な事である。
「さっきも言ったけどさ、自分が死ねば誰かが助かるなんて。そんなの勝手過ぎるよ……その誰かが傷ついて、悲しむのが分からないの?」
「ッ!」
救いたい、あるいは守りたいと思う誰かは決して見ず知らずの他人ではない。
共に育ち、今こうして側にいる人。
ゴローにとってそれは13部隊の仲間たちであり、自分のパートナーであるイチゴなのだ。
命を捨ててもいい。そう思えてしまう程に大事なのは間違いないが、仮にゴロー自身がその命を投げ捨ててまで守り抜いたとして。
その少女が自分の死で何を思うのか。その思いがこれから先、後悔という重荷になって彼女を縛るのか。
ゴローは、それを全く考慮していなかった。
そんなに自分を大事にできないなら、助けないで欲しい。
"今は、自分達が生き残ることだけを考えろ"
両都市防衛作戦のあの時、ヒロの死を前に心がどうにかなってしまいそうな自分にそう言ったゴローのこの言葉を今も鮮明に覚えている。
その言った本人であるゴローが自身のことを諦め、生き残ることを放棄するなど、本末転倒もいいところだ。
そう思うからこそ、イチゴは声に出して言うのだ。
どうして自分の事よりも、他人であるイチゴをいつも気にかけ、時には無茶をするのかを。
「……小さい頃、俺はお前に助けられたんだ」
ポツリと。ゴローは独白する。
「ガーデンにいた頃、周りと合わせたりするのが嫌になって一人になろうとした。やり方は……はは、上の年配に喧嘩ふっかけるなんて感じ
だったよな」
今のゴローを見れば幼少期が喧嘩三昧に明け暮れていたなどと誰が信じられるだろうか。少なくともゴローは13部隊の中で一番冷静で、ココロに次ぐ温和な性格と協調性があるコドモだ。
とは言え、あのゴローが…とは、イチゴは思わなかった。
他ならぬイチゴが彼の幼少期をヒロと同じで、よく知っているからだ。
「……それで、あたしが一緒になって喧嘩に協力したんだよね」
「ああ。負けてばっかだったのが見てられなかったんだろうな」
あの頃のイチゴは……今もそうだが割とそうだが、男勝りな性格からか
、結構なオテンバ娘だった。
「『一人で勝てないなら二人でやればいい』とか言って、俺に手を差し伸べてくれたのは誰でもない、イチゴだけだったよ」
「……」
イチゴは何も言わずに聞き入れ、それに構わずに続ける。
「すごく、かっこよかった。自分勝手な理由で平気で周りを傷つける俺と違って、イチゴは誰かの為にいつも努力してた…それが俺にはさ、
とても眩しく感じたんだ」
誰かの為に努力し、中途半端に途中で放棄しないで最後までやり遂げる。
そして、これは悪い事だと思えば誰であろうと言ってのけ、必要とあれば実力行使を平然とできる度胸は、眩しい位に輝くイチゴの真っ直ぐな心の在り方だった。
13部隊のリーダーになってからはそれが強くなった気もする。本人はどう感じているかは分からないが、少なくともゴローはそう思っていた
。
「初めて会った時も俺が女の子殴って怪我させて、その子に為に怒ったこともあったよな」
「え、ウソ……アレ覚えてたのぉッ?!」
顔を真っ赤に捲し立てるイチゴの姿は、見た目で言えば名を体現すると言わんばかりのあのイチゴそのもので、その様子につい笑みが吹き出してしまう。
「プッ、クッ、フフ……ああ、これでも記憶力は良い方なんだぞ」
「あうぅぅぅぅぅッッ!! わ、忘れてよ〜」
両手で顔を覆う位に恥ずがるワケは、単純にゴローをマジギレ状態の本気で殴ったことが原因である。
当時のイチゴは今に比べると割と手が出る性格で、相手が悪いのに謝らない、誰か平気で傷つける奴が許せない、やり返せない子に代わってやり返すなど。
実に様々なのだが、そのどれもが他人を想ってのもの。
ゴローを殴った理由も殴られた女の子に代わり殴ることで精算し、謝らせる為だった。
とは言え、怒り心頭で手加減が上手く出来なかったのか。
殴られて数秒。ゴローの意識はブラックアウト……ようするに気絶してしまったのである。
「まぁ、とにかく」
過去の黒歴史を思い出してはホクホクと湯気が立ち込め始めたイチゴを見て、さすがにからかい過ぎたと思ったゴローは話の路線を戻す。
「俺はイチゴみたいになりたいって思ったんだよ……大好きなイチゴに。だから、時々無茶するのかもな」
「ゴロー……」
イチゴは何も言えなかった。彼の言いたい事は分かる。
ゴローは、他でもないイチゴに憧れて救われ、今に至っている。
だからある意味恩人である彼女の為ならと身を犠牲にできる。
"そっか。ゴローはあたしと同じなんだ"
それを知って、率直にイチゴはそう思った。
イチゴもヒロの為なら無茶をしてしまえる。幼い頃に自分だけが変われない恐怖から、孤独から救ってくれた。
名前をくれた。ただの番号しかなかった自分がそれだけで変われた気がしたのだ。
そんな彼が危険な目にあったなら、何としてでも助けたい。
結局のところ、イチゴもゴローと同じだったと言うワケだ。
(……はぁぁ…人のこと、全然言えない)
「ん? どうした?」
心の中で溜息を零しては、自分が偉そうに言えた立場ではなかった事を悔み、顔を付すイチゴの気を知らずに疑問符を浮かべるゴロー。
そんな二人の時間を割くように、爆発音とそれに伴う振動が響き渡った
。
「「!!ッ」」
当然ながら突発的な事態に驚くイチゴとゴロー。
それと同時にコックピットのハッチが外側から開かれ、外から叫竜の液体と共に何かが流れ込んで来た。
「ふぅぅ〜……やっほーお二人さん」
「イチゴ、ゴロー!! 無事か?!」
ヒロことイプシロンとそのパートナー、ゼロツーだった。
「ヒロ! ゼロツー!」
「来て…くれたのか」
イチゴは二人の名を歓喜を込めて呼び、ゴローは二人が無事に来てくれた事に安堵の息と共にそう呟く。
「当たり前だろ。それより早くここを出よう! デルフィニウムを拘束してた触手は爆破したから、動かせる」
「腰の方の奴は残ってるけどね。でも爆破した他のに比べて脆そうだから大丈夫だと思うよ」
「分かった。イチゴ」
「うん!」
ヒロとゼロツーからの現状の説明を受けた二人は、肯定の意の証に頷き、すぐさまデルフィニウム起動の為の接続を開始。
デルフィニウムは、無事起動。
腰に巻きついていた触手はゼロツーの推測通り容易く引き千切ることが可能で、デルフィニウムは両手でそれを実行すると入口であり、出口
でもある噴出口へと泳いで向かう。
だが、その直後。
『!!ッ 何アレ?!』
ある異変を逸早く見つけたデルフィニウムは、声を上げる。
叫竜の肉壁の組織から何かが滲み出るように輩出されていき、それが噴出口に向かうデルフィニウムへと急速に接近して来た。
よく見ればそれは黄緑色のスライム状の不定形な物体で、大きさはフランクスの手の平サイズ位か。
ある程度デルフィニウムに近づいて来ると、定まらない形だったソレが、先端が鋭い棒状の一本槍の形態へと変化。そして何とそのままデルフィニウムの脚や腕などの部位に突き刺して来た。
『ぐッ! ああああぁぁぁぁぁーーーーーーーッッッッ!!!!』
「イチゴ!」
苦悶の声を吐き出すパートナーにゴローは堪らず名を呼び叫ぶ。
「一体何なんだ……!ッ まさか免疫システムの一種か?!」
「多分デルフィニウムの腰に巻きついてたの、コレを起動させるスイッチだったかもね!」
震動に耐えつつ、イプシロンはデルフィニウムに襲いかかっているモノの正体をそう推測し、それに上乗せする形で腰部に巻きついていた妙に脆い触手に関しての仮説をゼロツーが立てる。
確かにそう考えるなら、このタイミングの良さと触手自体脆かったことに説明はつく。
束縛する為ではなく、捕らえた獲物が抜け出し、内部から脱出しようとするのを阻止する為の警報装置だからこそ、敢えて引き千切れるようにしておく。
そうして触手がその引き千切れる際の刺激を利用して放散する信号物質が叫竜のコアか、もしくは察知する為の感覚器官へと届き、発動する。
大方、仕組みとしては、そんなところだろう。
「イチゴ! エンビショップにマグマエネルギーを集めて!」
ゼロツーがそう指示を飛ばす。
疑問に思わない訳ではないが、状況が状況。
このまま事態が悪化してしまえば、もはや帰還は不可能となる。
個人的に気に食わない相手とは言え、ゼロツーがこの状況で無意味な指示を飛ばすような性格ではないと知っている。
故にイチゴは何も言わず、素直に従った。
イチゴの意思によってマグマエネルギーが駆動
経路を通じてエンビショップの刃の部位へと流れ、集まっていく。
フランクスと一体化できるピスティルだからできる芸当である為、ステイメンはできない。
その代わり、操縦のイニシアチブを担っている。
「そのまま限界まで集めるんだ。ボクが言うまで辛抱して!」
アメーバ状の叫竜の免疫細胞に身体を突き刺される痛みに耐えつつ、エンビショップを振り回し抵抗する傍らでマグマエネルギーを限界まで
送り込み蓄積させていく。
「今だ! 刃を下に向けて分離!!」
タイミングを正確に測ったゼロツーが合図を送る。エンビショップの刃はパージすることが可能で、ゼロツーの言われた通りにデルフィニウムはマグマエネルギーが凝縮された刃をパージ。
勢いをつけて分離した刃は数秒と経たず、強烈な光を伴い……
爆発した。
※ ※ ※
「フン。ようやっとか」
『グ……ヌゥゥ……』
ヴィスト・ネクロの幹部であるファントの足止めをしていたディケイド・サゴーゾは、右肩に喰らった拳のダメージを押さえながらそんな台詞を鼻息と共に吐き出す。
対して、ファントは腹部にモロに喰らってしまった最大限に高めたサゴーゾコンボのフルパワーを込めたパンチ。
そのダメージから、膝を付き苦悶の声を漏らしていた。
そして、背後の爆発音に気付いたファントは体勢を後方へと変える形で振り返り、ある光景に凝視してしまう。
それは噴射口から体液の水柱が形成され、その勢いによって叫竜の体外へと脱出するデルフィニウムの姿。
叫竜がデルフィニウムを飲み込んだ事は無論承知していたファントだったが、特に問題はないとして捨て置いていた。
そもそも単純にあの叫竜は元々同族の運搬・敵性存在の捕獲という役目を持った個体で、ソレを都市殲滅兵器として改造した代物だが、どうにも本来の性質が微かとは言え、未だ残っているせいか反射的な本能によってデルフィニウムを取り込んでしまっただけなのだと。
そう、高を括っていた。
しかし、実際はこの様だ。
噴出口は爆発のせいで通常よりも大きな穴が形成され、そこから体液が滝のように溢れ出る。
叫竜にも血液に相当するものがあり、それが青い液体だ。
人は血が多く流出されれば、死に至る。
叫竜の場合はコアを破壊されない限り驚異的な再生力で復活してしまうのだが、ヴィスト・ネクロの手によって改造されたこの個体は代償に再生力が喪失し、青い血液が多量に流出すれば人間で言う所の出血死に至って生命活動を停止させてしまう。
最終的には自爆させる為、それならそれでいいと投入されたが、それが仇となった。
ファントにステルス機能を搭載させた改造叫竜という防衛策はあったがソレらは破られ、最後の砦とも言えるファントも防衛の役目が今、この瞬間に喪失してしまった。
『……ウオオオオオオオオオォォォォーーーーーーーッッッッッッッ!!!!!!!』
激昂の咆哮。
生命活動が停止した故に浮遊することができなくなり、落ちていく叫竜を見て今更ながらファントは気付いたのだ。
叫竜の直ぐ近くにアルジェンティアとジェニスタが居た事を。
そして恐らく仲間の救出によってデルフィニウムは叫竜の拘束から脱出できたのだろう。
そこまでの結果に至ったファントは自らの犯した愚かな失態に恥を感じ入り、同時に囮として今まで自分を相手にしていたのであろうディケイドに対する底知れぬ憤怒。
その全てを吐き出す為に叫び、同時に真っ向から叩き潰す為の己の合図とした。
『ウ、ガアアァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!』
「単調過ぎて呆れる」
一気に向かって来るファントにそんな言葉を投げつつ、トドメの一撃を繰り出す為にカードを一枚、ドライバーにセットするディケイド・サゴーゾ。
『FINAL ATTACK RIDE:SAGOOZO!!』
サゴーゾ・コンボは元々、仮面ライダーオーズという欲望の力を秘めたメダルを用いるライダーの力の一端で、周囲の重力を操れるという特性がある。
サゴーゾコンボに変身する為のメダルが重量系動物の力を有するものだからだ。
そしてこの重力を最大限に高めることで放つ、必殺の一撃がある。
「ウォォォォォーーーーーーーッッッ!!!!!!」
ゴリラが相手への威嚇の際に使用する『ドラミング』という、胸を叩く行為そっくりに胸部を拳で叩きまくるディケイド・ザゴーゾ。
そうすることで円形のオーラングサークルと呼ばれる部位に描かれたサイ、ゴリラ、ゾウの意匠が重力の波動を発しながら銀色に輝く。
そして。最初に喰らった重力の、更に数十倍に引き上げた超重力がファント両足を拘束。
無論それだけに終わらず、地面を削りながらゆっくりと。しかし確実にディケイド・サゴーゾの下へと引き寄せられている。
まるで、地球の引力に引き寄せられてしまう隕石のように。
やがて両者の距離が手を伸ばせれば簡単に届く程にまで来た瞬間。ディケイド・サゴーゾは、頭部にある角…サイヘッドと両腕のゴリバゴーン
。
頭突きとダブルパンチの二つによるコンボが見事に炸裂し、爆炎と火花を伴ってファントは吹き飛ばされた。
「グゥ……ヴゥゥゥ……」
かなりの、それも致命的なダメージだ。
自分の命は、そう長くは保たない。
そう直感したファントはせめて一矢報いようと仰向けに倒れ込んだ身体の上体を起こし、なんとしでも、とばかりに何とか立ち上がって見せる
……
が。
「無駄だ。お前は死んだ」
ディケイド・サゴーゾが変身を解除して士の姿へと戻る際に投げかけられた否定の言葉。
それは真実だった。
立ち上がった直後、元より雀の涙程度にしか無かった彼の命の灯火は立つという一点に力を注いでしまった為、限界を越えるような奇跡を起こす事もなく直立不動のまま……ゆっくりと身体が黒い液状になり崩れ落ちていった。
「これで残る幹部は2匹……祝いに1匹やってやったんだ。後はせいぜい自分達で頑張るんだな」
士は最後にそう言い残すとファントだった黒い液状へと一瞥すると背後にあのオーロラカーテンを展開。
そのまま士のいる位置へとスライドしていき、士を飲み込む。
「まぁ……いずれまた会うがな」
それだけを言い残すと、士はオーロラカーテンと共に消え去った。
※ ※ ※
小さかった頃の記憶は当然いくつかあるけど、その中でも全く薄れないで今でも鮮明に覚えている記憶がある。
それは些細な理由で自分から喧嘩をふっかけ、年上のコドモ3人を相手にした時の記憶だ。
俺は、最初一人で勝とうとした。
でも3人がかりで、どうやっても独りだけだと勝てなくて、ボロボロになって負けるしかなかった。
自分を弱いと蔑んで嘲笑うその3人に俺は何もできないでいた。
勝てない事実に苛立って、悔しくて、ただ噛み締める以外に方法なんてなかったんだ。
それが限界まで来てたのかな。
俺は堪らず、泣きそうになった。
泣くなんて恥だと思ってたし、すぐに泣く女子のコドモたちを俺は内心見下して馬鹿にしてたが、今にして思うと酷い考えだって思う。
けど、おかげで気づいた。
馬鹿は、自分だ。
勝手に突っ走り、勝手に相手を傷つけ、自分も傷つく。
何が独りでいたいだ。
独りじゃ……何もできない。
俺は、弱かったんだ。
ようやく自覚したけど、惨めな姿の自分に心が折れかけていた。そんな俺に手を差し伸べて来たのがイチゴだった。
二人がかりで、とは言っても数だと不利なのは変わらないけど、それでも何とか勝てた。
ついさっきまで泣きそうだったのに、今は相手が泣き喚く光景に俺は思わず呆けた。
そりゃあ、女の子が一人協力してくれたからって勝てる筈ない。
そう思ってたのに、こうやって簡単に覆されたら驚くしかないだろ?
『ほら、2人なら勝てたじゃん!』
そんな俺に関係なく笑顔でそう言ったイチゴの顔を見て、独りであろうとした自分が馬鹿らしく思った。
それで、この時初めてイチゴに心が惹かれていく感覚を覚えたんだ。
こういうの、好きって言うんだっけ。
ある人が教えてくれた。
その人は7人いるパパたちの一人で、小柄な体格をしたパパだった。視察目的でガーデンに来ることが時々あって、俺たちコドモたちと交流して色々な話を聞かせてくれたり、ちょっとした質問に対して答えてくれる。
何も教えてくれない世話係のオトナたちと違って、とても優しい人だった。
ある日その人は俺に、好きって言う思いには二種類あるのだと言った。
親しい、という意味での好き。
愛してる、という意味での好き。
親しい意味での好きってのは友情を現してるらしい。
気を許せて、隣にいると心が楽しい気分になれる。
逆に愛してるって意味での好きは、大体は同じだけど、何処か相手を特別視してその人のことを思うと胸がドキドキする。気持ちが昂ぶる……って感じかな。
多分……いいや。俺はイチゴのことが………。
「……ゴロー! しっかり!」
自分のパートナーの声にゴローの意識は覚醒。
それを見たイチゴとゼロツーは安堵の息を零す。
「はぁぁぁぁぁぁ……よかったぁ」
「ホントそれ。運がいいねゴローは」
「……ま、また気を失ってたのか?」
気を失うのは、これで本日2回目となる。
爆発の衝撃とそれによって生じた体液の噴射による推進力を利用し上手く叫竜の体内から脱出できたはいいものの、その際ゴローは衝撃に耐え切れなかったようで、結果的に意識を失ったのだ。
状況が状況なのだから、仕方のないことだろう。
それでも自分だけが二回も気を失い、女の子に心配されるというのは男として、ヘマをやらかした気分になってしまうので自然と恥ずかしさが込み上げ、顔が赤くなりつい視線を逸らしてしまう。
その反応の真意を察したイチゴは少し面白いなと感じつつ、
"ゴロー以外"に気を失っているステイメンへと視線を向けた。
「まぁ、ゴローだけじゃないけどね。ほら」
よく見ればゼロツーは正座の態勢で、その膝の上に気を失う形で眠っているヒロの頭を乗せていた。
そんな彼の頭をゼロツーは愛おしいとばかりに優しい手付きで撫でていた。
「無理ないか。色々あったし」
「ふふ。なんか寝てるダーリンって可愛いな」
「……なぁ、イチゴ」
ふとゴローは声をかけた。
今し方夢で見た過去の記憶。
それを見たことでやっと気付いた自分の気持ちを伝えたい。そんな思いがゴローの心を駆け巡り、高揚とした感覚を沸き起こらせていた。
だが。
「どうしたの?」
「いや、やっぱり何でもない」
今この場では伝えない。
場の空気は勿論、ゼロツーやヒロがいるのだ。いくらゴローでも人前で堂々と思いを伝えられる程、神経は太くはない。
二人っきりの時に打ち明けよう。
そう心に決めてゴローは空を仰ぐ。色は青。
陽の光が心地よく差す快晴の青空が広がっていた。
ゼロワンは新たなフォームへ……その名もメタルクラスタホッパー!!
明日が楽しみですが……ダリフラ漫画版、完結!
さすが矢吹先生、いい感じに落とし込んでいましてがちょっと物足りない感じでした。それだけにアニメ版はインパクトがありましたからね
(色んな意味で)。