ダーリン・イン・ザ・アマゾン   作:イビルジョーカー

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ギリ投稿でました……。





黒い獣

 

 

 

 

 

 

『フフ。そぉ〜れ〜!!』

 

 声は至って間延びしたような可愛げのあるものだが、それと同時に繰り出される肩から伸びる触手の刺突は音速に近い速さだった。

 

 まず常人なら何が起きたのか分からない内にその命を終えるだろう。だがこのUBAという、正体不明のアマゾンは紛れもなく人外であり、人外故の人並外れた力を持っている。

 

 音速に近い速度で繰り出される刺突を的確に目で捉え、回避できるのもその一つだ。

 

『いい速さだが、足りないなァァ!!』

 

 そして速さで言えば、脚力も侮れない。

 

 瞬く間に彼女との距離をゼロにまで縮め、至近距離からの掌底を打ち込もうとする。

 

 が、そうする前に一気に上へと跳んだ。

 

「チッ、避けたか」

 

 いつの間にか、左右両腕にブラウンカラーの籠手のようなものを装着していたアリアは、今し方自分が繰り出した後ろからの不意打ちによる拳の一撃を避けられたことに対する苛立ちを舌打ちと一緒に吐き捨てた。

 

「ふぅ。危ない危ない」

 

 二人から少し離れた台の上へと着地し、間一髪とばかりに握り拳の手の甲で汗を拭うような仕草をするUBA。しかし人間のように汗など出る訳がない。

 

 汗腺がないのだから。

 

 完全に挑発を意図した行為だ。

 

「不意打ちなんて卑劣な! 恥ってもんがないのかな〜え〜?」

 

「あらあら〜……どの口がほざきやがるのかしらぁぁ?」

 

 声自体は至って平常のソレだが、青井の言葉からは明確な殺意が滲み出している。

 

 しかしそれを心の中で終わらせず、殺意をふんだんに込めて、触手による素早い一閃を繰り出す。

 

「残念。長物を出すの、こっちもできるんだよ

 」

 

 しかし、それをUBAの身体に巻きついていた蛇の装飾が、まるで命を得たとばかりに身体から離れ、鋭利な牙を備えた口で触手を喰い千切ってしまった。

 

(やはりただの飾りじゃなかったですね)

 

 予想が当たったことに特に思うところはないが、しかし自身の触手による攻撃を瞬時に見切り、対応してしまう紫の蛇の性能ぶりには、少しばかり苛立ちを募らせる。

 

 それ以上に面倒だという思いもあるが、とにかくあの蛇に関しては用心すべきだろう。

 

「一体どんな絡繰なのかしら〜?」

 

「企業秘密、さ!」

 

 UBAが腕を勢いよく前へ掲げる。動作に呼応するように蛇は胴体から腕を伝っていき、速度を落とすことなく、また逃すことなく青井の頭を噛み千切る。

 

「まず、一匹。獲らせてもらった」

 

 無造作に落ちた青井の頭部は、柔らかく水気のある物体が床に叩きつけられる時のようなベチァァという生々しい音を立てて、地に落ちた。

 

 身体もそれに伴って倒れ込み、黒い血液が頭のない箇所から漏れ出ていく。

 

「お前ぇぇ……よくも!」

 

「おいおい怒るなよ。そっちから手を出して来たんじゃないか」

 

 アリアの怒りと殺意が込められた視線を前に、そんな返答を送ると近くにあった腰の高さ位のボックス状の機器に腰掛ける。

 

 完全に舐めているとしか思われない行為。事実、それはアリアの怒りを煽動する為のものだ。

 

 怒りに駆られ、冷静な判断力と把握能力を失った者ほど、狩り易いものはないからだ。

 

「うぉぉりゃああぁぁぁッッッッッ!!!!」

 

 そんな敵の思惑など露知らず。そう言わんばかりに怒りの咆哮を叫び散らし、両腕に装備された対アマゾン武装『バルキリアス』を叩きつけようと迫る。

 

 アリアの専用武装であるバルキリアスは、一度敵に命中すればその衝撃を引き金に、内部に搭載された音波装置が作動。

 

 この音波装置というのは特殊なもので、アマゾン細胞に悪影響を及ぼす無機化合物『ミクトランシ』を反響板とし、それによって反響された音波を放出する

 

 解き放たれた音波は、アマゾン細胞一つ一つを破壊し尽くす。アマゾンにとっての殺傷音波と化し、その反面人間には全く無害。

 

 れっきとした人間であるアリアは、このミクトランシによる音波の悪影響を受けずに済むと言うわけだ。

 

 それに放出して広がる範囲も小さい為、十分な距離さえ取っていれば味方のアマゾンにも害はない。

 

「いいパンチだが、甘いねぇ〜」

 

 アリアの渾身の右ストレートを難なく左手で掴む。ミクトランシの波長が放出されるが、まともに受けている筈のUABは至って平然と軽口を零す。

 

「!! ッ」

 

「びっくりした? アマゾン細胞を破壊できる音波を利用した武装ってところだが……生憎、そんじょそこらのアマゾンとは性能が違うんでね!!

 

 右手を掴まれ、封じられたことを瞬時に理解したアリアは動揺することはなかった。

 

 渾身のパンチとは言え、動き自体は単調だ。そこを考慮すれば、力さえ十分あれば、押さえ込まれたとしてもなんら不思議ではない。

 

 瞬く間にそう理解・納得し、次の攻撃として左手でパンチを決め込もうと繰り出す。

 

 今度は左側の脇腹だ。

 

 アマゾンの脇腹は位置的に人と同じ肺の役割を担う『吸空環』と呼ばれる臓器があり、それを守る骨格が存在する。

 

 脊椎動物は大抵その骨格である肋骨があり、全部で二十四本で両側に十二本ずつ、それぞれ第一肋骨~第十二肋骨といった構成になっているが、アマゾンの場合一枚の骨盤が隙間なく吸空環を包み込む形で備わっている

 

 その部位を割ることができれば、当然致命傷になる。

 

 致命とは言ってもあくまで仮死状態に陥るだけだが、再起不能に落とし込んでしまえばあとはどうにでもできる。

 

 アリアの拳は、防がれることも外れて空振りに終わるでもなく、見事に入った。

 

 骨格が砕ける生々しい音が確かに耳に入った。

 

 だが。

 

「痛っ……いことするねぇ」

 

 やや苦しげな声ではあったが、UBAは平然と立っていた。

 

 普通なら確実に再起不能の致命傷となり、意識を失うレベルの苦痛と負荷が襲っている筈。

 

 しかし。この黒いアマゾンは、そんなことなどお構いなしと言わんばかりに未だアリアの手を掴んだままの状態で立っている。

 

「そんなに驚くことじゃないだろ?」

 

「くっ! 離せぇッ!」

 

 更に脇腹に滑り込んでいた拳の手首を自分の手で封じ、両足での蹴りを想定してか。装飾の蛇をまた実体化させ、両足を重点的にアリアの体に巻きつく。

 

「性能の差ってヤツだよ。このボディは、そこいらのアマゾンとは比較にならないほど優秀なもんでね。テストとして実戦投入にして初めてその性能ぶりを感じたよ」

 

「……」

 

「で、何か言い残すことある?」

 

 アリアは身動きが取れない状態に陥る。

 

 UBA自身もそうだが、代わりに実体化した蛇がアリアの首にいつでも噛みつけるよう、口を開け内部にある毒牙が顔を覗かせている。

 

 噛まれたが最期。毒によって1分と経たずその命を終えることになる。

 

 そんな中、ただ少女は笑う。

 

「……高性能の割に見えてないんだね」

 

「? どういう……」

 

 絶望的状況の中だと言うのに、アリアの表情は余裕のソレで諦観した様子は無い。それに疑問に思い、問いかけたUABの背中を何かが貫いた。

 

「な、これ、は……」

 

 UBAを貫いたもの。それは一本の触手だった。しかもそれは紛れもなく先ほど命を奪った筈のカツオノエボシアマゾンである…青井のもの。

 

「油断大敵、ですねぇ〜」

 

「ぐあぁッ!」

 

 一気に引き抜かれる激痛に苦悶の声をUBAは漏らす。同時に聞こえた声は間違いなく青井のもの。

 

 振り返れば、つい先ほど切り離された筈の頭部があり、あたかも今まで何事もなかったとでも錯覚してしまいそうになる位に平然と、青井はカツオノエボシアマゾンの姿のまま優雅に佇んでいた。

 

(どういうことだ? 確かに頸を……あぁ)

 

 混乱までには至らず、すぐさま生じた疑問を解消する為に思考を巡らせていたUBA。ある程度まで考えると、ある仮説に行き着いた。

 

(そう言えば、カツオノエボシって"群体"だったね)

 

 カツオノエボシは、一目見ただけなら誰もがそれを『一個のクラゲという生き物』と思ってしまうだろう。

 

 しかし実際のところ、カツオノエボシは生物学的分類上では、クラゲではなく、ヒドロ虫と呼ばれる生物である。

 

 そしてこの微生物がいくつも集まり、気泡係。触手係。栄養運搬係。といった各々の役割をもって、集合体を運営するようになったのがカツオノエボシという生物。

 

 そしてその遺伝子を有する青井は、当然この群体性質を受け継いでいる。

 

 青井の身体は、アマゾン細胞一つによって成り立つヒドロ虫型の微生物によって構成されており、中枢臓器は何百億という単位の一匹が保有している為、この一匹をどうにかしない限り、青井は仮死状態すら陥らず、即再生することができる。

 

 だから本来、自身の仮死状態を偽装する必要はないし、する気もなかった。

 

 だが相手が厄介な敵であることを考慮し、青井はしばらく機を待つ為、頸を切られ倒れたままの状態で様子を伺っていた。

 

 そして。アリアによって動きを封じられながらも、蛇を実体化させ操り息の根を止めようとした瞬間に生じた勝利への慢心と。

 

 それによって周囲への警戒を捨て去った油断という傲り。

 

 これら二つが重なったことで生まれてしまった隙を、青井は見事に入り込み、中枢臓器を貫き討ち取って見せのである。

 

 風穴を開けられ、生命維持を担う中枢臓器をやられたUBAはそのまま、再生せず黒い液状と化して消滅した。

 

「すみませんアリアさん。陽動ありがとうございます」

 

 いつもの雰囲気を消して、至極真面目な口調で礼を述べる青井は、その姿を人間の姿へと戻し、結合再生させた頸を軽く鳴らす。

 

 そして『うまく陽動してくれた』ことへの感謝を送った。

 

 と言うのも実はあの時、アリアは動揺し怒りに身を任せたように見えていたが、実際はそうすることでUBAの注意を引いていたに過ぎなかった。

 

 青井がすぐに再起しなかったのを疑問に思ったアリアは、瞬時に彼女の意図を察し、注意が自分のみに向けられるようUBAの挑発にわざと乗ることで欺いた、という訳だ。

 

 そのおかげでUBAを背後から一撃で仕留めるという、青井のプランを成果として現実にすることができた。

 

「大丈夫ですよ。でもまさか、あの青井さんが一撃貰うなんて驚きましたよ」

 

「……別に油断はしてませんでした」

 

 いつもの語尾を伸ばす呑気な口調をしないというのは、それだけ自身に起きたことが驚愕すべき事柄であると同時に、真剣に考えなければいけないと彼女なりに判断した時だと。

 

 アリアはそう認識しているので敢えて口調が変わったことに関しては特に言及しない。

 

「でも、それでも私はやられました。あの蛇の速度は冗談抜きで速すぎます。だから一撃で頸をあげてしまいました……同個体が今後現れるようなら、気をつけるべきですね」

 

「……」

 

 彼女が抱いている懸念は、決して度が過ぎている訳ではなく正当な評価だ。

 

 精鋭の一部隊を束ねる隊長の地位を持つ以上、その実力は並大抵ではない。しかもアマゾンとしての強さもAランクなのだ。

 

 その彼女の頸を取るなど、相応の実力がなければ無理である。カツオノエボシのアマゾンであったから死なずに済んだものの、そうでなければ、仮死状態の間に中枢臓器を抉り出され死んでいただろう。

 

 つまりUBAは、精鋭の隊長格と同等か以上の力を秘めているということになる。もしそうであるなら、非常に拙い事態だ。

 

 あんなアマゾンがヴィスト・ネクロの技術力で量産されているとしたら

、などと。そう考えるだけで、背筋におぞましい悪寒が奔ってしまう。

 

「と、とりあえず赤松さんと黒崎さんに連絡してみましょう!」

 

 

 しかし今、現時点でその事を考えるのは無駄な時間だ。二人の安否確認をしなけれならない。

 

 アリアは青井にそう言うと、バルキリアスに備わっている通信機能を起動。赤松と黒崎の通信端末にコールを試みる。

 

 あのUBAの言葉が事実なら、別個体のUBAを相手にしているかもしれない。最悪の場合、命を奪われたという緊急事態も頭に入れておかくてはならない。

 

 そんな一株の不安を抱きつつ、アリアと青井は向こうに繋がるのを願いながら待つことにした。

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

【最上階・屋上】

 

 

 

「がっ、あ……」

 

 一人の隊員が首から胸にかけて袈裟斬り状の傷を負い、そこから鮮血が吹き出る。

 

 男性の隊員で、黒崎の部隊であるクロウの隊員だ。

 

 クロウ部隊は名前に『鴉』とあるように、隊員は全員黒一色の服装となっている。

 

 身を守る防護ベストからシャツ、ズボンといった服装全てだ。

 

 そんな彼等が自身の血で赤く染まっている。

 

 原因は一人の……いや、一体の襲撃者だった。

 

「やっぱ隊員程度じゃ相手ならんね」

 

 心底つまらない。退屈そうにそんな愚痴を零さてはいるが、襲撃者の周囲にはクロウ部隊の隊員達が銃口を向け、いつでも撃てるよう構えている。

 

 その中に黒崎もいる。

 

「テメェ……何もんだ」

 

 殺気を惜しむことなく剥き出しにしつつ、静かに、だがその動作一つ一つを見逃さないよう注視しながら相手へ問いを投げる。

 

「何もんって……アマゾンだよ。ア・マ・ゾ・ン。知ってるでしょ?」

 

「……答える気がねぇならいい」

 

 問答は意味を為さないとこの瞬間に理解した黒崎は、部下である隊員たちに後退のハンドサインを送る。

 

 仲間を殺されて、その上での後退。

 

 本来なら隊長と言えども抗議の声が上がるのだが、今この時においては誰も何も言わなかった。目の前に現れた黒いアマゾン……UBA。

 

 その犠牲になった隊員は今し方最後に殺された、男性隊員を含めて10人。

 

 20人で構成された精鋭部隊にも関わらず、その半数が殺された。

 

 クロウ部隊は担当していた建物の東側の各階層エリアを次々と制圧。途中、自分達に襲いかかって来た低いランクや、そこそこ高いランクに相当するアマゾンを返り討ちにし、未だ確認していない最後の制圧ポイントのエリアである先上階の屋上へと到着。

 

 着いたまでは、よかった。

 

 この時点で隊員達は慢心してしまっていた。

 

 クロウ部隊はコネや権力で精鋭として成りか上がったのではない。過酷な訓練で日々肉体と精神を鍛え上げ、難易度の高い任務を達成していった強者。

 

 だからこそ、今回の任務はクロウ部隊にとってさほど難しいものだとは感じられなかった。

 

 特に罠という罠もなく、せいぜい敵のアマゾンが襲いかかって来るだけ

 

 そのアマゾン自体、C〜B程度のランク。

 

 相手がヴィスト・ネクロということで脅威度を上げて挑みかかった彼等としては、まぁ、不満を感じずにはいられなかった。

 

 こんなものか。

 

 これがあのヴィスト・ネクロのアジトなのか? 

 

 まったく歯応えがない。拍子抜けだ。

 

 などと、散々な言い草を心の中で呟き始めていた隊員たちのソレは、完全に慢心をぶら下げ、油断に胡座をかく始末。

 

 しかしその中で黒崎だけは一切の慢心なく、常に周囲を警戒しながらクロウ部隊の指揮を執り、行動していた。

 

 罠もなく、セキュリティも低レベルで襲いかかって来るアマゾンは雑魚ばかり。

 

 確かに拍子抜けな話ではあるが、それには理由があると黒崎は考えていた。

 

 ここがヴィスト・ネクロの重要施設であることは間違いなく、証拠に今回の強襲作戦が開始される数時間前。

 

 ここのネットワークシステムのハッキングに成功した電子工作部隊からの報告では、ヴィスト・ネクロにとって重要機密の研究が為されていた記録が大量に見つかったのだ。

 

 研究していたものは、二つ。

 

 その一つが『溶原性アマゾン細胞』と呼ばれる特殊なアマゾン細胞。

 

 更にもう一つは、それを利用した『アマゾネスト』呼ばれる、アマゾンの強化型改造兵士の製造とその能力に関する全て。

 

 それを通信端末へと送られたデータとして見聞した黒崎が心中で思った感想は、シンプルに『イカれてる』という、嫌悪感を惜しみなく吐き出したものだった。

 

 しかも、門矢士という訳の分からない男からの情報が本物なら、このコロニーを実験場とした何かをするらしい。

 

 その何かに関しての概要や詳細は今所分かっていない。門矢士も知らなければ、ハッキングしたデータにそれらしき記述は一切何もない。

 

 ならば、門矢士の嘘偽りの情報かと思えるが、実際に溶原性アマゾン細胞とアマゾネスト。

 

 この二つが事実だったことを考えると、その部分だけ嘘を言うメリットが分からない。

 

 ともあれ、ここが重要性の高い機密施設だということは明白。ならば高度なセキュリティやAランク相当のアマゾンがここを守る目的でいたとしても、何もおかしいことではない。

 

 にも関わらずそういったものが無いのであれば、考えられる可能性は2つ。

 

 一つは、何らかの目的を果たす為に邪魔な存在の注意を引き付けておく為の囮。陽動目的によるもの。

 

 もう一つは、単純な人員不足。

 

 どれ位の数のアマゾンがヴィスト・ネクロにいるのか。その辺りは詳しく分からないが、人員不足という線はゼロに近い……というより、ほぼ

 完全にゼロだろう。

 

 いくら数が不足していても、ここが重要な施設であるのなら、戦力を集中させる筈。

 

 加えて、アマゾネストが実用化すれば、手足となるアマゾンを量産し放題なのだ。

 

 今後戦力の減少が起ったとしても、アマゾネストの感染能率を利用した増加が見込めるのであれば、その重要性はかなり高くなる。

 

 ならば、やはり陽動こそ可能性的に大と言える。

 

(そうじゃないことを祈りてぇけど、どうだがな……)

 

 とは言え、あくまでも仮説の域を出ないし、仮に今それを上に申告したとしても無意味だろう。

 

 トゥルーアイのセンサーに引っかからない以上、ここ以外に"ヴィスト

・ネクロのアマゾンはいない"。

 

 なので、できればこの可能性は無いと。黒崎としては願っているが……果たして。

 

 そんな事を考えながら、警戒をし続ける黒崎はまだ確認していない建物の最上階にある屋上へと到達した。

 

 黒埼と彼が率いるクロウ隊は、屋上に何かないか隈なく探し、特に問題なしとクリアしかけた際に"ソレ"は現れた。

 

 UBA。

 

 黒く、紫色の蛇のような模様的装飾があるアマゾン。それが屋上の出入り口の上から目では追えない速度で瞬く間に。両手に備わった鋭利な鉤爪でクロウ部隊の隊員の命を奪っていったのだ。

 

 危うく黒埼もその手にかかりそうになったが、

 何とか反応し、持っていたコンバットナイフで

 一撃を防ぐ形で助かった。

 

 そして、今に至っていると言う訳だ。

 

 

「シッ!」

 

 

 軽く息を吐き、コンバットナイフを手にUBAへと接近する黒崎は勢いよくナイフを斜めに振るい、その頸をかっ切ろうとする。

 

 無論、UBAはソレを鉤爪で防ぐ。

 

 青井とアリア、隊長二人が対峙したUBAにはなかった代物だが、この別個体は鉤爪を武器に暗殺を目的として設計されており、故に俊敏性も優れている。

 

 その点は仲間を半数も失った黒崎も重々承知している。

 

 だが……。

 

「遅いな、ノロマ」

 

 それは一瞬という、刹那の間。

 

 鉤爪をナイフで押し返す形で弾いた黒崎は間髪入れず、ナイフで右腕を肘まで切断。

 

 続いて、左腕を切断し、両腕を左右共に失ったUBAの胸にナイフを突き立てる。

 

 しかしその身を守る外骨格は硬かった。一撃では通せず、その硬度は鋼鉄と同程度。

 

 まずもって人間の力では敵わない……筈だった。

 

「チッ、オラァァァァッッッッ!!!!」

 

 一撃では届かない。なら、連続で尚且つ一撃目よりも強く穿つ。

 

 言葉で言う分には極めて単純で、月並みな表現ではあるが、黒崎はソレを実行しようとした。

 

 だが、そんなことをしたところで、人の力では底が知れる。

 

 UBAという、"仮初の身体"を"遠隔操作"していた『彼女』は、人体の理を知るが故に黒崎の意図を察した直後は何をバカなと軽視した。

 

 だが……それは誤りで、油断となってしまった。

 

 

 バギィ、ベギィィッ!! 

 

 

「!! ッ」

 

 外骨格が、砕けた。

 

 黒崎のコンバットナイフも衝撃で刀身の半分が砕け散ったものの、まだもう半分は残っていた。

 

 なら、そのまま突き刺すのみ。

 

 黒崎はそう判断し、ナイフの破片の一部が額や頬などの顔に刺さっても特に気にせず、溢れ出す黒の鮮血に塗れながら、アマゾンという種の共通の弱点である中枢臓器にナイフを突き立てた。

 

(……うっそ。予想外過ぎる……んだけど)

 

 中枢臓器をやられた以上、この身体は持たない彼女は早々に『義体』とのリンクを途絶し、意識の消失したUBAは黒い液状に崩壊。

 

 完全に再起不能となった。

 

「ハァ……ハァ……あ〜ックソが! 血がベトついてウザってぇな」

 

 血液が黒かったのと服装が黒ずくめだったことが幸いして、さほど目立ってはいない。

 

 金髪は別として、だが。

 

 ともあれ、生き物の血が大量に付着しているという状態が彼にとって好ましい筈もなく、煩わしそうに前髪をかき上げ、苛立ちを一欠片程度さえも隠さず曝け出した。

 

(やばい……敵もヤバかったが、黒崎さんも大概じゃねぇーか)

 

(マジで人間辞めてるだろ)

 

(す、すげ〜)

 

(怖いよ! いろんな意味で!!)

 

「た、隊長。大丈夫ですか?」

 

 遠巻きに戦闘の一部始終に目を見張っていた隊員たちは、決して言葉には出さず、各々心の中で自分達の隊長への感想を零す。

 

 断っておくが、黒崎が相手取ったUBAは俊敏性に差はあれど、青井とアリアの二人が倒したUBAへと性能は変わらない。

 

 二人がかりで苦戦したにも関わらず黒崎の場合は単独で、しかもコンバットナイフ一本で仕留めるという離れ業をやってのけた。

 

 明らかに黒崎がおかしいのである。

 

 ともあれ、隊員の一人がやや怯えつつ、黒崎の安否を気遣う。

 

 黒崎はそれにプラプラと手を振り、大丈夫だということをアピールした。

 

「問題ねぇよ。……あぁ?」

 

 ふと、通信端末が入っている防護ベストに備わっている右胸側のポーチが振動しているのに気づく。

 

 ポーチから端末を取り出し、耳に当てるな否や聞こえて来たのはアリアの声だった。

 

『黒崎さんおぉっそいですよぉぉッッッ!!!!! えぇ! さっきからコールしまくってんですから返答して下さいよ! マジのマジで心配

……』

 

 プツゥッ。

 

 何も言わずに黒崎は通信を切る。そして溜息をひとつ吐いては隊員に端末を渡した。

 

「え、あの……」

 

「面倒過ぎるから、頼んだ」

 

 それだけ言うと他の隊員たちに屋上周囲の探索とUBAに殺害された隊員らの遺体の安置。

 

 この二つの指示を飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 

「いったた……やってくれるよ」

 

 ヴィスト・ネクロが秘密裏に研究施設として運営していた建物から北に10km離れた位置にある、とあるビルの屋上にスタークはいた。

 

「どうしたんですか?」

 

 痛そうに愚痴を零すスタークが気になったのか、『装置』の警護及び調整の手伝いをしていたプレディカが言葉をかける。

 

「戦闘用に作ったアマゾネストの義体が破壊されちゃったんだよ。ああぁぁ〜! アレ二体だけでも作るのに結構労力と時間費やしたのに〜!!」

 

 白髪をワシャワシャと掻き乱す様は、それだけ自身が遠隔操作していた義体が破壊されるとは微塵も思っていなかったらしく、さぞ悔しいのだろう。

 

 4Cの隊長たちを襲った二体のアマゾネストと思わしき敵性存在……その正体はスタークが感覚をリンクすることで、遠隔操作することができる義体としての目的で作られたアマゾネストである。

 

 あくまでスタークが操作する目的で造られたので溶原性細胞を持っておらず、感染能力は皆無。

 その代わり優れた戦闘能力を秘めており、事前に行った試験的な実験ではBランクのアマゾン10体を相手に1分と足らず瞬殺して見せた。

 

 スタークとしては『義体アマゾネスト』の開発に当たり、戦闘面における性能の向上に尽力していたので実験の結果も相まって、それなりに自負があった。

 

 だが、実戦における結果は期待を悪い意味で裏切るもので、二体揃って破壊された上にあろうことか、その内の一体は只の人間である筈の黒崎によって人間とは思えない芸当でやられてしまっている。

 

 想定外。馬鹿馬鹿しい。ふざけるな。

 

 そんな思いが頭の中を逡巡させ、髪を掻き乱す他に行き場のない気持ちを表す術を知らない様は、人によっては同情してしまうだろう。

 

 が。生憎のところ、側から見ているプレディカにとっては凄まじくどうでもいい葛藤なので、特に何の感慨も浮かぶことなどないが。

 

 暫くそんなことをしていると、今度はプロフェッサーから言葉が投げかけられる。

 

「スターク様。準備が整いました」

 

 それを聞いて、ピタッと荒ぶっていた行動を止めてプロフェッサーに向き直る。

 

 その顔は『待ってました』という気持ちが全面に押し出された笑顔だ。

 

「グゥッドォォ! 楽しい楽しい実験と行こうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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