一月分遅くなってしまったので、二話連続で投稿します。
「あァ? ファントが負けた?」
「ええ。ディケイド、とか言う奴にね」
コロニーのとある地下施設。その四畳半程度の広さを持つ一室で周囲にあった家具やら研究の為の機材、積んであった書類などを乱暴に荒らしていた豹柄の革ジャンを着た金髪の男。
ヴィスト・ネクロの幹部"ザジス"。
彼と向き合う形で佇んでいる蜘蛛の巣を意識した、変わった刺繍が施されたチャイナドレスの女性幹部"アレニス"は、自分とザジス。
双方と同じ幹部の地位にいた男ファントの死をザジスに報告した。
「ハン。アマゾンライダーでもねぇー奴に負けるとはよ。ちっと過大評価してようだな」
その言葉に悲しみや怒り、憎しみといった感情は込められておらず、ただ淡白に自分の中の同胞の株を落とすのみ。
ザジスにとって同胞の死など何の意味も為さない。
自身の部下が死ぬのであればまた話は別だが、ファントも。目の前にいるアレニスも。自分と同じ地位にいるだけの、気に入らない他人に過ぎない。
そんな印象の彼らが一人やられた程度で感慨等湧く筈がないのだ。
「護衛に付いてた叫竜が送ってきた視覚映像では、相当強いみたいよ?
」
そう言ってアレニスは叫竜の視覚を映像として送る透明なガラスのような四角い端末を取り出し、それをザジスに投げ渡す。
片手で難なくキャッチしたザジスは映し出される映像を一通り見ては
、険しく眉間に皺を寄せた。
「……チィッ、確かにコイツは強い」
ディケイドのカードを用いての形態変化と、ソレに合わせた能力の使用という、見たことのない戦法はザジスの目から見ても厄介だと言えるもので、加えて単純な腕に関しても素人特有の無駄な動きがなく、幹部を相手に上手く立ち回っている。
今後、障害として立ちはだかるならば、要注意しなければならない。
ザジスでさえそう思わせる程の、確かな実力がディケイドにはあった
。
「一体何者だコイツは」
「全然分からないわ。突然現れてあの13部隊に協力したってこと以外は全く」
諜報を主な任務としているアレニスもディケイドが何者なのか。その詳細を掴むことは不可能だった。
まず情報がおかしい。
コロニーにあるアマゾン専門の医療施設の医師として登録されていれば
、APEの一般科学者という所属データがある。
だが。それだけで経緯がない。
そうなる前はどのように暮らし、出身はどういったものなのか。そういった経緯が全くない。
なら、必然的に偽造の線が出てくる。
しかしアレニスが独自に調べた限りにおいては、コロニーやAPEのデータベースにハッキングされた痕跡は見受けられなかった。
内容が内容にも関わらず、正式な手続きをもっての登録という形で双方のデータベースにその名がある、この意味の分からなさ。
はっきり言って不気味だ。
「……で、奴はどこに?」
「行方を眩ませたわ。まぁ、気にはなるけど、私達の任務に専念しましょう」
「それに異存はねぇーが、何処にもいやがらねぇぞ」
二人はファントとは異なり、ある人物の捜索を任務とし行動していた
。
その人物とは、『ファースト』。
"始まり"の意味をコードネームに持つ男。彼が使用していたとされる拠点を発見、襲撃したものの、中には誰もおらず。
推測として数日間前にはいたであろう形跡だけを残し、こちらの行動を予測しているかの如くここを放棄したらしい。
「つかよ、正直信じられねぇぜ。いや、ボスを疑うっつーんじゃなくて、心境的にはって話だが」
「……そうでしょうね。私としても実感が湧かないわ」
二人が『ファースト』についての詳細を知ったのは、今回のコロニーにおける作戦が始まる2日前に遡る。
それ以前にヴィスト・ネクロの首領である十面姫がその男を追っていること自体は知っていたが、情報開示されたのは2日前の時だった。
ファーストとは、この世界において"騎手"や"乗り物を操縦する者"というライダーの言葉に別の意味を齎した"始まりのライダー"。
故に、ファースト。
かつて、人類がコロニーとAPEに分かれる前の旧時代。
その旧時代の末期において、一人の科学者だった男は、自らが考案した機械の身体による人類の進化『エヴォルマキナズム・ヒューマン』を提唱し、サイボーグ技術に革新的な光を齎した。
が、彼が考案したソレを利用したある組織によって男は強制的に機械の身体へと造り替えられ、あろうことか洗脳によって従順な下僕へと仕立て上げられた。
だが彼と旧知の仲だった恩師によって洗脳を解たかれた彼は、その組織を数年間に渡って壊滅させたという。
やがて、その事実を知る者達から彼はこう呼ばれた。
『仮面ライダーファースト』、と。
「で、ソイツをボスは警戒してる訳だが、まだ生きてんのか? 身体がボロボロのスクラップになるまで戦ったらしいじゃねーか。そんなら仮に生きてたとしても鉄屑のガラクタ同然だろ」
「そうかもね。旧時代から数百年と経っていることも含めると尚更思うのも当然。けど奇跡的に生きていたとしたら、脅威になるかもしれない。可能性は切り捨てるべきではないわ」
あくまで楽観的な、しかし現実的でもあるザジスに対し、アレニスは警戒すべきだと言って譲らない。
ザジスとしてはアレニスの考えなど別段どうでもいい。よって否定はしない。
それよりも脅威になるかは別として、ファーストの捜索を任務として預かっている以上、細かいことを考えているより脚を動かし、対象を探すことに専念した方が有意義というものだろう。
そのつもりで、ザジスはアレニスや部下である15体のアリアマゾンと共に先程から施設内を探している。
とは言え、この拠点は既にもぬけの殻。
ファーストの行方が知れない以上、跡を追うのは容易ではない。
手掛かりを残しておくような間抜けでもないが、万が一、ということもある。
この地下施設に侵入してから1時間。
ファーストの行方に関する手掛かりを探してはいるが、現状では一欠片さえも見つけられない始末だった。
打破するには、早々に諦めて検討するしかない。
それに"時間の制約"もある。
「ここはもう捨て置くに限るわ。24時間は安心といっても、ノロノロとしていたんじゃあっという間に時間切れよ」
時間、というのは。トゥルーアイのレーダー網から逃れられる間のことだ。
ヴィスト・ネクロのアマゾンは当然のことだが腕輪がない。腕輪のないアマゾンは共鳴反応を利用したレーダーで探知されてしまうのだが、ソレをジャミング装置によって欺いて来た。
装置自体は縦幅3m、横幅が87cmの設置型の機械で、作戦行動を行う場所の隠蔽に最適な地点に設置し起動させることで、レーダーに映らなくさせる妨害波を展開。
この妨害波は電磁波の類ではなく、アマゾンの共鳴反応における波を遮断する肉眼では見えないミクロ単位の特殊な粒子『ヨナルデパズ』によるもので、基点となる装置から半径5kmにも渡り存在を隠蔽することが可能となる。
しかしそれもトゥルーアイの登場により、無意味と化した。
ならば新しい手段が必要になって来るのは当然。その情報を潜り込ませておいた密偵の伝手で、早期の段階で得たヴィスト・ネクロは、すぐさま対策を講じた。
トゥルーアイのレーダーを無効化する新技術『バイオ・インビジブル』を開発。旧来のモノとは違い、手に収まる程度の大きさしかないほど装置が小型端末化されており、コレを対象者となるアマゾンに埋め込み、以後は対象者の脳波に反応してヨナルデパズ粒子を放出・その量を
調整でき、端末自体のON/OFFも可能。
意のままに操作することができるようになり、脳波で粒子を全身に行き渡らせればレーダーの波を遮断することができる。
それでは旧来のジャミング装置と大差ないと思うかもしれないが、粒子そのものが強化されており、腕や足に集中させれば一時的とは言え、爆発的な身体効果を齎すことも可能となる。
ただ隠蔽するだけでなく、身体能力の向上も望める為、性能自体は進歩したと言っていいだろう。
だが、動力源であるギガのバッテリーは24時間が限界。なのでバッテリーが切れてしまえば当然トゥルーアイで捕捉されてしまい、任務達成の難易度が跳ね上がる。
隠蔽を徹底させた上で任務を完了させたいのであれば、時間の浪費は1分1秒でさえ、惜しいところだろう。
「へいへい。んじゃ、退散するか」
ザジスはそう言って、手にとっていたアマゾンの生態に関する書類の何枚かを放り捨て、部屋をアレニスと共に出ようとした瞬間。
それは、起きた。
ドクンッ!
「「!! ッ」」
自分達の中枢臓器が激しく脈打ち、跳ね上がる感覚。同時に空気が鉛のような重さを孕んでのし掛かって来たような錯覚も覚えるが、それは決して彼等が何らかの要因で生じた幻覚に陥った訳ではなく、自分達の中枢臓器が並大抵のものではない、ギガという膨大なアマゾン固有のエネルギーを共鳴反応によって感知したからだ。
すぐさま部下を引き連れ、その膨大なギガが発生している場所へと向かうザジスとアレニス。
事態は……既に動き始めていた。
※ ※ ※
「ナナさんの手料理、ホント久しぶりだな〜」
あまりにだらしなく、引き締める気など一切ない位に幸せそうな顔の鷹山は目の前に置かれたカレーという、今もそうだが旧時代においても世界的に愛されているメジャーな料理の一つを味わおうとしていた。
それも自分が愛おしいと心の底から本気でそう思っている人の手料理となれば、嬉しくない訳がない。
「はぁぁ……やらなきゃならない仕事があったのにもう……」
無理やり連れてこられた訳だが、こうして文句を零しつつも手料理を振る舞ってくれる辺り、満更じゃないのだろう。
それに対し、鷹山はやはりだらしないニンマリ顔で呑気にスプーンを手にすると、ルーとライスを混ぜて一部を掬い上げる。
そして、そのまま口へと運ぶ。
あまり辛いものを好まない為、少し甘口仕立てにしているナナのカレーは鷹山にとって美味の二文字以外ありはしない。
まさに完璧な手料理だった。
「で、一体どういうつもりなの? 私をここに
来させて」
今現在、鷹山とナナがいるのは鷹山がコロニーで過ごしていた三階建て程度の高さしかない、彼の住居である小さなビルだ。
一応、生活に必要なガスやら水道といったライフラインは保たれており、それらの料金に関してはヴォルフ局長が代理人として支払っている
。
こうしてコロニーに戻ってきた際にいつでも使えるようにする為だが、帰ってくる頻度自体があまりに少ないので無意味にも思えるが。
とは言え、おかげでナナの手料理にありつける
のであれば、鷹山にとってだが一応意味はあるのかもしれない。
ともあれ。何故鷹山が自分をここへ連れて来たのか。
その"真意"を問い質す。
「んー? なんのことナナさん」
「とぼけないで。私の手料理食べたいだけじゃないんでしょ?」
ナナは鷹山という男をよく知っている。
コドモ時代から彼の事をよく見ている彼女だからこそ、鷹山という男がどういうつもりでここに連れて来たのか。
既に察しはついている。
おそらく公に口外することのできない何らかの情報を持っており、それについて自分と意見交換をしたいと思い、盗聴や誰かに聞かれる危険性のないここへと連れて来た。
そう分かっているからこそ、敢えてナナの方から本題に切り込んだのだ。
「……はぁぁ。やっぱお見通しか〜ナナさんには。まぁ、予想はしてたけどさ」
至福の一時を味わっていたニンマリ顔を消して、溜息を零しつつ、鷹山はわざわざここへ連れて来た理由を説明し出した。
「こーれ、何だと思う?」
そう言って鷹山が見せたのは、一つの端末。
タブレット式のもので画面には何らかの文章が表示されているのだが、一番の上の欄にはこう表記されていた。
code016の遺伝子調査結果、と。
コレが何を意味するのか。この欄を見ただけでは何も分からないが肝心なのはその下に書かれている文書だ。
「!! ッ」
文書の最初の二行〜五行当たり。
そこを見たナナは怪訝な表情から驚愕の表情へと顔色を変化させ、見間違いじゃないのか。
そんな安易で分かり切った見当違いを抱きつつ、鷹山の手から端末を奪い取り一行一行を確認していく。
見終わるのに、そう時間はかからなかった。
最後の一行を確認したナナは何も言わず、ただ端末をテーブルに置き、蒼褪めた表情で鷹山を見る。
おそらく嘘だと言って欲しいのだろう。
だが、鷹山は気休めにもならない虚言で誤魔化す気は更々なく、ありのままに事実だけを口にする。
「本当だ。アイツは……ヒロは、
"人の遺伝子を持ったアマゾン"だ」
※ ※ ※
アクシデントがあったものの、何とかゾロメを見つけることができた13部隊一行は、コロニーの中で最も賑わいを見せている中央区域へと
足を運んでいた。
中央区域は娯楽関連の施設が密集し、多種多様なジャンルの買い物が楽しめるショッピングモールを始め、子供達が楽しめるゲームセンターや二輪車型の乗り物を用いたレーシングコース。
和気藹々と楽しい時間を過ごすのに最適な場所と言えるだろう。
ゼロツーの勧めでまず最初に足を運んだのは……『ゲームセンター』と呼ばれる娯楽施設だった。
「オラッ! 喰らえ!」
「ま、負けてたまるかァァ!」
「ゾロメ! 優等生組に負けんじゃないわよ!」
「ゴロー! そこはパンチ、パンチよ!」
ゾロメとゴローの二人が『マイティック』というタイトルのゲーム台の画面を必死に睨みつけながら、ボタンを押し、タッチ式の操作レバーで指を必死にスクライドさせながら、自分が操るゲームキャラを使い対戦していた。
ゴローは、筋骨隆々とした軍人のような格好の大男のキャラを選び、対するゾロメは大男と同じ身長差のティラノサウルスのキャラクター。
ティラノサウルスなだけに自慢の大顎を武器に戦うゾロメのプレイアブルキャラは、何度も何度も大顎でゴローのプレイアブルキャラに食らい付こうとしている。
だがゴローはそれを許さず、自身のプレイアブルキャラクターを初めてながらも上手く扱い、回避しては一瞬の隙をついてカウンター攻撃を仕掛ける。
そうすることでゾロメ側のキャラのHPを徐々に削っていき、最終的には必殺技で決める算段らしい。
「ハッ! また俺様の勝利で間違いなしだな!
」
だが。どちらが優勢になっているのか、と問われればゾロメの方に軍配が上がる。
確かにゴローは隙を狙ったカウンターでHPを削ってはいる。だがゾロメは大顎を用いた噛みつき攻撃が効かない代わりにリーチの長い尻尾を利用したテール攻撃を繰り出し、これがまた変速的で読みにくい上にリーチの利点もある。
しかも、パンチと比べると多めに削られる。
これが原因で一回戦目でゴローは敗北しているのだ。加えて、互いに初めての格闘ゲームなのだが、それなりにセンスと遊び心があるゾロメの方が上手だったらしく、この点でもゴローは不利に陥られていた。
とは言え、本来のゴローであれば然程気にするような事ではなかった
。ガーデン時代はともかく、今となってはあまり熱くならずクールに物事に対応する性分になっている……のだが。
一回負けて、ゾロメに散々コケにされて温厚なゴローもさすがに腹に据えかねたのか。
闘志が燃え上がり、それを見ていたイチゴもガーデン時代の血でも騒いだのか。
熱く応援する形で観戦し始めてしまった。
ミクも自分のパートナーが優等生組に善戦する様を見て気分が良くなったようで、こちらもイチゴに負けず劣らず、ゾロメに発破をかけて観戦している始末となっている。
「す、すごい……」
白熱する格闘ゲームの戦いにフトシは月並みな感想を思わず零す。
食べ物にしかあまり関心が向かない彼だが、初めて娯楽目的のゲームというものに触れた為か、未知に対する新鮮さを感じずにはいられないのかもしれない。
コドモは誰一人として娯楽を目的としたゲームをしたことなどない。
必要性のないものは、全て無駄という、AEPの方針によって定められていたからだ。そんな彼等にとってこれが初めての『ゲームで遊ぶ』という子供らしい行為なのだ。
「珍しいな。ゴローがあんな風になるなんて」
フトシと同じように観戦していたヒロは幼馴染としての付き合いが長い為、いつもの温厚で冷静な雰囲気をかなぐり捨ててまでゲームに熱中するゴローの姿は、ヒロから見ると意外に見えた。
確かにゾロメに1戦目で色々とコケにされたのがムカつきを覚えたのも、理由の一つだろう。
だが、それだけじゃない。
純粋にやりたいと思う程に楽しいことを見つけ、それに興じている。
少なくともヒロには単純にそう見えた。
「ダーリン♪ これやってみない?」
ふとゼロツーから声が掛かる。
彼女がそう言って指差す先には、『ポッピパピハンマーデラックス』という珍妙なタイトルのゲームがあった。
ゲーム画面は円形状のディスプレイとなっており、そのディスプレイを支える四角い形状の台には、やたらピンクや黄色。赤や青といった明るい色彩で、和かな顔だったり、ちょっと怒った顔や困り顔。
果ては悲しんでいる顔だったりと表情に合わせて色が違う花たちのキャラクターが描かれている。
そして。恐らくゲームをプレイする上で使うだろうと思わしき、花柄の可愛らしい柔軟素材で製造されたハンマーが二つ。
台の前面に付属されている箱型のケースに入っていた。
なんとなく、こう、明るい感じのニュアンスが全体を見る限り伝わっては来るのだが、それ以外の情報が全く分からない。
なので、少し戸惑い気味ながらも、ヒロはゼロツーに聞いてみた。
「……これ、どんなゲーム?」
「いろんな顔をした花をこのハンマーで叩きまくる感じのやつだよ。あと、流れてくる音楽のリズムに合わせてね」
「?? えーっと……」
至極簡単に説明してくれたのだが、それでも理解できていない様子のヒロ。
いや、この場合は簡単というか、大雑把な説明のせいで分からないといった方が多分正しいのだろう。
リズムに乗りながら、画面内に次々現れる顔のある花を叩いていく、という趣旨を考えると、ジャンル的に『音楽ゲーム』になる。
音楽ゲームとは、プレイヤーがアクションをとる(画面で指示されたボタンを押す、ステップを踏む、楽器を模したコントローラを操作するなど)ことで進行するタイプのゲーム。
しかしこの『ポッピパピハンマーデラックス』は、単にリズムに合わせて花を叩きまくれば即高得点、ということはない。
実は、このゲームに出てくる顔のある花……通称『パピポピフラワー』は、めちゃくちゃ動きがやばい。
高速で、変則的に、更には偽物が本物より大量に現れることで生じる撹乱でプレイヤーを翻弄。
もし偽物のパピポピフラワーを叩いてしまえば、本物を叩いて得られたポイントは大幅に削られ、更に一定時間は動けなくなるという。そんな鬼畜難易度設定の最悪仕様。
そのせいで今に至るまで、完璧にクリアして見せた者は、唯一人しかいない。
その唯一人が……。
「とおおりゃあああああ──────────ッッッッッ!!」
ゼロツーである。
試しに自分がプレイしているところを見せると言ったゼロツーは、ハンマーを左右に二本と握り締め、適当に選んだ曲のリズムを狂わすことなく、しかも的確に本物を見極めハンマーを振り下ろす。
叩いて、叩いて。叩きまくる。
そこに寸分の狂いさえない。完璧なテクニックとしか言えないゼロツーの動きは、ヒロの目でようやく追える位に速かった。
やがて、終了の刻が来る。
軽快さと豪快さをふんだんに込めたようなメロディーと共に、画面にはクリアの三文字が浮かぶ。
見事、このゲームを制してみせた証である。
「す、すごい!」
「ふふん♪ ボクにかかればこんなゲーム、ノーコンティニューで余裕さ!」
自信満々に胸を張ってそう言うゼロツー。
そして持っていたハンマーをクルリと回して、ヒロに柄の部位を向ける。
「どう? ダブルプレイできるから一緒にやってみない?」
※ ※ ※
「え、えーっと、こう?」
「おぉーうまいじゃん!」
一方、格闘ゲームとは別のゲームで遊んでいるのはナオミとイクノ、そしてココロの3人。
遊んでいるのは、透明なガラスのケースにたくさん入れられた縫いぐるみやらフィギアのパッケージ。
それを円盤状に左右二つのアームが付いたクレーンで取る『UFOキャッチャー』をしていた。
複雑な操作をする必要がなく、クレーンをどこに落とすかボタン一つで決めて、後はクレーンが自動的に目当ての物へ下がっていき、アームで掴み取るといった単純仕様。
まだ操作に慣れない……というより、巧くできる自信のないココロにとってありがたいゲームと言えた。
「かわいぃぃ〜! ありがとうココロ!」
「あはは……たまたまだよ」
爬虫類……あるい怪獣的な生き物を可愛らしくディフォルメしたようなそんなキャラクターのぬいぐるみを両手で抱え、ご満悦な幸福オーラを出すナオミは礼を言うが、特に大したことはしてないと手を振ってココロはそう言う。
そんなほんわかな雰囲気を醸し出す二人だが、それを見ていたイクノは負けてられないと意気込む。
ナオミを一番の親友として……あるいは、それ以上の感情で想い慕っているからこそ、イクノは普段の物静かな面をこの一時だけでもかなぐり捨て、ナオミが望むものをこのUFOキャッチャーで手に入れようと意気込む。
大好きな親友にプレゼントしたい。
自分ができるところをアピールしたい。
これらの思いを薪に、イクノはUFOキャッチャーに挑む。
「ナオミ。何かとって欲しいものある?」
「え? うーん……この子も可愛いけど、あの子も欲しいな!」
そう言って指を差した先には紫色のめがねを掛けた猫のキャラクターのぬいぐるみがあった。
「任せて。アレ取ってあげる……ココロ、交代お願い」
「ど、どうぞ……」
いつものイクノらしいクールさが完全に失われ、勢い迫るほどの情熱を秘めた気合いにココロはその気がなかったにしてもNOと言えない。
言ってはダメという、ある種の強迫観念がそうさせたのだ。
ココロと操作を交代したイクノは端末をUFOキャッチャーの下部にあるスキャニング部位に翳す。『チャリン、ピピン♪』という、コイン同士がぶつかるソレに近い音と、リズムの良い音がUFOキャッチャーに備えられたスピーカーから発せられる。
電子通貨が入れられ、いつでも遊ぶ事ができるという合図だ。
操作盤には一回の通貨投資で出来る回数が表示されている青白いディスプレイ画面があり、数は5。
つまり、一度に5回は可能ということだが、自信あり気のイクノは5回など多すぎる。
一回でノーミスでクリアしてみせる、などと。
口には出さずともそんな決意を固めていた。
……のだが。
1回目……失敗。アームが目的のぬいぐるみを掴めず、というよくありがちな例を実際にしてしまったから。
2回目……失敗。簡単だと思ってたかを括ってみれば、掴むことには成功したが途中で落とす。これもよくある典型的な失敗例だ。
3回目……もう油断しないと意気込むものの、今度はぬいぐるみを商品が出る射出口まで運ぶ途中ではなく、掴んで上へと上げだ瞬間に落ちる。またまたよくある失敗例を披露してくれた
イクノは、ほんの数秒間だがガラスケースに頭を押しつけて意気消沈モードに突入。
4回目……覚悟を決めて今度こそ獲ってやるとやる気を再充填した状態で臨む。目的のものを取ろうとしたが、掴む前から掴むという工程を失敗して終了。
そしてラストの5回目……は、せず。
キャンセルボタンを押して完全に終了。
どんよりとした暗く生気を一切感じさせないと言わんばかりのオーラを出して、UFOキャッチャーの台に背を預ける形で体育座り。
顔を見せず両膝に埋めている様から見ても、『たかがゲームでそんなに気にすることないよ』とか。あるいは『ほらほら元気出して』などと。
ベタに濡れまくったチンケな言葉ではどうにもならないだろう。
「もうイクノったら……はい、これ!」
消沈しまくる彼女を見兼ね、ナオミはイクノにある物を差し出す。
顔を伏せていたものの、何となく言葉のニュアンスで何かあるのか? と察し、ふいに顔を上げたイクノの目に飛び込んで来たのは、一個の紙袋だった。
サイズは手の平に収まるほど小さく、口は赤いリボンで綺麗にラッピングされていた。
「え、これ……」
「まぁまぁ。いいから開けてみてよ」
特に説明もなく、それよりも早く開けてと急かすナオミ。疑問に思いつつ、言われた通り紙袋の口を閉じていたラッピングを取り、開ける。
そして。中に入っていたものを見る。
「ペンダント?」
手を入れて、袋から出して再度確認するとそれがペンダントの類で、金色の金具に折鶴蘭を象ったアメジスト色の装飾があるといった感じの品物で、クロロフィッツを意味する折鶴蘭をモチーフし、しかも色はクロロフィッツと同じ紫系統の色彩。
まさにイクノの為に作ったかのようなペンダントである。それを手にまじまじと見つめるイクノは、少し頬を赤らめ笑みを浮かべている。
「どう? ご満足頂けたかな? さっき行ったアクセサリーショップで買ったヤツなんだけど、すごくイクノに会ってると思うな」
「!! ……あ、ありがとう……大事にするよナオミ」
よほど嬉しかったのか。優しく、それでも力強く握り締めて、プレゼントしてくれた礼を笑顔で述べるイクノ。
そんな彼女の姿を見て、ナオミも笑う。側から見て他愛のない微笑ましい光景だろう。
事実、ココロはそんな二人をほんわかした気分で見ていた。
優しくて温厚。単にそれだけでなく、他者への配慮や心情を気遣う性格の彼女からすれば、そう思うのは当然だろう。
親交を深め合うイクノとナオミの姿。
そこにおかしなところは一つもない……筈なのだが、何故かこの時、ココロはある違和感を覚えた。
贈り物を貰い、それに喜ぶのは当たり前なのでそこではない。
なら、贈り物自体か?
別段おかしくない。イクノがクロロフィッツという、折鶴蘭の英名を冠したロボットに乗る点と彼女の機体のカラー。
紫系統で、しかもアメジストだ。
アメジストには『誠実』『愛情』『心の平和』『高貴』といった縁起が良い言葉が含まれている。
これも特に問題ではない。
違和感の正体は送った側であるナオミの……その表情だ。ただ一見すれば良い笑顔だ。
だが何処か無理に取り繕っている。
本意ではない仮面を貼り付けている。
そんなイメージがどういう訳か、ココロの中に思い浮かぶ。
言ってみた方がいいのか。そんな思いもしたが、この心地よい雰囲気を壊すことに成りかねないと彼女の持ち前の配慮がココロを判断させた
。
「? どうしたのココロ?」
だから問うことはしない。
気のせいだと思考の外へと捨てて、そのまま忘れようとしたココロは
ナオミの怪訝な問いかけに対し、何気なく笑うと適当に誤魔化す。
「ううん、なんでもないよ」
「そう? あ、次アレやってみない?!」
特に気にした様子はなく、ナオミは別のゲームに興味を惹かれて次の台へ行こうとする。そんな彼女の後を上機嫌に笑うイクノが付いていき
、二人の背中を見ながらココロも続いていく。
嫌にこびり付く……どうしても拭い去れない、言い知れない不安を覚えながら。
令和ライダー第二弾、仮面ライダーセイバー。
サブライダーに『カリバー』って名前のライダーがいるのと、主人公の
基本フォームが赤いドラゴンをモチーフにしてるところを見ると、やっぱりアーサー王伝説を意識してるのかなって思います。
自分的には『設定は面白そうだけど、きちんと見てみないと判断できない』って評価です。今のところは。
それでは。