ダーリン・イン・ザ・アマゾン   作:イビルジョーカー

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何とか間に合った……なるべく日曜日に投稿したかったので、よかったです。






生きとし生けるものを喰らう凶獣の王 part3

 

 

 

 

 

 恐怖。アレニスが今までに歩んで来た生の時間の中で、この感情が身体の芯までジワリと染み込むような感覚に陥ったのは、己が仕えている

十面姫との邂逅以外にありえなかった。

 

 

 しかし……どうしたことか。

 

 

 今まさに彼女は恐怖を感じている。身体の芯から染み込んで来る並外れた恐怖の情念。

 

 それを感じさせる要因である存在……ヴィルムは、足を止めることはなく、段々とその距離を確実に詰めていく。

 

 

「んん? どーした? かかって来いよ」

 

 

 紡がれた言葉の雰囲気は、ナオミのソレではなかった。度々出していたあの壮年の男性を思わせるような口調。

 

 それと全く同じものだった。

 

 新たな姿となったヴィルムは第1面形態とは異なり、緑色の複眼部が丸みを帯びたフォルムのバイザーのように繋がっており、頭部はアマゾンライダー特有の左右にある突起形状が無くなっている。

 

 全身にミミズのような、あるいは生き物の血管にも見えるイエローラインが奔り、ベルトの瞳の色は複眼に合わせてか青から緑へと変化。

 

 全体的に色彩はラインが奔っているという点を除けば、何も変わっていない。

 

 紫のままだ。

 

 一見すれば姿だけしか変わっていないと思うかも知れないが、少なくともアレニスはそうは思えなかった。

 

 纏う雰囲気が前の形態とは違い過ぎた。

 

 より攻撃的に、圧迫するような。

 

 理屈ではなく感覚的に強さが増したのをひしひしと感じるのだ。

 

 

「来ないなら……こっちから行くぞォォッ!!」

 

 

 だが、いかに恐怖で身が思うように動かなくともいつまでも浸っている訳にはいかない。

 

 今まさに、その恐怖を与えて来る存在が自らの命を狩ろうと迫っているのだから。

 

 

「クッ!」

 

 

 間一髪のところで、繰り出されたヴィルムの拳を両腕でガードする…が、思った以上に重さもそれに伴う衝撃も想像以上に威力が強く、腕の骨格に亀裂が生じるのを感じたアレニスはすぐにそれをアマゾンとしての再生能力で直し、右脚で回し蹴りを放った。

 

 

「おっと。危ない」

 

 

 ヴィルムは焦らず、動揺は一切ない平坦な態度で容易く右腕で防ぐと逆にアレニスの足首を掴み、彼女の身体を宙へ放り投げる。

 

 

「空中は自由が効かなくなるけど、どう対処する?」

 

 

 空中では確かに思うように動くことはできない。アレニスに飛翔する為の翼はない。浮力を生じさせ操る術もない。

 

 つまり。空中というのは、ある種の枷なのだ。

 

 放り投げられた際の勢いも加味すれば、まともに動くことはできない。

 

 どうやらヴィルムはそれを利用し、一気に決める腹積りのようだ。

 

 

「とりあえず礼を言っておこうか。ありがとう。いいデータが手に入れられたよ」

 

 

 礼という皮肉を送り、ヴィルムは両脚に力を込めて一気に跳ねる。

 

 

『バイオキリング……キラーストーム』

 

 

 その際、ベルトのグリップを回す。必殺の起動は忘れない。

 

 音声が発せられると共に両腕から蟲の翅を彷彿とさせるアームカッターが展開し、それが高速で振動。

 

 凄まじい風が両腕を覆い、それにギガのエネルギーが含まれることで気体でありながら、質量あるものを砕くガントレットと化す。

 

 

「ハアアアッッ!!」

 

 

 覇気を伴って叫ぶヴィルムは暴風の拳を前へ突き出す。当たれば彼女の身体はバラバラに散るだろう。

 

 

「!! ッ」

 

 

 その最悪の結末を防ぐ為、アレニスは糸を吐き出す。これだけなら両腕に纏わせた風の威力によって千切れ、何の意味も為さない。

 

 だが。吐き出された糸は、既に体内で幾重にも織られ、広範囲に厚い膜と化してヴィルムの前方……視界全てを覆い尽くした。

 

 

「なにぃ?」

 

 

 防御にでもする気か? 

 

 ふとそんな考えが浮かぶが、キラーストームを前に糸を何重に束ねようと、結局は無残に引き千切られるだけだ。

 

 しかし、それは別段関係ない。

 

 容易く切り裂かれようと目的は"防ぐことではない"のだから。

 

 切り裂かれる前に"両足を揃え、糸膜を蹴る"。それによって膜の戻ろうとする力が反発となってアレニスを飛ばした。

 

 バイオキリングの一撃をその身に受けることなく、回避することに成功。民家の屋根に着地した瞬間、手首から何百本という糸を束ねて始めた。

 

 一瞬の内に、という訳にはいかないようで最低でも2分半を要するその分、隙が出来てしまう。

 

 それを見逃すほど、ヴィルムは間抜けではない。

 

 

「何する気か知らないが、させねぇよ!!」

 

 

 既に糸の膜はズタズタにされ、パラパラと舞い落ちる繊維の雪だ。わざわざ宙にいる用はないヴィルムは、右脚を折り屈め、左脚を突き出す

 

 その姿勢は……蹴りだ。それも、高い宙からアレニスめがけ穿つ一撃。バイオキリングはまだ発動状態を維持しており、その風を今度は突き出した左足に纏わせ、もう片腕分の風は推進力として己の背後へと放出。

 

 その風速は28.5m。

 

 木々を根こそぎ薙ぎ倒し、民家などの小型の建物を大破させるに足る威力だ。

 

 そんな蹴りを人がすれば足が2度と使い物にならなくなるか、あるいは。足どころか命を失う羽目になるか。

 

 この二択以外にありえないだろう。だがヴィルム自体、人でなければ"既存の生物学の理に属さない生き物"だ。

 

 たかが20m以上もある高さと強力な風の推進力によって成り立つ蹴りを繰り出したところで、負荷ダメージを受けるなど、ありえない。

 

 ましてや……それが原因となって死に至ることもない。

 

 では、そんな蹴りを受ける側は? 

 

 間違いなくただでは済まない。場合によってはアマゾンであろうと、死へ送り出されるのは目に見えている。

 

 それが真っ向から来ているにも関わらず、あくまで彼女の心境は余裕に満ちていた。ヤケになったのではない。

 

 有効な策を見出したからこそ、なのだ。

 

 

「くたばれぇぇぇぇッッ!!!!」

 

 

 普段の彼女であれば、言わないであろうセリフを吐きながら、また糸を吐く。

 

 ここまで来ると呆れが来るものだ。但し、先程のと違うのはその糸が、よく見なければ分からない程度に薄い赤に染まっている、という点だ。

 

 ヴィルムはこれに気付かなかった。だからこそ、ヘマを犯してしまう。

 

 

 ドォォンッ!! 

 

 

 糸が……爆発した。

 

 あの赤い糸は起爆性の物質が込められていたのだ。薄っすらと僅かに赤かったのは、物質の持つ色素である。

 

 それに気付かなかったツケは、爆発に飲み込まれるという形で支払われてしまった。だが、これだけでは終わらない。

 

 手首から放出されていた糸は、きちんと形を為し得た。それは前にナオミに対して投げられた、あの"糸で構成されたナイフ"によく似ている。

 

 というより、全くの同一のだろう。

 

 しかしそれは外見だけの話だ。中身には、自爆機能を有するクモ型の自動マイクロ端末が数匹潜んでいる。

 

 ヴィスト・ネクロの幹部や自らの体内に寄生させている小蜘蛛を、更に縮小させたバージョンのものだ。

 

 自爆した際の威力は先程の赤い糸と比べて数倍あり、それこそ、Aランク相当のアマゾンの防御力を意に介さない程。

 

 そんな危険な糸のナイフをアレニスは炎と黒煙に包まれたヴィルムへ投擲。

 

 予測通り、起爆してくれた。

 

 黙々と空中に広がっていく黒煙。気配が感じられない様子からアレニスは仕留めたとばかりにほくそ笑む。

 

 二段構えの爆発。それもAランククラスの強さを持つアマゾンであっても、確実に死を与える威力の爆発なのだ。

 

 仮に生きていたとしても、相当なダメージで動けなくなる筈。そうであったら直々に止めを刺せばいい。

 

 

「フフ! ……これで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドシュッ。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、終わりだ。お前がな」

 

 

 鈍く、生々しい音が聴覚器官に届く。それと同時に急激に身体から力が抜けていき、思うように動かせない。

 

 両腕をダラリと下げ、立っているのがやっとだ。

 

 え? え? 何が起きたの? 

 

 疑問が思考の大半を支配して、まともに追いつかない。よくよく見れば自分の胸部中央から、何かが飛び出している。

 

 視覚にも異常が出ているのか霞みボヤけてはいるが、それでもソレが灰色の長い何かである事は分かる。

 

 だが、それだけでは意味がない。

 

 正確に見えなければ、この異常な状態を引き起こしている異常の根幹であるかもしれないソレを、理解する事はできない。

 

 なんとかギガを視覚器官に集中させていき、細胞を活性化させることで回復を図る。

 

 ソレが功を奏したのか。次第に視界の霞みが晴れていく。

 

 そして……彼女は自身の胸から出るソレが何なのかに気付く。

 

 腕だ。

 

 それも、たった今自分が消し去った筈の……敵であるヴィルムのもの

 

 そして。そのヴィルムの腕の先……手に掴んであるモノを、見てしまった。

 

 

「中枢臓器。コレをやられたらどうなるか。分かるよなァ?」

 

 

 ドクンと一定のリズムで脈動する肉塊。アマゾンの生命維持を司る心臓であると同時に脳でもある器官。

 

 コレが無ければ、アマゾンの生は確立できない。

 

 

 ぐしゃり。

 

 

 だが、ヴィルムはそれを理解しておきながら……いや。理解しているからこそ、何の躊躇もなく握り潰す。

 

 

「ア……ァァ……」

 

 

 意識が永遠の奈落へと落ちる寸前。俗に言う死の間際。その僅かな刻の中でようやく理解した。

 

 ヴィルムは、生きていた。

 

 あの爆発の中で、どれほどダメージを負ったのかは分からないが、少なくとも殆ど皆無の可能性が高い。

 

 もし、身体の部位を欠損するレベルのダメージならこうして気付かれることなく瞬時に胸を抉り、中枢臓器を取り出すなどできはしない。

 

 それが真実であるとすれば……ヴィルムは、アマゾンの域を超えた化物だったと、言わざる得ない。

 

 

「よっと」

 

「グフゥッ」

 

 

 聞きたくもない湿り気を帯びたような音と共に、ヴィルムの腕はアレニスの身体から引き抜かれた。

 

 フラフラと定まらない足取りだが、せめて自分の理解した答えが本当かどうかを確かめる為、残された力でなんとか両足を立たせて背後を振り返る。

 

 やはり、五体満足だった。

 

 それどころか目立ったような大きさの損傷も無ければ、小さな擦り傷一つさえない身体はそれを証明するように、うっすらと光沢さえ放っている。

 

 

「お、そうだ。死ぬ前にお前の魂……貰うぞ」

 

 

 そう言ってヴィルムは手を前へ翳す。するとアレニスの肉体から赤色の粒子が放出されていき、まるで吸い込まれるようにヴィルムの掌へと

収束されていく。

 

 掌に集まった粒子は球体状に形を成し、赤色の球となった。アレニスの魂と呼ぶべきエネルギーは物質的なモノではない為、実体はない。

 

 ただ光り輝くソレは、宝玉とも呼べる美しさがあり、見る者に対して言い知れぬ魅力を与えるだろう。

 

 だが、生憎。魂を美術品的な価値観に基づいた宝玉として集め、眺める嗜好も趣味もヴィルムにはない。

 

 あるのは、『己の原動力にして、"手足"に成り得るか否か』。

 

 重要なのは、そこしかない。

 

 

「ほほう。悪くないねぇ〜。んじゃ、いただくとするか」

 

 

 ヴィルムは魂を握り潰す。

 

 いや、正確に言えば握り潰すようにして、アレニスの魂を"吸収し喰らった"。

 

 そして。まるでそれに同調でもしたのか、アレニスの肉体が融解。

 

 "生物としての意味"で死を迎えることとなった。

 

 

「フェイス2は、スペック的に10%か。この調子でフェイス10に到達できれば……」

 

 

 そこまで言って、ヴィルムは屋根から飛び降りる。ゆっくりと歩み寄る先にいたのは、ヴィスト・ネクロとの戦いを一部始終、一切見逃さず

目撃していた13部隊だった。

 

 唐突に自分達へと向かって来るヴィルムにコドモたちは警戒し、ヒロは最悪差し違える覚悟で己のギガを出来る限り高め、ヴィルムを睨む。

 

 

「安心しろ。何もしやしない」

 

 

 ある程度まで近づいたヴィルムは歩みを止め、そう言う。

 

 

「大切な……愛おしい仲間だからな」

 

「!! ッ……ふざけるなッ! こんな事をして

 ……俺たちみんなを騙して……そんな言葉を吐くなァァッ!!」

 

 

 ヒロが声を張り上げて叫ぶ。

 

 十数年、一緒に寝食を共にして過ごし、叫竜ではないが……それでもアマゾン相手に共に戦い訓練して来た仲間だった。

 

 だが実際のところ、ナオミは人間でもアマゾンでもない謎の存在ヴィルムで、様々な生物に擬態することのできる能力を駆使して、ナオミという虚構のコドモを演じていたのだ。

 

 そして。ヴィスト・ネクロという組織の力を利用してアマゾネスト計画を実行し、コロニーを地獄へと変え、アマゾネストと化したハルの父親を殺した。

 

 それだけじゃない。

 

 アマゾネストと化した人々。

 

 アマゾネストに喰い殺された人々。

 

 アマゾネストを生み出す溶原性細胞に感染し、

 暴走したアマゾンたち。

 

 そのアマゾンに食い殺さた人々。

 

 そうなるべきではない、何の罪もない彼等を己の目的の為だけに犠牲にし、尚且つ、自らの価値基準でコロニーやAPEの人間を人ならざるヒトモドキと断じて駆逐しようとする悪辣さは、到底受け入れられるものではない。

 

 信じたくもなかった。仲間が敵で、ソレがどんなに酷く恐ろしい所業だろうと、平気で行える人物だったなどと。

 

 タチの悪い冗談よりも尚劣悪だ。

 

 アレニスの戦いを見て、ようやくヒロはヴィルムがどれほど危険な存在なのかを認識した。

 

 相手はヴィスト・ネクロの幹部だったが、もし相手がAランク相当のアマゾンではなく、何の力もないハル位の小さな子供だったら? 

 

 ヒトモドキ、と判断すれば迷わず殺すだろう。

 

 コロニーを潰すと言ったのだ。つまりコロニーの人間は彼女にとって人ならざる存在であり、駆逐すべき対象なのだ。

 

 子供だろうが、それこそ赤ん坊だとしても。

 

 ヒトモドキは殺す。殺し尽くす。

 

 容赦も、躊躇も、憐みも、慈悲も存在しない。

 

 だからこそ、ヒロは決断した。

 

 殺すと決めた対象を確実に殺しに掛かるだろう彼女を、止めなくてはいけない。

 

 これ以上、犠牲者を出さない為に。

 

 その為には……彼女を殺す以外にない。

 

 彼女に対する欺瞞への、そして悪辣な非道の数々に対する果てしない激怒。

 

 ソレが引き金になり、ヒロの身体から緑色のオーラが熱気となって迸り、彼の姿を変えた。

 

 

「グルル……ガアアアァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 素態アマゾン。

 

 ライダーではなく、獣人としてのアマゾンの姿をヒロは晒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







アマゾンズのライダー共通の『素態アマゾン』としての形態。

ヒロも当然ながらあります。今回でお披露目となりますが、果たしてどうなるか……。


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