ダーリン・イン・ザ・アマゾン   作:イビルジョーカー

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生きとし生けるものを喰らう凶獣の王 part4

 

 

 

 

 その姿は、禍々しい凶暴性を秘めていた。

 

 全体的にダークグリーンの色彩に染まり、赤い複眼は楕円形に両端が鋭くなっている。剣呑な光を放つ様は決して獲物を逃さないという意思を見せつけるようだった。

 

 黒のグローブ、ブーツ型の外殻は円錐状の細かな突起物が生え、その一つ一つが先端が尖ったものになっており、さながらスパイクだ。

 

 皮膚の表面も人工的な無機質さを感じさせるものではなく、グローブとブーツ同様に凹凸があるがスパイク状ではなく、爬虫類の鱗を覆われている。

 

 胸部のイエローラングもまた生物的なものへと変化しており、よく見れば薄らと血管が浮かび、それが生々しさを感じさせた。

 

 そして。極め付けはクラッシャー部位。

 

 アマゾンライダーにはなかった筈の口部があり、中からは薄桃色の歯茎と牙が覗いている。

 

 

「グルル……」

 

 

 短く唸る様はまさに獣だ。未だ攻撃する様子を見せないが、それでも身に纏う空気がその意思を明確に示していた。

 

 絶対に殺す、という仄暗い意思を。

 

 

「ヒ、ヒロ?」

 

 

 恐る恐るイチゴが声をかけるが、ヒロ……いや、始祖鳥の遺伝子を持つ『始祖鳥アマゾン』は何も答えない。

 

 瞬間。

 

 目視で追うことが不可能なレベルの異常な速度。その脚から生み出せるパワーは並外れていて、残像すらもない。

 

 何も知らない誰かが見れば、瞬間移動でもしたのかと思いたくなってしまう。

 

 

「ふぅ。危ない危ない」

 

 

 しかしその速さをヴィルムは視認できていた。

 

 繰り出された拳を掌で掴み、冷や汗でも流したとばかりに焦りを滲ませた台詞を吐くが、実際は何ていうことはない。

 

 見えさえすれば、対処など容易だ。

 

 

「そら、お返しだ!」

 

 

 掴み捕らえた拳を振り払い、左拳によるストレートを繰り出す。が、ソレを即座に腰を屈め前へ出す形で回避し、その体勢から二の腕の甲を

 向けて繰り出す。

 

 無論、ただ腕で叩いて終わりではない。

 

 グローブから縁取りが歪な形状をしている羽根型の刃、アームカッターを射出するように生やし、ヴィルムの左脇腹から右胸、肩に至る大きく深い傷を与えた。

 

 

「グゥッ……ハアアアァァァァッッッ!!」

 

 

 斬られた傷口から赤と青の粒子が溢れ出るが、それを気に素振りを見せずに今度は左脚で蹴りを放つ。

 

 

「グゥッ!」

 

 

 反応が一歩遅かった為、もろに左脇腹へとめり込ませてしまった始祖鳥アマゾンは苦悶の声を上げる。

 

 しかし、それもほんの一瞬。

 

 体内に残存しているギガを高め、アームカッターを肥大化。もう片方の手も同じように肥大化させたアームカッターを生やし、その首めがけて挟み込む。

 

 だが、ヴィルムの首にアームカッターの刃が通ることはなかった。

 

 ヴィルムが自身の両腕の甲で間一髪防いだからだ。

 

 

(な、なんて力だ……コイツは、もしかしたら……いや、フェイス2に匹敵するぞ?!)

 

 

 あまりの力に両腕が内部の芯にまで軋む感覚を味わいながら、ヴィルムはそんな感想を心中に零す。

 

 アマゾンヴィルムのフェイス2は、フェイス1よりも総スペックが倍上がっており、ヴィスト・ネクロの幹部であるザジスを再起不能状態に追い込む強さをまざまざと見せつけた程だ。

 

 そのフェイス1を容易く追い抜かしてしまう程、今のヒロはアマゾンとしてのスペックが大幅に向上していた。

 

 本来のアマゾンとしての形態になり、一気に解き放ったヒロの潜在能力がそうさせたとでも言うのか。

 

 仮にそうだとしてもフェイス1を超えるというのは、あまりに予想外だった。

 

 

(ハハッ……イイねぇ……けど、"あくまでヒロのまま"の方がオレ的には好みなんだがなァッ!)

 

 

 だが。

 

 ヴィルムの中に動揺はない。格下であろう相手に越されたという憤怒も一切ない。

 

 あるのは、"愉悦"と"惜しい"という二つの感情。

 

 愉悦は、自身に勝て得るかもしれないという可能性に対して。

 

 惜しいのは……これがヒロ本来の意思が介在しておらず、ただアマゾンの闘争本能に身体が支配されていることに対して。

 

 13部隊のコドモたち全員……いや、"部外者"を除いてヴィルムは彼等を『人間』と定義し、そして彼等一人一人が持つ『個の意思』に可能性を見出している。

 

 APEのオトナは人類の悲願とも言える不老不死を手に入れ、同時に自らと他を繋ぐ絆を捨てた。

 

 自らが在り続ければいいと。外界のあらゆる事象を無価値とし、VR装置によって精神を幻想の世界へと繋ぎ止めて、永遠の安寧の中に心を……

 ……魂を委ねて停滞する。

 

 ヴィルムにとってそれは、あまりに愚劣で唾棄すべき考えだ。

 

 そのまま停滞し、無駄に時間を浪することに何の意味があるのか。何も作らず、何も為さず、ただ在り続けるだけの生に一体どんな価値を見出せと言うのか。

 

 下らない。下らな過ぎて反吐が出る。

 

 だが、13部隊は……コドモたちは違う。

 

 他者を想い、寄り添い、支え合っている。

 

 互いを想うことで、触れ合うことで絆を生み強くなっている。

 

 コドモとなって観察していたからこそ分かる。

 

 彼等は、今のこの世界にとって『必要な鍵』なのだ。

 

 

「ガァァ、アアアアアアアアアァァァァッッッッッ!!!!!」

 

 

 理性や知的さを感じさせない猛獣にソレのような咆哮を上げ、始祖鳥アマゾンはアームカッターに更なる力を込める。

 

 ピシッ。

 

 僅かにヴィルムの腕の外殻に皹が入る。このまま行けば両腕は破壊され、その鋭利な刃がヴィルムの首を胴体から切り離すだろう。

 

 勿論ソレを許す道理は存在しない。

 

 

「そのらしくない吠え方、似合わねぇよヒロォォッッ!!!!」

 

 

 右脚で始祖鳥アマゾンの腹部に蹴りを入れ、そこから身体を浮かせながら、左脚を使い胸部を踏みつける。

 

 足裏には力が込められており、その込められた力を足を離すことで開放。それを利用して身を宙に投げるように翻し、すかさずベルトの左グリップを握り回す。

 

 

『バイオキリング……イーター・ナイフ』

 

 

 電子音声が鳴り、引き抜かれた左グリップは赤の粒子を放出させながら何かを形作っていく。

 

 完成したソレは、ナイフだった。

 

 刀身は根本が細く、中間が太みで先端が尖っている形状をしたもので、その長さは18cm程度。

 

 刃の部位には青色の縁取りが施されており、刀身自体の色合いは青とは相反する赤。

 

 しかしこのナイフにおいて形状など問題ではない。

 

 問題なのは……その"特性"だ。

 

 ヴィルムによって下から振り上げられたナイフは、丁度よく始祖鳥アマゾンの腹部を通り過ぎると同時にその先端が表面を切り裂く。

 

 黒い血が少しばかり飛び出すが、傷自体は浅い。容易く再生し傷を無くした始祖鳥アマゾンは唸りを上げ牙を見せつける。

 

 単に威嚇か。それともすぐ再生したとは言え、痛みによって怒りが誘発されているのか。

 

 どちらかは分からない。が、とにかく殺気立たせ明確に殺しにかかって来ることだけは分かる。自身に害を成す者に対し獣というのは、とても攻撃的になるものだ。

 

 人間もそうだが、動物はより排斥的に拒絶の意を示す。

 

 そんな動物的思考しか有さない始祖鳥アマゾンは、ヴィルムが地面に着地したのと同タイミングで襲い掛かる。

 

 速さは申し分ない。両者の距離がゼロに至るまでに必要な時間は1秒にさえ満たない。両肩を左右の手で、強い力を込めて押さえつける。

 

 生半可ではない力で、それも自分と同格の筋力だ。簡単には抜け出せないし、足で蹴りを入れようにも腰から生えた一本の太い尾が両脚に絡み付いて妨害して来る。

 

 

「ぐっ……離れろォォッ!!」

 

「グルル……」

 

 

 言葉を返さず、代わりに喉を鳴らしながら吐息を零す。そしてその態勢を維持しつつ始祖鳥アマゾンは口を大きく開け、ねっとりとした唾液が滴る牙をヴィルムの首筋へと突き立てようとする。

 

 喰らい付き、牙を身体の内部へと抉り込ませ、そのまま喰い千切る気だ。

 

 

「?! ッ……ギッ……!!」

 

 

 あともう少し。始祖鳥アマゾンの口部が届いてさえすれば、ヴィルムの首筋は柔い果実のように抉られていただろう。

 

 だが、それは叶わない。

 

 何の脈絡もなく突如として、激しく。

 

 大きな痙攣で全身を震わせ、強張らせる始祖鳥アマゾンは身体が思い通りに動かず、しかも手足や尾の力が急速に脱していく異常な現象に頭の中が混乱するばかりで、明確な答えも、その解決策も見出せない。

 

 

「ふふ。やっと効いたか」

 

 

 左右肩を掴んでいた両腕を、自分の両手で掴んで軽く投げるように払ったヴィルムは、微笑の声を漏らす。

 

 

「なに。ネタは至って単純。このイーター・ナイフに麻痺する程度の毒を仕込んだ……ただ、それだけの話さ」

 

 

 ヴィルムは身動きを封じられた際に落ちた専用の赤い接近戦武装、『イーターナイフ』を拾うとそれをクルクルとピエロのジャグリングの如く回しながら宙に投げ、自然に落下してくればすぐに掴み、また投げて回す。

 

 とうの始祖鳥アマゾンはもはや立つことさえできず、糸の切れてしまった操り人形の如く自分の力ではどうにもできない状態となってしまった。

 

 それでもどうにか頭だけは動く。近いて来れば、その足に喰らい付いて捥ぎ取ってやる。明確な意思を持たない筈の始祖鳥アマゾンは、そう言わんばかりの視線に殺意を込めて睨む。

 

 

 

「と言ってもコイツの真価は"毒じゃない"」

 

 

 毒はあくまで、機能の一つに過ぎない。そう弁舌しながらヴィルムは、ナイフをくるりと反転させる。

 

 逆さまの状態にし、そのまま落とす……その下にあるのは、始祖鳥アマゾンの腕だ。

 

 垂直に逸れることなく落ちたナイフは当然の理とばかりに手首に近い位置を刺し貫く。

 

 

「ガァァッ!!」

 

 

 痛みに悶えるような声を出すが、よくよく見れば刺された部位から血があまり出ない。

 

 刃物が刺されば、血が出る。

 

 舌足らずで物心も上手くついてないような、そんな幼い子供でも解る理屈だ。

 

 だが、その理屈がなんだと言わんばかりに血が出ていない。全くという訳ではないが、それでも微々たる程度に過ぎない。

 

 

「"EATER(喰らう者)"なだけにソイツは斬って毒をやるだけじゃなく、文字通り"喰う"のさ。生物の血肉を…と言っても今回は血液だ。頭がフラッとなる位抜けば、毒もあってすぐには立てないだろ?」

 

 

 そう言ってヴィルムはナイフの柄の部位を掴むと、一気に引き抜く。

 

 

 グチュ、ジャッ。

 

 

 引き抜く際に奏でる音は瑞々しいが、それがアマゾンの血肉によるものであれば、おぞましいことこの上ない。

 

 しかしヴィルムは気にする様子を見せず、地面へ吸い込まれる水のように、始祖鳥アマゾンの黒い血液をナイフの刀身が一滴さえも残さず吸収する様を見ながら、ふいに横へと手を翳す。

 

 風を切る音と共にヴィルムの首めがけて放たれた右足の蹴り。それを、大して力を込めていない軽く飛んで来たボールを取るような造作ない

 動きで掴んでは、不機嫌そうに声を濁らせる。

 

 

「んだよ。化け物」

 

「お前が気に入らないんだよ。化け物」

 

 

 蹴りを繰り出した相手……ゼロツーは、鋭い視線でヴィルムを睨む。

 

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、どーなってんだよコレ……」

 

 

 右を見ればアマゾン。左を向けばアマゾン。

 

 そこかしこに右往左往と跋扈するアマゾンたちは共通して理性というものを一欠片さえも持ってはおらず、ただ単に人肉を貪る獣と化していた。

 

 そんな光景をビルの屋上から眺める鷹山は、その惨状に胸糞悪さを覚えながら、冷静に分析していた。

 

 

「ひ、ひどい……どうしてこんな事に……」

 

 

 その隣では、ナナも同じように凄惨な血に塗れた光景に対し、疑問と嫌悪感を織り交ぜて呟いていた。

 

 二人がここにいるのは、鷹山がヒロの秘密をナナに伝えてからほんの数秒後の出来事が原因だった。

 

 突如として感じた強いギガの波長。

 

 しかも、それが数Kmという距離があるにも関わらず、感じ取れるなど常識的に考えればあり得る話ではない。

 

 気配は別として、ギガ単体のエネルギーによる波長というのは、その個体の強弱に関係なく元から微弱なもの。

 

 人間基準の目測で確認できる距離……せいぜい、ほんの数m程度まででないと、相手のギガの波長を知覚することはできない。

 

 しかもこれはAランクやSランクなどの高位のアマゾンであったらの話で、並かそれ以下の中低ランクのアマゾンでは、それ自体を察知することは叶わない。

 

 だが鷹山が感じたギガのエネルギーは、1個体のアマゾンが保有するギガを遥かに超えている。

 

 体温に例えるなら、一人の人間が持つ体温は平均で36℃前後だが、それを超えて、一千℃に跳ね上がったようなものだ。

 

 その為、最初こそ鷹山はそれが何らかの事故でギガのエネルギーが暴走してしまったものと考えた。

 

 ギガはアマゾンという種が保有するエネルギーだが、アマゾンが死んだとしてもエネルギー自体は消えない。

 

 残留し、近くに鉱物などがあれば、その中へと吸収されて蓄積するか

。あるいはエネルギーが空気中の分子と結合することで結晶化する。

 

 対アマゾン用の武装・兵器に使われるギガは、そうした自然界で死亡した野生のアマゾンから成る結晶や鉱物を採取する形で得ているという訳だ。

 

 その為、このコロニー内にはギガを専門的に研究して運用する為の機関がいくつか点在しており、そこの一つが何らかミスでエネルギーの暴走事故を起こしてしまったのだと。

 

 そう結論しかけたのだ。

 

 だが、ほんの一瞬にしてこの考えは違うと断じた。

 

 確かに、それは"アマゾン"だった。

 

 ギガの波長と重なるようにして感じ取れた"一個体のアマゾンが放つ気配"。

 

 方向はギガの波長とほぼ一緒の場所から。これが何を意味するのか、それが分からない鷹山ではない。

 

 すぐさま確認しに行きたいが、ナナがいることと周囲がやけに騒がしいことを懸念してナナを連れて外へと出た鷹山は彼女が四の五の言う前にその身を抱えて一気に跳躍。

 

 まるで重力や自身とナナの体重など関係ないとばかりに壁を蹴りつけて跳んでいく様は、重力を調整する力でもあるのかと疑りたくなるが、勿論そんなものはない。

 

 そもそもアマゾンの持つ能力自体が保有する遺伝子元の生物由来である為、重力を操作できる生物の遺伝子がない限りまず不可能と言っていい。

 

 ともあれ、危険が潜んでいるかもしれないビルの中に入って行くのが面倒とは言え、そんな風な有り得ない方法でこのビルへと訪れたという訳だ。

 

 ちなみにナナ個人の感想として、冗談抜きでかなり怖かったらしいが。

 

 本来であれば文句をマシンガンのように連発させているところだが、この血に濡れた惨状を目の当たりにしては、さすがのナナも言う気が失せてしまったようだ。

 

 

「じ、刃。どうする?」

 

「……そりゃーまぁ、ここで篭城するしかないわな」

 

 

 予想外な言葉にナナは思わず「へ?」と間抜けな声を漏らす。

 

 

「ナナさん置いて行く訳にはいかんでしょ。連れて行くにしてもリスクが多いし、こんな地獄の窯の底でも見てるような状況の中で守り切れるなんて無責任なこと言わないよ」

 

 

 鷹山単身で行けば、別にどうと言う事はない。

 

 しかし今この場には自分だけでなくナナがおり、街を見渡せばそこら中に人喰いアマゾンの群れで溢れ返っている。

 

 そんな中にナナを置いて行くことなど、できる筈がない。

 

 ナナを連れて行くにしても安全に守ってやれる保証など何処にもない。

 

 今、ベルトは手元に無いのだ。

 

 変身すれば話は別になるが……今は4Cの本部に預けてある。どうしようもない。

 

 

「お困りですの〜?」

 

「ヒィッ!」

 

「ん? おー青井か。久しぶり」

 

 

 突然背後から聞こえた声にナナは悲鳴を上げる。バッと勢いよく振り返って見れば、カツオノエボシアマゾンの姿になっている青井雉咲がおり、その両手にはつい先程『無力化する為に』引き千切ったアマゾンの腕と片足が握られていた。

 

 

「お久しぶりですね〜。えぇ〜っとそちらは……APE関係者の方でよろしいかしら?」

 

「あ、あなた一体……」

 

「大丈夫だってナナさん。コイツは4Cの精鋭部隊の隊長さんだよ」

 

「自己紹介が遅れてすみません。私、青井雉咲と申します。何卒よろしくお願いしますね〜」

 

「……え、ええ。こちら、こそ」

 

 

 鷹山からたった今説明を受けたとは言え、早々気が許せる訳がない。

 

 アマゾンの姿であることは、まぁいい。まだ許容の範囲内だ。

 

 しかし両手にはアマゾンの片腕片足があり、断面からポタポタと血の滴が滴り落ちている様は、その人物に対する印象を最悪な方向へ決定付けるのには十分過ぎだ。

 

 側から見て、ほんの数秒見た程度でも警戒心が一気に跳ね上がり、恐怖が溢れ出てしまったとしたら、それを責める事はできやしないだろう

 

 そんな警戒と恐怖の二つの感情が顔に出ていたのか。青井は人間の姿へと戻り、和かな笑顔をナナに向ける。

 

 

「大丈夫ですよ〜。アマゾンでも取って食べるなんてことしませんって」

 

「なぁ、とりあえず状況を教えてくれないか? 

 なんでこーなってんだ?」

 

 

 鷹山はあくまでアマゾンが暴走しているという事しか把握できていない。なので、かの地獄のような光景に至った『原因』、あるいは『過程

』知らなければならない。

 

 それを青井に聞いてみたが、望む答えは得られなかった。

 

 

「はい〜。それがこちらでも把握できてないんですよ。Cランク以下のアマゾンが突然凶暴になって暴走しまくって、4Cは総動員でこの事態の収束に全力なんです」

 

「そっちはそっちで大変で、尚且つ原因の究明はまだか……まぁ、仕方ないな」

 

「そうなんですよ〜! おまけに人間だった筈の一般人がアマゾン化して、もう何が何だか…………」

 

「ちょい待て。今、何つった?」

 

 

 青井の口から出た聞き逃せない言葉。鷹山は再度それを言うように問い詰める。

 

 

「だから〜、一般人がアマゾン化したんですって!! 信じられないかもしれませんけど事実なんですよ!」

 

「……一般人のアマゾンってのは、どんな姿してたんだ?」

 

 

 やけに低い声で、鷹山は問う。

 

 

「黒〜いアマゾンです。鷹山さんのアマゾンの姿にそっくりな感じでしたよ」

 

 

 それを聞いた鷹山の脳内にある言葉が浮かんだ。

 

 『溶原性アマゾン細胞』。

 

 人に感染する能力を持ったアマゾン細胞。

 

 もし、それを生物兵器として利用するとして、どういう方法で使えば効果的か。

 

 空気感染以外に考えられない。風が吹いていれば、それに乗って広範囲に散布できる。突発的に発生し、短時間で被害がここまで拡大して行ったのにも説明がつく。

 

 仮に水道や飲料水に細胞を混入させた経口感染によるものなら、水道管理を担う施設又は飲料を生産している工場施設を抑える必要があるが、コロニー内のそういった施設は4Cによる警備体制が敷かれており、これを上手くスルーし、内部に入り込めたとしても細密な検査システムがある為、それすらスルーさせて巧く混入させなければならない。

 

 不可能ではないにしろ、非常に手間と時間が掛かるのは目に見えている

 。

 

 それなら一般企業や研究団体などと偽り、空調設備を利用することでコロニー内部に散布した方が断然効率的に良い。

 

 空調設備自体、ビルや施設など、大きな建造物にとっては無くてはならない程に必要不可欠なものだ。

 

 従って。それがあるのは当然のことなので誰の目に止まることはなく、余程のヘマを犯さなければ、疑惑を向けられるリスクもない。

 

 そこまで考え至った鷹山は溜息を零し、片手で両眼を覆う。

 

 

「……なるほど。合点がいったよ」

 

 

 以前、門矢士が言っていたアマゾネストの運用実験。話では2匹のアマゾネスト以外にまだ量産されていないという話だったが、よくよく考えればおかしな話だ。

 

 大衆の目も気にせず、堂々と最初に現れた個体や、看護婦に成りすましてヒロを殺そうとした個体。

 

 彼等は、何故わざわざ目立つような行動をしたのか。

 

 アマゾネストの特性は感染を用いた増殖。運用実験であるのなら、そのデータの採取は必要不可欠な筈だ。

 

 そうなれば後は簡単だ。知られず、密かに人を襲って行けばいい。

 

 2体と言っても人を襲えば感染し、アマゾネストとなる。そのアマゾネスト化した人間が感染していない正常な人々を襲っていく。鼠算的にあっという間に増えていき、パンデミックを引き起こすのは素人でも分かることだ。

 

 もしそうなら、それをしなかった理由とは? 

 

 おそらく"隠れ蓑"だろう。

 

 そうでなければ説明が付かない。

 

 

「ん〜? 何か分かりましたか?」

 

「いや、何でもない。他に関係することは? なんでもいい」

 

「実は〜、ほんの数時間前に4Cの精鋭部隊を総動員してヴィスト・ネクロのアジトらしきビルを制圧したんですけど〜、どうにも変なんですよね。妙に低ランクのアマゾンしかいなかったり、セキュリティも甘くて、まぁ中々手強い例の黒いアマゾン2匹いたんですけど」

 

「え、そんなんあったの? 俺聞いてないけど」

 

 

 告げられた事実に普通に驚く鷹山だが、現にそんな作戦があるなどと言う報告は聞き及んでいない。APEへ派遣されたといってもあくまで所属は変わっておらず、4C所属であることは間違いない。

 

 元とは言え、レッド・バロン部隊の隊長だったことも加味すれば連絡が来る筈なのだが。

 

 

「あ〜、それでしたら局長の判断ですよ。なんでも今回の作戦は向こう側に感づかれないようにしたいらしくて、厳重な緘口令と情報統制をしたんですよ〜。鷹山さんに報告しなかったのはその一環ですね〜」

 

 

 然程時間をかけることなく、その疑問はすぐに解消された。

 

 

「それにネロ局長のことですから〜、息抜きしてて的な配慮もあったと思いますわ」

 

「息抜きねぇ……仮にそうだとしても、こんな有様じゃあな……」

 

 

 この地獄の渦中で、何処か呑気に会話を交わす鷹山と青井。本当にそこに緊張感といったものや張り詰めた空気は一切ない。

 

 側から見れば『何を悠長に』と批判的な言葉が飛んで来そうな光景だが、逆に二人に言わせればそんなものを出したところで、状況は好転などしない。

 

 だからこそ、冷静に考えてどうするか。

 

 余裕を持って頭の中で様々な選択肢を挙げていき、イメージでシュミレートし、自分なりに最良の手を導き出す。

 

 

「なあ、青井」

 

「なんですか〜?」

 

 

 鷹山は、今まさにそれをしており、ある一つの決断を選択した。

 

 

 

 

 

 

 

 







 ヒロの暴走素態フォームは然程強くないように見えますが、ヴィルムがフェイス1のままだった場合、やられていた可能性が高いんです実は



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