ダーリン・イン・ザ・アマゾン   作:イビルジョーカー

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今回はちょっと長めです。







狂宴は終わり、新たなる胎動の始まり

 

 

 

 

 

 

 

 ヴィルムとゼロツー。両者は互いに睨み合うが、ゼロツーはさっと左手で泥を握り締めると、それを投げつける。

 

 当たったのはヴィルムの複眼だ。

 

 無論ダメージも何もない。これなら手榴弾でも投げつけた方がまだマシというものだろう。

 

 仮にしたとしても、強固な頭部外殻にダメージを与えるなど不可能だが。

 

 しかし、それが分からないという訳ではない。

 

 あくまでゼロツーの狙いは、右足の拘束から逃れることに過ぎないのだから。

 

 その突飛な行動が予測していなかったヴィルムは、ほんの一瞬ばかり、右足を掴んでいた手の力を弱めてしまう。

 

 これが狙い目だった。

 

 それを見逃さず、ゼロツーはヴィルムの手から逃れるとバックして距離を取り、予め渡されたヒロのアームカッターの刃を構える。

 

 

「あーあー、全く。人の顔面に泥なんか投げるもんじゃないぞ」

 

 

 片手で顔にべったりとついた泥を拭い去る。声は変わらないながらも何処か棘があり、苛立ちを滲ませているのが見て取れた。

 

 

「ダーリンにこれ以上手を出すな」

 

「牽制のつもりか? 別に殺しはしない」

 

 

 信じられるか。そんな気持ちを乗せた視線と険しい表情でゼロツーは

、ヴィルムを睨み付ける。

 

 そんなゼロツーの様子にヴィルムは、やれやれ……と。呆れるように

頭を左右に振る。

 

 

「言っただろ。ヒロやみんなは……13部隊は、オレの大事な仲間なんだ。お前を除いてな」

 

「……よく言うよ。騙してたくせに」

 

 

 仲間と言いつつ、結局のところ騙していた事実は消えない。ナオミという凡庸なコドモの顔を作り、平然と紛れ込み、欺いていた。

 

 そしてコロニーの人々を大勢巻き込んだ上でのアマゾネストの増殖・運用実験。

 

 看過できる筈がない。弁解の余地など何の意味も持たない鬼畜の所業を行ったヴィルムに対してのゼロツーの怒りは尤もだろう。

 

 

「騙してたのはお前もだろ? お前はこれまで何人のステイメンを喰って来た?」

 

 

 だが、その怒りを。ヴィルムは埒外だと吐き捨てる。

 

 

「パパどもに言われて、お前の為に命を捧げて散っていったステイメンのことを忘れた、だなんて言うつもりはないよなァ?」

 

「……」

 

「お前もご同類だろ。ヒトモドキの命を踏み潰し喰らうオレと、自分の目的の為にステイメンの命を喰うお前。これに何の差がある? ないだろ」

 

「!!ッ だまれッ!」

 

 

 ヴィルムの嘲笑を交えた言葉に苛立ち混じりに叫ぶと、地面を蹴りつけ、ゼロツーはアームカッターを対象の首めがけ横一閃に振り払う。

 

 

「ハハッ、怒るのはいいが遅いんだよ」

 

 

 常人なら餌食になっていただろう。それだけにゼロツーの動作速度は早く並大抵のものではない。だが、それはヴィルムという存在も同じだ

 

 その動きを正確に捉え、簡単にゼロツーを上回る速さで背後に回り込み、その背中にエネルギーをぶつけた。

 

 

「がはぁッ!」

 

 

 鈍い痛みと高い熱が同時にゼロツーを襲う。

 

 耐えられず吹っ飛ばされた彼女の身体は少しの間だけ、数秒間と宙を舞い、そして重力に従い地面に落ちる。

 

 

「遊びすぎたな。んじゃ、そろそろ退散するか」

 

 

 暴走したヒロを無力化し、いきなり襲ってきたゼロツーは予想外だったものの、大した障害には成り得ず、簡単にいなすことができた。

 

 特にこれ以上留まる理由はない。

 

 

「見ィィィィィィツゥゥゥゥゥゥ、ゲェェェェェダァァァァァァァッッッッッッ!!!!!」

 

 

 もっとも、"理由があれば留まる"とも言えるが。

 

 

「ハァ、ハァ、ハハッ! ハハハハハッッッッッ!!!!!! 殺す!

許されない罪を今、ここで、お前の命で精算してもらおうかァァ」

 

 

 突然狂気的な嗤い声で現れたのは、1匹のカマキリのアマゾン。

 

 その姿もさることながら、ゼロツーへの怨毒を吐き散らかす様を見れば、それが同型の別個体ではなく、間違いなくプレディカがアマゾンとなった個体だと断言できる。

 

 

「はぁぁぁぁ……面倒ごと増やすなって」

 

 

 やれやれ、と。呆れと鬱陶しさを交えた様子でヴィルムは頭を左右に振り、溜息を盛大には吐き出す。

 

 クラッシャー部位がない為、どうやって息を吐き出しているのかは不明だが。

 

 

「ヴィルムゥゥッ!! 邪魔する気かアァ?」

 

「んなことしないさ。ゼロツーを殺す機会を与えてやるってのがお前との約束だからな」

 

「ならッ!」

 

「好きにしろ」

 

 

 にべもなく即答する。

 

 それに対しプレディカは狂気染みた笑いを零し、ゆっくりと。且つ、足を少し急がせながらゼロツーの下まで行くとその桃色の髪を掴みグイッと持ち上げる。

 

 

「ぐぅッ……は、離せ……アァッ!!」

 

「ひひ、はははは!! この時を待ってたんだ!! 楽には殺さない。じっくりと切り刻んで臓物を食べて、それからそれから……」

 

 

 狂ったように笑い、あーだこーだ、と。ゼロツーをどうするか意味もなく口にしていく様は、ヴィルムからすれば滑稽のソレだ。

 

 さっさと殺せばいいのに。そう思うもヴィルムは敢えてそれを口にはせず、ただ事の成り行きを見守っている。

 

 ヒュッ! 

 

 すると突然、何かが飛来しプレディカの前頭部に直撃する。

 

 

「いでぇッ!」

 

「ゼロツーから離れろ!!」

 

 

 正体はイチゴが投げたヒロのアームカッターのようだ。勢いよく啖呵を切るイチゴだが、正直それは無謀もいいところだ。

 

 ろくな武装がなく、ヒロのアームカッターという接近戦用の武器以外に何もない状況下で投擲は武器を捨てるのも同義だ。

 

 

「邪魔するなァァッ!!」

 

「よせイチゴ! 今の俺たちじゃ無理だ!」

 

 

 激昂するプレディカ。突然投げつけられたというのもあるが、ゼロツーを切り刻むという念願の目的を邪魔されたのだ。

 

 ゴローがイチゴを制止するが、もう遅い。

 

 既にイチゴへと怒りの矛先は向けられてしまったのだから。

 

 しかし。

 

 

「おいおい待てって。13部隊に気にかけるなよ」

 

 

 それをヴィルムが許す道理はない。13部隊に背を向け、プレディカの行手を遮る。

 

 その行動が癪に障り、プレディカは声を荒げ捲し立てる。

 

 

「どけェェッ! アイツらをズタズタにしてやるゥゥゥッ!!」

 

「お前の目的はゼロツーを殺す事。なのに他のことに目を向けてどうすんだよ、えぇ? ちと頭冷やせって」

 

「……ヴィルム。確かにお前の言う通りだがな、こいつらは二回も!!

002の抹殺を妨害した。復讐の邪魔になるものは早々に叩き潰して消すべきだ。実に合理的だろ」

 

「確かにな。だが、コイツらを消すのは認められない。お前がそうであるように、オレには、オレの目的がある。13部隊はそのファクターなんだ」

 

 

 ゼロ距離で睨み合い、互いの意見をぶつける。

 

 とは言え、ヴィルムの意見が理に適っているのは確か。渋々ながらプレディカは折れてやることにした。

 

 

「チッ! ここでやっても負けるのは分かってる。それにお前のおかげで今の僕があるからな。従ってやるさ」

 

「フフ……お利口さんは好きだぜ。まぁ機会は潰されたがな」

 

「は? どういう……! ッ」

 

 

 

 意味深な言葉にプレディカは訝しぶ。

 

 そしてすぐにアマゾンとしての聴覚のおかげで、素早くソレに気付いた。

 

 連続するように地面を鳴らす勢いのある足音。息を吸ったり吐いたりする呼吸音。この二つの音を、プレディカの聴覚器官が捉えたのだ。

 

 何者かが大勢でこちらへ向かって来る。

 

 考えられるのは……一つしかない。

 

 

「動くな!」

 

 

 対アマゾン武装であるリザスターガンを構え、あらゆる行動の一切を認めない怒号を放つのは、一人の4C隊員。

 

 そして彼と同じように銃口を向ける隊員達の数は、39名。

 

 主に一般部隊だが、中には精鋭部隊であるクロウのとレッドバロンの隊員が十数名おり、隊長である黒崎と赤松ことバッファローアマゾンもいた。

 

 加えて、もう一人のアマゾンライダーも。

 

 

「よぉ。なんかヤバいことになってんじゃねぇか」

 

 

 4Cに預けていた筈のベルトを腰に装着し、飄々とした声ながらも、鋭い視線を向ける鷹山の姿があった。

 

 

「刃さん!!」

 

「おう。大丈夫かお前ら」

 

 

 イチゴが名を呼び、それに鷹山は安否を確かめる為に声をかける。

 

 

「あ、あたしたちは大丈夫! でもヒロとゼロツーが……」

 

「刃さん!! アイツ……ナオミは敵だったんだ!! ずっと俺たちを騙してたんだ!!」

 

 

 状況を報告しようとするイチゴだが、それよりも先にゾロメがヴィルムに向けて指をさし敵だと捲し立てる。

 

 普通なら何を言ってるんだと理解できない所だが、今の鷹山には"ナオミに奪われた記憶"が戻っている。

 

 ゾロメの言葉を正確に理解し、察するには十分過ぎた。

 

 

「言いたいことは分かる。とりあえず今は下がってろ……アマゾン」

 

 

 鷹山はアルファへと変身する。そしてゆっくりと、一切の油断なく確実にヴィルムとプレディカに近づいていく。

 

 

「"あの時"は人の頭ん中弄ってくれてどーも。ナオミ……って、言えばいいか?」

 

「今はヴィルムで。はぁぁ全く。グズグズしてるから面倒が面倒を呼ぶ

 

「僕のせいだと言うつもりか?!」

 

「そうだろ。御託言ってないで殺ればいいものを……」

 

「できれば口も閉じてた方がいいぞ」

 

 

 下らない言い争いを展開しそうだった二人の間に、アルファが冷淡ながらも少しばかり声を張り上げ、釘を刺す。

 

 既にギガをアームカッターへ集中しており、その気になればいつでも収束させたギガを斬撃として放てる。

 

 

「お前らは包囲されてる。逃げられねぇんだよ。大人しく捕まるか、蜂の巣になるか……あるいは俺に切り刻まれるか。好きな方選べ」

 

 

 アルファに続いてドスを利かせて警告する黒崎だが、それをヴィルムは嘲笑う。この状況が自身にとって意味など為さないと、そう言わんばかりに。

 

 

「ハハッ! "逃げられない"?」

 

 

 鸚鵡返しに言葉を吐く。そして次の瞬間、周囲を吹き飛ばしかねないほどに強く、荒々しい紫のエネルギーがヴィルムから解き放たれる。

 

 

《逃げられるさッ! チャオ〜ッ!!》

 

 

 エコー掛かったヴィルムの声が周囲に響き渡る。エネルギーの暴風が収まるとそこにプレディカとヴィルムの姿はない。

 

 去り際の言葉通り、逃げ果せてしまったようだ。

 

 

「……クソッ!」

 

 

 その事実が忌々しく、黒崎は苦虫を噛み潰した表情で吐き捨て、ついでとばかりに舌打ちを鳴らす。

 

 そうでもしないと、心中に湧き起こる激情を抑えられないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 実の所を言えば、4Cがあの場に駆け付けて来たのは偶然ではなく、鷹山によるものだった。

 

 青井に再会した鷹山が彼女に頼んだことは三つ。

 

 一つ目は自身が感知した膨大なギガが放出された位置の座標情報を通信で4C、特にクロウやレッド・バロンといった精鋭部隊に報せる。

 

 二つ目は、4Cの研究部門に預けていたベルトを自身の下に届けてもらうこと。

 

 最後の三つ目は、ナナを保護してもらい、その安全を確保すること。

 

 ナナに関しては青井に預けていた(とは言え、かなり渋ってはいたが)為に問題なかったが、ベルトに関して言えば状況が状況である為、不可能だと思われていたのだが、鷹山の部下だった研究員が遠隔操作でドローンを操作。

 

 それなりに技術を要したが、研究員の卓越した操作技量でベルトの運送に成功。無事鷹山の下に届けることができたわけである。

 

 だが結果として、あの膨大なギガを放っていた持ち主は……ヴィルムは逃げ果せた。

 

 本人がその気になれば、周囲の全員を一人も残さず、殲滅することは可能だっただろう。

 

 それをしなかったのは、殲滅したとしても手間が掛かり下手を打てば自身がダメージを負いかねないと判断した為だろう。

 

 もし隊員だけなら、ヴィルムは4Cの一般又は精鋭部隊を造作なく全滅させていただろう。

 

 だが鷹山と精鋭部隊の二隊長が相手では、仮に勝てたとしても、そのダメージは計り知れない。

 

 だからこそ、逃亡という選択肢を取った。

 

 

 

「……ハ、ハハ……あーあ。やってくれたもんだよ」

 

 

 自身の特殊なエネルギーを利用した目眩しと転移能力。この二つを利用することで逃亡に成功したヴィルムだが、転移した先に到着した途端

、両腕が切断され

 

 しかも、更に胸部に横一線の深い傷まで生じている。

 

 しかし血液の類が出ることはなく、赤と青、紫の粒子が絶え間なく漏れ出ては消えていく。

 

 

「あの状況下で咄嗟に狙って胸と両腕を切るとか……はぁぁ。鷹山さんは無茶苦茶な人だねぇ〜色々」

 

 

 アマゾンヴィルムからナオミの姿へ戻りつつ、自身の怪我の具合など如何とでもないかのように呑気に言う様は、言い知れぬ不気味さを醸し出している。

 

 

「痛ッつつ……おい! もっと丁寧に運べなかったのかッ!!」

 

 

 どうにも転移の際、身体が受け身を取れず吹っ飛ばされる形で壁に顔から激突してしまったらしく、特に鼻を強く打ったせいで鼻血が流れているプレディカは、人間の姿に戻った状態でナオミに非難の声を向けた

 

 

「別にいいでしょ。どーせすぐ治るし」

 

 

 が、とうの本人は何処いく風だ。

 

 

「そーいう問題じゃない!!」

 

「まぁまぁ。とにかく目的が達成されて良しとしようよ。と言っても私の目的が、だけどね」

 

 

 いけしゃあしゃあと語る様に顔中血管まみれに浮き出そうな程の怒りが込み上げ来るが、相手が相手であることをきちんと理解している為、

彼女に対し手を出そうなどと言う気はない。

 

 なんとか、怒りを抑えて、プレディカは周囲を見渡す。

 

 

「で、ここは何処なんだ?」

 

 

 ただ分かるのは、そこが天井と左右の壁が白い金属的な素材で構成され、床も同じようだが色は黒く、左右にオレンジ色のライトが点々と設置されている。

 

 見た限り、おそらくはAPE関連の施設だろう。

 

 かつていたプランテーションで見た雰囲気によく似ていた為、そんな安易な予想が頭の中に構築された。

 

 何かしらの用があるのか? 

 

 ふと、プレディカの思考から、そんな考えが浮ぶ。

 

 ここがAPE関連の施設だと仮定して、大掛かりな計画の達成後にわざわざ立ち寄ったのであれば、それはナオミにとって重大な事柄なのだろう。

 

 そうでなければここへ来る理由も意義もないのは明白だ。

 

 そんなプレディカの予想をある意味大きく裏切るように告げられた答えは、酷く驚くものだった。

 

 

「ここは空中要塞コスモス。七賢人どもの根城だった場所さ」

 

 

 APE関連の施設。それ自体は当たっていたがまさか、一般的なものではなく重要施設……それもAPEの指導者たる七賢人たちの拠点だとは思いも寄らなかった。

 

 しかし、そうなるとまた疑問が生じる。

 

 何故、よりによって裏切った組織のトップの下へ? 

 

 勿論、これには理由がある。

 

 

「言ったでしょ? "根城だった"って。ここはもう老害どもの居場所じゃない」

 

 

 自身の状態など気にせず、スタスタと歩み始めるナオミは振り返り、『ついて来て』とアイコンタクトを送る。

 

 プレディカの中で思う所はあれど、ここで立っていても仕方ない為ナオミの後を追っていく。

 

 しばらく無言が続いたが、それもたった1分弱程度。

 

 どうやら目的の場所に着いたらしく、ある一つのドアの前に立つと、センサーがナオミの存在を感知し、自動で開かれる。

 

 先にナオミが入り、その後にプレディカが入っていく。

 

 入室した途端、プレディカはその光景に驚愕した。

 

 血。血。血。

 

 四方八方と言わんばかりに鮮血が飛び散り、その一室内部を紅く彩る。

 

 なんておぞましい光景だ。少なくともプレディカがまだ人間だったら、確実にそう思うだろう

 

 が、生憎今の彼はアマゾン。

 

 そして、既に人としての感性を捨て去ってしまっている。この光景に驚きはあれど、それ以外の感情は何一つとして存在し得ない。

 

 二人が入った部屋は七賢人たちが集い会合を開く場で、『ラマルククラブ』と呼ばれている場所だった。

 

 しかしとうの七賢人たちは誰一人として物を言わず、ただ冷たい床でそれぞれが違う格好で転がっているだけ。

 

 そんな彼等を冷めた目で見下す計8人のコドモたちがいた。

 

 まるで何処かの国の王族男装のように煌びやかな雰囲気を纏う純白の正装に身を包み、赤や青。緑や紫といったカラフルな色彩の髪が、その格好も相まって彼等が普通のコドモではない事を如実に示していた。

 

 彼等は『ナインズ』。

 

 七賢人直轄の親衛部隊であり、専用のフランクスを持つ彼等の実力は並の部隊とは一線を画す。

 

 そして親衛隊の名にある通り、本来彼等はパパである七賢人たちを守らなくてはならない。

 

 それがコドモとして、オトナである七賢人に与えられた責務である。

 

 しかしその守るべき対象である七賢人たちは既に事切れ、物言わぬ骸と化している。その事実を前にナインズたちに感慨は一切ない。

 

 何故なら、七賢人を殺害したのは他でもない……彼等なのだから。

 

 ゼロツーに匹敵する身体能力を有し、尚且つ。警戒心を一切持たず、コドモが反逆など起こす筈がないと踏む度を超した慢心さがあれば、その命を奪うなど造作もない。

 

 もはやナインズは今日この時をもって、APEとしてのナインズではなく、ナオミことヴィルムに仕える片腕としての存在意義を確立する。

 

 そんなある種の"門出となる日"を祝福するかのように。ナインズリーダーであるナイン・アルファ……ヴィスト・ネクロでは"シャドウ"と呼ばれていた彼がここにいる一同を代表し、笑顔を称え2人を出迎えた。

 

 

「やあ、ヴィルム。随分手酷くやられたみたいだね。プレディカは特に怪我がなくて結構」

 

 

 すぐに目に入ったナオミの痛々しい姿とその同伴で来たプレディカを見たアルファは、あくまで冷静に笑顔を浮かべてそう言う。

 

 

「はむ、ん、んん……んんんん?! "ママ"!?」

 

 

 七賢人の片腕を頬張っていた緑色のボブカットヘアをしたコドモ『ナイン・デルタ』は、もう興味ないと言わんばかりに腕を易々と投げ捨て

、ナオミの下へ来る。

 

 

「うわ〜、血塗れじゃんデルタ」

 

「僕のことよりママだよ! 大丈夫? 痛くない?」

 

 

 親を心配する子のような態度で物を言うデルタにナオミは笑みを浮かべる。

 

 

「大丈夫だって。こんな傷、擦り傷も同じだよ」

 

「擦り傷でも怪我は怪我。吾が主に対し、このような所業をせし者は即刻斬るに限る」

 

 

 今度は窓際で精神統一の為に正座していた水色の髪の少年『ナイン・ベータ』が、古風な言い回しでまだ見ぬ敵に対する怒りを滾らせる。

 

 

「そーだよ! なんなら僕が今すぐそいつの所に行って嬲り殺しにしてやる!」

 

「ははっ、落ち着きなってデルタちゃん。ギガの干渉で回復に手間取るけど、すぐ元通りになるから大丈夫だって」

 

 

 デルタを宥めつつ、ナオミは周囲を確認していく。より正しく言えば、事切れて血塗れの死に様を晒している七賢人だ。

 

 

「うんうん。きちんと始末してくれたみたいだね。ありがとう、みんな」

 

 

 自身の思い通りに事が運んだ結果が喜ばしく、その為にわざわざ容易い任を請け負ってくれた彼等に向けて、労いの言葉を送るナオミ。

 

 すると赤い髪の少年『ナイン・ガンマ』が活気よくそれに応える。

 

 

「礼なんかいらねぇって。こいつらの始末、むしろ歓迎だったぜ!」

 

「そーそー。威張り腐るだけでなーんにもできない癖にあーだこーだ、命令して。ほんと清々するよ」

 

 

 ガンマの意見に同意するデルタ。その言葉だけでも七賢人に尊敬や親愛など無いことが窺い知れる。

 

 そもそも、ナインズは元々ヴィルム側のコドモたちだ。

 

 ナオミからの指示で親衛隊という偽りの役目に興じて来たが、それも今日をもって終わりを告げた。

 

 七賢人を"一名を除き"殺害することで。

 

 

「うぅ……ぐっ……」

 

 

 七賢人の首席。彼はどういう訳か生かされていた。

 

 

「これはどうもお久しぶりです首席。今日この度は貴方の身が不運な目に遭られまして、まこと幸運を願わずにはいられません……なんてね」

 

 

 あまりに場違いな言葉の羅列。そこに配慮など当然なく、ただの茶番の遊戯に過ぎない。

 

 

「はぁ……はぁ……なんだ。お前は、お前たちは……いったい何なのだ

!!」

 

 

 腹の底から力を込めて、散々痛めつけられた身体に鞭打ってでも立ち上がり、彼等が一体何者なのか。

 

 その真意を問い詰めた。

 

 無論、生殺与奪の権利を相手側に握らせてしまった時点で、そんなことが言える立場ではないことは嫌でも分かる。

 

 ほんの少しでさえ、機嫌を損ねればどうなるか……その全ては相手の気分次第。

 

 ただ殺したいから殺される。そんな理不尽極まりない目に遭ってもおかしくないのが、この状況下なのだ。

 

 果たして。啖呵を切る首席の姿に何を見たのか、それとも単なる気まぐれなのか。

 

 いずれにしろ、その真実が本人の口から語られることはなく、ヴィルムは込み上げて来る笑いを噛み殺しつつ首席の疑問に応える。

 

 

「ナインズは元々私の親衛隊。貴方たちはさも自分の手駒の一つとして考えていたようだけど、それはまっったくの見当違い!」

 

 

 両手を広げるような動作をして、くるりと。

 

 華麗な一回転を披露するナオミの姿は、楽しさや喜び。それらを感じて、つい小躍りしてしまう少女らしいものだった。

 

 ここが花畑なら、さぞ良い絵になっていただろう。が、両腕がない状態と鮮血の赤に染まった現場という、このシチュエーションでは猟奇的な光景の1ページにしか見えない。

 

 

「で、私は"ヴィルム"。ご覧の通り人間でもアマゾンでもない」

 

 

 両脚を屈め、出来る限り首席の視線に合わせたナオミは笑顔を絶やさず、そう言った。

 

 人間でも、アマゾンでもない。

 

 なら、それ以外の存在としか答えが出ない首席は、彼女に問いを投げる。

 

 

「に、人間でもアマゾンでも、無いだとッ?! まさか、貴様、叫竜人とでも言いたいのか!!」

 

「叫竜人……って、ハハハッ! 全然違う。それは叫竜の姫以外にありえ……"なくはない"けど。でも私は違う」

 

 

 笑みを消し去り、突然その顔を無機質なものへと変える。

 

 

「私はずっと人間を見てきた。幾多の繁栄と、衰退。あらゆる時代で紡がれて来た人の歩みを。歴史を……その"影"から」

 

 

 無機質ながらも微かな感情……おそらく、怒りか。ソレを匂わせる独特な語り口調。

 

 首席は不思議と魅せられ、聞いていた。

 

 

「けど、ここまで退廃するとは思ってもみなかったわ。不老不死が人類の為になると思って貴様らに知識を与えてみたら……このザマだ。心を

捨て、他者との繋がりを断ち切る。機械になってどうする。お前たちがなるべきは真の意味での『人』だというのに」

 

「知識を与えた、だと?! 何の話だ! そも貴様はCode703の番号を割り振られただけの、ただのコドモだった筈……ヴィルム? ナインズが、お前の親衛隊だった? い、いい加減な作り話で私を愚弄する気か?!」

 

 

 人は、目の前で起こる『不都合な現実』を前にすると、それを拒み安寧へと逃げようとする。

 

 今の首席がまさにそれだ。

 

 現実を受け止め切れていない。理解はしているが容認できない。だからこそナオミの話を作り話と断じるのだ。

 

 現にこうしてナインズが彼女に対して好感な態度を示し、ナオミの命令に従って七賢人たちを殺したと主張してるも同然な会話をしているのに。

 

 道化師の馬鹿馬鹿しい遊戯に等しい醜態をする首席に、ナオミはやはり顔を変えず、しかし呆れを孕んだ溜息を吐く。

 

 その目は、どこまでも冷たいものだった。

 

 まるで路傍の石を視界に入れているだけで、正確には見ていない。そんな無関心な冷たさが彼女の双眸の瞳にはあった。

 

 そのせいか一瞬、首席は自分のことを彼女が見ていないのだと錯覚してしまった。

 

 実際、それ自体は間違っていない。

 

 彼女にとって今の首席は石ころよりも無価値なのだ。それでもこうして視線と意識を向け相対して会話をしているのは、あくまで理由がある

 からだ。

 

 逆に言えば、その理由さえなければ、ナオミは顔を合わさず会話をすることもなかっただろう。

 

 "理由"があるか、ないか。

 

 たったそれだけの差なのである。

 

 

 

「"人を人たらしめよ、人であるなら"」

 

「!? ッ……な、なぜ、その言葉を」

 

 

 唐突に紡がれた言葉。

 

 それは知らない者が聞けば疑問しか湧かないだろう。

 

 だが、それを知っている身である首席にしてみれば、ナオミがそれを知っている筈がないと。

 

 そんな首席の慌てふためく様が面白いとでも言っているかのように、彼女は口端を吊り上げる。

 

 先程まで冷徹な無表情を捨てて、代わりに顔に張り付けたのは狂気に歪んだ笑みだ。

 

 

「お前が一番よく分かってるじゃないか」

 

 

 そう言いつつ、この集会場へ入ってから僅か数分。たったそれだけの短時間で元通りに両腕を再生され、もう胸に傷痕は見られない。

 

 手首を左右に倒したり、回したり。あるいは指の関節を曲げたり。

 

 そうやってコキコキと鳴らし、動作確認をする。

 

 そんなナオミを尻目に首席は唯々混乱と疑問が思考を支配していた。それ程までに彼女が先の言葉を知っているという事実が衝撃的で、それ以外のことが頭に入って来ない。

 

 ナオミが口にした言葉は、七賢人が不老不死の技術を獲得する以前。APEの前身となった『白き宿木』という科学機関の組織。の統括者であった男『IV(イブ)』が言っていたものだ。

 

 かつて、白き宿木では孤児を集めて、組織にとって有能な人材を育成・選出するという計画が行われていた。

 

 厳しい試験を勝ち抜いたのは、たったの10人程度。首席もその内の一人だった。

 

 幼い頃の首席にとってIVは父も同然だった。

 

 戦争で孤児となった自分を拾ってくれて、あらゆる学問の知識を与え科学者としての才を見出してくれた。

 

 その恩は、数百年と続く今でも忘れず、しっかりと胸の内にあり、それを誰にも明かすことはなかった。

 

 そんな彼は首席に常々こう言っていた。

 

 "人を人たらしめよ、人であるなら"。

 

 人間であると言うのなら、人間らしくあるべき

 という趣旨の言葉だ。

 

 そして『一体何が人間らしくあるべきなのか? 

 』という問い掛けでもあった。

 

 当時の首席は、その問いに答えることができなかった。

 

 戦争を経験し、その経験の中で家族を敵兵に残虐な方法で殺された彼にしてみれば、人とは獣

 も同然だった。

 

 だから、"人間らしい人"というのが分からなかった。

 

 自身の家族は違ったのかもしれない。だが状況が人を容易に変え、それが時として悪い方向へ進み、あらゆる道徳や倫理。

 

 正しい善性を腐らせてしまうのを、彼はよく知っている。

 

 自身の経験もそうだが、ボランティア活動の一環で数々の紛争地域や治安の悪いスラム街など。そういった場所で醜い人間の欲望が織り成す負の連鎖を見てきたからこそ、彼は人間というものに疑問を抱き、それ故に明確な答えを導き出せかなかった。

 

 結局。首席はIVから与えられた命題に答えられず、とうの恩師は急病によりこの世を去ってしまった。

 

 やがて経済的事情と内部分裂、この二つの不運が重なってしまい、それが元で白き宿木は解散という形で幕を下ろしてしまう。

 

 IVは亡くなる前年、ある技術に関わる知識を成人となった首席に話していた。

 

 『数万度の高熱と莫大な圧力に耐え得る特殊合金の製造法』と、その特殊合金を用いて造り上げた採掘器具や建造物を使用することで可能な採掘技術。

 

これによって入手することができる高エネルギー物質、通称『マグマ燃料』の存在。

 

 そういったIVが誰にも明かさず、その胸の内にあった数々の秘密。それらは首席にしか伝えておらず、この情報を元に首席は自身が持つ財力で白き宿木の後継組織となる『APE』を発足。

 

 マグマ燃料を手に入れ、コロニーとプランテーション。これらに二極化した人類の内の片方を支配する立場に至った。

 

 だが、それももう過去の話だ。

 

 『毒蛇』は、彼を用済みと判断したのだから。

 

 

「せっかくだから、最期くらいこの姿で看取ってあげるよ」

 

 

 そう言ってナオミは……ヴィルムは紫を中心に赤と青の三色の粒子状になり、その姿を変えていく。

 

 やがて現れたのは、一人の男性だった。

 

 短い銀髪に穏やかな笑みを浮かべるスーツ姿の壮年の男性。

 

 それは紛れもなく、『IV』だった。

 

 

「あ、そ、そんな馬鹿な……こんな、こんなことが?!」

 

 

 そっと抱き締める。首席はそれに抵抗することはなかった。

 

 いや、できなかった。

 

 それは紛れもなく父として慕った人物の温かさだった。

 

 死別してから、誰にも知られずに心の奥に押し込んでいた親の愛に飢え求める感情。

 

 それが今、この時に溢れ出てしまった。

 

 

「あ、あぁぁぁ……うぅ、父さん……」

 

 

 仮面がズレて、乾いた音を立てて落ちる。

 

 IVと同じく少しばかり皺のある壮年の男性の顔だった。ただ、その顔はぐしゃりと歪み涙を止め度なく溢れ出ている。

 

 ありえない、自身の死がもう目前だという状況にも関わらず、APEの首席はその威厳を完全に喪失させ子供のように、ただただ父の抱擁を受け入れていた。

 

 

「お眠り、我が子よ」

 

 

 たった一言。IVはそれだけを呟き、首席の身体から青い粒子状のエネルギー……『魂』を放出させ、それを己の身体へと取り込む。

 

 時間はそう掛からなかった。

 

 たったの数秒で完全に魂は吸収され、首席は穏やかな満足げな表情のまま、息を引き取った。

 

 

「そいつ、死んだの?」

 

 

 デルタが訪ねる。

 

 ヴィルムに魂を吸収された後に待つのは『肉体の死』。

 

 生命活動が停止しているのだから、肉体が死を迎えるのは当然の理屈だ。

 

 身体の割に精神があまり成長していないのか。やや子供っぽい部分があるデルタは、魂やそれを吸収するということをあまり理解しておらず

 

 抱擁しただけで息をしなくなった様子の首席を見て、不思議に思ったらしく、それ故の問い掛けだった。

 

 一応、事前に教えられているのだが、彼女は『殺して食べるのと同じこと』と彼女なりに解釈してそう捉えている。

 

 細かく厳密に言えば違うのだが、それを懇切丁寧に説明したところで理解できないだろう。

 

 ヴィルムはそう判断している為、それでいいと捨て置いてる。

 

 

「うん。死んだよ」

 

 

 粒子に包まれるように再びナオミの姿に戻るとデルタに応えた。

 

 声に何も感じられない。

 

 至って淡々とした声音だ。

 

 

「じゃ、コレはあとで宇宙にでも捨てて」

 

 

 既に用はない。"自身の期待に応えられなかった"、無価値な有機物にこれ以上時間をかける必要はない。

 

 無情にそう告げるナオミは、視線を一人のナインズへと移す。紫色の髪が特徴的でナインズの中でもとりわけ背の高い少年に視線を向ける。

 

 

「それが例のやつ? "イプシロン"」

 

 

 ヒロが変身するアマゾンライダーと同一の名を持つ、ナイン・イプシロン。

 

 彼は特に何も言わず、ただ笑みを浮かべて無言で頷くと右手に持っていた白いアタッシュケースを両腕で横に寝かせるように抱える。

 

 そして、ケース上部に備え付けられているセキュリティロックの黒い液晶部位に指を置く。

 

 手袋を嵌めているので指紋認証の類いではない。DNA情報を読み取ることで認証するタイプのものだ。

 

 カシャッ。

 

 弾むような音と共に施錠が解除され、プシュッという空気が抜ける音が連続して吐き出される。

 

 ケースの蓋へと添えたナオミの手で、ゆっくりとケースの中身が開帳の下に晒される。

 

 それは端的に言い表せば、『この世のものとは思えない赤や青、黄や緑など。様々な色彩に染まった宝物』……と。

 

 陳腐でありきたりなセリフに聞こえるだろうが、その物に対してを的確に表せているだろう。

 

 斜め半分に欠けた状態の菱形。その内部は赤や青、黄や緑、紫に桃など。多種多様な色彩が混在し合い気体に似たエネルギーとその色彩の原因である粒子が揺蕩い、蠢いている。

 

 

「んんー? それなーに?」

 

「……何やら、強大なエネルギーの残滓を感じますが……」

 

 

 デルタは訳が分からず。一方でベータは漠然と曖昧ではあるものの、それが冗談抜きで危険なものだということを本能的に察した。

 

 ほんの少し、何ミリという針の穴に糸を通し損ねるという、そんな些細なミスでも周囲に大々的な破壊と死を齎すだろう。

 

 あくまで本能的な勘によるものだが、それでも彼の見解は正しい。

 

 これは、例えそれが"小さ過ぎる欠片"だとしても惑星一個を跡形もなく消し去るには十分なのだから。

 

 

「"スターエンティティの欠片"だよ」

 

「スターエンティティ?! その欠片を何故…………」

 

 

 ナオミの答えにベータが驚愕の声を上げる。

 

 他の面々の反応はそれぞれで違うものの、やはり驚愕の色が見える。

 

 そんな彼等を尻目にナオミは説明し始めた。

 

 

「私が持ってたんじゃないよ。このコスモスで厳重に保管されてたんだ

。気付かなかった? なんで老人共がこんな無駄に高いところに居を構えたのか。単純な話、この欠片の存在を隠蔽する為だったの……叫竜からね」

 

 

 可愛い教え子へと授業の鞭を取る教師のように。したりげな面持ちで悪戯に微笑むナオミ。

 

 

「叫竜は地球の外……より正確に言えば、衛星軌道上の位置からの干渉はできない。"地球と深く繋がっている"から」

 

「? どういう意味だよソレ」

 

「まぁまぁ。それはまた今度話をするよ。今はコレだからね」

 

 

 ガンマが疑問符を浮かべる。言葉だけはその真意が測りかねる問いを投げたのだが、ナオミはそれに対し後回しにスルー。

 

 それをガンマはやや不満そうに顔を顰めるが、知りたいという欲求が強いという訳でもないので、とりあえずそうしよう、という形で気にしないスタンスを取った。

 

 ナオミは、そんなガンマの様子を一瞥すると右手でスターエンティティの欠片をゆっくりと摘み、そしてグッと勢いよく握り締める。

 

 直後。身体から様々な色の光が、オーラが放出されナオミを包み込む

 

 ナオミは感じた。スターエンティティの残滓とは言え膨大なエネルギー量を。

 

 それが自らの身体の隅から隅へと染み込んでいく。この感覚が彼女にとって悦楽に浸らせるほど心地よく、力を漲らせた。

 

 だが。

 

 

「!!ッ」

 

 

 あまりに膨大だったせいか、悦楽の感覚とは全く違う『体を構成するエネルギーの一部が弾き飛ばされる感覚』がナオミを襲う。

 

 それは人間で言えば、"痛み"に類似するものだ。

 

 しかしそれも一瞬。すぐに余裕の笑みを浮かべる。

 

 

「いいね。これなら3(トレー)、4(フェーレ)、5(フェム)までは変身可能になった……残りの形態は五つ。それが揃えば私は"完全体"になれる」

 

 

 瞳を紫に光らせ、笑みを更に深めるナオミは次の計画に向けての策謀を巡らせた。

 

 

 

 







最後の『体を構成するエネルギーの一部が弾き飛ばされる感覚』に関しては、番外編……というか、特別編への伏線になります。

別の作品として投稿しますので、あしからず。

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