今年最後の投稿にして、新たなる章の幕開けです。コロナとか色々ありましたが、今後とも最後までこの作品を完走したい所存です!
それでは、良いお年を!!
プロローグ
『ふむ。事の顛末は分かった』
第13都市のプランテーション。数ある職員が利用する部屋の一つで、主に上の報告を行う為の一室。
立体モニターを表示する為のシステムがあるだけで、他は何もない。
そんな殺風景な部屋にハチとナナ。そして刃が揃ってモニター越しにフランクス博士と相対し、コロニーで起こった出来事。
その始まりと顛末を一句間違いなく報告した。
『しかし、まさかCode703が……のぉ』
「……正直、私には信じられません。あの子が……ナオミがブラッドスタークだったなんて」
「もっと驚きなのはヤツが人間でもアマゾンでもなかったってことだ」
動揺を隠せないナナ。そんな彼女とは対照的に鷹山は驚きという言葉に反して淡々とした口調で言う。
どういう訳か記憶を取り戻した鷹山は、彼女がナイン・アルファを連れてフランクス博士の研究室から何かを盗み出していたことと、ナイン
・アルファが自分と同じアマゾンライダーで、交戦したこと。
そして、ナオミがブラッドスタークであると同時に人間でもアマゾンでもない存在だったという事実。
とても信じられないような内容ながらも、それをフランクス博士は勿論ハチとナナにも伝えてある。
フランクス博士は納得した様子だったが、ハチとナナの二人は違った。
分裂能力を持ち、二つに分かれても精神が同一である為に仲違いを起こすことはない。そして擬態能力で"ナオミというコドモ"に成り済まして数年に渡り潜んでいた人間でも叫竜でも、ましてやアマゾンではない存在など、普通に考えればまともに受け入れられるものではない。
おまけに七賢人直轄の親衛部隊『ナインズ』のリーダーであるナイン・アルファが実はナオミの協力者で、しかもアマゾンライダーと来た。
どう聞いても荒唐無稽のホラ話と切り捨てられるのがオチだろう。
正直二人の心境としては"信じられない"と言うのが一番当て嵌まっている感情だろう。
だが、どう否定しようとナオミがブラッドスタークだった事実は変わらない。
仲間を、13部隊やオトナたちを欺き騙してきた事実もだ。
彼女が本当にどれにも属さない謎の存在なのか。本当にナイン・アルファは敵なのか。
議論はともかく。起きてしまった事実は認めなければならないし、その真偽の確認もすべきだろう。
『人間でもアマゾンでもない……しかし叫竜でもないとはのう』
フランクス博士もそうだ。鷹山から伝えられた情報に関して言えば、信じられないという思いはある。
しかし未知に対する探究心があるのも事実だ。
もしナオミ……ブラッドスタークが人間、叫竜、アマゾンのどれにも属さない未知の知的生命体だと言うのであれば。
機会があれば、じっくりと調べ尽くしたい。
そんなことを思う一方で、鷹山という男がこの場においてつまらない嘘を吐くような性格ではないと理解している。
なので彼の蘇った記憶…その内容に関しての追求はしなかった。
「同類であれ、人間であれ。アマゾンは生物の気配を察知できる。叫竜もな。だから言わせてもらうが……アレは、叫竜じゃない」
気配をきちんと区別することができるアマゾン特有の生体センサーは、ランクの有無に関係なく、どの個体のものであっても優秀だ。
鷹山の場合元は人だったという事もあってか、その範囲が通常と比べるとやや劣る。だがそれ以外では至って大差はない。
だからこそ分別は十分可能。しかし結果は人間でも無ければアマゾンでも叫竜でもない謎の存在という、不明瞭極まりないものだった。
「初めてだこんなの。気味が悪いを通り越して虫唾が走る」
『ふむ……結局奴の正体は掴めず、か』
ブラッドスタークだったナオミ。しかし人でもアマゾンでも、叫竜でもない謎の存在だったという事実は、この上もなく不気味で得体の知れない恐怖を植え付けるには十分過ぎた。
だが、怯えるだけで終わるつもりはない。
怯えて、隠れて、何もしない。それは自らの生死を相手に委ねているのと何ら変わりない。
"生きる"という生命としての戦いを放棄したも同然だ。
恐怖がない訳じゃない。しかしそれを抱えても、大切な誰かを守る為に戦わなければならない。
少なくとも鷹山はそう思っている。
内に秘めた決意を誰にも知られず。漏らすこともないまま、鷹山はナイン・アルファのことをどう上に報告するか。
その問題をフランクス博士へと投げかける。
「で、ナイン・アルファはどーすんだ? 言ったとしても『妄言』って感じでジジイ共に切り捨てられるのがオチだぞ」
『まぁ、目撃証言がお前一人。しかもコロニー側の人間とあっては奴等も簡単には信じないだろう』
鷹山はAPEの外側であるコロニー所属の人間だ。それ故に、前々から七賢人は鷹山のことをあまり良く思ってはいない。
協力関係にあるのは、あくまでコロニーの力が必要だと合理的に判断しただけで、心情で言えばコドモと同じく"旧人類"と見下している。
そんな彼が何をどう説明したところで、碌に相手などしないのは、目に見えている。
「何か案はないのか?」
『ワシの口から言うても内容が内容だ。秘密裏に証拠を集め、突き出すしかないな』
証拠を集めるというのは基本ではあるものの、相手が相手なだけにそう簡単に残すとは思えない。
「はぁぁ。にしてもセキュリティどーなってんだよここは。ガバガバのザル過ぎるだろ」
『それに関してはコロニーも同じだろう。まぁ、相手が悪過ぎるというのもあるがな』
意図も容易く侵入されるばかりか、長い間相手側がバラすまで誰一人として気付かず、敵の潜入活動を許すなど。
とんでもなく滑稽な話だ。
そんなプランテーション並びAPEのセキュリティの杜撰さに対する皮肉を口にするも、フランクス博士は『コロニーも同じだろう』と反論。
全くもってその通りである為、鷹山はバツが悪そうな顔をするだけの無言状態にならざる得なかった。
結局、全てはナオミの手の平……だった訳だ。
『とりあえず、ナイン・アルファの件はワシがなんとかしよう。それに次いで重要なことだが……コドモたちの心理状態はどうなっている?
あんな事が起きてしまった以上、何もない筈があるまい』
「はい。やはり13部隊全員、各々が程度はどうあれ精神的なダメージを負ってしまったのは確かです」
「特にイクノ……Code196がかなり塞ぎ込んでしまっています」
ハチとナナの報告にフランクス博士は難しそうな、あるいは困ったとばかりに『うぅぅむ』と唸り漏らす。
イクノはナオミと一番親しい仲だった。親友と言ってもいい。そんな間柄だったのに、ある日突然、何の脈絡も予兆もなく、告げられ突き付けられた真実。
頭で、心で受け入れるのは決して容易い事ではない。
間違いなく癒えない傷を負ったのは事実だ。
そんな彼女と同様に深い傷を心につけられたゾロメは、ナオミが敵だったということもあるがそれ以上に心を抉ったのは、ケンゴがアマゾネストとなり、妻子を喰らったという現実だ。
「博士。このままの状態が続けば、叫竜討伐に支障が出ると考えられます」
『分かっておる。だから重要な事だと言ったのだ。しかし……心の傷とは、身体のように治るものではない』
「同感だ。これはもう立ち直れるだけの理由……それを得る為の"キッカケ"が必要だ」
人の心とは、身体のように時間の経過と共に完治する訳ではない。
耐えられない現実に心が打ちのめされ、傷が付けられてしまったのなら、そこから立ち上がることができずにただ沈黙し、這い蹲るしかなくなる。
そこから脱する為には長い時間をかけるよりも"もう一度立ち上がれる理由"が必要だ。
それを2人が見つけられるかどうか。問題とすべきはここだろう。
ピピッ
『ん?』
「緊急入電?」
機械的で単調なリズムの報を知らせる音が3人のいる部屋、そしてフランクス博士がいる研究室の双方のモニターから鳴り、画面中央部に白く長方形状のウィンドウが表示される。
どうやらLIVE中継の配信映像で、APEの上層本部……七賢人たちがいたコスモスからだ。
その為、こちらの任意など関係なく、映像が開始される。
「こ、これはッ!」
「ッ?!」
「おいおい……」
『………』
それを見た各々の反応は、共通して驚愕という言葉がよく似合うものだった。
※ ※ ※
コスモスは地球の衛星軌道上にある要塞であると同時に、七賢人たちの本拠地でもある。
それはつまりAPEという組織にとって、そこは神聖な場所であることを意味している。
七賢人たちと、彼等に認められたオトナでしか立ち入ることを許されない領域。
その領域内にある一室にて、七賢人たちが宇宙が映る大窓をバックに並び立ち、その中央には彼等のトップである主席がおり、ここまでは別段驚くべきことではない。
前にあった13部隊の入隊式の時も、主席は中央の位置にいた。
主席なのだから、そこに何の問題もない。
問題なのは……Code703の番号を持つ、ナオミという一人のコドモが、恐れ多くも賢人達の御前にいることだ。
しかもその格好は、七賢人が着る法衣とよく似たもの。これではまるでナオミこそが七賢人と同格、あるいはそのものである、と。
傲慢にも主張しているかのように見えてしまう。
しかしとうの七賢人たちは何を言うでもなく、ただ無言でナオミの様子を伺い佇んでいるだけだった。
「う〜ん……面白半分に着てみたけど、まぁアレだね、うん。クソダサいわ」
パチンッ。
中指と親指を合わせ、そして弾くことで奏でられるフィンガースナップの音色。その音に呼応するように法衣は紫の粒子となって消え去る。
代わりにパラサイトとしてミストルティンに居た頃の制服姿に一張羅を整え、背後に並び佇む賢人達に目をやる。
その視線は、暖かみを一欠片でさえ感じさせない程に冷たいものだった。
「さてさて。なるべく"ウェルナー"にはバレないように……あと鷹山さんも。きちんと隠しておかないとね」
七賢人は、既にこの世にいない。
今こうしてナオミの目前に並ぶ彼等は七賢人の外面だけを模した……というより、着ていた法衣を纏っているだけの傀儡に過ぎない。
中身は全員試験型のアマゾネスト。その失敗作である。
知性があり、声帯模写が可能である為、七賢人たちの声で他者と会話することができるが、その分戦闘能力は皆無。
失敗作たる所以だが、そんな彼等でも七賢人を演じる傀儡には役立つことができる。
数も賢人達と同じだった為、使う事にしたのだ。
「ん? なんか、へんな気配するな〜?」
気配とは言っても、この場に傀儡を除く他の誰かがいると言う訳ではない。
気配の出所は……遥か下。
地表上のある座標からだった。
普通なら感じ取るなど有り得ない話なのだが、ヴィルムにはアマゾンのように気配を感知する能力が存在する。
その範囲は、アマゾンのソレとは比較にならない。こうやって大気圏よりも上に位置する宇宙にその身を置いているにも関わらず、地球上に存在しているであろう何かの気配を感じ取れるのだから。
ただ、補足を入れれば、その存在の気配が異様な程に大きいといのもある。
その気配は一種のエネルギー波のようなものであり、地球の衛星軌道にあるコスモスからでも届くと言うことは、それはつまり、そのエネルギー波が強大であることを意味している。
「あ、なんか覚えあるなと思ったら……そりゃ怒り心頭だよね、裏切ったんだから」
そう言って、ニヤリとナオミは嫌な笑みを浮かべた。
※ ※ ※
"彼女"にとって、唾棄すべきは欺く事。
かつて、彼女は優秀な科学者だった。
とても真面目で恋人もいて、それが人類の為になるのだと信じて研究に明け暮れる毎日を過ごしていた。
彼女の研究は人を強化することで免疫力や基礎的な身体能力を上げ、まさしく超人へと仕立て上げる『人工的な進化』を目的とした生物学の
一種。
彼女の研究が実を成せば、ありとあらゆる難病や危険なウィルスの感染を防ぎ、自然治癒する
ことができた。
だが、それを好く思わない輩がいた。
彼女の才能に嫉妬し、憎む科学者たちはあろうことか彼女の研究をさも自分の手柄のように取り立て、無実の汚名を着せた。
しかし何よりも彼女を絶望に堕とし込んだのは、その科学者の中に、親友がいたことだ。
親友は彼女を昔から憎んでいた。その才能を、輝かしい未来を。
だから……裏切った。
それだけの理由。たったそれだけの理由だとしても、親友が彼女を裏切るのは十分。
やがて、学界を追われた。
濡れ衣を着せられたまま、汚名のレッテルを貼り付けられたのだから、それは彼女にとってあまりに悲観的で、汚泥を舐めるかのような屈辱
であり、そして……この世を呪いかねない絶望だった。
自殺さえ考えていたが、やはり死に切れない。
何も為せず、汚名を着せられたまま、無意味に死んでいく。
そんな結末を受け入れるなど、認められない。
そして。その思いに運命が答えたのか。
『なら、この手を取るがいい。我が組織は君のような者を欲しているのだ』
ある秘密結社……そのトップである『首領』と呼ばれし男が現れ、彼女に手を差し伸べた。
※ ※ ※
努力した。認めてほしかった。
"僕"は、身体が弱かった。
パラサイトとして生まれたのに、その使命を全うできはしないだろう。
ガーデンにいたオトナたちは、無感情に口々に言ってたのを今でも覚えてる。
悔しかった。情けなかった。
だから僕は歯を食いしばって、努力した。
無理かな、と思った。
諦めた方が楽かもしれない、とも思った。
でも結局諦めずに最後までガーデンに残れたのは、"アイツ"がいたからだ。
僕はアイツに憧れていた。
沢山のコドモたちの前に立って、一人一人番号じゃない"名前"をつけていく。
アイツはよくそんな"名前決め"をやってた。
普通なら、そんな事はオトナたちが許さない。
でも、アイツにはそれが許されていた。
コドモの中で揉め事が起こった時も、いつも止めるのはアイツの役目だった。
口調。話し方。態度。その全てが和やかなで優しかったからか、アイツが出てくるとどんなに酷い喧嘩でも、すぐに収まる。
成績だって優秀な方だった。
今でこそ
アイツを見るコドモたちの目には、決まって『尊敬』と『憧れ』が映っていた。
僕もそうだった。アイツのようになりたい。
だからアイツと一緒に、その隣に立ちたかった。
それがあの頃の支えになっていたんだと思う。
でも、その努力は無意味になった。失敗した訳じゃない。努力することの目的を見失った訳でもない。
ただ、
僕は、尊敬して憧れて、並び立ちたいと思っていた相手に……裏切られた
。
「ハッ!!」
長い独白、とでも言えばいいのか。
まるで走馬灯の如く流れていく過去の記憶と、その心境を吐露するような自分の声。
それはまさしく夢だったが、過去の記憶をありありと見せられ、自身の心境まで勝手に暴露されたようなその夢は彼……ミツルにとって、悪夢としか言いようがないだろう。
「ハァ……ハァ……クソッ!!」
苛立ちが雑言として飛び出す。身体が酷く重く、全身は汗が絶え間なく流れ落ちる。
心なしか、身体が妙に熱さを帯びていたものの、いつまでもそうしているわけにもいかず。服を脱いで、近くに置いてあったタオルで出来る限り身体を拭き取ってから部屋を後にした。