ダーリン・イン・ザ・アマゾン   作:イビルジョーカー

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なんとか今年初めてのダリアマ投稿一発目が出来上がりました。

話作りって本当に大変です。アニメは話作り(脚本)に加えて絵コンテやアニメーションに使う作画(なんてことのない単調な動きだけでも数千枚はかかる)を作らないと成立しませんし、ドラマは機材の準備やら演じる役者さんの抜擢など。もう本当に色々大変です。

それに比べたら多少はいいかもしれませんが、大変なものは大変。

けど、楽しくて書いているので自分的には幸せで最高です。

今回はアイツがまたもや登場します。







再来の旅人

 

 

 

 

 

 

本来なら食堂は、普段とは思えない程に静寂だっただろう。

葬式の時の鎮痛さを孕んだ空気、と言えばいいのか。おそらくソレに近いものがある。

しかし今現状においてそんな空気はなかった…いや、正確に言えば、なろうとはしていたが、訳の分からない不確定要素(・・・・・)によりそうなってしまった、というべきか。

 

 

「……まぁまぁ、だな」

 

 

手に持ったスプーンでコンソメスープを掬い取り、口に運んだその人物は並程度の評価をつけ、今度はすぐ左側にあったライス系の料理へとスプーンを伸ばす。

そして、同じように口に運ぶ。

 

「これは……不味いな。味付けが浅すぎる。そういったのも人の好みだが……それだけじゃなく、コクにパンチが足りない」

 

続いて、野菜炒めにハムのソテーが付け加えられた料理に目をつける。

今度はスプーンではなく、フォークでハムを野菜ごと刺し貫く形で捕まえ、またも口に運んでいく。

 

「これもまぁまぁだな。全く。全体的に成ってない」

 

やれやれ、と。そんな言葉と共に溜息を吐く。

出された料理に難色を示し、文句を言う……実際そうであったとしても

、味をわざと口に出して酷評するというのは、食べる側にとって気兼ねなく堂々と言えることではないだろう。

そうしていいだけの正当な権利があったとしても、だ。

しかしそれは普段から食べている13部隊のコドモたちにこそあって、明らかに大人…それも既に関係者ではなくなっているマゼンタ色のトイカメラを首からぶら下げている男ともなれば、尚更だ。

 

「な、なんであんたがここにいるのよッ!!」

 

「……えーっと……士、さん?」

 

疑問という感情を乗せて叫ぶミクとは対照的に、ココロがその青年の名を呼ぶ。

門矢士。自称『通りすがりの仮面ライダー』を名乗っており、3日前のコロニーでの叫竜戦ではイチゴとゴローの救出に一役買い、その作戦の立案もしてくれた恩人。

その恩人たる人物が、コドモたちよりも早く食卓の席に座り、食事をしているとは一体どういう了見なのか。

誰もが思うであろう疑問。それを逸早く問い質したミクだが、物申したかったのはミクだけではない。

 

 

「アンタ! あの時はよくもあんな無茶苦茶な作戦やってくれたわね!

 

 

おそらく、怒りはミク以上だろう。

食卓のテーブルを両手で叩き、睨みを利かせながら士へと迫る姿は、さながら鬼神の如しか。

そう言ってもいい程に相当キテいた"イチゴ"は、何なら食い縛った歯を剥き出しにガルルと獣染みた唸り上げている。

それだけ彼に対して憤怒を抱いている訳だ。実際あの作戦は成功したからよかったものの、相応のリスクは高く、下手を打てば全滅は決して絵空事ではなかった。

そんな危険を冒すぐらいなら、この命を犠牲にしても構わない。

徹底した、と言える程で歪な、歳不相応な覚悟をイチゴもゴローも抱いていたのだから。

だが。それを持ってしても、門矢士という男を怖気づかせるには、残念ながら至らない。

 

「おかしいな。俺の作戦のおかげでコロニーは救われ、お前…苺大福とノッポを助けることができた。文句を言われる筋合いはないと思うが?

 

「ノ、ノッポ? 俺のこと、なのか?」

 

「何よ苺大福って!! 私はイチゴよ、いい?イ・チ・ゴ!!」

 

「なら苺大福と変わらない。イチゴだからな」

 

彼女の言い分を悉くかわし、フォークでブロック状に切り分けられた肉料理を頬張る士の姿は紛れもなく、傲慢な不法侵入者のソレだ。

盗人猛々しい、とも言うか。

 

「まぁ、結局酷い有り様になったみたいだが」

 

その口振りはまるで、コロニーがあの後どうなったのかを知っているようだった。

士はフォークを持つ手を止めず肉料理を食していく。が、それを遮る者がいた。

 

「よお。美味いか? ここの飯は」

 

ガシッと勢いよくフォークを持った士の手首を掴んだのは、遅れてやって来た鷹山だった。

 

「大半はダメだが、コレはイケる。なんて名前だ?」

 

「さぁな。それより堂々と勝手に入って飯食うってのは、どーゆー了見かなぁ?」

 

ミシリと僅かな音を立てて、握る手に力が込められる。

泥棒紛いに等しい士の行動を無視するほど常識がない訳ではないが、鷹山は鷹山で日頃から非常識的な行為をよくしている為、士のことを言えた義理ではないが。

 

「そう固いこと言うな。お前らの仲間を助けたんだ。これくらいは俺への報酬だと思っておけ」

 

厚かましい。傲慢。

 

そんな言葉が思い浮かぶ程に士の態度は太々しいもので、おそらく何をどう言おうと聞く耳を持たないだろう。

 

「お前、何しに来たんだ? まさかただ飯食いに来たって訳じゃねーよな?」

 

眉間に皺を寄せて、鋭い眼光で高圧的な表情を作る鷹山は、睨みを利かせて問い詰める。

それに臆したという訳ではないが、士はフォークを置き、白い布巾で口を拭いながらここに来た理由を語り始めた。

 

「"プランテーション1個がある存在によって壊滅した"って、言えば大体分かるか?」

 

「!!ッ お前、どこでそれを…」

 

「なるほど。その反応だとそっちも知った訳か」

 

士と鷹山の会話は、コドモたちにしてみれば、疑問符しか浮かばない程に理解が及ばないものだった。

 

しかし。プランテーションが壊滅したという、その一点だけで、ただ事でないのは十分に分かる。

 

「プ、プランテーションが壊滅って……そんな、冗談だろ?!」

 

ゾロメが声を荒げる。確かに信じられないだろう。他の都市のプランテーションには自分達よりも先輩に当たる部隊が配置され、いつでもフランクスを駆り迎撃できるようになっている。

しかし、都市を守る筈のフランクスが何の役にも立たず、都市の破壊を許した。

そんな悪夢のような出来事があっていいのだろうか。

にわかには信じ難い事かもしれないが、それでも。鷹山が何も言ってこないのを考慮すれば、士の語る内容が決して虚偽ではないことを意味していた。

 

「……そう言えば、一人足りないな。あの眼鏡っ子はどうした」

 

唐突ながら、士はコドモたちの中にイクノが居ないことに気付いた。

 

士としては13部隊のコドモらに伝えなければならない事がある為、全員揃っていた方が望ましいのだが、士の問いに対しコドモたちは各々がその顔に陰りを差した。

 

「仲間の一人が敵だった……って、感じで塞ぎ込んでいるのか」

 

士は何気なく言ったその言葉に驚愕が広がる。

 

「別に驚くようなことじゃない。俺は大体分かる」

 

何をもってそう言えるのか。その自信の出所は預かり知らない面々だが、それに構わず士の話は続く。

 

「で、その原因についてはそっちで確認してるのか?」

 

「仮にしてたとして、それをお前に教えてどーすんだよ?」

 

「……さっきのじゃ分からないか?」

 

「大体どころか微塵すら分からねぇよ!!」

 

プランテーション一つが壊滅したことを知っている。だが、それが士自身がここへ来た理由の説明として成立するのかと問われれば、答えはNOだ。

 

しかし士の中ではソレが成立しているらしい。

 

かなり理解に苦しむが、本気でそう思ってるらしい。

 

 

「お前らに協力してやるって言ってるんだ」

 

「……協力して、どーすんだ?」

 

 

士の言葉を信じられないといった様子で投げ返す。

疑念は仕方ないことだ。

正直に言えば、士はイチゴを救出するのに協力してくれた事実こそあれど、それが単純に"助けたいから助けた"といった動機によるものか、

と考えれば"そうではない"という可能性が出てくる。

ただの感情論で行動に出るにはリスクが釣り合わないし、仮に本当だとしたら相当な狂人の類だ。

どちらにせよ、何をしでかすか分からない。

返答次第では、鷹山は士を即捕らえる腹積りでいた。

 

「俺の目的は"この世界での役目を果たすこと"。その為に協力するって話だ」

 

「"この世界"? まるで別の世界から来たみたいな口振りだな。おいおい、まさか並行世界論なんてSF系のフィクションを持ち出して、

自分は別の世界から来たなんて言うつもりか?」

 

並行世界……『if』とも呼ばれるソレは、簡単に言ってしまえば可能性から生じる無数の世界。

もしくは、時間軸とも呼ぶべきものだ。

例えば『今日外に出て、いつもと違う道を行くか、行かないか』という一つの選択肢が生じた際、『行かない場合』と『行った場合』の二つが出てくる。

当然二つの内一つしか選べない。

『行かない場合』を選んだ時、『行った場合』という事実はなくなる。

しかし、その『行った場合』の時間軸が今自分たちのいる宇宙とは全くの別物の宇宙、別個として存在する地球にある。

 

それが並行世界という概念だ。

 

しかし、これは科学的に見て空想の産物に過ぎない。

 

SF系のフィクションのみにしか存在し得ないもの。しかし、士の口ぶりから察すれば、それは決して空想だけの話ではないと。

そう言っているかのようなのだ。

 

「ご想像にお任せする。俺がどこから来たかなんてのはどうでもいい。お前達がするべきなのはこの資料を読んで、対策を取ることだ……ヴィスト・ネクロのボス『十面姫』のな」

 

懐からやや分厚い紙束の資料を出しながら、士は不敵な笑みを浮かべて、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで? 暴走した十面姫の対処の為に僕達をここに呼んだって認識でいいのかな?」

 

「認識……OK?」

 

賢人達の集会場『ラマルククラブ』改め、ナインズとヴィルムが集う為の『ナインズフロント』には、かつてのナインズの制服姿ではなく、個性豊かな私服を纏った姿のナインズ全メンバーが招集されていた。

 

そして、ナインアルファとその隣に立つピンク色の長髪にライトブルーのマスクで口元を隠し、まるで二又の先端を有する尾を出した少女『ナイン・イオタ(・・・ ・・・)』。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

彼等双方の問いに対し、制服姿のままのヴィルムは答える。

 

「その通り! いや〜まいったよ。まさかあの十面姫がこうも大胆な行動を仕出かすなんて、思ってもみなかったからねぇ〜」

 

紫の円形要素を取り入れた幾何学的な椅子に腰を下ろし、脚を組みながらお手上げだと言わんばかりに両腕上げる動作はまさに困った時にするポーズではあるものの、所詮はユーモラスの類に過ぎず。実際は困窮している訳ではない。

それどころか、演技でもなく素でカラカラと笑ってすらいるのだから、今置かれた状況を楽しんでいる節すらある。

 

「ふむ。その割には…主は楽しんでいるように見えるが」

 

「俺もそう見えるな」

 

水色の着物のように袖の広い服を着たベータと灰色調のスーツに淡い赤の襟が特徴的な服装のガンマの指摘は、彼自身の主観ではなくメンバー全員の総意だ。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

ナインズ全てのメンバーに緊急招集をかけたのだから、事態はそれほどまでに切迫した状況なのだろう。

しかし、とうのヴィルムに焦りは皆無だ。

 

「十面姫の暴走は13部隊にとっての試練に利用できるからね。あの子達がそれを切っ掛けにどう成長し変わるのか、想像するだけで楽しみが尽きないんだよ」

 

「なるほど。確かに僕も彼等には興味がある」 

 

ヴィルムの言葉にアルファは賛同の声をあげる。

 

「でも〜所詮ニンゲンのコドモでしょ?」

 

首元の周りに白いフリルが付いたライトグリーン調のドレスを着こなすデルタが、少し不満げな様子で言う。

人間とアマゾン。どちらが種として戦闘面で強いか、と問われればアマゾンの方だろう。

動物の遺伝子を取り込み、その能力を自身へと反映させるというのは人間では持ち得ない強みだ。

そもそも人間は他の動物と比べて知能こそ高いが肉体面ではそうはいかない。

何の訓練も受けず、武器がなければ鹿などの草食動物にさえ勝てないのが人間だ。

仮に様々な戦闘技術を長い訓練の末に習得した格闘家の場合であれば、素手の格闘戦で勝つ可能性が見込める。

とは言え、勝てるのは中型犬ほどの大きさのヒョウやそれ以下の大きさ・体重の山猫くらいが関の山だ。

そもそも自然界では奇襲あり、地形利用ありと襲う側に時間・場所・状況などの選択権が存在する為、攻撃を仕掛ける側が圧倒的有利となりやすく、場所による有利不利の違いが大きいものだ。

それを踏まえて考えれば、人間が勝てる可能性は低くなる。

そして、アマゾンの基本的な身体能力は取り入れた遺伝子元の動物の数倍になる。

おまけに人と変わらない知性が存在する。これは人語こそ介せないが、野生下で生きるアマゾンにも言えたことだ。

生半可な戦術・戦略で挑んでも勝てはしないだろう。

人の肉体における可能性というのは、限りなく他の動物に比べて劣等なのは否定できない事実だ。

 

しかし。

 

 

「分かってないな〜デルタちゃんは」

 

「んん?」

 

「確かに人間は弱い。身体的な面で言えば、嗅覚・視覚・聴覚・触覚といった感覚機能や筋力・脚力。どれを取っても他の生き物と劣ってるけど、絶滅したことは一度もなかった」

 

ヴィルムは、それだけではないと語る。

 

「なんでだと思う?」

 

「え、え〜っと……」

 

「コソコソ逃げ隠れてたとか? それならワンチャン生き残れんじゃね

?」

 

振られた問いに答えれないデルタに代わって、ガンマが答えるもヴィルムは首を横に振る。

 

「違うなぁ〜違う違う。そんなんだったら、鼠の方が上手いさ。答えは、知性の発達とそれに伴う感情の進化さ」

 

椅子からゆっくり立ち上がったヴィルムは、大窓の向こう側…その眼下に広がる地球を見下ろす。

 

「人間は動物のように身体的な武器が全くない。硬い物を簡単にへし折る腕力や脚力。獲物の身体に食い込んで引き千切る牙と咬合力。遠くにいるモノを察知する超音波のソナー。身体にダメージを与える毒。そういったものがまるでない」

 

「じゃあ…」

 

「けど!」

 

何か言うとしていたデルタに甲高い声でそれを遮らせたヴィルムは、話は終わりじゃないと続けていく。

 

「代わりに知性を発達させ多種多様な感情を生み出した。それが人の強みだよ。そしてそれは環境に対して生き残る為の知恵を蓄えるのに大いに役立ち、次の世代へと伝えていく。

遺伝子だけではなく、知恵を受け継ぎ、それを更に良い方へと改変させていく。人間以外の生物やアマゾンでは決して成し得ない芸当なんだ」

 

人は生活を良くしていく上で、その為の知恵を技術という形で次代に受け継がせた。

廃れてしまったモノもあるが、そこから更に良いものへと変化していったモノもある。

そうやって人は文明の水準を向上させていき、確固とした生息圏を得るに至った。

天敵さえいないほどの生息圏は楽園に等しかっただろう。

しかし、天敵はいた。

 

叫竜……ではなく、それよりも前から存在していた……『人間』という最大の天敵が。

 

「まっ、でもそれに並行して人を殺す為の武器や兵器が発展していったのも事実だね。人を脅かすのは、他でもない人だったワケだ」

 

「ふむ……まさしく、自らの首を締めるが如し愚かしさ……いや、これは我等にも言えたことだな」

 

人と人が争い、その結果として死ぬというのなら、アマゾンもまた然りだ。

彼等ナインズはヴィルム直属の親衛隊であり、ヴィルムにとって敵となる存在の排除を担っている。

それは人間もそうだが、同種であるアマゾンも含まれている。

というより貴賎や選り好みというものがない。

ヴィルムが消せと命じれば、人であれアマゾンであれ殺す対象となる。

そんな所業をしているにも関わらず、人という種を同族同士で殺し合う愚か存在と。そう断じるのはお門違いと察したベータは、己の発言を心中で戒める。

そんなベータのすぐ側で、"彼"は声を上げた。

 

 

「ヒッ。長い長い話も結構だけどぉ、そろそろ本題に入りませんか〜?

 

 

ブラウンカラーに前の方の右側の髪をボブカットのように切り揃え、それで右目を隠す真紅のノースリーブシャツを纏った少年『ナイン・シータ』は、ねっとりとした口調で本題に移すよう切り込んで来た。

 

そして、それに便乗する声もあった。

 

「シータと同意見なのは癪ですが、私もそう思います。我々をここへ招聘した理由を是非お聞かせ願いませんか?」

 

ナインズの中でも特に大柄なその体格は、コドモと称するには無理に感じ、オトナと呼ぶ方が正しいと錯覚してしまうだろうが、紛れもなく彼もナインズのメンバーであるコドモ。

黒い軍服に金髪をオールバックへと後退させた髪型の浅黒い肌の彼の名は『ナイン・ゼータ』。

目かけだけでなく、単純な戦闘能力と戦術・戦法ではリーダーであるナイン・アルファをも凌ぐ程。

そんな彼に催促されたヴィルムは、思い出したような様子で話の路線を戻すことにした。

 

 

「おっとそうだね。とにかく言いたいのは今回の十面姫暴走の件、君達の出る幕はないから、余計な手を出さないって方向でよろしく♪」

 

「……そ、それだけなのですか?」

 

 

困惑を隠し切れない様子で言ったのは、『ナイン・エータ』。

赤茶色のフードの付いた黒いパーカーには、ドロッとした感触をイメージさせるオレンジ色のうねり模様や飛沫のペイントが施され、顔には同じデザインのペイントがある布で口と頬以外の顔の大半を占めた格好のエータは、なんとかそれだけではないことを祈りながら問いかけるも、結果は変わらなかった。

 

「それだけ。他に何もないさ」

 

"なら何で連絡じゃなくて集めたんだよ……。"

 

ヴィルムの補佐としているプレディカがそんな言葉を心中で零す。

そもそも十面姫が暴走したからと言って、実質的な損失はヴィルムにはない。

今の十面姫は怒りで我を忘れているに近い状態だ。

冷静な思考ができない故に自身を裏切り、アレニスを殺したヴィルムがいそうな場所…プランテーションに目星をつけ、破壊する。

あまりに単純過ぎる思考の下に生まれた理屈で行動しているのだ。

ようはプランテーションに該当するモノを手当たり次第破壊しているのである。

プランテーションをいくら破壊されようと大して問題にはならない。ヴィルムの目的の一つがAPEという巨大な組織そのものを崩壊させる事にある。

最高意思決定にして絶対権力者である七賢人を殺した以上、もはや崩壊させたも同然だが、これで終わりというわけではない。

まだAPEには利用価値がある。

だからこそ、巨大科学国家機関としてAPEは未だ完全な崩壊を迎えてはおらず、その舵をヴィルムが裏で取り仕切っている。

 

「いやいや、直に会わないと分かんないもんでしょ? 冗談の抜きのマジだってことが(・・・・・・・・・・・・・・)

 

和かな笑顔で振り返るが、その瞬間に解き放たれた明確なヴィルムの殺気はナインズ全員の身体へと突き刺さり、あらゆる行為や言葉の一切を封じてしまう。

 

「絶対に手を出さないでね? 私、自分の楽しみを踏み躙られるってのがすっごく嫌いだからさ♪」

 

至って冷静に、普遍的に明るく答える様は、彼女が年相応の少女であるかのように錯覚させてしまう。

しかし、決して彼女は普通の人間などではない。

アマゾンですらない超常然とした謎の生命体『ヴィルム』なのだ。

ナインズの面々に私語を許さない圧倒的な威圧感を出せる時点で、それを物語っている。

 

「ふふッ。分かってくれたなら、それでよし! これで本当に私から言うことは何もないよ」

 

更に笑みを深めて、ヴィルムは殺気を消した。

 

(なんて殺気だ……)

 

プレディカは背中から流れていく汗を止めることができず、ただただヴィルムの殺気に何もできない有り様だった。

怖気付く。今の状態をそう言うのであれば、とても当て嵌まっているだろう。

しかしそれはプレディカが単にそういった気質の持ち主というだけの話ではなく、アマゾンの強者に相応しい気質と実力を兼ね備えたナインズでさえ、プレディカと全く同じように冷や汗を大量に流し、バレないよう配慮しつつ身体を震わせてしまっている。

 

それだけ彼女が恐ろしい存在であるというのが、明白なのだ。

 

 

「さて。どーなるかな〜? あ……ヤツもいるのか」

 

 

楽しそうな気分から一変。不機嫌な気分へと転じてしまった。

 

さながら、ピクニックに出かけようとしたら生憎の雨だった時のような

…まさにそんな心情のソレだ。

 

(コロニーの時は予想外な事態もあって見逃してあげたけど、今回はお引き取り願おうかな。あんなイレギュラーがあったんじゃ、みんなに悪影響だし)

 

やるべき事を予定として組み上げたヴィルムは、この世界に混入したイレギュラー……門矢士を排除する為に動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 






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