一ヶ月投稿できずにすみませんでした……。
最近、諸々あって忙しかったので……。
「で、感想は?」
ミストルティンのミーティングルームに男の声が広がっていく。
その主は、門矢士。
13部隊とハチ、ナナ、鷹山の3人を前にパイプ椅子に腰を下ろし、脚を組む姿は太々しいことこの上ない。
が、まずもって言いたいのは其処ではない。
「ヴィスト・ネクロの発足経緯にそれを仕切ってるボスの十面姫の情報
……4Cが掴めなかったもんをこうも手に入れられるってどうなってんだよ」
鷹山の手には士によって纏められた資料としての紙の束があり、そこにはヴィスト・ネクロという組織の詳細な情報が記されている。
おまけに写真まで付いていて、これまでに行って来た非人道的でおぞましい悪質さを感じさせる実験の『結果』がありありと写っていた。
溶原性アマゾン細胞を完成させるまでに行った、コロニーの幼い孤児を使った人体実験。大半が全身から血を流し、人かと思うほどに身体の組織が崩壊。
最終的に人の形を保てない肉塊と化して死亡。
更にアマゾネストの兵器化研究では素体となる人間を男女年齢問わず、生体改造などの実験台にし、大勢が犠牲となった。
その詳細が綴られた文章を読んで、コドモたちの心中は穏やかなものではない。
しかも、そのすべてにナオミが…ヴィルムが関わっているというのだ。
「大丈夫? イクノちゃん……」
「……うん。大丈夫……平気……平気」
ココロの心配に対し、イクノはやはり顔色が優れず青白く悪い。
そして、まるで自分に言い聞かせているように答えている。
イクノの精神状態は相当なものだ。
「なんだよ……これ……こんなもんに……あの人たちは……」
だが、それはイクノだけの話ではない。
ゾロメもまた精神的に来ていた。溶原性アマゾン細胞がいかに悍しく醜悪と唾棄すべきものなのか。
その魔の手に、ケンゴは……ハルとハルカの3人の家族は無慈悲に壊された。
あまりに惨い事実を前に項垂れるゾロメの肩にミクが手を添える。
下手に言葉をかけても無意味だ。それをよく分かっているからこそ、こんな行動でしか彼の心を慰める手段が見つからなかった。
「……ナオミは、なんでこんなことを……」
ヒロはかつてのパートナーの所業に対し、どう言えばいいのか。そんな表現しようのない悲観的な感情が渦巻いていた。
彼女は言った。『コドモが幸せに暮らせる未来を作る』と。
同時にそれは決して嘘ではないと言っていたが、こんな倫理や道徳といった概念を吐き捨てたような非人道的実験をして、本当にそれが嘘じゃないと言い切れるのか。
仮に嘘じゃなかったとしても、決してヒロは認めない。認めたくない。
こんなことを平気で行い続けた先にある未来を、受け入れるつもりはヒロにはなかった。
それは13部隊のコドモたち全員の総意と言っていい。
「……ッ」
「? ゼロツー?」
不意に口元を押さえるような仕草をしたゼロツー。何処となく、焦燥感を滲み出したような……そんな顔色を浮かばせていた。
「どうしたの?」
「!!ッ……な、なんでもないよダーリン」
心配故の声かけにゼロツーは、口元を押さえたままそう言って、そっぽを向く。
いつもと違う様子にヒロは再度問いかけようとしたが、それよりも先に士の言葉が遮る。
「まっ、混乱するのも当然だ。だが現実だってことは認めてもらうぞ」
有無を言わせない圧の篭った視線と鋭い言葉は、コドモたちに反論する自由を奪ってしまう。
士の言うことに間違いはない。
冗談でも、悪戯でも、ましてやタチの悪い劇の類いでもなく現実にナオミは敵だった。
今更と思うかもしれないが、やはり多少日を跨いだ程度で易々と受け入れるものではない。
彼女と親友の間柄だったイクノは……特にそれが強い。
「ナオミってヤツも問題だが、今見るべきなのは十面姫だ。アイツは今、第13都市を目指して移動している。俺の目立てだと一週間後には
追いつくだろ」
「……俺らと一切関係がない訳じゃないが、具体的な理由でもあんのか?」
この都市に幹部を送り込み、尚且つ胸糞悪く面倒なモノを残してくれたヴィスト・ネクロ。
それ以外でもコロニーで戦いを繰り広げはしたが、単にそういったこれまでの因縁だけを理由にここへと襲撃して来るのか?と問われれば、おかしいと言う他にない。
十面姫はヴィスト・ネクロを束ねる首領。決して前線には出ず、部下に指示を出して動かす事で目的を達成するのが彼女の行動方針だ。
それを捨て去り、組織を束ねる首領がわざわざ単身で出向いて来るなど普通なら有り得ない。
何か理由がある筈。
鷹山の考えは、その一点なのだ。
「そこの資料の通りナオミはお前たちだけじゃなく、ヴィスト・ネクロをも裏切った。そのことが引き金となり、怒りの激情に任せて暴走してるって話だ。で、ナオミがご執心のお前らを知ってるとなれば……予想はできるだろ?」
士の言葉に鷹山自身の抱いていた疑問が解消された。
実に単純な話だ。自らを裏切り、幹部を殺した者への見せしめを行うつもりなのだ。
"自らの怒りを買った代償を支払わせる"。
たったそれだけを理由にナオミにとっては重要な存在である13部隊のコドモたちを始末することで、ナオミに対しての"復讐"を達成しようとする。
それが暴走する十面姫の目的。
「はぁぁ……冗談抜きで面倒なことになっちまったな」
疲れたような溜息を吐きながら、鷹山はそう愚痴る。とは言え、そんなこと言っても何も始まらないどころか、自分たちが望まない終わりを迎える破目になるので、どっちにしろやるしかない。
「…仕方ありません。最善を尽くしましょう」
ハチは鷹山に相変わらずの無表情でそう言うと、端末を操作し前方の巨大モニターへと数時間前に入った緊急入電の映像を13部隊に公開した
。
「とりあえずコレを見てもらいたい。第12都市を襲った存在……十面姫の映像だ」
※ ※ ※
燃える。
あらゆるものが業火に包まれ燃えている。
さながら、地獄の体現とでも言うべきか。そんな光景の中をよく見れば、人らしき黒いモノがちらほらと見える。
動かない様子を見るに既に命を失っているようだ。
そもそもそれは、人が半分ほど
。生きている筈がない。
『あ、ああァァァァァァッッッ!!!!』
『熱ッ…ギャアアアアアーーーーーッ!!!!』
『た、助け…』
そして聞こえるのは、第12都市を守る12部隊のコドモの阿鼻叫喚の悲鳴。
様々なタイプの叫竜を相手に敗戦することなく勝ち誇って来たベテランに位置する彼らだが、叫竜ではなく、赤い鬼の異形となれば話は違ってしまう。
しかし彼等は当初問題ないと踏んでいた。
突如として都市内部の地面を砕き、その豪腕で手当たり次第破壊する鬼の異形は叫竜とそう大差ないと。根拠のない自信のせいで高を括っていたが、いざ戦いになるとそれがいかに愚かな行為だったのか。
12部隊は、死をもって知ることとなった。
1機目は一番槍とばかりに突貫し対象を差し貫こうとするが、尋常ではない握力有する手に捕まってしまい、グシャりと。
紙屑を丸める行為の如く、頭を握り潰してしまう。
恐怖は一気に伝播した。思わず数歩後退してしまった残りのフランクス4機に対し、凄惨極まる虐殺は始まった。
2機目のフランクスが胴体の上と下に泣き別れ、そのまま頭を潰される
。
3機目、4機目は十面姫の十の顔の口から解き放たれた業火に焼き尽くされた。
恐怖、混乱、苦痛の三つが混ぜ込んだ救いを求める12部隊の声に耳を傾けて、答える者は誰もいない。
十面姫に慈悲はない。慈悲を願って乞うたとしても、そんなこと彼女の知ることではない。
収まらない怒りを少しでも鎮める為に十面姫はその対象が13部隊でなかったとしても、手を止めることはない。
ただ、ひたすらに。
相手の命が消え果てるまで破壊と殺戮を止めるのとはない。
そして僅か2分。たった2分で12部隊フランクス全機は修復が不可能なほど大破され、乗っていたコドモたちの生命は恐怖に満ちたまま、終焉を迎えてしまう。
これら一部始終はドローンが撮影した映像だが、何らかの原因かそこから先は途絶しており、詳細は不明。
そしてこの映像がLive中継だった為、APE本部や全プランテーションに緊急入電として、即座に通達、本部が調査部隊を送り込んだ結果……
。
第12都市は、その科学の叡智たる威光を失った瓦礫の山と化していた。
※ ※ ※
「以上が第12都市で起きた事の顛末だ」
映像を見ながら、現時点で起きている事態に関する情報を口頭説明で話し終えたハチは、最後にそう締め括った。
対するコドモたちの反応は大凡予想通りと言えた。
何も言わないが、それでも顔には出る。
恐怖。混乱。動揺。
そのどれもがマイナスなもので、少なくとも正気ならプラスの感情は有り得ないが。
「あ、あんなの……どうやって……」
「どんな敵でも、倒す術ってのは必ずある」
弱気なゾロメの言葉を遮るように、士は言う。
「十面姫は見た目通り、もう人間の形をしてない。奴は独自に開発したナノマシンを使って自身の身体を生体改造した。一度や二度じゃない。
何度も繰り返した結果あの姿になった」
人間の身体を化け物と呼ぶに相応しい姿にしてしまうその所業は、倫理観・人道など塵と同じ無価値なモノと思わなければ、到底出来ない。
それを平気で………しかも、よりによって自らの肉体そのモノをあの様な姿に変えてしまうなど、『狂気』と呼ぶ以外にあるのか。
「見た通り、純粋な腕力やフランクスの装甲を溶かしちまう炎。厄介と言えば厄介だ。だが奴の炎は何度も際限なく吐き続けられるモンじゃない。連続して炎を出し過ぎれば体内に熱が篭っていく。そして限界値を超えると…」
「熱暴走で、爆発する?」
「正解だ優等生」
ヒロの出した答えに士は不敵に笑う。
「意図的に熱暴走させるんだ。ただ、向こうも自分の弱点を理解していない程バカじゃない。まだその程度には理性が残ってるみたいでな」
十面姫の怒りは、絶頂状態といっていい。
下手すれば目に付いたという理由だけで凡ゆるモノを破壊し尽くす程なのだが、それでも、己の弱点を突かれる可能性を考慮できないほど愚蒙という訳ではない。
「取り巻きがいる。正確な数は不明だがその中にコイツもいた」
ここで士がナナの端末を乱暴に分捕り、手際良く操作する。あんまりな対応にナナは睨むが、士は気にせずモニターへ視線を移す。
「! コイツは……」
真っ先に反応したのは鷹山。映っているのは見間違う筈もないヴィスト・ネクロの幹部ザジス。
「た、たしかコイツ、ナオミと戦って……ナオミが倒した筈……だよな?」
「う、うん。俺も見てたし」
「まさか…生きてたの?」
続いてゾロメとフトシがそう言い、イチゴが生存していたという可能性を挙げる。
そしてそれは的中したものだった。
「どうやらお前達の中では死んだってことになってるらしいが……生憎とコイツは生きてる。アマゾンは中枢臓器さえ無事なら、例え臓器だけになってもそこから数週間程度の時間で五体満足に復活できる。ようはその中枢臓器が破壊されずに生きてたんだろ」
普通の生き物なら、間違いなく上と下に身体が分断されてしまえば死ぬだけだが、アマゾンの生命力は既存の生物のソレを超えたものである。
アマゾンに成れるヒロと鷹山は何も言わないが、改めて口に出される形で説明されると否が応でも自覚されてしまう。
「ヴィスト・ネクロの幹部はコイツ一人だけだ。他に二人いたが一人はヴィルムに殺されて、もう一人は俺が倒した。その点に関して言えば
不幸中の幸いかもしれんな」
士はそう言って端末をナナへと渡す。
「取り巻きを俺と赤アマゾンが抑え、お前たち13部隊は奴を挑発させつつ追い込んでいけ。そうすりゃ、奴の思考は短絡化して炎を出し続けるしかなくなる……そういう癖の持ち主だからな」
「おい。赤アマゾンってなんだよ。鷹山だ俺の名前」
十面姫討伐作戦の内容を分かり易く説明すると同時に、鷹山から呼び方に対する批判の声が上がる。が、士はハイハイとばかりに手を振り、軽くスルーした。
「これでだいたいの方針は決まった訳だが、何か異論はあるか?」
「あるぞ」
コドモたちからは特になかった。しかし大人側である鷹山は異を唱える。
「なんだ赤アマゾン」
「……随分と自信を持って言うがよ、さすがに相手のことを安く見過ぎてないか?」
呼び方が全く変わってない事に関しては、とりあえず置いておくとして
。
確かに相手がいかに憤怒の激情に駆られていようと、そんな挑発如きで上手くこちらの思惑に乗ってくれるとは思えないだろう。
そんな簡単な相手であれば、コロニーもAPEもヴィスト・ネクロに苦労させられることなどなかった筈だ。
「上手くいかなった場合のプランも勿論ある。俺が直接、奴を叩く」
まさかの脳筋理論である。
「………………なら最初からお前がやれよ。頭に脳味噌あんのか?」
額にピキリと血管を小さく浮かばせて苛立ち混じりに鷹山はそう言うが、まったくもって同感できる言葉だ。
しかし士は、それを鼻で笑う。
「これはお前達の物語だ。俺はせいぜいゲストに過ぎん。俺が直々に手を下すのは
物語。そんな戯言を嘯く士の顔は、しかし馬鹿にするような含み笑いなどなく。
あまりに真剣な目で、堂々と言ってのけた。
※ ※ ※
十面姫ではないが、叫竜が13都市に接近しているとアナウンスが伝わり、同時に警報がけたたましく鳴り響く。
コドモたちはフランクスへ搭乗し、すぐに迎撃へと向かったが……
「ぐっ! ハアアアアァァァァァッッ!!」
イチゴの指揮を待たず、ミツルとイクノが搭乗する『クロロフィッツ』が先走りを始めてしまう。
『ミツル! 勝手に行動しないで!!』
イチゴがデルフィニウムを介してそう叫ぶが、それに聞く耳を持たず。
目標である叫竜は四足歩行で移動しており、その形状は動物の象に似ている。あの長い鼻を彷彿とさせる管のような器官に加え、団扇のような象の耳まである。
眼球はないが、それと同じ役割を果たすと思われる長方形型に引き伸ばされたバイザーが青く光っている。
そんな象型叫竜に向けてクロロフィッツは、ウィングスパンからエネルギー弾の雨を炸裂させる。
弾は外す事なく象型叫竜に当たっていくが、とうの叫竜自体にこれと言ったダメージは見受けられない。
「クソッ!」
堪らず悪態を吐く。
その様子を外から見学していた士は何処か冷めた目で見ていた。
「これはまた……随分と抱え込んでるみたいだな」
ふと零す独り言。まるで心の中でも見透かしたような意味深な台詞だが、これはおそらくミツルに対して向けられたものだろう。
無論、ミツルに士の人知れぬ吐露が聞こえる筈もなく、彼はフランクス内のマグマエネルギー全てを利用し強力なエネルギー砲を放つ気でいる
。
その為のチャージを今始めたところだ。
「……全く。世話の焼けるガキどもだ」
そう言って士は右側にオーロラカーテンを展開する。直接フランクスに入ってミツルを止めようとしたのだ。
戦闘中で激しい行動をしていても、士の空間移動をもってすればノーリスクで入り込めてしまう。まさにチートのソレだ。
「けど、そこが彼等のすごく素敵なところなのよ」
すぐ隣から声がした。
士の独り言に応えるその声の主を士は知っていた。
「ナオミ……いや、ヴィルムと言った方がいいか?」
「どっちでもどーぞ。通りすがりの仮面ライダーさん」
かつて。Code703という番号と、ナオミという名を貰った少女は軽薄な笑みを浮かべて、士の二つ名を口にしながら何気ない挨拶を交わした
。
世界の破壊者と世界の創造者。まさに対極に位置する二人が今、邂逅を果たした。