ダーリン・イン・ザ・アマゾン   作:イビルジョーカー

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 なんとか今月中に投稿できました……。
 一話分を書き上げるだけでも結構大変です。


胎動 part2

 

 

 

 

 植物は寡黙だ。一つたりとも何も言わずにただ根を生やし、時として花を咲かせ、実らせる。だから、人といる時よりも気が落ち着ける。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

 少なくともミツルはそう思っており、ラウンジを逃げるように去った後で温室へと入り込んだのは、そんな理由があったからだ。

 息を乱し、悪態を吐くミツルの精神は酷く荒んでいた。原因はつい先程鷹山とゼロツーの二人に指摘された"パートナー殺しへの覚悟"の有無。

 勿論ミツルにイクノを殺すという意志などなく、確実に叫竜を倒したかった為に大技を放ったのだが、フランクスへ掛かる負荷を一手に担うのは他でもないピスティルだ。

 だから、イクノは倒れてしまった。大技を放つ際の負荷を肩代わりしたことで、彼女自身の身体に相当のダメージを負わすことになってしまった。

 それも一歩間違えれば……確実に命を落としていた程に。その点に関してはミツル本人も否定できない。

 しかし。それでもミツルの中で結果を残したいという衝動があり、今回起きてしまった要因の一つとも言える。

 その衝動の発端は、2日前にミツルが見た夢にあった。

 まだ幼く盲信的にヒロに憧れ、しまいには彼とフランクスに乗って戦う夢まで抱いていた頃。心の奥底に仕舞い込んだ、かつての情景。

 フランクスに乗れるのは男女ペアでなければ動かせないにも関わらず、ヒロと一緒に乗って戦い、叫竜を倒すと息巻いていた様は今のミツルが見れば羞恥に悶えてしまうかもしれない。

 恥ずかしい話だが、それだけヒロを慕い信頼していた証拠なのだ。

 その為の努力もした。元々身体が弱かったせいか他のコドモと比べて数値が低い為、エリキシル注射や危険度の高い劇薬を数種類服用するといったやり方で数値を徐々に伸ばしていった。

 当然副作用の苦痛に苛まれることもあった。

 下手すれば身体のみならず、精神にまで異常を来す場合も想定されたが、それは稀有に終わり、正式にフランクスのパラサイトとしての資格を得ることができた。

 得たには得たが……結局、その努力は他でもない信頼や敬慕を抱いていたヒロによって裏切られてしまった。

 だからこそ、ミツルはヒロを認めない。

 どれほど仲間の為に尽くそうと、どれだけ戦い叫竜を倒そうと……かつて受けた心の傷が『許すな』と疼くのだ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、……ぐっ! あぁッ!」

 

 しかし、それとは別に肉体的な胸の痛みが突然ミツルを襲った。

 心臓に直に針でも刺したのかと思う程に強い痛みが一瞬の間だけ襲い、すぐに消えてしまう。

 

「? ……なんだったんだ」

 

 突然生じて、突然消える謎の胸の痛み。

 頭の中に疑問符が上がるが、ここで考えても答えなど出ないだろう。

 

「ミツルくん……」

 

「!! ッ」

 

 突然の声。驚いて振り返えれば、そこにいたのはココロだった。その表情は何に対してなのか憂いを帯び、やや曇っていた。

 太陽のような暖かい笑顔をいつも振り撒いている彼女にしてみれば、あまり見せない表情だろう。

 

「……わざわざ追ってきたんですか?」

 

 しかし、そんなことを気にする程、ミツルの心は決して穏やかとは言い難かった。

 

「あ、あの……」

 

「笑いたければどうぞ。あんな散々言われて、僕は何も言い返せず逃げたんですから」

 

 逃げ出した己を卑下するミツルは、その顔を見せまいとココロに背を向けた。悔しさに滲んだ顔など見られてたくはないし、プライドの高いミツルにしてみれば一生の恥ものだ。

 

「ううん。違うよミツルくん」

 

 ココロは、ミツルの猜疑心に満ちた言葉を否定する。

 

「心配だから、来たの」

 

「心配? 何故貴方が僕を心配するんですか? 訳が分からない……」

 

 ミツルは自分の過去の記憶を思い返してはみるが、別段自身とココロの間に接点などなかった。

 たまたま13部隊に一緒に配属され、同じ部隊の仲間として戦っているだけに過ぎない。

 それだけの間柄だ。

 なのに自分に気をかけるココロの意図や動機がミツルには理解できなかった。

 

「…………それは」

 

 何かを言おうとしたココロ。まるでその瞬間を見計らうかのようにソレは起きた。

 

「ッ! ……ぐっ……」

 

 突然胸を押さえ、苦悶の声を漏らしたミツル。そしてそのまま膝をつき

、蹲る態勢で苦しみ始めた。

 

「ミツル君ッ!」

 

 すぐに駆け寄るココロ。しかし何故苦しんでいるのかなど分かる筈もない。せいぜい呼び掛ける気休め程度しかできない。

 

「!ッ」

 

 だからこそ、携帯用の連絡端末でナナへ知らせようとした。

 しかし、その手を握り締める形で阻止したのはミツルだった。

 

「余計なことを……するなッ!」

 

「きゃッ!」

 

 何の配慮もなく、荒々しく。ミツルは掴んだココロの手首を振り払う形で突き飛ばす。

 いきなりの行為に困惑した様子を浮かべるココロとは対照的にミツルは、苦悶と憤怒に塗り固められたような凄まじい形相で睨みつけて来る

 

「こんなの、大丈夫ですよ! 僕を舐めるのも大概にして下さい!」

 

「! ッ……そんなこと言ってる場合じゃないよ! 

 早く診て貰わないと!!」

 

「大丈夫だって言ってるんだよ! ?! ッ」

 

 心臓が一際跳ね上がったと思えば、その途端、より強い痛みがミツルを襲う。

 大きく声を荒げたのが原因なのか。その辺りは判然としないが、とにかく痛みが一層強まったのには違いない。

 

「うぐッ……うぼぉぉえぇ……」

 

 更に胸の奥から迫り上がって来る強烈な不快感に伴い、胃の中のモノを勢いよく吐いてしまった。

 目も焦点が合っていない。誰がどう見ても非常に危険な状態にあるのは言わずもがなだ。

 

「ミツルくん、しっかり! ミツルくん!!」

 

 仰向けに倒れ込み、もはや口さえ訊けなくなってしまったミツルをココロは必死に呼び掛ける。

 そして、それは起きた。

 

「……ッ! ガァッ、アァァッッ!!」

 

 少しばかり沈黙していたミツルが再び声を上げた。そして、身体の至る所から蒸気のようなエネルギーが噴き出る。

 

「ウ、ウソ! これって!!」

 

 それは紛れもなくアマゾンが人の姿を捨て、本来の獣人の如き姿を晒す際の特徴だった。

 

「ウグゥゥ、ギッ、アァァァァァッッ!!!」

 

 ココロの驚愕を尻目にミツルの肉体は大きく、凄まじいスピードで変化していく。時間はそう掛からない。

 その時は、すぐに垣間見せた。

 

「ウウゥゥゥ……」

 

 腹の底から絞り出したような唸り声を漏らし、ミツルは1匹のアマゾンと成り果てていた。全体的に黒みを帯びた紫の色彩に染まった外殻と皮膚組織。

 身体と同じ紫の複眼が光り、口部は鳥のソレを彷彿とさせる曲線を描いたもので、アマゾン・アルファのような牙らしい箇所は見当たらない

 

「■■■■■■■■■─────────ーッッ!!!!!!!」

 

 人らしさをかなぐり捨てた、完全なる獣の咆哮。

 それは紛れもなく、新たなるアマゾンの誕生を告げる産声とも言えるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「刃。例のアレ……本当なの?」

 

 オトナ、それもパラサイト育成に携わる役職の者だけが入ることを許された研究室の一室。

 そこを訪れたナナは取りつく島もない様子で、顔も神妙さが滲み出しながら、そんな問いを鷹山に投げ掛ける。

 鷹山は、投げ出された問いを素直に受け取った。

 

「ヒロのことだろ? 嘘言ってどーすんの」

 

 ナナに背を向け、双眸を研究用の顕微鏡の接眼レンズへと押し当て、何かを観察しながら淡々とした口調で答える。

 

「人間の遺伝子を利用して生み出したアマゾン……人間の身体にアマゾン細胞を投与して適合させた人工アマゾン、つまり俺とは全くもって真逆のタイプってわけだ」

 

 顕微鏡から目を離し、くるりと翻した鷹山は、ナナと面持って向き合う。

 その瞳に動揺はなく、胡散臭さもない。

 彼の言うことは間違いないと証明しているに等しかったが、それでもナナは納得できずにいた。

 彼女がここを訪れた理由……それはヒロのことだ。

 コロニーでカレーをご馳走した際、渡されたタブレットの中に収められていた研究資料。

 それはアマゾンライダーとなったヒロの精密検査の結果なのだが、明らかに純粋な人ではなく、人間の遺伝子をアマゾン細胞へ組み込む形で誕生させた他に類のない、全く新しい形のアマゾンであることが判明した。

 幼い頃から彼の世話を担当していた彼女にしてみれば、到底受け入れられるものではない。

 

「ヒロは、人間だった筈よ。何年もあの子を世話して、検査にも立ち会ったし、私自身検査に参加したことだってある。なのに、おかしいわよそんなの……」

 

 13部隊は幼少の頃、ナナとハチの世話を受けたコドモたちで構成されている。

 世話を担当していたということは、当然彼等の健康管理も一任されている訳で、身体の精密検査にも立ち合い、参加もしていた。

 そんな彼女がヒロのことに気付けなかったなど、普通に考えて有り得ないし、そもそも結果に出る筈なのだ。

 なのに、当時なんら異変は一つも見受けられなかった。

 

「……まぁ、大方あの得体の知れないヴィルムの野郎が細工したってところか。じゃなきゃ他に納得の行く答えなんてないしな」

 

 鷹山はそう言うが、もし、そうだとしたら。

 一体いつの頃から彼女はコドモに成り済ましていたのだろうか。

 例の擬態や分裂能力を使ってオトナの姿になり、ガーデンやプランテーション。コスモス内部などのAPE関連のあらゆる場所で暗躍していた可能性だって有り得る。

 そう思うと背筋にしとっと舐めるような悪寒がナナを襲った。

 何を見て。何をしたのか。それが分からない相手ほど不気味なものはないだろう。

 

「……ヒロには、この事をどう話すつもりなの?」

 

 ともあれ、ヒロが普通のコドモとは全く違う特異な存在である事が分かった以上、問題はソレを本人に言うか否か。

 その判断に関しては、ナナは言わない方がいいと考えている。さすがに普通とは言い難いが、それでもヒロは自身のことを"コドモという枠に入った人間"だと思っている。

 そんな彼に真実を話せば、必ず動揺はするだろう。それだけならまだ良いが、自らの存在意義に疑問を抱き思い悩んでしまった場合、一体どうなるのか。

 最悪アマゾンとしての力が暴走を引き起こし、同じ部隊の仲間を手に掛ける……など。そんな悲劇がナナの脳内に映し出される。

 しかし、対する鷹山は違った。

 

「その点は心配ないよ、ナナさん」

 

 あくまで、そう言う。無論根拠なく言っている訳ではない。

 

「ヒロにはゼロツーがいる。信頼できるパートナーがいればどんな時でも、すっげーヤバい状況だろうがアイツは大丈夫なんだよ。そんな感じに覚悟を決めたからな。……むしろ、問題なのはゼロツーの方だよ」

 

「ゼロツーが?」

 

 ナナは疑問符を浮かべるが、すぐにその理由に至った。

 

「叫竜化……」

 

「最近数値上がってんでしょ? で、アイツもそこんところ気にしてるみたいなんだよ」

 

 ゼロツーが叫竜の血を引いているのはもはや周知の事実だが、その特異な性がゼロツーの心を蝕んでいることは博士や鷹山、ナナとハチしか

知られてはいない。

 今の現状においてゼロツーは人の姿と理性を持っているが、それは"調整"によるものだ。

 しかも、その"調整"は絶対的なものではなく、最近になってその調整が段々と意味を為さ無くなって来ている。

 それはつまり……ゼロツーが人の姿と心を捨てて叫竜と化す可能性が高くなる事を意味している。

 故に鷹山はヒロよりもゼロツーの方を危惧している訳だ。

 

「まぁ、そこん所はフランクスの爺さんに任せるしか……」

 

 鷹山は、言葉を最後まで言わず、突然沈黙してしまう。

 

「? どうしたの?」

 

 当然それを見たナナは怪訝に思う。すると鷹山は立ち上がり、一言告げる。

 

「アマゾンの気配がする。話はまた後」

 

 そう言い残し、ナナの静止の声も聞かず。鷹山はすぐに部屋を出て去っていってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミストルティン 温室

 

 

「ココロ!」

 

 ヒロの叫びが温室内に反響する。

 飛び出すように出て行ってしまったミツルを心配し、ここに来るかもしれないと温室に来たのだが、扉を開けた先に待っていたのは1匹のアマゾン。

 しかも、今そのアマゾンがココロを獲物として狙いを定めている。この状況を見て何もしないという選択肢はヒロにはない。

 

「アマゾン!」

 

 すぐさま腰に装着されたベルトのグリップ部分を握り締めて回し、アマゾンの名を叫ぶ。

 ヒロの身体は緑色のオーラ状のエネルギーを放ち、アマゾンライダー、アマゾン・イプシロンへと姿を変える。

 

「ガルアァァァッッ!!!!」

 

 咆哮を上げ、標的をココロからイプシロンへ移り変えたミツル……いや、"ヤタガラスアマゾン"は真っ向からイプシロンへと突進。

 衝突と共にイプシロンに組み付き、それを何とか引き剥がそうとするがヤタガラスアマゾンは全くに意に介さない。

 そうこうしている間にヤタガラスアマゾンは両脚に力を込める。さしずめ、バネと同じ原理で込めた力を解放し、その際に生じる筋力の爆発

を利用することでイプシロンの身体を抵抗させる暇も与えず押し出す。

 すると、イプシロンの身体が宙に浮かぶ。

 そしてそのまま力のベクトルに従い後方へ……温室の扉から外へ吹っ飛ばされてしまった。

 その際に温室の扉が激しい打撃音と共にグニャリと曲がり、窓ガラスが飛散。

 幸いなことにココロに被害は出ずに済んだが、状況は決して変わってはいない。

 

「ギギッ! イィィッ!!」

 

「こ、の! やめ……ろォッ!!」

 

 馬乗りになり、拳を振り下ろしイプシロンの顔面へ叩き続けるヤタガラスアマゾン。拳による打撃は攻撃力という点ではそれなりに威力はある。

 だが、所詮それだけ。

 威力はあっても動きが単調で、対処しやすい。

 それを瞬時に見抜いたイプシロンはヤタガラスアマゾンの拳を左右共に両手で包み込む。

 止められた事に対し、僅かな動揺が生まれたのを見逃さず、その隙に付け入れるように上半身を勢いよく起こし、すかさず頭突きを見舞いする。

 

「ガッ! ……アァッ!」

 

 呻き声を上げ、馬乗りをやめて後ろへ転がる。

 あまりに滑稽な様だが、これでイプシロンは馬乗りの拘束から解かれ追撃できる。

 

「ハァァッ!」

 

 まず始めに右ストレート。続いて胸部を蹴り、仰向け状態になったところを首を左手で掴んで右腕のアームカッターで何度も斬りつける。

 斬りつけられる度に黒い鮮血が舞い、傷が生まれていくがそれなりに再生能力があるのか傷はすぐ塞がっていく。

 とは言え、痛みはあり、ダメージ自体は肉体に残ってしまう。

 それでもヤタガラスアマゾンは弱る様子はなく、むしろ逆に凶暴性が増していた。それに伴って力も強くなっていきイプシロンの手から逃れようと踠く。

 

「……悪いけど、俺は君を殺す」

 

 これ以上は手では押さえられない。だから早々に息の根を止めなければならないが、罪悪感からか。謝罪のような一つの宣言が自然と零れる

 アマゾネストやヴィスト・ネクロのアマゾンのように元は人間だったのかもしれない。

 確かめようもないが、有り得るだろうその可能性を考慮してヒロは内心で謝罪しつつ、その命を刈り取ろうと右手を自身の顔まで近付ける形で持ち上げ、一気に中枢臓器のある胸部めがけ振り下ろしかけた時。

 

「やめてぇぇぇぇぇぇーーーーーーーッッ!!!!」

 

 ココロの悲鳴がイプシロンの動きを止める。

 

「そのアマゾンはミツルくんなの!! お願い! 殺さないで!!」

 

「え? ミツ……ル?」

 

 ココロへと移っていた視線をヤタガラスアマゾンへと戻すイプシロン

。アマゾンの姿のせいで表情は見えないが……信じられない、と顔に出しているのだろう。

 人間だった可能性を考慮していたとは言え、まさか知っている人物がそうだとは、さすがに思いもしないだろう。

 疑問と混乱。

 この二つに意識が持っていかれた為に、ヤタガラスアマゾンの首を掴んでいた手の力を、イプシロンは気付かずに緩めてしまう。

 それが大きな隙となった。

 

「ガァァァァァッッ!!!!」

 

「!!ッ」

 

 ヤタガラスアマゾンが飛び起きる。

 そして、その鋭い嘴をイプシロンの首……喉元へと突き刺した。

 

 

 

 

 

 






 ヤタガラスは一般的に日本に伝わる神の使い的な妖怪の一種です。
 と言っても、この作中における世界観では妖怪ではなく、『この世界に実在するカラス科の鳥の一種』になってます。
 アマゾンの形態は基本的に生物の遺伝子に基づくものなので、ドラゴンやグリフォンといった幻獣、妖怪の類の姿は存在しません。







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