色々あって大分遅れましたが、何とか書き上げました。
今回はナインズたちにスポット当ててます。
???
大地を埋め尽くし犇くモノがあった。
個々に大きさ、形状は違えども色は黒に統一され、身体には青いラインが奔る。
紛れようも、他の何物でもなく人類の天敵とも言える存在…叫竜だ。
大多数を占めるのは手足のないマウスに針のような突起を背中に備えた形状の小さい個体であるコンラッド級。
そんな彼等の中を少数転々と、威風堂々と闊歩しているのは大型個体レーマン級。
形状は特に共通がなく、あるものはワーム型やゴリラ型、またあるものは旧時代の海ではよく見かけた軍の空母型など様々。
そしてその数……なんと数十万。
中々類を見ない大規模な叫竜の群れだが、何故叫竜がこのような群れを形成しているのか。
見た者は疑問に思うだろう。
彼等もそうだ。
「うっわ……すんごい数だね」
叫竜達の遥か頭上。空に浮かぶ輸送機に乗船しているナインズたち。
その一員であるナイン・デルタは夥しい数の叫竜を見ては、顔を顰めながら言う。
「これは妙だね。これだけの数、グランクレバスなら居ても不思議じゃないけど、ここはその
近辺じゃない」
「自分達にとって重要な場所を守る、というよりは何処かへ移動していると見れる」
ナイン・イプシロンは妙だと言い、それに続くようにナインズのリーダー、ナイン・アルファがそのような予想を組み立てる。
叫竜は、基本的に大群を組まない。
キッシングのように二つのプランテーションが存在していれば、そのマグマ燃料に惹かれて大量に押し寄せる事もあるにはあるが、それでも数十万という規模は例がない。
グランクレバスは叫竜の巣。それも叫竜を生み出し続けている特別な場所な為、とてつもない数の叫竜が犇き守っている。
そういった理由なら納得が行くが、ナイン・イプシロンが言った通り周辺にそういった重要拠点は存在しない。
あくまで大群を組み、ひたすら決まった方角へ向かっている。
「ふむ。なるほど。確かにコレは主も気にする訳だ」
自分達の主たるヴィルムがこの場所へ赴くよう命じたのか。その意味を察したナイン・ガンマは感慨深く頷く。
ヴィルムにとっても叫竜は自身が思い描く未来絵図にとって邪魔でしかないモノに過ぎない。
できるなら早々に排除しておきたいのだが、過程としてやらなくてはいけないのが『叫竜の姫』の始末だ。
叫竜の姫は単に叫竜を束ねる指導者というだけではなく、叫竜の母に等しい存在。グランクレバスは叫竜を生産する場所だが、生み出すに当たり必要な特殊な物質を叫竜の姫が定期的に作り出しているらしく、APE側はその物質を『竜血球』と名称している。
叫竜の死骸をサンプルに何百年にも渡り研究し続けたからこそ判明したこの物質は叫竜の姫のみが作り出せるもので、通常の生物で言うところの情報遺伝物質に近いものらしい。
これを基盤にグランクレバスでの何かしらの工程を経て叫竜は誕生する。
ならば。叫竜との戦いに必要な勝利条件とは、すなわち『頭を潰す』ことになる。
基本中の基本だが、数を増やす役割も担っていた頭が消えるとあれば指揮統制のみならず、致命的な戦力低下を齎すことができる。
とは言え、それはあくまで叫竜の姫を討伐できればの話だ。肝心の叫竜の姫は未だ見つかっておらず、ヴィスト・ネクロも結局は影武者のクローンをあてがわれたに過ぎない。
APEも。ヴィスト・ネクロも。結局は見つけられないままに終わった。
だが、ヴィルムは違う。
彼女は徹底的にやる。
一つの些細な情報すら逃さず、何処にいようと追い詰める腹積りだ。
だからこそ今回の叫竜の大群移動は"何か"がある。そう踏んだからこそヴィルムは、その実態を把握する目的でナインズを派遣したのだ。
それがどんなにか細く、不明瞭な"蜘蛛の糸"だったとしても。
標的に至る為には、是が非でも掴んで離さず、手繰り寄せるのだ。
「さて。それじゃ行くとしようか。『情報収集』に、ね」
だからこそ、叫竜の姫の情報を持っているかもしれない彼等に直接聞く必要があるのだ。
※
ソレは薄々だが気付いていた。
自分達を監視するように追っている存在を。
そして、相手の意図に関して一つの仮説を立てた。
自分達を付け狙う存在は、人ではない。人特有の気配も臭いもせず、ただ血の香りを混ぜ込んだような獣臭しかしない。
獣臭、と言ってもただの獣ではない。
人がアマゾンと呼ぶ存在のものだ。
やがて、その臭いの主たちが空から降って来た。数は全部で三つ。
端的に表現すれば…機械。人型ロボットではあるが、三つの機体はおそらく容易に想像できるであろう生物の意匠を機体デザインの中に落とし込んでいた。
一つは、赤とオレンジのカラーに染まり左右の手が大型のハサミになっており下半身は全体的に長く、硬質な甲殻と左右四対八本の節足で構成されている。
おそらく、ザリガニやロブスター辺りの甲殻類がモチーフだろう。
二つは、一つ目と同じく硬質な甲殻だがカラーは暗い蒼で、背中の左右側面は菱形状のヒレがびっしりと揃いそれが波を描くように蠢いている。
頭部後方の左右に二本の触腕が生え、おそらくアノマロカリスがモチーフとなっているのだろう。
そして最後の一機は赤系統の機体と蒼系統の機体を左右後方に置かせ、自身はその間の前方へと出していた。
薄く輝くといった印象のホワイトゴールドとプラチナのカラーに染まったその姿は、青と赤の複眼を顔に張り付かせ、頭頂部から背中の上半身にかけて無機質なヒレが突出している。
さながら、古代に生息していた恐竜を思わせる風貌。
頭部の顔つきも、どことなく爬虫類らしさを彷彿とさせるものだ。
これら機体はAPEの対叫竜兵器であるフランクスなのだが、その姿は本来の形状ではなく、完全に別のロボットになっている。
『やあ。叫竜の諸君ら。僕のコードネームはナイン・アルファ……正式な名前は『シャドウ』。今日この時をもって君達に僕等は問いを投げたい。何故、君達は群れを成し、何処へ向かっていると言うんだい?』
悠長に堂々と。
爬虫類型フランクス……『ナインズ・レプティ』に搭乗しているナイン・アルファは、叫竜の群れへ話し掛けるがその返答は皆無。
当然だろう。人のような知性は無いと判断されているし、何より意志の疎通が全くできない。
これを踏まえれば人語で語りかける、などは無意味なものとしか言い様がない。
だが、意外にもそれに応える者がいた。
『邪魔をするな、ヴィルムの傀儡。我らの目的を阻害するなど愚かな事と知れ』
それは肉声ではなかった。頭に直接響くという不思議な感覚は一昔前の時代において、テレパシーと呼ばれる思念を直接脳へと送る超能力の一種。
無論これは所謂サイエンス・フィクション、俗に言うSFの類に過ぎない。
しかし今、空想と思われて来た事象がこうして身に染みるように味わっている。その事実に、アルファはニヤリと。愉快げな笑みを浮かべる
。
「僕たちに関する説明は要らないみたいだね。じゃあ、単刀直入に言うけど叫竜の姫はど…」
ドォォォォンッッッッッ!!!!!!!!
言い終わる前に振り下ろされたのは、巨大な拳。
ナインズたちから少し間を空けた位置にいた猿と爬虫類を合わせたようなキメラ型の叫竜がその左拳を大きく膨張させ、更には硬度すら増した状態でナイン・アルファの機体…顔面部位を殴り付けた訳だ。
しかし。かなりの力で殴ったにしては…手応 えがまるで無い。
「いいパンチだね。けど足りないよ」
もろに受けているにも関わらず、顔面の装甲はひしゃげ凹むどころか、擦り傷一つすらなく健在だった。
『な、なんだと……』
叫竜の目が大きく驚きに見開く。
どうやら、あのテレパシーの元はこの叫竜だったらしい。
「君がリーダーかな?」
優雅に涼しげに。まるで何事もなかったようにアルファは話しかける。それがキメラ型叫竜の癪に障ったようだ。
『舐めるな傀儡風情が!』
怒りに吠える。キメラ型は獣の雄叫びを一つ鳴らすと、それを合図に叫竜の群れが一気に襲い掛かって来る。
数に物を言わせた圧倒的物量。それは戦いにおいて有力な手段であり
、実際のところ戦争というのは数の差によって勝敗が決まることが多い
。
が、兵士を統率する指揮官が何かにおいて稀代の才能を有しているのであれば、その限りではない。そういった例は多くはない。だが、少ないにしても確かに存在するのだ。
「他愛もない」
βの操るフランクス『ナインズ・バージェス』。
カンブリア紀に発生したバージェス動物群の中で当時生態系の頂点に君臨した肉食生物であるアノマロカリス。
その意匠のみならず、能力も備わった機体は頭部の触腕を振るい、触腕は各パーツに分割。それが蛇腹剣のように一本のワイヤーによって連なり、しなやかに。
そして一片の情けもなく叫竜の強固な外殻皮膚を、青い血肉を削ぎ切り刻んでいく。
「そ〜れっと!!」
対照的にγの操るフランクス『ナインズ・ロブスター』は、文字通り大型の甲殻類ことロブスターの能力を有し、その大きな左右の鋏で自機の何倍も体重がある叫竜を軽々と振り回し、他の叫竜を、コンラッド級を中心に叩き潰す形で殴殺していく。
そして、ある程度経つと挟んでいた叫竜を真っ二つにして殺す。
そこに遠慮、慈悲、容赦といった類のものは存在しない。
たった二機のフランクスでもう百に達する数の叫竜が殺され、機体も搭乗者もまだまだ十全に余力を残している様はやられる側である叫竜達からすれば、ふざけるな!と言いたくなるだろう。
生憎、彼等に発声器官はなく、仮に喋れたとしても既に殺すという意識的スイッチを入れてしまったナインズたちはその虐殺を止めはしない
。
「あーあ。派手にやっちゃって。でも、仕掛けて来たのは君達だからね
?」
そんな光景を流し目に観察しつつ、叫竜の群れを指揮するリーダー格のゴリラ型叫竜が繰り出す拳の連続を躱し、時には防ぐ形で捌いていく
。
猛攻を受けているにも関わらずその態度には明らかな余裕があった。それがゴリラ型叫竜の癪に障り、一層の力を両拳に込めて繰り出す。
ナイン・アルファの言葉に応える気は毛頭ない。言葉で返す位なら拳で返し、さっさと叩き潰すに限る。
しかし、そう思っても中々倒せない。
それどころか、やや遊ばれているのでは?と思う節すらある。
「"もう一度"だけ言うよ? 叫竜の姫の居場所を教えてもらえるかな
?」
口調は変わらない。が、まるで三度問うことは決してないという意味を込めて、『もう一度』の部分を強調して圧を放ってくる。
なんて言うことはない。遠回しな脅しだ。
言わなかった場合、あるのは死。
『……語ることは何もない。貴様を全力で迎え討つ!!』
ゴリラ型叫竜は首部位がなく、頭部らしきパーツが身体と一体化しているような形状になっている。
よって頭を下へ傾かせる場合、身体ごと下へとお辞儀のようにするしかないのだが、何故かそれをアルファの前で行った。
「?なんのつもりだい?」
疑問符が尽きず、そんな言葉がアルファの口から自然と出たものの、相手はそれに答える事はなく。
すると顔のラインが淡く光り輝いた。
そして僅か数秒経った後、顔がゆっくりと縦に前方に倒れるように開いたのだ。
一瞬ながらも驚いたアルファだが、この後も更に驚きを示すことになる。何故なら、開いた顔の中は生物とは思えないコックピットと思わしき設備が見え、その中に……一人の少年が出て来た。
コドモのような背格好をしているが……決して、コドモではない。
明らかに肌の色が青く、黒い模様が蛇がミミズのようなヒョロリとした畝りとして奔っている。
背中には、あの叫竜の姫に似た触手が2本備わり、両目の白眼の部位は黒く染まり、青い瞳がほんのりと光を放っている。
白眼の部分が黒な為、それは遠目で見ても余計に目立つくらいだ。
髪型は少し長めの白髪を後ろへと束状に纏めた程度で、これといった特徴は髪にはない。
「へぇぇ。これはまた…コドモみたいな姿をしているね、叫竜人って」
『それ以上不快な言葉を吐くな。癪ではあるが……貴様を同等かそれ以上の戦士として認めてやる!!』
犬歯を剥き出しにアルファの脳内に叩きつけるように宣言した人の姿をした、おそらく叫竜と思われる存在…叫竜人は、ナインズ・レプティまで一気に跳躍したかと思えば、次の瞬間には2本の触手の内の一本を顔の横サイドへ叩き付け、そのまま打ち払った。
「!!ッ」
ここに来て、まさかの叫竜という兵器を捨てた単身攻撃。
唐突な予想だにしない戦法に不覚を取ってしまったナイン・アルファはすぐに操作して叫竜人を捕まえようとするが、彼は触手の一本を足元にするりと移動させると、触手を足場に、触手の押し出す力と両脚の弾き飛ばす力。
この二つを利用した反発力で、自身を掴もうと前へ突き出された金属の手に捕まることを回避。
続いて上から触手を利用しての打撃を再度、今度は頭上へと叩きつける。
「ッッッ?!!」
続けての衝撃は、来るものがあったのか。
堪らず、膝を下り、地面へ片手をつける無防備な姿勢を取ってしまった。
『意外だったか? 貴様らが叫竜と呼ぶ兵器を捨てて、この俺自らが単身で攻めに転じたのが』
いつの間にかナインズ・レプティの頭頂部へと降り立った叫竜人がそう言葉を投げかける。
「それは…ねッ!」
ダメージとは言っても深刻なものではない。
すぐさま機体の腕を伸ばし、その手で叫竜人を捕らえようとするも、それすら払い除け、機体の首を背中の触手で捕らえ締め上げる。
「ぐぅぅッ!」
本来、機体のダメージがフィードバックされるのはピスティルだが、この機体……というより、ナインズの機体は全てパラサイトが一人のみと言う異例な仕様になっている。
これはナインズの持つ、他のコドモには無いある特性が関係しているのだが、とにかく一人乗りである以上フィードバックはそのパラサイトへと向かってしまう。
当然ナイン・アルファも例外では無い。
「ぐぅ、あぁッ!!」
『呆気ないな』
淡々とした声と共にまるで路傍の塵でも見るような、暖かみなど一切ない冷酷な目でナインズ・レプティを傲睨する。
『このまま刎頸してくれる』
そう言って更に触手へと力を込める。
触手の力を最大限にして、機体の首を引き千切るつもりのようだ。
普通なら考えもしない行為だろう。
生身にも関わらず、自分より数倍の鋼鉄で出来たロボットの首をもぎ取ろうなどと。
人間なら到底不可能だが、叫竜人なら話は別だ。
その身体能力、叫竜という生物兵器を生み出せる技術力。どちらに置いても人間の基準を遥かに超えている。
それを証明するように触手が締め付け、圧迫している首の部位は小さな亀裂を生み、内部の一部ケーブルが切れ、パーツが軋んでいる。
あともう一息。力を込めるだけでレプティの首は胴体部とおさらばになり、操縦者であるナイン・アルファにも相当なダメージが来る。
だが、ここで一つ忘れてはいけない事がある。
アマゾンも、その枠組みに入る事を。
バシュゥゥッ!!
勢いよく吹き出す空気と接続部位が意図的に外れた音を伴い、ナインズ・レプティの顔が四方に開放。
まるで花が開く時のようだが、ソレ自体は特に意味はない。意味があるのは今、このタイミングでアルファがいるコックピットが開いた事だ
。
『ナイン・アルファ』
「僭越ながら真似させてもらうよ」
電子音声を伴わせて飛び出すのは、一つの影。それはコドモの姿からアマゾンライダーとしての姿に変身したナインアルファだった。
※
第13都市プランテーション ミストルティン
「ぐっ、あぁ…ッ」
「ヴヴッ! アァァァッ!!」
アマゾン・イプシロンが苦悶の声を漏らし、それに反応するように嘴に更に力を込めるミツルだった1匹のアマゾン。
カラスの意匠を有するソレはまさしくカラスアマゾンと呼ぶに相応しいが、今はそれどころではない。
イプシロンの首にカラスアマゾンの嘴が突き刺さっているのだ。
血が滞ることなく噴き出し、その都度嘴とイプシロンの首筋や胸元を鮮血で染め上げていく。
「やめて!ミツルくん!!」
ココロの悲痛な叫び。その声がカラスアマゾンの中にほんの僅かにあるミツルとしての理性、あるいは心に何らかの作用が起きたのか。
それとも単なる意味のない偶然なのか。
どちらなのか、あるいは別の答えが有るのかどうかを断じることはできない。
だが、それでも。
確かな反応を見せた。
イプシロンに突き刺していた嘴を離し、ココロの方を振り返ったのだ
。そして、彼女の方を呆然と見つめる。
今までの獰猛性が嘘のように。最初から無かったのかと思うほど、カラスアマゾンは大人しくココロを見つめていた。
そして。
「ァ、ァァ……」
か細い声を絞り出し、身体から蒸気が放出。
ほどなくして、カラスアマゾンはその姿を元の姿であるミツルへと戻し、そのまま倒れ込んだ。