忍法・異世界転生(いせかいてんしょう)   作:@ピロシキ

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~地獄変第一歌~

森宗意軒(もり そういけん)!貴様、あの時死んだのでは無かったか!?」

 

江戸神田の長屋にて、軍学者・由井正雪(ゆい しょうせつ)の開いた軍学塾「張孔堂」の屋根瓦の上で、満月を背にした枯れ木の如き低き痩身の老人を見上げ、かの隻眼の剣士、柳生十兵衛三厳(やぎゅう じゅうべえみつよし)は驚愕していた。

 

「ほほ、この宗意軒!我が身を『忍法・魔界転生』にて転生させておったのよ!我が弟子たる転生衆、(ことごと)く貴様に破れしは痛恨の極み!しかし!まだ、この宗意軒は健在なりし!」

 

―――忍法・魔界転生。

 

切支丹(きりしたん)忍者、宗意軒が楠木正成(くすのきまさしげ)を始祖とする忍術に、西洋の降霊術や悪魔召喚術などをミックスして独自に編み出した、死者を蘇らせ、残虐非道なる悪鬼羅刹と化し、以て己の意のままにするという秘術。

 

だが転生した宗意軒の配下―――天草四郎、宮本武蔵、荒木又右衛門(あらき またえもん)柳生宗矩(やぎゅう むねのり)柳生如雲斎(やぎゅう にょうんさい)宝蔵院胤舜(ほうぞういん いんしゅん)田宮坊太郎(たみや ぼうたろう)の七名、悉く十兵衛により討ち取られていた。

 

正確には宗意軒は十兵衛と相対する前に最後の一名、宮本武蔵の手に掛かっていたのだが。

 

「宗意軒!」

 

裂帛(れっぱく)の気合一閃――――――右肩に担いだ十兵衛の愛刀、三池典太(みいけてんた)が袈裟切りにて放たれる!

 

【挿絵表示】

 

「―――ほほっ!」

 

がきんっ!!

 

しかし、それを直前にて阻む者あり。

 

「何奴!?」

 

人非ざる魔人をも屠ってきた十兵衛の必殺の一撃、それを受け止める者がいるなど通常考えられない事である。

 

――――――それは女であった。花魁のような艶姿(あですがた)であったが、一方で高貴な装いでもあった。

 

「ぐっ……ただの女ではない、か。何者だお主!?」

 

「切支丹忍者が一人、マリア天姫(てんひめ)

 

「……その腕!絡繰りか!?」

 

ぎゅいんっ!

 

マリア天姫と名乗る女の両腕は、機械仕掛けの銀色の腕であった。肘から突き出た刀身が、十兵衛の剣を受け止めたのである。

 

「マリア天姫とやら!お主も転生衆か!?」

 

「――否。我が身は転生の術を必要とせず!」

 

がきんっ!

 

再び切り結ぶ両者。今度は十兵衛の剣がマリア天姫の右腕を切り落とした。

 

「柳生十兵衛!徳川の世を守護せんとする公儀の犬よ!お前の信義こそ、大いなる災いを、三百有余年の後に産むものと知れ!」

 

「何の事だ!?災いだと!?」

 

「おお!地を焼き、天を黒く染め上げたる煉獄が、この目に浮かぶ!私は見た!十兵衛!徳川の世など、守る価値など無い!!」

 

マリア天姫とは気が触れておるのか―――十兵衛はしかし、その思いを打ち消した。魔界転生なる外法が存在する以上、例え与太話に聞こえようともあり得る話なのかも知れぬ。

 

「ちえええええいっ!!」

 

さすが十兵衛、マリア天姫の頭上を一足で飛び越える!

 

十兵衛の目的は、あくまでも宗意軒の首である。幕府転覆を目論む由井正雪よりも、さらに目の前のマリア天姫よりも、なによりも宗意軒こそ全ての元凶なり!

 

「おおおっ!おのれ、十兵衛っ!忍法・髪切丸!!」

 

宗意軒の両手から繰り出されし二条の糸。それは官能に濡れた女の髪の毛を特殊な(にかわ)にてより合わせた、鋼鉄(はがね)の如き強度を持つ必殺の舞。

 

どしゅっ!!

 

「―――がっ!?」

 

「既に一度見た技よ、宗意軒―――天草四郎、クララお品の置き土産ぞ」

 

かまいたちの如く十兵衛の首を狙いにきた不可視の糸は、しかし十兵衛の着物の両の袖で巻き取られて阻まれた。そしてその振り上げた二の腕そのままに剣を振り下ろしたのだった。

 

「ほ、ほほほ。愚かなり十兵衛!忍法・異世界転生(いせかいてんしょう)ここに成る!」

 

「むうっ!?」

 

縦一文字に真っ二つに切り裂かれた宗意軒の身体が、まるで抜け殻の如くひらひらと風に舞う。内より出でしは漆黒の(もや)

 

びゅっ!

 

その黒い空気を刀で切り払うが、空を切るだけで手ごたえは無い。

 

「これは村正殿の打ち刀が無くては如何ともし難いか!?」

 

宗意軒に気を取られた十兵衛の背後に、マリア天姫の左腕が伸びる!

 

がきんっ!

 

「なっ!?」

 

今度はマリア天姫が驚きに顔を歪める番であった。咄嗟に飛び退いて二ノ太刀を躱す。

 

「義勇兵、クロム・アーサー参上」

 

そこには、奇っ怪な恰好をした男が立っていた。しかし、江戸においては奇妙に写る姿であろうとも、マリア天姫にとっては見知った恰好ではあった。

 

「……『転生人(てんしょうびと)』め!」

 

転生人と言われた男、クロム・アーサー。名は南蛮人のようであったが、顔立ちは日本人そのものである。両の手にそれぞれ一刀ずつ刀を携え、襟付きの黒い外套(マント)を纏い、黒い革ズボンとブーツの立ち姿。

 

【挿絵表示】

 

「何だかよく分からんが、やるしかないか!―――そこの御仁!彼の名高き、柳生十兵衛殿とお見受け致す!この女は俺に任せて、十兵衛殿は森宗意軒を!」

 

「お主、今、空から落ちてこなかったか!?―――まあいい。そちらは任せた!」

 

十兵衛は風に流される黒い靄を追い、マリア天姫の前に転生人と呼ばれた男が立ちはだかった。

 

がきんっ!

 

再び激突する両者。

 

「マリア天姫!どうして森宗意軒の味方をする!」

 

「同じ切支丹忍者だからよ!そういうあなたは何故、私の邪魔をするの!」

 

「知れたことを!ええと、つまり―――何となくだ!何で俺は別人に生まれ変わってこんな事になってるのか!?マリア天姫、お前も『プレイヤー』だろ?」

 

「???」

 

「―――違ったか。いや、しかし同じキャラ名だし。俺だけか?俺だけ生まれ変わったのか?」

 

がきんっ!がきんっ!

 

ブツブツと独り言を呟きつつも身体は勝手に動く。マリア天姫の繰り出す絡繰りの刃を、両手の二つの刃をもって軽々と払い落とす。

 

「天姫様!」

 

キンッ!キンッ!キンッ!

 

女の声と共にいくつもの手裏剣が飛んできたが、クロム・アーサーは難なく一刀で手裏剣を弾き飛ばした。天姫の後方に何人もの影が見て取れる。マリア天姫の配下たる切支丹忍者、十五人の修道女たちである。

 

「無事か、色男!」

 

対してクロム・アーサーの背にも、先ほど宗意軒を追いかけた柳生十兵衛の声が届く。

 

「天姫様!宗意軒の靄が!」

 

月下の切妻屋根の棟の上で、相対するクロム・アーサーとマリア天姫の両名の姿が闇に包まれる。

 

「異世界転生に巻き込まれるぞ!逃げろ!!」

 

クロム・アーサーの声が闇の中から聞こえたが、闇は修道女達と十兵衛を飲み込んだ。やがて黒い霧が晴れ、月明かりに照らされた屋根の上には誰の姿も見えなかった。

 

さて、『転生人』クロム・アーサーとは何者か?

 

それは―――現代に生まれた普通の男であった。

 

転生(てんしょう)』するまでは。




~地獄変第一歌これにて終幕!次回に続く!!~
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