・義勇兵クロム・アーサー
本作の主人公。現代日本より異世界転生を果たした。
・柳生十兵衛三厳
江戸時代初期に活躍した柳生新陰流の剣豪。隻眼で右目に刀の鍔で作った眼帯をしている。
・森宗意軒
キリシタン。島原の乱の首謀者の一人。小西行長の遺臣。枯れ木のような風貌の老人で、独自の忍法・魔界転生を生み出した。
剣と魔法の世界モナルキア。
モナルキアの最上階位層・テンタクルス時間神殿の玉座に座る『ゲームマスター』を探す旅が今日もまた続く。モナルキア世界の西端、イスパニア王国の辺境カタロニアにその姿はあった。
パロペニア城塞都市において、フローランス王国占領軍による略奪行為は日常茶飯事であった。
「きゃあああっ!!」
叫び声の主は緋色の髪を長く伸ばした少女であった。
「ぎゃーっはっはっは!奪え、殺せ!犯せーっ!」
少女に襲い掛かるのは傭兵だ。甲冑の胴当てだけを着け、他の部位は服が剥き出しである。彼らは徒党を組み、市民達を襲っているのだ。
「誰か、誰かーっ!!」
どかっ!
「ぎゃっ!」
少女に覆いかぶさろうとしていた傭兵が股間を両手で抑えて悶絶する。
「おーっと、悪い悪い。思わず石につまづいちまった」
「き、きさまーっ!俺たちをフローランス王国正規兵と知っての狼藉かーっ!!」
傭兵は何とか立ち上がり、人影を睨みつけた。そこに立っていたのがクロム・アーサーであった。
「しまった、身体が勝手に動いてしまった……そういうキャラクターに設定してあるとは言え、こっちのコントロールを無視されるのは厄介だな……」
「何を訳のわかんねえ事を言ってやがんだ!やんのかおらぁっ!!」
「だから勝手に―――あ」
ばきっ!
「ぎゃっ!」
クロム・アーサーの右脚が勝手に跳ね上がって傭兵の顔に蹴りを入れた。吹っ飛ばされた傭兵は気を失ってしまった。
「あーあ」
蹴りの姿勢のまま片手で顔を覆う。そこへ傭兵の仲間達が集まってくる。
「何だこいつ、何処の生まれだ?」「変な恰好しやがって」「ぶっ殺せ!」
それぞれが好き勝手罵声を浴びせ、腰から剣を抜く。西洋のオーソドックスな剣であるブロードソードだ。
「死ねえっ!」
そのうち一人が正面から、真後ろからももう一人が襲い掛かってくる。
がきんっ!がきんっ!
「んなあっ!?」
しかしクロム・アーサーの腰から抜かれた二本の鉈
「そんななまくら、剣で受け止めるまでもない。サブウェポンで十分だ」
スパン!
先ほどの蹴りで持ち上がっていた右脚はそのままに、片足立ちのままの体勢で半回転しながら両手の鉈で受け止めたのだ。さらに右脚が一瞬で膝から腰元に戻り、再び勢いよく蹴りが放たれた。
ブロードソードで正面から打ち掛かった傭兵の側頭部に蹴りがヒットし、傭兵は蹴りの威力で一回転して地面に頭を叩き付けられてしまった。
「ば、バカなっ!」
「お前もだよ」
ばきっ!
続く後ろの傭兵の側頭部に、逆に戻ってきた右脚裏が炸裂。クロム・アーサーは鉈をぶら下げたまま、右脚一本を腰の高さに固定したまま、片足で佇んだ。
「あいつ強いぞ!近寄るな!マスケットで殺せ!」
残りの傭兵達は慌てて銃を取り出す。しかしマスケットは先込め式で、準備に時間が掛かる。
どんっ!どんっ!
「うぎゃっ!」「ぎゃあっ!?」
「そっちが銃を使うなら、こっちも使わせてもらうぜ」
クロム・アーサーの両手には、いつの間にか短銃が握られていた。鉈は既に両腰の鞘に戻されている。クロム・アーサーの持つ短銃は、『鋼輪式点火短銃』というものであった。
これでクロム・アーサー武器は二刀、二鉈、二短銃にさらに蹴り技までが明らかになった。どうやら武器は日本の物を使っているようだが、鋼輪式の短銃は江戸後期に登場したもの。柳生十兵衛の生きていた時代にはまだ存在していなかった。
「ひ、ひいっ!何だ、何だあのマスケットは!?」「逃げろ!」「覚えてやがれ!」
傭兵達は慌てて逃げ出した。
残るは少女が一人。しかしクロム・アーサーは少女に構わず、先を急ごうと歩き始めた。
「助けたはいいけど、何を話したらいいのか分からない……」
クロム・アーサーが少女を無視した理由が情けない。彼は元々、あまり人と話をするのが得意では無かったのだ。転生してから別の肉体を得た為、その傾向は多少変わっているが、自分から進んで少女に話しかける程ではない。
しかし、それを見ていた人物がクロム・アーサーに声を掛けてきた。
「グアーウ!ちょっと待って欲しいデスねー!」
「凄い怪しい日本語だ……ん?日本語?」
イスパニアでわざわざ日本語で声を掛けてくる人間がいる事に驚く。しかも声は女性。さっきの少女かと思ったが、駆け寄ってきたのは妙齢の女性である。
「オーラー!ワタシ、イスパニア忍者デース!カタリナ・お
やたらハスキーな声であった。そして明らかにこのイスパニアでは浮いた格好でもあった。まず、全身真っ赤な忍び装束である。そして、癖毛の長い金髪と蒼い瞳、少しすばかすのある顔はそれでも大層な美人であった。それに胸も大きい。軽くメートル超えてるんじゃなかろうか、などと思ってかぶりを振る。
「い、イスパニア忍者ぁ?」
そんな事よりも、その語感のインパクトが一番の驚きである。
「全然忍んでねえ!」
コミュ障気味のクロムであっても、そうツッコミを入れずにはおられない。
「グェ!ベルグェンサ!皆サン、そう言いますネー!でも気にしたら負けデス!」
「いや、気にするところはそれ以外にもいっぱいあってな……」
ツッコミどころがやたら多い女である。
「ディオス・ミーオ!アナタの名前、教えて下サーイ!」
「マイペースな女だな!俺の名前はクロム・アーサーだ」
「アンダ!イングレス人に似ている名前デスね!アナタはハポンの人ではないのデスか?」
「ハポン?ああ、日本の事か。いかにも日本人だ。名前は適当に付けたからな……タイで戦った侍たちの事を『クロム・アーサー・イープン』って言うらしくてな。それから取った。俺自身の本当の名前は普通に日本人っぽいし……」
「???よく分かりまセンね。クロムと呼ばせてもらいマース!私の事もオクミと呼んで下サーイ!」
「カタリナ」
「何でデスか!?」
「いや、何となく。日本人っぽく見えないし……」
「これでも半分はハポネスデース!父はイスパニア人宣教師でシタ!」
「……それよりも、何で話しかけてきたんだ?」
「グアーウ!そうデシた!イスパニアでハポンの人と会うの珍しいデス!ワタシ、伊賀鍔隠れの里で修行しまシタ!アナタは何処で修行しまシタか?」
「いや、俺は忍者じゃないし」
「そうなのデスか?しかし、サムライにしては武器が豊富デス!」
「そういうカタリナだってハイテンションで全然忍者らしくないな」
「よく言われマース!」
「いやいや、それで何で話しかけてきたんだっての」
「ワタシと一緒に旅をしまセンか?」
「……は?」
「実はワタシ、父の故郷であるこのパロペニアに父の代わりに里帰りに来たのデース!しかし、見ての通りの戦国時代デスね!一人旅はとても危険デス!旅は道連れ余は情け無いといいマスね!」
「何で最後偉くなってんだよ」
「お願いしマース!まずはこのパロペニアを生きて出まショウ!」
「……山風作品には絶対にいないキャラだぞこいつ」
「何デスか?」
「なんでもない。まあ別にいいか。そろそろ物語にヒロインは必要だしな!しかしヒロインキャラじゃないよこいつ」
「ワタシ馬鹿にされてマスか?」
「とんでもない!頭軽そうだから後で一発とか思ってるよデュフフ」
「捩じ切りマスよ!」
「ごめん嘘っていうのも嘘本当ごめんなさい」
カタリナの冷たい視線に震え上がって思わず反射的に土下座をしてしまうクロムである。
~地獄変(態)第二歌これにて閉幕!次回、いよいよ魔界の門が開く!!