・義勇兵クロム・アーサー
本作の主人公。現代日本より異世界転生を果たした。二刀、二鉈、二丁拳銃、さらに蹴り技の使い手。
・カタリナお
イスパニア忍者。イスパニア宣教師の父と日本人の母から生まれる。伊賀鍔隠れの里で修行をした。
・柳生十兵衛三厳
江戸時代初期に活躍した柳生新陰流の剣豪。隻眼で右目に刀の鍔で作った眼帯をしている。忍法・異世界転生に巻き込まれて行方不明。
・森宗意軒
キリシタン。島原の乱の首謀者の一人。小西行長の遺臣。枯れ木のような風貌の老人で、独自の忍法・魔界転生を生み出した。さらに忍法・異世界転生を編み出す。
・マリア
切支丹忍者、15修道女のリーダー。両腕が絡繰り仕掛け。
義勇兵クロム・アーサーとイスパニア忍者カタリナお紅実は、パロペニア城塞都市からの脱出にあたって協力する事となった。
今は夕方。壊れた廃屋に潜んでいる。
「しかしモナルキアの『ルールブック』に忍者ってクラスはあったかな……」
ゲームマスターが所有するルールブックには、この世界のルールが記載されていると言われる。転生前のクロムもルールブックを所有していたが、自分に関係のある事しか読み込んでいなかった。
「スィ?モナルキア?ルールブック?」
「いや、何でもない。それよりも脱出ってそんなに難しい事か?入るのは簡単だったぞ」
「どうやって入りまシタか?」
「普通に真正面から入ってきたんだが」
「クェ?ソルダードがいませんでシタか?」
「ソルダード?ああ、兵士って事か。袖の下を渡したんだ」
「ソデノシタ?賄賂を渡したんデスか?」
「前の街で買ったパンを渡したんだよ。おかげで今日のメシが無くなった」
「ご飯なら忍者の兵糧がありマス!どうぞ!」
カタリナが腰帯の中から何だか黒い丸薬みたいなものを数粒手渡してきた。
「何だこれ……正露丸みたいだな」
「兵糧丸と
「……味は期待できなさそうだなぁ。ま、ありがたくいただいておこうか。それで、脱出がどうして難しいんだ?」
「そうデシた!パロペニアは最前線基地デス!カタロニア軍とフローランス軍の小競り合いが頻繁に起きていマス。ですから、敵の間者がいないとも限りまセン。武器を持っていたらすぐ取り囲まれマス!」
「成程。そいつは面倒だな」
「強行突破は最後の手段にしたいところデスね」
「では、城壁の上からロープで下へ降りる、というのはどうだろう」
「巡回の兵士に見つかってしまいマス」
「そうか……カタリナは何か考えは無いのか」
「流言飛語を民衆に流しマース!」
「狼少年みたいな事か?嘘を言い触らすのか」
「スィ!フローランス軍と敵対するカタロニア軍が侵入した、と言い触らしマース!ワタシの忍法が役に立ちマース!」
「忍法?どんな?」
「忍法・山彦といいマース!ワタシは音を操る忍者デース!ワタシの声を遠くに届けたり、別人の声を真似たり、大きな声を反響させたりと色々できマース!」
「そいつは便利だな。よし、頼んだ」
「お任せ下サイ!行ってきマス!」
カタリナは一瞬でクロムの前から消え失せた。
「……さすが忍者。身が軽い」
跳び上がって天井の梁へ両手で逆上がり、屋根にぽっかりと開いた穴から外へと出た。空は夕日で赤く染まっていた。カタリナは忍者の修行によって驚異的な身軽さと俊敏さ、柔軟な肉体を得ていた。胸の大きさは邪魔であったが。
「さて、ここはワタシの見せ場デース。行きますヨ。忍法・山彦!――――カタロニア軍が出たぞー!カタロニア軍が侵入したぞー!」
カタリナは忍法・山彦でまず声を変え、男の声で大声を出した。その大声はカタリナの口からではなく、ずっと遠くの方から響いた。
「カタロニア軍だと!?」「何処だ!」「数は!?」「敵襲ーっ!敵襲ーっ!!」
やがてあちこちから兵士の声が聞こえてくる。
「一旦、中央に集まれー!」
この声はカタリナのものである。その声によって多くの兵士達がパロペニアの中央広場に集まってくる。
「これで時間が稼げマース!――――クェ?」
ばしゅっ!ばしゅっ!!
屋根の上から中央広場を眺めていたカタリナの蒼い目に、赤い色が写る。夕日のせいかと一瞬思ったが、やがてそれは血飛沫だと分かった。
「ディオス・ミーオ!何が起きてマスか!?」
「どうしたカタリナ!」
カタリナの声に何か不穏なものを感じ、クロムも屋外に出る。しかしクロムの位置からは中央広場は見えない。
「ええい!」
クロムは壊れたレンガ壁に向かって跳び、蹴りで反動を得てカタリナの立つ屋根の上まで跳躍する。この時点で既に常人技では無い。
「アレか!?」
遠くに見える中央広場にて、フローランス兵は一人残らず死んでいた。遠目で見ても、そこはまさに血の池地獄といった様相であった。そしてその血の池の中、一人の青年が立っていた。その衣装は、和装に西洋風の
「見ているか転生人よ!」
その青年はおそらく日本人であった。その澄んだ声が、それでいて凄みを持つ声が忍法・山彦の効果でこちらにも届いた。
「そして見ているか!柳生十兵衛よ!」
その青年の言葉で思い出す。異世界転生に巻き込まれた柳生十兵衛は何処へと消えたのだろうか。同じくマリア天姫もまた巻き込まれた筈だった。だが、クロムは一人イスパニアの地に立っていた。
「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム!我は求め訴えたり!」
青年の目が黄金色に輝き、西洋の呪詛の文句を口にする。
「呪いの闇に巣喰う者よ、毒持てる蛇、禍々しき悪魔よ、今こそ現われて災いの力を貸せ!姿を見せよ!来たれ!来たれ!復讐するは我にあり!我、これを報いん!」
ガガガガガッ!
大気を震わせ地を裂き、雷鳴が轟く!太陽は沈み、闇が空を覆う!赤く輝く満月が夜を照らし、パロペニアの街を真紅に染め上げる!
遥か遠くイスパニア、異世界モナルキアにあの男が蘇ったのだ!
「汝、懺悔せよ!我が名は天草四郎時貞なり!」
~地獄変第三歌終幕!次回、フローランスに三銃士あり!~