・義勇兵クロム・アーサー
本作の主人公。現代日本より異世界転生を果たした。二刀、二鉈、二丁拳銃、さらに蹴り技の使い手。シャム(現在のタイ王国)の影響を受け、暹羅式念流という剣術を使う。
・アンリ・ド・アラミス
フローランス王国の銃士。「三銃士」で有名。銃士隊長トレヴィルの甥。三銃士の中では一番若い。女癖の悪い伊達男。銃も剣もそつなくこなし、学問にも秀でる。
・柳生但馬守宗矩
柳生十兵衛の実父。徳川将軍家兵法指南役として知られる。柳生新陰流の開祖、柳生石舟斎の子で大和柳生藩(現在の奈良県)の藩主を務めた。享年七十六。厳めしい顔立ちの痩身の老人。
・柳生如雲斎利厳
柳生新陰流正当を自称し、但馬守より自分の方が正当後継者だと主張している。享年七十二。太めの体系に達磨のような顔である。
・田宮坊太郎国宗
江戸時代の剣客。歌舞伎の主人公として知られる。齢二十一にして結核で病死したとされる。田宮流居合術の使い手。三尺を超える大太刀を使う。
・サナト・クラマ
異国の服を着て杖を手にした、長い黒髪の女。テトラグラマトン時間神殿のプレイヤー。
「……位置が悪い。アレでは逃げ場が無い」
アラミスは教会堂の中をそろりと覗いたが、すぐに扉の影に隠れた。
修道女達は奥のチャペルに集まっており、三人の男達が間に立っている。
機会が訪れるまで、様子を見るしかない。
「おお、我らがアンジュ様よ。どうかお下がり下さいませ」
一人の老修道女がそんな事を口にした。
サナト・クラマと名乗った女は手にした杖で一度、石床を叩いてみせた。
しゃりん、と音がした。
杖の先端に金属の輪がいくつか付いていて、それが鳴ったようだ。
「私に何用か」
対して三人の男達の一人、柳生宗矩が手にした剣を突き付ける。
「お主が
「山伏に似ておるな」
「仏道も元は天竺から渡来してきたもの、と言われておりますからなァ」
頭に頭巾という多角形の小さな帽子、袈裟の上に
「捻じ曲がった龍脈を元に戻しただけであるが」
サナト・クラマは三人の転生衆を前にして、涼しい顔で答えた。
「いけません、アンジュ様。ここは私達にお任せ下さい」
修道女達がサナト・クラマを庇うように間に入る。
「尼の出る幕では無いわ!」
ぶしゃっ!
「……え?」
田宮坊太郎の居合一閃。
「きゃああああ!」
血飛沫が上がり、悲鳴が響く。
「……む?」
しかし、修道女を斬った田宮坊太郎の方が何故か困惑したような顔を見せる。
「どうした坊太郎」
「……些か動き辛いのでござる。まるで何かが身体に纏わりついているかのような」
「……ほう?」
一方で喉笛を斬られた修道女は立ったまま首を両手で抑えていた。
このままでは出血死は免れない。
サナト・クラマが口を開く。
「
すると何とした事か、女が驚いて両手を首から離すと、傷は完全に塞がって元通りになっていたのだ!
流れ出た血はそのままで、女の修道服を真っ赤に染めてしまっていたが。
「伴天連妖術か!」
「失った血までは回復できないが」
それを扉の影で見ていたアラミス。
「曲者!」
ズバン!
敵の動揺を見逃さずに放った銃撃。
「今だ!逃げろ!」
二発目を装填しながら叫ぶアラミス。
弾が命中したかどうか確認する暇は無い。
中央に陣取る転生衆を迂回して翼廊へ移動する女達。
「逃さぬわ!」
禿頭の男―――柳生如雲斎が女達に斬り掛かる。
「させませぬ!」
ズバン!
「ぬうッ!?」
―――ぎゃりん!
女達の中で一人、マスケット銃を構えている者がいる。
だがその弾丸は、驚異的な動体視力で弾かれたしまった。
「我ら転生衆、いかな火縄とて単発であれば撃ち落としてみせようぞ」
女達の反対方向へ回り込んだアラミスに向かうは田宮坊太郎。
アラミスの放った銃弾はこの若侍に阻まれたようだ。
そして一歩も動かずにいるサナト・クラマの前に柳生宗矩。
「ほう。動かずにいた事、褒めてやろうぞ。一分でも動けば素っ首落としておったわ」
「私は戦わない」
「……呆けておるのかお主。この状況で不戦とは、仏門の不殺生の戒めか」
「私は仏教徒では無いし、不戦不殺などと説くつもりも無い。ただ単に、術の効果を発揮する為にこの場にいる」
「……ぬッ!?」
その時、柳生宗矩の目に光り輝く十字が映った。
「
「おのれ、伴天連め!」
他の二名も突然の幻影に立ち止まる。
しかし、それは転生衆だけに起きた現象では無かった。
「これは神の啓示か!?」
「ああ、アンジュ様!」「主よ!」「おお!これが奇跡!」
修道女達とアラミスにも白い十字が網膜に焼き付き、目を閉じても十字架が輝き続けている。
目の前の光景の上に、十文字の像が重なっているような見え方をしていた。
「忍法・不知火―――床に血で十字架を描いていたのだ」
先程の坊太郎の居合で修道女の首筋から血が迸り、床に溢れていたのをサナト・クラマは利用した。
「足で忍法を、そしてハンドサインで聖書系魔法を同時使用可能だ―――
手で十字を切る。
ブォン!
周囲を柔らかな光が包む。
修道女達とアラミスの身体に活力を与え、基礎能力の底上げを図る。
聖書系魔法の中でも段級位ステージ第五段に位置する高位魔法である。
「小細工ばかり弄しおって!この儂には通じぬわ!」
剣聖と謳われた柳生宗矩の剣がサナト・クラマを襲う!
「ぬっ!?」
しかし、宗矩は踏み込む寸前で動きを止める。
「ちぇええええいッ!!」
ガキン!ガキン!
振り向き様に刀を二度振るう。
宗矩は死角を狙って飛んできた『何か』を察知し、叩き落としたのだった。
刀に弾かれて床に転がったものを見て、宗矩はサナト・クラマの杖を見た。
「……円月輪か。お主、乱波透破の類か。だがこの宗矩には通じぬわ」
円月輪―――古代ヒンディアスにおいてチャクラムと呼ばれる円形の投擲武器の事である。
その円月輪が錫杖の頭に複数通してあり、杖を回して円月輪を飛ばす仕掛けが施されていた。
忍法・不知火で幻惑すると同時に円月輪を飛ばし、死角から首を狙ったのだった。
「邪魔だ!」
一方で修道女達と向き合っていた如雲斎は、先程マスケット銃を構えていた若い修道女を袈裟斬りに斬り捨てた。
「―――アンリ」
若い修道女は、血塗れになりながらアラミスの名を呼んだ。
その女は、アラミスのかつての婚約者であった。
「イザベル?―――お、おおおおお!」
目の前の坊太郎に向かって腰のレイピアを抜こうとする。
「―――田宮流居合術表之巻・押抜」
「―――がふっ」
抜こうとしたレイピアの柄頭を半抜きの刀の柄頭で抑え、そのまま抜刀!
アラミスの胴体はそのまま上下に分かたれていた。
「私の狙いはあの男だ―――宿曜の直日より来たれり大
しゃりん、と錫杖が音を鳴らした。
~金の十字架(Ⅲ)これにて終幕!次回、アラミス転生!~