・義勇兵クロム・アーサー
本作の主人公。現代日本より異世界転生を果たした。二刀、二鉈、二丁拳銃、さらに蹴り技の使い手。シャム(現在のタイ王国)の影響を受け、暹羅式念流という剣術を使う。
・シャルル・ド・アルタニャン
フローランス王国ガスコーナ出身。「三銃士」で有名なダルタニャン。実は女性で本名はシャルロット。まだ十代半ば。剣の実力だけなら三銃士達に引けを取らない。強引で我が強い。肌が浅黒い。銃士に取り立てられようと男装し、手柄を求めている。
・アーマンド・ド・アトス
フローランス王国の銃士。「三銃士」で有名。三十代前半と思われ、誠実で誇り高き武人。マスケット銃の腕だけでなく、レイピアを左右どちらでも使える。
・カルラ
劇団の看板女優。おっとりとした喋り口が特徴。赤毛と金髪が混じったストロベリーブロンドを後ろでボリュームのある夜会巻きしている。垂れ目で口元のほくろが印象的。
舞台袖の暗がりで何人かの劇団員がいたが、その中にカルラがいない。
「カルラは何処へ消えた?」
「さあ?人に物を尋ねる時はそれなりの態度を示しな」
「これでいいか?」
ばきっ!
アトスが態度の悪い劇団員の顔を殴る。
「命が惜しくないなら何も言うな」
レイピアを抜いて劇団員の首筋に押し当てる。
「ひっ……わ、分かった。カルラは座長に会いに行ったんだ。
「悪党どもの集まりか」
「酷い誤解だ!ウチの劇団は
「だからこそだ。宮廷のネズミ共と金儲けの話ばかりしてるんだろう。劇団などは悪の巣窟。娼婦と泥棒の集まりに過ぎん」
「アトス、さっきから何かピリピリしてないか?」
「犯罪者に甘くする方がどうかしている。劇場とは暗がりが多く、その中で秘密の密会やスリなどが公然と行われている」
「とにかく組合に接触しないとね……でも連中は閉鎖的だよね」
「基本的に組合の寄り合い所は非公開だろうな。だが、連中の溜まり場になっている酒場がある筈だ。酒場の名前に暗にその職業を示している。しかし劇団用の酒場なんてものは存在しない。おい、お前。剣を持つ手がそろそろ疲れてきた」
「う、動かすなよ!分かった!貧民窟の近くに
「傭兵団だと?ギャルド・シュヴィーズの事では無く、ライヒで食い詰めた連中だな」
ギャルド・シュヴィーズはフローランス王室に直接雇用されている傭兵団で、隣国シュヴィーズとの同盟関係によって派遣されている。
「ボーヘンを略奪しまくって壊滅状態にした張本人、マンスフェルド軍さ」
マンスフェルド軍はイスパニア領ブラクバテンクス公国出身のアーネスト・フォン・マンスフェルドという傭兵隊長が組織する傭兵団で、主にライヒを中心として略奪を繰り返す悪名高い傭兵団だった。
「やはりライヒで暴れまわっていた連中か」
ライヒは三十年戦争によって略奪と疫病が蔓延し、1600万人の人口が1000万人に激減したという。
「つまり、あんたも元傭兵?」
「俺たちはみんなそうさ……劇団なんてのは元は旅芸人の一座。各地を転々としてるって意味では、傭兵と大して変わらない」
二人は劇団員を開放して外に出た。
貧民窟近くの酒場は日雇い労働者や芸人、娼婦などで賑わっていた。
どうやら流れ者が集まる酒場のようで、半地下のワインセラーとスペースを区切った形態だった。
壁一面にワインの樽が積まれている。
「とりあえず飲むか」
「何でさ」
「酒場に来たというのに何も頼まないのはいかにも不自然だしな」
「ほんとにぃ~?ただ飲みたいだけじゃないの?」
「それよりあそこを見ろ。あの連中がおそらく傭兵だろう」
アトスの視線の先、奥の一角に陣取っている一団がいた。
「見ろ、この剣を!これぞ
「なんの!俺が持つのはオージェ・ル・ダノワの剣、ソーヴォジーンだ!」
「まあ待て。これが太陽よりも輝くというフローランス王権の証――――ジョワユーズ!」
おお、と傭兵達から声が上がる。
三人の傭兵達が自慢気に掲げた三本の剣は成程、どれも業物に見える。
しかしアトスには俄かには信じられなかった。
「……バカな。ジョワユーズは今も国王の元にある筈」
そこで一人の客が傭兵達に向けて声を掛ける。
「話にならぬ。例えそれらが本物だとしても、魂が無ければただの剣と変わらぬ」
「何だと!」「誰だ?」「知ったような口聞くじゃねえか」
「柄頭に聖遺物が入っていない。聖剣が何故聖剣なのかと言えば、それは聖遺物を介して神秘を宿したからだ」
淡々とした口調でそう告げるのは、帽子を目深に被った人物であった。
「聖遺物だぁ?」「ただの骨とか歯とかだろ」「そいつも略奪しようぜ!」
そこへあのカルラが現れた。
「あんさん達、最近この街に流れて来んしたね?」
「応よ!反乱軍に参加する為に三日前に到着したのさ」
「反乱!それはまあ、物騒な話でありんすなぁ」
客を装ってテーブルに座るアトスとダルタニャン。
「マッツァリーノ枢機卿と法服貴族連中がまた喧嘩を始めたか」
「……あの話言葉、出身地を隠す為なんじゃないかな」
「何?」
「ああいう訛りはちょっと不自然だからね」
「胡散臭い女なのは間違いないな」
そう言ってアトスは給仕の老人に声を掛ける。
「樽から直接飲みたいくらいだが、そうもいかないか。こいつで一杯頼む」
アトスは銅貨一枚を渡した。
銅貨一枚は2ドゥニエであった。
給仕の老人は木製のゴブレットに樽からワインを注ぎ、アトスの前に置いた。
「僕はシードルでいいや」
ダルタニャンが頼んだシードルとはリンゴ酒の事である。
現代のサイダーの元となった飲み物だと言われている。
「反乱軍に入るつもりざんすね?そいならこの人の下にお入りなんし」
「俺たちを雇おうって言うのか?」
「『頭が高い』」
帽子の男が放った一言で、傭兵達の顔が硬直した。
そして一斉に、テーブルに額を打ち付けた。
「ふん、ここでは土下座までは出来んか」
「やりすぎでありんすよ、ドートヴィル卿」
「我が剣オートミーズは、己より格下であれば服従させる絶対命令権を持つ――――我が名はガヌロン。
~九本の剣(Ⅲ)これにて終幕!次回、蘇りし者の暗躍!~