・義勇兵クロム・アーサー
本作の主人公。現代日本より異世界転生を果たした。二刀、二鉈、二丁拳銃、さらに蹴り技の使い手。シャム(現在のタイ王国)の影響を受け、暹羅式念流という剣術を使う。
・シャルル・ド・アルタニャン
フローランス王国ガスコーナ出身。「三銃士」で有名なダルタニャン。実は女性で本名はシャルロット。まだ十代半ば。剣の実力だけなら三銃士達に引けを取らない。強引で我が強い。肌が浅黒い。銃士に取り立てられようと男装し、手柄を求めている。
・アーマンド・ド・アトス
フローランス王国の銃士。「三銃士」で有名。三十代前半と思われ、誠実で誇り高き武人。マスケット銃の腕だけでなく、レイピアを左右どちらでも使える。
・カルラ
劇団の看板女優。おっとりとした喋り口が特徴。赤毛と金髪が混じったストロベリーブロンドを後ろでボリュームのある夜会巻きしている。垂れ目で口元のほくろが印象的。
・ガヌロン
武勲詩「ローランの歌」における裏切り者。ポンテイユ伯、またはマイエンス公。
「これでまた兵隊が集まったでありんすね。まことに便利な剣でありんす」
「こうして待っていれば、酒を飲みに男達がやってくる。余所者がどうなろうと、ここでは気にする者はいまい」
「悪いお人でありんすねえ」
「酒にマンドレイクから抽出した眠り薬を入れたのはお前だろうが」
何か不穏な単語を聞いた気がする。
「――――」
ごんっ!
酒が回ったのか、アトスとダルタニャンはテーブルの上に突っ伏してしまった。
「剣の腕には自信があっても、隠密行動には慣れていないようでありんすねえ」
意識を失ってからどのくらいの時間が経ったのか、アトスが目を覚ましたのは何処ぞの荒れ地だった。
周辺は暗い。
「酷い気分だ」
まるで二日酔いのような気分だった。
アルコール分解能力の高い人種だろうと、分解能力を超えれば二日酔いにはなる。
ただ、ワイン程度で二日酔いになった事は無かった。
手で額を押さえようと無意識に動かそうとして、そこで手が縛られている事に気付く。
さらに、ダルタニャンの姿が見えない。
周りには同じように手を縛られた者達が座り込んでいて、中心で何人かのガラの悪い男達が焚火を囲んでいた。
近くに座り込んでいた異人、シノワ人の娘に声を掛ける。
「俺の連れを見なかったか」
「知らない。アンタが連れて来られた時、アンタは一人だった」
「そうか……俺はアトスだ」
「ファーリエンよ」
シノワ人はこの世界における東洋人であり、クロムなどのジパーニア人に似ていた。
ファーリエンと名乗った娘は両側にスリットの入った長衣を着ていて、切れ長の目が特徴的だった。
「人攫いか?」
「そう。イスパニアの奴隷商人」
「何処に向かってるか分かるか?」
「ホンフルールの港」
「奴隷貿易の一大拠点だな……奴隷商人はあいつか」
焚火に当たっている男の一人に、やたら偉そうな尊大な態度の男がいた。
「ルメートルと名乗った」
「2年前に各地で誘拐事件が頻発した事があった。その時の首謀者が確かルメートルと聞いた。新大陸へ逃げたと聞いたが」
「詳しいねアンタ……何者?」
「国王の銃士隊だ」
「じゃあ他の銃士達が助けに来る?」
「いや、望みは薄いな……ファーリエン、お前に頼みがある。俺の胸元にペンダントがある。それを引っ張り出してくれ」
「分かった」
ファーリエンも両手を後ろ手に縛られていたので、口でアトスの胸元からペンダントを引っ張り出そうと試みる。
数分間悪戦苦闘してようやくペンダントを取り出した。
「蓋が横に動く。中に鉄片が入っている」
ファーリエンが口の中にペンダントを含んで数分、モゴモゴと口を動かしてペンダントを吐き出す。
ゆっくりと舌を出すと、舌の上に小さな鉄の欠片が乗せられていた。
鉄片をポトリ、と地面に落とす。
「器用だな」
「それで、どうする?」
「そいつで俺の縄を切ってくれ」
ファーリエンは後ろ手に欠片を拾い、アトスと背中合わせに座る。
しばらくして縄は切れた。
「次はお前だ」
今度はアトスがファーリエンの縄を切る。
「この小さな鉄片は聖槍の穂先の欠片だと言われているが、まあ眉唾物だな。それでもこんな場面で役に立ったのだから、後生大事に身に着けていた甲斐があった」
そんな二人の様子を見ていた者がいた。
「おい、アンタ達」
岩陰から不思議な服装と髪形をした男がこちらを伺っていた。
「随分と変わった恰好だ」
男の顔は何か白粉でも塗っているのか真っ白で、目の周りは赤く彩られている。
髪の毛は頭の上で結って、そのままボサボサに伸ばし放題にしたようなものだ。
「逃げるんだろう?おいらも一枚噛ませてくれや」
見るとその男、両手を縛られてる様子はない。
「お前は何で拘束されていないんだ?」
「なあに、おいらは捕まる前に逃げてたのさ。だが、そこの唐人のねーちゃんに興味があってな。ずっと後を付けてた」
「……」
とんでもなく怪しい人物である。
たったそれだけの理由で、ここまでするものだろうか。
「本当にそれだけか?」
「あとはそうさな。あいつら人攫いの他にも『仕事』をしていてよ」
「仕事?」
「盗み、さ。おいらの商売敵って事よ」
「お前は盗賊か」
「まあな。ただし、そこいらのケチな連中と一緒にされたくはねえな」
「……まあいい。それで、何で俺たちと逃げる?」
「それさ。実はアンタ達の逃亡を助ける代わりに、おいらの稼業を手伝ってくれねえかい?」
「馬鹿な事を言うな。悪党の手伝いをするつもりはない」
「こいつを悪事だと思わなけりゃいい」
「何だと?」
「あいつらは傭兵連中と通じていて、各地で奪った武器やら鎧やらを傭兵団へ横流ししてやがる。その中で価値のある刀剣類なんかもある。柄に宝石が埋め込まれてたり、金やら銀やらで出来てたりするからな」
「それがどうして悪事じゃないんだ」
「おいらは奴らの武器を奪ってやるつもりだ。あのルメートルって野郎の兄貴ってのがまた悪い奴でよう。鍛冶職人なんだが、打つのは武器だけじゃねえ。奴隷の手枷足枷なんかも打ってやがる。つまり、兄貴が共犯で、武器の横流しも兄貴を通じてる」
「しかし武器を狙う盗賊とはおかしな話だ」
「あんた、ジョワユーズって知ってるかい?」
「……フローランス王権の証の剣だ」
「あいつら、その王権の証を盗んでやがるのさ。それだけじゃあねえ。デュランダルって剣や、他にも業物を盗んでるぜ」
「何だと?何故そんな事を知っている?」
「おいらは盗賊だが、同時にちいとばかし剣にうるさくてねえ……特に特別な力を持った剣には目がねえ。おいらの目利きに間違いはねえ。ジョワユーズもデュランダルも、間違いなく業物だったぜ」
「……ジョワユーズはこちらが貰う。それで構わないか」
「へへ、分かってくれたかい。交渉成立だな!」
「俺はアトスだ。お前は?」
「俺はイチカーヴァ・ゴウエーモンだ」
~九本の剣(Ⅳ)これにて終幕!次回、謎の盗賊と夜を駆ける!~