・アーマンド・ド・アトス
フローランス王国の銃士。「三銃士」で有名。三十代前半と思われ、誠実で誇り高き武人。マスケット銃の腕だけでなく、レイピアを左右どちらでも使える。
・カルラ
劇団の看板女優。おっとりとした喋り口が特徴。赤毛と金髪が混じったストロベリーブロンドを後ろでボリュームのある夜会巻きしている。垂れ目で口元のほくろが印象的。
・ガヌロン
武勲詩「ローランの歌」における裏切り者。ポンテイユ伯、またはマイエンス公。
・ルメートル
イスパニア奴隷商人。鍛冶師の兄と組んで傭兵団へ武器の横流しなども手掛ける。
・ファーリエン
シノワ人の娘。両側にスリットの入った長衣を着ていて、切れ長の目が特徴的。
・イチカーヴァ・ゴウエーモン
謎の盗賊。化粧で真っ白な顔、目の周りに赤い縁取り、髪の毛は頭の上で結って、そのままボサボサに伸ばしたような髪形。剣に目利きに自信があるらしい。
「ここから離れるとなりゃあ、さすがに連中に気取られる。そこでこいつの出番……名付けて、忍法・
イチカーヴァは岩陰から枯れ草の束を引っ張り出してきた。
「こんな荒れ地の何処にそんな草があったんだ?」
「こいつは麦わらさ。連中の荷馬車に積んであった」
「ルメートルは武器を麦わらで隠すつもりだったのよ」
「とにかくこいつを羽織れ。そして、おまじないを唱えて精神を統一する。おいらの唱えた言葉を真似するんだ。オン・アニチ・マリシエイ・ソワカ」
「何?」
「古代ヒンディアス語の
「オン・マリチ・アエイ・ソワカ」
「オン・アニチ・マリシエイ・ソワカ」
聞き慣れない言葉なのでアトスは間違えたが、ファーリエンは正確に真言を唱えた。
「おっ、ねえさんはどうやら知っていたようだな。あとは真言を唱えながら、ゆっくりとここを離れるぜ」
麦わらの束はわら縄を使って大雑把に結ばれており、頭から被っても不都合が無かった。
「これはお前が?」
「急ごしらえで申し訳ねえが、まあ我慢してくれや」
焚火を囲んで飲んだり食ったりして騒いでいる為か、奴隷商人達はこちらに気付いた様子はない。
「この近くの山小屋に武器を集めて、そいつをルメートルの兄貴が受け取りに来る、ってえ手筈だ。おいら達で先に業物だけ横取りしちまえばいい」
イチカーヴァに案内され、近くの山小屋の傍まで来た。
小屋の入り口には松明が掲げられ、傍には男が一人だけ歩哨に立っている。
剣とマスケット銃で武装している。
「あそこにジョワユーズが?」
「応よ」
「このまま逃げたらいいのに」
ファーリエンは成り行きで付いて来ていたが、さすがに荒事に手を貸そうという気までは無いようだった。
「ねえさん、お前さんの武器も中にあるぜ」
「武器?ファーリエン、お前も何者だ?」
「まあ、普通の娘さんな訳がねえよな」
「私はシノワの貿易商人の家に生まれた。ニーダー連邦の東ヒンディアス会社との取引でニーダー連邦に来た。しかしニーダー連邦で継承問題で戦争が起き、それで傭兵団に捕まった」
東ヒンディアス会社は香辛料貿易の為に設立された組織だった。
「あの男を何とかしないとな」
「山小屋を背に立ってやがる。後ろから、って訳にゃいかねえ。手裏剣を打つにしてもやっと届く程度の距離。一撃で仕留めるのは難しいぜ」
「手裏剣を貸して」
「ほう、ねえさん。何か考えがあるのかい?」
ファーリエンはイチカーヴァから十字手裏剣を受け取った。
「それが手裏剣か」
アトスにとっては初めて見るもので、カタリナが使っていたのは棒手裏剣だった。
「こういう時は女の方がやりやすいのよ」
「くノ一の術って訳かい」
ファーリエンは長衣の襟首をがばっと開け、白い肌を露出させた。
「おほっ」
鼻の下を伸ばすイチカーヴァに構わずに一人で山小屋へ。
歩哨の男がファーリエンの接近に気付く。
「おい、お前!そこで止まれ!」
「あー。あー」
「止まれと言っている!」
男がマスケット銃は肩に掛けたままで剣を抜く。
装填作業をするだけの距離的猶予が無いのだ。
「うー。あー」
ファーリエンはフラフラとした足取りに定まらない視線で、まるで正体を無くしたようであった。
「……お前、気が触れてるのか?」
喉元に剣を突き付けたものの、男は思わず力を抜いてしまった。
「あー」
「……へへっ」
男は闇夜に浮かぶ白い肌を間近に見て欲情してしまう。
しゃっ!
「ぐがっ!?」
ファーリエンの手から手裏剣が放たれ、男の喉笛を貫いた!
「確実に当たる距離まで近付いたのか」
「やるねえ、ねえさん」
男を仕留めたのを見ていた二人は、ファーリエンに続いて山小屋へと近付いた。
アトスは警戒しつつ扉の前に立った。
「開けるぞ」
「いやあ、ちょいと不用意じゃねえかい?」
「大丈夫だろう」
イチカーヴァの懸念の声を軽く受け流し、アトスは松明を手に扉を開けてしまう。
「……おやあ?」
小さな丸太小屋の中は真っ暗であったが、松明の灯りで誰もいないのが分かった。
「歩哨が一人というのはいかにもマヌケな話でな。交代要員がいたとしても、普通は二人を歩哨に、一人を休ませるのが効率的だ。一人という事は、交代要員がいない訳だ」
「なあるほどねえ」
「色々あるな」
中には武器が山積みになっていて、剣や銃の他、槍やハンマーなどもあった。
やはり圧倒的にマスケット銃が多い。
「あれだな」
奥にチェストが置いてあった。
ご丁寧に施錠されていた。
「おいらに任せな」
イチカーヴァが先端が鉤になっている金具を取り出し、鍵穴の中に入れる。
「中のシリンダーをちょちょいとね」
かちっ、かちっ――――がしゃっ。
子気味いい金属音の後、錠前のロックが外れる。
「たいした腕前だな」
「ま、こっちが本職でね」
チェストを開けると、中には赤いビロードの柔らかい布に包まれた剣が数本安置されていた。
「この柄と鞘の装飾……間違いない、これがジョワユーズだ」
アトスは金の柄を握り、フローランス王家の紋章と7つの宝石で装飾が施された鞘から刀身を引き抜く。
直刃の刀身は雨露に濡れたように美しい。
「他の剣も業物だぜ」
イチカーヴァが他の剣の一つを抜いた。
「それは」
ジョワユーズに勝るとも劣らないその剣は、先端が斜めに欠けていた。
「知ってるってえ顔だな兄さん」
「去年、俺はイングレスで戦っていた。その時に見た。それはイングレス王室所有の無先剣カーテナだ!」
~九本の剣(Ⅴ)これにて終幕!次回、宝剣の秘密!~