・義勇兵クロム・アーサー
本作の主人公。現代日本より異世界転生を果たした。二刀、二鉈、二丁拳銃、さらに蹴り技の使い手。シャム(現在のタイ王国)の影響を受け、暹羅式念流という剣術を使う。
・カタリナお
イスパニア忍者。イスパニア宣教師の父と日本人の母から生まれる。伊賀鍔隠れの里で修行をした。忍法・山彦の使い手。音を自在に操る。金髪碧眼そばかす。胸がやたらと大きい。
・アルノルダ
パロペニアの街で助けた少女。後年、「赤ずきん」として知られる事になる。10代前半。灰色狼ナバールを連れている。
・アーマンド・ド・アトス
フローランス王国の銃士。「三銃士」で有名。三十代前半と思われ、誠実で誇り高き武人。マスケット銃の腕だけでなく、レイピアを左右どちらでも使える。
・イザーク・ド・ポルトス
フローランス王国の銃士。「三銃士」で有名。アトスの従兄弟。がっしりとした体格で、かなりの力自慢。それでいて銃も剣も高い実力を誇る。豪放磊落な好人物。
・アンリ・ド・アラミス
フローランス王国の銃士。「三銃士」で有名。銃士隊長トレヴィルの甥。三銃士の中では一番若い。女癖の悪い伊達男。銃も剣もそつなくこなし、学問にも秀でる。
・天草四郎時貞
キリシタン。島原の乱を率いた。森宗意軒の忍法・魔界転生により転生した転生衆の一人。宗意軒の一番弟子。忍法・髪切丸を使う。当時、まだ十五歳であった。
・田宮坊太郎国宗
江戸時代の剣客。歌舞伎の主人公として知られる。齢二十一にして結核で病死したとされる。田宮流居合術の使い手。三尺を超える大太刀を使う。
・荒木又右衛門保知
江戸時代の剣客。「鍵屋の辻の決闘」で名を馳せた。「寛永御前試合」にもその名を残す。享年三十八歳。長身で二尺七寸の長い太刀を使う。
『ピリオネスの魔女』である老婆は孫であるアルノルダをクロム達に託し、何処かへと消えた。置き手紙と共に一冊の本がアルノルダに残された。
その名を『ガヤト・アル・ハキム・フィル・シフル』と言う。
「我々はひとまず、フローランスの首都パリージへと戻る。パロペニアとジロアニア、国境を挟んだ両側で虐殺が起きた今、必ず両国の報復合戦になる。まずはマッツァリーノ枢機卿に軍を進軍させないようにお願い申し上げる」
「マドモアゼル、しばしのお別れをお許しください。このアラミス、あなたの触れたこの手を洗わずにおきましょう!」
「いや、洗えよキザ男。汚ぇだろ」
「はっはっは、はっきり物を言うなあ、クロムは」
別れを告げるアトス、女癖の悪いアラミス、笑うポルトス。
「では、しばしの別れだ!」「ああ、マドモアゼル!」「さらば、友よ!」
三銃士と別れ、クロムはカタリナとアルノルダ、それに灰色狼のナバールを連れてジロアニアへ様子を見に行く事にした。状況を確認次第、カタロニア軍の指揮官に真実を伝えて両軍の衝突を回避する。
「カタリナとアルノルダも俺に付き合わなくていいんだぞ」
大小様々な石で舗装されたドミティエナ街道を南下中、クロムはそう切り出した。
「乗りかかった泥船と言いマース!」
「何でわざわざ一語増えてるんだよ乗るなよ泥船に」
「実は本当の理由がありマス」
「いきなり真面目になったな」
「ワタシの目的は、財宝デース!」
「いきなり俗っぽくなったな」
「かつてキリシタン大名達がロムレアス教皇に謁見しマシた。その時に布教の為の資金として授かった財宝、およそ百万エクーの価値があると言われてマス」
「……どのくらいの価値なのかさっぱり分からんわ。で、それがどう天草四郎と関わるんだ?」
「何を言ってマスか?天草四郎はキリシタン軍の指揮官デスよ」
「いやあ。あいつ、財宝の在り処とか絶対口を割らないだろ」
「大丈夫デス!ワタシの忍法・山彦が心の声をさらけ出しマース!」
「便利過ぎないその忍術」
「勿論、財宝は山分けデース!ワタシ7、クロムさん3デス!」
「おいおい待て待て。何だその比率」
「ワタシの忍法で聞き出しマスから、ワタシが多く貰う権利がありマース!」
「ねえカタリナお姉ちゃん、あたしは?あたしの分は?」
「グアーウ!勿論、アルノルダの分もありマース!ワタシ7、アルノルダ2、クロムさん1でどうデスか!」
「わーい」
「待て待て。何で俺の取り分が減るんだ」
「アルノルダにはナバールもいマスから二人分なのデース!」
「納得出来ん。それなら金以外の報酬を頂こうか!」
「何デス?お金以外に何がありマスか?」
「カタリナ。お前が欲しい」
「な、何を言ってマスか!?」
「アルノルダも欲しい」
「死んで下サーイ!」
「がぶっ」
「あいたたたたやめろこの狼」
カタリナには殴られなかったが、ナバールが主人の危機を感じてクロムの足を噛んだ。
「わーい、お城だー!」
「わふっ」
ナバールを連れてアルノルダが城門をくぐり抜ける。ここは岩山の上に建てられた古城であった。通常の街道は進軍ルートであるので万が一の為に避け、山沿いの街道に入る為にこの山城を抜けなくてはならなかった。
「うぉん」
ナバールが短く吠えて立ち止まる。
「ぐるるるる」
「狼は鼻が利くからな」
「そうデスね。何か見られている感じがしマスね。アルノルダ、ワタシの後ろにいて下サイ」
「うん、分かった」
―――きらり。
視界の奥で、何かが光った。
「あっちだ」
城塞の瓦礫が立ち並ぶ中、残った壁に額縁のようなものが掛かっていた。しかし装飾が施された縁は丸く、絵画が飾られていたとは考えにくい。
「何だこれ。鏡か?」
「そのようデスね。本体の鏡が無くなっていマスね」
「よく略奪に会わなかったな」
「装飾だけでもお金になりマス」
「ぐるるる」
ナバールはその装飾を睨みつけている。
「ナバールは何でそんなにそいつを警戒してるんだ?あいつらの方を警戒した方がいいだろう」
「殺気が隠してまセンよ。そろそろ出てきたらどうデスか」
「おおーっと。バレちゃあ仕方がねえ。おう、身に着けてるもん全部寄越してもらおうか。姉ちゃんはもらう。野郎は殺す。ガキは売っ払う」
城塞の瓦礫に紛れ、ぞろぞろと男達が姿を現す。それぞれが剣や槍などで武装しており、粗末な胸当てなどを着けていた。
「つまり俺を殺せばいいと思ってるんだ?」
「おう、そうよ。おめえをまずはぶっ殺す」
この集団の頭目らしき男が剣を抜く。装備に統一感が無いので、おそらくは山賊兼、傭兵というところか。
「うるあっ!」
「うるせえ」
ばきっ!
頭目の剣が届く前に、クロムの回し蹴りが届く。首筋に当たった蹴りの威力で横一回転した後、地面に叩き付けられた。
「や、やろう!」「やっちまえ!」「殺せ!」
クロムの蹴りはシャムのムエイボーランという古武術に近い。剣より先に蹴りが当たったのは、単純に能力もレベルも大きく離れているからだった。
普通の人間はモナルキアン・ルールブックによれば通常レベル1で、どんなに鍛えてもその『レベル1』という「強さの水準」は変わらない。これがライオンとなると生まれつき強いので『レベル5』くらいにはなるという。人間は『レベル1』であり、ライオンは『レベル5』なのだ。そしてこのクロムは『レベル10』に相当する。三銃士達なら『レベル5』、転生衆もまた『レベル10』相当である。そしてこの基準で一番強いとされるのは、『神性』の『レベル100』である。
「うぉん!うぉん!」
「きゃあっ!?」
「アルノルダ!?」
ナバールが途端に吠えたのでカタリナは後ろを振り向く。縁だけの壁鏡の何もない空間が捻じ曲がり、中に何かが見える。
「鏡よ鏡、アルベルティスの鏡よ。汝、その似姿の魂を我が精気とせよ」
中から聞こえてきた女の声。捻れた空間がやがて鏡面のようにその場の全ての者を映し出す。
「―――逃げろ!それは『エナジー・ドレイン』だ!」
クロムが慌てて鏡の範囲内から飛び退く。
「!!!―――ヴァーレ!アルノルダも!」
カタリナも急いでその場を離れるが、アルノルダは咄嗟に動けなかった。
「うわあああ!」「ち、力が抜けていく!」「た…助けてくれぇえ!」
山賊達が次々と倒れていく。精気を吸い取られ、心臓麻痺で死んでしまったのだ。『エナジー・ドレイン』でレベルダウンをすると、レベル1の人間は即死してしまうのだ。レベル5のライオンならばレベル4にダウンしてしまう。アルノルダも即死してしまう―――と、思われた。
「赤頭巾の加護を!レジスト・マジック!」
対魔法防御の魔法レジスト・マジック。赤頭巾には即死耐性に始まり、毒物耐性、呪詛耐性、火炎耐性に冷気耐性など、物理攻撃以外への耐性を上昇させる効果があった。その効果をさらに増幅させるのがレジスト・マジックの魔法である。
「大丈夫デスか!?」
「大丈夫だよお姉ちゃん。あたし、これでもお婆ちゃんから『白魔法』を教えてもらったんだよ!」
『白魔法』とはモナルキア世界において、星々の力を借りる事で超常の力を発揮する、ウイッチクラフトの中でも「善い」効果を多く得られる魔法体系である。
「うぉおおおおおん!」
さらにはナバールの咆哮が、鏡の魔力を打ち消した。
「ナバールの声にも魔法の力があるんだよ」
「ワタシの忍法と似てマスね」
『忍法』も魔法の一種である。
「しかしこの鏡?これは何だったんだ」
鏡は力を失ったのか、既にその鏡面は消失して元の何もない縁だけになっていた。
―――魔法の鏡。その持ち主であるブラクバテンクス公国リヒルデ・フォン・グンドリヒが四人目の転生衆として蘇ったのだった!
~地獄変第六歌これにて終幕!次回、あの銃士が戦場に立つ!~