青年の苦悩、その壱
「助けて……」
ああ、まただ……。
「助けて……熱いわよぉ……!」
っ……!
「熱い……熱いぃっっ!!」
「うぐっ!?」
青年は突然、目を見開くと同時に上半身だけを起こした。息は走った後のよう何度も吐き続けていた。だが額には汗を流している。着ている服も少し湿っていたが身体中、汗を流しているのだ。
しかし、彼は単に横になっていた訳ではない。彼は昨日の疲れを取る意味で、夜中の大半を就寝時間に使っていた。彼はさっきまで寝ていたのだが自ら望んだ訳でもないのに悪夢に魘され、自らが望んだ訳でもないのに起きてしまったのだ。
汗もその悪夢の所為でもあり、汗もそれを意味する形で出していたのだ。彼は汗を拭うが哀しく項垂れる。青年はあれを、自分が見た悪夢を思い出していたからだ。
彼女は自分を見ながら泣いている、手を伸ばしている。その人は自分が良く知っている人だが逢って間もない人だった。けど、僕が最初に助けられなかった。否、助ける事は出来ない人だった。
彼女は信頼していた人の裏切りに遭い、既に死亡している身でありながらも炎に巻かれて亡くなってしまった。彼女の肉や骨は溶け、髪の毛一本も残らない程だった。
彼女を見ると……否、これ以上は言いたくなかった。彼女を助けられなかった。それは紛れもない事実だが既に死亡していた為に助ける事は絶無だ。
青年はそれに気づきながらも己の無力に恥じいていた。彼が悪い訳ではないが彼は人の死を目撃したからだ。彼女が初めてであるのと辛い現実に目を背ける事は出来なかったのだ。
彼、立香は下唇を噛みながら目元を手で覆い隠す。泣く訳でないが身体を震わせていた。自分は特異点の人理修復を任された最後のマスター。
自分の他にもマスター候補生はいるが皆、凍結されている。つまり、事実上、彼一人で行なわなければならない。と言っても、サーヴァントと呼ばれる者達と共に行なうのだが彼は生身かつ、その大役を任されたのだ。
同時に重圧でもあった。行動を間違えれば全て水の泡と化す。最善や苦渋の決断を何度も迫られるのだ。死を迫られる事が何度も遭った。が、それ以上に辛かったのだが人の死を何度も目撃したからだ。
彼女だけでなく、何の罪もない人が殺されたのだ。明日を見る前に殺されてしまったのだ。青年の眼前で、青年の知らない所で殺されたのだ。
人の死は突然やってくるかどうかは判らないがそれが青年の心に暗い影を落としていたのだ。彼はその事で自分を追い詰めているが青年は自分の不甲斐なさに打ちのめされていた。
しかし、それ以上に辛いのが彼はその事を周りに言ってないのだ。理由は簡単、彼は優しすぎたのだ。彼等、彼女等、異形の者等全ての英霊達や人間と言う同族達に。
彼等は日々、特異点を修復する為に勤しんでいる。自分の為にサポートをしてくれている。有り難くもそれが原因でもあった。話せば彼等を更に心配させ、業務や任務に支障を来す。
そうなれば彼等の命が危機に晒される。それを危惧しているからでもあるが彼は彼等、カルデアに居る全ての者達に迷惑をかけたくないと思い、言わなかったのだ。我が儘に近いが災いにも近かった。
彼等を思うが故、自分を追い詰めていた。気丈に振る舞っていながらも不安に押しつぶされそうになっていた。マスターと言う重荷は兎も角、見たくもないのに傷付いていく仲間達、特異点の影響により殺されていく人達。
自分はそれらを全て見ているだけで、何も出来ないでいる。青年、藤丸立香はそれらを思い出しているが身体を震わせ続けていた。不安と恐怖が彼を支配し、精神を追い詰めているのだ。
「どうすれば……っ……ううっ……!」
青年は小さな嗚咽を上げる。マスターと言う重荷かつ、仲間達を心配させたくない苦悩、見ているだけの自分への怒り。何れも葛藤に近いが彼はそれ等を吐き出す意味で嗚咽を上げ続けていた。
小さいのも外間で響くのを防ぐ為でもあるが心配させたくないと言う意味でもあった。それに幸いな事に此処は彼の部屋だが室内は暗く、彼が何をしているのかは判らない。
が、室内には誰も居らず、誰も慰める気配はない。それは好都合でもあるが彼を孤独にさせていた。安心出来、ゆっくり出来る自分の部屋でも彼は自分を追い詰めていたのだった。
今は何時なのかも判らないが彼は泣き止むまで嗚咽を上げ続けていた。そして、彼は泣き疲れる意味で再び就寝するのかは誰にも判らない。判るとすれば彼の行動だがどうなるのかは、彼にしか判らない。