自らを人の面影を残し、力に溺れたマスター   作:NO!

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青年の苦悩、その弐

「……た……アンタ……」

「う……ううん」

 

 誰かが誰かを呼んでいた。その口調は怒りが孕んでいるが呆れているようにも思えた。同時に身体が左右に動いていた。否、その誰かが身体を揺すっている。

 起きろと言う意味にも近いが視界は真っ暗だった。違う、目を閉じている為でもあるが瞼を開く。視界の先には、白い天井が見えた。同時に、横から誰かが自分を除いていた。

 

「……あっ」

 

 その者は自分を見ている者が誰かに気付く。銀色の短い髪に黄色い瞳。外人とも言えるが外人だ。年は自分と同じくらいとも言えるが少女だった。

 黒い甲冑を纏っているが黒いマントを着けている。表情はムスットしているが呆れているようにも思えた。

 彼女の名はジャンヌ・ダルク・オルタ。彼女とは、最初の特異点で闘ったのだが色々遭って、召喚と言う意味で仲間として迎え入れた。このガルデアにいるサーヴァント達の中では、クー・フリーン達の後からでもあるが古株である。

 実力も申し分ないが辛辣な言葉を掛けてくる。彼女の性格上、オルタであるが為に仕方ないだろう。立香はそう思いながらも軽く笑う。

 

「おはよう、ジャンヌ」

 

 立香は彼女に挨拶した。基本的かつ、当たり前の事だが何処か新鮮だった。何時もなら、デミ・サーヴァントであるマシュが起こしに来る。

 当たり前の光景だが一日の始まりを告げてくれるからだ、しかし、今日に限って、彼女が起こしにくるのは珍しいのだろう。彼はそう思いながらも笑っていた。

 

「何よ? 気持ち悪い笑いを浮かべるんじゃないわよ?」

 

 ジャンヌオルタは立香の笑みを見て気味悪がる。

 

「否、何時もならマシュが起こしに来るから、ね?」

「……それで、私が起こしにくるのが珍しいと?」

「まあ、そうなるね」

 

 立香はそう言った後、ベッドから立ち上がると、着替えようと思った。が……。

 

「ごめん、着替えたいから部屋を出てくれないかな?」

「……フン、まあいいわ」

 

 ジャンヌオルタは腕を組みながら部屋を出ようとした。

 

「それに」

 

 ふと、彼女は足を止めると、立香の方を見る。ムスっとしているが口を開く。

 

「貴方の裸なんて、見たくないですからね」

「ハハッ……」

 

 彼女の言葉に立香は苦笑いした。彼の様子にジャンヌオルタは「フン」とそっぽを向くと、部屋を出て行った。

 

「…………」

 

 一方、立香は一人、部屋に取り残された。元々、彼の部屋でもあるが彼は着替えようとシャツを脱ぐ。

 

「あっ……」

 

 ふと、自分の腕に視線を走らせる。そこは綺麗な肌であるが傷跡は少しだけあった。一カ所だけではない、数カ所でもあるが胴体や四肢にもある。

 しかし、立香は自分の腕を見て、軽く俯き、辛そうに目を閉じる。彼は今までの特異点で多くの戦いや多くの経験を積んできた。何れも傷付きながらも辛くも勝利した物ばかりだった。

 同時に多くの仲間を喪った。消滅したが召喚と言う形で再会出来る。否、それではダメだった。彼等、彼女等の方が戦ってきた。その結果、勝利と敗北を繰り返していった。

 死んだ者は戻って来ない、自分達に後を託して散って逝った。彼は何度もそれを目撃した。彼等の分まで頑張らなきゃならない、そう思っていた。

 が、彼等だって、自分と敵対した者達だって生きていた。英霊だとしても自分の理想を掲げていた。間違った道へと行きながらも彼等なりの信念が有った筈だ。

 自分達は特異点を修復すると言う使命があった。向こうにも、全ての元凶にも理念があった。自分達は正義の為にしたのだろうか? それとも、彼等を悪と見なして、倒したのだろうか?

 立香はそれを自問自答させているが答えは見つからない。彼は頭を抱えるが自分の肌を見たのは、今までの事を思い出してしまったからだ。

 が、それとは別に、有る事も思い出す。それは自分が召喚し、従ってくれたサーヴァント達。彼等は特異点での出来事は兎も角、戦いで傷付いていった。

 自分を守る為、鍛える為に武器を取り、魔術を駆使した。彼等、彼女等のお陰で勝利は成し遂げられなかった。代償は傷付いていった事だ。

 立香はそれを自覚しながらも彼等、彼女等の事も気にしていた。相談でも出来なかった。否、相談すれば、彼等に負担をかけさせてしまうからだ。

 

「……どうすれば……良いんだ」

 

 立香は言葉を漏らす。この悩みは彼自身を追い詰めている。同時に今日もまた、彼等彼女等を鍛える為に、育てる為に特異点、と言うよりもそれに思しき場所へと向かう。

 休日は愚か、それは毎日だ。全ての特異点を修復するまで、永遠に繰り返される事だった。彼等、彼女等を鍛えるには仕方ない事かつ、傷付くのは当たり前だと言う事を重く受け止めているが自分は見ているだけであり、令呪を出す以外、何も出来ないでいる。

 立香はそれにも気付いているが未だにそれを受け止める事が出来ないでいる。一般人であるが故、全ての重い使命を彼一人が背負う意味にも近いからだった。

 

「…………」

 

 すると、扉が開く音が聴こえた。これには立香も少し驚きながら扉の方を見ると、そこには、さっき出て行ったばかりのジャンヌオルタがいた。

 彼女は少し歯をく縛っていたが怒っている。自分が何かをしたのか? 立香はそう思いつつも声を掛けようとしたが彼女が口を開く。

 

「何時まで待たせるのよ?」

「えっ?」

 

 ジャンヌオルタの言葉に立香は目を見開くが彼女は舌打ちした。

 

「勘違いしないで下さいね? 私は貴方が部屋から出て来ないから、見に来ただけです」

「えっ……それって」

 

 立香は何かに気付く。彼女は見に来た? ……それは、彼女自身が部屋の外で待機している事を意味させていた。彼女は自分が出てくるまで外で待っていた、としか思えなかった。

 その発言は彼を驚かせる事に等しいがジャンヌオルタは彼を見て苦虫を噛み締める表情を浮かべる。

 

「何ですかその顔は? 私が待っていたと思ってるの?」

「あっ、否、まあね」

 

 立香は苦笑いして誤摩化すがジャンヌオルタはジト目で見る。

 

「取り敢えず、早く来なさいよね? 私、お腹空いてるのよ?」

「ジャンヌでも、お腹空くんだ?」

 

 立香は軽く微笑むがジャンヌオルタは彼の言葉に少し怒る。

 

「勘違いしないでよね!? 私だって食べたい時は食べたいのです! サーヴァントが食事や睡眠を摂ってはいけない決まりなんて無いでしょう!?」

「ごめんごめん、でも、俺は少し驚いているから」

 

 立香は彼女を宥めるがジャンヌオルタは彼の言葉に不機嫌となり、更に言葉を続ける。

 

「早く着替えなさい! 私は外で……っ、一応、待ってるから」

 

 ジャンヌオルタは途中、頬を紅くしながら答えた。恥ずかしいのだ。彼は自分のマスターであり、救ってくれた者だからだ。外で待っていたのも彼と一緒に歩きたいからだった。食堂までだが僅かな時間、彼といたいからだ。

 しかし。立香はそれに気付かない。彼女は頬を紅くしながら怒りつつ、部屋を出て行った。

 

「……フッ」

 

 立香は彼女が出て行った後、着替える。が、哀しい表情を浮かべる。無理も無い、彼はさっきの悩みを彼女に打ち明けられなかった。否、打ち明ける事が出来ないからだ。

 迷惑をかけたくないのもそうだが立香は瞼を閉じる。やはり、誰かが傷付くのは見たくない、出来る事なら自分も戦いたいと思っていた。令呪だけでは何も出来ない。

 武器を取って戦っても、相手は強い。自分よりも体格や体力、持久力は違う。それに死んだらサーヴァント達が消滅し、特異点の修復は愚か、世界は終わる。

 それだけは避けたかった、否、周りからそれはダメだと言われたからだ。最後のマスターでもあるがそれが原因でもあった。周りは彼を気遣い、サポートをしている。

 が、それが原因である事も周りは知らない。立香の気持ちを理解していないのだ。

 

「……俺は、マスターだけで良いのか? ……」

 

 立香はそう思いつつも着替えを終えた。が、悩みは消えず、彼自身未だに自問自答しているがその答えは見つからなかった。

 そして彼はその悩みを抱えつつ、ジャンヌオルタが待っている事に気付きつつ、貴重品を持って、部屋を出た。が、部屋の明りを消す意味で消した後でだった。

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