GM、大地に立つ   作:ロンゴミ星人

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6話

 

 窓から差し込む光によって目覚めたトールは、晴れ晴れとした気分で朝を迎えていた。

 それは昨晩に宿へ連れ込んだ女性のおかげだ。

 色々あって眠らせることになったその女性を連れ込んだ後、トールは欲望のままに行為に及んだのだが、途中でその女性は目を覚まして暴れだしたのだ。

 しかし、いくら娼婦じゃないと言ったところで、トールには先に襲われたという大義名分があった。もちろんそんなものは女性を襲っていい理由にはならないが、そんな事を気にするトールではない。

 そうして圧倒的な身体能力の差に屈した女性は、今もトールのベッドで眠っている。

 

「ああいうのは初めてだったな。体力もあるみたいで途中で目覚めてからは最後まで気絶しなかったし。レベルが高いとかか?」

 

 トールは今まで強さについて考えたことはなかったが、一度ジョンにこの世界の強さのレベルは低いと言われた事があった。

 そして今まで宿屋に連れ込んだ女性が途中でダウンしてきた事も考えれば、間違いなく昨日の夜を共にした女性はレベルが高いのだろう。

 

「女スパイとかだったら燃えるのになぁ」

 

 ぽつりとそう呟いた彼は、ぐっと背筋を伸ばしてからベッドから立ち上がった。

 だんだんと目が覚めてきて、体のベタつきが気持ち悪くなってきたのだ。それだけではなく、かなりの空腹感も感じられる。

 トールは女性に目をやって、未だにぐったりと体を横たえる彼女が目を覚ましそうにない事を確認すると、足早にその部屋を後にした。

 そうして戻ってきたのは一時間近く後の事だが、徹夜で体力を使い果たしたためか、女性はまだ目を覚まさない。

 そこでトールは、女性を部屋に置いて冒険者組合に出かけることに決めた。そして色々聞きたいことのある女性が勝手にいなくならないように準備をしてから、いつも通りに冒険者組合へと向かうのだった。

 

 

「おほ~。すっげえ美人。誰あれ」

 

「昨日冒険者登録をした方です。確か……ナーベさんだったでしょうか」

 

「ふーん……はぁ」

 

 そして冒険者組合にやってきたトールが目にしたのは、冒険者チームと共に二階へと上がっていく黒髪の美女だった。

 今までに見たことがないその女性の事を受付嬢に聞いたトールは、その美女が新人であることを聞いて笑みを浮かべた。

 新人ならいくらでもつけ込む隙があると思ったのだ。

 しかし、しばらく眺めていたかと思うと視線を外し、首を振りながら溜息を吐いてしまう。

 そんなトールの様子を見て、彼の性格を知っている受付嬢は首を傾げた。

 

「どうしました?」

 

「いや、なんでもない。ちょっと萎えただけ。ホントそれだけだから」

 

「はぁ……それならいいですけど。何かあったら言ってくださいね?」

 

「心配してくれるの? 嬉しいねぇ」

 

 心配してくる受付嬢の声に癒されながら、トールはもう一度だけ階段に目をやった。

 既に上階へと登ったナーベの姿はそこにはないが、むしろそれで良かったとトールは思っていた。

 もしもまた見てしまったら、あまりにも惜しすぎて再び溜息を吐いてしまいそうだったからだ。

 

(なーんであんな美人なのにNPCなんだよ……)

 

 トールは目をやってすぐにナーベがNPCである事に気付いていた。

 理屈などトールにはわからない。

 だが強いて言うならば、それはGMであるトールに与えられた感覚なのだろう。

 そしてわかってしまったが故に、トールは惜しく思ってしまうのだ。

 

(いくら美人でもなぁ。今更作り物相手に腰振る気にはなれないっての)

 

 それが現在、この世界で生きる女性を抱いたトールが持つ正直な気持ちだった。

 もし仮に自分に忠実な美人NPCを作れたとしても、トールはそれを作らないだろう。

 それが作られたモノであるという感覚が抜けない以上、それがまるで本物のように動くかどうかは関係なく、どうしても女として見る事が出来ないのだ。

 絶世の美女のようなラブドールと、そこそこ美人な生身の女性なら後者を取る。

 それがだいたいの男が抱く感情であり、トールももちろんそのタイプだった。

 

「さ、今日も応接室行ってくるから、連絡頼むよ」

 

「はい。それではまた後程」

 

 受付嬢と別れ、トールはいつもの部屋へと向かう。

 その頭からは既に、先ほど見つけたNPCの事は消え去っていた。

 

 

 

 

「……うっわ。最悪」

 

 隣の部屋から漂う食べ物の匂いで目覚めたクレマンティーヌは、最悪の気分でベッドから体を起こした。

 昨晩から今朝までにかけての事を思い出したのだ。

 なまじ体力があり、元々の組織で培った精神力があったせいで、睡眠魔法から目を覚ました後の彼女は気絶することもできずに男の相手をする羽目になったのだ。

 昼まで目を覚ますこともなく、ぐっすり眠っているのも当然だった。

 

「しかもどこ行ったのよアイツ! あんだけヤっといて放置!?」

 

 そう声を上げて自分の体にかかっていたシーツを跳ね除けたクレマンティーヌだったが、腰から下を動かそうとして動きを止めた。

 一晩中荒地を駆けても余裕が残るほどの健脚を誇る自分の足が、まるで鉛のように重くなっていたのだ。そしてそれを自覚した途端、今まで無視していた倦怠感がどっと彼女の体にのしかかってきていた。

 おまけに体中に乾いた何かやらべたついた何かやらが張り付いているのが感じられ、優れた嗅覚にもあまり嗅ぎたくはない類の匂いが感じられて、クレマンティーヌの気分は更に悪くなっていった。

 

「チッ、とりあえずこの場から離れないと……」

 

 それでも部屋の主であるトールが外出しているならと、クレマンティーヌは全身に力を入れて立ち上がった。

 同時に太ももを何かが伝う感触を感じ、クレマンティーヌは怒りを露わにしながらベッドの周辺に目をやった。しかし、昨晩はぎ取られてベッド脇に捨てられたはずの彼女の装備は見つからない。

 クレマンティーヌは仕方なくまだ湿り気の残るシーツを纏い、慎重に寝室の扉を開けた。

 そこにトールの姿はない。だが、つい先ほど用意されたのだろう、まだ熱の残る幾つか料理の皿がテーブルの上に置かれていた。

 

「いない、か。ならこの食事はどこから?」

 

 普通に考えれば、宿の者がトールに指示されて用意したものだ。

 まさか腹ごしらえしろとでも言うのか、とクレマンティーヌが思った時だった。

 

「お目覚めですか」

 

「誰だっ!?」

 

 どこからか男の声が聞こえ、クレマンティーヌは自然とシーツで体を隠しながら、その声のした方向を睨みつけた。

 肉体的にも精神的にも人外の枠に踏み込んでいるクレマンティーヌだが、男の声を聞いて反射的に裸身を隠すくらいの羞恥心は持ち合わせている。

 だが、今回のそれは杞憂だった。

 その男の声を発しているのが、人間ではなかったからだ。

 

「一応面倒を見るように言われてますので、どうぞ体を清めてから食事をお取りください」

 

 そんな事を言いながらクレマンティーヌの前に進み出てきたのは、紛うことなき一匹の犬だった。

 流石に目の前に出てこられては、自分が相手の声の出どころを間違えるはずもない。間違いなく犬が喋っていることを知り、彼女は驚愕に眼を見開いた。

 

「なっ……い、犬!?」

 

「はい。ジョンと言います。主殿……トール様のペットです」

 

「モンスター?」

 

「それに近いですね」

 

 一度は驚いたクレマンティーヌだったが、すぐに平静を取り戻した。

 元々漆黒聖典として特殊な存在との関わりが多かった彼女には、喋る犬くらいならそこまで驚くものではないと思い直したのだ。

 そしてその小さく弱そうな姿を見て、ニヤリと笑って口を開いた。

 

「ふーん……ねぇワンちゃん。私ここから出ていきたいんだけどー」

 

「駄目です。あなたには主殿が帰ってくるまでここにいてもらいます」

 

「なんで私がそんな言葉に従うと思ってるわけ?」

 

「すぐにわかりますよ」

 

「そう。それはよかった……ねっ!」

 

 クレマンティーヌの取った行動に迷いはなかった。

 纏っていたシーツを目晦ましに投げつけて、武技を発動して駆けより、思い切り犬を蹴り飛ばす。そして宿屋を出たら適当な人間を襲って服でもなんでも奪えばいい。

 そんなプランを一瞬のうちに描いて、すぐさま実行に移したのだ。

 だが、クレマンティーヌは今までに経験したことのない精神と肉体両面の疲労から、異常な状況に対する冷静さを失ってしまっていた。

 普段のクレマンティーヌなら気付いたはずだ。

 素肌で刃物を弾き、卓越した戦士である彼女を押し倒して犯すような奴が残した犬が、ただ喋るだけが能なわけがないと判断するべきだった。

 

「あれっ?」

 

 犬を蹴り飛ばしたはずなのに、まるで段差に足を引っかけたような感覚がクレマンティーヌを襲った。

 そして世界が回るような感覚に意識を吹き飛ばされ、彼女は力なくその場に崩れ落ちた。

 

 

「無駄だとわかりましたか? わかったら体を清めて着替えてください。料理はそれまで冷めないようにしておきます」

 

 起きるなりそんな言葉を浴びせられ、クレマンティーヌは素直にその言葉に従うことにした。

 彼女とて馬鹿ではない。

 あまりにも得体の知れ無すぎる相手を前にして、わざわざ体力の回復をさせてくれるという言葉に逆らう気は既になかった。

 

「何が目的?」

 

「さぁ。主殿があなたに興味があるようですので」

 

「ハッ。あんだけ犯しといて何を今更」

 

「どの道、私の知るところではありません。あなたにも拒否権はないのでそのつもりで」

 

「……チッ」

 

 無慈悲に告げるその言葉を聞いて、クレマンティーヌは舌打ちをしながら料理に手を付けることにした。

 気分は最悪だが、すきっ腹に味も量も満足な料理が落ちれば自然と気は緩む。

 そしてクレマンティーヌは、なんとなく先ほど渡されて着用している自分の衣服に目をやった。

 それは下着も含めて素晴らしい肌触りの衣服で、良い素材が使われている事がすぐにわかる代物だった。一緒に渡された首飾りも同様に、七種の宝石が輝くそれの価値は凄まじいものなのだろう。

 問題は、その服が動きづらそうな黒のドレスであり、首飾りが宝石の埋め込まれた首輪である事だ。

 男を待つ時に裸でいるか服を着るかを選んだ既に、彼女は服を着ることを選んだのだ。

 

「帰ってきたら今度こそ殺してやる」

 

「無駄ですよ。今のあなたにはマトモな装備すらありませんし」

 

「うっさい! もう寝る!」

 

「この部屋から出ないのなら、どうぞお眠りください」

 

「あっそ!」

 

 もはや逃げられないのなら、なるようになれだ。

 そう思ったクレマンティーヌは、ソファーに横になって不貞寝を開始した。

 

 




大丈夫! ギリギリR18じゃないよ!
でも今回は全体的に汚い言葉が多い気がする。

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