一向に減少の兆しを見せ無い犯罪。その犯罪も今や多様性を持ち、さらに悪質で巧妙なものへ変わっていっている。また、捕える側の質の低下や人数の減少により、検挙率が低下していった。
その状況を打破すべく時空管理局は新たに部隊を新設した。
その名も『特殊時空犯罪対策部隊』。
今日はその部隊がついに発足の日となる......のだが。
その対策室の前で立ち止まっている一人の男性。暗い夜に溶け込むような黒い髪。それに合わせるように黒縁の眼鏡を掛けている。彼もその部隊のメンバーの一人だった。集合時間はまだ五分ほど時間がある。
しかし、五分前行動など当たり前であり、何よりこの部隊を
何が言いたいのかというと、この扉の先で待機しているであろうメンバーが全員揃っていることが当たり前だということ。
「はぁ......」
しかし、彼から滲み出るの諦めの念だった。まるで、あるスポーツでとてつもない大差をつけられて、巻き返すどころか、戦意を喪失した負けチームのプレイヤーのように。
実際、『特殊時空犯罪部隊』など名ばかりな部隊で、いわば各部隊から不要と言われた厄介者を集めて置いておこう、といった理由で作られたようなものだった。
故に、彼はメンバーが全員揃っているだろうか不安で仕方なかった。しかし、一つ言えるのがメンバー全員が自分の長所における分野に関しては右に出る者がいない、と言わしめるほどの『精鋭』だということ。
ただ、ほんのちょっと個性的な人物なだけで。
だからこそ、厄介者だと言われ、不要だと思われ、ここに追い出された者達だとしても。いくらなんでも揃っているだろうと期待を込めながら扉に手を掛け押した。
「──おはよう!」
.......。
しかし、開いた扉の先は真新しい執務机と椅子、新設されてから誰も入った形跡が無いと思えるような籠った空気が満たされている対策室だった。
「......マジかよ」
思わず、そう呟いてしまうほど予想が当たったのだった。残念に思いながらも彼は隊長が使う机へ近付き荷物を置いて自分も椅子に深く座った。
「あの......」
まさか揃うどころか一人もいないとは思ってもいなかった。彼が部隊長をするのは初めてでは無いが、こういった状況になるのは初めてのことで、このまま来なかったらどうしようか。
どうしたら一番得策なのか今までやってきた人生の知識をフルに使って考えた。
「あ、あのー......?」
しかし、まだ来ないと決めつけるのは良くない。もしかしたらやむを得ない事情があり遅れている可能性だってある。
そろそろ集合時間になるが十分ぐらい待ってもいいだろう、と彼は考えを簡潔させ待つことにした。
「あ、あの!」
「うぉっ!?」
いきなり耳元で大きな声を出され驚きのあまり仰け反ってしまい、見事に椅子ごと後ろにひっくり返った。カラカラと椅子のローラーが空回りする音が響く。
とても間抜けな構図だった。
「あ、すみません! すみません! 僕、影薄くて! あの、その......サ、サイモン・ウォーカーです! 階級は二等陸曹です!! 術式は──」
「いや、こんな状態で自己紹介しないでくれる?」
サイモンと名乗った
体制を立て直し、もう一度、ちゃんとした構図で自己紹介をしてもらう。
隊長である彼が椅子に座り、手元にあるメンバーの情報が記載されている資料を開き見る。改めて机を挟んで正面に立っているサイモンを見た。
まつ毛を通り越して目下ぐらいまで前髪を伸ばしており、目元が良く見えない。さらにオドオドしているのも合ってか全体的に頼りないのと暗い印象を受ける。取り敢えず手元の資料の情報通りの子だった。
「サイモン・ウォーカー。ランクはA......なるほど、その影の薄さは元々?」
「は、はい。恥ずかしながら昔から影が薄くて......隊長が入ってきたとき挨拶を返したんですが......」
「それに関しては悪い。......ただ、もう少し声量上げれる?」
何とか聴こえたものの、サイモンは余り人と面と向かって話すのが得意では無いのか、段々と声が小さくなっていき、最後は聞き取れないほどになる。
そして、サイモンは怒られたと勘違いしたのか頭を下げて何度も「すみません! すみません!」と言う。謝るときは大きい声なのに.......。
そんなやりとりをしていると対策室の扉が開かれ鋭い目つきに、佇まいから分かる凛とした女性が一つのダンボールを前に抱えて入って来た。
「おっ、来たな。遅刻だが何かあったのか?」
隊長である彼がそう声掛けるとダンボールを自分の入口から近い机に置き、肩まで伸びたブロンドの髪を後ろで結ってから彼の前に立ち敬礼をした。
その時、サイモンが立っていたのに気が付かなかったのか、彼女はサイモンを弾き飛ばした。弾かれたサイモンだったが彼女に至っては気が付いていなかった。
「ルミナス・サトライザー。陸曹長。遅刻したのは寝坊したから」
「おいおい、その前にウォーカーに謝ったら......ん?」
それだけ言って彼女は先ほどの机に戻り、持ってきた机の横幅に近いぐらい大きなダンボールから一つのふかふかな枕を取り出すと、それを机に置き頭を沈めた。
「待って、ちょっと待って。え? ウソでしょ?」
手元にある資料を急いで捲りある人物を見る。まさか彼女が一番懸念していた人物だと思っていなかった。
あの佇まいや目つき、如何にも噛みついて来そうな気の強い方だと思っていたが、まさか彼女がその問題児だったとは。
この資料曰く、朝起きられない、昼寝をしないとダメ、夜は八時には寝ないと気が済まない。何故、この資料には顔写真が載っていないのか心底疑問に思った。
「いや、あのなサト──寝るの早いな、お前!?」
直ぐに寝息が聞こえてきた。赤ちゃんもビックリなほどの寝付きが良い子であった。だからそんなに発育がいいのだろうか......何処が、と言わないが。
「......すまんがウォーカー叩き起こしてやって......ウォーカー?」
しかし、名前を呼んでも返事が無い。また、声が小さいのかと思ったが、まず前方百八十度にはいない。
あれ? と首を傾げながら机から乗り出して右を見れば、壁に身体を預け脱力しきっているサイモンの姿がいる。
「どうした、ウォーカー? ......返事をしろ、ウォーカー!!」
側まで駆け寄って肩を揺らすが反応が無い。顔を上げさせ頬を軽く叩く。やはり、反応が無い。まさかとは思うが先ほどルミナスに
「いやお前、打たれ弱すぎるだろっ!!?」
確かにサイモンの魔導師としての特性上、打たれ弱いと資料には記述されていたがこれほどとは思っていなかった。
いや、ルミナスの人間離れした身体的強さがあるのも関係しているかも知れないが、いくら何でもぶつかっただけで気を失う奴がいるのか。
彼はただただ冷静に分析をするという現実逃避をし始めた頃、彼の耳に扉を開ける音が聞こえて来た。
扉の方を見てみれば瓜二つの二人の少女。ピンクの髪を揺らしながら右のサイドテールをしている少女が一歩前に出て言う。
「──跪きなさい、下僕」
「は?」
入ってきていきなりそんなことを言われても困惑するだけである。それが分かったのか慌てて、もう一人の少女、こっちは左にサイドテールをしている子が先ほど言った子に困ったように言う。
「姉さん、そんなんじゃダメですよ! 多分、あの方は隊長さんだと思うの。それにいきなり言ったから困っていますよ? だからここは“そこにお座りになって、子犬さん”だと思うの」
「いや、意味変わってねぇから!!?」
寧ろ、人から犬にランクが下がってしまっている。
「あら、本当だわ。でも、フフッ、犬みたいに吠えちゃって。その姿勢悪く無いわ。だから、名乗ってあげる。ありがたく聞きなさい。マナ・エリザベートよ」
「妹のカナ・エリザベートです。よろしくお願いします、子犬さん」
この時ほど、彼がやる気といか、自信というか、とにかく彼の中にある情という全ての感情を損失しかけたことは無いという。
このカオスな状態が初めて対策室メンバー全員の顔合わせになった。
不安で仕方無いがサイモンの意識を戻して、ルミナスも何とか起こして、傲慢な双子も席に座らせて、やっと落ち着くまで十分も時間を有した。
一度、掛けていた眼鏡のレンズを拭き、一旦気持ちするリセットさせて、メンバー全員が見える位置に立つ。
「えー、今日からこの部隊を預かることになったシリウス・エドモンドだ。階級は──寝るな、サトライザー。そんなに長くしないから。えーっと、階級は三等陸佐だ。お前たちのことは──おい、そこの双子、話を聞け。キャッキャッ、ウフフじゃねぇだよ。......んんっ! お前たちのことは良く聞いている。性格や集団行動に難があるのはよく分かったが、まあ、この部隊の主な仕事はお前たち向きな物になるだろう。そして──」
「──ランチの時間ね。行くわよ、カナ」
「まあ、もうこんな時間。では、行ってきますね」
「......お前等」
この部隊の隊長であり彼女たちの上司にあたるシリウスの話を途中でぶった切り、さらには朝食を食べにいこうとする双子についに堪忍袋の緒がキレたシリウスは去って行こうとする双子の頭を鷲掴みにして持ち上げた。
「いだだっ!! な、なにすんのよ!!?」
「か、髪のセットが崩れてしまいますぅ!?」
軽く締め上げてから手を離すシリウス。解放された双子は一旦距離を取り今にも反撃しようと構えた。
......が、シリウスは何故か微笑ましい笑みを浮かべており、その様子に思わず戸惑う二人。その表情は決して怒っているようには見えない。
寧ろ、笑っている。しかし、何故か恐怖を感じた。
「お前等が人を嘗めていることがよぉーーーっく分かった。これは一度ちゃんと分からせた方がいいな。表出ろ」
表情とは裏腹にドスの聞いた声で親指を後ろに指す。それを聞いていたサイモンは咄嗟に巻き込まれないように声を出そうとしたが。
「えっ、あの、僕そんなことは──」
「──へぇ、良く言ったものじゃない。ちょうどいいわ、最強っていうのがどれほどなのか......見せてもらいましょう」
「この痛み、十倍にして返しますよ?」
サイモンの声は虚しくシリウスには届かなかった。何とも可哀想な子である。
しかし、サイモンはどうなるか想像できてしまったので何とか自分だけでも逃れようと、今度は服を引っ張るなど絶対に気が付いて貰えるように手を伸ばすが、シリウスは分かってかのようにそれを避け、サイモンの手は空をきる。運も無い子である。
そして、シリウスは視線を未だ寝ているルミナスに向けて言い放った。
「ってことだ。
するとルナミスは枕に埋めていた上半身を持ち上げた。
「......気づいてたんだ」
「自己紹介してるときは寝てたが、俺が動いてから呼吸が変わった。その時からお前、少なくとも話は聞いてただろ?」
その説明を聞いてルミナスは眠たそうな目を開き、来たときのように鋭い目つきに変わった。
「私、弱い人には従わないから、それでもいいならやってもいい」
前の所属でもなまじ実力が高いためその時の上司でさえ手を付けられず、それから段々と従わなくなった。
その事情も知っているシリウスはちょうどいいと思っていた。実際それが狙いの一つではあるが、思っていた以上に嘗められていたことを理解し完全にキレてもいた。
もしここに何年も一緒に仕事をしたことがある同僚がいたら目を疑うだろう。
それほど、シリウスがキレることなど滅多にないことだった。
「訓練所......はマズイか。第八なら......ああ、でも今試験中だっけな。まあ、行く時には終わるか、結構広いし問題無いだろう。よし、お前等着いて来い」
「カナ、後悔させてやるわよ」
「勿論です、姉さん!」
「じゃ、じゃあ、僕はここで待機して──うっ? あ、あのサトライザーさん? なんで僕の腕掴んで......ひっ!? は、離して下さい!?」
「......」
何年かぶりにキレたシリウスと、一人を除いてその後ろに今にも飛びかかろうとしている各部隊で問題視された厄介者たち。
その姿を見た管理局員たちが変な憶測をし始め、管理局中に噂が瞬く間に広まっていった。
§
臨海第八空港近隣 廃棄都市街
スバルとティアナの試験が終わった直後。はやてにメッセージが入って来た。今時、簡単に通信で出来て、通信した方が手っ取り早いのにメッセージを送る人物など知り合いに数えるほどしかいない。
珍しく思いながら開き、内容に首を傾げた。
「え? これホンマ?」
「? どうしたの、はやて」
素っ頓狂な声で驚きを上げたはやてにフェイトが声をかける。
「いや、今からここ使うんやって」
「ここを? そんなこと聞いてないけど......急な話だね」
内容を簡潔に言えば、戦闘訓練をするからここを使う、ということだった。内容自体そんな珍しいことではない。
しかし、ここ廃棄都市で戦闘訓練をするということは実戦さながらの訓練をするということだろう。
一体、誰が? そう思ってフェイトとはやては二人揃って差出人を見る。
『シリウス・エドモンド三等陸佐』
「「──えっ」」
はやてもフェイトも顔を見合わせて急いで下にいるなのはと二人を回収しに行った。
「急いで、急いで! はよせな、巻き込まれる!!」
「ちょ、ちょっと。え?」
困惑するなのはを無理やりヘリの中に入れ込み、治療の途中のティアナも急いで回収した。
色々とありすぎてぽかーんとしているスバルとティアナ。そして、その二人を見て笑みを溢したなのはが二人に問う。
「えっと.....二人ともどうしたの?」
しかし、明らかに二人の纏う気配がが戦闘時そのもので、なのはも何か急を有することの事件でも起こったのかと思い気を引き締めた。
「今からここを
その『シリウス』という名詞を聞いただけで、なのはは全てを察した。
「あぁ......そうなんだ。うん、二人がそんなに身構えている理由が分かったよ」
三人は顔を合わせ苦笑いをした。イマイチ状況を理解出来てない二人にリンフォースが説明した。
「シリウス・エドモンド三等陸佐。
しかし、その説明を受けてもスバルとティアナの二人はぴんっと来ず、首を傾げているだけだった。
「鬼のエドモンドって言ったら分かるんじゃない?」
「「......あっ」」
フェイトが言った聞き慣れた呼び名に顔を合わせて声を出す二人。彼女ら、いや、管理局の殆どが知っている生きる伝説の鬼教官。二人は関わりを持つことは無かったが、人伝に色々と聞いていたことを思い出した。
親しみやすく、基本的優しい人らしいが、戦闘訓練、それも近接戦闘に関しては正に地獄と称されるほど容赦しないらしい。
そして、その訓練を受けたものは大体、近接戦闘しかやらなくなるとか。そのことを思い出し目の前にいる憧れに人に恐る恐る聞いた。
「あ、あの、もしかして皆さんも?」
スバルの質問に三人は首を横に振った。
「ううん、訓練は受けてないけど仕事とかでお世話になっただけだよ」
なのはの返答にスバルは思った。
なら、何故三人はああも急いで退避して今すぐにでも対応できるようにしているのだろうか。スバルとティアナは言い難い不安に包まれた。
「そうだ。折角だし見学していけばええやろ。二人にもいい経験になるやろうし」
はやてがプログラムを操作し、機内に全員が見えるホログラムが現れシリウスたちと思われる団体を補足した。
「一応、シリウスさんに聞いて方がいいんじゃない?」
「あー......そうだね。私からするよ」
フェイトの提案になのはが応答した。シリウスの方も分かっているだろうが、やはり階級はあちらが上。いくら親しい仲とは言え、礼儀というのは大事である。
直ぐに通信が繋がり機内にシリウスの声が響く。
「あ、シリウスさん。お疲れ様です」
『ああ、お疲れさん。悪いな試験が終わったばっかりなのに』
「いえいえ、大丈夫ですよ。それで今後のためにもシリウスさんの訓練を見学したいんですが......いいですか?」
『見学? 見学か......見学?』
何やらシリウスの返事がおかしいが、やはり不味いのだろうか。言葉は上手く拾えてないが何やら後ろの方で声が聞こえてきている。そして、やっと言葉を飲み込むことが出来たのかシリウスの返事が返ってくる。
『あー、まあ、構わんが......そんなにいい物じゃないぞ。一方的に
「えっ」
その言葉に思わず体が固まる。あのシリウスからそんな単語が出て来るなんて思っても居なかったなのはは数秒間言葉を失い、再起動をしてからどういうことか聞こうとした時にはもう切られていた。
なのは達は訓練を受けてはいないが、見学するだけなら何度も見たことはある。地獄だと評されるぐらいのキツさはあるが、決して弄ぶようなことはせず一人一人丁寧に実践的に教えるのだ。
だからこそ、その訓練を途中で投げ出すような生徒は一人いない。何故なら、もう次の訓練で実感できるからだ。
自分が強くなっているのが。
それに、訓練外では本当に部下思いというか、人に優しすぎるような、まさに善人を体現したような人間なのだ。
その自分達にとって理想に人であり、憧れの人でもある人が、久しぶりに話したら別人のように思えてしまうほどシリウスの言葉はショックがデカかった。
その状態のなのはとシリウスの後ろに着いて行っている四名を見てはやては思い出したように語る。
「そういえば、この間シリウスさんと食べに行ったとき──」
「「──ちょっと、ソレどういうこと?」」
凄まじい速さで反応したなのはとフェイトに思わずはやては苦い顔をする。それはしまったということなのか、それとも、また別の意味があるのか。
「ま、待って。取り合えず後で話すから聞いて欲しいやけど──だから、少しずつ距離詰めて来るのやめて」
真顔で距離を詰めて来るほど怖いものはそう無いと思う。それを実感したはやては一度なのは達を落ち着かせてから話始めた。
「それでその時に聞いた話なんやけどな。何でもシリウスさん部隊を持つことになったらしいんよ。それが彼女達とは思わんかったけどなぁ......シリウスさんが怒るのも分かる気がする」
はやてが機内に映し出された映像を見る。そこには、はやてが言う四人が今にも戦闘が始めようとしていた。
シリウスを除く四人はバリアジャケットに身を包んでおり、後はシリウスが準備を終えれば始まると言った状態だった。
しかし、肝心のシリウスは制服を上だけ脱ぎ、シャツを捲り上げてネクタイを緩めただけでバリアジャケットを展開しようとしなかった。
それを見ていたスバルとティアナは疑問に思う。しかし、なのは達は何も思っていないのか普通にしていた。
それは、対峙している四人も分かっているように普通にしている。
少し話してシリウスはそのまま剣型のデバイスを構えた。対する四人は同じように各々のデイバスを構える。
その中でシリウスと同じの近代ベルカ式を使うルミナスが前線に立ちデバイスを構えた。双子は大きく距離を取りこちらも構える。そして、サイモンは。
「え? もう一人は?」
そうティアナが声を上げスバルも気が付く。目を離した覚えは無いはずなのに四人の内一人──サイモンがもう既に姿を消していた。
それは、なのはとフェイトも少し不思議そうにした。その皆を見てかはやては手にあるファイルを開いた。
何故、彼女がメンバーの資料を持っているかは不思議と誰も疑問に思わなかった。
「サイモン・ウォーカー。諜報や追跡、後は潜入なんかに特化した異色の魔導師。ある組織に潜入してボスだけひっ捕らえてきたこともあるぐらい、高い隠密性を持つ魔導師やね」
確かに他にも潜入など得意とする魔導師はいっぱいいるだろう。しかし、サイモンは他の魔導師とは大きく異なるものがある。
それは例え認識していたとしても、意識して見ていたとしても、ちょっとした空白の時間で姿が分からなくなる。
目の前にいたはずなのに一瞬にして消えるなどもはや人の意識から外れて動けるのと同じことだ。実際、サイモンがしたのはミスディレクションを応用して魔法を発動させたのに過ぎない。ただ、タイミングと魔法の練度と発動速度が桁違いなだけ。
「近代ベルカを使ってるのは......ああ、シグナムが言ってた人やね。ルミナス・サトライザー。シグナムがちゃんとした人が鍛えれば負けるかも知れない、って言ってたのを覚えてる。天才肌ってヤツやね。ちょっとすれば何でも覚えるし、その使い手以上に使いきれてしまうとか」
ルミナスにとって一度見た動きや自分に合っている魔法であれば基本的に出来てしまう。それは相手のクセや動きすらも読める域に達しており、長引けば長引くほど後手に回るだろう。
「この双子も良く聞いたことがある。姉のマナ・エリザベート。家は代々由緒ある貴族で、魔導師としての才が高い。こっちも天才ってヤツやね。ほぼ独学で魔法を学んでオリジナルまで生み出してるほどや。ハッカーとしての能力が高い? まあ、機械いじりも得意ってことやね」
が、マナにとってそれは機械だけに留まらず人間に対してにも可能にした。主に視覚や聴覚、平衡感覚など五感をいじることが出来る。マナならばちゃんとした設備さえ整えれば人の脳すら覗けるほどに。彼女もまた異色な魔導師だった。
「最後はカナ・エリザベート。こっちはどちらかというと秀才や。ウチも一度だけ見た事あるけど彼女の射撃能力はありえんと思ったほどなんよ。ほぼ避けるのは無理。百発百中で狙撃に特化した魔導師やね」
カナにとって障害物など無いも同然。さらに、貫通や拡散など直ぐに使い分けが出来るため余程の事が無い限り確実に仕留めることが出来るだろう。
「ひゃー、能力だけ考えれば精鋭中の精鋭しかおらん部隊やん」
「確かに能力はスゴイけど......余りチームワークとか考えてなさそうな人達だったよね」
なのははサイモン以外は会ったことがあるので、正直いってはやての言う通り能力だけ考えれば過剰戦力だろう。
しかし、これが部隊としてチームとして動くとなると性格上、お互いが足を引っ張り合いそこらの部隊より使い物にならないと想像できてしまう。
だが、スバルやティアナにとってそれだけ聞いたら対峙しているシリウスが可哀想に思えてる。
チームワークなんてもの無しに考えてもそれほどの魔導師たち相手に一人で闘うなど正気の沙汰じゃない。
「これって大丈夫なんですか? いくら近接では最強を誇るエドモンド教官とはいえ......」
だが、三人は少し困ったように笑みを表情に浮かべていた。
「正直言ってね。シリウスさんはそれ以上に
なのはの言葉に二人はまた自分の耳を疑った。しかし、それが本当だと分かったのは直ぐのことだった。
§
軽装になったシリウスは自分の眼鏡を外し制服と一緒に用意していた収納ボックスが付いたロボットに渡した。そのロボットは真上に飛んでいくと安全高度まで避難して止まった。
「さてと......準備はいいな? こっちは何時でもいいぞ」
眼鏡を外してからずっと閉じていた目を開いた。その行動を見ていた、否、それがどういう事なのか知っていた四人は思わず言葉を漏らす。
「「「「それは、大人げない」」」」」
「......くっ、お、お前らが悪いんだからな!? 俺を本気にさせたお前らがっ!?」
何とも小物臭いセリフにも聞こえてしまうが、実際彼女たちからすれば正直ソレを使うのは大人げないと思ってしまう。
正直、ソレを使うシリウスに文句を言いたくなる。それほどシリウスが使おうとしている能力がどれほど強力なものか知っていた。
サイモンに至ってはわざわざ魔法を解除して手を上げるほど。
──故に。
「だからって
「そうよ! そんなの使われたら勝ち目無いじゃない!!」
「姉さんの言う通りですよ! 戦闘にすらならないじゃないですか!?」
「僕のアドバンテージも通用しないんじゃ......もう降参するしかないです」
「そ、そこまで言うかよ......」
シリウス自身も自分の力を理解しているが、まさかここまでブーイングを受けるとは思っていなかった。
「分かった、分かったから......じゃあ、片目だけで相手してやる」
シリウスにとって彼が最大の譲歩だが、相対する彼女達は悩む。実際、シリウスほどの使い手であれば目をつぶっても戦えるだろう。しかし、彼女ら程の実力者となると難しい話になってくる。
それは、彼女達も理解しており、管理局の頂点に立っているかも知れないシリウスに一応実力を認めて貰えていることは素直に嬉しいと思っていた。ただ、それとプライドは別である。
しばらく悩み、そして四人で話した結果。
「片目ならいい。少し不満だけど」
「お前等、実際仲いいだろ」
四人が囲って話している姿を見ているととても昔馴染みのようにも見える。
「それはそうよ」
「同期だから」
「マジかよ......聞いてねぇよ」
どうやら、その中でもルミナスとマナは特に仲が良さそうにも見える。ちゃんと資料には目を通したはずなのだが......結構見落としていたかも知れない。
いや、あの資料は如何せん欠けている所が多い。作ったヤツが悪い。そうに違いない。
「ゲンヤさんめェ......はぁ、なら連携は取れるんだな?」
「当たり前よ......と、言いたいとこだけど久しぶりだし、皆それぞれどう動くか把握しきれてないのよね」
「なるほど......まあ、取り敢えず打ち込んで来い。話はそれからだ」
シリウスとしてはただ叩きのめすだけでは無く、このメンバーでどのくらい連携が取れるかどうか知るのも一つの考えとしてあったが、どうやらそれは大丈夫そうである。
お互いが個性的すぎて連携の“れ”の字も出来ないと腹を括っていたが、いい誤算であった。後は一人一人の動きを見れれば初日としてはまずまずの成果だろう。
四人がそれぞれ定位置に付く。シリウスも
「来い!」
シリウスがそう発破を掛ければルミナスが一直線にシリウスに斬りかかった。
「う、うそでしょ......?」
信じられないものを見たスバルとティアナはホログラムから眼を離せないでいた。戦闘が始まってから終始シリウスに一撃を入れることは出来なかった。
決して彼女達が弱いわけでも、連携が出来ていなかったわけでもない。スバルたちから見たら見事と思える連携だった。
しかし、目の前で起きている現実は信じられないものだった。
「これがシリウス・エドモンド。なのはちゃんが管理局のエースならシリウスさんは
はやてがここまで言うほど強すぎる魔導師。だから管理局最強だと言われている人。スバルとティアナはその姿に強い憧れと畏敬の念を抱いた。
「動きから魔法、その全てがウチらより無駄が無い。しかも、最強と言わしめているのがシリウスさんの
シリウスの右目は自分の思い描いた未来を映し、左目はその未来にどうすれば至れるかという過程
を映し出す。
多岐にわたる未来を限定しそこから確実な物を選ぶことが出来る、正に最強と言える能力。
無論、その一番理想的な未来を引き出すために実力も必要だ。絶対に勝てない相手に未来視を使っても自分が負けるビジョンしか映らないのである。
「いい物が見れたやろ。今後の参考にもなった時間やったね」
「うん.....じゃあ、帰ってさっきの話詳しく聞かせてね?」
「あ、はい」
想いを寄せている、というわけでは無いと思うが......それ以前になのは達はシリウスとはやてが食事をしたことが気に食わないのかも知れない。
そんな中、ティアナは手を挙げた。
「あの、エドモンド教官は未来が見えるんですよね? なら、何で巻き込まれるんですか?」
ティアナはずっと疑問に思っていた。最初はなのはのように広範囲に強力な魔法を使うような人かと思ったが、実際の戦闘を見れば近接だけで広範囲に攻撃が来るわけでもない。
未来が見えるのだから巻き込むかも知れないと分かるばずだろうに。
『何も全てが見えてる訳じゃないんだよ。
「あっ!? え、エドモンド教官!?」
ティアナの問いに答えたのはまさかの本人だった。なのはがちょうど掛かってきた通信を受信したと同時にティアナの質問が飛んできた。
それを聞いていたシリウスは軽くジョギングした後のように気軽に答えた。
『相手を行動を先に読んで動くこともあるから、もし周りに誰かいたら気が付かないで巻き込む可能性があるからな。......まあ、あんまり気にしたことが無いけど』
そう、シリウスもその
そのため何度も隊列を乱すようなことがあった。ある意味、これもシリウスがこの厄介者たちの指揮を任された理由の一つだろう。
『悪かったな、試験の邪魔して。それじゃあ、頑張れよ──ナカジマ二等兵、ランスター二等兵』
「「──ッッ! ハイッ!!」」
あれから、表向きに反抗することは無くなった。
そして、機動六課が本格的に動き出し、この特殊対策部隊も動く......はずだったのだが。
「Zzz......」
「カナ、そこはもう少しふんわりさせた方が可愛いわよ」
「そうですね、ならこっちは流すような感じに......うん、いいと思いますわ!」
「こ、こんな女らしい髪形なんて、は、恥ずかしいです」
「......お前等」
働かない、否、仕事が全く来なかった。
特殊な事件を扱う上に形式上の部隊。これがジュエルシードとかであれば動けるのだが、既にその対策としての機動六課が存在している。
つまり、余程のことが無いと動かない部隊だった。いくら仕事が無いとはいえ、だらけすぎで書類も終わらせてない部下達に一喝しようかと息を吸ったとき、シリウスのデスクに置いてある通信機から電子音が対策室に鳴り響いた。
「こちら特殊対策室......はい、了解しました」
通信を切り、手を叩きながらメンバーに声を掛けるシリウス。
「お前ら、喜べ。待ちにまった──
──事件だ」
おまけ
隊長 シリウス・エドモンド
出身: ミッドチルダ西部
所属:時空管理局
階級: 二等空尉
役職: 執務官、 特別捜査官
コールサイン:BOSS
魔法術式:近代ベルカ式・空陸戦AAA+ランク
ポジション:フロントアタッカー
陸戦魔導師から空戦魔導師
隊員 サイモン・ウォーカー
出身: ミッドチルダ
所属:時空管理局
階級:空曹長
役職: 捜査官
コールサイン:SUPK(スプーク)
魔法術式:ミッドチルダ式・空戦Aランク
ポジション:ガードウィング
シリウスと同じく陸上部隊から来た。幻術や捕縛、補助などの魔法はを得意とし、諜報や追跡調査に適している。
隊員 ルミナス・サトライザー
出身: ミッドチルダ
所属:時空管理局
階級: 二等空曹
役職: 捜査官
コールサイン:FELS(フェルス)
魔法術式:近代ベルカ式・空陸戦AAランク
ポジション:フロントアタッカー
何事も真面目で融通が効かず、何事も多く語らず、兎に角、お堅い人間。
隊員 マナ・エリザベート
出身: ミッドチルダ
所属:時空管理局
階級: 二等空曹
役職: 捜査官
コールサイン:ORCK(オルカ)
魔法術式:ミッドチルダ式・空戦Sランク
ポジション:フルバック
持ち前の処理能力を駆使し、部内で索適やマッピング、情報支援を行うエンジニア。デバイスも彼女が整備できる。妹と仲がいい。
裕福な家庭に育ち、お嬢様であり、そして才能に溢れた才女で持ち上げられていたため、妹以外心を開かず、傲慢。大体の人間を下に見ている。
隊員 カナ・エリザベート
出身: ミッドチルダ
所属:時空管理局
階級:三等空曹
役職:捜査官
コールサイン:RABE(ラーベ)
魔法術式:ミッドチルダ式・空戦AAランク
ポジション:センターガード
姉と同じく才女。礼儀正しいが、やはり傲慢で姉の言動を丁寧語に直しただけである。
射撃に特化しており、百発百中。